からり、と氷が崩れる音がした。
――――
ほら、こう眠い時に限って、なんだか目が冴えちゃったりするじゃない。
それで、戸締まりしたっけとか思って玄関まで行ったり、携帯を開いてぼぅっと眺めたりしてると、さらに目が冴えちゃって。
お昼に飲んだ紅茶と、朝に飲んだ珈琲が頭の中で合わさって、ぐるんぐるんとココアの様。
「なんでココアよ」
だってほら、粉末を溶くじゃない。スプーンでくるくるぐるぐる。
まあ、そんなことはいいのよ。どうせココアなんて、冬まで作らないん、え?秋ぐらいなら飲みたいって?
まあ、いいけど。淹れるぐらいならしてあげるけど、牛乳とかはそっち持ちでね。
当たり前じゃないの。私はココアよりは紅茶でも飲んでた方がいいんだもの。もしくは緑茶にお酒ね。
って、もう。話がそれ過ぎじゃない。蓮子は、変なところで相槌を打つんだもの。
それで、布団、……じゃなくてタオルね。ケット。
寝ないとって思って、頭まで被って、目をつぶって。
「つむって」
ああ、もうっ。蓮子は変なところに気をやり過ぎよ。瞑るとつぶるなんて、聞く分には違いなんてわからないじゃない。
とにかく、被って寝ようとしたのよ、寝ようと。
でね、一時間ぐらい経っても寝れなくて、ごろんごろん寝返りを打ったら、
「ベッドから落ちたと」
そうそう、全裸で、ってそんなわけないでしょ?ベッドから落ちるなんて、そんな私は子供じゃないわよ。
……はぁ。なんか疲れるわね、蓮子と話すのは。まあ、楽しいと言えば楽しいのだけど。
で、話を戻すけど、目がね、あったの。
暗い部屋に、目が二つ。鈍く光っていたわ。
「ぬいぐるみの目ね、きっと」
……そうよ。悪かったわね、怪談話じゃなくて。いいじゃない、話に乗ってくれたって。
そういうところは、嫌いだなぁって。蓮子のこと。
「まあ、いいじゃないの。それに、そっちだって人の話を聞かないことあるしね。でしょ?」
そうだけどね。でも、たまに会った時ぐらいいいじゃない、真面目に聞いてくれたって。
「もちろん聞くわよ、真面目にね。ただし、真面目な話なら」
――――
「でも、本当に久し振りね、蓮子」
からり、とグラスの中の氷が溶けて音を立てた。
くすり、と目の前の彼女が笑う。
「そうね。一年振りぐらいだけど、すごい久々な気がする」
「最近も、あれやってるの?」
「もちろん。そっちからもらった情報にも助けられてますよ、ガセネタも多いで、す、が」
嫌味ったらしくそう言ってやると、いつもの様に頬を膨らませてきた。
「……いいじゃない。私はなんでも知ってるわけじゃないんだから」
もちろん、わかってるけど。そんなことは。
――――
「まあね。で、紫の方はどう?」
それなりかしら。
最近は楽しいわよ?そっちの環境問題が解決されちゃったから、気候が変わったりしたけど。
まあ、あと数日でどうにか出来そうなのが救いね、これは。
「あらら。どうりで寒そうな格好。季節にあってるけど」
夏だもの。夏に長袖着てたら、変な目で見られるってね。
冷房利き過ぎとか、着たくなる時はあるけど。
「生鮮食品売場とか」
山の中とか。虫だくさんで。
だって、怖くないかしら。歩いていたら、上から虫の幼虫とか成虫が落ちてきたり、蚊に刺されて腫れちゃったり。
って言ってたら、痒くなってきたなぁ、もう。
――――
「お待たせいたしました。こちらがヴィネツィア風ドリアで、こちらがクランベリーパフェとなります」
くだらない話を続けていると、ウエイトレスさんがやってきた。
あ、あのスカートかわいい。
「ドリアはこっちで。パフェはそっちね」
かちゃ、かちゃと音を立ててドリアやらスプーンやらなんやらを置いて、一礼する。
礼儀正しいけど、なんか暗い人だな、この子。
「こちらに伝票を置いておきます。では、失礼いたします」
「さて、朝ごはんと」
「まだ食べてなかったの?」
「いつもなら寝てる時間ですから」
ほんと、こいつは。
「寝過ぎ」
「夜起きて朝寝てるから大丈夫」
それは褒められたことじゃ……、いや、紫の場合は、それが正しいんだろうけど。
「……でも、朝ごはんって、それだけじゃおなか膨れないんじゃ」
「結構量があるけど?」
「そうじゃなくて、こう」
パフェと一緒についてきた、フォークの方を取る。
深呼吸をして、目をつぶ、瞑って、親指に押し付けた。
つぷり、と、皮を破って、肉を裂いて、弾けた様な、そんな感触。
いや、実際に破ってるんだけどね。
「……っ、うん。こう、しないと、あなたの場合」
「お気遣い感謝ですわ、馬鹿蓮子」
「馬鹿ってなによ、馬鹿って」
「友達を食べておなか膨らますほど、嫌な生き方はしていないってことよ」
「おなかを空かした友人を前にして、一人おなかいっぱいにはなれないの、私はね」
――――
まあ、いいけどね。
そこまで言うなら食べましょうかと。
あー、まずい。ホント、蓮子の血はまずいわね。
「嘘吐け。ならなんでそんながっついてるのよ」
……おなか減ってたし。
それに、ここのドリアおいしくってね。あ、食べる?
