「さ……さぶ……」
冬が終わり、春が始まろうかという時期。
竹林で山菜を採ってくると言い出したのは鈴仙であった。
お母さ……永琳がそれを聞き、お供に輝夜をつけたのだった。
「お供って……普通逆じゃね」
「今の私と姫様は山菜取り名人と助手です、それ以上でもそれ以下でもないっ!」
「うーん……」
「あ、ワラビ踏んでますよ」
見ると足元には可愛らしいワラビの群生があった。
ひょいひょいとそれらを掴み取り、背中の籠へと放り込んでいく。
「うー、さぶいさぶいさぶい、さぶううううう」
「全く、これだから最近の若いもんは」
「いや、私何歳だと思ってるのよ」
「精神年齢です」
輝夜はこの時、全身ジャージスタイルだった。
「そんなに寒いなら上から着物着てこればよかったんですよ」
「私はどこの田舎中学生よ……」
第一、着物が汚れるからジャージになったのに着たら本末転倒である。
冬というには暖かく、春というにはまだまだ肌寒い、そんな季節だった。
「んん……?」
本日3つ目となるフキノトウを摘んでいると、視界の隅に妙なものを発見した。
どこか長くて、それでいて生々しくて……
「ちょっとこれみてー」
輝夜はそれを掴むと、鈴仙の元へと駆け寄った。
「なんです……か」
げ、と振り向いた鈴仙はそのままの姿勢で固まった。
「へへ、蛇じゃないですかそれはっ」
「うんまぁ蛇なんだけど」
「早く捨ててきてくださいよ!」
輝夜はきょとんとした。
「…………へぇ」
山菜名人と自称しているくらいだから、野生動物くらい平気だと思っていた輝夜は意外に思った。
「鈴仙ってば蛇苦手なんだ」
「にに、苦手じゃあないですが……」
目を泳がせながら言っても全然説得力はないのだが、可愛かったのでそれでよしとしよう。
「ほーれ」
「ひゃぁぁぁ!」
蛇をぶんぶんと振り回していると、輝夜はあることに気が付いた。
「あら……この子…………」
――――――――
「これでとりあえずは、大丈夫なはずです」
「ありがとう、永琳」
結論から言うと、あの後輝夜は帰った。
蛇を捨ててくると言って、そのまま無断で。
今ごろは鈴仙が一人、山菜を摘んでくれているはずである。
ありがとう、鈴仙。
「それにしても……」
永琳の意外そうな表情に、輝夜はなんだか居心地が悪かった。
「な、何よ」
「いやぁ、長いこと色々なもの診てきましたが、蛇を治療したのは初めてですよ」
「だって、可哀想じゃない、お腹にこんな傷負って……」
普段は見せないような、そんな優しい目をして蛇を撫でる輝夜を見、永琳は言った。
「そういえば蛇は鶏肉みたいな味がするそうですね」
――――――――
蛇はどう調理すれば旨くなるか議論を永琳としている最中、鈴仙が帰ってきた。
「先に帰ってるなら言ってくださいようわぁ!」
診察室の入り口、彼女の目の前には先ほどの蛇が横たわっていた。
「もう、何よ騒々しいわね」
「な、何で蛇がいるんですか!」
「鍋にするのよ」
「焼くほうが美味しいわよ! ってそうじゃなかった……その蛇は回復するまでここに置いておくことにしたわ」
「うぅ……なんてこった……」
鈴仙は反対したかった。
全力で反対したかったが、この二人を目の前にしてはいかなる反対も無力であることも知っていた。
「そんなに邪険にしなくても……ねぇスネーク?」
「スネークって…………まさか名前ですか」
鈴仙が心底嫌そうな顔をして聞くと、輝夜は笑顔で答えた。
「そうよ」
