Coolier - 新生・東方創想話

フラワーマスターとクマムシ妖怪

2011/01/14 21:54:10
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この私、風見幽香はいつの頃からこの世に存在していたのだろう。はっきりとした覚えが無い。

私はかつて、幻想郷の妖怪勢力の一角『夢幻館』と称して、他の妖怪たちと抗争らしきものを展開した時期もあった。

でも次第にもう何だか空しくなって、ある時ちょっかいを出してきた巫女にわざと負けてやって、それを口実に争いを止めてしまった。

 今夢幻館は平和的な妖怪の集合住宅と化していて、私も時々遊びに行く。かつての部下たちも健在で、今でもそれなりに仲良くやっている。

 現在の楽しみは、『太陽の丘』と呼ばれる広大な土地で向日葵たちを育てる事だ。

 ある者は『風見幽香は太陽の丘に封ぜられた』と言うが、それはただ単に、私がここから出る事が少なくなっただけだ。でも当たらずとも遠からずかもしれない。

『封ぜられた』と言うと、私が結界か何かでここから出られなくなったという意味にも、より上位の者からここの領主として認定されたという意味にも取れるけど、正直どちらでもいい。

私は時々外の空気を味わい、妖精達と戯れ、ここでこうして向日葵や他の花を育てていられればいいのだ。

 その妖怪と出会ったのは、12月のある日、寒さに強い花を植えようと丘を耕していた時のことだった。








季節の割には気温はさほど低くはなかったが、風が強いので体感的に寒く感じる、そんな日だった。

 ヒト型をしていて、リグルのような緑色の短い髪と触覚を持ち、中性的な顔立ちをしたそいつは、土の中から休眠状態で『出土』した。

 最初、その辺に蹴っ飛ばして放置したが、そのショックのせいか、背伸びをして目覚めやがったのだ。正直面倒くさい。

「あ~良く寝た、あれ、貴方が助けてくれたのですか」
「全然、開墾中に貴方が出てきたから邪魔くさくて捨てただけよ」
「でも、貴方が掘り起こしてくれたから目が覚めたんです、何かお礼をさせてください」
「じゃあ、ここから消えて」
「ええっ、そんな」

 私はささやかな楽しみを邪魔されたように感じたので、少しいらいらして、そんな言葉をそいつに投げつける。

 そいつは心底落胆した顔で私の方を見て、そうですかと力なく呟いて、とぼとぼと背を向けて歩いて行こうとした。

 その後姿に、私は少し罪悪感や憐れみ(そんな意識が私の中に残っていたとは)を感じ、不本意ながら呼びとめてやった。

「貴方、行くところが無いの?」
「はい、自分がどういう経緯でここに埋まっていたかも思い出せなくて」
「なら、しばらく私の仕事を手伝いなさい」

 妖怪はむかつくぐらいの明るい笑顔を見せ、はい、と静かな口調で答えた。

「貴方、名前は? 種族は何?」
「名前……ええと、忘れました、自分がどう呼ばれていたのか。何族だったのか」

呆れる、埋まっているうちに忘れてしまったらしい。

「妖怪さん、仕方ないわね。私は幽香、幽(かす)かな香りと書いて幽香。それを縮めてゆかと呼ぶ事にするわ。種族は…………その触覚からして、リグルと似た系統でしょうね。」

 こいつの作業はのんびりそのもので、歩くスピードも非常に遅い、こんなマイペースでよく生きてこられたものだと逆に感心するわ。

 ほとんど私の作業で土を耕し、後は肥料を加え、種をまくだけとなった。

 妙に人懐っこいこの妖怪の始末をどうするか。毒にも薬にもならないようだし。しばらく太陽の丘に置いてやろう。

 日が暮れて、私が寝泊まりしている小屋に戻る時、あまりにもゆかの歩きが遅いので多少イライラした。

私はしゃがみ、自分の両手を後ろでひらひらさせ、おぶってやるから早く乗れと合図を出す。

「えっ、いいんですか」
「とっとと来なさい、誰かに見られないうちに」
「ありがとうございます」

 それにしても、ずいぶんボロい服を着ているな。
リグル着せ替え遊びに使うメイド服が小屋にあったので、体を洗ってやって、これを着せてやった。

「わあ綺麗、ありがとうございます」

ゆかはスカートがまくれる余裕も無いゆっくりしたスピードで回転し、鏡に映った自分の姿を楽しんだ。まあ、喜んでくれるのは嫌ではない。冬の間、退屈しなくて済みそうだ。

しかしこいつは何なんだろう、リグルが来たら聞いてみるか。








 次の日、鈴蘭が咲き誇る丘、通称無名の丘から、メディスン=メランコリーが遊びに来た。

 彼女はそこに住む人形の妖怪で、打ち捨てられた人形が鈴蘭の毒で妖怪化した存在だ。

 興味半分で、ゆかを彼女と遊ばせてみる。そこら辺を飛んでいた妖精たちも加えて、一緒に鬼ごっこをすることになったのだけれど。鬼役がすぐにゆかに追いついて勝負にならなかった。

