昔から、そして今も、その紅き館には、三人のどうしようもない呑んべぇがいた。
「酒だ」
珍しく、自室ではなく図書館で書き物をしていたレミリアは、さっきまで忙しなく走らせていた羽ペンを止めると、そう呟いた。
「酒ですか」
大机で向かいあうように座っている、レミリアとパチュリー。
紫の魔女は、目の前の当主の発言にさほど興味もなさそうに、読んでいる本から視線を動かさずに聞き返した。
「久しぶりに飲みたい気分になったよ」
羽ペンを羊皮紙の上に投げ出すと、机に頬杖をついて楽しげに目の前の魔女を見つめる。
「付き合ってくれる?」
魔女はため息をつくと、本を閉じて自分への視線に向き合う。
「元より、断る理由もないけれど」
そう言って、目の前の友人と同じように笑った。
からからと二人は笑う。
こらえ切れない愉快さで。
日傘をさして、庭を闊歩する当主。
外勤のメイド、門番統括の彼女らにとっては、またぞろ当主が我が屋敷の庭園を愛でに来たのだと思うだろう。
見かければ、花の手入れをする者も、警備のように歩いている者も、慌てて当主にお辞儀をする。
そんな従者達を適当にあしらいながら、正門へ向かって歩いて行く日傘。
見えてきた、門横の塀の上に腕で枕をしながら器用に寝転がる我が門番の姿。
素晴らしい勤務態度だ。
近づくにつれて、その周りで仕事をしているメイドの顔が蒼白に近くなっていくが、特に気にすることもないだろう。
当主は、近くで庭仕事をしていたあるメイドに、投げるのに適当な大きさの石を要求。
震える彼女から石を受け取ると、適当な力で門番めがけて放り投げる。
その場にいたほとんどの者に視認不可能な速度で飛んでいったそれ、着弾予測地点はおよそ目標後頭部。
誰しもが数瞬後の悲劇を予測した直前、時折もぞもぞと体をかいていた門番の手がぬるりと動いて、器用にそれをキャッチした。
パシンと乾いた音を立てて手に収まった石に、勤続の長い一部メイドと投げた張本人を除いたその場の面々は目を丸くする。
そのまま後ろに石を軽く放ると、門番は勢いをつけて枕をしていた片手で倒立し、体をひねって門の内側に向けて起き上った。
「どうかしましたか、お嬢様」
悪びれもせず、それどころか欠伸までもらしながら、当主に尋ねる門番。
「その帽子の字、狸に変えた方がいいんじゃないか?」
見上げる当主は笑っている。その様子に、どうやら怒りは感じられない。
周りのメイド達はほっと胸を撫で下ろした。
「美鈴、今夜は飲むよ」
そのまま笑いながら、レミリアは言った。
「飲みますか」
返す美鈴も笑顔。
「飲むでしょう?」
「飲みますとも」
からからと二人は笑う。
こらえ切れない愉快さで。
レミリア・スカーレットは吸血鬼である。血を吸う鬼と書いてそれである。
つまりは、彼女は一種の鬼なのだ。
で、あるからして、当然強い。
実力も腕力もそうだが、この場合は酒である。
そう、酒。
彼女は血液をいっとう好むが、同じくらい酒が好きという立派なウワバミ、呑んべぇであった。
が、その事実はあまり外部に知られていない。
彼女が参加する宴会には、元来の鬼もいれば、彼女と同等に酒好きな者もたくさんいた。
常に酒の入った瓢箪を担ぐほどに酒好きでもない彼女の酒量は、それほど目立つものでもない。
それでも、呑み比べでもすれば鬼の次くらいには盃を空けるであろうはずなのだ。
だが、彼女は宴会ではそれほど飲まない。貴族としての矜持があった。
多少は浮かれても、浴びるほど飲んだ後に場所がなくて自分の帽子に戻すどこかの黒白のようなレベルの醜態を人前で晒すことはできないのだ。