「まんまというか……ダンボールでもかぶってそうな名前ですね」
「ちょっとスネークと遊んでくる!」
ぐったりとしているスネークの尻尾をむんずと掴むと、輝夜は部屋をひゃっほーと言いながら駆け出していった。
「師匠ぉ……」
「ん?」
「どれくらいで治るんですかぁ」
永琳はそうねぇと考える。
「まぁ、完治は一ヶ月くらいかしら」
姫が今みたいにぶんぶん振り回さなければね、とも付け加えた。
――――――――
「スネーク、君には単独潜入のミッションを行ってもらう。 ターゲットはレーセン・ウドンゲイン・イナーバ・PANⅡである。 危険な任務だが、よろしく頼む」
蛇は脱出の名人と言われている。
それはつまり潜入の名人であるとも言えるのではないだろうか。
カグヤ大佐の指示の元、小型のダンボールに身を隠したスネークはその身をPANⅡへと……
「な~に~を~」
ヤットンジャイ! との声と共にダンボールがウドンゲノム兵によって打ち抜かれた。
「不味い! 敵に見つかってしまったぞスネーク! どこかに身を隠して敵の警戒レベルが下がるのを待つんだ!」
スネークは逃げる。
しかし身近にロッカーも机もなかったので止むを得なく昼寝中のてゐの服に潜伏することにした。ヒャッフウ!
「くぁwせdrftgyふじこlp;@!!」
「やばっ」
さらに不味いことに、一心不乱にスネークを狙撃していたウドンゲノム兵は勢い余っててゐの頭をぶち当ててしまった。
「ええーい! ひとが気持ちよく寝ているところを泣きっ面に蜂するとはいい度胸ウサ!」
「ちょ、違うって! てゐの服に蛇が入ったから……」
「ウサ耳持っても聞く耳持たん!」
「ちょま、らめええええ」
「…………あ、スネークに餌あげないと」
輝夜はそういや今日の晩御飯なんだろうと思いつつ、自分の部屋へと戻った。
「ほーらスネーク」
蛇は基本的に肉食だが、結構なんでも食べる。
中でも栄養のバランスを考えると、マウスが適しているだろう。
輝夜は冷凍庫から買っておいた冷凍マウスを取ってくると、湯で解凍してそれを食べさせようとした。
「ほーらほーら」
「姫、ちょっといいですか」
ドアをノックするその声の主が永琳だったので、輝夜は適当に返事をして部屋に入れた。
「どうしたの? わざわざ部屋にくるなんて珍しい」
「いやですね、言い忘れてたんですけど」
スネークが、マウスに噛り付く。
「あんまり餌をやりすぎる栄養過多になるので、餌は週1くらいでいいですよ」
そして丸呑みにした。
「…………最後にいつ餌やりました?」
「…………昨日と一昨日に二回ずつ」
それから数日、スネークは生死の境を彷徨ったという。
――――――――
スネークが来てから、2週間が経った。
輝夜は週1の餌をやるため、改めてマウスを用意したのだが、なかなか食べない。
そうしているうちにさらに数日が経過した。
「おかしいなぁ」
いくら以前に餌をやりすぎたからといって、これだけ食べないものだろうか。
食べないだけならまだしも、ここ数日は気性も荒い気がする。
「んー……」
寝転んで、顔を眺めてみる。
「なんだか目が白くなってない?」
もちろん、彼は答えない。
しばらくそうして睨めっこを続けていたが、何だか眠くなってしまった。
ふとんまで行くのも面倒だったので、そのまま夢の中に入ることにした。
「おやすみ……スネーク…………」
――――――――
目が覚めると、スネークが蒸発していた。
「スネーック! 返事をするんだ! スネエエエエエエエック!」