 次にゆかが鬼役になったが、遅すぎてやはりゲームにならない。

「次は、弾幕ごっこしましょ」

 この子は弾幕も撃てなかった、危険を感じると、すぐに休眠状態になってしまう。そんなんで生きていられるのか。

「幽香、この子と遊んでもつまんない」
「ごめんなさい」 ゆかがぺこりと頭を下げた。
「ゆかは謝らなくていいのよ、ちょっとここの遊びには向いてないみたいね」
「でもこの子、私の毒には耐性があるみたい。普通の妖怪や人間なら、私の周りにいるだけでフラフラになっちゃうもの」

そうなのか、一見弱そうな生き物でも、ある面ではタフな部分があって、それで生き延びているという話を聞いたことがある。例えば昆虫は個体の弱さを数でカバーしているというし、蟻や蜂のばあい、群れを一匹の生物に見立てると、その知能は明らかに一個体を上回っている。

私はメイド服を着たゆかの姿をまじまじと見つめた。この子のどこかにそんな力があるのだろうか。
視線に気づいて、ゆかは恥ずかしそうにうつむいた。

 リグルが来たらこの子の種族を尋ねてみよう。








その後、ゆかと遊びに来ていたリグルと会わせてみる、同じ無脊椎な輩どうし気が合うのだろう、それなりに仲良くやっているように見える。

「幽香さん、この子はクマムシの妖怪だね」
「あら、そう、どんな虫?」
「いろんなところに住んでいて、動きはのんびりしているんだけど、耐久力がハンパ無いのよ」
「じゃあ試してみるわ」

 私は両手を握りしめ、右足を振りあげ、ゆかの頭部めがけてハイキックを繰り出そうとした。かつて幻想郷がより酷薄だった時代、幾人もの侵入者を葬ってきた首狩りキックだ。

 私の太腿とパンツが、犠牲者がこの世で見る最後の光景となる。
そして、首が胴体から旅立つのだ。

「幽香さんダメーっ!」

蹴りを入れる瞬間、リグルがゆかをかばうように間に割って入り、片肘で私の首狩りキックを受け止めた。

ぼぐっ、とくぐもった嫌な音がした。

「ぐうっ、さすが幽香さんの首狩りキック」

肘から煙が出ており、リグルが歯を食いしばって痛みに耐えている。

「私のスカートの中身を見て、首がつながっているのは貴方が初めてよ」
「はは……そいつは光栄」

冷や汗だらけの顔でリグルが笑う。こいつ、なかなかやるわね。

クマムシ妖怪であるゆかはショックで休眠状態に戻ってしまった。立ったまま気絶している。

リグルが肘をさすりながら説明した。

「いてて……幽香さん、耐久力ってそういう意味じゃないんだよ。休眠モードに入れば、急激な温度変化や乾燥に強いって事、休眠モードになる前にそういう変化にさらされれば死んじゃうし、なってもプチっと潰せば死んじゃうのよ」
「なあんだ、つまらない。そしてごめんなさいね」

せめてものお詫びに、リグルを膝の上に載せ、日傘を地面に立てて、絵本を読んでやる。午後の日差しと私の魔力で、温かい。

「……ようかいの おじいさんは さとへ ひとがりに、ようかいの おばあさんは いえで ひとの かわを なめすことにしました」

リグルは興味深そうに物語に聞き入っている。ぴこぴこ動く触覚が愛らしい。

まあ、この子なら、現実と空想の区別はつくはず、私のブラック絵本を真に受けたりはしない……わよね。

「可愛いわね」 触覚をいじっていると、プチっと言う音がして、触覚がもげた。

「痛っ」
「あらあら、力の加減をまた間違えちゃったわ」
「気をつけてよ~」

余談だが、今までにもいでしまったリグルの触覚は、昆虫標本のようにピンで固定して額縁に入れ、作業小屋の壁に飾ってある。かれこれ6本ほど。すぐ再生する。

(じーーーーーっ)

ふと視線に気がつくと、すでに休眠状態から戻ったゆかが、離れた場所から物欲しそうな顔でこちらを見ている。

(じーーーーーっ)

私の膝に乗って絵本を読んでもらっているリグルがうらやましいのだろうか?  
でも自分もそうしてほしいと言う勇気が無いようだった。

「幽香さん、面白かったよ。じゃあまたね、君もこんど一緒に遊ぼうよ」

リグルが帰った後、まだこちらを見つめている。

(じーーーーーっ)

手招きしてそいつを呼びよせる。仕方ないわね。

「ここに座りなさい」
「はい、ありがとうございます」

この子は満面の笑みで、私の元に駆け寄ってきた(と言っても非常にゆっくりだが)。
途中で向日葵畑から一人の妖精が、ばあ、と顔を出した。夏には向日葵を手折って飛んでいる奴だ。

「きゃっ」
「こら、驚かさないの」 ここでこんな事をしていいのは私だけだ。

妖精はつまらなさそうな顔でこちらを見ていた。

(冬は遊び相手がいなくて退屈なの)

「今度付き合うから、別の場所で遊びなさい」

 そこまで言うと、やっと妖精は去って行った。

妖精を追い払い、ゆかは私の膝の上にちょこんと座り、両手を自分の膝に置いた。それで、さっきの物語の続きを聞かせてやる。

「……ようかいの おばあさんが みこの のどから なたを ひきぬくと まっかな ちが ふんすいの ように ふきだし それは それは きれいでした」

ゆかは感慨深そうに聞き入っている。まるで幼かった日々の事を回想するかのごとく。
でもこのブラック絵本のどこにそんな要素があったのか?

