Coolier - 新生・東方創想話

ヒュペリオンに花束を

2009/08/15 04:42:12
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「これは!?……一体!」

それは、私が死体集めの仕事を終えて、親友のおくうのいる灼熱地獄に顔を出した時だった。

その時の灼熱地獄は、それまでの私の記憶がまるで当てはまらない、途轍もない高温世界に様変わりしていた。
見渡す限りの空間が赤く輝き、熱気が嵐となって唸りをあげている。
高熱に視界が歪み、自分が何をしに来たのかうっかり忘れそうになった。
眼下にあるマントルの河は、堤防が決壊した運河のように巨大化している。
かつて大量の罪人を焼いていた地獄の業火が、記憶の奥底から復活してそこに吹き荒れていた。

私は堪らない不安に駆られて祈るように叫ぶ。

「おくう!!どこにいるの!おくう~!」

灼熱地獄の温度管理は、おくうの仕事だ。
おくうはちょっと不器用だけど、真面目に一生懸命に仕事をこなし、致命的なミスをした事はこれまでに一度も無かった。
何より地獄をここまで高温にするほどの材料、すなわち罪人の死体を用意した覚えがない。

「おくう~!返事をして!おくう~!」

記憶の景色とまるで合わない灼熱地獄を飛び回り、記憶の中では元気に地底を飛び回っていたおくうの姿を探す。
異変の原因が何であれ、この事におくうが関わっていないハズがない。
私は胸の中に芽生え始めた良くない予感を必死に抑えつけておくうを探した。

「ハッ!」

ふと、目の中に見慣れた色合いが入ってきた。

「おくう!?」

すぐさまその方へ飛んでゆくと、少しだけ温度が低く、岩が個体として露出している部分に、その少女は倒れていた。

黒く艶やかな長い髪に大きな緑色のリボン。小さなフリルのついた白いブラウスに、リボンとおそろいの草原の色をしたスカート。
見間違う事はない、物心ついた時からずっと一緒に育ってきた親友のおくうが、人間の姿の時に身に纏ってる衣装だ。

「おくう!大丈夫!?しっかりして!……おくう?」

倒れていた少女を抱き起こし、意識が無いようなので必死に肩を揺らしながら呼びかける。
けど、何かおかしい。
そこに倒れていた少女は間違いなく、おくうだ。
だけど、私の知っているおくうじゃない!

一言で言うと『成長していた』

私の知っているおくうは、人間の姿をしている時の見た目の年齢はだいたい12~3歳、私より少し背が低くて、ちょっと幼さを感じさせる少女だ。
さらに言えば頭の中は5、6歳くらいかと思うほど行動が無邪気でやんちゃなものだから、見た目以上に幼い印象を持たずにはいられない少女だった。

しかし目の前のおくうは私より少し背が高く、胸もハッキリと女性を感じさせるほど豊かだ。
人間の歳にすれば16~7歳くらいだろうか、成熟した大人の色気も漂う、眩しいくらいに美しい女性の姿をしていた。

私もおくうも「変化(へんげ)」と言われる類の妖怪だ。
おくうは元々地獄で暮らしていたカラスだし、私は猫だ。
それが地獄に落とされた罪人の死肉をついばみ、死体に残った霊力を吸収していく内に、ゆっくりと知恵や知識、人に化ける能力などを身に付けていったのだ。

人の姿になると霊力の差は如実に出るから、おくうはよほど大きな霊力を吸収した、ということだろうか。
だけど死体に残留している霊力など僅かな物だ。
今のこの姿になるまでにどれほどの年月をかけ、どれだけの数の死体から霊力を吸収してきたか、それを考えると目の前のおくうの変貌ぶりは異常だ。
どれだけ霊力を吸収すればここまで急激に成長できるのか……。

「うにゅ……」

薄桃色の唇が微かに動く、どうやら眠っているだけのようだ。

「おくう?……ねぇ、大丈夫?何があったの?」

命に別状はないみたいだし、少しだけ安心して小さくおくうの肩を揺すった。

「ふわ~~むにゃむにゃ……ん、あれ?お燐?……おはよう」

私の心配は全くの無意味だったのか、大きなあくびをひとつして、涙を浮かべた目をこすりながら、寝ぼけた声でおくうは挨拶してきた。

「おはようじゃないでしょ!一体何があったのよ!まるで死んみたいに倒れてたし!灼熱地獄はすっごく熱くなってるし!……それより何より!どうしていきなりそんなに成長してるのよ!ちょっと前まで私より胸も身長も小さかったのに~!」

とりあえずおくうが無事な事に安心したせいか、つい思った事をがぁーっとしゃべってしまった。

「う……え~と、うにゅ……」

言葉に詰まっているおくう。
そうだった、おくうに2つ以上の質問をいっぺんにしても答えは返ってこないんだった。
身体は成長しているけど、反応が紛れもなくいつものおくうだったのでこちらの気持ちは少し落ち着いた。

「はぁ~、しょうがないな、じゃあ1つずつ質問するよ?……う~んと、なんで灼熱地獄がこんなに熱くなってるの?」
「……ん~」

ちょっと間を置いて、私の質問がようやくおくうの脳ミソに到達する。
おくうはニコッと微笑んで嬉しそうに答えた。

「私がやったんだよ!」

いとも簡単にとんでもない事を言ってくれるっ!

「でも、どうやって?!ここまで熱くするだけの死体の用意はなかったでしょ?」
「う~ん……できるようになったの!」

少し考えた後、またも嬉しそうに答えるおくう。

「いや、できるようになったって……」
「ん、とね~、こう!」

私の質問を遮っておくうは左手を振り上げる、すると。

カッ!!

突然おくうの掲げた左手の先に、光と熱を凝縮したエネルギーの塊のような球体が現れた!

「わっ!?ちょっ!!」

その球体は眩しすぎてとても直視できない!
煮えたぎるマントルで赤く輝いていた地底は、さらに真っ白に輝きだした!

「それ!」

おくうの掛け声で、その球体から数本の熱線が眼前のマントルに照射される。
するとゴゴゴゴゴという地響きと共にマントルは更に輝きを増し、吹きこぼれる寸前の鍋のように激しく沸騰していく!

「あ、あ、あ……」

驚きのあまり声も出ない、とにかく物凄いエネルギーだ!
私は事態を理解しようと頭を回転させるだけで精一杯だった。
強い力を持った妖怪は他にもいるけれど、これはケタ違いだ!
これ程の力を持った妖怪を私は知らないし、しかもそれが勝手知ったる親友のおくうだと言われても、何かの冗談としか思えない。

おくうの方を向けば、誇らしげな笑顔でこちらを見ている。

「ねっ?」
「ねっ?……じゃないでしょう!何なのよコレ~!こんな凄い力、何で?どうして?ドコでダレがドーしてドーなったらこうなるのよ~~!」

思わずおくうの肩を掴んで烈火のごとく問い詰めてしまった。
パニクったとも言う。

「えーと、かみさまにもらった」
「かみ……さま?」
「そう!」
「かみさまって……誰よ?何でおくうに力をくれるの?」
「ん?……ん~……忘れちゃった!」
「はぁ!?」

少しだけ考えた後、おくうはあっけらかんと言った。
もう何から何までさっぱり分からない!おくうは相変わらず笑顔だ。

「忘れちゃったって何よ!?こんな凄い力をくれた人を忘れる?フツー?」
「ん~……やっぱり忘れちゃった!」

さっきより考える時間が短い、本当に考えているのか!?