水分のかけらもないほどカラカラに干からびたスネークを見て、輝夜は暖房のつけっぱなしを悔いた。
「なんてこったい……スネークのミイラが一丁あがり…………」
蛇の干物ってどんな味がするんだろうと思っていると、背後でもぞもぞと物音がした。
まさかと振り返ると、そこにはやはり、スネークの姿があった。
「あ」
ここまでくれば、いくらなんでもわかる。
脱皮したのだ。目が白くなったのも、その前触れだった。
「はぁー、もう……心配させて…………」
脱皮して一回り大きくなったスネークを手に取り、いつものスキンシップをとる。
具体的には尻尾を掴んで振り回した。
いつも通り噛み付いてくるが、そんなことは気にしない。
「フゥーハハハー! 残念だが私は不死身だぜー!」
今日は秒間16回転に挑戦しようと回転を早めた時、彼女は異変に気づいた。
「ん? なんかもぞもぞ……してる…………ような」
困った時は助けてえーりんってわけで永琳の部屋に行くことにした。
――――――――
「妊娠してますね……」
「に……にんすぃん?」
なにより、輝夜には雌だった事実がショックだった。
そうと知っていればもう少しマシな名前をつけたのだろう。
よりによって渋いおっさん傭兵の名前をつけてしまった。
「蛇って卵なんでしょ?」
「卵生もいますが、胎生もいます」
そしてこの子は後者ですね、と永琳は言った。
「ふーん、小さな蛇が産まれるのね」
「…………」
「ねぇ、永琳。 産まれてきた子達も飼っていい?」
「無理…………ですね」
「えー、いいじゃんケチー」
口を3の字に尖らせて文句を言う輝夜だが、永琳は一人深刻な顔をしていた。
やがてその空気に気づくと、輝夜はすぐに嫌な予感をひしひしと感じた。
感じたが、それでも、聞かねばならなかった。
「まだ完全に治っていない今の体では、出産は非常に危険です」
永琳は、続ける。
「今のまま産んでしまうと、母体の体の保障はできません。 でも今ならまだ体内の子を……」
そう言い、永琳は一つの薬瓶を差し出した。
錠剤が詰まっていたが、それが何を意味するものかは容易に想像ができた。
「姫に、お任せします」
それが一番いいでしょうと、困った様子で微笑む永琳を後に、輝夜は無言で部屋へと戻った。
「ただいま」
部屋の中央には、スネークがとぐろを巻いて待っていた。
蛇を放し飼いにするなんてことは普通できることではないが、輝夜の部屋では何故かそれができていた。
輝夜はいつものように寝そべると、いつものように肘をついてスネークと顔を見合わせた。
「お前、死んじゃうかもしれないってさ」
そんなことは関係ないとでも言うように、スネークは表情一つ変えない。
まぁ、喜怒哀楽の表情を変える蛇がいたらそれはそれで嫌なものだが。
「私はスネークに生きて欲しいんだけどなぁ……」
頭をちょんちょんと突く。
噛まれた。
いつものことなのでそのまま頭を撫でておいた。
「全然懐かないのも、相変わらずね」
ふふ、と困ったように笑い、何故かさっきの永琳の顔を思い出した。
「この子と、その子達、どっちをとるか……か」
そんなことを自分が決めていいものかと、そう思う。
しかし、思うのだ。
子供は、また作れると。
「子供はまた作れる、でもあなたはあなたしかいない……」
スネークの目は、ずっと輝夜から離れない。
輝夜は薬瓶を取り出し、ぼーっと眺めた。