「昔、こんな風に、本を読んでもらったことがあるような、気がします。」
「思い出したの」
「そうだ、私、ある人間の家で飼われていたんです。たしかここからそんなに離れていなかったみたい。そこのご主人が時々、こうして本を読んでくれたんです」

 人間の家? そう言えば里からこの丘に至る途中、屋敷の跡地があったような。

「そこにいたあなたが、どうしてこの丘に埋まっていたのかしら」
「それは……、どうしてだろう」
「あなたの飼い主はどうしているの?」
「ご主人様、そうだ、幽香さん、ご主人様の家は?」

もしかしてその跡地の事だろうか。嫌な予感がするが、とりあえず連れていく。








里への道中、薄暗い森の中にあった屋敷の跡地へ行く。

わずかにがれきが残るだけのその場所に近づくと、ゆかは彼女なりに全力で走り、家があった場所を指差した。

「幽香さん、ここです、ここにお屋敷があったはずなんです。いったいどうしてこんな……、ご主人様、どうして、どうして」

ゆかは膝をつき、両手で顔を覆い、さめざめと泣きだした。

「一体私はどうしたらいいんですか?」
「ゆか、どんな思い出があったか知らないけど、これからは私を飼い主にしてみないかしら」
「幽香さんが? いいのですか」
「太陽の丘に貴方を一匹置いておくぐらい、別に構わないわ」
「感謝します、でも、どうして私、ここから離れた場所に埋まっていたんだろう」

 ゆかが考え込んでいる間、私は屋敷の跡地を見回した。
 あまり気にも留めた事はなかったが、私がこの太陽の丘に来た時、すでにここは廃墟となっていたと思う、人里から離れた人間の家屋敷となると、魔法使いの類だろうか。

「そう、思い出した、あのとき、何で忘れてたんだろう!」

 ゆかは急に頭を抱え、叫んだ。

「熱いよ、怖いよ、ご主人さまあっ」
「ゆか、しっかりして」
「突然青い火が家いっぱいに広がって、ご主人様、私だけ逃がして、それで、それで……」

私はこれ以上何も言わず、ゆかを抱きしめた。

何となく、そうした方がいいと思ったから。

「何があったかは知らないけど、もう大丈夫、大丈夫だから。太陽の丘は世界で一番安全な場所よ。誰も貴方を傷つけたりなんかしないわ」

そしてそのまま、ゆかが泣きやむまでずっとその場にいてやった。

「えへへっ、幽香さん、ありがとう」

幽香が涙をこすって笑う。悪くない表情だ。危うくこっちの頬も緩みそうになる。

「貴方が可哀想だったからじゃないわ。ただお花畑で泣かれたら興醒めなのよ」
「お礼に、私の同族が見える、クマムシの眼をあげます」
「そんな物いらないわ」

ゆかは私の頬を軽くなでる。

「今何をしたの?」
「これで、幽香さんは私の仲間たちが見えるようになりました、ああ、べつに副作用とか、寿命が半分になるとかはありませんから安心して下さい」
「変わった能力だこと」

その時背後から誰かの視線を感じた。一匹の妖怪がこちらを見ているようだ。

「何見ているの、悪趣味ね」 振り返らずに警告する。

少し獣の気配がする妖怪は、私の言葉に反応して姿を消した。

「ねえ幽香さん、あの丘、夏にはひまわりがたくさん咲くんでしょ、私も手伝っていい?」
「まあ、邪魔にならない程度にお願いするわ。ところで話は変わるけど、あなたの本当の名前は何なの? 思い出したんでしょう」

「ええ、ご主人様は『クリプトビオシス子』と呼んでました。なんでも『隠れた生命活動の子』という意味だそうです」
「ずいぶんケッタイな名前ね」
「神秘的で素敵な名前だと思うんですが……、もしよければ、今まで通り、ゆかと呼んで下さっていいですよ」
「そうね、長ったらしいし、そうさせてもらうわ」
「それから、昔ここのひまわりを一度だけ見た事があります。すっごく綺麗でした。さすが幽香さんですね」
「まあ、おだてても何も出ないわよ」

変な妖怪だ、しかし、なぜか悪い気分ではなかった。








次の日、ゆかの世話を妖精たちに任せ、お気に入りの日傘を差して、こまごまとした買い物をしに人里へ向かう。

ついでにゆかがいた家屋敷の事も聞いてみようと思う。

通りを歩く人々は、私と出会うたびに挨拶をしてくれる。

大人は特に妖怪の私を畏れているのか、何もそこまでと思うほどうやうやしく頭を下げる人もいて、そんなに丁寧にしなくて良いですよ、と笑顔で話しかけると、その人は固まってはいと答えた。