「じゃあ、おくうが急に成長したのも、その……かみさまってのに力をもらったからっていうの?」
「うん!そうみたい!」

とびっきりの笑顔で答えるおくう。まるで他人事じゃないか。

「そう……みたいって、急に成長するのって、平気なの?違和感とかないの?」
「う~ん、胸が少し重たくなった、かな?でも力もすごくつよくなったから平気だよ!」

言いながらその豊かになった胸を両手で持ち上げて重さを確かめている。

「ちょっ!!む、胸だけの問題じゃないでしょ~!」

目のやり場に困って思わず叫んだ。
まさか私がおくうの胸でドギマギさせられるなんて思いもよらなかった。


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おくうが妙な力を手に入れてから数日、私たちはやたらとヒマになってしまった。
何しろ灼熱地獄は既に高温で、燃料となる死体を用意する必要が無い。
高温になりすぎた熱を逃がすため、地獄の蓋を開けたくらいだ。
地上では新しく温泉が湧いたりしているかもしれない。

「そのうち新しい仕事を与えます、それまではゆっくりしていていいわよ」

といって、さとり様は私たちに期限のない休暇を言い渡した。
その笑顔に私は、そこはかとない不安を感じずにはいられなかった。
だってそうじゃない?あからさまに睨みを利かせて「オメーの席ねーから!」と言われるのと、後ろからぽんっと肩をたたかれ「しばらく、出社しなくていいから、どこかで羽を伸ばしておいで」と笑顔で言われるのはどちらが怖いか……。

私は無意識に、吸収した死体の記憶の一部を想起させていたのだろう、そういう無念の内に死んだ人間もいるんだな、うん。
そんな私を見てさとり様は少し困った顔で「大丈夫よ、そんなに心配しないで」と笑いかける。
どうやら心を読まれてしまったようだ。

さとり様は、地底と地獄を隔てている「地霊殿」の主で、旧地獄の管理をしている、私やおくうのご主人様だ。

地獄の管理、というと、普通の人間が聞いたら裸足で逃げ出すコワーイ仕事だと思うだろう。
けど今の地獄は、死人に罰を与える為の、かつての機能は果たしておらず、多数の動物が気ままに暮らす動物たちの楽園になっている。

さとり様は「第3の眼」を使って相手の心を読む、という能力を持つ妖怪で、
物を言えぬ動物たちの意思をくみ取って、快適に暮らせるよう管理してくれている。
私やおくうも、人に化ける能力を持つ前から物凄くお世話になっていた。
そう、きっと人間で言うところの、母親みたいな存在、なんだと思う。

そのさとり様の第3の眼を以てしても、おくうの身に起きた突然の異変の真相はつかめなかった。

おくうは、信じ難い事に何もかも「忘れた」と言っている。
「かみさま」ってヤツに何でか知らないけど力をもらって、そのかみさまがドコのダレで、どうして力をくれたのか、ドコへ行ったのかなどはまるで覚えていないという。
そうこうしている内に身体中に力がみなぎってきて、その力を調子に乗って使っていたら、いつの間にか灼熱地獄は現役さながらの超高温になり、はしゃぎ疲れてちょっと一休みと、横になったところに私が駆け付けたらしい。

さとり様が言うにはおくうは嘘はついていないし、おくうが出会ったというかみさまについても記憶がすっぱり抜け落ちているという。

「まぁ今のところ問題は出てないし、いいんじゃない?」

さとり様は割とのーてんきに言った。

「それとも、お燐はお子様体型のおくうの方が好きだった?」

ななな何を言ってるんですか!!
突然変な事を言われて思わずとり乱してしまう私……。
それを楽しそうに見ているさとり様。

むぅ~!どうしてさとり様が他の妖怪から嫌われているのか、ちょっと解るような気がしてきましたよっ!


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「うわ~!すご~い!ひろ~~~い!」

山の洞窟から地上に出たおくうは、キラキラと目を輝かせて言った。宵の明星がキラリと光る、日が暮れて間もない時間だった。

さとり様から無期限の休暇をもらった私たちは、小旅行として地上に出てみる事にした。
おくうの希望だったのだけれど、考えてみたらおくうはまだ地上に出た事が無かったのだと、その時初めて気がついた。
私は死体集めの為に地上に出ることはよくあったし、人間に化けて人間と話す事もよくしていた。
私が地上で色んな事を見聞きしているのを、おくうはずっと羨ましく思っていたらしい。

「すご~い!天井が高~い!」

おくうは初めての地上に興奮し、地底では到底出せないスピードで、縦横無尽に空を飛び回っている。

「ああっ!ねぇねぇ!!あれなぁに?」

おくうが指差したのは山陰から姿を現し始めた月だった。
大人の姿をしているのに、子供のようにはしゃぐおくうを見てると、どうにも心の中が暖かくなっていくのを感じる。

「あれはお月様だよ」
「おつきさま?」

どうやら今日は十五夜のようだ、真円を描く青白の満月が、眩しいくらいに輝きだしていた。

「地上にはね、天井は無いんだよ、どこまで行ってもずっとソラが続くんだ。お月様は、ソラのず~っとず~っと向こうにあるお星さまだよ」
「ソラ?……おほしさま?」
「うん、何も無い事をカラって言うでしょ?上を見上げて、何も無いところをソラって言うんだ」

おくうが理解できるかは分からないが、嘘は教えたくはないので私は慎重に言葉を選んで説明した。

「……カラが……ソラ?」
「そう、おくうの空(うつほ)っていう字は、あのソラの事なんだよ」
「え!?わたし?」
「うん!」

……以前、さとり様に聞いた事があった。おくうの、空(うつほ)っていう名前の意味。

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「そうね……あの子の心は、とっても青かったのよ」
「青い?」
「ええ、どこまでも純粋で澄みきった青空のように……眩しいくらい、青かったの」

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心が青い……っていうのは、単純にさとり様の能力でおくうを見るとそう映るのだろうか、それとも印象を比喩してそう言ったのだろうか。
そこまでは私には分からなかった。けど、おくうには青空のイメージがとても似合っていると思えたし、素敵な名前だなって思ってた。

「私……ソラなんだ……」

解ったのか解ってないのか、何かしら思うところはあるみたいだ。
胸に手をあてながら、闇が深まるにつれ輝きを増す月を、じっと見つめている……。

瞳の中に星を宿し、白い肌に月明りを集めて輝くその少女は、そのまま夜空の星座の中に溶け込んでしまいそうで……幻想的に美しいと思った。

おくうに見とれていた事に気付いた私は、自分でも何だか分かんないくらいに、急に恥ずかしくなった。

「あ、で、でもおくうは青空のイメージで名づけたらしいよ、さとり様は!」
「アオゾラ?」
「そう、夜が明けると太陽が出て、お月様なんか比べ物にならない位、地上を明るく照らすの!その時晴れてれば、ソラは一面真っ青になって、それが青空!」
「へえぇぇぇ~!」

