◆幽々子「お好きなお菓子をどうぞ」
「今日はまた一段と冷えてきたわね」と、白玉楼の廊下を歩きながら西行寺幽々子は呟いた。空には濁った白い雲が浮かんでいて、今にも雪が降り出しそうだ。
「ようむー?」
「私はここですよ幽々子さま」
妖夢は庭の手入れをしていた。そういえば朝食の際に庭の気になる部分について話し合ったなと幽々子は思い出す。
「作業をしているのならいいの。お茶が飲みたかっただけだから。自分でやるわ」
妖夢は「よろしいのですか?」と首を傾げたが、やがて納得したようにまた作業に戻っていった。
私だって自分でお茶くらい淹れられるわよ。それに妖夢の目が無ければ好きなだけお菓子を持っていくことができるもん、と幽々子はご機嫌な足取りで台所に向かった。
幽々子は煎餅や大福など、ありとあらゆるお菓子をお皿に乗せ、湯飲みと急須を持って居間に向かった。
お茶の葉が広がるまであと少しというところで、突然幽々子の目の前の空間が裂け、そこからこちらもご機嫌そうなの幽々子の友人が現れた。
「こんにちは幽々子」
「あらまあ。久しぶりね紫。最近全く顔を見せないから、もう冬眠したのかと思っていたわ」
八雲紫はスキマから身体を出して幽々子の向かいに座る。そして妖艶な笑みを浮かべながら口を開く。
「私があなたに会いに来ないで冬眠するわけないでしょう。最近会いに来なかったのは、冬眠前の所用を済ませていたから。結界のチェックも終わったし、霊夢にも会ってきた。これであなたと好きなだけ過ごすことができるわ」
「まあ。紫は欲張りさんね。私がちょうどお菓子を食べる時間にやってきて、好きなだけ居座って好きなだけお菓子を食べるつもりなのね」
幽々子はお菓子を乗せたお皿を手前に寄せて紫の手から守ろうとする。それを見て紫は呆れたように首を左右に振った。
「私は他人のお菓子に手を出すほど行儀の悪い妖怪ではありませんわ」
「門も通らずにスキマからいきなり人の屋敷に侵入してるくせに」
「ここは人の屋敷じゃなくて亡霊の屋敷よ」
「どっちにしても一緒」
お菓子を守りながら幽々子は緑茶を湯飲みに注ぐ。すると紫は幽々子の湯飲みの隣に湯飲みを差し出す。幽々子はどこから持って来たのよと視線を送るが、紫は口元を扇子で隠して笑うばかりだ。幽々子は「ほんとに仕方のない友人ね」と言いながらもその湯飲みに緑茶を注いだ。
「お菓子はあげないからね」
「ええ。私は人のものを取ったりしませんわ」
飄々とした態度でお茶を飲む紫。幽々子は不審に思ってもう一度聞きなおす。
「ほんとにいらないの?」
「だって、くれないのでしょ?」
「いつもはスキマから手を伸ばして取るのに?」
「今日は行儀がいい妖怪ということにしておくわ。それに、他人のものを取らなければいいだけだから、自分のものになるのを待てばいいだけでしょ」
「私が自分からあげるって言うと思う?」
「今日はたくさん時間があるから待ってみることにしたの」
幽々子は理解不能なことをする紫を警戒しつつ、お茶を飲みながら煎餅をかじる。ほとんど抱きかかえるようにしてお皿を持っている幽々子に対して、紫は手を伸ばすこともスキマを使うこともしようとしない。幽々子は不審がりながら紫を睨み、紫は相変わらず微笑を浮かべる。
数十分経ってもお互いの姿勢は変わらなかった。紫は一杯目のお茶を飲み干して以降何も口にしない。幽々子はと言えば、二杯目のお茶を湯飲みに注ぎ、お皿から大福を手に取ってかじる。
「ゆゆこ可愛い」
「な、何よいきなり」
「だって、お菓子を抱きかかえて大福を頬張りながらこっちを睨むんですもの」
「む……むう」
「あはは。可愛いわ」
何だか子ども扱いされている気分だと幽々子はそっぽを向いてしまう。ふと庭に目をやると、白い粉のようなものが空中を舞っていた。どうやらほんとうに雪が降り始めたようだ。
雪を見ると、幽々子はいつも紫のことを思い出してしまう。それは、雪が降る季節には紫に会うことができず、よく頭の中で紫の姿を思い描くからであった。今年もそんな季節がやってきたのかと思うと、幽々子は少し寂しげな表情になる。
「初雪ね」
紫が小さな声で言った。幽々子は寂しさが増す心を抑えながら言った。
「紫と初雪を見るのは何年ぶりかしら。毎年初雪が観測される前後に冬眠に入るのよね。去年はどうだったっけ」
「去年は初雪を見てから冬眠したわ」
「そう……。じゃあ二年連続なのね」
雪が降り始めたのと同時に風が少し強くなってきた。空から落ちてくる白い粉は風に煽られて舞い散り、廊下にまで落ちてきている。さらにその一部は、暖かいところを求めるかのように居間にまで舞いこんできていた。
「寒いから障子を閉めましょう」
幽々子は亡霊なのでちっとも寒くないが、妖怪である紫は寒いはずだ、と幽々子は思ったのだ。ずっと抱えていたお皿をちゃぶ台に置き、立ち上がって障子を閉めに向かった。妖夢は先ほどの服装から上着を一枚羽織って作業を続けていた。
パタン、と障子を閉じて幽々子が振り返ってみても、やはり紫は変わらぬ姿勢でそこに座り込んでいた。それを見て幽々子は、無駄だと分かっていながらも紫に質問を投げかけた。
「ねえ紫。私がこのままお菓子をあげないでいたら、紫は冬眠しないまま春まで居てくれるの?」
幽々子の言葉に紫は初めて表情を崩し、少し真剣に考えるような素振りを見せ、幽々子が再び紫の前に腰を落ち着けた頃に口を開いた。
「それは不可能ではないわ。この冬に冬眠をしないというのは、不可能ではない。でも、もしそれを実行したら、私はその一回分の冬眠を取り返すために、きっと何十年も眠りにつかなければいけなくなるわ。それはきっとよくないこと。私とあなたの関係においても。そして幻想郷の維持という観点においてもね」
紫は淡々と、しかしどこか憂うような面持ちで言った。
「うん。それはよくないわ。何十年も紫に会えないなんて悲しいもの。それに、一回の冬眠だけでも待ち遠しく感じるのに、何十年なんてきっと待ちきれないわ」
幽々子はあり得ないことと分かっていながらやはり悲しく思った。幻想郷の存続を脅かすことなど、決してやってはいけないのだと、幽々子は心の中で自分に言い聞かせた。
幽々子はちゃぶ台に置いたお皿を紫の方へ寄せる。
「お好きなお菓子をどうぞ」
「まあ優しい。いただきますわ」
紫は過度な演技をして煎餅を手に取り、パキッと割って口に運んだ。それからはしばらく二人とも無言で、居間には煎餅をかじる音だけが響いた。気付けばお皿にたんまり盛られたお菓子は綺麗さっぱりなくなってしまい、全て幽々子と紫の体内に収められていた。
「幽々子はほんとに食いしん坊さんね。亡霊なのにどこからその食欲が湧いてくるのかしら」
「それを言うなら、紫の睡眠欲だって同じじゃない」
