Coolier - 新生・東方創想話

不死物語 ―うぶウブメ―

2010/02/11 16:54:27
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「ねえねえ、もこたん」
 その面倒な事この上なかった事件は、あいつ――輝夜のそんな一言から始まった。
「もこたんってば、ちゃんと聞いてる?」
「……ああ、聞いてるよ。だからもうちょっと静かに喋ってくれ」
 私は地面に寝そべったまま、空を見上げながら適当に応えた。
 ここは人里からは離れた迷いの竹林。
 回りには竹が天を突くように高く聳え立ち、月がその隙間から恥ずかしそうに少し欠けた顔を覗かせている。
 冷たい地面が戦いを終えたばかりの火照った体にはちょうどよく、ひんやりとして気持ちいい。
 辺りは暗く、静まり返っていて、ここでこのまま眠ったら最高の気分だろうと思う。
 ……この頭上で喚き立てる生物がいなければな!
「つれないわねぇ、もこたんは」
「……というか、その呼び方はなんなの?」
 なんだか呼ばれる度に背筋がゾワッとする。
 っていうかぶっちゃけ気色悪い。
「いや、いつもこう呼んでたじゃない?」
 そうだっただろうか。
 ついさっきまで「妹紅死ね!妹紅!」と叫んでいたのは別人だったわけだ。
「まあ、そんなことはどうでもいいのよ」
 どうでもいい!?
 人の名前を指してどうでもいいとか言うなよ!
「――ねえ、もこたん。私たちがこうやって殺し合う事を始めてからどれ程の時が経ったのかしら?」
 そんな私に構う事無く話を進める輝夜。
 どこをどうすればこんなゴーイングマイウェイな性格に育つのだろう。
 月の教育方針に疑問を抱かずには居られない。
「お互いに殺し合うことで、私達は『生』を感じることが出来た。これは素晴らしいことだし、今でもそれは変わらないわ」
 いやまあ、確かにそうなんだけどさ。
 自分で言うのもなんだけど、そんな胸張って素晴らしいとか言える事だろうか。
 我ながら相当に歪んでいると思うのだが。
「でもね。もう永遠亭の魔法も解けて、私もこうして地上の民として生きているわ。そうやって生きていくことを選んだのよ。でも――」
 でも?
「まだ足りないものがあるわ!」
 そーなのかー。
 一体なんだろう。
速さとか?
「貴方にわかるかしら?」
「いや、まったく」
 私が素直にそう答えると、輝夜は見下したように目を細めて笑った。
 うわ、なにこの反応。普通にむかつく。
「だったら私が教えてあげるわ」
 別にいいです。
 本当はそういってやりたかったけど、もう色々と面倒だったので黙って最後まで聞くことにした。
 考えてみれば、これが大きな間違いだったのだ。
 ここでさっさと話を切り上げるべきだったのかもしれない。
 そうすれば、あんな面倒なことにも巻き込まれずに済んだのだから。
「私たちもね。すべきだと思うのよ」
「……何をだよ?」
 と、馬鹿正直に聞き返す私。
 本当に馬鹿だ。
 そんな私に向かって、あいつはこれ以上ない位の満面の笑みで言い放った。
 
「――妖怪退治よ!」
 
 
 
 『 不死物語 ―うぶウブメ― 』
 
 
 
 どこか納得できない理不尽さを感じながら、私こと藤原妹紅は代わり映えしない街並みを眺めつつ人里の通りを歩いていた。
 そして、真に遺憾ながら私は一人ではなく、隣では私の宿敵である所の蓬莱山輝夜が長い黒髪を揺らしながら、興味津々と言った様子できょろきょろと辺りを見回しながら歩いている。
 なんでこんなことになってしまったのか……。
 そう、私はあいつが言う所の『妖怪退治』とやらを手伝うことになってしまったのだ。
 あいつに拠ると、
「いい? 幻想郷には大雑把に分けて二種類の種族が存在しているわ。つまり、人間と妖怪ね。襲う側と襲われる側、退治する側される側、この二つの関係によって幻想郷は成り立っているの。でも、これは相対的なものであってお互いがそうであろうとしなければ簡単に崩れ去る可能性も――」
 とかなんとかうんぬん。
 要約すると、地上の民として生きると決めたからにはそのルールに則り、自分達も妖怪退治をすべきだと言い出したのだ。
 まあ、不死でもありそれなりに実力のある私達に襲い掛かろうという愚かな妖怪は流石にいないし、私達が妖怪を恐れることなんてそうそうに無い。だから、退治する側に回ろうっていうのは良い心がけなのかもしれない。
 しかし、だ。
 それって私には関係ない――というか、私は十分にその役割を果たしていないか?
 竹林で迷った人の護衛とかもしてるし。
 だがそんな事を思いつつも、珍しく熱く語る輝夜の語調に押されて、ついうっかり手伝うと言ってしまったのである。
 いやー、自分のことばかりじゃなく、幻想郷の未来まで真剣に考えてるなんて輝夜さんは凄いなー、尊敬しちゃうなー。
 ……なんて、そんなことは勿論まったく思わない。
 そもそも、八意永琳ならいざ知らず、あの輝夜がそんな事を考えるはずがないだろう。
 誰かの入れ知恵があったに違いないのだ。
 誰だよ、そんな余計なことをした奴は!
 永琳か!?八雲紫か!?
 巻き込まれる私の身にもなって欲しい、いやマジで。
 しかし、そうはいってもこいつのことだ。本当に幻想郷の未来を考えているかというと、そんなことはなく。
「……♪」
 きっと、それがなんとなく楽しそうだったから乗ってみただけなんだろう。
 ようするにただの暇つぶしだ。
 そんなことを、呑気に街並みを楽しんでいる輝夜を見ていると思う。
 私が再びぼんやりとしながら歩いていると、急に輝夜の姿が視界から消えた。
 振り返ってみれば奴は道のど真ん中で立ち止まって、何やら薄汚れた紙切れを熱心に見つめている。
「……どうしたんだ?」
 よくよく見てみれば、それは天狗がよく配っている新聞――それも、最新のものではなく少しばかり古いもののようだ。
「へぇ、お前でも新聞なんて読むんだな」
 新聞とは言っても、あの天狗達が書いているものだ。内容はといえば、面白おかしく誇張を交えて語られているような記事もある。面白いかどうかは兎も角として、信憑性は微妙な所だ。
「あら、私が新聞を読むのって意外かしら。これで結構、本はよく読んでいるのよ?」
 こんな時でも知的レベルのアピールを忘れない、流石ですね。
 まあ、私が意外に思ったのは、単に絵的に合わなかったからなんだけどさ。
「これはこれでなかなか役に立つものなのよ」
「ふーん、そいつには何が書いてあるんだ」
 そう言いながら隣に並んで新聞を覗き込む。
「鉱山に行く途中の山道で落盤事故があったみたいね」
 いくら幻想郷でも生活に必要な道具位は売っている。つまり材料も幻想郷で調達をしているわけだが、その数少ない出所がこの鉱山だ。
「犠牲者は……多いのか?」
 幻想郷では殺人事件などは基本的には起きない。
 妖怪に襲われる――ほんの僅かとはいえそんな可能性には一生の間ずっと付きまとわれるが、その代わり人と人との間で争いが起きるようなことは滅多にない。
 それでもこういった事故は矢張りあるのだ。
 こればかりはどうしようもない。
「別にそれ程でもないみたい。ただ……」
「なんだよ?」
 言いよどむ輝夜に先を促す。
「事故にあったのは、鉱山で働いている人の――ご家族みたい。子供が一人とその母親。どうやらお父さんの忘れ物を届けに行く途中のことだったようよ」
「それは――どうにも遣り切れないな」
 今頃、その父親はどんな思いでいるのだろう。
 何しろ自分のせいで家族が命を落としたようなものだ。
 想像する他に無いが、きっと後悔と悲しみで一杯なのだろう。
 私には、本当に想像しか――想像しか出来ないけれど。こんなどこにでもあるような、ありきたりで薄っぺらい感想しか出てこないけれど。
 家族、特に子供なんてものに縁のない私には。
「あら、どうしちゃったのよ。突然暗い顔しちゃって」
 そう言いながらひょいっと私の顔を覗きこむ。
「別に、ただこれから一日お前の相手をしなきゃならない事を思い出して、ちょっと憂鬱になっただけよ」
 何となく気持ちを悟られたくなくて、適当に悪態を吐いて顔を逸らした。
「ふぅん? 私はまたてっきり、出掛けて一分も経たないうちに盛大にすっころんで着替えに戻った時のことを思い出して自分の情けなさを噛締めているのかと思ったわ」
「見ていたのか!?」
 回りには誰もいなかった筈なのに!
 ちゃんと確認したのに!
「えぇ、上空からこっそり」
 え、なんでこのお姫様はそんなストーカー紛いのことしているんですか?
「だって、待ち合わせの時間になっても全然もこたんが来ないんだもの。私、心配で……」
「なら普通に訪ねてくればいいだろ!」
「そんな……。いきなり家に押しかけるなんて恥ずかしい……」
 ストーカー行為の方がよっぽど恥ずかしいだろう!
 基準がまったくわからない。
 いや、時間に遅れたのは私が悪かったけどさ。
 大体何なのそのリアクション。頬を染めて『恥ずかしい……』なんて、そんな反応をする初心な娘が今時いると思っているのか!
 似合わないのでやめて欲しい。
「まあまあ、それよりもね。もこたん」
「なによ?」
「そこのお店で今日の打ち合わせをしたいのだけれど、いいかしら?」
 そう言いながら、通りにある店を指差す。
 それはどこにでもあるような、ごくごく普通の喫茶店だった。別段流行っているわけでもなく、かといって廃れている訳でもなく、窓から見える店内には疎らながらも数名の客の姿が見える。
 正直な所、もっと高そうな、こう、セレブな感じの店を選ぶんじゃないかと思っていたので、内心ほっとした。
 残念ながら、私はそれ程裕福ではないのだ。
 ちなみに、裕福ではないだけで貧乏ではない。これは重要な事なので間違えないように。
「ああ、別にいいよ」
 そう返事をすると、案外良心的な輝夜のチョイスに胸を撫で下ろしつつ店へと向かう――と、
「ふふ、高そうなお店じゃなくて安心した?」
 前を歩く輝夜がこちらを振り返り、微笑みながらそう言った。
「なっ……!」
 まるっと見透かされていた。
 あの輝夜に気遣われるなんて……屈辱すぎる。
 というか。
 わかってても言うなよ!
 そういうことは言うなよ!
 何でいちいち一言多いんだ……。
「ああ、それと――」
 まだ何かあるのか。
「一日で終わるなんて、思わないでね?」

