様々な生命たちが生きる島、アヤパゴス諸島。
この『生命の宝石箱、アヤパゴス諸島』では、ディスカヴァー・チャンネルが誇る自然動物専門の取材班たちが、アヤパゴス諸島に生息する不思議な生き物たちの『今』をお届けします。
今日の特集は、アヤパゴス諸島の比較的中央部に位置する『ミョウレン島』だけに生息している、『ミョウレンヤマビコ』を紹介します。
ミョウレンヤマビコと言えば、皆さんが住んでいる日本でお馴染みの、イリオモテヤマネコの近親種であることが知られています。
平均して25cmほどの小さな体躯に、ふわふわの羽毛。へたりと垂れたスコティッシュフォールドのような耳と、短い尻尾が特徴的です。
ですが、ミョウレンヤマビコはイヌ科の動物。一説によれば、イリオモテヤマネコに進化する種がミョウレン島に辿り着いた際、同じミョウレン島に住んでいるイヌ科(タヌキ属)のサドマミゾーと配合し、その子孫がミョウレンヤマビコとして生き残った、と考えられています。
その名残りからか、今でもミョウレン島では、サドマミゾーと交尾をするミョウレンヤマビコの姿が、稀に見つけられます。
ハーフが少ないのは、この二種は活動時刻が違い、ミョウレンヤマビコが明朝から夕暮れを目安として活発化するのに対し、サドマミゾーは夕暮れから深夜にかけた活動が主に見られるからです。
ミョウレンヤマビコは小さい体躯の個体が多く、これまで発見された中でも最大で40cm。対して、サドマミゾーは成年で平均して90cmまで成長します。これも、ミョウレンヤマビコとサドマミゾーが、積極的に種を交えない理由の一つでしょう。
ちなみに、この二種のハーフを生物学的に分類すると、耳が丸い場合父親がサドマミゾーと考えられ、『サドヤマビコ』と呼ばれます。そして耳が三角形の場合、父親がミョウレンヤマビコと考えられ、『ミョウレンマミゾー』の名で呼ばれるのです。
それでは今回は、一匹のミョウレンヤマビコの一日にスポットを当ててみましょう。
追いかけるのはこの個体。大きさは約18cmで、成年のミョウレンヤマビコにしては小さめ。人間でいう14~5歳程度に相当する、メスのミョウレンヤマビコです。番組ではこの子をキョーコと名づけました。
キョーコが目を覚ましたのは午前4時。まだ陽も昇っていない時間に活動を始めます。
巣穴を出ると、最初に行うのは入口前の掃除です。ミョウレンヤマビコは基本的に綺麗好きで、雨が降った翌日などはたくさんのミョウレンヤマビコが、一斉に巣穴前の掃除をしている姿を見つけることができます。
キョーコは次に餌を食べに向かいました。ミョウレンヤマビコは草食ですが、草は食べません。主食にしているのはきのみの類。秋になるとたくさんのきのみを収穫して、冬は巣穴で、一日の実に二十三時間以上を睡眠に費やし、三日に一度だけきのみを食べる、という生活で冬を越します。
おや? キョーコの近くにやってきたのは、バケガサオバケですね。バケガサオバケはアヤパゴス諸島に広く分布している、テンジクネズミ科の動物。いわゆるモルモットの仲間です。
背中に『擬眼』と呼ばれる大きな模様があり、それを違う動物に見せて驚かし、その動物が食べていたものを食べる雑食性の動物です。
「ウラメシヤー! ウラメシヤー!」
バケガサオバケが、キョーコを驚かそうとしていますね。背中を向けて二本足で立ち、身体を大きく広げて、独特の声で鳴きます。
未成熟なキョーコは、驚いて逃げ出してしまうでしょうか?
心配ご無用。
『ウラメシヤー! ウラメシヤー!』
ミョウレンヤマビコには大きな武器があります。それは『擬声』です。ミョウレンヤマビコは声帯と聴覚が強く発達しており、聞こえてきた音を、ほとんどそのまま鳴き声として出すことが出来るのです。
擬声は、遠くから聞こえてきた肉食獣の鳴き声を真似て、『近くに居るのは味方だ』と相手に認識させたり、こうやって相手の声をそっくりそのまま返すことで、驚かせて逃走させてしまおう、という目的で行われます。
自分と同じ鳴き声が聞こえてくる、なんて思ってもいなかったバケガサオバケは、背を向けたまま慌てて逃げていきました。
キョーコのような小さいミョウレンヤマビコは、このようにして自分の身を守るのです。
キョーコが歩いていると、向こうから一匹の動物が歩いて来ました。
大きさはキョーコとあまり変わりがありません。しかしキョーコはすぐさま草陰に隠れました。
近づいてきた動物の姿が、今、はっきりと見えました。
二足歩行をして、手には二本の棒を持っています。しかもその棒は薄く削られており、刃のようになっています。
歩いてきたのはヨウヨームでした。アヤパゴス諸島ではメイカイ島のシラタマローと呼ばれる地域に生息していますが、最近ではミョウレン島でもその姿を発見することが出来ます。
ヨウヨームは小柄ですが大変凶暴な生物で、産まれてすぐ、立ち上がるよりも早く、親から二本の『カタナ』と呼ばれる武器を渡されます。
カタナには長いものと短いものが二つあり、ヨウヨームは寝る時もその一対を肌身離さず持っています。
カタナは鋭く、とても堅い毛皮や殻を持っていなければ、簡単に斬られてしまいます。
ヨウヨームの主食は肉です。狩りをして獲物を捕らえます。常に単体で行動しますが、それはヨウヨームが持つ強さに由来しています。
そう、ヨウヨームはとても強い生き物なのです。
参考までに、ミョウレン島でよく見られる生物は、バケガサオバケやサドマミゾーの他に
『ワカメチャン』
『ニュウドウ』
『ホントバカダナ』
『ショウクン』
『ナムサーン』
といった種類が存在します。
この中で唯一、確実にヨウヨームの狩りを逃れることが出来るのは、草食動物ながらに巨大で強靭な身体を持つ、ナムサーンだけです。
特にホントバカダナは多くの個体数を持ち、高い知能で群れを作って生活しているのですが、出会い頭にとりあえずカタナを振り回してくるヨウヨーム相手では、自慢の知能を活かすことも出来ず、簡単に狩られてしまうのです。
鳴き声らしい鳴き声もなく、天敵らしい天敵も居ないので、ヨウヨーム相手では、ミョウレンヤマビコ自慢の擬声もあまり効果がありません。
キョーコは無事、ヨウヨームから逃げ切ることが出来るでしょうか? それとも、見つかって食べられてしまうでしょうか?
