Coolier - 新生・東方創想話

八雲 橙

2009/11/26 07:31:27
最終更新
サイズ
6.88KB
ページ数
1
閲覧数
1991
評価数
13/52
POINT
2850
Rate
10.85

分類タグ


 式の式が発した言葉に、私は一瞬考え込んだ。

 「紫様は、やっぱり紫色なんですか?」

 抽象的な問いである。
 妖怪”八雲紫”は何色なのか。
 普通に考えれば人間の形をしているのだから肌色、もしくは髪や服の色になるのだろうが、
そう言う意味ではあるまい。
 となると、随分と哲学的な問いである。
 そもそも紫色とはどんな色か。古来より最も高貴な色とされ、虹の色で言えば最上位に位置
する色。そして、錬金術においては水銀の隠語としても用いられ、その水銀は太陽に最も近い
水星を現す。太陽と言えば太陽系最強。それに一番近いのだ。最強に最も近いのは私である。
 とすれば、”八雲紫”は紫色である、といっても間違ってはいない。

 「ええ、私は紫色よ」

 橙はその答えに満足そうに微笑んで、手にした本を読み始めた。
 哲学的な問答を楽しむようになっているなんて、橙もいつの間にか成長したものだ。
 そんなことを考えながら、コタツの暖かさに抗えず目を閉じた。
 
 五感が四感に減ったことで自然と嗅覚が冴えると、台所から醤油の香りが漂っていることに
気づいた。藍が料理の仕上げに取りかかったのだろうか。藍にすすめられた健康法を実施して
からというもの、食欲旺盛になってしまった私は、料理が待ち遠しくて仕方なかった。
 
 「紫かぁ、強そうだなぁ…」
 
 強そう?

 もしかすると、今の呟きから察するに、先程の問いは色と妖怪の関係性についての考察では
なかったのかもしれない。
 となると何の話だったんだろうか。
 橙を見ると、クリクリとした目で必死に本の内容を追っているようだ。その邪魔をするのも
忍びないし、直接聞いてしまうのは芸がない。
 ちょうど良い暇つぶしになりそうなので、料理が出来上がるまで、戯れに推理してみる。
 まず、強そうということは、強弱を何らかの方法ではっきりさせるということである。つま
り、戦う、もしくは競い合うものの色。紫色だと強そうな戦うもの。

 …お手上げである。

 戦うもの、競い合うものなんてそれこそ無数にある。そして紫色だと強い理由が解らない。
 もっと手がかりを集める必要がある、そう感じた私は、先程の考えをあっさり覆し、橙には
悪いが読書の邪魔をさせてもらうことにした。

 「ねぇ、橙。いくつか質問するわ」
 「はい!何でしょう!」

 声をかけられると思っていなかったのか、橙は耳をピンと立てた。
 
 「紫色は強そうなのね」
 「はい、紫色はすごく強そうです!多分一番強いです!」

 紫色はただ強そうなだけでなく、一番強い可能性が大きいらしい。

 「じゃあ弱いのは何色なのかしら?」
 「白です。コンボが強いんですけど、単品では一番弱いです」

 紫色最強説があり、白はそれだけでは最弱だがコンボが強い。
 やはり服だろうか。
 確かに皇帝色である紫色は最強と言えなくもないし、私は紫色の服を着ている。そして、白
はコーディネイトパターンが多い、つまりコンボが強い色だが、白だけ着ているのは弱い、言
い換えれば、白だけ着ていてはお洒落ではない。

 少し悩んだが、ここは服でいくことにした。

 「最後の質問をするわ」

 さて、答え合わせである。 

 「橙は、赤よね?」

 式の式が着ている服は健康的な赤色なのだ。間違いは無い。

 「違いますよぅ、私は白に狐です」

 微妙に顔を赤らめながら答える橙。

 おやおや?
 どうやら服の色では無かったらしい。
 というか、狐は色じゃない。狐色は色であるが。
  
 なんだか嫌な予感がしてきた。

 「最後というのは取り消すわ。狐は、狐色のこと?」
 「いいえ、動物の狐です」
 「橙は白に狐なのね?」
 「はい、藍様の言い付けです」

 思えば、私はその組み合わせを庭で見たことがある。三角形の布地だった筈だ。まぁ、所謂
パンツ、ショーツ、その辺である。
 もし橙の言っているものと、私の想像しているものが同じであるなら、どのように戦いをする
のかが酷く気になるものである。