でも、いや、だからこそ、彼女には醜態をさらすほどに潰れられる場所が別にあった、必要であった。
それこそが、彼女が心を許す家人とのみ、たまに設ける酒の席。
紅魔館、地獄の飲み会である。
ホームパーティーや楽しみ事は頻繁に行われ、ほぼ全員が参加する紅魔館だったが、この飲み会に参加する……出来るのは極少数であった。
というより三人しかいなかった。
メイドらも酒は好きだが、それはあくまで並みレベル。それは咲夜も例外でなく、彼女の肝臓は人間並みだった。
必然、多少は存在する妖怪メイドも候補に挙がるが、人間より強くても鬼に敵う相手というのは滅多にいない。酒の話であるが。
だが、滅多にいないというだけで、少しはいるということだ、もちろんこの紅魔館にも。
その一人は紅美鈴、これは意外でも何でもないだろう。
なんかもう見た目飲みそう、というか宴会に行ってもしこたま飲んでいた。
自他共に知られるウワバミが彼女である。
もう一人はパチュリー・ノーレッジ。これはかなり意外ではあるが、彼女も目立たず相当な酒好きであった。
体は丈夫じゃないのに飲む。とにかく飲む。
レミリア以上に目立たない酒豪であったが、そもそも彼女は宴会に滅多に参加しなかった。
ついでに言うと、レミリアの妹、フランドールも吸血鬼だがは酒を好まない。
小悪魔は酒は嗜むが、あくまで人並みだった。あくまで。
とにもかくにも、紅魔館に三人だけの呑んべぇは今夜に会す。
幾多もの燭台は照らす部屋に、円卓にて三人。
紅き館の鬼当主、自称血よりも酒が好きな吸血鬼、レミリアが微笑んで一人。
紅き館の謎の門番、自称八岐大蛇を超えた蟒蛇、美鈴が欠伸をしながら一人。
紅き館の動かぬ図書館、自称肺の機能を全て肝臓に回した魔女、パチュリーが黙して一人。
その空間には、これからの宴席に対しての仄かな興奮と緊張が滞留している。
「よくもまあ」
レミリアがにやにやと笑いながら、口火を切る。
「久しぶりじゃないの、この面子ってのも」
「ひと月ぶりだと思うわ」
パチュリーは無表情に、呟くように。
「まあ、それ以上のペースでこれをやってたら破綻者ですよ」
美鈴も笑いながら。
「じゃあ、鬼は破綻者だな」
「ええ、破綻してなきゃ鬼とは言えません」
「逆に言えば、人が破綻すれば鬼になる……」
三人の間で、小気味よく交わされるジャブの応酬。徐々に温まる空気。
「ともあれ、今夜ばかりは私達も破綻者よ。まあ、私は生まれついてからだけど」
子供のように笑うレミリア。外見は実際子供だが。
「そうね、今夜ばかりは大いに破綻しましょう」
パチュリーも地味に口の端をあげて笑顔を返す。
「には、まず酒がなくてはならんでしょう」
美鈴の言葉に、レミリアは頷いてベルを鳴らす。
それを合図にドアが開くと、静々と杯をもったメイド達が三人。
三人がかりで運ぶそれを一人ずつに手渡すと、また同じように退場する。
三人の手には杯、俗にはジョッキと呼ばれる太く縦長いグラス。
だが、それは、ジョッキというにはあまりにも大きすぎた。
陶器で作られたそれは、ともすれば幅がレミリアの胴ほどあり、高さは首から臍に届きそうなくらいであった。
美鈴はともかく、パチュリーや特にレミリアがそれを持つ絵は、不釣り合いを超えて遠近が狂った様を思わせる。
だが、持つ当人達はそれを一向に意に介していない。自然体である、その大きさに、如何ほどの疑問も持ち合わせていない。
「さて」
酒が行き渡ったところで、レミリアは小さく咳を一つ。
それを合図に、美鈴もパチュリーもレミリアを向く。
「酒に対しては、当に歌うべし」
レミリアは歌うように。
「まあ、長いから全部は言わないけど。いい詩よね、美鈴」
「まったくです」