「私の睡眠欲は生理的欲求だけど、あなたの食欲は違うでしょ」
「食事っていうのが最も簡単に娯楽と快感を与えてくれるものなの。これくらいの娯楽と快感が得られないと、何年も亡霊やってられないわよ」
幽々子がムキになって反論していると、庭に面した障子がパタン、と開かれ、凍えた様子の妖夢が「うーさむい」と言いながら入ってきた。妖夢は紫が来ていることに気付くと、表情を引き締めて頭を下げた。
「こ、これはお見苦しいところを」
「いいのよそんなの。寒いのは半人も妖怪も共通なんだから。誰かさんは知らないけど」
ニヤニヤと笑いながら紫が目を向けると、幽々子はまたそっぽを向いてしまう。
「ところで妖夢、あなた庭師以外に白玉楼での仕事は何かあるのかしら?」
紫がちょいちょいと手招きをするので、妖夢は落ち着かない様子で紫の近くに正座をする。それから少し考えてから質問に答えた。
「ええと、人里で人間を相手にする用事は私がやります。他の霊たちは人間と会話ができませんから。だから買い物は私の仕事です。荷物を運ぶのは皆でやりますが……」
「それじゃあ白玉楼の家計管理は妖夢がやっているの?」
「家計の管理とまではいきませんが、そうですね、支出全般は私が把握しているかと。収入面は幽々子さまが管理なさっているはずですが……そうですよね?」
幽々子は不機嫌そうに「そうよ」と答えた。紫が主張したいことが何となく読めているからだ。
「それじゃあ妖夢。白玉楼の消費支出のうち、飲食費が占める割合は何パーセントくらいかしら?」
「それただのエンゲル係数じゃない!」
幽々子は自分の食の太さを指摘されて紫に大声で怒鳴る。紫は全く怖気づくことなく妖夢に返答を急かす。妖夢はといえば、エンゲル係数という言葉がよく分かっていないようで、幽々子が何に怒っているのか理解が追いついていない。
「妖夢。分かっているわよね? 正直に答えなさい」
幽々子は笑顔で妖夢に訴えかけるが目は全く笑っていない。妖夢は幽々子の言葉の裏側に隠れている「少なめに答えなさい」という気持ちを全く汲み取れていなかった。結果、とんでもない数字が妖夢の口から飛び出すこととなった。
「ええっと、だいたい七十パーセントくらいですかね」
「あははっ。七十パーセントだって。むしろ残りの三十パーセントは何って感じね。お酒は七割のほうだから日用品かしら」
「あ、お酒も入るのなら九十パーセントくらいです」
その言葉で紫はお腹を抱えてうずくまってしまった。妖夢がチラと幽々子のほうを見ると、今度は目だけでなく顔も笑っていなかった。
「妖夢。今夜夕食後に私の書斎に来なさい。もし来なかったら……ふふ、この寒空の下で路頭に迷うどころじゃ済まないかもしれないわねぇ?」
「ひ、ひえぇ。そ、それだけはどうかご勘弁を」
その後は紫の「くくく――」という押し殺したような笑い声と、幽々子の「ふふふ――」という不気味な笑い声が居間に響き続けた。妖夢が無言で肩を震わせて一人怯えていたのは言うまでもない。
◆紫「とてもあたたかいわね」
妖夢が身体を震わせながら居間を退出したあとは、幽々子と紫の間で他愛も無い話が続いた。今年の初雪は例年通りの頃合いだとか、先日の満月が美しかっただとか、妖夢にどんなおしおきをするのかとか。二、三日すれば忘れてしまいそうな話題ばかりだった。仮に数日後に覚えていたとしても、紫が冬眠してしまえば、もう一度語り合うことはできないだろうが。
「具体的にいつ冬眠するの?」
「明日の夜からよ。明日の夜に眠ったが最後、私は来年の春まで起きることはないわ」
「そう……あと一日なのね……」
あと一日で紫は冬眠してしまう。そう考えると幽々子は寂しさを感じずにはいられない。同時にどうすることもできない虚しさが彼女を襲った。幽々子はただ待つことしかできない。
「春になればまた会えるじゃない」
「馬鹿。待つ方の身にもなりなさいよ。あんたは寝て起きたらそれで会えるけど、私はそうじゃないの。何日も何日も、同じような一日をあなた抜きで過ごさないといけないの。こんな私の気持ちを紫は考えたことがあるの……?」
語尾を弱弱しく言い放った幽々子の瞳には涙が溜まってこぼれそうになっていた。紫は幽々子の涙に濡れた目を見つめると、少しきまり悪いように目を逸らして言った。
「ごめんなさい。幽々子の言うとおりよ。軽率な発言だったわ」
紫は許しを請うように頭を下げた。幽々子は紫の謝る姿を見てどうにか涙を堪えた。泣き出してしまうのではないかと不安に思っていた紫は少し安心する。そして幽々子を、友人を安心させるために優しく語りかけた。
「私が冬眠するたびにあなたがそんな苦しみを味わっていたなんて想像もしなかったわ。ほんとに馬鹿ね。ごめんなさい」
紫はもう一度頭を下げた。幽々子は顔を上げた紫の目を見つめ、お互い視線が合ったところで紫が口を開いた。
「幽々子。今日ここに泊まっていいかしら」
「えっ? ああ、構わないけど、いきなりね」
「冬眠する直前までここにいてもいい?」
「あんた、自分のとこの式神はどうするのよ」
「藍にはあとで言っておくから。お願い。今はあなたと一緒に居たいの」
今度は紫がその目を若干潤わせながら言った。紫のはっきりとした意思表示に幽々子は戸惑いながらも受け入れることにした。普段は曖昧なことばっかり言ってるくせに、と幽々子は心の中で思っていた。しかしそんなことは些細なことで、実際は幽々子自身も「紫と一緒に居たい」と思っていたのだった。
夕食後、妖夢に紫の分の布団を用意しておくように幽々子が言うと、妖夢はびくっと身体を跳ねさせて「わかり、ました」と震える声で言った。それから夜のお説教は中止だと伝えると、初めは疑いながら幽々子の様子を窺っていたが、幽々子が説明をすると、やがて落ち着いたようでほっと胸を撫で下ろしていた。
廊下から庭を見ると、風は少し弱くなったみたいだが、降り続ける雪は全く止む様子を見せない。このままだと明日の朝には一面銀世界になっているかもしれないと、幽々子は予想していた。しかし同時に、降り積もった雪を踏みしめながら紫と散歩するのも悪くないなと、そんな妄想も抱いていた。紫は雪をあまり好ましく思っていないようで、今夜は冷えるわねぇ、と身体を縮めていた。
幽々子の寝室には二つの布団が、端をくっつけた状態で並べられていた。誰の計らいだろうか、と幽々子は首を傾げたが、紫はそんなことは毛ほども気にすることなく素早く片方の布団に潜り込んだ。
「ふー。寒いわ。幽々子は寒くないの?」
布団から頭だけを出して紫が問いかける。
「私は亡霊だからねー。やっぱり寒いのは苦手?」
「苦手じゃなければ冬眠しないわ」
幽々子はもう片方の布団に入りながら紫に質問を投げかける。