 ◇◇◇
 
「――で、私は何をすればいいんだ」
 喫茶店の一角、通りが見渡せる窓際のテーブルで、紅茶が並々と注がれたカップを傾けながら訊ねる。
「……何って?」
 きょとんとした表情で聞き返す輝夜に向かって私は言った。
「だから、妖怪退治のことだよっ!」
 店に入ってから既に数十分、未だに話は進行していなかった。
 そもそも、妖怪退治するとは聞いているものの、具体的な内容については一切聞いていないのだ。
 まだ退治する妖怪の名前すらも聞いていない。
「ああ、それのことね。もこたんったら、そういうことははっきり言わないと」
「いやいやいや……」
 私か?
 私が悪いのか?
 それが目的だった気がするのだけど、それは私の記憶違いだったのだろうか。
「もう、そんな怖い顔しないでよ。ちゃんとわかっているわ」
 本当かよ。
 なんだか凄く、胡散臭い。
 疑いの篭った眼差しであいつを見詰める。
「もこたんってば、疑い深いわねぇ。わかったわよ。今から説明するから良く聞いているのよ?」
 そう言ってあいつは漸くその事件について語り始めた。
 その細かい内容については割愛するが、要約するとこんな感じだ。
 人里からそう離れてもいない、魔法の森へと伸びている道でのことだ。仕事を終えて夜道を歩いていると、道から少し外れた草陰から、女のすすり泣くような声が聞こえるという。不審に思って覗いてみると、年の頃は二十歳も半ばといった女性が一人、子供を抱きながら蹲って泣いているという。何か事情があるのかと思い声を掛けると、その途端にそれはもう恐ろしい金切り声を上げ、こちらへと凄い勢いで迫ってくるらしい。身の危険を感じて人里の方へ必死に逃げると、いつの間にやら叫び声も聞こえなくなり、その時には既に女の姿も何処を探しても見当たらなかったという。
 まあ、ありきたりと言えばありきたりな、よくある怪談の類だ。
「別バージョンとして、声を掛けた途端に姿が消える――なんて話もあるようね」
「ふーん、なるほどね……。しかし、それってさぁ……何か害があるの?」
 なんか、想像してたのと全然違うんですけど。
 その妖怪ってわざわざ退治する必要があるのか?
「む、何よ。私の選択に不満があるわけ?」
 不満が無いかといわれれば、徹頭徹尾、おはようからおやすみなさいまでお前に関することは全て不満だ――と、言いたい気持ちをぐっと抑えて私は言った。
「いや、そうじゃなくってさ。その妖怪――名前は知らないけど、ようするに人を脅かすだけなんだろ?だったら別に退治しなくてもいいじゃないか」
 別にそんなに大したことをしたわけではないのだ。必要以上に人を襲ったとか、幻想郷中を霧で覆ったとか、幻想郷から春を奪ったとか、……本当の月を隠したとか。
 そこまでしなくてもいいように思う。
「わかってないわねー、もこたん」
 そう言って、ふっと笑う。
 あれ、何か馬鹿にされてるよ?
「程度の度合いが問題ではないのよ。悪さをした妖怪が退治される、その図式が大切なのよ」
「だけどな、それくらいの事でいちいち退治していたら妖怪は――」
 そう言いかけて、ふと気付く。
「そのためのスペルカードルール、か……」
「そういうことね」
 人間は襲われる。
 妖怪は退治される。
 これは人間として、妖怪として、お互いが生きていくためにどうしても必要なことだ。
 しかし、そんな事を続けていてはお互いに傷つき、疲弊していく一方だ。
 だからこそ、スペルカードルールを取り決め、その図式を弾幕ごっこという形式で表現しているわけだ。
お互いが傷付き過ぎないように、お互いがもっと傍で過ごせるように……。
「……まあ、今回それが適用できるかどうかはわからないけどね」
「ん……? どういうことよ」
「こっちの話よ。それより、どんな妖怪だか気にならないの? さっきまであんなに聞きたがってたじゃない」
 ああ、そうだった。
 何だか妙な方向に話が逸れてしまった。
「結論から言うと、これは多分『産女』でしょうね」
「うぶ、め……?」
 聞いた事があるような、ないような。
「姑獲鳥、とも言うらしいわ。子供を抱いていたっていう話だし、ちょっと気になる所はあるけど恐らく間違いないわ」
「へえ、やけに詳しいじゃないか」
 こうも自信一杯に言われると、逆に不安になるのは何故だろう。
「大丈夫、永琳からの情報だよ!」
「不安すぎる!」
 いや、永琳の事を疑っているわけじゃないんだけどね。
「何でも、産女っていう妖怪は妊婦の妖怪らしいわ。子供が産まれないまま妊婦が死ぬと、産女になるって伝えられている――らしいわね」
 これも永琳情報なんだろうか。
 しかし、それにしても――。
「妊婦、か……」
 妖怪って奴には色々な種類がある。
 道具が妖怪になったもの、獣が妖怪になったもの、生まれた時から妖怪という生粋の妖怪だっている。そして、人間が妖怪になったもの――そういう妖怪だっているのだ。
 そんな妖怪の事は、こんな体のせいか、どうにも他人事とは思えない。
 生まれること無く死んでいった子供。
 出産するはずだった子供をその身に宿したまま死んだ母親。
 妖怪と成って、一体何を思うのだろうか。
 本来歩むはずだった未来、それに思いを馳せながら、ずっと妖怪として生きていかねばならないのか――。
「ちょっと、もこたんってば」
「……ん、ああ、なに?」
「もうっ。何だか今日はぼうっとしていることが多いわね」
「ああいや、そんなことは――」
 つい、なんだか申し訳なくなって謝ってしまう。
 普段なら絶対そんなことはしないのに。
「ああもう! 何だかこっちの調子まで狂っちゃうじゃないの」
 そう言って飲みかけの紅茶に口をつける。
「まあでも、それも仕方のない事かもしれないわね――もこたんみたいなお子様にはちょっと辛い話だったかしら」
 む、なんかひっかかる言い回しね……。
「ふん、お前だって似たようなものじゃないか」
 売り言葉に買い言葉とはよく言ったもので、反射的にそう言い返してしまった。
「あら、私は違うわよ」
「そうか? 私にはそうは見えないけど」
「本当に、そうかしら?」
 そう言って、輝夜が怪しく微笑む。
「それなら――確かめてみる?」
 いつもとは違った、艶のある声。
たった一言、それで空気が一変してしまった。
 音もなく椅子から立ち上がり、テーブルの反対側から此方へと前屈みに乗り出してくる。
「お、おい――」
 何をする気だ?
 そう最後まで言い切る前に、輝夜がすっと私の頬に手を添えて、覗き込むように私を見詰める。
 そのあどけない大きな瞳は、まだ幼さを残した外見とは不釣合いな怪しい光を湛えている。この通常なら在り得ない組み合わせが、筆舌しがたい程の色気を感じさせる。
 まるでその光に魅せられたかのように、私はぴくりとも動けない。
 そうしていると、今度は左手で髪を掻き上げながら、ゆっくりと私を肩へ抱き寄せる。
 黒く、艶やかな長い髪が目の前をさらさらと流れていく。
 そして次に目に映ったのは――真っ白なうなじ。
 きめ細やかな、白い肌。
 黒い髪とのコントラストが、その美しさを一層に際立たせている。
「――ねえ、どうかしら?」
 輝夜が、そっと私の耳元で囁く。
 耳に吹きかかる吐息が、なんだかちょっと、こそばゆい――。
 ……って、ちょっとまて。
 私は何をやっている?
 なにこれ?
 なんなんだこれは。
「答えを、聞かせて頂戴?」
 ゆっくりと輝夜の顔が近づいてくる。
 もう、何も考えずにこのまま――。
 いやいやいや!
 少し落ち着け自分――!
「……二人とも、何をしているんだ?」
 突然の呼び声に、一気に現実へと引き戻される。
 しかも、なんだか聞き覚えのある、よう、な……。
 ゆっくりと、声の聞こえた方へと顔を向ける。
 そこには、
「けい、ね……」
 上白沢慧音先生がいらっしゃった。
 見てはいけないものを見てしまった。
 そんな、複雑な表情をしながら。
「や、やあ、妹紅」
「ご、ごきげんよう」
 言い知れない気まずさを感じながらも、何とか喉から声を絞り出す。
「は、はは、何だ、二人とも仲良さそうじゃないか。余りにも親密そうだから、つい話しかけるのを躊躇ってしまうほどだ」
 なんだろう、慧音は笑っているが、どことなく距離を感じる。
 まさか、今のを見て私と輝夜の仲を誤解されてしまったとか?
 いや、慧音に限ってそんな浅はかな判断をするはずがない。
 里の賢者とすら呼ばれるあの慧音だ。きっと何か事情があるのだろうと、そう考えてくれているに違いない。
「はは……、私は、その、てっきりお前達は犬猿の仲だと思っていたのだが、そんなことはなかったんだな。いや……、うん、とても喜ばしいことだと思うぞ」
 たとえ同性であったとしても、と慧音は付け加えた。
 めちゃくちゃ誤解されていた。
「い、いやっ、違うんだ慧音!」
「何がだ?」
「私は、別にこんな奴とは――」
 そう私が言いかけると、
「あら、そんな事を言うなんてひどいじゃない」
 そういいながら、輝夜がしなだれかかってきた。
 この状況を楽しむかのようにニヤニヤと笑っている。
 ちょ、なんてことをすんだこいつは!
 『かのように』っていうかモロだろ、絶対楽しんでるだろこいつ!
「なに、気にすることはないさ」
 その様子を見て、どこか吹っ切れたように慧音が言った。
「慧音……?」
 私は恐々と慧音を見上げる。
「仲が良いのは素晴らしいことだ。それも、数百年に渡っていがみ合ってきたお前達がこうして和解し、仲睦まじくしているんだ。これ以上に嬉しいことがあるだろうか。私は祝福するぞ、たとえ――世間が何と言おうとも」
 え、いや、ちょっと慧音さん。
 何自己完結しちゃってるんですか。
「さて、邪魔者はそろそろ消えるとするよ」
 そう言って、こちらに背を向ける。
「それでは、達者でな!」
 こちらを振り返る事無く、走り去っていく。
「ちょっ、待ってくれ! 慧音!」
 後を追わなければ――そう思って走ろうとするが、しがみついた輝夜が邪魔で動けない。
 そんなことをしている間にも、慧音の背中はどんどん遠ざかっていく。
「慧音ーーー!」
 そして、その姿はとうとう視界から消えてしまった。
「……行ってしまったわね」
 しがみ付いていた体を離し、輝夜が立ち上がる。
「大丈夫……。今はまだ辛いかもしれないけど、彼女もいつかはわかってくれるわ」
 ね、そう私に微笑みかける。
「輝夜……」
 私も彼女を見詰め返し、ゆっくりと、しかし大きく息を吸う。
 そして、思いっきり叫んだ。
「そんな言葉に騙されるかあぁぁぁ!」
 何きれいにまとめようとしてんだこいつは!
 というか何? 今のでまとめたつもりなのか!
「ちっ、駄目か……」
「当り前だろうが!」
 むしろ、これで誤魔化せると思ったその思考回路が謎だよ!
「一体いつから慧音に気付いていたんだ?」
「勿論、最初からだけど?」
 当然と言わんばかりに堂々と宣言する。
 ああもう、なんなのこの女!
「私に何か恨みでもあるのか!」
 一体何の恨みがあって、私の数少ない友人関係を乱そうとするのか!
「いや、恨みなら一杯あるけど」
 そうでしたね!
 私にも一つ追加されたよ。とてつもなくでかい恨みがな!
 うん、殺そう。
 後で絶対に殺そう。
「まあ、それよりもね」
 平然と話を変える輝夜。
 マイペースにも程があるだろう……。
 しかしながら、私もいい加減突っ込みつかれてきたわけで。
 今日一日だけでどれだけの感嘆符を消費してしまっただろうか。私のせいで感嘆符が絶滅したらどうしよう。
「……何だよ」
 エコのために、あえてここはスルーする。
「ちょうどいい時間だし、そろそろ向かおうと思うのよ」
「向かうって、どこによ?」
 さっぱり意味が解らない。
 もうちょっと話の流れとか、そういったものを考慮して欲しい。
「決まってるでしょ。さっき話した――」
 そう自信満々に奴はいう。
「――産女が出現するっていう、噂の現場よ」