答えはそのどちらでもありません。
キョーコは突然、ヨウヨームの前に飛び出しました。ヨウヨームは驚いた様子もなく斬り掛かってきます(知能が弱いのです)。
我々はうっかりカメラを背けてしまうところでした。ミョウレンヤマビコの生態をよく知る学者が言いました。「見ろ、カメラとガンマイクを向けるんだ!」と。
それはあっという間の出来事でした。
「キリステゴメン!」
「ギャーテーギャーテーハラギャーテー」
「グワーッ!」
「ハラソーギャーテーボージーソワカー」
「グワーッ!」
「ハンニャッシンキョー」
「ムネン!」
キョーコに襲い掛かったヨウヨームは、キョーコが何かモージョめいた鳴き声を発すると同時に苦しみ出して、断末魔を残してその場に倒れ込んだのです。
ミョウレン島に降り立ったヨウヨームが爆発的に個体数を増やさない理由。それは天敵であるミョウレンヤマビコの存在なのです。
ミョウレンヤマビコは擬声の他に、もう一つ特徴的な鳴き声を出します。
それが先程のアレです。動物学会では『ギャーテー』と呼ばれています。
ギャーテーとは殺生の中に生きる肉食動物が本能的に嫌がる周波数の音と言われ、これを聞いた肉食動物はすぐにその場から離れると言います。
中でもヨウヨームはこの音に弱く、ほとんどの個体は音を聞いただけで心拍数が低下し、そのまま死に至るのです。
このヨウヨームも、キョーコが発したギャーテーを聞いて地に伏したのでした。
キョーコがその場を離れていきます。ミョウレン島に降り立ったヨウヨームは、こうしてミョウレンヤマビコからギャーテーを受けて死ぬか、ナムサーンに踏まれるか、ショウクンを狩る際に深手を負ってそのまま死ぬかで生涯を終えます。
そして死んだヨウヨームは、ミョウレン島で唯一死肉を食らう、ホントバカダナに骨まで食べられてしまうのです。
とても厳しい世界ですが、これが動物たちが生きる世界。弱肉強食が織り成す食物連鎖なのです。
キョーコが巣穴に戻る頃には、既に太陽は沈みかけていました。夕焼けで世界もまだ明るい中、キョーコは巣穴前の掃除を始めました。
そして太陽が沈む前に、キョーコ、またほぼ全てのミョウレンヤマビコは眠りに就きます。
こうして翌朝の夜明けを、巣穴の中で眠って待つのです。
以上、ミョウレンヤマビコのよくある日常でした。
如何だったでしょうか。我々ディスカヴァー・チャンネルの取材班は、これからも、このアヤパゴス諸島に生きる物達の様子をお送りします。
そこで我々待つのは、可愛らしい動物の姿か――それとも、凄惨な狩りの様子か。
脚本、創作は一つもありません。あるがままの動物達の姿。それが、どんなフィクションも超える、素晴らしいドキュメンタリー・ムービーなのです。
( ゚д゚ ) ガタッ
個人的にはアヤパゴス諸島とネオ・サイタマの地理的関連に興味があります
すげえw
あと、結局のところナムサーンが大繁殖するんじゃなかろうか
ところでこの生物飼えますか?あ、輸入禁止種ですかすいません
しかしこれといってみょんちくりんなオチがあるわけでもない。
この短編は「起転承転」な気がするので、シュールな中に順応してしまった私たちに、あと一歩の意外性を齎してくれればいいと思いました。
ただ、内容は非常に良かったです。
大型草食動物(と思われる)が生き残れるのだろうかとか
いろいろ想像しちゃいましたw、
モフモフがいっぱいで幸せです。
実に楽しかったので、続き期待してます
いかにもらしくて面白かったです!
この発想力。分けて欲しいくらいです。
内容が実にそれっぽくて良いですね。