「あれ、紫が冬眠する理由ってそんな動物的な理由なの?」
「それもあるけど、もう一つ大きな理由があるの。私は冬になると妖力が低下するの。藍くらいの相手になら倒されてしまうほどにね」
「それはなかなか死活問題ねぇ」
幽々子は布団を被って天井を見つめる。外からは風が雨戸を揺らす音が伝わってくる。寝室には炭が入った火鉢が置いてあるだけで、ひんやりとした空気が顔の皮膚に刺さる。
「幽々子は寝る必要あるの?」
「私は亡霊だから睡眠は必要ない。睡眠も食事と同じような感覚よ」
「睡眠に娯楽を感じるの?」
「どっちかって言うと快感かな。寝る瞬間と起きる瞬間って気持ちいいじゃない」
幽々子は何でもないように言ったが、紫は布団の中で首を捻って考え込んでしまった。そしてしばらくして紫が不思議そうに呟いた。
「気持ちいいかしら?」
「気持ちいいじゃない。そもそも生理的欲求には快感が伴うものよ」
紫はしきりに首を傾げてよく分からないといった様子だ。対して幽々子はどうして分からないのかしら、と不思議に思っている。
「それじゃあ、幽々子は普段気持ちいいことばっかりしているのね」
「誤解を招くようなこと言わないで! それは詭弁よ!」
「あらあら。そんなにムキになるなんてますます怪しいわ。意外とあの庭師と毎晩イチャイチャしてるんじゃなくて?」
「してない! 絶対にしてない!」
幽々子は必死に首を振って否定するが、紫は全く信じていないようで、「お熱いこと」などと薄笑いを浮かべている。
そんなことを言っている紫こそ、あの式神と毎晩……なんて考えていると幽々子は顔が熱くなってしまった。
「ほ、ほんとにそんなことしてないからね? だいたい私、夜の営みなんて……経験がないんだから」
「あらそうなの。そういえば幽々子はお嫁に行く前に死んじゃったのね。でも亡霊になってからもう何百年も経つのに、未だに経験がないの?」
「そうよ」
「それは勿体ないわね。毎日気持ちいいことばっかりしている幽々子が未経験だなんて」
「紫、次に言ったら本気で怒るわよ」
幽々子が眉を吊り上げながらそう言うと、さすがに引き際かと判断した紫はそれ以上その言葉を口にすることはなかった。寝室には再び静寂が戻ってきて、たまに風の音が聞こえるだけになった。
紫は仰向けになって目を閉じている。幽々子からは既に眠ってしまったのか起きているのか判断ができない。あんなことを言われても、やはり紫は大事な友人だ。普段は意識しないけれど、明日には目の前から消えてしまうと思うと改めてその大切さを痛感させられる。
幽々子は紫の眠る布団に寄っていき、手前側の紫の手を掴んだ。寝室の冷たい空気からは感じられない温かさと安心感が得られる。
「どうしたの幽々子。手なんか握って」
「あ、起きてたの」
「ええ、ずっと起きてたわ」
「まだ寝ないの?」
「私が先に眠ってしまったら幽々子が寂しくなるじゃない」
そう言って紫は幽々子に握られた手を強く握り返す。そしてその手をぐっと引っ張り、幽々子の身体を紫の布団へ引き寄せた。
「ちょっ、どうしたの紫」
「さっきの話、私が教えてあげましょうか?」
さっきの話、と幽々子は記憶を掘り起こす。すぐに思い当たる節が頭に浮かんで顔が熱くなるのを感じた。
「な、何言ってるのよ紫」
「あら、幽々子は私じゃ嫌?」
「い、いや、じゃないけど、そういうことじゃなくて」
紫は戸惑う幽々子の手を取って指を一本ずつ絡める。さらに幽々子に顔を目一杯まで近づけてその目を見つめる。幽々子の吐息が紫の金色の前髪を揺らす。
「私が居なくて寂しくなったら今夜のことを思い出して。なんていうのは都合がよすぎるかしら?」
紫は幽々子の身体を抱き寄せて密着させる。紫の生暖かい息が顔にかかるたびに、幽々子はびくんと身体を震わせる。呼吸が早くなり頭が真っ白になっていく。
「ほんとに経験がなかったのね。それにしても反応しすぎじゃないかしら」
「知らないわよ。身体が勝手に、熱くなるんだもの」
「実は少し境界をいじったのだけれど」
「馬鹿。さっきから息苦しいの。早く戻して」
「そんなに弱いとは思っていなかったわ」
紫は幽々子の胸に手を当てると、その手をすっとお腹の方へ撫で下ろした。一瞬、「ひうっ」という幽々子の甘い声が響いたが、直後に幽々子の息苦しさはゆっくりと解消されていった。
「落ち着いた?」
「うん。さっきよりはまし」
幽々子は胸に手を当てて深く呼吸をする。
「ごめんなさい。幽々子がそんなに敏感だとは思わなかったの。やはり無闇に境界をいじるのはよくないわね」
今度は紫が幽々子の顎を持ち上げて視線を合わせようとする。真剣な眼差しを向ける紫に対して幽々子は困惑ぎみだ。
「続きはやめましょうか」
紫は真剣な面持ちを崩し言った。
「続きがどんなものか分からないけどやめておくわ。私は紫と一緒に眠れるだけで十分よ」
幽々子は紫の身体に抱きつくようにして掛け布団の内側に収まろうとする。しかし紫は「何してるのよ」と腰に回そうとする幽々子の手を払った。
「続きをしないなら同じ布団で寝ないわよ。ほら、戻って」
「そ、そんな殺生な。最後の夜くらい互いの体温を感じあったっていいじゃない」
「だーめ。くっつかれたら寝付けないじゃない」
紫は掛け布団を深くかぶると、寝返りを打って幽々子に背中を向けてしまう。幽々子は紫の肩を掴んで揺らしてみるが、一向に振り向いてはくれない。さらに「寒いから早く出ていって」と言われてしまう始末である。
幽々子は紫の背中に物悲しさを感じながら仕方なく自身の布団に戻った。それでも紫は背を向けたままだ。幽々子はこのまま紫が眠ってしまったら、と考えると胸の奥が痛んだ。
何よ。さっきまでは調子よく乙女の純情を弄んでいたくせに。断られた途端にそっぽ向けるなんて。幽々子は猫のようにころころと変わる気分屋な紫の性格が、今回ばかりは恨めしく思った。「あなたと一緒に居たいの」と言ってくれたあの言葉はそんなに軽い言葉だったのか、とあの時の紫の口調を思い出す。
紫は相変わらずこちらを向いてくれない。初めは怒りの感情もあったが、今は徐々に消え去って寂しさだけが残っている。紫の背中が私を拒絶しているように思えた。
このままお別れしたくない。こんな別れ方をしてしまったら、私はこの冬を乗り越えられないと、幽々子はそう思った。だから、勇気を持って紫のその背中に話しかけた。
「ねえ紫。その、さっきの続きって、どんなことするの?」
すると紫は意外なほどあっさりと振り向いた。まるで幽々子の言葉を待っていたかのように。そして布団に肘をついた体勢で紫はいつもの微笑を交えて答えた。
「そうねぇ。まずは抱擁と口付けあたりかしら」
「う、うん。それで、その次は?」