 ◇◇◇
 
 
 人里から離れた魔法の森へと続く道。
 日が沈みすっかり暗くなった道を、警戒しながら慎重に進んで行く。
「なあ、本当に出るのか?」
 隣を歩く輝夜に言う。
 今のところ、どこにも変わった所はない。
 暗い夜道はどこか不気味な雰囲気が漂っているが、そんなのは竹林だって変わらない。むしろ、迷う分あっちの方が余程性質が悪いだろう。
「あら、今頃になって怖気づいたのかしら?」
「ハッ、そんなわけがないだろ?」
 迷いの竹林なんて場所を生活の中心としている私が、いくら不気味とは言ってもこんな普通の道を恐れる理由はない。
 まあ、それは輝夜にしても同じことだろうが……。
 そもそも、私達二人をどうこうできるような奴がそうそう居るとも思えない。
「ただ、もうそろそろこの夜の散歩にも飽きてきてね。本当にいるって言うなら、いい加減その産女とやらにもご登場願いたいと思っってさ」
「せっかちねぇ。私達の時間は限りなくあるのだから、もう少し余裕をもって楽しむ事を覚えなさいよ。でも――」
 言葉を切って、耳を澄ます。
「――今夜は、その必要もなさそうね」
 私も輝夜に倣って夜の闇に耳を澄ます――と、どこからともなく鳥の鳴き声のような、か細い女の泣き声が聞こえる。
「ようやくお出ましか」
「そうみたいね」
 妖怪の登場にもお互いに動じることは無く、余裕の構えだ。
 輝夜が動こうとする気配はない。
 それならば。
「私がさっさと片付けてきてやるさ!」
 そう言い放って、夜空へ飛翔する。
 暗闇の中、静かに耳を傾ければ未だに続く女の声。
 場所は――。
「そこかっ!」
 森の中に目星をつけて、突っ込んで行く。
 無用心に思われるかもしれないが、輝夜から聞いた限りではそれほど強力な妖怪にも思えない。在りもしない脅威にビクビクしているのも何だか阿呆らしいし、何より私の性に合わない。それに――万が一の場合でも、私が死ぬことは無いのだから。
 後はただ、妖怪を見つけたらもう人を脅かさないことを条件に弾幕ごっこを申し込むだけだ。勿論、それが拒否されるようならば実力行使に出ることも考えなければならないが。
 と、この時はそんな風に考えていた。
 しかし、事はそんな単純な話ではなかったのだ。
「もこたーん、見つかったー?」
 輝夜の間の抜けた声が聞こえる。
 ああ、なんであいつはあんなにもお気楽なんだろう。
「もー、いるならちゃんと返事してよ。それで妖怪は見つかったの?」
「……見つかったよ」
 うん、見つかった。
 確かに見つかった。それも至極あっさりと。
「で、その妖怪はどこにいるのよ?」
 もう退治しちゃったのかしら、そう訊ねるあいつに対して、私は黙って一本の木を指差して応える。
「……木?」
 それはどこにでもあるようなごくごく普通の木だった。
 もちろん、それが妖怪というわけではない。世の中にはそういう妖怪もいるらしいが……。むしろ、そうであったならどれだけ良かっただろう。
「その陰だよ。後ろの方」
 言われるままに木の後ろへと回り込む輝夜。
「……あら」
 果たしてそこには、赤ん坊を抱えた女性が一人、ガタガタと震えながら座り込んでいた。
 歳は20歳前後だろうか、肩ほどまで伸ばした黒髪がゆらゆらと揺れている。
 どこにでもいる普通の女性――そんな風に見える。少なくとも外見上は。
 しかし、その体から僅かに流れる妖気が、そうでないことを主張している。
「ひぃっ!」
 私達に気がつくと怯えて後じさろうとするが、当然ながら木を背にしているためそれ以上は下がれない。
「……なんだか酷く怯えてるみたいだけど」
 あんた何やったのよ、と疑惑の篭った眼差しで輝夜が言う。
「い、いや、私は何もしてないぞっ!」
「本当かしら。じゃあなんでこんなに怯えているわけ?」
 しかし、そう聞かれても私にはさっぱりわからない。
 本当に何もしていないのだ。
 妖怪の姿を発見して、スペルカードでの決闘を申し込んだ――そうした途端にこの状況である。
 どうしてこうなったのか、私の方が聞きたいくらいだ。
「ふーん? まあ、いいけど……。ねぇ、貴方」
 向き直り、未だに怯える彼女へと優しく諭すように語りかける。
「はじめまして、私は蓬莱山輝夜よ。あっちのは藤原妹紅、アレが何か失礼な事をしてしまったようでごめんなさいね。礼儀も知らない田舎者でね……。貴方に危害を加えるつもりはないの」
 色々と文句をつけてやりたかったけど、ぐっと堪えて飲み込みこんだ。
 私って偉いと思う。いや、本当に。
「本当、に……?」
「ええ、勿論よ」
 そう言ってにっこりと笑う。
「あっちの白い人が、決闘だって、凄い勢いで迫ってきたから、あたしてっきり……」
 輝夜がこちらをジト目で睨む。
「あ、あれはだなっ!」
「ひぅっ!」
 私の声を聞いた途端にビクッと震える。
 うわ、このリアクションは結構傷付くなぁ……。
「……ごめん。ただスペルカードでの決闘を申し込みたかっただけなのよ」
「す、すぺるかーど?」
 不思議そうな表情でこちらを見る彼女。
「そう、弾幕ごっこだよ」
「だんまく、ごっこ……?」
 ……あれ?
 もしかして、いや、もしかしなくても――彼女、弾幕ごっこを知らない?
 隣に立つ輝夜に目配せするが、あいつも困惑しているようだ。
「貴方、弾幕ごっこ――スペルカードルールって知らないかしら?」
「ええと、カードゲームか何かでしょうか……?」
 どうやら、本当に知らないらしい。
 こんなことがあるだろうか。
 スペルカードルールはこの幻想郷において、破ってはならない絶対的なものだ。人間ならば兎も角、妖怪でこの事を知らない者がいるとは思えない。
 しかし、この目の前の妖怪は、それを知らないと言う。
 考えられる可能性は、外界から来たばかりの妖怪か、さもなければ――生まれたばかりの妖怪だ。
 同様の結論に至ったのか、輝夜が彼女に質問を投げかける。
「ねえ、ちょっと聞いてもいいかしら?」
「は、はい。なんでしょうか」
 先程よりは幾分落ち着いた様子で彼女が応える。
「ちょっと待ってくれ。その前に、名前を教えてもらえないか?」
 いつまでも『彼女』では不便だろう。
「あ、すいません、申し遅れました。あたしは、夜半鳴(やはん なる)って言います。鳴って呼んでください」
 そう言って、にっこりと彼女――鳴は笑った。
「それじゃあ聞くけれど、あなたはこの幻想郷で生まれた生粋の妖怪?それとも、最近までは人間――だったのかしら?」
 輝夜の質問に、鳴は俯いて応えない。
「……辛い事を思い出さすことになるかもしれないけど、ちゃんと答えて欲しいの。事情がわかれば、私達も貴方の力になれることがあると思うわ」
「……はい、ありがとうございます」
 そう言ってぎゅっと赤ん坊を抱きしめると、彼女はゆっくりと語りだした。自分がどうしてここにいるのか――どうして妖怪と成ったのか。
 