「自分の血が混ざったのなんか食べたくない」
残念。おいしいのに。
……って、もう四時なるの?
「なるなる。朝ごはんってよりおやつだよね、もう」
早いわね、時間が経つの。
「おばさんくさいわよ、紫」
うるさいわね。子供のころと比べたら倍以上も早いからいいのよ。
学校帰りの夕方なんて、怖いぐらい長かったもの。
……懐かしいわね、学校とか。
やっぱり、大学って楽しい?
「楽しくないわよ、実際のとこ。時間に追われるし、時間を追うし。まあ、知らないことを知るのが楽しい、なんて捻くれた見
方も出来るけど」
まさに蓮子にぴったり。
「うるさい」
――――
「ごちそうさま」
少しして、紫が食べ終わった。
「え、ちょっと。早いわよ、食べるの」
「蓮子が遅いだけですわ」
「ですわとか、すっごい似合わないんだけど」
格好にはあってるけど、正直そんな性格じゃないでしょ、あんたは。
「ああ、もう。昔はあんなにかわいかったのに。毎回会うたびに捻くれるんだから、蓮子は」
「どんどん派手になるわよね、紫の服」
「うるさいわよ」
――――
じゃあ、そろそろ帰ろうかしらね。
「帰れ帰れ」
……そろそろ泣くわよ?
あと、支払い割り勘にしようかしら。
「申し訳ございません、紫様」
いや、そうゆうのもなんか、困るって言うか。
それと、そんなにお金に困ってるならバイトとか、
「いや、倶楽部活動に大半」
もう少し自重しなさい。
って、ああ、もう四時過ぎてるじゃない!
「……じゃあ、またね」
そうね。ま、電話とかするから。
「ん」
ほら、笑う笑う。子供じゃないんだから。
ホント、そういうところは変わらないわね、蓮子は。
あ、払っとくから、もちろん。
「ありがと」
うん。じゃ、バイバイ。
「また、ね。紫」
――――
「――いつかはね」
「いつか、って?」
「独り言よ、メリー」
後ろから来たメリーに手を振って返事をする。
時計を見たら、あれから十分は経っていた様だ。
「それにしても」
ちら、と横目でメリーを見やる。
「暑そうね、その格好」
「これでも涼しいんだけどね。新素材、新素材」
「いや、どう見ても暑そうだけど」
「……思ったよりもね」
暑いんじゃないの。
「さってと。すみませーん。ミルクティをアイスでー!」
「叫ばない叫ばない。ほら、店員さん苦笑してるし」
「暑いんだもの」
「暑くないって言ったり暑いって言ったりなんなんだか」
「いいじゃないの、もう」
からり、と氷が崩れる音に、メリーの声が合わさる。
紫のいた場所は、今は、メリーの場所になって、それに違和感を感じていない、私が少しおかしかった。
――――
ほら、こう眠い時に限って、なんだか目が冴えちゃったりするじゃない。
それで、戸締まりしたっけとか思って玄関まで行ったり、携帯を開いてぼぅっと眺めたりしてると、さらに目が冴えちゃって。
お昼に飲んだ紅茶と、朝に飲んだ珈琲が頭の中で合わさって、ぐるんぐるんとココアの様。
「なんでココアよ」
だってほら、粉末を溶くじゃない。スプーンでくるくるぐるぐる。
まあ、そんなことはいいのよ。どうせココアなんて、冬まで作らないん、え?秋ぐらいなら飲みたいって?