私の照れ隠しの為の青空の説明は、おくうの好奇心を見事に直撃したようだ。
みるみる内に目を輝かせて興奮してゆくおくう、その笑顔はまさに太陽みたいだ。

「見たい!私、アオゾラ見たい!」

子供みたいにはしゃぐおくう。身体は大人になったけど、こういうところはやっぱりおくうのままなんだな、とちょっと安心してしまう。

「焦らなくても夜が明ければ見れるよ、それまでどこかで……」

その時だった。
ドーン、と、遠くの方で雷のような音がした。

「あれ?」

良く見ると遠くの空が七色に光っている、あの辺りは確か人間の里……。

「花火だね」
「ハナビ?」
「人間たちがお祭りの時なんかに使う、見て楽しむ火の花だよ……そうか、もしかしたらお盆のお祭りをやってるのかもしれないね」
「お祭り!?」

私がにやりと笑って顔を伺うと、案の定、おくうの目がまた太陽のように輝やきだした。

「行きたい!!」
「行きたい!!……でしょ?」

おくうの気持ちを先読みして、私は言葉をハモらせた。


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人間の里にはすぐ着いた、夜空には赤、黄色、青、紫、緑、色とりどりの火の花が咲き乱れている。
目の前に広がる光の花園に心を奪われて「綺麗だね~」と横にいるはずのおくうに話しかけ……ようとして私は青ざめた!

おくうがいない!まさか!ってそのまさかだ!

おくうは花火を知らない!
遠くから眺めて楽しむものだという事を知らない!
人間の里に妖怪が現われるとどういう事になるのかも知らない!

私は慌てて花火が輝く光の中心に目をやった!

「お~い!おり~ん!早くおいでよ~!」

なんという事か!おくうはそれはそれは楽しそうに、笑顔で私に手を振っている!

「あの馬鹿!」

私は無我夢中になっておくうの元にダッシュし、おくうをくわえて人目につかなそうな茂みの中に飛び込んだ!

「うわぁ~~~!」

自分でも気付かなかったけど、私は咄嗟に猫の姿になっていたようだ。

「あいててて……どうしたのお燐?何怒ってるの?」

にゃあ!にゃあ!にゃにゃにゃにゃ~!!

あぁ、取り乱して猫語で叱咤してしまった。
私はちょっと頭を冷やして人間の姿に戻る。

「どうしたのじゃないわよ!あのねぇ、人間たちの前で私たちが妖怪である事はバレちゃいけないの!人間の里に妖怪が現われたとなると、もうすんごくめんどくさい問題になるのよ!」
「そう……なの?……ごめんなさい……」

自分がやった事がどれほどの問題か理解したかは分からないが、私を怒らせてしまった事には申し訳なさを感じたようだ。
まったく、そういう部分は素直で……かわいいんだから……これじゃこれ以上は怒れないじゃない。

しゅんとなっているおくうの頭を撫でながら、私はそっと言った。

「それと、花火は近くに行っちゃ危ないのよ、弾幕と同じなんだから」

頭を撫でられてちょっと機嫌が良くなったようで「うん、わかった」と笑顔で返事がかえってきた。
まったく、こういうところも素直で……かわいいな……。




気を取り直して、私たちはそこでしばらく花火を鑑賞した。

ヒュ~

夏の夜空に一斉に咲き誇った儚い火の花。

ドン!

咲いては消え、消えては光る、光の花の大庭園に、私たちは心奪われた。

パラパラパラ

夜の山にこだまする花火の音は、まるで軽快なお囃子のように胸に響いてくる。

どんなに強い妖怪が、弾幕で綺麗な花を咲かせても、
この時おくうと二人で眺めた花火の美しさに、敵うものはないだろう。

ふと、隣りに視線を移すと、花火の光で七色に照らされるおくうは、とても楽しそうで、幸せそうに笑っていた。

そんなおくうを見ている私は、きっと誰より幸せそうに見えたかも知れない、そう、思えた。



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祭りを遠くから眺めるのに飽きた私たちは、人間のふりをして祭りに紛れ込む事にした!

私は頭とお尻にぐぐぐっと力を込めて、耳としっぽを隠した。
人間の姿には気軽になれるようになったのに、耳としっぽだけは相当な力を込めないと出てきちゃうのは不思議なもんだ。

おくうの方も翼を隠した……といっても、ひょいっと、簡単にやってた……。
何かこう、おくうは才能のバランスみたいなものがオカシイと思う。

せっかくの夏祭りなので服も浴衣にしよう!という事で、まずは私が変身。
サッと身を翻してどろろんぱっ!いつもの洋服のイメージに近いけど、黒に近い深緑の浴衣に早変わり!どんなもんだいっ!

「わー!お燐かわいいー!」

おくうに褒められるとちょっと照れくさくなってしまうな、てへへ。

「さぁ次はおくうの番だよ!」
「う~ん……うまくいくかな~」

といっておくうがくるりと一回転すると、星の光が一斉に集まったようにおくうを取り囲んだ。
キラキラした光の中から現れたのは、リボンとお揃いの萌える若草色をした浴衣に、ほおずきのような紅い帯を締めたおくうだった。

「どう……かな?」

どうやら自分の姿に自信が持てないらしく、恥ずかしそうに聞いてくるおくう。

「いい、と、思うよ。すごく……綺麗」

私は簡単に感想を述べた。

が!この時脳内に燃え広がったおくうの浴衣姿に対する感動は、とても言葉にならないものだった!

初めて浴衣に変身したって!?信じられない!
色が、形が、って問題じゃない!この世界の美しいと言われる全ての要素が結晶化しているような気さえした!
「美しい」という存在自体が浴衣を着ている!
この状況の感動を十分の一でも表現する為に「美しい」という言葉がある!
そう思えるくらい、浴衣姿のおくうは綺麗だと思った!

っていうか何なんだよ私とおくうの変身の違いは!
私が妖怪らしくどろろんぱなのに、何でおくうはキラキラ輝いちゃってるワケ?
もし、おくうに力を与えたかみさまってヤツが、おくうを浴衣の似合う見返り美人に仕立て上げる為にやったんだとしたら……かみさまとは美味い酒が飲めそうだ。


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人間達は9割方酒に酔って祭りを楽しんでいたので、私たちが素知らぬ顔で紛れ込むのは簡単だった。
露店で美味しい食べ物を沢山食べたり、見よう見まねで人間達と一緒に踊りを踊ったり、私たちはひとしきり人間の夏祭りを楽しんだ。

お盆の祭りは死者に対するお祭りだけど、まさか地獄の怨霊使いが、一緒に祭りを楽しんでるなんて思わないだろうな。
ここにいる人達が死んで地獄に来たら、私が良い話し相手になってやろう、心の中でそんな事を勝手に決めた。



夜が深くなると、祭りはそのまま飲めや歌えやの大宴会になった。
タダ酒これ幸いとどさくさに紛れて飲んでいたが、片っ端から言い寄ってくる男どもからおくうを守るだけで精一杯になったのは記憶している。

その後は……、
その後は……ええ~と……。



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気がつくと、私は里からちょっと離れた小高い丘の、大きなブナの木の木陰にいた。
太陽は高く昇り、夏特有の強烈な日差しを容赦なく照射してる。
木陰にいなければ私も干からびて、うっかりゾンビフェアリーの一員になっていたかも知れない。
時刻はもう昼近くのようだ。