何分か、いや、何時間そうしていただろうか、いつの間にか夜も更け、辺りは草木も眠っている。
静かなものだった。
そして輝夜は、決心した。
――――――――
「姫様!」
今日もウドンゲノム兵は敵を見つける。
「私のPANⅡに蛇を入れないでくださいって何度言えばイェア゙ア゙ア゙」
すかさず首の襟から潜入部隊を投入、見事ウドンゲノム兵の背中に潜入を果たした。
「蛇じゃなくてスネークよ」
「へへ、せな、背中、へびびびあああああ」
一人で飛び回る鈴仙を昼寝中のてゐの方向へ巧みに誘導すると、見事に足を絡ませずっこけた。
これならお笑い芸人として十分食べていけるであろう。
「ええーい! もう少しでタンカー編をクリアできるところで起こすとはいい度胸ウサ!」
「何の夢見てるの! ってか蛇! 蛇が!」
「ご希望通りヘビーなお仕置きしてやんよぉぉぉ!」
鈴仙の声にならない悲鳴をよそに、任務を達成したスネーク“達”が輝夜の元へと帰ってきていた。
「おぉ、任務ごくろうだった、スネーク」
「姫……」
「あ、永琳、聞いてよ、スネークったらエロくてさー」
「何でまた名前スネークなんですか」
「スネークはコードネームなのよ、だからこの子達は別に名前はあるわ」
「へぇ……なんです」
「右からソリッド、ソリダス、ブリスキンよ!」
「なんとも、全員雌なのにその名前をつける姫に脱帽しますね」
「ふふ、もっと褒めてもいいのよ」
「褒めてないです」
結局、輝夜は薬を使わなかった。
特に理由があったわけではない。
生死がどうとか、何がどうあるべきかとか、そんなことを考えたわけではない。
ただ、自然のあるべきままの姿というものが、羨ましかったのかもしれない。
不死であるが故に、その対極にある自然の摂理が眩しく見えた。
あえて言うなら、それだけである。
傷を負ったところを助けておいてこんなことを考えるのもなんだが、彼女はできるだけ自然現象に干渉したくなかったのだ。
助けれらるものは助けるが、何かを犠牲にしてまで、それをしたくなかっただけなのかもしれない。
「ほら見て永琳! ヌンチャク!」
「噛まれてますよ」
「大丈夫! 痛くない!」
彼女の出産はもっと痛かっただろうから。
永遠亭の片隅にある、彼女の墓を眺めつつ、そう思った。
冬が終わり、春が始まろうかという時期。
竹林で山菜を採ってくると言い出したのは鈴仙であった。
お母さ……永琳がそれを聞き、お供に輝夜をつけたのだった。
「お供って……普通逆じゃね」
「今の私と姫様は山菜取り名人と助手です、それ以上でもそれ以下でもないっ!」
「うーん……」
「あ、ワラビ踏んでますよ」
見ると足元には可愛らしいワラビの群生があった。
ひょいひょいとそれらを掴み取り、背中の籠へと放り込んでいく。
「うー、さぶいさぶいさぶい、さぶううううう」
「全く、これだから最近の若いもんは」
「いや、私何歳だと思ってるのよ」
「精神年齢です」
輝夜はこの時、全身ジャージスタイルだった。
「そんなに寒いなら上から着物着てこればよかったんですよ」
「私はどこの田舎中学生よ……」
第一、着物が汚れるからジャージになったのに着たら本末転倒である。
冬というには暖かく、春というにはまだまだ肌寒い、そんな季節だった。
「んん……?」
本日3つ目となるフキノトウを摘んでいると、視界の隅に妙なものを発見した。
どこか長くて、それでいて生々しくて……
「ちょっとこれみてー」
輝夜はそれを掴むと、鈴仙の元へと駆け寄った。