「あたしは元々性格が内気で、この年まで男の人ともろくに喋ったことがなかったんです。このままじゃいけないって思ってアルバイトとか、サークルとか、色々がんばってみたんですけど結局ダメダメで……。ああ、あたしは駄目なんだな、ずっとこのままなんだろうなって、そうやって諦めかけたころでした。彼が十数年ぶりに帰ってきたのは」

 そこまで喋って、大切なものを噛締めるように、そっと笑う。
 
「彼って言うのはあたしの幼馴染でして、子供の頃はうちの隣に住んでいたんですが、中学校に上がる前にご両親の都合とかで引っ越してしまったんです。私にとっては十数年振りの再会になるわけで、男の人は苦手だし、それはもう緊張して会ったわけですよ」

 きっと昔のことを語るのは辛いに違いない――私はそう思っていたのだけれど、予想に反して彼女は優しげな笑みを浮かべたまま語り続けた。
 その当時のことを思い出したのか、時々楽しそうにクスリと笑いながら。
 
「なのに、彼は全然変わってなくて、いえ、勿論ちゃんと大人らしく成長していたんですけどね。何といいますか、根本的な部分が全然変わってないんですね。あたしはかなり緊張していたのに、そんな事もお構いなしに、子供の頃と同じ調子で話しかけるんですよ。あたし、それが何だかおかしくって。だってそうじゃないですか、緊張なんてしていた自分が馬鹿みたいで」
 
 なんだかおかしいですよね、彼女は私達にそう笑いかける。
 残念ながら――私にはちょっとわからなかったけれど。
 
「昔のように仲良くなるまで、そう時間はかかりませんでした。彼はもう就職していて、会う時間はあんまり取れませんでしたけど。それでも合間を縫って二人で買い物に行ったり、映画を見に行ったり……。とても、楽しかったです。そして去年、とうとう彼からプロポーズ、されて……」

 結婚、かぁ。
 それがどんなものなのか私は想像するしかないわけだけど、隣にいるこの性悪女はどう思っているんだろう?
 今、昔のように誰かに求婚されたら、やはり昔のように――私の父にそうしたように、無理難題を吹っかけて追い返すのだろうか。
 
「あたしはまだ学生だったし、彼もそんなにお金があるわけではなかったので、結婚式は小さなものでしたが、私は幸せでした。だって、自分ではそんな幸せを掴むことなんて出来ないって思っていましたし、何より、彼と一緒なら何でも良かったんです。それから間も無くして子供も出来て、本当に、本当に――幸せでした」

 でも、この物語は決してハッピーエンドでは終わらない。
 それは彼女がここにいるのだから間違いの無いことだ。
 それでも――それでも、このまま幸せな結末を迎えて欲しいと願ってしまう私は往生際が悪いのだろうか。
 
「彼が、言ってくれたんです。新婚旅行も出来なかったし、あたしが本格的に動けなくなる前に、どこかに旅行に行こうって。それで、近場でしたけど、二人で旅行に行くことになったんです。その途中のことでした――」

 バスの転落事故だったんです、震えながらも彼女はそう言った。
 
「突然バスに衝撃が走って、その後はもう何が何だかわかりませんでした。視界がぐるぐると回って、上も下もわからないまま……。それが――あたしが覚えている最後の記憶です。そうして気がつくと、この森の中でこの子を抱えて座り込んでいました。それが……今から一週間ほど前の話です」

 そうして、彼女の話は終わった。
 聞いた事のない単語もたくさん出てきたが、これでわかったことがある。
 一つは、彼女は生粋の妖怪ではなく、元人間であるということ。それもどうやら外の人間らしい。
 二つ、彼女が幻想郷に来たのはごく最近の話であるということ。
 そして三つ目――やはり彼女は姑獲鳥だった。彼女は、ハッピーエンドを迎えることは出来なかったのだ。
 判っていたこととはいえ、実際に聞くと胸に重たいものがのしかかる。
「ちょっともこたん、なに暗い顔してるのよ。それに、貴方――」
 そう言って輝夜は鳴を見遣る。
「――まだ、話していないことがあるんじゃないかしら?」
「え、わ、私ですか?」
 うーん、と必死に思い返そうと頭をひねる。
「……プロポーズの言葉とかですか?」
「誰が惚気ろと言ったぁ!?」
 輝夜の叫びが暗い森に響き渡る。
 何もそんな大声を出さなくてもいいと思うのだが。
 もしかしてあるのか、結婚願望。
「ひぅっ!?」
 突然の叫び声にびくっと震える。
 そりゃあ、そうだろう。私だってあんな鬼気迫ったツッコミされたらちょっとびびる。
 しかしそのお陰か、先程までの沈んだ雰囲気はすっかり霧散していた。
「あー、こほん。ごめんなさいね、ちょっと取り乱したわ。ええと、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて、この一週間あなたがしていたことよ」
「……と、言いますと?」
 心底わからないという表情で彼女が問う。
 本人がそんなことでいいのか。
「このところ、ここの道で夜中に人を追っかけたり、突然目の前から消えたりしていたのはあなたなのよね?その理由が聞きたいの」
 なるほど、と漸く合点がいったのか、彼女が言う。
「あたしはこうして死んでしまったわけなんですが、せめてこの子を人の手で育てて欲しいと思って、通りがかる人に声を掛けていたのです」
 ん?
 何か話に聞いていたのとちょっと違うような……。
「なあ」
「はい、なんでしょうか?」
 疑問に思ったことをそのまま口にする。
「私が聞いた話では、物凄い金切り声を上げて迫ってくるって」
「声を掛けた途端に姿が消えた、とも聞いているわね」
 私に続いて輝夜も抱いた疑問を彼女へ投げかける。
「ああ、そのことですか。それはですね――」
 恥ずかしかったんです、可愛らしく頬を染めながら彼女はそう言った。
「ええっと、それは、うぅん……?」
 隣では輝夜が困惑して唸っている。
 私にもさっぱり意味はわからなかった。
「ですから、この子を託すために通りがかる人に声を掛けようとしたんですよ。でもほら、あたしって内気じゃないですか? 恥ずかしくって……。それでもなんとか声を掛けようと、気合を入れて叫んだんですけど――」
 それのことですかねぇ、と自信なさげに呟く。
 それだよ!
 ど真ん中だよ!
「じゃ、じゃあ、姿が消えたって言うのは――」
 輝夜が不安げに――その不安も尤もだと思うが――訊ねる。
「ええ、男の人からいきなり声を掛けられて、あたしあんまり恥ずかしくって……つい全力で逃げちゃいました」
 いたよ、初心な娘が……。
 ああ、頭が痛い。
 もう、なんなのこの産女。
「と、ともかく、その子を預けるのが目的なわけね?」
 今の話を聞いても何とか会話を継続しようとするその精神力は見事なものだと思う。流石に月のお姫様は格が違った。
「はい、その通りですっ」
 さて、そうなると――話は少し複雑になる。
 何しろ彼女は別に人を襲うために声を掛けていたのではない、どちらかといえば助けて欲しくて声を掛けていたことになる。
 これではスペルカードルールにしろ何にしろ、無理やりに止めさせるわけにもいかない。
 なら、私か、さもなければ輝夜に子供を預かれば良いのではないだろうか。そんな案も出したのだが、
「どうやらそれは駄目みたいなんです。普通の人間の男性じゃないと、この子が私から離れてくれないようで……」
 これも妖怪ゆえの特性か、彼女の言った通り、私も輝夜もその赤ん坊を彼女から受け取ることは出来なかった。
 赤ん坊も産女という妖怪の一部――そういうことなのだろう。
 となれば、最早方法は一つしかない、つまり――。
「何とか彼女に男に慣れてもらうしかないわね」
 そういうことになる。
「でもそうは言っても、どうやるんだ?」
 あいにく、私には男の知り合いは居ない。
 輝夜だって似たようなものだと思うが。
「ふふん、大丈夫よ。私に考えがあるわ」
 任せなさい、奴は自信満々にそう言った。
 