思い出してきた……人間の里に長居するのも何なんで、私たちは男どもが全員酔いつぶれたのを確認してここまで来たんだった。
人間相手に飲み比べで負ける私じゃないけど、未だに残る頭の痛みには激しい敗北感を感じる。
反省……酒は飲んでも呑まれるな。

私はおくうの姿が見えないのに気づいて立ち上がった。
眩しい日差しを手で遮って空を見上げると、私が寝ていた木のてっぺん近くで、枝の上に腰を下ろして、じっと空を眺めているおくうを発見した。

「おくう?」

おくうの眼差しの先には太陽があった。地獄育ちの私たちでも、太陽の眩しさは直視し続けられるものじゃない。
それでもおくうは、目を見開いて、ぼうっと太陽を眺めていた。

その表情は……そういえば昨日、おくうの名前が空の意味だって教えた時、こんな顔をしていたような……。

「あ、お燐、おはよう!」

私に気付いたおくうは笑顔で挨拶をくれた。

「おはよう、……ごめんね、私、酔っぱらって寝ちゃってたみたいだね」

私はおくうに醜態を晒したんじゃないかと思って、ちょっとばつが悪かった。

「ううん、気持ちよさそうに寝てたから、起こしちゃ悪いと思って」

相変わらずの笑顔で答えるおくう……けど、その時のおくうは、どこか物静かというか、大人びているような雰囲気があった。

「ずっと起きてたの?」

私はふわりと飛びあがり、おくうの隣に座りながら話しかける。

「うん………………いや、ずっと寝てたのかも……」

物憂げにうつむいてから、再び空を見上げるおくう。
やっぱり雰囲気がいつもと違う、さんさんと照りつける太陽を見つめて、一体何を想うというのか。

「……太陽を直接見ちゃ目に悪いよ?」

私は自分の影におくうを入れるように立って言った。

「……くすっ大丈夫だよ、ごめんね、心配かけちゃった?」

まるで私の心を見透かしているように、いたずらっぽくおくうは笑った。
知的に響くその声に、私は思わずどきりとする。

「そ、そういうわけじゃないわよ……ただ、おくうがいつもと雰囲気違うから、何か悪いものでも食べたんじゃないかって思ったのっ!」

自分で顔が熱くなっていくのを感じて、思わずおくうから目をそらす。
私は何を言ってるんだろう、今日のおくうは、どうして私の心をかき乱すんだろう。
こんな私はきっと滑稽に見えるに違いない、おくうは苦笑混じりに続けた。

「そうだね……私ね、思い出したの」
「え?……何を?」

屈託のない笑顔に乗せて、おくうは理解し難い言葉で答えた。

「私、太陽食べちゃったんだ」




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地底に戻った私たちは、結局それまで通りに仕事をする事になった。
すなわち、おくうは力を使わない。私が死体を運んでおくうが燃やす。

魂の処理のバランスが崩れると、冥界の方々も大変らしいのだ。
ウソかマコトか、三途の川の死神はすっかりサボり癖がついてしまい、魂の輪廻を捌ききれなくなって、上司の閻魔様が泣いて懇願してきたという噂がある。

私としては、努めて以前通りに仕事をこなした。
元々仕事は好きだったし、怨霊になった魂が地獄の炎に焼かれて輪廻に戻れるまで話し相手になってやるのも重要な仕事なのだ。

ただ、おくうはそうは思わなかったらしい。

「おーりーん!あーそぼっ!」
「ちょっ!ドコ触ってんのよっ!」

死体集めに地上に出ようとしたその時、不意におくうが後ろから抱き付いてきた!

「スキあり!えへへ、ねぇお燐~遊ぼうよ~!」
「ダメよ、私はこれから仕事があるの」
「いいじゃないそんなの、もう地獄の温度管理は私の力だけで出来るんだから」
「それじゃダメなんだって、さとり様にも言われたでしょ?それに何もやることが無いと、ヒマで魂が腐っちゃうよ!」
「ぶぅ~!」

二人で地上から帰ってから、おくうはやたらと私にじゃれてくるようになった。
それはそれで悪い気がするわけではない、けど、おくうはいつも仕事に対して一生懸命で「仕事よりも遊びに行こう」と誘うのはいつも私の方だったから、すこし……困惑してる。

あの日、おくうが言った謎の言葉「私、太陽食べちゃった」って
あれは一体何だったんだろう。

それに、あの日以来、さとり様がおくうを見る目が変わったような気がする。
私の思いすごしならいいけど……あの第3の目はおくうの何を見たんだろう。

今のままじゃいけない気がする。おくうの身に何が起こって、どうなっているのか。
私には、何かやらなきゃいけない事があるんじゃないのか。
そんな思いが、しきりに私の胸を突いてくる。
もっとちゃんと考えたいのに、ゆっくり考えていたいのに、おくうはそれを許してくれない。

「今日は旧都の方まで飲みに行かない?」

事あるごとにおくうは私を誘ってくるのだ。
「今日は地獄巡りをしてみよう!」「今日はさとり様の秘密の書庫に潜り込んでみよう!」
以前とまるで逆で、私は仕事そっちのけでおくうに引っ張り回された。

「まだ早い時間じゃない、おくう仕事は……」
「もう終わったよ?」
「!?」

おくうの言ってる事は本当だった。サボった訳でも手を抜いた訳でもなく、作業を効率よく進めて終わらせていたのだ。
今までのおくうはどちらかと言えば効率が悪く、作業に対して余分に時間を取られていたのだが。

……おくうは頭が良くなった。
そしてそれは始まりに過ぎなかった。


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おくうの頭脳は、日に日に進化していった。

自分の仕事を効率良く、素早くこなせるようになっただけでなく、
地獄にいる他のさとり様のペットの仕事までこなせるようになっていった。
自分の仕事は終わったからと、他のペットの仕事を手伝い、翌日には、より効率よく作業をするためのアドバイスまでしていた。
さらに、地底に住む動物たちがどのように分業すれば効率が良いか、全体的な、社会的な視野で物事を考えだしていった。
事実、おくうのアドバイスを聞いたペットたちはいつもより少ない時間で仕事を終える事ができるようになり、余った時間を自由に使ってるらしい。
さとり様が放任主義すぎる部分もあるが、地底は今、新たにリーダーシップを取れる者の誕生を歓迎しているようだった。


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「考えすぎなんだよ、お燐は」

旧都の酒場で酒を買い、怨霊たちがお盆の雰囲気に浮かれて騒いでいるのを遠目に見ながらチビチビとやっていると、おくうは言ってきた。

「親切な神様が力をくれて、なんでくれたのかは忘れちゃったけど、それを有効に使っている、それだけだよ」

私の心配を察してか、おくうは優しく諭してくれる。
でも、そうなの?おくう?私には分からないよ、おくうの成長が早すぎて、私の頭はついていけないよ。
今までと同じでいいの?でもおくうは、明らかに今までのおくうじゃないじゃない?