 「その戦いはどうやるのかしら?」
 「いっせーの、せ!でバッと見せ合います」

 こんな風に。といいながら、橙は実演してみせてくれた。
 なるほど、紫色は最強に近いだろう。透けていたり穴が開いていたりすれば確実に最強だ。
 そして橙のおかげでコンボの意味も解った。素直で活発な少女に白というのは、コンボ点が
高いに違いない。少なくとも、いま目にした感じだと、低いというのはアリエナイ。
 
 「最後に、審判が強かった方に勝ち名乗りさせます。もしも審判がいない場合は自己申告で
負けを認めます」
 「それだけなの?」
 「はい。簡単でしょう?」

 確かに簡単だが、審判の判定基準を明確にしなければ勝負にならないと思う。あと、審判は
鼻に詰物をしておく必要がありそうだ。
  
 「あの、紫様?」
 「なにかしら?」

 橙がおそるおそる、といった感じで切り出し始めた。

 「お願いがあるんですが」
 「お願い?」
 
 お願い、か。
 随分と良い物を見せてもらったし、ここは奮発してあげても良いだろう。

 「言ってご覧なさい。なんでも叶えてあげるわ」
 「本当ですか!?」
 「ええ、藍には秘密よ?」
 「はい!」

 なんとも嬉しそうな橙。解りやすい猫である。
 
 「それで、お願いは何かしら?」
 
 橙は、軽く息を吸い込んで、いつもより少し大きな声で願い事を口にした。

 「私と、これで勝負してください!」

 そのキラキラとした瞳は、スター選手にサインをねだる少年のようだった。
 けれども。
 
 「勝負で良いのかしら?紫色は最強なのでしょう?結果の見えている勝負より、別のお願い
の方が良くはないかしら?」

 勝負しなくても結果が見えているのである。私がこの形式で勝負するのが初めてということ
を差し引いた上で、更に白の持つという強力なコンボが発動したとしても、橙の白に狐では、
最強の紫色に勝てないだろう。その上、私の紫色にもコンボが発動する可能性はあるのだ。

 「負けるのは解ってるんです。でも最強の紫様と戦った、その事実が欲しいんです」
 
 イチローと野球をした。タイガーウッズとゴルフをした。
 なるほど、その黄金の価値に勝敗は一切関係ない。

 「わかりましたわ。でも私はスポーツ選手のようにサービスプレーはしません」

 その言葉に橙はビクリと体を震わせた。
 
 「そのかわり…万が一でも私に勝てたら八雲の姓をあげます。がんばりなさい」
 「…がんばります!!」
  
 これ以上の言葉はいらないだろう。
 私はコタツから出て橙と向き合う。
 橙は既に軽い前傾姿勢で短めのスカートの裾に手をかけている。恐らくは、そのしなやかな
背筋を利用して一気にスカートをめくり上げるのだろう。
 対する私といえば、床に引きずるほどにスカート部分の裾が長いこともあり、橙の方法だと
どうしてもめくり上げる美しさで負けてしまう。ここはモンロー効果を利用することにした。
つまり、工業用扇風機をスキマからとりだして寝かせ、それにスカートを被せたのだ。あとは
スイッチ一つで芸術的なスカートめくりが完成するだろう。

 ちらりと目をやれば、準備を終えた橙は、赤らんだ、恥じらうような表情をしている。
 しかし、私は騙されない。なぜならば、その瞳はギラギラとしていて、バラエティー番組
でライバルと競演するアイドルを彷彿とさせるからだ。
 媚と敵意が同居するその表情は恐ろしく艶美であり、少女のもつ色気を嵐のごとく周囲に
叩き付けて来る。
 私はこの競技を甘く見ていたかもしれない。これは遊びじゃない。これは決闘のひとつ。
 僅かな生地と己の肢体だけでどれだけ美しさを表現できるかの決闘なのだ。
 僅かな時間と己の能力だけで美しさを表現する弾幕決闘と何ら遜色のない決闘なのだ。