 ……大丈夫かなぁ。
 
 
 ◇◇◇
 
 
 そして、その翌日。
 私達は、昨日と同じ喫茶店に今度は3人でやってきていた。
 もちろん、鳴の男嫌いを克服する特訓の内容を話し合うためだ。
「――それで、昨日は何か考えがあるような言い草だったけど、本当に考えているんだろうな?」
 そう私が話を切り出した。
「ふふ、勿論よ」
 相変わらずに胡散臭い。
「ど、どんな内容なんでしょうか」
 あたしに出来ることならいいんですけど、そう不安そうに鳴が呟く。
「大丈夫よ、別に危険な事をするわけではないんだし。でも、弱点を克服するための特訓なんだから、それなりに無理もしてもらうわ」
 輝夜の言葉に、鳴が小さくこくんと頷く。
「で、肝心の内容はどんなものなんだ?」
「ええ、それはね――ナンパよ! いわゆる逆ナンってやつね」
 なんぱ?
 今こいつナンパと言いましたか?
「そっ、そんな! 無理ですよぅ!」
 鳴が悲痛な叫びを上げる。
 それもそうだろう。普通に話しかけることすら出来ないと言うのに、いきなりナンパしろとは……。
 いくらなんでも鳴には酷なのではないだろうか。
「いい? 貴方だってこれまで努力してきたのでしょう? それでも克服出来なかった事を何とかしようというのだから、これぐらいはやらないと駄目なのよ」
 確かに、言われて見ればその通りなのかもしれない。
「そう言われてもっ!」
「頑張って、やるしかないのよ」
「しかし、心の準備がですねっ!」
「今、準備なさい」
「でもでもっ!」
 そんなに嫌なのか……。
 尚も必死に抵抗を続ける鳴を見ていると、なんだか哀れにすら思えてくる。
 しかし、そんな鳴に対して、輝夜が――とうとうキレた。
「ああもう、うっさいわね! 大体ね、子供一人こさえておいて、今更何言ってんのよ! ぶりっこ? ぶりっこか! お姫様プレイか! 世の中なめてんじゃないわよ!」
 お姫様、顔が歪んでますよ。それもめっちゃ醜い感じに。
 大体、後半はお前のことじゃん。千年前の。
「はぃっ! すいません!」
 そんな輝夜の気迫に押されて鳴が返事をする。
 ちょっと不憫だ。
「……ふぅ、わかってくれればいいのよ。それでね、やっぱりちょっとハードルが高いと思って、声を掛けるときのセリフは用意してきたの」
 そう言って、楽しそうに少し大きめの紙でできた箱を取り出す。箱の正面には手が入るくらいの穴が開いている。
「……これがどうしたんだ?」
 意図する所がわからずに、輝夜に訊ねる。
「ふふっ、良く聞いてくれたわね、もこたん。この箱の中には沢山のカードが入っていて、その一枚一枚に私の心に残った告白のセリフが書いてあるわ。鳴には一枚ずつそれを引いて、書いてあるセリフを男の人に声を掛けて読み上げてもらう。ちなみに、成否は問わないわ」
 なるほどぉ、と間延びした声で鳴が言う。
「それなら何とか出来そうです!」
 と、気楽に返事しているが、本当に大丈夫なのか……。
「それじゃ、早速行ってきますね!」
 箱の中からカードを一枚抜き取って、店の外へと駆け出して行く。
「いってらっしゃーい。私達はここから見守っているわ」
 ニヤニヤと笑いながら見送る輝夜。
 そんな様子を見ていると、いよいよもって不安は募る。
「……ちなみに、どんなセリフが書いてあるんだ?」
 一枚抜き出して読み上げてみる。
「あなたと合体し……」
 そこまで読んで、カードを戻す。
 ……えっ。
 なにこれこわい。
 これって告白のセリフが書いてあるんですよね?
「なあ、輝夜……」
「なぁに、もこたん?」
「これ、本当に告白の――」
「告白のセリフよ」
 言い切った。
「それも、私の心に残ったとびっきりのやつよ!」
 そう言う輝夜の瞳に迷いは無い。
「そ、そうか……」
 余りにも自信に溢れた輝夜の言葉に、私は何も言うことは出来なかった。
 外からは、
「私を殺した責任を――」
 とか、
「俺は今猛烈に――」
 とか、
「流行るといいよな――」
 とか、
「お前が好きだ! お前が欲し――」
 とか、告白なんだか決め台詞なんだかよくわからないような叫び声が聞こえてくる。というか、レインって誰だよ。
 最早、私に出来ることといえば、この少し離れた喫茶店から慣れない男を相手に奮闘する彼女を見守ることだけだ。
 自分の無力さを噛締めながらジュースを啜る。
 ジュースは甘くてとても美味しかったです。
 
 それから数時間後――。
 
「や、やっと終わりました……」
 漸く全てのカードを消化して、鳴が戻ってきた。
 たったの数時間ですっかりやつれた表情が、この特訓の辛さを物語っている。
 しかし、その苦労に見合った効果があるのかどうかは非常に疑わしい所だ。
 今更ながら、こっそり輝夜に耳打ちする。
「これって本当に効果があるのか……?」
 そんな私の問い掛けに対して、輝夜はぐっと親指を立てて応える。
 いや、余計に不安になるから言葉で応えてくださいよ。
「そんな不安そうな顔しないでよ。バッチリだってば。要は慣れと、話しかけるだけの度胸がつけばいいんだもの」
「けど、実際には話しかけて子供預けなきゃならないわけだろ? あれで大丈夫なのか?」
「ふふ、その点も抜かりないわ。さあて――」
 鳴の方へ向き直って、力強く輝夜は言った。
「――最後の仕上げよ!」

 そんな輝夜に言われるままに、着いて来た先は香霖堂。
 迷いの森近くに、ぽつんとたった道具屋さん。
「ここの店主で、最後の実戦練習をしてもらうわ」
「いや、そりゃ練習にはちょうどいいだろうけどさ。……迷惑なんじゃないか?」
 存在自体は知っているものの、私は殆ど面識も無い。
 それだというのに、突然押しかけて、しかも練習台になれとはいくらなんでも横暴が過ぎるのではないだろうか。
「大丈夫よ、もう許可はとってあるわ」
「おぉ、珍しく根回しがいいな」
「ふふ、何しろ私はここの常連だからね」
 あぁ、たまに持ってる変な道具はここが仕入れ元なのか。
 後で永琳にチクっておこう。
「さぁ、鳴。店主には話が通ってるから、特訓の成果を存分に発揮してらっしゃい」
「はい! でも、一体何をすればいいんでしょう?」
「簡単なことよ。普通に会話して、最終的に――そうね、プロポーズできれば合格よ。状況は説明してあるから、ある程度話も合わせてくれるはずよ」
 輝夜の言葉に、一瞬の戸惑いを見せながら、それでも――、
「頑張りますっ!」
 強い意志の篭った声で、そう答えた。
 毅然とした表情で、鳴は店の中へと入っていく。
 私達は入り口の傍からそっと彼女の姿を見守る。
「こ、こんにちはっ!」
 元気な挨拶が店内に響く。
「――ん? おや、いらっしゃい。今日は何をお探しで?」
 挨拶を受けて、銀髪のほっそりとした男が立ちあがる。あれが香霖堂の店主――森近霖之助なのだろう。
「あ、あのっ、私は鳴って言います!」
「なる……? ああ、君が例の……話は聞いているよ」
 そう言って鳴へと近づいていく。
 なんと本当に話が通っているようだ。
 てっきり適当に言った出任せだと思っていたが、どうやら本当にアポを取っていたらしい。正直かなり意外だ。
 それが少し表情に出てしまったのか、輝夜はこちらをみてニタニタ笑っている。あぁ、ナチュラルにむかつくなぁ。
「初めまして、僕はこの店の店主、森近霖之助だ。それで――今日は何の用かな?」
 ここからが本番ということなのか、店主はそれっきり黙りこんで何も言わない。
 対して鳴は、やはり恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
 ……まあ、昨日まで話しかけることすらままならなかった事を考えると、これでも随分と頑張っている方なんだろう。特訓は確かに無駄ではなかったようだ。
「え……ええと、今日はいい天気ですね!」
「え? ああ、うん、そうだね……?」
 話す内容が思いつかないらしく、再び店内に静寂が広がる。
 ああもう、なんだかじれったいなぁ!
 しかし、ここで私が手を出しては意味が無い。
 こうなってしまえば、もう私達は黙って見守るほかに無いのだ。
「あー、あのさ、君」
 その沈黙が余りにも辛かったのか、とうとう店主の方から口を開いた。
 ルール的には微妙だが、ずっと黙っているよりはマシだろう。
 輝夜もそう思ったのか、止めようとする気配はない。
「は、はぃっ!」
 どもりながらも必死に鳴が応える。
「はは、そんなに緊張しなくてもいいよ。別に取って食いやしないさ」
 微笑みながら、店主は続ける。
「君は――そうだな、何か趣味とか無いのかい?」
「趣味……、趣味ですか」
 うーんと鳴が唸る。
「趣味って言うほどではないですけどっ、料理が好きです!」
「なるほど――料理か。残念ながら僕は特に料理が得意というわけではないけど、こう見えて、一応一通りの事はこなせるんだよ」
 何だかお見合いを見ているみたいだなぁ。
 こうしていると、まるで覗き見をしているようでちょっと決まりが悪い。
「えと、それじゃあ……一人暮らしなんですか?」
「うん、そうなるね。けど、しょっちゅう遊びに来る友人――幼馴染がいてね。そいつが変な材料を持ち込んでは勝手に料理するものだから、元々食事を採ることが少ないことも相まって、あんまり腕を振るう機会はないんだ」
「幼馴染――ですか」
 そう、と店主が呟く。
「それが迷惑な奴でね。人の話は聞かないし、店の商品は勝手に持っていくし、あまつさえ持ってくる食材に稀に毒キノコが混ざっている事もある。まったく困ったものだよ」
 その時の事を思い出したのか、店主は渋面を作って言った。
「あの、貴方は、その幼馴染さんが――嫌いなんでしょうか?」
 鳴が、まるで自分のことの様に、不安げに訊ねる。
「いや、勿論そんなことはないさ。彼女は――僕にとっても、大切な……大切な存在だよ」
「……そうですよね!」
 店主の返答にほっとしたのか、鳴の表情がぱあっと華やぐ。
「君にも、幼馴染がいるのかい?」
「はいっ、とても――とても大切な人なんです」
 そう言って、手元に視線を落とす。
 その先にあるのは、自らの手で抱きしめた赤ん坊。
「実は、この子はその人と、あたしの――子供なんです」
 ぎゅっと赤ん坊を抱きしめる。
 やがて、意を決したように店主へと顔を向ける。
「貴方に――貴方に、お願いがあります!」
 とうとう言うつもりなのか!?
 おぉ、と歓声を上げる私と輝夜。
 どう見てもただの野次馬です。本当にありがとうございました。
「……何だい?」
 待ち構える店主に対し、大きく息を吸って、そして鳴は叫んだ。
「私と……、私と結婚して下さいっ!」
 言ったー!
 それにしても随分とストレートなプロポーズだ。
 しかし、それが何だか微笑ましい。
「ああ、よろこんで――って、うわぁ!?」
 プロポーズに対しての返答を、店主がしようとしたまさにその時、
 
 がしゃあぁぁん!
 