「んもう、そんなに緊張しなくたって……」

愚痴を言いながら歩いていると、賑やかな通りの十字路の一角、人里の花屋に到着した。

「あっ、幽香さん、いらっしゃいませ」

屈託のない笑顔で、花屋の娘が出迎える。

「まあ、元気そうでなにより」
「今日は何になさいますか」
「いつもの向日葵の種を100粒ほど頂戴」
「かしこまりました」

種を持ってきた袋に入れてもらっている間、それとなく尋ねてみた。

「ねえ、昔、里から離れた所に、人のお屋敷が立っていなかったかしら」
「お屋敷? さあ、でもそういう事なら阿求ちゃんが詳しいと思う」
「ああ、あの御阿礼の子ね、ありがとう、聞いてみるわ」

代金を払い、お礼を言い、稗田家の屋敷へ足を運んだ。








「てっきり求聞史紀に文句を言いに来たのかと思いましたよ。まあ、確かに昔、その辺にお屋敷があったそうです」

稗田家の屋敷へ赴き、阿求との会見を求めると、意外にあっさりと通してくれた。
この家は代々幻想郷の歴史を編纂している一族で、なかでも阿求は何十年かに一度生まれてくる御阿礼の子と言う存在で、なんでも初代の稗田阿礼の生まれ変わりだとか、前世からは、歴史に関する記憶だけ受け継いでいるらしい。

「どのくらい前かしら?」
「50年ほど前、火事で焼けてしまったそうです。住んでいたのは、魔法使いか妖術使いか忘れましたけど、結構変わり者で、一人で研究に没頭していたとか」
「変わり者は貴方も似たようなものじゃなくて? それで、どんな研究なの?」
「幽香さんほどじゃないですよ……こもりきりで研究に没頭というのは魔法使いによくある事ですけれど、どんな研究だったのかまでは……当時私はまだ生まれていませんでしたし、生まれていても魔法は専門外でしたので、ただ……」

阿求は人さし指をあごに当て、視線を空中に向けた。

「ただ?」
「噂ですが、幻想郷の秩序を揺るがしかねない研究だった。という話を聞いたことがあります」

今はない屋敷、研究に没頭、秩序を揺るがす、青い炎、獣妖怪の気配…………。

それが意味するものに気づき、何十年か、何百年かぶりの戦慄が走る。

「あ、ありがとう、そこまで分かれば十分よ。これはささやかなお礼です」

バラの香水を一瓶彼女に差しだし、私は足早にその場を後にしようとする。できるだけ焦りを覚られないように。

後ろから阿求が呼びかける。

「風見さん、何を慌てているんですか。一体何があったんです?」

ばれてる。私は精一杯の軽口を叩いて見せる。

「まあね、幻想郷消滅の危機よ」
「ええっ?」
「嘘よ」

靴を履き、玄関の戸を開ける。今にも駆けだしたい気分だ。

「あの風見さん」 また阿求が呼びとめる。
「何よ」 ついイラついた声を出しそうになる。
「日傘、忘れてますよ」
「あとで取りに来るわ」

戸を閉めずに屋敷から出る。

ゆかが危ない! あの私達を覗いていた獣臭い妖怪。あいつはきっと……。

「始末しとくんだった」

歯ぎしりをして、私は太陽の丘へ急ぐ。








太陽の丘が燃えていた。高さ10メートルもあろうかと思われる、青い炎の壁が向日葵畑の周囲を囲いこみ、中心部を飲み込もうとしている。

どう見ても通常の火などではない。

炎に囲まれた妖精達はどこへ逃げていいのか分からず、右往左往していた。

「幽香さん、一体どうなっているの? ゆかはどこ?」

リグルが叫んだ。

「こっちこそ知りたいわ、弾幕で火を消します、リグルも手伝って」

「季節外れのバタフライストーム!」
「フラワーシューティング!」

私とリグルの弾幕を炎の壁の一部にぶつけ、脱出経路を切り開く。

弾幕がさく裂した部分にだけ、炎の消えた通路ができた。

リグルの誘導で、妖精達が突破口から逃げ出していく。

「幽香さん、妖精達は無事だよ」
「ゆかは何処?」
「あの子なら、きっと休眠状態で耐えているはず。まずは、残りの火を消そう」

リグルと並んでスペルカードの弾幕を振りまき、少しずつ炎の壁を打ち崩していく。

だが鎮火させたはずの場所から、再び青白い炎が噴き出し、消火に手間取ってしまう。

数時間の苦闘の末にようやく消し止めた頃、太陽の丘は半分以上消し炭と化していた。

愛情かけて育てた向日葵畑が、あっさりと無くなってしまった。

だが怒るのは後だ、ゆかを探さなければ。

リグルと手分けして、作業小屋があった場所の周辺をスコップで掘り出し、彼女を探す。

やがて、白いベールのような殻につつまれ、胎児のように手足を折り曲げて眠ってるゆかを見つけた。

「ゆか、目を覚まして!」

やがてゆかの休眠状態が解け、目を覚ます。

「ゆか、無事かしら」
「幽香さん、私、耐えましたよ。ご主人様を奪った青い火、すごく怖かったけど」
「うん、頑張った。まったくアホみたいな生命力ね」
「でも、私、もうダメみたいです」
「馬鹿言わないで。あなた達、半端無い耐久力なんでしょ? 種まきを手伝ってもらうまでは生きてもらいます」
「もともと、私達クマムシ、寿命自体は短いんですよ、ご主人様と一緒にいた時はもう、かなり終わりが近かった、です」