まあ、いいけど。淹れるぐらいならしてあげるけど、牛乳とかはそっち持ちでね。
当たり前じゃないの。私はココアよりは紅茶でも飲んでた方がいいんだもの。もしくは緑茶にお酒ね。
って、もう。話がそれ過ぎじゃない。蓮子は、変なところで相槌を打つんだもの。
それで、布団、……じゃなくてタオルね。ケット。
寝ないとって思って、頭まで被って、目をつぶって。
「つむって」
ああ、もうっ。蓮子は変なところに気をやり過ぎよ。瞑るとつぶるなんて、聞く分には違いなんてわからないじゃない。
とにかく、被って寝ようとしたのよ、寝ようと。
でね、一時間ぐらい経っても寝れなくて、ごろんごろん寝返りを打ったら、
「ベッドから落ちたと」
そうそう、全裸で、ってそんなわけないでしょ?ベッドから落ちるなんて、そんな私は子供じゃないわよ。
……はぁ。なんか疲れるわね、蓮子と話すのは。まあ、楽しいと言えば楽しいのだけど。
で、話を戻すけど、目がね、あったの。
暗い部屋に、目が二つ。鈍く光っていたわ。
「ぬいぐるみの目ね、きっと」
……そうよ。悪かったわね、怪談話じゃなくて。いいじゃない、話に乗ってくれたって。
そういうところは、嫌いだなぁって。蓮子のこと。
「まあ、いいじゃないの。それに、そっちだって人の話を聞かないことあるしね。でしょ?」
そうだけどね。でも、たまに会った時ぐらいいいじゃない、真面目に聞いてくれたって。
「もちろん聞くわよ、真面目にね。ただし、真面目な話なら」
――――
「でも、本当に久し振りね、蓮子」
からり、とグラスの中の氷が溶けて音を立てた。
くすり、と目の前の彼女が笑う。
「そうね。一年振りぐらいだけど、すごい久々な気がする」
「最近も、あれやってるの?」
「もちろん。そっちからもらった情報にも助けられてますよ、ガセネタも多いで、す、が」
嫌味ったらしくそう言ってやると、いつもの様に頬を膨らませてきた。
「……いいじゃない。私はなんでも知ってるわけじゃないんだから」
もちろん、わかってるけど。そんなことは。
――――
「まあね。で、紫の方はどう?」
それなりかしら。
最近は楽しいわよ?そっちの環境問題が解決されちゃったから、気候が変わったりしたけど。
まあ、あと数日でどうにか出来そうなのが救いね、これは。
「あらら。どうりで寒そうな格好。季節にあってるけど」
夏だもの。夏に長袖着てたら、変な目で見られるってね。
冷房利き過ぎとか、着たくなる時はあるけど。
「生鮮食品売場とか」
山の中とか。虫だくさんで。
だって、怖くないかしら。歩いていたら、上から虫の幼虫とか成虫が落ちてきたり、蚊に刺されて腫れちゃったり。
って言ってたら、痒くなってきたなぁ、もう。
――――
「お待たせいたしました。こちらがヴィネツィア風ドリアで、こちらがクランベリーパフェとなります」
くだらない話を続けていると、ウエイトレスさんがやってきた。
あ、あのスカートかわいい。
「ドリアはこっちで。パフェはそっちね」
かちゃ、かちゃと音を立ててドリアやらスプーンやらなんやらを置いて、一礼する。
礼儀正しいけど、なんか暗い人だな、この子。
「こちらに伝票を置いておきます。では、失礼いたします」
「さて、朝ごはんと」
「まだ食べてなかったの?」
「いつもなら寝てる時間ですから」
ほんと、こいつは。
「寝過ぎ」
「夜起きて朝寝てるから大丈夫」
それは褒められたことじゃ……、いや、紫の場合は、それが正しいんだろうけど。
「……でも、朝ごはんって、それだけじゃおなか膨れないんじゃ」
「結構量があるけど?」
「そうじゃなくて、こう」
パフェと一緒についてきた、フォークの方を取る。
深呼吸をして、目をつぶ、瞑って、親指に押し付けた。
つぷり、と、皮を破って、肉を裂いて、弾けた様な、そんな感触。
いや、実際に破ってるんだけどね。
「……っ、うん。こう、しないと、あなたの場合」
「お気遣い感謝ですわ、馬鹿蓮子」
「馬鹿ってなによ、馬鹿って」
「友達を食べておなか膨らますほど、嫌な生き方はしていないってことよ」
「おなかを空かした友人を前にして、一人おなかいっぱいにはなれないの、私はね」
――――
まあ、いいけどね。
そこまで言うなら食べましょうかと。
あー、まずい。ホント、蓮子の血はまずいわね。
「嘘吐け。ならなんでそんながっついてるのよ」
……おなか減ってたし。
それに、ここのドリアおいしくってね。あ、食べる?