 突然店内に、ガラスを破って何かが飛び込んできた。
 その物体はその勢いを殺しきれずにそのまま壁に激突し、ずるずると地面へ蹲った。もの凄く痛そうだ。
「っ痛ぅ……」
 その黒白の物体が痛そうに唸る。
 しかし、それも束の間のこと。すぐさま立ち上がると、店主へ向かって叫んだ。
「こ、香霖、結婚ってどういうことだよ!」
「魔、魔理沙!?」
 それはいつだったか竹林で弾幕ごっこを交えた相手――普通の魔法使い、霧雨魔理沙だった。
「え、えぇっ!?」
 鳴は何が起こったのか把握出来ていないらしく――まあ、それが普通だと思うが――呆然と二人を見詰めている。
「一体どういうことなんだ! 説明してもらうぜ!」
「い、いや、これはその……、誤解だ!」
 しどろもどろになりながらも、何とか説明を試みようとする店主だが、その言い方では逆効果――火に油を注ぐだけだった。
「何が誤解だよ! こんな子供まで作っておいて!」
 涙目になりながらそう言って、鳴を指差す。
「あたしっ!?」
 まあ、そりゃそうだろう。この流れだと。
 そんな混沌とした店内の様子を窺いながら、輝夜に言う。
「……おい、どうするんだ。アレ」
「どうするもこうするもないわ。こうなったら――三十六計逃げるに如かずよ!」
 そう叫んで店内へ突っ込んで行く。
 そして、私もそれに遅れる事無く続く、と――
「そ、そりゃあさ。いつかは、いつかはそんな日も来るかもって思ったこともあったぜ……。で、でもっ、まさかこんなに突然に、しかも何の相談もなく結婚、だなんて、酷いじゃないか――」
「落ち着いてくれ魔理沙! だからこれは誤解なんだよ――」
 中では二人がまだ言い争っていた。
 私達はそれを無視して、鳴の手を掴んで外へと向かう。
「――あ、お前達! ちゃんと魔理沙に説明してやってくれ!」
 後ろから店主の悲痛な声が聞こえるが、それに構わず私達は駆け抜ける。
 私達が脱出すると殆ど同時に、
 
「香霖の馬鹿ぁっ!」

 そんな叫び声と共に、背後から爆発音が轟いた。
 ああ、香霖堂に光が満ちる――。
 
 
 ◇◇◇
 
 
「いやぁ、危なかったわねー」
 人里から鉱山へと続く道を歩きながら輝夜が言う。
「まったくだよ……。お前、後始末はどうするつもりだよ」
 店内の商品はおろか、あれでは店自体に深刻な被害が出ただろう。
 店主、可哀想に……。
「すいません。私のせいで……」
 少し沈んだ声で鳴が言った。
「大丈夫よ、あなたが気にすることはないわ」
「お前はもうちょっと気にしろよ!」
 少しは巻き込まれる方の身にもなって欲しい。主に私とか。
「まあまあ、香霖堂についてはちゃんとフォローしておくわよ」
 ついでに被害者の精神面もフォローしてくれ。主に私とか。
「それで、今度は何処に向かっているんだ?」
 てっきりさっきので特訓は終わりかと思っていたのだけれど。
「ま、まだ何かやるんでしょうか……?」
「ううん、特訓はさっきのでお終いよ。あれだけ話せれば……もう十分でしょう?」
 特訓じゃない?
 周りを眺めても目に入るのは鬱蒼と広がる森ばかりで、辺りには人気も無い。こんな所で輝夜は一体何をするつもりなのか。
 またろくでもないことを考えているんじゃないだろうな。
 何しろ相手は私への嫌がらせには如何なる努力をも惜しまないような女、蓬莱山輝夜だ。最後の最後まで油断は出来ない。
「それじゃあ、何をするつもりなのよ?」
 念のため、確認してみる。
「あら、決まっているじゃない。練習が終わったなら、後は本番あるのみでしょう?」
 本番。
 鳴が子供を人の手に託すということ。
 それはつまり――必然的に鳴と子供の別れを意味している。
 鳴はただじっと輝夜を見詰めている。
 今までもその事を考えなかったわけではないだろう。いや。きっと、一番最初にそれを考えたに違いないないのだ。けど、そんなことはもうとっくに覚悟の上で、今日だってそのつもりで――ずっと過ごしていたに違いないはずだ。
 今更、その意思が揺らぐことがあるはずもなく。
「……はい、宜しくお願いします」
 鳴は静かに、しかしはっきりと私達に向かってそう言った。
 