「次に幽々子の服を脱がせて裸にしてから」
「待って。ちょっと待って。それは私を羞恥心でいっぱいにして弄ぶ紫の遊びでしょう」
「そんなことないわよ。夜の営みなんてこんなものよ」
「そ、そうなの?」
幽々子は自分の衣服を全て脱がされた場面を想像する。頭から足先まで全て紫に見られてしまうなんて、考えるだけで顔から火が出そうになってしまう。
「それで、続きするの?」
しないならもう寝るわよ、と紫はまたごろんと背を向ける。先ほど自分が先に寝ることはないと言ったことを、幽々子は忘れているのだろうか、と紫はニヤニヤと笑う。さっきから全て自分の思惑通りに事が進んでにやけ顔が止まらないわ、と紫は幽々子に隠れてずっと笑っているのだった。そんなことは全く知らない幽々子は、紫と一緒に眠りたいがために紫の条件を飲んでしまう。
「続きをしたら一緒に寝てくれるの?」
半ば懇願するような口調で幽々子が言った。すると紫はまたすぐに振り返って「ええ。一緒に寝てあげるわ」と答えた。
「それじゃあ、続きをしましょう」
「ん、分かったわ」
紫は自分の掛け布団の幽々子を上げて「いらっしゃい」と誘う。幽々子は四つんばいで紫の下へ向かった。
「一つずつやりましょうか。どうせさっきみたいなことになるでしょうけど」
「ど、どうせって何よ!」
「ほらほら叫ばない。まずは黙って見つめ合うのよ」
紫は幽々子を熱い視線で捕らえた。幽々子は感じたことがない雰囲気に胸が高鳴っていく。そうして数十秒、あるいは数分見つめあった後、紫は幽々子の身体を思い切り抱きしめた。紫の熱すぎるほどの体温が幽々子に伝わる。
次に紫は抱きしめたまま幽々子の髪を優しく撫でた。何度も何度も。幽々子のピンク色の髪が紫の指の間からするすると抜けていく。幽々子は初めての感触を紫の腕の内で味わっていた。
「気持ちいい? 幽々子」
「うん……」
未知の感覚に浸りながら幽々子は紫の胸に顔を埋める。すると紫の心臓の鼓動が幽々子に伝わってきた。
「紫にも心臓があるのね」
「勿論あるわよ。生きている妖怪だもの」
幽々子は紫が自分と違って生きていることを再確認した。そして幽々子の中に一つの邪念が生まれる。滅多に使うことのない自分の能力について、ある一つの冴えない使い道を思いついたのだった。
「ねえ紫。あなたも亡霊になれば冬眠なんて必要なくなるわよ」
「ああ、そう言われればそうね」
「もし、紫が亡霊になりたくなったら、私が殺してあげるわよ」
「その時はお願いするわ。もっとも、そんな時が来るかどうかは分からない。いえ、きっと来ないでしょうけれど」
紫は妖怪であることに誇りを持っていた。だから幽々子の提案にはすぐに拒否の姿勢を見せたのだった。
「私が私であるためには、妖怪でないといけないの。死んでしまってはいけない。だから冬眠も、仕方のないことなのよ」
紫はどこか割り切っている様子で言った。幽々子もその口調から心の内を察したのか、それ以上言い返すことはなかった。
「まだ続きする?」
「次って口付けでしょ? やめておくわ」
「あら残念。とっても気持ちいいことなのに」
「そんな言葉で釣られないわよ」
「気持ちいいのはもちろんだけど、口付けはとても素敵なことでもあるのよ。人間は進化の過程で人間にしかない愛情表現を生み出した。それが口付けなの。どんな口付けにもそこには愛情があるのよ」
確かに素敵ね、と幽々子は呟いた。そして続けて紫に言う。
「でも、やめておく。今これ以上愛を感じてしまったら、離れることができなくなるもの」
「そうね。私もそう思うわ」
だから、先には進まない。と幽々子は心の中で密かに思った。深く深く進みすぎると戻ってこれなくなるから、と。紫は今一度幽々子を力強く抱きしめ、その手を静かに離した。
「これで幽々子の匂いを纏ったまま冬眠できそうよ」
「ふふ。私も、寂しくなっても紫の匂いは忘れないわ」
紫は幽々子の手を取って指を絡めると、仰向けになって目を閉じた。幽々子も紫に倣って同じように目を瞑る。繋がれた手は二人の熱が交じっている。
「夜が降りてきたわ。もう眠る時間ね」
紫は意味深に呟いたが、幽々子は言葉を返さなかった。紫は決しておやすみと言わないというのが、彼女自身のルールだった。だから彼女は洒落た言葉を探して、それをおやすみの代わりにしたのだった。
「今夜は冷えると思っていたけど」
そこで幽々子の手を強く握って、続けた。
「とてもあたたかいわね」
幽々子は言葉を返さず、代わりに紫の手を負けないくらい強く握り返した。心の中で「おやすみなさい」と呟きながら。
◆夢の足跡
翌朝、庭に降り積もった雪の上を歩く二つの影があった。
「ねえ、手、繋いでいい?」
「はいはい。幽々子は欲張りさんね」
紫は幽々子が差し出した手を握る。
「昨日みたいな繋ぎ方してよ」
「はいはい」
幽々子の指の間に紫の指が滑り込む。
「こんな朝早くから散歩なんて、幽々子はお年寄りねえ」
「ねえ紫。今だけはふざけないで。お願い」
幽々子が懇願すると紫は首を傾げながらも従うことにした。手を繋いだ二人は柔らかい新雪に足跡をつけていく。空気は冷え切っているが、繋いだ手だけは熱を帯びていた。雪を踏みしめる独特の音だけが庭に響く。そうして庭を一周すると、幽々子は自分たちがつけた足跡を見て満足したように笑った。
「私ね、あなたと雪の上を歩くのが夢だったの」
「そう。すごく乙女らしい夢ね。でもそんな夢を持つ理由はよく分かるわ」
きっと私のせいだろうと、紫は思っていた。雪が積もるような季節には、私はほぼ確実に冬眠してしまっているから。実現不可能のように思えるからこそ、幽々子の夢になったんだろうとそう思った。
夢を叶えた証がくっきり雪上に残るというのはなかなかロマンチックね、と紫は呟く。幽々子は夢の足跡をたどるように、もう一度紫の手を引いて歩き出した。とても嬉しそうに歩く幽々子を見て、紫は密かに安心していた。これだけ満足していれば、もう冬眠の時に引き止められることはないだろうと、そう思っていた。
「この足跡もいつかは消えてしまうのね」
紫は寂しげに言ったが、幽々子は逆に明るい声を出した。
「消えてしまっても、私の記憶の中にはいつまでも残り続けるわ。きっと、何十年も何百年も」
「ええ、私もきっと忘れないわ」
雪の上の二つの影はお互いの顔を見つめ合い、少女のような澱みのない笑顔を見せた。
「今日はまた一段と冷えてきたわね」と、白玉楼の廊下を歩きながら西行寺幽々子は呟いた。空には濁った白い雲が浮かんでいて、今にも雪が降り出しそうだ。
「ようむー?」
「私はここですよ幽々子さま」
妖夢は庭の手入れをしていた。そういえば朝食の際に庭の気になる部分について話し合ったなと幽々子は思い出す。