「なんです……か」
げ、と振り向いた鈴仙はそのままの姿勢で固まった。
「へへ、蛇じゃないですかそれはっ」
「うんまぁ蛇なんだけど」
「早く捨ててきてくださいよ!」
輝夜はきょとんとした。
「…………へぇ」
山菜名人と自称しているくらいだから、野生動物くらい平気だと思っていた輝夜は意外に思った。
「鈴仙ってば蛇苦手なんだ」
「にに、苦手じゃあないですが……」
目を泳がせながら言っても全然説得力はないのだが、可愛かったのでそれでよしとしよう。
「ほーれ」
「ひゃぁぁぁ!」
蛇をぶんぶんと振り回していると、輝夜はあることに気が付いた。
「あら……この子…………」
――――――――
「これでとりあえずは、大丈夫なはずです」
「ありがとう、永琳」
結論から言うと、あの後輝夜は帰った。
蛇を捨ててくると言って、そのまま無断で。
今ごろは鈴仙が一人、山菜を摘んでくれているはずである。
ありがとう、鈴仙。
「それにしても……」
永琳の意外そうな表情に、輝夜はなんだか居心地が悪かった。
「な、何よ」
「いやぁ、長いこと色々なもの診てきましたが、蛇を治療したのは初めてですよ」
「だって、可哀想じゃない、お腹にこんな傷負って……」
普段は見せないような、そんな優しい目をして蛇を撫でる輝夜を見、永琳は言った。
「そういえば蛇は鶏肉みたいな味がするそうですね」
――――――――
蛇はどう調理すれば旨くなるか議論を永琳としている最中、鈴仙が帰ってきた。
「先に帰ってるなら言ってくださいようわぁ!」
診察室の入り口、彼女の目の前には先ほどの蛇が横たわっていた。
「もう、何よ騒々しいわね」
「な、何で蛇がいるんですか!」
「鍋にするのよ」
「焼くほうが美味しいわよ! ってそうじゃなかった……その蛇は回復するまでここに置いておくことにしたわ」
「うぅ……なんてこった……」
鈴仙は反対したかった。
全力で反対したかったが、この二人を目の前にしてはいかなる反対も無力であることも知っていた。
「そんなに邪険にしなくても……ねぇスネーク?」
「スネークって…………まさか名前ですか」
鈴仙が心底嫌そうな顔をして聞くと、輝夜は笑顔で答えた。
「そうよ」
「まんまというか……ダンボールでもかぶってそうな名前ですね」
「ちょっとスネークと遊んでくる!」
ぐったりとしているスネークの尻尾をむんずと掴むと、輝夜は部屋をひゃっほーと言いながら駆け出していった。
「師匠ぉ……」
「ん?」
「どれくらいで治るんですかぁ」
永琳はそうねぇと考える。
「まぁ、完治は一ヶ月くらいかしら」
姫が今みたいにぶんぶん振り回さなければね、とも付け加えた。
――――――――
「スネーク、君には単独潜入のミッションを行ってもらう。 ターゲットはレーセン・ウドンゲイン・イナーバ・PANⅡである。 危険な任務だが、よろしく頼む」
蛇は脱出の名人と言われている。
それはつまり潜入の名人であるとも言えるのではないだろうか。
カグヤ大佐の指示の元、小型のダンボールに身を隠したスネークはその身をPANⅡへと……
「な~に~を~」
ヤットンジャイ! との声と共にダンボールがウドンゲノム兵によって打ち抜かれた。
「不味い! 敵に見つかってしまったぞスネーク! どこかに身を隠して敵の警戒レベルが下がるのを待つんだ!」
スネークは逃げる。
しかし身近にロッカーも机もなかったので止むを得なく昼寝中のてゐの服に潜伏することにした。ヒャッフウ!
