Coolier - 新生・東方創想話

私のおこづかい

2010/01/16 01:51:39
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「まいどあり! お嬢ちゃん、また来ておくれよ」

「はい、また買いに来る用事があれば」

 幽々子様に頼まれ、私は、久しぶりに里に買出しに来ていた。
 幻想郷へよく来るようになったのも、あの異変以来のことで昔の話ではないが、里にはここ数ヶ月は来ていない。
 相変わらず、人間がごった返していて、久しぶりに里の賑やかさを肌で感じながら、買出しをしていた。
 頼まれた物が買い終わった後は、いつもならすぐに帰るのだが、今日は、少しだけお店をぶらついた。
 寄り道したのには、それなりの理由がある。 ……何刻か前の話だ。



「―――で、コレとコレも買って来てちょうだい」

「はい、わかりました」

「それと、妖夢。 いつもご苦労さん。今日はこれをあげるから、すこし羽を伸ばしてきなさい、ね?」

 “ゴソッ”

 そう幽々子様に言われ、手に何かを握らされた。

「あ、あの、幽々子さま? これはいったい……」

 まったく、状況がのみ込めなかった。

「ん? なにって、お小遣いよ」

「お、おこづかい……ですか……?」

「小遣いよ。そんなのも分からないの? 妖夢は?」

「え? え、いや、それは、わかるのですが……」

「だったら、いいじゃないの。さあ、買出しに行って来てちょうだいな! 頼んだわよ~」

「あ。ちょ、ちょっと……。ゆ、幽々子さま……」


 ……と、そういった具合で、買出しのお金とは別にお金を渡されのだ。
 幽々子様が、お小遣いをくださる事など、初めての経験だったので、かなり動揺した。
 そのせいもあって、何故、突然くださったのか聞けなかった。……いや、誤魔化された気もするが。
 それにしても、急にもほどがある。やっぱり、私にはあの御方の考えが読めない。
 しかし、せっかく幽々子様のくださった小遣い(と少しの休養)、大切にせねば―――――

(う~ん…………)

 だが、お金の使い道は、あまり見当が立たなかった。そもそも、自分のためにお金を使ったことが、一度もなかった。
 古いのが擦り減ってきたから、新しいホウキでも買おうか。そうだ、幽々子様に茶菓子を買うのもいいかもしれない。
 それなら、きっと幽々子様も喜んでくれるだろう。ついでに、茶葉も買っていこうかな。
 自分へのご褒美など、何も浮かばない。仕様がないので、茶屋にその足を運ぶことにした。





 ガラガラガラ……

「……ごめんくださーい(ドキドキ)」

 てきとうに入った店は、かなりしなびた雰囲気を漂わせていた。天井の隅には、蜘蛛の巣が張りめぐっている。
 壁の木々も、かなり黒積んでいて、それがホコリでうっすらとした白みを帯びていた。
 そして、暗い店内の石畳の床は、初夏なのに重たい冷たさを感じさせた。人気もない。……店を間違えたかな?

「いらっしゃい」

「ひゃっ!? あ、は、はい!!」

 お店の人がいるのに気づかなかったので、身体がビクンと仰け反りかえってしまった。
 お店の人とカウンター越しに目が合ってしまい、自分から店に入っておいて、…何だか恥ずかしくなってしまった。
 お婆さんでも出てくるのかとおもったら、青い帽子に、緑の髪をした、綺麗な人がカウンターの向こうにいた。
 
「なにをお買い求めで?」

 そうだった。何を買うかまで決めていなかったんだ。悩んでいる私は、カウンターの方へ目を流した。
 目に入ったのは、おもち。美味しそうな牡丹餅が、皿に並べて乗っけてあった。


「えーっとですね……。じゃあ、ぼた餅お願い出来ますか?」

「牡丹餅かい? 家はもう作ってないね。他当たってくれる?」

 ……客をいぢめるとは、この店員、なかなかのクセモノだ。

「いやいやいや……。しっかりと、目の前に並んでるじゃないですか。」

「これかい? こいつは、牡丹餅じゃなくて、夜船っていうんだよ。」

「はぁ、夜船……ですか?」

「春は牡丹餅、夏は夜船、秋は御萩、冬は北窓って言ってね。昔は、四季ごとに呼び分けてたのさ」

 春は牡丹餅、秋は御萩は知っていたが、夏と冬の呼び名は知らなかった。

「へ~、それは知らなかったです。」

「で、夜船をいくつだい?」

「あ。はい、4つで」

「じゃあ、新しいのを作ってくるから、そこに並んでる夜船でもつまんで、待ってておくれ」

「……お餅を買うのに、お餅を食べて待つって、何だか矛盾してませんか?」

「出来たての方が良いだろ? 冷めた夜船よりさ。 それと、そこにお茶も置いてあるから」

 そういって、彼女は、店の奥の方へ行ってしまった。


(冥界に持ってくまでには結局冷めるのだから、冷めててもでいいのに……)