「お燐は……以前の、無知な私の方が好きだった?」

不意に、おくうは聞いてきた。


「そ、そんな事……ないよ」

そんな事は、ない。
今のおくうは誰が見たって素敵で輝いている。
もし私が何のしがらみも無く、目の前にいるような女性に会っていたら、確実に憧れてしまうと思う。
今のおくうは、それほど知的で綺麗で魅力的だ。
正直、そばにいるだけで、胸の鼓動が速くなってゆくのを感じてしまう。

でも、それを認めてしまうのは、
おくうが以前と別人になっている事を認めてしまうようで……怖い。

そうしたら、ずっと昔から一緒に育ってきたおくうは、どうなるの?
無知で不器用で、でも何事にも一生懸命で真っ直ぐで、
私が妹のように接してきたおくうは、どこへいったの?

私が好きなおくうは……誰なの?





「私はね、お燐……昔も今も……」

心が煮え切らないままぐちゃぐちゃになっていく私に、おくうは続けた。





「ずっと、お燐の事が好きだよ」





おくうは真っ直ぐに私を見ていた。

胸の中から真っ白な感情が溢れ出す。
喜び?悲しみ?分からない、知らないよ、こんな感情。
どうすればいいの?言葉を、返さなきゃ。
分からない、言葉が見つからない。
おくう、私は、あなたを、あなたを……。
見えない、涙が溢れて、あなたが見えない。
目の前のあなたが見えない、大人のおくうが見えない。
子供のおくうが頭をよぎる、白い感情が全てを覆う。
頭の中のおくうが、白い感情にのみこまれていく。
見えない、子供のおくうも、大人のおくうも。
おくう……わたしは、あなたが……。

私は泣いていた、おくうの言葉に答える事もできず、
ただただ、大粒の涙を、ポロポロと流し続けた。

そんな私をじっと見ていたおくうは、ゆっくりと私を寄せて抱き、ポツリとつぶやいた。

「ごめんね」

そんな……あやまらないで、私はうれしいんだ!
おくうの事が好きなんだ!悲しいハズがないんだ!
どっちのおくうが本物でも、どっちのおくうも好きなんだ!
でも、
そんなずるい感情自体が、私の心を引き裂いていく。

私にはただ泣く事しかできなかった。
おくうの胸に抱かれ、おくうのやさしさに甘え、
2人のおくうに、何度も、何度も、あやまりながら……。





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次の日の私の予定は、地上に死体を漁りに行って、怨霊の世話をして、それから……それから……。
まぁいいや、予定は未定であり決定ではなかったのだから。
早い話がサボっちゃいました、いいよね、たまには。

針山地獄に寝転がって、ぼーっと暗い天井を見ながら、考えてた、昨日の事。

おくうに好きだと言われて、私はただただ泣き崩れて。
ああ~、何であんな事になったんだろ!ヒドいよね!私、最低!
嫌われちゃうよ!嫌われて当然だよ!嫌われて……嫌われ……ちゃったかな。

あぁまただ、胸がきゅ~って締め付けられて、意味無く涙が溢れてくる。
どうしようこんな気持ち、切なくて苦しくて、何もできない。

あの時のおくうの顔が、何度も脳裏に蘇る。
あの時、おくうは何を思っていたの?
あの時、私は何て言うべきだったの?

らしくないな……私。

言うべき事なんて一つしかなかったじゃないか。
私もおくうが好きだって。
他に言う事なんてなかったじゃないか。

おくう……。

今、おくうは何を考えてるの?
今、おくうはどこにいるの?
今、おくうは何をしているのかな?

……会いたいな、おくう。





そんな時だった、仲間の火焔猫が私の名を呼んでいる声が聞こえてきた。

「どうしたの?」
「あっ!お燐、大変だよ!!今おくうちゃんが!おくうちゃんが!」
「お、落ち着いて、慌てないで、おくうがどうかしたの?」
「おくうちゃんが地上の人間につれて来られて、その、ひどい怪我を……」

私は目の前が真っ暗になった。

「おくうが怪我!?どういう事!?地上の人間ってどこのどいつよ!!」
「わ、分からないよぉ~」
「~~~っ今おくうはどこっ!」
「ち、地霊殿っ」

聞くのと同時に私は駆け出した、猫の姿になり全速力で!
嫌な予感がする、とてつもなく嫌な!おくうの得た力、急激な成長、やっぱり何かあったんだ!
あの日、灼熱地獄が急激に高温になったあの日、成長したおくうが倒れていたあの日、あの日の嫌な胸騒ぎが蘇ってきた。
おくう……どうか……無事で……。



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「おくうっ!!」

嫌な予感は当たってしまった。
私が駆けつけると、おくうは地霊殿の動物たちが自由に使う寝室で仰向けになって寝ていた。

寝ていた、というより動けなくさせられたの方が正しい。
全身を強く打撲してるようで、肌の露出している部分には赤や青の痣が所々に見える。切り傷や擦り傷もあるのだろう、包帯で手当てされている下から血が滲んできている。
そして何より、命が漏れ出しているんじゃないかと思うほど苦しそうな呼吸。
はあはあと息をしているそれだけで伝わる苦しさが、私の胸を滅茶苦茶に壊していく。

酷い……誰がこんな……誰がおくうをこんな目に遭わせた!
殺してやるっ!おくうをこんな目に遭わせてタダで済ませるものかっ!
地獄の炎で魂まで焼き尽くしても、私は絶対ゆるさないっ!!



「君の友人には、すまなかった」


はっと気配を感じて部屋の入り口の方を向くと、そこに見知らぬ女の人影が立っていた。

誰だ!?唯者でない事はすぐに理解した。

変わった巫女服のような赤い衣裳、鏡らしい大きな首飾り、そして何より、イカレタ愚者か、神様でもなければ身に着けようとは思わないでっかいしめ縄!

冷ややかな光を漂わせた瞳が、人間も妖怪も超えた存在である事を無言で語っている。

「オマエか?……おくうをこんな目に遭わせたのは」

聞くまでもない、あれ程の力を持っていたおくうを、これ程までに痛めつけられるヤツがそうそういる訳がない、そして目の前の女には、それができるただならぬ妖気が漂っていた!
私は心の境界を破って湧き上がる怨念の炎を、霊力で伸ばしたツメに乗せて目の前の女に飛びかかった!

「うわあぁぁぁっ!」

一撃で百人は発狂死するであろう怨念を込めた私の攻撃は、そよ風に揺れる柳のようにかわされた。
二手!三手!当たれば絶対必殺の攻撃が虚しく空を切り裂いていく。
おかしい、どうして当たらない!?私は確かに『そこ』を斬っている!
しかし私の攻撃がその空間に到達すると、そいつは色も形も不確かなモノに変わり攻撃を通過させてゆく。
私は根性と執念でさらに一歩踏み込んで蹴りを放つ!

当たった!が、女の細い腕は物理法則を無視するかのように蹴りの威力を吸収し、込めた怨念は霧のように散ってゆく!