 そして私達は今、人が通りがかるのを待つ鳴を、離れた木陰から見守っている。
 ……なんだか、今日はこんなのばっかりだな。
 というか、私って今のところ何もしていないような気がするぞ?
 あれ? 私、輝夜より働いてないんじゃないか?
「どうしたのよ、もこたん。そんな複雑そうな顔をして」
「いや……、ちょっと自分のアイデンティティの揺らぎと戦っていた所だ」
 ふーんと呟き、輝夜は視線を鳴へと戻す。
 こうやって待機し始めて既に一時間。
 これまでに通りがかった人数はゼロだ。
 この数字はスタートした時間が遅かったことも大きく起因しているのだろう。今は既に夜の八時半。働いていた人間も既に帰宅して、食卓を囲っている時間帯だ。
 しかし、それ以上に問題なのは。
「なあ、輝夜」
「何よ?」
「……何でこの道を選んだんだ?」
 もっと人里に近い道ならば、この時間帯でもまだ人の姿もあっただろう。しかし、ここは――。
「この道じゃ、昼間だってろくに人は通らないだろう?」
 何故わざわざこんな寂れた道を選んだのか。
 それがまったくわからない。
 輝夜にしても、別に勝負を長引かせたいわけではないだろう。
 まさか、これが嫌がらせ――ということもないだろう、流石に。
 ……ち、違うよね?
「さて……なんでかしらね?」
 この期に及んで!?
 じょ、冗談だよな?
 いやでも、輝夜ならありえないことも……とか、そんな事に思いを巡らせていると。
「――お?」
 漸く、一人の男性がこちらへ向かって歩いてくる姿が見えた。
「……ちっ」
「……なあ、今舌打ちが聞こえたような気がするんだが」
「……ちっ!!!」
「別によく聞こえなかったからやり直しを要求したわけじゃないよ!」
 信じてたのに。
 ほんのちょっとは信じてたのに!
 ……まあ、1ミクロン位は。
「あのっ!」
 そんな事をやっているうちに鳴が男に話しかけた。
「……何ですか?」
「この子を、この子を預かって、欲しいのです」
「この子……、この赤ん坊を?」
「……はい」
 特訓の成果か、鳴の口から淀みなく言葉が紡がれる。
「それは……まあ、構わないが」
 そう言って子供を受け取る。
 まあ、本人にしてみればちょっと預かるだけのつもりなのだろう。
 思いの外にあっさりと、目的は達せられた。
「……ふぅ、上手くいったのは良かったけど、何だかちょっと拍子抜けしちゃうな――」
「……妹紅」
 緩みのない、静かな声。
「……何だよ?」
 突然の真剣な声に、思わず緊張感が走る。
 今更何があるというのだろうか。それとも、また何か企んでいるのか?
「ここからが本番よ。……しっかりと見ていて」
「……は? 何を言ってるんだよ」
 もう、既に子供は預けたというのに。
「あのね、妹紅。彼女――鳴は、人じゃない。既に妖怪なの」
 そんな事は私だって知っている。
 それがどうしたというのだ。
「人は襲われる側、妖怪はね――襲う側なのよ」
 輝夜がそう言うのとほぼ同時に、
「ぐうっ!?」
 男の声が耳に届く。
「何だっ!?」
 慌てて様子を窺うが、どこにも変わった所は――いや。
「どうしたんだ、あんな必死な顔をして」
 男の顔は、何かに耐えるように、必死の形相に歪んでいた。
 まるで、何か重いたいものを支えるように、足を大きく開き踏ん張っている。
「妹紅、あれが――産女なのよ」
 うぶめ。
 妊婦の妖怪。
 それがもたらす怪異、それが――。
「あれ、なのか」
 男の表情は苦痛に歪み、今にも膝をつきそうだ。
 何とか耐えていた男だが、それもいよいよ限界に達したのか、とうとう――赤ん坊を地面へ落とした。
「くそっ! 何だって言うんだこの赤ん坊は! どんどん石みてえに重くなってくるじゃねぇか!」
 子供が重く?
 それが、鳴の――産女の能力なのか。
「お前、人間じゃねぇな……」
 男が敵意を孕んだ眼差しを鳴に向ける。
 だがしかし、鳴は男の様子に気付いた様子も無く、俯いてぶつぶつと何かを呟いている。
「……くも……たし……ちゃん……」
「おい、どうにか言ったらどうなんだ? 一体、何を企んでいやがる!」
 男の怒声にもまったく反応は無い。
 その瞳は虚ろで、まるで生気は感じられない。
「――ッ!? まずいわ!」
「どうした?」
「妹紅、早く助けに入って!」
 確かに、男は今にも鳴に襲い掛からんばかりだ。
 しかし、そんなに焦るほどの事だろうか。
「……わかった。おっさんには適当に説明して、引き下がってもら――」
「ばかっ、違うわよ!」
「ばかって、お前なぁ」
「いいから早く行って!」
 切羽詰った輝夜の声。
「『鳴』から『あの男の人』を守るのよっ!」
 は?
 なんだって?
「輝夜、お前何を言って――」
 その時、
「な、なんだっ!?」
 男の戸惑う声が聞こえた。
「よく、も…あたしの、あかちゃん……を……」
 独り言を呟きながら、鳴が男へと近づいていく。
 瞳には一切の理性も感じられず。
 体からは、禍々しい程に妖気が溢れていて。
 その鳴の姿は、否定のしようが無く、これ以上ないっていうくらいに――。
「よくもッ、あたしのあかちゃんを捨てたなぁッ!」
 人間を襲う側――妖怪の姿だった。
 そう、私はすっかり忘れていた。
 妖怪は人を襲うもので、そして――鳴は妖怪だっていうことを。
 この期に及んで、そんな基本的な事を失念していた。
 口ではわかっていると言いながら、頭ではわかったつもりになりながら。
 その実、鳴にかぎってはそんなことはないと、そんな夢想を抱いていたのではないか?
 スペルカードルールが制定されてから、争うこともなくなったから――いや、それも言い訳に過ぎない。
 少し考えれば判ることだ。スペルカードルールが出来て血生臭い争いが減ったというのなら、それを知らない、しかも妖怪に成ったばかりの鳴は一体どうするのか。
 そんな事にも気付かなかったのは、きっと――私自身が、どこかで自分と鳴の姿を重ねていたからではないのか。
 私が得ることのなかった幸せを掴み、それを失った鳴に――せめて、その願いを叶えて欲しいと。
 しかし、そんな事を考えている内に、
「――ッ!?」
 鳴が、男へと飛び掛る!
「ひぃっ!」
 男は恐怖のためか、迫り来る危険に対しても逃げることが出来ずにいる。
「くそっ!」
 叫ぶと同時に、私は炎を纏い男の前に躍り出る!
 炎が夜の闇を赤く照らす。
 燃え盛る炎の壁を前にして、鳴の動きがぴたりと止まる。
「――おっさん、こいつは私達が何とかする。だから、早く逃げてくれ」
「わ、わかった。すまねぇ!」
 そう言って男が走り出す。
 その背中を追おうと鳴が乗り出す、が。
「――そこまでだ」
 真っ赤な炎がその行く手を遮る。
 既に鳴の四方は炎に囲まれ、男を追うどころか、逃げることすらも叶わない。
 炎の海の中、一人取り残された格好となっている。
 さて、これからどうするべきか。
 今回は無事に男を逃がすことが出来た。
 しかし、次はどうだろうか。
 これから先も、きっと彼女は子供を預けようと、同じ事を続けるのだろう。
 その時に、今のように相手を助けられるとは限らない。
 ならば、最初予定していたように、もう二度とこんなことはしないよう説得をするか?
 それも――駄目だろう。
 彼女にとって子供を預けることを諦めるということは、彼――幼馴染への想いを捨てるのに等しい。そんなことが、出来るはずもない。
 そうなれば、最早取れる方法は唯一つ。
 そうだ。説得に失敗したのなら最初からそうする予定だったのだ。
 彼女を、鳴を今ここで、退治――。
「――ちょっと、あんまり虐めたら可哀想じゃない」
 何時からそこに居たのか、後ろから輝夜が言う。
「もう、鳴が泣いちゃってるじゃないの」
「ごめんなさ、い……。あ、あたしっ……」
 見れば、鳴は炎の中で小さく蹲って、最初に出会ったときのようにただ泣きじゃくっている。
 どうやら、正気に戻ってくれたようだ。
 しかし――これから先は、わからない。
「おい、輝夜」
「なによ?」
「私は、今からあいつを――」
 退治、しなければ。
「ああもう、ストップストップ。一体全体、何であんたはそんな悲壮なツラをしているのよ。見ているこっちにまで移りそうだわ」
「何でって、そんなの」
 輝夜だって、今の光景を見ていたはずだ。鳴が人を襲う姿を。
 だというのに、なんだってこいつはこうも平然としているんだ?
 炎の熱に当てられたのか、頭の奥がちりちりと熱い。
「あんたが何を思っているのかは知らないけど、少なくとも私は、ある程度こうなることを予想していたわよ?」
「だったら、何故こんなことをやらせたんだ!」
 昨日も、今日の特訓も、最初から無理だと知っていて、そうして頑張っている鳴の姿をみて笑っていたと。そう言うのか。
 またそうやって――人の気持ちを弄ぶのか。
 そうだと言うのなら、私は――。
「――そんなの決まっているでしょう? 何のために私達がいると思っているのよ」
「何のため、って……」
 呆然と呟く。
「私も、一度で上手く行くとは思っていなかったわ。だからこそ、こうしてわざわざ近くで見張っていたんじゃないの」
「――は?」
 言っている意味がわからない。
「それはつまり、最初から失敗することも折込み済みだったと?」
「当り前じゃないの」
 奴は、平然とそう言った。
「妹紅、産女っていう妖怪はね。通りがかった男に子供を預けて、その男を試すのよ。徐々に重みが増して行く赤ん坊を抱き続けられなければ、男は産女に襲われる。けど――無事に最後まで赤ん坊を抱いていられたなら、産女はその相手に大きな幸福を与えると言われているのよ。要は相手の男次第ってわけ」
 ……なるほど、言いたい事はわかった。
 けれど、
「もし、相手の男を助けられなかったらどうするつもりだったんだ」
「でも、あんたは助けたじゃない」
「それは結果論だ! それに、さっきはたまたま大丈夫だったけど、次も無事に済む保障はないんだぞ」
「あら、私も居るっていうのに、そんなことがあるとでも?」
「ふん、いくらやったって耐えられる男なんて出てこないかも知れない」
「それこそちょうどいいわね。私達にはうってつけの暇潰しでしょう?」
 そこまで言って、お互いに口を噤む。
 はあ、と大きく溜息を吐く。
 あー、もう。
 つまりアレか。
 私の早合点、だったわけか?
 何だか、私一人で熱くなって凄い恥ずかしい奴みたいじゃないか。
 というか、何故そういう大事な事を事前に言わないのか。
 わざとか!
 わざとなのか!?
 まったく、性格が捩れているというかなんというか……。
 それとも、話すまでもなくそれくらい察しろ――ということなのか。
 相変わらずも、人に難題ばかり押し付ける奴だ。
 私は少し不貞腐れながら、黙って炎を消した。すると、
「あ、あの! 妹紅さん、あたしっ!」
 それと同時に鳴がこちらへ駆け寄ってくる。
「ごめんなさいっ! 赤ん坊が落とされた瞬間、あたしっ、わけがわからなくなっちゃって、それで……」
「あー、それはもういいからさ。ほら、赤ん坊早く抱いてやんなよ」
 そう言って、地面で泣いている赤ん坊を指差す。
「あぁっ!?」
 鳴が慌てて赤ん坊を抱き上げる。
 そんな様子を見ていると、緊迫した空気はすっかり霧散してしまった。
 そうだ。時間ならいくらでも、それこそ無限にある。
 何度だって、鳴のことを止めてみせよう。
 例え可能性が1%も無くたって、成功するまで続ければいいだけのこと。
 それが出来るなら――不可能なことなど何も無い。
「はっ、やってやろうじゃないか」
「ふふっ、そんなに気張らなくってもいいわよ。何しろ私がいるんだからね、もこたんはゆっくり指でも銜えて見ていなさい」
 今更そんな発破をかけられるまでもなく。
 最早、諦めるつもりなど微塵もない。
 見せてやるさ。
 幾ら死んでも死に足らない、不死鳥の本領を!
 