「くぁwせdrftgyふじこlp;@!!」
「やばっ」
さらに不味いことに、一心不乱にスネークを狙撃していたウドンゲノム兵は勢い余っててゐの頭をぶち当ててしまった。
「ええーい! ひとが気持ちよく寝ているところを泣きっ面に蜂するとはいい度胸ウサ!」
「ちょ、違うって! てゐの服に蛇が入ったから……」
「ウサ耳持っても聞く耳持たん!」
「ちょま、らめええええ」
「…………あ、スネークに餌あげないと」
輝夜はそういや今日の晩御飯なんだろうと思いつつ、自分の部屋へと戻った。
「ほーらスネーク」
蛇は基本的に肉食だが、結構なんでも食べる。
中でも栄養のバランスを考えると、マウスが適しているだろう。
輝夜は冷凍庫から買っておいた冷凍マウスを取ってくると、湯で解凍してそれを食べさせようとした。
「ほーらほーら」
「姫、ちょっといいですか」
ドアをノックするその声の主が永琳だったので、輝夜は適当に返事をして部屋に入れた。
「どうしたの? わざわざ部屋にくるなんて珍しい」
「いやですね、言い忘れてたんですけど」
スネークが、マウスに噛り付く。
「あんまり餌をやりすぎる栄養過多になるので、餌は週1くらいでいいですよ」
そして丸呑みにした。
「…………最後にいつ餌やりました?」
「…………昨日と一昨日に二回ずつ」
それから数日、スネークは生死の境を彷徨ったという。
――――――――
スネークが来てから、2週間が経った。
輝夜は週1の餌をやるため、改めてマウスを用意したのだが、なかなか食べない。
そうしているうちにさらに数日が経過した。
「おかしいなぁ」
いくら以前に餌をやりすぎたからといって、これだけ食べないものだろうか。
食べないだけならまだしも、ここ数日は気性も荒い気がする。
「んー……」
寝転んで、顔を眺めてみる。
「なんだか目が白くなってない?」
もちろん、彼は答えない。
しばらくそうして睨めっこを続けていたが、何だか眠くなってしまった。
ふとんまで行くのも面倒だったので、そのまま夢の中に入ることにした。
「おやすみ……スネーク…………」
――――――――
目が覚めると、スネークが蒸発していた。
「スネーック! 返事をするんだ! スネエエエエエエエック!」
水分のかけらもないほどカラカラに干からびたスネークを見て、輝夜は暖房のつけっぱなしを悔いた。
「なんてこったい……スネークのミイラが一丁あがり…………」
蛇の干物ってどんな味がするんだろうと思っていると、背後でもぞもぞと物音がした。
まさかと振り返ると、そこにはやはり、スネークの姿があった。
「あ」
ここまでくれば、いくらなんでもわかる。
脱皮したのだ。目が白くなったのも、その前触れだった。
「はぁー、もう……心配させて…………」
脱皮して一回り大きくなったスネークを手に取り、いつものスキンシップをとる。
具体的には尻尾を掴んで振り回した。
いつも通り噛み付いてくるが、そんなことは気にしない。
「フゥーハハハー! 残念だが私は不死身だぜー!」
今日は秒間16回転に挑戦しようと回転を早めた時、彼女は異変に気づいた。
「ん? なんかもぞもぞ……してる…………ような」
困った時は助けてえーりんってわけで永琳の部屋に行くことにした。
――――――――
「妊娠してますね……」
「に……にんすぃん?」
なにより、輝夜には雌だった事実がショックだった。
そうと知っていればもう少しマシな名前をつけたのだろう。
よりによって渋いおっさん傭兵の名前をつけてしまった。
「蛇って卵なんでしょ?」
「卵生もいますが、胎生もいます」
そしてこの子は後者ですね、と永琳は言った。
「ふーん、小さな蛇が産まれるのね」
「…………」
「ねぇ、永琳。 産まれてきた子達も飼っていい?」
「無理…………ですね」
「えー、いいじゃんケチー」
口を3の字に尖らせて文句を言う輝夜だが、永琳は一人深刻な顔をしていた。
やがてその空気に気づくと、輝夜はすぐに嫌な予感をひしひしと感じた。
感じたが、それでも、聞かねばならなかった。
「まだ完全に治っていない今の体では、出産は非常に危険です」
永琳は、続ける。