「なっ!?」

私が呆気にとられていると女は一気に間合いを詰め、私の眉間に指を弾いた。
次の瞬間、私は寝室の壁に叩きつけられていた!何が起きたか分からない、一瞬意識が飛んだらしい。

「……話し合い、という言葉は知らないのかな」

悔しさで目の前が真っ赤になる!
赤子の手を捻る大人の方がまだマシだ!
相手は同じ空間にいること自体がインチキなイカサマ野郎だ!
私が命を賭けて闘っても、相手は賭ける命さえ別物なんだ!
こうなったら決死の覚悟だ!
たとえキズひとつつけられなくても、おくうの痛みを!苦しみを!怒りの炎に変えないと、自分が生きてる事すら許したくないっ!

私は次の一撃に、命の全てを燃やす覚悟で飛び掛った、その瞬間!

「おやめなさいっ!」

脊髄で聞こえた声に反応して、私は踏みとどまった。
声の主は私のご主人様、さとり様だった。

さとり様は心が読める。
今、私がどれほどの憎悪にまみれているか。
どれほど、惨めで悔しい思いをしているか。
それが分かって、なおやめろと言った。

私は……そこで泣き崩れてしまった。
わんわん大声で泣いてしまった。

だって、さとり様はやさしいから、
泣いていい理由をくれるから……。



「お燐……何で泣いてるの?」

ハッとして声の方を向くと、おくうがよろよろと起き上がってきた。

「おくう!」

私は叫んだ!傷が癒えてるハズがない、立つ事もやっとな大怪我のハズだ!
おくうは状況が把握できていないのだろうか、唖然とした表情でこちらを見ている。

「……オマエか?」

おくうは部屋の片隅にいた赤い服の女を睨んで言った。

「オマエがお燐を泣かせたのか!!」

おくうが左手を振り上げると、頭上に凄まじいエネルギーの光球が現れる!

「!?こいつ……また忘れたのか!?」

赤い女は光球の眩しさを手で覆いながら、謎の言葉を呟いた。
また?……何の事を言ってるんだ?コイツとおくうは地上で何があった?

「!?おやめなさいっ!!おくう!」

これまでに見た事がない程、取り乱した様子でさとり様が叫ぶ!
ほぼ同時に、おくうは光球を女に向けて投げつけた!

次の瞬間の記憶がない……。
気づくと地底の天井の岩が丸見えになっており、寝室を寝室たらしめる壁も見当たらなかった。
おくうの攻撃は部屋の壁と天井を、いや、地霊殿の半分ほどを吹っ飛ばす強大なものだったようだ。

空を見上げると、まるで火山の噴火のような凄まじい音と光が支配されており、それがさっきの赤い女とおくうの壮絶な弾幕戦だという事に気づくのに暫くかかった。

さとり様は私を爆風から守るように抱きしめてくれていた。
屋敷が吹っ飛んだ時に私を庇って怪我をしたんだろうか、額から一筋の血が流れている。

「さとり様!?」

ご主人様に守られるなんて、私はなんて無能なんだ!
本当は、私がさとり様を命に代えてもお守りしなきゃいけないのに!

「……私なら、大丈夫ですよ」

心を読んだのかさとり様は私に微かに笑いかけ、すぐまた厳しい表情でおくうと女が戦ってる方を向く。

「いけない、これ以上闘っては……これ以上力を使っては!」

床に膝をつくさとり様。大丈夫と言ってはいるがかなりのダメージなのか、立っていられない程のようだ!
言葉が苦痛に侵されて途切れ途切れになっている。

「さとり様!?大丈夫ですか?さとり様!!」

つくづく自分の無力さが恨めしい!さとり様が傷つくくらいなら、私が死んだ方がマシなのに!

「お聞きなさい、お燐!おくうが闘っているのは八坂神奈子という地上の山の神様です、おくうに力を授けたのもあの方です」

私はぎょっとした。かみさま……本当にいたんだ、ちょっとばかり力の強い妖怪とはワケが違うとは思ったけど。
おくうが言っていた「かみさまにもらった」って本当だったんだ。

「そして、おくうのあの力は……」

苦虫を噛み潰したように、辛い顔をするさとり様。身体のダメージか、それともこれから告げようとしてる事実がそうさせるのか。

「重い想いをすり潰し、輝き光る太陽の力……。
重い、重い、想いの記憶、すなわち思い出の力です」

え……?
よく、理解できなかった。思い出のチカラ?

さとり様は意を決したように息を吸い直して、告げた。


「……おくうは力を使う度に、記憶を失ってゆくのです!」


頭に巨大なハンマーが落ちたような衝撃を感じた。
目の前が真っ暗になり、呼吸が止まりそうになる。
そんな、おくう……おくうが私たちの事忘れちゃう?
あの目を覆いたくなる程眩い光は、私たちとの思い出が壊れていく光なの?


「そんな……」

「闘いを止めるのです、あの子が全てを失う前に!」


私は駆け出した!無我夢中で走りだした!
おくうが闘っている光と熱の嵐へ!



どうすればいい?私に何ができる?
おくうとあの八坂神奈子とかいう神様の戦闘は、神話の中の神々の戦いが絵本の中から飛び出したようなデタラメさだ!
地獄の猫妖怪1匹が割って入れるモンじゃない!

「おくう……止めて!……もう止めて!」

それでも必死に叫びながら、今にも止まってしまいそうな足に力を込める。
あきらめてもどうにもならない、私には今、走るしかない!

「止めてよう!おくうぅぅぅ!」

地下世界は今、頭上一面が弾幕の光で溢れ返っている。
地上で太陽が10コくらい同時に輝いたら、こんな光景になるだろうか、世界の終りのような、それは恐ろしい絵図だった。

「!?」

生成と爆裂を繰り返す光球の中に、おくうの影を発見した。
しかし、それは私の知るおくうのシルエットではない。

……何だアレは?

背中の羽は巨大化し、その上からマントのようなモノをつけているらしく、まるで神話に出てくる悪魔のような姿だ。
右手には六角の角材のような物が腕を覆い、肘近くまで入っている。
人間が使う小さな大砲のようにも見える。

それに……胸に見える、赤い球体のようなものはなんだ?

宝石のような装飾に見えなくもないが、あれはどう見ても生物の「眼」だ。
縦長の瞳孔のその「眼」は、ぎょろりと対面する地上の神を睨んでいる。
私は急に、例えようもない恐怖に襲われた。



おくう?どうしちゃったの?私の知ってるおくうがどんどん無くなっちゃうよ。
おくうは神様と戦える程強くなくていいよ。
マジメで一生懸命だけど、不器用で、私がついていないと危なっかしくて。
今のおくうは、私の知ってるどんなおくうより危なっかしいよ。
もう止めよう?そんな力いらないでしょ?
地上から太陽が消えたって、私はおくうにおくうのままでいて欲しいよ……。



絶望に打ちひしがれ、一歩も動けなりそうなその時、戦場から数発の流れ弾が飛んできた。

「きゃあ!」

幸い直撃はしなかった、隣で吹っ飛んだ岩の破片が少し当たっただけだ。

「お燐!?」

戦いで我を失っていたはずのおくうが、私の名を叫んでくれた。
大丈夫、と声をかけたかったが、動けない程度にダメージは受けているみたいだ。

「ううぅ……うわぁぁぁぁ!」

おくうの渾身の攻撃か、宙を漂っていた光球が一斉に地上の神に襲いかかった!