「作業をしているのならいいの。お茶が飲みたかっただけだから。自分でやるわ」
妖夢は「よろしいのですか?」と首を傾げたが、やがて納得したようにまた作業に戻っていった。
私だって自分でお茶くらい淹れられるわよ。それに妖夢の目が無ければ好きなだけお菓子を持っていくことができるもん、と幽々子はご機嫌な足取りで台所に向かった。
幽々子は煎餅や大福など、ありとあらゆるお菓子をお皿に乗せ、湯飲みと急須を持って居間に向かった。
お茶の葉が広がるまであと少しというところで、突然幽々子の目の前の空間が裂け、そこからこちらもご機嫌そうなの幽々子の友人が現れた。
「こんにちは幽々子」
「あらまあ。久しぶりね紫。最近全く顔を見せないから、もう冬眠したのかと思っていたわ」
八雲紫はスキマから身体を出して幽々子の向かいに座る。そして妖艶な笑みを浮かべながら口を開く。
「私があなたに会いに来ないで冬眠するわけないでしょう。最近会いに来なかったのは、冬眠前の所用を済ませていたから。結界のチェックも終わったし、霊夢にも会ってきた。これであなたと好きなだけ過ごすことができるわ」
「まあ。紫は欲張りさんね。私がちょうどお菓子を食べる時間にやってきて、好きなだけ居座って好きなだけお菓子を食べるつもりなのね」
幽々子はお菓子を乗せたお皿を手前に寄せて紫の手から守ろうとする。それを見て紫は呆れたように首を左右に振った。
「私は他人のお菓子に手を出すほど行儀の悪い妖怪ではありませんわ」
「門も通らずにスキマからいきなり人の屋敷に侵入してるくせに」
「ここは人の屋敷じゃなくて亡霊の屋敷よ」
「どっちにしても一緒」
お菓子を守りながら幽々子は緑茶を湯飲みに注ぐ。すると紫は幽々子の湯飲みの隣に湯飲みを差し出す。幽々子はどこから持って来たのよと視線を送るが、紫は口元を扇子で隠して笑うばかりだ。幽々子は「ほんとに仕方のない友人ね」と言いながらもその湯飲みに緑茶を注いだ。
「お菓子はあげないからね」
「ええ。私は人のものを取ったりしませんわ」
飄々とした態度でお茶を飲む紫。幽々子は不審に思ってもう一度聞きなおす。
「ほんとにいらないの?」
「だって、くれないのでしょ?」
「いつもはスキマから手を伸ばして取るのに?」
「今日は行儀がいい妖怪ということにしておくわ。それに、他人のものを取らなければいいだけだから、自分のものになるのを待てばいいだけでしょ」
「私が自分からあげるって言うと思う?」
「今日はたくさん時間があるから待ってみることにしたの」
幽々子は理解不能なことをする紫を警戒しつつ、お茶を飲みながら煎餅をかじる。ほとんど抱きかかえるようにしてお皿を持っている幽々子に対して、紫は手を伸ばすこともスキマを使うこともしようとしない。幽々子は不審がりながら紫を睨み、紫は相変わらず微笑を浮かべる。
数十分経ってもお互いの姿勢は変わらなかった。紫は一杯目のお茶を飲み干して以降何も口にしない。幽々子はと言えば、二杯目のお茶を湯飲みに注ぎ、お皿から大福を手に取ってかじる。
「ゆゆこ可愛い」
「な、何よいきなり」
「だって、お菓子を抱きかかえて大福を頬張りながらこっちを睨むんですもの」
「む……むう」
「あはは。可愛いわ」
何だか子ども扱いされている気分だと幽々子はそっぽを向いてしまう。ふと庭に目をやると、白い粉のようなものが空中を舞っていた。どうやらほんとうに雪が降り始めたようだ。
雪を見ると、幽々子はいつも紫のことを思い出してしまう。それは、雪が降る季節には紫に会うことができず、よく頭の中で紫の姿を思い描くからであった。今年もそんな季節がやってきたのかと思うと、幽々子は少し寂しげな表情になる。
「初雪ね」
紫が小さな声で言った。幽々子は寂しさが増す心を抑えながら言った。
「紫と初雪を見るのは何年ぶりかしら。毎年初雪が観測される前後に冬眠に入るのよね。去年はどうだったっけ」
「去年は初雪を見てから冬眠したわ」
「そう……。じゃあ二年連続なのね」
雪が降り始めたのと同時に風が少し強くなってきた。空から落ちてくる白い粉は風に煽られて舞い散り、廊下にまで落ちてきている。さらにその一部は、暖かいところを求めるかのように居間にまで舞いこんできていた。
「寒いから障子を閉めましょう」
幽々子は亡霊なのでちっとも寒くないが、妖怪である紫は寒いはずだ、と幽々子は思ったのだ。ずっと抱えていたお皿をちゃぶ台に置き、立ち上がって障子を閉めに向かった。妖夢は先ほどの服装から上着を一枚羽織って作業を続けていた。
パタン、と障子を閉じて幽々子が振り返ってみても、やはり紫は変わらぬ姿勢でそこに座り込んでいた。それを見て幽々子は、無駄だと分かっていながらも紫に質問を投げかけた。
「ねえ紫。私がこのままお菓子をあげないでいたら、紫は冬眠しないまま春まで居てくれるの?」
幽々子の言葉に紫は初めて表情を崩し、少し真剣に考えるような素振りを見せ、幽々子が再び紫の前に腰を落ち着けた頃に口を開いた。
「それは不可能ではないわ。この冬に冬眠をしないというのは、不可能ではない。でも、もしそれを実行したら、私はその一回分の冬眠を取り返すために、きっと何十年も眠りにつかなければいけなくなるわ。それはきっとよくないこと。私とあなたの関係においても。そして幻想郷の維持という観点においてもね」
紫は淡々と、しかしどこか憂うような面持ちで言った。
「うん。それはよくないわ。何十年も紫に会えないなんて悲しいもの。それに、一回の冬眠だけでも待ち遠しく感じるのに、何十年なんてきっと待ちきれないわ」
幽々子はあり得ないことと分かっていながらやはり悲しく思った。幻想郷の存続を脅かすことなど、決してやってはいけないのだと、幽々子は心の中で自分に言い聞かせた。
幽々子はちゃぶ台に置いたお皿を紫の方へ寄せる。
「お好きなお菓子をどうぞ」
「まあ優しい。いただきますわ」
紫は過度な演技をして煎餅を手に取り、パキッと割って口に運んだ。それからはしばらく二人とも無言で、居間には煎餅をかじる音だけが響いた。気付けばお皿にたんまり盛られたお菓子は綺麗さっぱりなくなってしまい、全て幽々子と紫の体内に収められていた。
「幽々子はほんとに食いしん坊さんね。亡霊なのにどこからその食欲が湧いてくるのかしら」
「それを言うなら、紫の睡眠欲だって同じじゃない」
「私の睡眠欲は生理的欲求だけど、あなたの食欲は違うでしょ」
「食事っていうのが最も簡単に娯楽と快感を与えてくれるものなの。これくらいの娯楽と快感が得られないと、何年も亡霊やってられないわよ」
幽々子がムキになって反論していると、庭に面した障子がパタン、と開かれ、凍えた様子の妖夢が「うーさむい」と言いながら入ってきた。妖夢は紫が来ていることに気付くと、表情を引き締めて頭を下げた。