 「紫様…準備は良いですか」

 凶兆の黒猫。その縦に裂けた瞳。それは式の式が初めて見せた捕食者の瞳。
 全力で相手してやる。その意味を込め、私は微笑みを胡散臭いニヤつきへと変えた。

 「いつでもどうぞ」

 一瞬の無音。刻がその刻みを狂わせたかのような短くて長い、間。

 「いっせーの、せ!!!」










  
















 そういえば、穿いてないの忘れてた。













     







  
冬のマヨヒガ。
どこかにあってどこにも無い、そんな屋敷の中で八雲の名字をもつ三匹の
妖怪がコタツを囲んでいた。橙も、もう立派に八雲を名乗っているのだ。

「紫様。洗濯かごに、これが入っていましたが」

橙は三角の布をビロンと広げる。

「ええ、私のショーツよ。レースが可愛いでしょう」
「上品な紫色です」
「橙はこんな悪趣味な色、穿いてはいけないぞ」
「藍、どういう意味よ」
「そのまんまですよ。それより、せっかくオススメだったのにやめたんですね」
「何を、かしら?」
「ノーパン健康法です」
「だって、穿いてないのは反則負けですもの」
「反則負け?」
「なんでもないわ。それより、こう寒いと毛糸のパンツが欲しいわね」
「今度買って来ますよ」
「藍様、わたしも毛糸のパンツ欲しいです」
「橙は綿の白と狐以外だめだ」

相変わらず式に厳しい藍に、紫は苦笑し、橙は頬を膨らませた。
そしてこっそりとウィンクを交わす。

「いいわ、橙には私が買ってあげます。紫色のショーツを」
「やったぁ!じゃあ紫様に買ってもらいます。紫色のショーツを」
「紫様!?橙を甘やかさないで下さい!しかも色が悪趣味です!」

慌てる藍。
悪ノリする紫と橙。

「八雲といえば穿かないか紫色です。今決めました」
「だそうですよ藍様。どっちがいいですか?」
「ぐぬぬぬ、どちらかといえば…」

その日以来、八雲家では三角形の布が干されなくなったそうである。

-----------------------------------------------------------------------

初めまして。不履行(はかずにいく)です。
何かに突き動かされて4時間ほどで書いたため、とんでもないことになりました。
多分セーフだと思うんですが、もしアウトならごめんなさい。

※見直し追記 紫様をコタツに入れたかったので、冬眠は止めてもらっております

それでは批判・中傷などなどお待ちしております。
不履行
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1770簡易評価
7.90ぺ・四潤削除
よくある流れ的に履いていないのは最初橙だと思って、あとがきで理解した。
紫様の履いてないはレッドカード即退場な気がする。
橙、悪いことは言わない。紫だけはやめておくんだ。

……あ、いや、しかし……天真爛漫な橙のその中が紫のレースで穴あき……(想像中)
……もしかしたらこの相反する取り合わせは最強のコンボになるのかもしれない。
ああ、穴は尻尾を出す穴ですよ。そう。尻尾の穴です。尻尾ですよ。はい。
11.80名前が無い程度の能力削除
どちらかといえば・・・、でそっちを選ぶわけね(笑
ただ、寒さはどうしたのやら
紫色の毛糸のパンツ?

しかし、そうか・・・
穿いていないのは反則負けか・・・むしろ勝ち・・・いやいや、穿いてた方が・・・いやいや・・・

>履く (靴などの履物を)
 穿く (衣服を下半身に)
14.無評価不履行削除
お昼食べながら確認したら、点数を入れてくれた方がいてビックリしました。
覗いたらコメントをくれた方もいて二度ビックリです。
今まで読み専でしたし、文章を人に読んでもらうのも初めてなので、涙が出そうなくらい嬉しいです。
…本当にぽろぽろ涙が出たのは秘密です。
未熟で穴だらけの作品ですが、お読み頂きありがとうございました。

>>ぺ・四潤 様
 私が”紫様のすることならすべて許せる”という人間のため、紫様の行動に限界がなくなってしまいました。
 初読の際に橙が穿いてないと感じられたのなら、それは私の未熟です。
 もし次も読んで頂けるのなら、次回作では一発で理解して頂けるようがんばります。