「何っ!?」

さすがの神様も避ける事も防ぐ事も出来なかったようだ、辺り一面に超高エネルギーの爆風が広がってゆき、その中に神様も巻き込まれていく!



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「お燐!お燐!……しっかりして!お燐!」

おくうはすぐさま私の元に駆け寄り、抱き起こしてくれた。

「おくう……」

我ながら情けないと思う程、か細い声で呼ぶ。

「お燐!……良かった……」

おくうは泣いて私を強く抱きしめた、さっきまで私がおくうの心配をしてたんだけどな……。
私は苦笑する。
つくづく役に立たないな私……でもいいや、これで一応ひと段落したし、もうこれ以上おくうに力を使わせないようにすれば……。

空を見る。あぁ、眩しいなぁ、太陽が10コくらいある……。



その時だった!
宙に浮かぶおくうの人工太陽のひとつが不規則に震え、高エネルギーの熱線を放ちつつ爆散した!

「きゃぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ!」

私もおくうも吹き飛んだ!その破壊力は外の人間が山を砕く時に使う爆薬の何十倍もあったと思う。

「うぅ……一体どうしたの……?」

おくうの作った光球だ、おくうが操れないはずがない。

「……私の力が尽きかけて、放出した力が暴走してるんだ」
「……それって」

それって……それってどういう事?
運命を操る神様は、ここまできてまだ私たちを苦しめるの?
おくうは空を見上げていて表情が伺えない。

おくうは再び、空に向かって舞い上がろうとした。

私は咄嗟におくうの手を掴む、強く!
この手を離したら、またおくうがどこかに消えてしまいそうで。

「ダメっ!行っちゃダメっ!おくう!!」

「……手を離して、大丈夫、何とかするから」

空を見上げたまま、おくうは言った。

「ダメだよ!さとり様が言ってた!これ以上力を使ったら、おくうの思い出が無くなっちゃう!私たちの思い出が無くなっちゃう!……記憶が無くなっちゃう」


「……さとり……様……」

おくうは動かない。
どうしたの?……ひょっとして、まさか!?さとり様の事忘れちゃったの?

「おくう?」


おくうは振り向くと、笑顔で言った。
泣きたくなるほど美しく、儚い笑顔で。



「あのね、お燐、私はずっとウソをついてたんだ」
「……ウソ?」
「うん……私はおくうじゃない、お燐の知っているおくうには、ちょっと前から眠ってもらってるんだ」



知らない間に涙が頬を伝ってた。
薄々感じてた事、でも信じたくなかった事。
信じたくなくて、考えたくなくて、そしておくうを傷つけた事。



「そんな……事、知ってるよ……気づいてるよ!でもどうだっていいじゃない!どっちのおくうが本物でも、私はどっちのおくうも好き!」



勢いに任せて言った。滅茶苦茶な私の気持ち。卑怯な私の気持ち。
でも、言えた。
あの時言えなかった事、言えないより言った方がいいと思った!



おくうは少し驚いたように私を見ていた。

そしてややあって、微かに笑うと、私を引き寄せて額にキスした。

!?!?!?

途端に身体に力が入らなくなった!
気が動転したとかそんなんじゃない、何かおかしな力を注入されて身体の自由を奪われたんだ!

「おくう……!?何を……」

「ごめんね、そしてありがとう……」


力が抜けてゆく、掴んだ手が離れる……イヤだ、ダメだ、この手を離したらおくうは……。



「大好きだよ、お燐」



10コの太陽より眩しい笑顔とその言葉を残して、おくうは飛び上がった!


「はあぁぁぁぁぁっ!」

おくうは自らが作った光球に、さらに光球をぶち当てた!
光の球は砕けてさらに小さな光となり、赤、青、黄色と色とりどりに散ってゆく。

「あぁ……おくう……」

それはいつか見た、人間の祭りの花火のようだった。
夏の夜空に咲き、何も知らないおくうを興奮させた、火焔の華。

近づいちゃいけないって、あんなに怒ったのに……。
素直にごめんなさいってあやまっていたのに……。

赤、黄色、青、紫、緑……おくうの思い出が、光と熱に変換される。
その花火はあまりにも美しく、あまりにも残酷だった。
あまりにも綺麗な思い出が、地底世界を色鮮やかに染め上げる。

思い出が……散ってゆく。
光球が花火に変わる度、心が壊れる音がする。


おくう……止めて、消えちゃう……思い出が、記憶が、命が。
絶望が私を支配してゆく。枯れる事を知らない涙が、次から次へ溢れてくる。


「おくうぅぅぅぅぅぅ!!」

私の声は、花火の音にかき消されるだけだった。





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あれから約一年が経った。
私はまた人間の里に花火見物に来ていた。
今年も良く晴れていて、夜空に色とりどりの花火が盛大に咲き誇っている。
人間たちは酒に酔い、月に酔い、花火に酔い、陽気に踊っている。
去年、祭りに訪れた2人組の美女の事は、覚えているだろうか?
私は、来年も、さ来年も、この先ずっと、この花火を見に、里の祭りを訪れるだろう。


あいつとの思い出が、消えないように。


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事情は八坂神奈子から色々と聞いた。
案の定、神様の身体は特別頑丈に出来ているようで、おくうのあの猛攻撃は小一時間ほど身動きできなくした程度で済んだそうな。
全く、何を食べたらそんなに強くなれるのか……。

八坂神奈子の目的は、自分の治める山の妖怪の生活向上の為に、ちょいとばかり地熱を上げる事だったそうだ。
その為におくうに使ったのが、太陽に対する信仰心の結晶、神奈子いわく「八咫烏」なんだとか。

なんで太陽がカラスなのか解らなかったが「姿形はどうでもいい、信仰する者がそのイメージで天に願った、それだけの話だ」って言ってた。ふ~ん。

神奈子は天を司る神様で、天に対する感謝や願い、畏れなんかが神奈子の力になるらしい。
しかし太陽に対する信仰心は、天に対する信仰とちょっと毛色が違うみたいで、神奈子にとっては力の不純物みたいなものだそうだ。

不純物とはいえ数千年も溜め込まれれば、それはそれは大きな力になり、神奈子には使えないが使わんことにはもったいない力になった。
という事で、代わりに力を使う者を探していて、で、そこに当てはまったのがおくうだったのだという。

八咫烏の力を使うには条件が2つあり、ひとつは太陽の力を宿す高温高圧に耐えられる事。もうひとつは太陽を見たことが無い事、だそうだ。

高温高圧に耐えられる、っていう条件は灼熱地獄に住む妖怪なら誰でも当てはまっていた。
第2の、太陽を見た事が無いって条件は……あの日、おくうが力を与えられた時点では満たしていた事だったが。
私は聞いてみた、そもそもなんで太陽を見ちゃいけなかったのか?