わたしはゆかを抱えて永遠亭を目指す。何もしないよりよほどマシだ。

「貴方は私の下僕、勝手に死んで楽になるなんて許しません」
「最後に、幽香さんやリグルさんに会えただけでも幸せでした。神さまがくれた最後の時間……思い残す事は……」
「お黙りなさい! 貴方を医者に連れていきます」

永遠亭を目指す、行く手をふさぐ竹を強引になぎ倒す。

(何が世界一安全よ。フラワーマスターが聞いてあきれるわ)

気が立っていて妖気全開だったため、侵入者かと思った兎達が襲ってきた。

私は適当にそいつらを吹き飛ばし……まあ、病人を見てもらうために怪我人を作るのもアレだが、重傷者は出ていないはず、食事中だった八意永琳に強引にゆかを診察させた。

「どうなの、治らないと言ったら承知しないわよ」

永琳に言われるままに、ゆかを畳部屋の布団に寝かせ、掛け布団をかけ、点滴をしてもらう。

ゆかが眠ったのを見て、私は部屋の戸を閉め、永琳に具合を聞いた。

彼女は辛そうに目を伏せて言う。

「残念だけど、この妖怪はもう、生命力自体が尽きかけているわ」
「それはどういう事!」
「怪我自体は大したことないけど、ろうそくの火が消えるように、静かに逝く事になるでしょう」

幻想郷の住人にありがちな、冗談や脅しを含んだ言い方ではなく、真剣な顔と声で医者に言われれば、私はそれ以上何も言えなかった。

私も死者をよみがえらせる事はできない、焼け落ちた向日葵も。

「大きな声で叫んでごめんなさい、あと、私を侵入者だと思った兎を何羽か張り倒したわ」
「仕方ないわ、私も姫様や優曇華やてゐがそうなったらそうするかも」
「私にできる事は?」
「できるだけ、この子の側にいてあげて」

それが、永琳の最後の処方だった。








私が再びゆかの部屋へ行くと、目をうっすらと開け、力なく微笑んだ。

「幽香さん、私、ひまわり、見たかったなあ」
「大丈夫よ、咲くまで働いてもらうから」
「あはは、きびしいですね」
「せっかく手に入った下僕ですもの」
「ご主人様が生きておられた頃、ひまわり畑には、怖い妖怪が出ると聞いたんですが、幽香さんはとっても優しいんですね」
「全く、長い平和ぼけで牙を抜かれてしまったわ」

昔の幻想郷はもっと物騒で、人と妖怪の命のやり取りも少なくなかったのだ。

「ご主人様、こんな世界から出たがっていて、それで、結界を破る研究をしていたんです、でも……」

ゆかは言葉を区切り、少し休んで深呼吸した。

「でも?」
「今のこの世界なら、ご主人様も喜んでくれると思う。これなら暮らしてもいいかなって」
「今のご主人様は私よ。命令よ、ウダウダ言わずに眠って回復しなさい」
「はい」








私はゆかが再び寝入った後も傍に居続け、この子は朝、静かに息を引き取った。

何てことない雑魚妖怪なのに、何か心に空洞ができたような気分がした。








私はゆかが向日葵を見られるようにと、畑の一角にこの子を埋めた。

春になったら他の場所と同じように種をまいてやろう。

私は考える、向日葵畑を焼き、ゆかの(恐らくは)間接的な死因となった犯人の見当は付いている、同時にその動機も。

確かに、自分も同じ立場ならそうするだろう。

この幻想世界は絶妙なバランスで成り立っている。それを乱す危険の芽は摘まなければならない、たとえ脅威度の低そうな『残滓』であってもだ。理解はできる、理解は。

しかし、そこまでする必要があったのか?

この沸き起こる感情は何だろう?

悔しさ? 悲しさ? それとも怒りか? その全部か?