「こ、これはお見苦しいところを」
「いいのよそんなの。寒いのは半人も妖怪も共通なんだから。誰かさんは知らないけど」
ニヤニヤと笑いながら紫が目を向けると、幽々子はまたそっぽを向いてしまう。
「ところで妖夢、あなた庭師以外に白玉楼での仕事は何かあるのかしら?」
紫がちょいちょいと手招きをするので、妖夢は落ち着かない様子で紫の近くに正座をする。それから少し考えてから質問に答えた。
「ええと、人里で人間を相手にする用事は私がやります。他の霊たちは人間と会話ができませんから。だから買い物は私の仕事です。荷物を運ぶのは皆でやりますが……」
「それじゃあ白玉楼の家計管理は妖夢がやっているの?」
「家計の管理とまではいきませんが、そうですね、支出全般は私が把握しているかと。収入面は幽々子さまが管理なさっているはずですが……そうですよね?」
幽々子は不機嫌そうに「そうよ」と答えた。紫が主張したいことが何となく読めているからだ。
「それじゃあ妖夢。白玉楼の消費支出のうち、飲食費が占める割合は何パーセントくらいかしら?」
「それただのエンゲル係数じゃない!」
幽々子は自分の食の太さを指摘されて紫に大声で怒鳴る。紫は全く怖気づくことなく妖夢に返答を急かす。妖夢はといえば、エンゲル係数という言葉がよく分かっていないようで、幽々子が何に怒っているのか理解が追いついていない。
「妖夢。分かっているわよね? 正直に答えなさい」
幽々子は笑顔で妖夢に訴えかけるが目は全く笑っていない。妖夢は幽々子の言葉の裏側に隠れている「少なめに答えなさい」という気持ちを全く汲み取れていなかった。結果、とんでもない数字が妖夢の口から飛び出すこととなった。
「ええっと、だいたい七十パーセントくらいですかね」
「あははっ。七十パーセントだって。むしろ残りの三十パーセントは何って感じね。お酒は七割のほうだから日用品かしら」
「あ、お酒も入るのなら九十パーセントくらいです」
その言葉で紫はお腹を抱えてうずくまってしまった。妖夢がチラと幽々子のほうを見ると、今度は目だけでなく顔も笑っていなかった。
「妖夢。今夜夕食後に私の書斎に来なさい。もし来なかったら……ふふ、この寒空の下で路頭に迷うどころじゃ済まないかもしれないわねぇ?」
「ひ、ひえぇ。そ、それだけはどうかご勘弁を」
その後は紫の「くくく――」という押し殺したような笑い声と、幽々子の「ふふふ――」という不気味な笑い声が居間に響き続けた。妖夢が無言で肩を震わせて一人怯えていたのは言うまでもない。
◆紫「とてもあたたかいわね」
妖夢が身体を震わせながら居間を退出したあとは、幽々子と紫の間で他愛も無い話が続いた。今年の初雪は例年通りの頃合いだとか、先日の満月が美しかっただとか、妖夢にどんなおしおきをするのかとか。二、三日すれば忘れてしまいそうな話題ばかりだった。仮に数日後に覚えていたとしても、紫が冬眠してしまえば、もう一度語り合うことはできないだろうが。
「具体的にいつ冬眠するの?」
「明日の夜からよ。明日の夜に眠ったが最後、私は来年の春まで起きることはないわ」
「そう……あと一日なのね……」
あと一日で紫は冬眠してしまう。そう考えると幽々子は寂しさを感じずにはいられない。同時にどうすることもできない虚しさが彼女を襲った。幽々子はただ待つことしかできない。
「春になればまた会えるじゃない」
「馬鹿。待つ方の身にもなりなさいよ。あんたは寝て起きたらそれで会えるけど、私はそうじゃないの。何日も何日も、同じような一日をあなた抜きで過ごさないといけないの。こんな私の気持ちを紫は考えたことがあるの……?」
語尾を弱弱しく言い放った幽々子の瞳には涙が溜まってこぼれそうになっていた。紫は幽々子の涙に濡れた目を見つめると、少しきまり悪いように目を逸らして言った。
「ごめんなさい。幽々子の言うとおりよ。軽率な発言だったわ」
紫は許しを請うように頭を下げた。幽々子は紫の謝る姿を見てどうにか涙を堪えた。泣き出してしまうのではないかと不安に思っていた紫は少し安心する。そして幽々子を、友人を安心させるために優しく語りかけた。
「私が冬眠するたびにあなたがそんな苦しみを味わっていたなんて想像もしなかったわ。ほんとに馬鹿ね。ごめんなさい」
紫はもう一度頭を下げた。幽々子は顔を上げた紫の目を見つめ、お互い視線が合ったところで紫が口を開いた。
「幽々子。今日ここに泊まっていいかしら」
「えっ? ああ、構わないけど、いきなりね」
「冬眠する直前までここにいてもいい?」
「あんた、自分のとこの式神はどうするのよ」
「藍にはあとで言っておくから。お願い。今はあなたと一緒に居たいの」
今度は紫がその目を若干潤わせながら言った。紫のはっきりとした意思表示に幽々子は戸惑いながらも受け入れることにした。普段は曖昧なことばっかり言ってるくせに、と幽々子は心の中で思っていた。しかしそんなことは些細なことで、実際は幽々子自身も「紫と一緒に居たい」と思っていたのだった。
夕食後、妖夢に紫の分の布団を用意しておくように幽々子が言うと、妖夢はびくっと身体を跳ねさせて「わかり、ました」と震える声で言った。それから夜のお説教は中止だと伝えると、初めは疑いながら幽々子の様子を窺っていたが、幽々子が説明をすると、やがて落ち着いたようでほっと胸を撫で下ろしていた。
廊下から庭を見ると、風は少し弱くなったみたいだが、降り続ける雪は全く止む様子を見せない。このままだと明日の朝には一面銀世界になっているかもしれないと、幽々子は予想していた。しかし同時に、降り積もった雪を踏みしめながら紫と散歩するのも悪くないなと、そんな妄想も抱いていた。紫は雪をあまり好ましく思っていないようで、今夜は冷えるわねぇ、と身体を縮めていた。
幽々子の寝室には二つの布団が、端をくっつけた状態で並べられていた。誰の計らいだろうか、と幽々子は首を傾げたが、紫はそんなことは毛ほども気にすることなく素早く片方の布団に潜り込んだ。
「ふー。寒いわ。幽々子は寒くないの?」
布団から頭だけを出して紫が問いかける。
「私は亡霊だからねー。やっぱり寒いのは苦手?」
「苦手じゃなければ冬眠しないわ」
幽々子はもう片方の布団に入りながら紫に質問を投げかける。
「あれ、紫が冬眠する理由ってそんな動物的な理由なの?」
「それもあるけど、もう一つ大きな理由があるの。私は冬になると妖力が低下するの。藍くらいの相手になら倒されてしまうほどにね」
「それはなかなか死活問題ねぇ」
幽々子は布団を被って天井を見つめる。外からは風が雨戸を揺らす音が伝わってくる。寝室には炭が入った火鉢が置いてあるだけで、ひんやりとした空気が顔の皮膚に刺さる。