 でも、幽々子様へのお土産だ。一口ぐらいは味見して、帰りたい。
 言葉にだすのは、やめにして、待ってる間に牡丹餅……じゃなかった、夜船を頂くことにした。
 見た感じは、かなり素朴な感じ。ヤカンに入ったお茶を近くの湯飲みに入れて、さっそく食べてみることにした。

(もぐもぐ……んぐんぐ……)

 ちょうど具合のいい、気取らない感じの甘味と、しっとりして、かさばらない感じの餅、餡も舌触りがいい。
 食べ応えはあまりないが、重たくなく、いくらでも食べれそうなかんじだ。

(……お、おいしい)



「気に入ってくれたみたいだねぇ」

「あ、はい! これ、とっても美味しいです!」

「そうかい。口に合うようで、良かったよ。 じゃ、これ。夜船4つ」

「や……やけに、早いですね」

「生地も餡も、ちょうど出来上がった所に、あんたが来たからね。だから、包むだけ」

「そうでしたか」

 物を受け取ろうとしたが、持っていた湯飲みが邪魔だったので、一気に飲み干した。
 香ばしく、飲みやすい優しい味だ。こりゃ、うまい。

「このお茶も、美味しいですね。これ、ほうじ茶ですかね?」

「そうだよ。しかも、結構いいやつ」

「……じゃあ、これも頂けますか? 食べる時に飲む分があればいいので、100gお願いします」

 そう言うと、店員さんは、焙じ茶の茶葉を袋に詰めてくれた。茶葉の香ばしい匂いがする……。
 代金の銭貨を支払って、そのまま袋を受け取った。
 このお店は、古臭くて暗いのだが、随分と心が落ち着く。冥界とは違った、冷たさと暖かさを感じる。
 このお店の人も、不思議な雰囲気はあるものの、なんだか包容力がある感じで、一緒にいて心地は良かった。
 幽々子様に頂いたこの時間、短い時間ではあったが、私なりに有意義に過ごせたと思う。
 茶菓子も買ったし、幽々子様も喜ぶだろう。

「今日は、ありがとうございました。お餅、それに、お茶まで頂いて……」

「いえいえ。私も、久々にお客と話が出来て良かったよ……」



 ガラガラガラ……

「まいどあり! お嬢ちゃん、また来ておくれよ」

「はい、また買いに来る用事があれば。……ありがとうございました」

 そう言って一礼した後、しなびたお店をあとにし、いつもより速めに空を飛んだ。







「―――――とまぁ、そういう事がありましてね……」

「そのお店、ホコリがはってたって、食品店としてどうなのよ」

「うっ……。でも、ホコリは壁の木だけで、カウンターや商品はきれいでしたよ!」

「ふーん。でも、妖夢の事だし、私のためだとか言って、お菓子辺りでも買ってくるとは思ったけど……。ホントにピタリとは、ね」

「うぅっ/// で、でも、ちゃんと自分の分のお餅も買ってきてますよ! ほら、ホラ!」

「ふふふ、そうね。 ……じゃあ、早速いただこうかしら」

「あ、買ったお茶、淹れてきますね」

「早めにね~。じゃないと、お餅、全部たべちゃうわよ~」








 結局、お餅は、ぜんぶ食べられてしまったが、
 今日は、お茶を飲みながら、幽々子様と2人で、まったりと午後を過ごせた。

 ……それが、私にとって、1番のおこづかいになっていた気がした。



  ◆  ◇  ◆  ◇



 幽々子様はあのお菓子を、ずいぶんとお気に召されたようで、翌日、再びあのお店に訪れることになった。
 今度は多めに買うので、幽々子様に全部食べられるという心配もない。あのお餅は 私も好みだったので、嬉しい。
 ……しかしながら、幽々子様の言う通り、何故あんなにも建物が くすんでいたのだろう。
 家以外、まったくくすんでいないのも、何だか変だった。
 店員さんも、なんだか……こう……。


 そうこう考えているうちに、お店についた。



ガラガラガラ……













(…………空家?)