私は畑の再建に加え、ある行動に出る事にした。








年が明けて、日向ぼっこをしていた黒猫と親しくなった。

彼女は橙といい、とある幻想郷の賢者の従者のさらに従者であるらしい。

そして、リグルとも親しいとか。

年をとったせいか、リグルや橙や、ゆかのような子供の妖怪や人間の遊んでいる姿を見るとほほえましくなってくる。

太陽の丘の管理をこの子たちに任せてもいいかしらと思うほどに。

魔法で急速成長させた西瓜をふるまったり、私特製の以前よりソフトなブラック絵本を読んで聞かせると、橙は興味深そうに物語に聞き入ってくれる。

「……いたずらした ようせいは みこに ふくを はぎとられ なきながら かえって いきました みこは ふくを そのての まにあに うりました」 

「おもしろいね、幽香」

もうすっかり心を許してくれたようだ。

「ねえ橙、私の家に来ない、素敵なプレゼントがあるの」

「いいの? ありがとー」

警戒心はない。

彼女を家に招待し、先に部屋の中に入らせ、私は後から入り、後ろ手でドアを閉める。

「世界に一つしかない、美しいお花よ」

そうして、私が魔力を込めておいた、催眠効果のある花をかがせると、彼女は目がうつろになり、私の胸にもたれかかって眠ってしまう。

彼女を作業机に横たえる。無垢そのものの表情で寝息を立てている。

この子は将来きっと立派な妖怪となって、賢者の後を継ぐでしょう。

だけど、ごめんなさいね。私にはやるべき事があるのよ。








夕暮れ時、荷物の入った風呂敷を持って、太陽の丘を焼いた者の居場所に向かう。

その場所は道に迷う者が偶然たどり着いてしまうと言う言い伝えから、マヨイガと言われており、妖怪の賢者の住処でもある。

暗くなっていく山奥を、だいたいの当たりをつけ、草や灌木をかき分け進んでいく。

普通の人間ならとっくに遭難しているが、ある者いわく、私は妖怪の中でも強い方なのだそうで、まあ何とかなるだろう。

その者は私の事を「究極の嗜虐生物」などと名付けたそうだけど、失敬ね。

ただ弱い者を弄るのが面白いだけだ。

すっかり暗くなった後、一匹の狐と目があった。

数秒間見つめ合った後、狐は走り去って行った。

やがて複数の気配が生まれ、ヒト型の姿をした10人ほどの一団が音も無くやって来る。

「そこの妖怪、ここから先は幻想郷の賢者、八雲様の領域だ、立ちされ!」

そいつらは皆、白い頭巾を頭からすっぽり被り、首のところで縄で縛って止め、顔の部分にでっかく『罪』と書かれている。首から下の服装はまちまちで、中には上半身裸の者もいた。

彼らは八雲が使役する人間の罪人たち、『罪袋』と呼ばれる集団だった。

札付きの罪人や、人外を迫害した者を捕まえ、使役する事で更生させるという八雲の方針で造られた集団らしい。

「貴方達のボスに話があるの、通してちょうだい」

「こいつ、八雲様が掃討した花ばたk……」
(おいバカっ)
「いてっ」

余計な事を喋りそうになった一人の頭を、別の一人が叩いて黙らせる。

だが私は聞いてしまった。これで確定だ。

「それならなおの事、押し通るわ」

「!」

罪袋達は弾幕を撃ってくる。何の躊躇も無い。

私は日傘を開き、弾幕を受けとめ、あるいはステップで避ける。

弾幕の奔流が、木々をなぎ倒し、鳥や獣がぎゃあぎゃあと逃げ惑う。

「せめて撃つ前に前口上でも言ったらどうなの? 妖怪とは言え私もレディよ」

だが罪袋達は私の声を無視した。

「弾幕を出し惜しみするな、殺すつもりでやれ。相手は大妖怪だ」

私を相手にする以上、半端な攻撃はかえって危ないと考えたのだろう。

良い判断だ。

感動的だ。

だが無意味だ。

そう思っていた時、魔力の弾が私の頬をかすめる、と言うより直撃する。

「ぶべっ」

今、恥ずかしい叫び声をあげちゃったじゃないのよ!

しかもこいつら、八雲の式として強化されているせいか、結構強い。ならば。

攻撃をしのぎながら、リーダー格が誰かを見極める。

「そのまま八雲様が来られるまで抑えておけ。第1、第3、第4小隊に救援要請を!」

罪袋の一人が指示を出す、あいつだ。

私は弾幕をかいくぐってそいつに接近し、みぞおちに拳を食らわし、そのままその男を抱えて集団から距離を置いた。

「た、隊長」

隊長と呼ばれたこの罪袋を盾にすると、弾幕が止んだ。

私はすぐさま茂みに身を隠す。私は風呂敷を開き、素早くある作業をした。

そして、白い頭巾に包まれた物体を集団へ向けて放り出す。

ぐしゃりと音がして、中身の赤い液体が頭巾を染めた。

当たりは暗くなっているので、その物体の詳細は罪袋達にははっきり見えないはずだが、彼らはそれが何なのか理解した。

「ひいい、隊長の首が……」

先程まで士気のみなぎっていた空気が瞬時に冷え込んだ。

「貴方達も、こうなりたいかしら?」

陰からささやいてやる。

「きゅ、救援を」
「分かった」

罪袋の一人が、背中の取りかごから、式か使い魔と思われる鴉を放つ。

すかさず、私は鴉を狙い撃ち、地面にたたき落とした。

これで救援はしばらく来れないはずだ。

「くそっ、式ガラスが落とされた」
「まだ俺の式トラネコがいる。頼んだぞ」
「おい、その作者、もといトラネコ、まだ捨ててなかったのか? 出来が悪いのに」
「いんや、俺が手塩にかけて調教したトラネコだ、任せとけって」