>>11様
 誤字指摘ありがとうございます。今まで完全に”履く”だけで通しておりました。恥ずかしい限りです。
 藍様はやっぱり穿かないだろうと思いまして、この流れになりました。
 寒さですが、藍様の主導ですから、むしろ脱ぐことで克服したのだと思います。乾布摩擦とか。乾布摩擦とか。

 
 
20.80名前が無い程度の能力削除
下は好きでも嫌いでもなく、
なんだ下かと思いながら読み始め、
結構文章力あるじゃんと思い、
モンロー効果で吹いた。
25.80名前が無い程度の能力削除
穿いていなくても藍様の服は暖かそうですが、局所的な乾布摩擦ということですか!!
なるほど。よく体が暖まりそうです。
28.90デン削除
白の狐、なんだろうと真剣に推理してしまいました。
オチは良くあるパターンとも言えますが、その前の勝負に差し掛かる心象表現が非常に面白かったです。
とりあえず審判は立候補制にするべき。
30.無評価不履行削除
更にコメントが増えていて、感激です!
もう泣かないって決めたのに、やっぱり泣いてしまいました。
お読み頂き、ありがとうございました!

>>20様
 ちなみにモンロー主義というのもございまして…

>>25様
 そうです。しかも三人で仲良く乾布摩擦。三人で”仲良く”乾布摩擦。
 
>>デン様
 いつも作品を楽しく読ませて頂いております。
 大好きな作者様に拙作を読んで頂いて嬉しく思います!
 尚、審判は男女問わずに賢者時間中である必要がございますので…
 
 
31.100名前が無い程度の能力削除
俺が審判だ!
やはりはかない健康法だったか…
人の夢と書いてはかない
32.70名前が無い程度の能力削除
公式戦はいつどこで見られますか?
34.80名前が無い程度の能力削除
 単品の白も、なかなか強いと思うが狐とのコンボも捨てがたい。

 ところで、不要になった白の狐は何処で手に入れることができるのでしょうか。
36.80名前が無い程度の能力削除
最後の最後までパンツ勝負で無い可能性を捨て切れずに読んでしまったけれど
よくよく考えると「実演」の時点で勝負の内容はパンツ魅せで確定だもんな。
これからはこの決闘方法をちぇんができなくなってしまうのは寂しいかも。
つ 橙の話ているものと  八雲の性をあげます
37.無評価不履行削除
皆様、コメントありがとうございます!
また、最後までお読みいただいたこと、大変嬉しく思います!

>>31様
 あの一文で気付いて「ニヤリ」として頂ければ、私としては本望です!

>>32様
 まずは幻想郷に行く必要があるかもしれません。

>>34様
 宝の守護者(現役時代の藍様)を倒すと1%の確率でドロップするかもしれません。

>>36様
 誤字脱字の指摘ありがとうございます。
 橙は後に”不穿式”というルールを導入したとかしなかったとか…
38.80名前が無い程度の能力削除
中傷を待ってるのか…ドMだな。
まぁそれはさておいて話は面白かった。藍は紫のことを尊敬してるのか本当にw
39.90名前が無い程度の能力削除
審判はどうしたらなれますか?
40.無評価不履行削除
あれ、2000点超えてる…?
だ、大感激です!
1点でも入れてくれた皆様、本当にありがとうございます!
また、点を入れるに値しないと感じた皆様、精進していきますので、今後もし私の作品を見かけましたら
読んでやってくださいませ!
それでは、読んで頂きありがとうございました。

>>38様
 鞭や蠟燭は嫌いですけど…言葉責めは大好きですw
 藍様と紫様は、仲の良い熟年夫婦のような感じで、相手を小馬鹿にし合うけれど
 その実は相手を尊敬し、敬愛している。そんな間柄が理想なのです。

>>39様
 勝負している現場で立候補すれば、なれるやも知れませぬが、その前に幻想入りしないと…
46.90名前が無い程度の能力削除
読みながら、確かに紫は最強だなと説得させられました。
紫パンティ+ガーター+フリル付きニーソックスは凶悪ですね。

個人的に橙は、あとがきでも言われてますが毛糸のパンツがすごく似合うと思います。
藍さまとゆゆ様は、のーぱんですよね?w
50.70名前が無い程度の能力削除
薄紫のストライプにすればみんな幸せになれる気がするのです。