「幽々子は寝る必要あるの?」
「私は亡霊だから睡眠は必要ない。睡眠も食事と同じような感覚よ」
「睡眠に娯楽を感じるの?」
「どっちかって言うと快感かな。寝る瞬間と起きる瞬間って気持ちいいじゃない」
幽々子は何でもないように言ったが、紫は布団の中で首を捻って考え込んでしまった。そしてしばらくして紫が不思議そうに呟いた。
「気持ちいいかしら?」
「気持ちいいじゃない。そもそも生理的欲求には快感が伴うものよ」
紫はしきりに首を傾げてよく分からないといった様子だ。対して幽々子はどうして分からないのかしら、と不思議に思っている。
「それじゃあ、幽々子は普段気持ちいいことばっかりしているのね」
「誤解を招くようなこと言わないで! それは詭弁よ!」
「あらあら。そんなにムキになるなんてますます怪しいわ。意外とあの庭師と毎晩イチャイチャしてるんじゃなくて?」
「してない! 絶対にしてない!」
幽々子は必死に首を振って否定するが、紫は全く信じていないようで、「お熱いこと」などと薄笑いを浮かべている。
そんなことを言っている紫こそ、あの式神と毎晩……なんて考えていると幽々子は顔が熱くなってしまった。
「ほ、ほんとにそんなことしてないからね? だいたい私、夜の営みなんて……経験がないんだから」
「あらそうなの。そういえば幽々子はお嫁に行く前に死んじゃったのね。でも亡霊になってからもう何百年も経つのに、未だに経験がないの?」
「そうよ」
「それは勿体ないわね。毎日気持ちいいことばっかりしている幽々子が未経験だなんて」
「紫、次に言ったら本気で怒るわよ」
幽々子が眉を吊り上げながらそう言うと、さすがに引き際かと判断した紫はそれ以上その言葉を口にすることはなかった。寝室には再び静寂が戻ってきて、たまに風の音が聞こえるだけになった。
紫は仰向けになって目を閉じている。幽々子からは既に眠ってしまったのか起きているのか判断ができない。あんなことを言われても、やはり紫は大事な友人だ。普段は意識しないけれど、明日には目の前から消えてしまうと思うと改めてその大切さを痛感させられる。
幽々子は紫の眠る布団に寄っていき、手前側の紫の手を掴んだ。寝室の冷たい空気からは感じられない温かさと安心感が得られる。
「どうしたの幽々子。手なんか握って」
「あ、起きてたの」
「ええ、ずっと起きてたわ」
「まだ寝ないの?」
「私が先に眠ってしまったら幽々子が寂しくなるじゃない」
そう言って紫は幽々子に握られた手を強く握り返す。そしてその手をぐっと引っ張り、幽々子の身体を紫の布団へ引き寄せた。
「ちょっ、どうしたの紫」
「さっきの話、私が教えてあげましょうか?」
さっきの話、と幽々子は記憶を掘り起こす。すぐに思い当たる節が頭に浮かんで顔が熱くなるのを感じた。
「な、何言ってるのよ紫」
「あら、幽々子は私じゃ嫌?」
「い、いや、じゃないけど、そういうことじゃなくて」
紫は戸惑う幽々子の手を取って指を一本ずつ絡める。さらに幽々子に顔を目一杯まで近づけてその目を見つめる。幽々子の吐息が紫の金色の前髪を揺らす。
「私が居なくて寂しくなったら今夜のことを思い出して。なんていうのは都合がよすぎるかしら?」
紫は幽々子の身体を抱き寄せて密着させる。紫の生暖かい息が顔にかかるたびに、幽々子はびくんと身体を震わせる。呼吸が早くなり頭が真っ白になっていく。
「ほんとに経験がなかったのね。それにしても反応しすぎじゃないかしら」
「知らないわよ。身体が勝手に、熱くなるんだもの」
「実は少し境界をいじったのだけれど」
「馬鹿。さっきから息苦しいの。早く戻して」
「そんなに弱いとは思っていなかったわ」
紫は幽々子の胸に手を当てると、その手をすっとお腹の方へ撫で下ろした。一瞬、「ひうっ」という幽々子の甘い声が響いたが、直後に幽々子の息苦しさはゆっくりと解消されていった。
「落ち着いた?」
「うん。さっきよりはまし」
幽々子は胸に手を当てて深く呼吸をする。
「ごめんなさい。幽々子がそんなに敏感だとは思わなかったの。やはり無闇に境界をいじるのはよくないわね」
今度は紫が幽々子の顎を持ち上げて視線を合わせようとする。真剣な眼差しを向ける紫に対して幽々子は困惑ぎみだ。
「続きはやめましょうか」
紫は真剣な面持ちを崩し言った。
「続きがどんなものか分からないけどやめておくわ。私は紫と一緒に眠れるだけで十分よ」
幽々子は紫の身体に抱きつくようにして掛け布団の内側に収まろうとする。しかし紫は「何してるのよ」と腰に回そうとする幽々子の手を払った。
「続きをしないなら同じ布団で寝ないわよ。ほら、戻って」
「そ、そんな殺生な。最後の夜くらい互いの体温を感じあったっていいじゃない」
「だーめ。くっつかれたら寝付けないじゃない」
紫は掛け布団を深くかぶると、寝返りを打って幽々子に背中を向けてしまう。幽々子は紫の肩を掴んで揺らしてみるが、一向に振り向いてはくれない。さらに「寒いから早く出ていって」と言われてしまう始末である。
幽々子は紫の背中に物悲しさを感じながら仕方なく自身の布団に戻った。それでも紫は背を向けたままだ。幽々子はこのまま紫が眠ってしまったら、と考えると胸の奥が痛んだ。
何よ。さっきまでは調子よく乙女の純情を弄んでいたくせに。断られた途端にそっぽ向けるなんて。幽々子は猫のようにころころと変わる気分屋な紫の性格が、今回ばかりは恨めしく思った。「あなたと一緒に居たいの」と言ってくれたあの言葉はそんなに軽い言葉だったのか、とあの時の紫の口調を思い出す。
紫は相変わらずこちらを向いてくれない。初めは怒りの感情もあったが、今は徐々に消え去って寂しさだけが残っている。紫の背中が私を拒絶しているように思えた。
このままお別れしたくない。こんな別れ方をしてしまったら、私はこの冬を乗り越えられないと、幽々子はそう思った。だから、勇気を持って紫のその背中に話しかけた。
「ねえ紫。その、さっきの続きって、どんなことするの?」
すると紫は意外なほどあっさりと振り向いた。まるで幽々子の言葉を待っていたかのように。そして布団に肘をついた体勢で紫はいつもの微笑を交えて答えた。
「そうねぇ。まずは抱擁と口付けあたりかしら」
「う、うん。それで、その次は?」
「次に幽々子の服を脱がせて裸にしてから」
「待って。ちょっと待って。それは私を羞恥心でいっぱいにして弄ぶ紫の遊びでしょう」
「そんなことないわよ。夜の営みなんてこんなものよ」
「そ、そうなの?」
幽々子は自分の衣服を全て脱がされた場面を想像する。頭から足先まで全て紫に見られてしまうなんて、考えるだけで顔から火が出そうになってしまう。
「それで、続きするの?」