 ――と、意気込んだのは良かったものの。
「来ないわねぇ」
「来ないなぁ」
 先程と同じように木陰に隠れて待つこと数十分。
 やはり先程と同じように人っ子一人通らない。
 というか。
「もう時間が時間だしさ。今日は切り上げた方がいいんじゃないか?」
 いや、諦めるつもりはないよ?
 でもね、やっぱりさ、こういうのは場所と時間が大切だと思うんだ。
「……はっ、やってやろうじゃないか(キリッ」
「……私が悪かったよ」
 でも、せめて場所位は変えた方がいいと思う。
 まあ、それは明日になったら考えればいいか、等と考えていると、
「来たわよ」
 耳元で輝夜が囁いた。
 流石に今度は舌打は無しか。
 見れば、鉱山夫のような格好をした男が歩いている。
 この先に鉱山があることを考えると、ような、というかまさにその通りなんだろう。思い返してみれば先刻の男も似たような格好をしていたような気がする。
「あのっ、すいません!」
 鳴が男に呼びかける。
「……おや、どうしましたかこんな時間に?」
 こんな時間こんな場所に女が一人で居ることには疑問を持たないのだろうか。男は何の疑いも持たない様子で鳴へ近づいていく。
 無用心だなぁ……。こっちとしては都合がいいんだけどさ。
「あの、この子を……赤ちゃんを少しの間、預かっていただきたいのです」
「この子を……ですか」
 そう言って鳴が抱いている赤ん坊をまじまじと見詰める。
「この子はあなたの?」
「はい、そうです。私の……赤ちゃんです」
 男は暫く考え込むように黙り込んでいたが、やがて納得したかのように頷くと、
「わかりました。事情はわかりませんがお預かりしましょう」
 そう言って赤ん坊を受け取った。
 ここまでは問題ない。
 しかし、勝負はここからだ。
 それまで平然としていた男の顔に疑念が浮かび、やがてそれは――苦悶の表情へと変わる。
「くぅっ!?」
 腕が一気に沈み込む。
「こ、これは――?」
 困惑しながら男は鳴を見る。
 しかし、鳴は唯の一言も声を発することはなく、ただ赤ん坊を抱く男を見詰めているだけ。
 まるで、まるで祈るような表情で。
「ぬううっ!」
 尚も耐える男。
 だが、腕は腰まで下がり、足も頼りなく折れ始めている。
 果たして、いつまで持つだろうか。
 別に失敗することを期待しているわけではない。勿論、これで成功してくれるならそれに越したことはない。
 しかし。
「なっ――!?」
 未だに赤ん坊の重みは止まる事無く増え続けている。
 とっくに先程の男が耐えていた時間は越えている。
 下を見れば、僅かながらも男の足が大地にめり込んでいる。
 一体、どれだけの重さなんだ……。
 しかし、それでも赤ん坊を腰に抱いて耐える男。
 男の忍耐力は大したものだが、こうなると別の心配もする必要があるかもしれない。
 赤ん坊の重さによる圧死。
 冗談のような言葉だが、あの状況を見ていると、必ずしもそうとは言い切れない。もし男が倒れるようなことがあれば角度によっては本当に危ないかもしれない。
 だが、そんな心配を余所に、男は耐え続けた。
 ここまで来ると逆に疑問にすら思える。
 何故耐えられる?
 あんな目に遭ったなら、直ぐにでも子供を放り投げるのが普通ではないだろうか。先程の男のように。
 何か、理由があるのだろうか。
 赤ん坊を、子供を捨てられない理由が。
 そんな事を考えていると、
「うわぁっ!?」
 突然赤ん坊が光り輝き、視界が光に包まれる。
 瞳に焼きついた光を払うように目を擦りながら、ゆっくりと目を開く。
 再び目に映った光景は、しかし先程と変わった所はなく――いや。
 確かに大きな変化はない。
 しかし、苦痛に歪んでいた男の顔はすっかり落ち着いており、先程までの必死な形相が嘘のようだ。
「おい、輝夜!」
「ええ、いきましょう」
 二人で頷きあい、鳴の元へと走り寄る。
「おい、鳴――」
 そう呼びかけて、絶句する。
 鳴の体が淡い光を放ち、今にも消えてしまいそうな程にぼんやりとした姿になっていたからだ。反対側の景色が透けて見えるほどに。
「これは、どういう……」
「目的を、果たしたからでしょうね」
 輝夜はそう言って、男の抱いた赤ん坊を見遣る。
「産女は妊婦の妖怪、子供を産めずに死んでいった女の霊が妖怪になったものよ。その無念を果たしたのなら――この世に止まる理由はないわ」
 鳴はゆっくりと男へと近づいていく。
「騙すような真似をして申し訳ありませんでした。あまつさえ、貴方を危険な目に……。しかし、どうしても――どうしてもその子を誰かに託したかったのです」
「それは、つまり――預けるではなく、この子を私に育てて欲しいと、そう言う意味なのか」
 はい、と短く鳴が応える。
「なるほど……」
 流石に、これはどうだろうか。
 突然子供を渡されて「大切に育ててくださいね!」と言われて、気持ちよくOKと返事できる懐の広い人間がこの世に存在するだろうか。もし存在するのなら、私はそいつに喝采を送りたいと思う。
 まあ、断られたとしても既に条件はクリアしているのだから、子供は私か輝夜が育てても――。
「――わかりました」
 ……なに?
 今、なんて?
「この子は、私が、責任をもって面倒を見ます」
 男ははっきりと、意思の篭った声でそう言った。
 それを聞くと、鳴はにっこりと優しく微笑み。
「……ありがとう」
 たった一言そう言った。
「お二人も、色々とありがとうございました」
 そう言う鳴の姿はもう殆ど透けていて、夜の闇に溶けてしまいそうな程だった。
「いや、私達は別に――」
「あら、今年は謙虚な蓬莱人を売りにしていくつもりかしら?」
 そう言ってくすくすと輝夜が笑う。
 ちょ、なんでこんな時に水を差す!?
「ふふっ、お二人には本当に感謝しています。こうして子供を託すことが出来たのも、お二人のお陰です」
 そういって微笑む。
「……さて、そろそろ時間のようですね。それでは皆さん、さよならです。それと――」

 ――お二人共、いつまでも仲良くありますように。
 
 そんな余計な一言を残して、産女・夜半鳴は消えていった。
 
 
 ◇◇◇
 
 
 そんな事件があってから数日後。
 輝夜が家を訪ねてきた。
 最早恒例となっている殺し合いのお誘いだ。
 事件のことを含め、勿論それ以外にも奴には相当な恨みが積もりに積もっている。
 私は鬱憤を晴らすため、その誘いに喜んで乗った。
 そんなわけで、いまは二人で暴れられるだけの広い場所へと移動中だ。
 さて。
 そうしている間にいくつか考えたいことがある。
 というのは、勿論、先日の事件のことについてだ。
 あの後、赤ん坊を託された男を里へと送っていったのだが、その際にわかったことがある。
 数日前に起こったという落盤事故。
 彼は――その事故の遺族だと言うのだ。
 ほんの数週間前に、本当の家族を、子供を失った――だからこそ、あの時どうしても赤ん坊を放すことが出来なかったという。赤ん坊を育てることについても同様の理由だ。これから先、一人ぼっちで暮らしていくのは余りにも寂しいと。
 しかし、赤ん坊は産女の残していった子供だ。言ってしまえば半分は妖怪のようなものである。しかし、そう忠告しても男は、
「半妖は病気にかかる事もなく、寿命も人よりずっと長いと聞いています。それなら、私が置いていかれる心配も無いでしょう」
 と、笑ってそう言っていた。
 そんな風に、とんとん拍子に事は進んでいった訳だが、果たしてこれは偶然なのだろうか。
 私はそう思わない。
 これはあの性悪女が、そうなるようにと仕向けたことではないのだろうか。
 そもそも、人が通りがかるのを待つのに、あんな寂れた道を選んだことがおかしいのだ。
 あの時、最初に通りがかった男を見たときに舌打をしたのは、奴の悪趣味な冗談だと私は思っていたが、あれは――素の反応だったのではないだろうか。自分の狙っていた人物以外が来たための。
 だとすると、一体いつ、輝夜はこの図面を引いたのか。
 特訓の最中?
 鳴に出会った夜?
 あの新聞で事故の事を知ったときに?
 それとも――私に話を持ちかけたときには既に?
 もし初めから考えていたのだとしたら、他にやりようは幾らでもあったろうに。
 たとえ、通りがかった男に子供を預かってもらうという形式は崩せなくても、せめて私に話してくれればもっと色々と協力が出来たはずだ。……私だって、変な勘違いをせずに済んだだろう。
 まったくもって素直じゃない。
 それ以外にも、あいつには聞きたいことがある。
 例えば、告白という言葉の定義についてとか。
 そもそも、何故あんなことを始めようと思ったのか――とか。
 等々と、問い質したい事は山ほどある。
 
 しかし、急ぐことはない。
 
 まだまだ時間はたっぷりとあるのだから。
 
 だから、とりあえず今は――
 
「――さあ、着いたわよ。今夜はどんな風に殺して欲しい?」
 
「――誰に言ってるんだ? 寝言はダンゴムシにでも囁いてな!」
 
 ――今は、この束の間の逢瀬を楽しむとしよう。
 
天真爛漫で朗らかな姫様が好きです。
でも、黒い姫様はもっと好きです。

そんなわけで、今回は姫様とそれに振り回される妹紅さんのお話でした。
タイトルで感づいた方も居るかもしれませんが、今回は「化物語」っぽいお話にチャレンジしてみたくて、
それをそもそもの動機として書いたものです。
しかし結果としては、自分ってこういうの向いてないなぁとただただ痛感するばかりです。
精進あるのみ、ですね。
大体、竹取物語を題材にしているんだから、タイトルもあんまりそれっぽくないような・・・。
2文字だし・・・。

元々メインで書いていた話の気晴らしにと書き始めたのですが、何だかどんどん長くなってしまい、
こんな有様に・・・。しかもメインで書いてた方は全然すすんでなくて、未だに6kbという・・・。
どういうことなの・・・。
数週間前に「俺、これ書き上げたら小傘ちゃんの応援SSを書くんだ・・・」とか、思っていたのが夢のようです。
もう投票始まっちゃってるじゃん\(^o^)/

それでは、最後になりますが、読んで頂き有難うございました。

追記:
>夕凪さん
コメントありがとうございます。
やりたいことを赴くままにやっていたらこんな風になっていましたorz
次回はもう少し具体的にテーマを据えて、全体のバランスを考えて書きたいと思います。

追々記:
>7さん
コメントありがとうございます。
そう言っていただけるととてもありがたいです。
やっぱり展開遅いですよねorz
これからはもっと流れを意識して書いていかないと・・・。

>ずわいがにさん

仰る通りだと思います。
やっぱり、自分がこの作品でやりたかった事が上手くまとまっていなかったんだと思います。
このままではどうにも中途半端ですよねorz
長くなるならなるで、構成も含めて工夫しなきゃ駄目ですね。

輝夜と妹紅については、小説版儚月抄読んでから何故かこんな風にしか見えませんwww
まさかあんな所からツンデレ成分が出てくるとは……!
負け猫亭
[email protected]
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コメント



0.460簡易評価
3.90夕凪削除
シリアスかなぁと思ったらギャグだった。と思ったらシリアスだった。
そういえば妹紅は今は妖怪退治してないのかな?
確か昔は妖怪退治してたはず(スペカルールがなかったとき)
個人的な好みになってきますが、中盤のところはもう少し押さえ気味でシリアスで通してくれたほうがよかったかも。
ギャグが嫌というわけではありませんよ、もこてるのやり取りもニヤニヤしましたし、ネタも面白かったですしね。
でもこの作品全体の雰囲気を考えると、あの中盤はあまりにも雰囲気が変わりすぎる、そう感じたので……まあやっぱり好みの問題ですかね。
だけど、オリキャラの使い方は良かったので、凄いと思いましたし、面白かったです。
7.70名前が無い程度の能力削除
そんなに悪くは無いと思うんだけどなぁ
点が伸びないのは、序盤で若干もたついた感があるせいかな?
自分は嫌いじゃないですよ、こういうの
8.90ずわいがに削除
もう少しシリアスシリアスしてても良かったかもしれません。俺が単純にシリアスものが一番好きなジャンルだということもあるかもしれませんが;ww
前半の前振りがかなり長かったためか、産女が赤ん坊を託すあたりで急にストーリーがあっさりいってしまったような感じがしました。どうせなら前半を簡潔にして、もっと産女の場面にボリュームを置いても良かったかもしれません。

しかし輝夜と妹紅もなんやかんや仲良しですよね。いくら暇を持て余しているといってもww
やはり腐れ縁なのでしょうね。慧音の誤解も誤解でなくなるかも?なんてww