美鈴は目をつぶって聞き入る様に頷いている。
「契闊談讌し、心に旧恩を念う……乾杯」
吸血鬼が、杯を掲げる。
「乾杯」
続いて魔女が。
「乾杯!」
続いて門番が。
そのまま三人の杯が空中でぶつかり合い、鈍い音を立てた。
三人とも杯を引き戻し、口にあてがう動作は無駄に神速であった。
唇が触れると同時に、口中に中味は流し込まれる。
何よりも冷たいという感覚が来た、後に発砲し、下を刺激する炭酸、ほのかな麦の香り。微かな甘み。
麦酒である。
明治十七年、都市部ではハイカラな酒として普及していたそれも、この村落部に近かった幻想郷においては日本酒を席巻するほどの地位は得ていなかったし、それは時の進まぬ現代でも変わりはない。
しかし、紅魔館では事情が違う。
当主が好んだ、従者が好んだ、何より魔女が異常なまでに好んだ。
幻想となった直後に、麦酒の存在が希少だった新天地で何よりもまず紅魔館オリジナル麦酒の醸造に取り掛かったのは、他でもないパチュリーであった。
鬼気迫る表情と勢いで蔵書を漁り、麦畑を耕し、自ら大工仕事で敷地内に釜や貯蔵用巨大樽やその他設備を作る姿は館内の伝説になったとかなっていないとか。
ともかくまだ生きているこの先人の功績のおかげで、紅魔館には安定した麦酒の供給がなされているわけである。
その麦酒を、三人はすごい勢いで喉を鳴らしながら嚥下していく。
鳴らす、鳴らす、鳴らす。
たっぷり十秒はかけて飲み干すと、三人はまったく同じタイミングで空になった杯を目の前の円卓に叩きつけた。
「ぷはぁっ!」
大きく息を吐く。
次いで飲んでいる最中とは違う、口に広がる濃厚な後味。
「あぁぁ……」
体を通り抜ける快感に、低く声を洩らす。
「うまい!」
まずレミリアが叫んだ。
「この一杯のために門番してる!」
美鈴が叫び。
「次よ!」
物凄い勢いでベルを鳴らしながら、パチュリーが叫ぶ。
こうしてここに点火であり、幕開けであり、開宴であった。
三人の呑んべぇは体を駆け巡る狂喜に咽ぶ。
しばらくは口をつけると、一拍の間も置かずに杯を空けていた三人。
「うまい!」「たまらない!」「生きててよかった!」などと叫びながら止むことのない呼び鈴。
渡しては呼び戻され、渡しては呼び戻されをメイド達が五回繰り返した辺りで、ようやく一息ついたらしい。
同時にメイド達もほっと息をついた。
円卓の三人は、やや放心したように背を椅子に預けていた。
「おいしかったわね……」
レミリアが呟く。
「最初の数杯というのは、いつもと違うまたこたえられないものがあると思うわ」
パチュリーは感慨深く頷く。
「体も温まってきましたよ」
美鈴は背を離すと、大きく伸びをした。
「そうね、温まったところで」
三人同時に半分くらい残った杯を、また一気に飲み干し。
「料理といきましょう」
料理といっても、酒を飲んでいる最中にはさほど食べない三人であった。
何せ料理に胃のスペースを譲るくらいなら、酒を流し込んだ方がマシという考えである。
故に一品目、突き出しにメイドが運んできたのは、ぬか漬けの盛り合わせであった。
悪魔の館に存在するぬか床というのは、彼女らの日本文化の中での生活の長さを思わせるのかもしれない。
「にしたって、最近どうかしら」
どうでもいい当たり障りのない切り出しをしながら、器用に箸を使って胡瓜をつまむレミリア。
胡瓜をポリポリ食べながら杯を傾ける吸血鬼という光景はシュール以外のなにものでもない。
「どうもこうも、いつも通りよ」
茄子に薬味の辛子をつけながらパチュリー。
「異変が多いですよね、三ヶ月……半年おきくらいには起きてるような」
自分の小皿に置いた大根に醤油をかける美鈴。