しないならもう寝るわよ、と紫はまたごろんと背を向ける。先ほど自分が先に寝ることはないと言ったことを、幽々子は忘れているのだろうか、と紫はニヤニヤと笑う。さっきから全て自分の思惑通りに事が進んでにやけ顔が止まらないわ、と紫は幽々子に隠れてずっと笑っているのだった。そんなことは全く知らない幽々子は、紫と一緒に眠りたいがために紫の条件を飲んでしまう。
「続きをしたら一緒に寝てくれるの?」
半ば懇願するような口調で幽々子が言った。すると紫はまたすぐに振り返って「ええ。一緒に寝てあげるわ」と答えた。
「それじゃあ、続きをしましょう」
「ん、分かったわ」
紫は自分の掛け布団の幽々子を上げて「いらっしゃい」と誘う。幽々子は四つんばいで紫の下へ向かった。
「一つずつやりましょうか。どうせさっきみたいなことになるでしょうけど」
「ど、どうせって何よ!」
「ほらほら叫ばない。まずは黙って見つめ合うのよ」
紫は幽々子を熱い視線で捕らえた。幽々子は感じたことがない雰囲気に胸が高鳴っていく。そうして数十秒、あるいは数分見つめあった後、紫は幽々子の身体を思い切り抱きしめた。紫の熱すぎるほどの体温が幽々子に伝わる。
次に紫は抱きしめたまま幽々子の髪を優しく撫でた。何度も何度も。幽々子のピンク色の髪が紫の指の間からするすると抜けていく。幽々子は初めての感触を紫の腕の内で味わっていた。
「気持ちいい? 幽々子」
「うん……」
未知の感覚に浸りながら幽々子は紫の胸に顔を埋める。すると紫の心臓の鼓動が幽々子に伝わってきた。
「紫にも心臓があるのね」
「勿論あるわよ。生きている妖怪だもの」
幽々子は紫が自分と違って生きていることを再確認した。そして幽々子の中に一つの邪念が生まれる。滅多に使うことのない自分の能力について、ある一つの冴えない使い道を思いついたのだった。
「ねえ紫。あなたも亡霊になれば冬眠なんて必要なくなるわよ」
「ああ、そう言われればそうね」
「もし、紫が亡霊になりたくなったら、私が殺してあげるわよ」
「その時はお願いするわ。もっとも、そんな時が来るかどうかは分からない。いえ、きっと来ないでしょうけれど」
紫は妖怪であることに誇りを持っていた。だから幽々子の提案にはすぐに拒否の姿勢を見せたのだった。
「私が私であるためには、妖怪でないといけないの。死んでしまってはいけない。だから冬眠も、仕方のないことなのよ」
紫はどこか割り切っている様子で言った。幽々子もその口調から心の内を察したのか、それ以上言い返すことはなかった。
「まだ続きする?」
「次って口付けでしょ? やめておくわ」
「あら残念。とっても気持ちいいことなのに」
「そんな言葉で釣られないわよ」
「気持ちいいのはもちろんだけど、口付けはとても素敵なことでもあるのよ。人間は進化の過程で人間にしかない愛情表現を生み出した。それが口付けなの。どんな口付けにもそこには愛情があるのよ」
確かに素敵ね、と幽々子は呟いた。そして続けて紫に言う。
「でも、やめておく。今これ以上愛を感じてしまったら、離れることができなくなるもの」
「そうね。私もそう思うわ」
だから、先には進まない。と幽々子は心の中で密かに思った。深く深く進みすぎると戻ってこれなくなるから、と。紫は今一度幽々子を力強く抱きしめ、その手を静かに離した。
「これで幽々子の匂いを纏ったまま冬眠できそうよ」
「ふふ。私も、寂しくなっても紫の匂いは忘れないわ」
紫は幽々子の手を取って指を絡めると、仰向けになって目を閉じた。幽々子も紫に倣って同じように目を瞑る。繋がれた手は二人の熱が交じっている。
「夜が降りてきたわ。もう眠る時間ね」
紫は意味深に呟いたが、幽々子は言葉を返さなかった。紫は決しておやすみと言わないというのが、彼女自身のルールだった。だから彼女は洒落た言葉を探して、それをおやすみの代わりにしたのだった。
「今夜は冷えると思っていたけど」
そこで幽々子の手を強く握って、続けた。
「とてもあたたかいわね」
幽々子は言葉を返さず、代わりに紫の手を負けないくらい強く握り返した。心の中で「おやすみなさい」と呟きながら。
◆夢の足跡
翌朝、庭に降り積もった雪の上を歩く二つの影があった。
「ねえ、手、繋いでいい?」
「はいはい。幽々子は欲張りさんね」
紫は幽々子が差し出した手を握る。
「昨日みたいな繋ぎ方してよ」
「はいはい」
幽々子の指の間に紫の指が滑り込む。
「こんな朝早くから散歩なんて、幽々子はお年寄りねえ」
「ねえ紫。今だけはふざけないで。お願い」
幽々子が懇願すると紫は首を傾げながらも従うことにした。手を繋いだ二人は柔らかい新雪に足跡をつけていく。空気は冷え切っているが、繋いだ手だけは熱を帯びていた。雪を踏みしめる独特の音だけが庭に響く。そうして庭を一周すると、幽々子は自分たちがつけた足跡を見て満足したように笑った。
「私ね、あなたと雪の上を歩くのが夢だったの」
「そう。すごく乙女らしい夢ね。でもそんな夢を持つ理由はよく分かるわ」
きっと私のせいだろうと、紫は思っていた。雪が積もるような季節には、私はほぼ確実に冬眠してしまっているから。実現不可能のように思えるからこそ、幽々子の夢になったんだろうとそう思った。
夢を叶えた証がくっきり雪上に残るというのはなかなかロマンチックね、と紫は呟く。幽々子は夢の足跡をたどるように、もう一度紫の手を引いて歩き出した。とても嬉しそうに歩く幽々子を見て、紫は密かに安心していた。これだけ満足していれば、もう冬眠の時に引き止められることはないだろうと、そう思っていた。
「この足跡もいつかは消えてしまうのね」
紫は寂しげに言ったが、幽々子は逆に明るい声を出した。
「消えてしまっても、私の記憶の中にはいつまでも残り続けるわ。きっと、何十年も何百年も」
「ええ、私もきっと忘れないわ」
雪の上の二つの影はお互いの顔を見つめ合い、少女のような澱みのない笑顔を見せた。
来春にゆかり様と初めてを終え、入籍するんですね。
ところで、ゆゆ様は生前の記憶は無いはずだが・・・
春のゆかゆゆちゅっちゅはまだですか?
ちゅっちゅまで行かなかったのは残念であると共にちゅっちゅまで行かない寸止めだからこそ、こう、滾るモノがありますねムッハー!!
サブタイトルもすごく良いと思った。
文章力、物語の構成力、キャラクターの捉え方、魅せ方が、高レベルであるだけじゃなく、それらが、渾然一体となって、言葉にできない情緒を生みだしている。
本当によい作品でした。自分のお気に入り作家リストに入れさせていただきます。
純情ゆゆ様素敵です。春が待ち遠しい。
惚れちゃうくらいに可愛いよ。
ていうか、もう惚れてる。
ハートフルな魅力満載の作品でした。