一人の罪袋が一匹のとら猫を放った。

すかさずその猫の行く手に、マタタビを急速成長で出現させてやる。

(ごろごろ~)

とら猫はその場に転がり、気持ち良さそうに鳴きながら転がっている。

「使えねええええ」

鏡で練習した思いっきり嗜虐的な笑みを浮かべ、罪袋達の前に進み出る。

「さあ、通してくれるかしらあ?」
「ひ、ひいっ」

すっかり戦意喪失した罪袋達をしり目に、さっさとマヨイガをめざす。








完全に夜の闇に包まれた山野を走りぬけると、一軒屋が見えてきた。

同時に知った気配も感じる。一匹の狐だった。

あのとき、向日葵畑を覗いていて、罪袋とやり合う直前にも会った奴だ。

ヒト型に変化したそいつは、私を見ると、両手を服の袖に隠したまま、やはり、と言うようにうなずいた。

賢者の従者、八雲藍、それが狐の名前。

「あの妖怪の仇討ちに来た、と言うわけか」

「あんな雑魚妖怪の一匹や二匹、どうでもいいわ。私の住処を焼いたあんたにお礼がしたくって来たの」

「50年ほど前、あの妖怪を保護していた男は危険な研究をしていた。幻想郷と外界の境界を崩そうとしていたのだ。そんな事は許されない、その術があの妖怪に継承されていれば厄介な事になっていた」

藍は淡々と言う。

「それなら私の畑を焼き、あまつさえ、種族は違えど妖怪を死なせる理由になるのかしら?」

藍がかすかに俯き、その表情に影が差す。

「当然、貴方は許せないだろうな」 

若干口調に罪悪感らしきものが含まれているように感じる。

「ええ、非常にむかつきますわ。だから少しサンドバックになって下さいな、狐さん」

「止むをえまい、では応じるとしよう」

藍は両手を袖から出し、戦いの態勢をとった。

右手の平の上で、青白い炎がちらちらと踊りだす。

ゆかの主人と、私の畑を焼いた炎。腹立たしい事この上ない。

「その前に一つ、プレゼントがあります」

私は風呂敷包みを解き、入っていた一つの楽器を狐に投げ渡す。

「三味線? これは何の真似だ?」

「においをかいでみなさい。馴染みの香りでしょ」

「おいっ、まさか?」

藍は突如顔面蒼白になり、三味線をおそるおそる顔に近づけた。

私は歌うように言葉を紡ぐ。

「そうよ、橙と言ったかしら。貴方の従者の、可愛い可愛い黒猫さん♪」

「そんな、なぜ、こんな事を……」

「言ったでしょ、畑を焼いたお礼だと。残りの肉は燻製にするから、良かったらおすそわけして差し上げますわ♪」

九本の立派な尻尾が逆立ち、怒りと憎悪が悲しみを上回り、妖気が増していく。

ああ、弄るのってちょっと快感。

「……許さん」

「血抜きのため、ナイフを突き付けた時の顔、あれは面白かったわ。幼いながらも自分の運命が分かっていたのねえ」

「黙れ」

藍の従者への愛情を嘲笑うかのように、私はこいつに微笑みかける。

「今行けば意外とまだ息があったりして、アハ残酷」



「―――――――×◆☆○⊿@*#△!!!!!」



涙で顔をくしゃくしゃにし、声にならない声で喚き、力を入れ過ぎて血のにじむ右の拳を、私に向かって叩きつけようとする。

その瞳は完全に殺意しか宿っていない。

私は目を細め、わずかな時間で拳の軌道を予測する。

もう私は笑っていない。

力任せの拳をかわし、勢い余って進行方向につんのめる藍のま後ろに回る。

「シマッタ!」

両脇を占め、足を振りあげる。

狙い通り!