 どうやら、嫌な予感は的中してしまった。

 あの店員さんは……亡霊か自縛霊だったんだ。
 おそらく、私が客として店に入った事がきっかけで、成仏できたのだろう。

「『まいどあり! お嬢ちゃん、また来ておくれよ』なんて、言ってたのに……」


 死霊の類は、未練を断つことが出来れば、成仏できる。
 茶屋の店員としての最後の時だったのなら、もっと気の利いたことをしてあげてれば……
 冥界の住人で、半分幽霊の私が こんなことを思っているなんて、はたから聞いたら笑ってしまう話だ。
 だけど、あのお餅を もう一度だけ食べて、ゆっくりと話をしてみたかった。
 広すぎる冥界で、彼女の幽霊を探し出すのは、私1人では、おそらく不可能だろう。
 茶菓子屋の件1つで、幽々子様の手を煩わせるわけにも いかない。
 そもそも、見つけ出しても幽霊ではお餅はつくれないのだから、会う必要もない。

「別の茶菓子屋で買って、幽々子様には、閉店してたとでも伝えるか……」 


 私が、店を出ようと思った時、一枚の紙が落ちているのに 気が付いた。

 その紙には―――――









「 最後にあなたみたいな 可愛いお客さんに会えてよかったよ。 ありがとう…… 」





 そう書いてあった。



「……わ、わたしも。 ……私も、選んだ茶屋が、このお店で……本当によかったですっ!!!」

「私にとっての すてきな、すてきな おこづかい……ありがとうございましたっ!!!!」

 熱くなった目頭を抑えながら、深々と大きな一礼して、私は、お店を後にした。
















“シュー……、ポンッ!”


(……いったかな?)

(うーん……。あの子には、悪いことしたかな)
(お店は、暇つぶしにやってただけで、そろそろやめようと思ってたからね……)
(……2度も来る客なんて、考えても見なかったよ)

(でも……)
(でも、あの子のために、気が向いたら、また茶屋でもやるかな……)
(あんなにたくさん、お代をもらったし……)
(おつり、ちゃんと返さなくちゃ……ね?)


2人はそれぞれ、前より少し……。優しい気持ちになれた気がしました。
 
はじめまして。今まで小説を書いたことがなかったのですが、思い切って投稿させて頂きました。
創想話っていいですね。東方の小説を読んだことがなかった身なので、感激しました。

本文ですが、重さについては、ややこしくしてもアレなので、単位はグラムで書きました。
感想や指摘がありましたら、一言お願いします。

2009/1/17:誤字修正と、後日談を追加しました。
冷凍妹紅
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コメント



0.1050簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。
確かに妖夢ならやりそうですよね。
こういうの結構好きなのでこれからも頑張って下さい。

グラムに関しては、分かりやすいので、私はいいと思います。
10.50名前が無い程度の能力削除
折角店員さんにあの人を出したんだからもう少し何かあってもよかった気がしました。 そこがちょっと物足りなかったです
15.70名前が無い程度の能力削除
なんというか、……全体的に「……」が多すぎる気がします……

妖夢の素直さが表れた良いSSだと思います
しかしもう一つ展開があってほしいと期待してしまいました
なのでその和菓子屋の店主は数年前に亡くなり、
自縛霊になって店で客を待ち続けていた所に妖夢が
表れ成仏して白玉楼で妖夢と再開して、事の真相をしった
妖夢が時間差吃驚
と言うのをかってに脳内補間しました
むしろ幼夢たべたい
18.無評価冷凍妹紅削除
コメント有難う御座います!!
>>6
26匁7分とか書いても変な気がしたので、そう言って頂けて嬉しいです。
>>10 >>15
点々は、昔からの私の性分というか癖でして…。他の方にとっては気になるという事がわかりましたので、点々は控えるようにします。
それと、店員さんの件については、似たくだりは考えたのですが、いい書き方が浮ばなかったので、思い切ってハショってしまいました。もっと練って、しっかり書いた方がよかったですね。
20.90名前が無い程度の能力削除
妖夢がおこずかいをもらうというシチュエーションは、
地味だけど十分ありそうで話に入り込みやすかったです。
使い道もいかにも妖夢らしくてほのぼのさせてもらいました。

>寄り道したのにはには、それなりの理由がある。 ……何刻か前の話だ。
上の「には」は誤字でしょうか。
21.無評価冷凍妹紅削除
隣のめーさく小説さんを見て、編集できるのに気づいたので、
>>20さんの指摘した箇所の修正にあわせて、元々書こうかと悩んでいた、後日談をプラスしました。
コメントとなるべく被らないように、調整しましたが……、うむうむ。
27.90ずわいがに削除
ええ話や!まさかのええ話や!

でもゆゆ様が餅全部食ったのには笑ったww