「今のまま産んでしまうと、母体の体の保障はできません。 でも今ならまだ体内の子を……」
そう言い、永琳は一つの薬瓶を差し出した。
錠剤が詰まっていたが、それが何を意味するものかは容易に想像ができた。
「姫に、お任せします」
それが一番いいでしょうと、困った様子で微笑む永琳を後に、輝夜は無言で部屋へと戻った。
「ただいま」
部屋の中央には、スネークがとぐろを巻いて待っていた。
蛇を放し飼いにするなんてことは普通できることではないが、輝夜の部屋では何故かそれができていた。
輝夜はいつものように寝そべると、いつものように肘をついてスネークと顔を見合わせた。
「お前、死んじゃうかもしれないってさ」
そんなことは関係ないとでも言うように、スネークは表情一つ変えない。
まぁ、喜怒哀楽の表情を変える蛇がいたらそれはそれで嫌なものだが。
「私はスネークに生きて欲しいんだけどなぁ……」
頭をちょんちょんと突く。
噛まれた。
いつものことなのでそのまま頭を撫でておいた。
「全然懐かないのも、相変わらずね」
ふふ、と困ったように笑い、何故かさっきの永琳の顔を思い出した。
「この子と、その子達、どっちをとるか……か」
そんなことを自分が決めていいものかと、そう思う。
しかし、思うのだ。
子供は、また作れると。
「子供はまた作れる、でもあなたはあなたしかいない……」
スネークの目は、ずっと輝夜から離れない。
輝夜は薬瓶を取り出し、ぼーっと眺めた。
何分か、いや、何時間そうしていただろうか、いつの間にか夜も更け、辺りは草木も眠っている。
静かなものだった。
そして輝夜は、決心した。
――――――――
「姫様!」
今日もウドンゲノム兵は敵を見つける。
「私のPANⅡに蛇を入れないでくださいって何度言えばイェア゙ア゙ア゙」
すかさず首の襟から潜入部隊を投入、見事ウドンゲノム兵の背中に潜入を果たした。
「蛇じゃなくてスネークよ」
「へへ、せな、背中、へびびびあああああ」
一人で飛び回る鈴仙を昼寝中のてゐの方向へ巧みに誘導すると、見事に足を絡ませずっこけた。
これならお笑い芸人として十分食べていけるであろう。
「ええーい! もう少しでタンカー編をクリアできるところで起こすとはいい度胸ウサ!」
「何の夢見てるの! ってか蛇! 蛇が!」
「ご希望通りヘビーなお仕置きしてやんよぉぉぉ!」
鈴仙の声にならない悲鳴をよそに、任務を達成したスネーク“達”が輝夜の元へと帰ってきていた。
「おぉ、任務ごくろうだった、スネーク」
「姫……」
「あ、永琳、聞いてよ、スネークったらエロくてさー」
「何でまた名前スネークなんですか」
「スネークはコードネームなのよ、だからこの子達は別に名前はあるわ」
「へぇ……なんです」
「右からソリッド、ソリダス、ブリスキンよ!」
「なんとも、全員雌なのにその名前をつける姫に脱帽しますね」
「ふふ、もっと褒めてもいいのよ」
「褒めてないです」
結局、輝夜は薬を使わなかった。
特に理由があったわけではない。
生死がどうとか、何がどうあるべきかとか、そんなことを考えたわけではない。
ただ、自然のあるべきままの姿というものが、羨ましかったのかもしれない。
不死であるが故に、その対極にある自然の摂理が眩しく見えた。
あえて言うなら、それだけである。
傷を負ったところを助けておいてこんなことを考えるのもなんだが、彼女はできるだけ自然現象に干渉したくなかったのだ。
助けれらるものは助けるが、何かを犠牲にしてまで、それをしたくなかっただけなのかもしれない。
「ほら見て永琳! ヌンチャク!」
「噛まれてますよ」
「大丈夫! 痛くない!」
彼女の出産はもっと痛かっただろうから。
永遠亭の片隅にある、彼女の墓を眺めつつ、そう思った。
蓬莱人ほどの永遠ではないのだなぁ
不思議な味わい
きっと初代も、お空から子供たちの活躍(?)を見守ってる事でしょう・・・。
とりあえず、ウドンゲノム兵・・・がんばwww
淡々とした輝夜すてき
永遠亭もにぎやかで楽しいですね。
俺も蛇は好きなんですょ。俺が神奈子様を好きなのには、それもあるかもしれませんね。