「信仰の対象を知る者が信仰心の力を使おうとすると、自らがその信仰の対象に成り代わろうとするのさ、ま、神様にでもなった気分になるんだろうよ」

と、神奈子は答えた。
ふ~ん……私にそんな事を話す神様は、一体どんな気分で話していたんだろうね、今度さとり様に聞いてみよう。

さて、当時のおくうは条件を満たしていたので、めでたく神様から太陽の力を授かったわけだけど……ここから神様の誤算が始まった。

そもそも八咫烏の力は、それだけでは何の役にも立たないものらしい。
あれは太陽の力を再現するためのシステムで、太陽に関する英知の結晶、言わば太陽の取扱説明書なんだそうだ。

太陽を知らない「器」となる者に知識を注ぎ、それが充分に器に馴染んだところで、神様特製の力の入った水(人間は重水素と言ってるらしい)を使うと、ここで初めて、太陽の力、核融合の力が使えるんだそうな。

この八咫烏のシステムが馴染むまで、通常は一ヶ月くらいかかるものらしく、力を与えた神奈子は一旦その場を離れて、定期的に経過を見に来るつもりだったって言ってる。

しかしおくうは、異常にアンバランスな才能を持っていたというか、異常なまでに素直な性格を持っていたというか……八咫烏の力をたちどころに理解し、使えるまでになってしまったようなのだ。

力の使い方が解っても、燃料が無ければ力は使えない。
そこでおくうが代わりに使ったのが、重い想い、思い出の力、つまりは記憶だった。

運の悪い事に、その時真っ先に使ったのが神奈子との出会いの記憶だったらしい。
かくしておくうが得た力の経緯は、さとり様にも分からない闇に葬り去られる事になってしまった。

そして私がおくうを地上に連れ出し、祭りの夜が明けた後、話はさらに変わってくる。

おくうは太陽を見てしまった。
自分の中に流れる力の正体を知ってしまった。
そして、自分が何者であるかも……理解してしまった。

恐らくおくうは、それまで生きてきたおくうとしての記憶と、八咫烏に込められた信仰の対象としての自分に、板ばさみのようになったんだと思う。

そんな、計り知れない葛藤の中、私に言ってくれた言葉……。

「昔も今もずっとお燐のことが好きだよ」

あれは……どれほど重い言葉だったんだろう。
自分がおくうの記憶にあるおくうでなく、何者であるかあやふやでも、それでも私に対する好意は真実なんだ、と、そう言ってくれたんだ。

その気持ちに、私は答えられなかった。
私はおくうを傷つけてしまった。

気晴らしの為か地上に上がったおくうは、そこで神奈子と遭遇した。
地上にいてはいけないおくうを見て、神奈子は相当びっくりした事だろう。
しかし当のおくうは神奈子の事を覚えていない。
精神的に不安定だったおくうに、その原因を作ったのが自分である事を告げてしまう。

まぁ何を言ったかは知らないが、誤解を招く事は大いに得意そうな神様だからな。

そして、そこは戦場になった。
2度目の戦いは目撃したわけだけど、あんなとんでもない戦いを地上でもやったっていうのか……。
最善を尽くした、って言ってるけど、結局は力でおくうをねじ伏せたわけだ。
それでも山ひとつ丸焼けになって、これは原因を解明せにゃならんと、おくうを連れて地底にやってきた。

これが、この話の全容だ。

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祭りの花火を見ながら思う。

人間が死んだら魂は冥界にいく。
冥界にいけない浮かばれない魂は地獄に来る。
その相手を私たちがしている。
冥界、魔界、天界、地獄、そして人間界。
どの世界で寄り道をしても、結局魂は輪廻の渦に戻っていく。

では……あいつの魂はどこにいったんだろう?
冥界でも地獄でも、あいつは見かけない。
あの時、私を好きと言ってくれたあいつは、どこにいけば会えるんだろう?



「お燐?……どうしたの?どこか具合悪いの?」

ハッっと我に返った!隣でおくうが心配そうに私の顔を覗きこんでいる。

「あ、いや何でもないよ!ちょっと、物思いにふけっちゃっただけ!」

気づいたらいきなり顔が近くにあったもんだからびっくりしちゃったよ!
全くコイツにはいつもドキドキさせられるっ!

「そう?」

屈託のない笑顔をくれるおくう。
……無敵だな、その笑顔は。



おくうの記憶は、神奈子が力を与えてから、記憶の花火が散るまでが無かった。

逆に言うと、神奈子に力をもらう前のおくうに戻っていた。
本当ならおくうの記憶自体にも影響が出るらしいんだけど、奇跡としか言いようがないんだって。

もしかしたら、これはあいつが起こしてくれた奇跡なのかも知れない。

うん、きっとそうだと思う。
あいつは頭が良いから、きっと奇跡の起こし方も理解しちゃったんだ!

記憶は元通りになったんだけど、成長した身体はそのままだった。
目を覚ましたおくうは、最初だけ戸惑ったが「ま、いっか」で済ませてしまった。
いいのか!?



私はおくうに笑顔を返しながら気がついた。

そうだ、あいつはどこにも行ってなんかいない!
おくうと笑いあう度、胸が高鳴るこの感じ。
あいつの正体は、きっとこの想いだ!

想いと想いを重ね合わせて、心を熱くさせる太陽の神様!
あいつは今も、私の胸と、おくうの胸の中にいるんだ!


「ねぇ、おくう!」
「うにゅ?な~に?」

私はあいつに会いたくなって、おくうにちょっとイジワルな質問をする。



「おくうは……私の事、好き?」



私の質問がおくうの脳ミソに到達するまで、

3、

2、

1、……あ、赤くなった!


「そそそそそそ!そ!そ!そんな!事!と、と、当然じゃないっ!!おぉおぉ、お燐の方こそ、どうなのよっ!!!!」


これ以上ないっ!ていうくらい可愛く照れてくれているっ!
私は泣きたくなるほど幸せな気持ちを、ぐっと抑えていたずらに笑う。

「そんな事……」

当然でしょ!

                                    <了>
初投稿です、よろしくお願いします。

この話は<echo>PROJECTさんの東方アレンジCD[neutrino*]から、霊知の太陽信仰アレンジ楽曲「ヒュペリオンに花束を」を聞いて想起したものです。
とにかく楽曲がキャラクターの世界観を凄く表現していて、切なくて涙を誘うんです。
可能な方は楽曲を聞いて、ラスト付近で音楽を思い出しながら読んでいただきたいです。
いや、サークルのまわし者じゃアリマセン(笑)
お燐の一人称が「あたい」じゃなかったり、八咫烏の解釈とかがとんでもなくこじつけだったりしますが、その辺は生温かくヌルーして下さい。
ちょうど1年ほど前、地霊殿から弾幕ライフを始めたのですが、おくうというキャラクターがいなければ東方シリーズにハマる事もなかったかも知れません。
新作が出ますが、俺にとってはこれからも地霊殿は特別な作品であり続けることでしょう。

追記:ちょこっと区切り線とか修正してみました。
ナラボン
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コメント



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3.30名前が無い程度の能力削除
話自体は凄く好きです。ただ、時系列・設定の無視が余りにも酷い。
8.60名前が無い程度の能力削除
こういう場合はオリ設定とか注意書きした方が良いと思います。
いい話でした。
9.80名前が無い程度の能力削除
おお…これは力作。
19.70名前が無い程度の能力削除
おりんりんちゅっちゅはせいぎ
24.90名前が無い程度の能力削除
最初は「アルジャーノンに花束を」を想像してたんですけど、曲のほうでしたか。
でもいいお話でしたよ。
あとは注意書きですかねぇ。そういうのを気にする人は結構いらっしゃるようですし。