余りにも手慣れすぎてる彼女らの漬物スタイルは、日本文化の中での生活の長さを思わせるのかもしれない。本当に。
「駆り出される霊夢もたまったもんじゃないだろうね」
また胡瓜をつまみながらレミリアはベルを鳴らす。
杯が空いたのだ。
他の二人にはまだ残っているので、この辺から各人のペースは別れる。
宴は踊る。
そりゃもう好き勝手に。
「あん時はやられたわよ、まったく!」
レミリアは杯をドンと卓に叩きつける。
「私は寒いのは嫌いじゃないからいいけど」
パチュリーは枝豆を自分の口から少し離したところから飛ばして食べる。
いつの間にか、つまみは枝豆になっていたらしい。
他にも出汁巻き、山葵とオクラの醤油和え、揚げ出し豆腐、ふうきみそ、タラの芽の天ぷらなどが並んでいる。
西洋風のお洒落なメニューが微塵も並んでいない辺り、彼女らの日本文化の中での生活の長さを思わせるのかもしれない。いい加減に。
「いっつも図書館にこもってりゃ季節もクソもなさそうですしね」
美鈴は笑いながら、料理をつまみつつもう片手で酒を飲む。
「咲夜が取り戻したからいいものの……春も、何もかもここのものだというのに」
「傲慢ね」
パチュリーは呆れたように呟きながら、出汁巻きに付け合わせの大根おろしをのせて醤油をかけた。
「まあ、そこがお嬢様の、ひいてはここの売りですもの。お嬢様、あーん」
「あ?あーん」
口を開けるレミリアのそこめがけて美鈴が豆を皮から飛ばす。
「……うん、うまいな」
ナイスキャッチしてもぐもぐと咀嚼。普段では見られないというか、許されないというか、色々すごい光景だった。
何杯飲んだかなんて、当人も周りも絶対に覚えていない。
数えられない数を表す有名な言葉がある、「百から先は数えていない」。
「昔からそうなの?あいつ?……私はそれほど知らないけど」
「そうでしたよー、もうねぇ……」
レミリアと美鈴は何かを思うように頷くと、同時に杯に口をつけ、飲み干す。
卓に叩きつける。
「んあ?パチェ、止まってるんじゃないの?」
黙して、ゆらゆらと首を動かしているパチュリー。
その言葉を聞くと、首の動きを止めて、目の前の杯を一気に飲み干した。
「誰が止まってるのかしら、レミィ?……げふ」
ギラギラと睨みつける魔女に頷くと、レミリアはベルを鳴らした。
入ってくるメイド達。
「純米、『黒心』。ボトルごと」
杯を渡しながらレミリア。意外にもプレインジャパニーズアルコールを好むのだ。
こういう席では、大抵自分のイメージに合った方のワインは飲まない。
ワインは好きだが、あれは集まって飲むものではなく一人で楽しむものだと思っていた。
「私は麦酒もう一杯」
と、美鈴。
「芋の『大往生』。ボトル、梅干しつきで」
パチュリーの注文。西洋の魔女が頼むにはどうかと思える。
さらに夜は更け、深夜に入っても、三人はまだまだ飲む。
時間間隔など今の三人にはないのだ。
「んく、んく……くぁっ!……ふー、私もそろそろもう一回異変でも起こすか」
ラッパ飲みしていたボトルを、掴んだまま手をおろしてブラブラ。
すでに床には三本くらい日本酒の一升瓶が転がっている。
「また?やめてくださいよ、先駆け私なんですよ」
美鈴もいつの間にか日本酒だった。
「ああ?一番槍の名誉をお前に与えてるんだぞ!……て、パチェ!」
呼ばれたパチュリーは、首の動きが大分おかしかった。座ってないというやつである。
箸で焼酎に入れた梅干しを一心不乱に潰しているそこにもう落ち着いた知識人の姿はない。
同じ呑んべぇとはいえ、やはり差はあるようで、三人の中ではいつもパチュリーがやや遅れを取る形だった。