「自分の血が混ざったのなんか食べたくない」
残念。おいしいのに。
……って、もう四時なるの?
「なるなる。朝ごはんってよりおやつだよね、もう」
早いわね、時間が経つの。
「おばさんくさいわよ、紫」
うるさいわね。子供のころと比べたら倍以上も早いからいいのよ。
学校帰りの夕方なんて、怖いぐらい長かったもの。
……懐かしいわね、学校とか。
やっぱり、大学って楽しい?
「楽しくないわよ、実際のとこ。時間に追われるし、時間を追うし。まあ、知らないことを知るのが楽しい、なんて捻くれた見
方も出来るけど」
まさに蓮子にぴったり。
「うるさい」
――――
「ごちそうさま」
少しして、紫が食べ終わった。
「え、ちょっと。早いわよ、食べるの」
「蓮子が遅いだけですわ」
「ですわとか、すっごい似合わないんだけど」
格好にはあってるけど、正直そんな性格じゃないでしょ、あんたは。
「ああ、もう。昔はあんなにかわいかったのに。毎回会うたびに捻くれるんだから、蓮子は」
「どんどん派手になるわよね、紫の服」
「うるさいわよ」
――――
じゃあ、そろそろ帰ろうかしらね。
「帰れ帰れ」
……そろそろ泣くわよ?
あと、支払い割り勘にしようかしら。
「申し訳ございません、紫様」
いや、そうゆうのもなんか、困るって言うか。
それと、そんなにお金に困ってるならバイトとか、
「いや、倶楽部活動に大半」
もう少し自重しなさい。
って、ああ、もう四時過ぎてるじゃない!
「……じゃあ、またね」
そうね。ま、電話とかするから。
「ん」
ほら、笑う笑う。子供じゃないんだから。
ホント、そういうところは変わらないわね、蓮子は。
あ、払っとくから、もちろん。
「ありがと」
うん。じゃ、バイバイ。
「また、ね。紫」
――――
「――いつかはね」
「いつか、って?」
「独り言よ、メリー」
後ろから来たメリーに手を振って返事をする。
時計を見たら、あれから十分は経っていた様だ。
「それにしても」
ちら、と横目でメリーを見やる。
「暑そうね、その格好」
「これでも涼しいんだけどね。新素材、新素材」
「いや、どう見ても暑そうだけど」
「……思ったよりもね」
暑いんじゃないの。
「さってと。すみませーん。ミルクティをアイスでー!」
「叫ばない叫ばない。ほら、店員さん苦笑してるし」
「暑いんだもの」
「暑くないって言ったり暑いって言ったりなんなんだか」
「いいじゃないの、もう」
からり、と氷が崩れる音に、メリーの声が合わさる。
紫のいた場所は、今は、メリーの場所になって、それに違和感を感じていない、私が少しおかしかった。
あとがきまで詰め込んだせいで、コメント欄に書くとかいうことをしている自分は、もう少しあとがきという言葉を理解するべ……キノの旅というものがあるしあとがきは何でもありだと気づいた、そんな夕方
素直クール書きたい
読んでいただいた方に感謝を
メリーに幸多からんことを
それでも俺はこういうの好きです
時系列が凄いわかりづらいw
多分理解出来てないけど面白かったと思う俺はもう駄目かも分からんね!