相手は怒りで技も策も考えられない。

「私、下にリグルのズボンをはいてきたの」

「ダカラナン……」





















「……首狩りキック」





















振り向こうとした藍の顔面を、私の足の甲が直撃した。








「らんさまー」

私の蹴りを受けて大木に叩きつけられた後、なおも立ちあがろうとする藍。

不意に響いたその声が、彼女の眼に理性の光をよみがえらせた。

「八雲様、申し訳ございません」

橙は素顔の罪袋隊長に付き添われ、ここまでやって来たらしかった。

と、ここでネタばらし。

私が罪袋たちに放り投げたあれは、単に超促成栽培の西瓜を頭巾に入れただけの物だ。

落ちた時に皮が割れて赤い汁が染みだし、あたりが暗くなっていた事と、戦いという状況からして、皆隊長の生首だと思い込んでくれたのだ。

挑発に使った小道具も、パクッた三味線に橙の帽子をこすりつけ、匂いをつけたものだ。

仕返しが終わった後で解放するつもりだったが、まあ良しとしよう。

「ちぇ、橙? 本当に橙なのか?」

「うん、しばらく眠らされたけど」

駆け寄って来る従者を、主は両手を広げて迎え入れる。

橙の主である藍の顔は、今度はうれし涙でくしゃくしゃになっている。

後を追ってきた罪袋達も隊長の無事を知り、安堵の息を漏らした。

抱き合って奇跡の再会を喜ぶ様をしばらく見届けた後、私はここを後にする。

もう用はない。

「橙が殺されたと私が思いこんだとき、狂ってしまいそうだった。貴方も……辛かったんだな。済まなかった」

藍が頭を下げたのが気配で分かった。

私は振り返らずに言葉を返す。

「勘違いしないで、貴方は強力かつクレバーな妖怪、クールな頭のままでは勝ち目がなかった、だから挑発した、それだけよ」

「私は、もっとよく考えて動くべきだった」

「貴方も使命感があっての事でしょう? 済んでしまった事は仕方ないわ。これで私の鬱憤も晴れました。さようなら」

「罪袋達も殺さないでいてくれたのだな」

「実際のところ、彼らは強かったわ。だから倒すより、戦意喪失させたり、通信能力を奪う方が手っ取り早かっただけ。ただでさえ冬は調子悪いのよ」

「ありがとう」

強力な筋肉に対して、筋肉でどつき合う必要はない。

筋肉に指令を与える神経を叩けばよいのだ。

べ、別に、こんな人たちにも人生があるんだろうなとか、死んだら悲しむ人がいるんじゃないかなあ、とか思って殺すのが可哀想になったとかじゃないからね、絶対に。








帰り道、手のひらサイズの小さな妖怪がゆっくりと獣道を歩いていた。

その妖怪は、小さいながらもゆかの生き写しのような姿をしていた。

「ゆか?」膝をかがめて、呼びかけてみる。

「いいえ、私は通りすがりのクマムシ妖怪です」

そう言って、その妖怪はゆっくりと私から遠ざかって行った。

それから、私はこのクマムシ妖怪の姿をあちこちで目にするようになった。

私はかつてゆかが言っていた、『クマムシの眼』の事を思いだす。

それでゆかの同族が見えるようになったのだろうか。

クマムシを見るには、クマムシの眼が要るってか?

ゆかの同族たちは、みなゆかより体も妖力も小さいせいか、クマムシの眼を貰った私にしか見えないらしい。

しかし、あらゆる環境に適応して生きている。

ある個体は神社の間欠泉のなかで暮らしていた。

チルノにそれと知らずに氷漬けにされた個体は、溶けた後にまた動き出した。

地底を訪れた時、核エネルギーを放出する地獄烏の周囲でも、やっぱりこいつが生きていた。

極めつけは、リグルの誘いで月都万象展に行った時、展示物のレイセンの羽衣に休眠状態でひっついていた個体で、やはり目覚めて動き出しやがった。

幻想郷は、外界では目に見えなくなった幻想の存在が息づく世界。

でもその幻想郷でも見えない存在というのがある。

この幻想郷にも、ちょっと視点を変えてみれば、まだまだ多様な幻想が存在するのだ。

それを私は、ゆかからの贈り物で知った。

ありがとうね、ゆか。








やがて春になり、夏が来た。

春先にまいた向日葵は今年も良く育ち、妖精達は楽しそうに空を舞い、かつての事件の痕跡は完全に消えてしまっている。

私は今、日傘を差して、畑のある一角、ゆかを埋めた場所の前に立っている。

そこに植えた向日葵だけ、周囲に比べてやけに生長が早く、大きな花を咲かせている。

彼女の亡骸が肥料になったらしい。

「どう、良い景色かしら」 と独り言。

そよ風が吹いた。大きな向日葵が、私に笑いかけてくれたような気がする。

「そう、気に入ってくれて嬉しいわ」 また独り言を言う。

いのちは巡る、この私、風見幽香もまた、その連環に戻る時が来るのだろう。
ちょっと長い作品です。幽香さんとその生命力が有名なクマムシのオリキャラを書いてみました。

他の作品と同じように、ちびりちびりと執筆していましたが、幽香さんお礼参りの所からはわりと一気呵成でした。

楽しんでいただければ幸いです
とらねこ
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コメント



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2.100名前が無い程度の能力削除
イマイチ
4.100名前が無い程度の能力削除
はあ……幽香ちゃんマジ天使
6.90名前が無い程度の能力削除
クマムシスキーな自分にとっては最高でしたw
まさかクマムシの妖怪の話が作られるとはww
8.100奇声を発する程度の能力削除
途中に出てきたとら猫笑ってしまったwww
15.30名前が無い程度の能力削除
途中まて面白かったんですが、罪袋が出てきた当たりでシリアスな雰囲気が完全に無くなってしまったのが残念
23.90名前が無い程度の能力削除
湿っぽすぎないスタンスの文章がよかったです。
24.100名前が無い程度の能力削除
次はベニクラゲのSSを希望します!
27.90名前が無い程度の能力削除
話の展開がちょっと強引に感じました