「なによレミィ……飲んでるわよ!」
首を縦にカクカクさせながら、焼酎の入った、先のジョッキ並にルナティックなでかさのグラスを一気に空ける。
パチュリーの周りにも芋焼酎の一升瓶が散乱していた。
「飲んでるならいいのよ、わははは!なによその首の動き」
「そうとうキてますね、わははは!」
笑うレミリアと美鈴。
パチュリーは二人を睨みつけると、美鈴めがけて口から梅干しの種を吹き出した。
「あたっ!?」
見事目標のおでこに命中し、レミリアとパチュリーは肩を組んで笑った。
さらに飲む、どんどん飲む。
これだけ飲めば、パチュリーに限らず美鈴やレミリアだって酔ってくる。
主従、友人、いろんな関係を超えて、くだらない話と笑いが場を占有して。
当に歌うべしとは、当にこの事。
「しーずざみすとれーす!ざせんとおーぶじおーりーえん!」
というか、まさに歌っていた。
「いいぞー!さすが私の門番だ!」
「前から思ってたけどそれ何の歌よー!」
どっからか取り出してきた月琴をベンベン弾きながら歌う美鈴に、指笛を吹きながら囃し立てるレミリアとパチュリー。
「どうも、ご静聴いただきありがとうございました」
歌が終わると、美鈴は立ってお辞儀をし、円卓から少し離れて演奏していた椅子をまた元に戻して座る。
この辺になると流石にペースも落ちてきたのか、各自自分の酒をチビリチビリと飲み続けている。
いや、ラッパ飲みとグラスのでかさを見るにつけ、その一口にその擬音はつけられないくらいだったが。
同時に瓶というラッパを口から離すと、意味もなく笑う美鈴とレミリア。
完全に出来上がっている。これ以上ないというほどに。
パチュリーに至っては、すでに首の動きがすごいことになっていた。
グラグラ前後に体ごと動き始めている。パーフェクトに危ない人である。
「パチェ!おい、パチェ!しっかりしなさい!」
言葉とは裏腹すぎる爆笑とともに親友に呼びかけるレミリア。
「しっかり!?してるわよ!レミィ!あなたの服の色、白なのかピンクなのかはっきりしてちょうだい!」
一方パチュリー、卓をドンと叩いて怒鳴ると、そのまま突っ伏しおでこをガツンと卓に当てて変なうめき声を洩らす。
「大変よ美鈴!パチェが面白いぞ」
「そうですね!ところでどっちなんですか!」
レミリアは笑いながらこちらも笑っている美鈴の口に瓶を押しつけると、強制的に酒を飲ませて誤魔化した。
もはや何のために飲むのか、わからなくなっても飲む。
とにかく飲む。だってお酒はおいしいもの。
だって飲むのは楽しいもの。
「月を見るぞ!」
「そりゃいいですね!」
言葉と共に、笑いながら外に面した壁を蹴り破る二人。紅魔館には窓が少ない。
瓶を持ち、すでに意識のはっきりしてないフラフラのパチュリーの襟を引っ掴み。
飛べばいいのにわざわざ壁をよじ登って、屋根に到着。
屋根に座って上を見る。空があった。月があった。手には酒があった。
「月に」
一升瓶を掲げて瓶の腹をぶつけ合うという他に類を見ないロックな乾杯をすると、瓶が垂直に傾くほどのラッパ飲み。
向かい合う二人の傍らには、寝ながら屋根にしがみついてよろよろとグラスを掲げているパチュリー。
静かに照らす月光。目の前には、幻想の郷。我が屋敷と、酒。潰れるまで飲み合える友と従者。
「はは」
レミリアは、からからと笑う。
ああ、楽しきは破綻者の生き様。
ああ、楽しきは呑んべぇの生き方。
「また飲もう」
静かに呟いた。
「ええ、飲みましょう」
美鈴が頷く。
「いつだってね」
そこだけは何とか気合で正気に戻りながら、パチュリーも同意した。
宴はいつか終わる。でも、終わったって、またやればいいのだ。
今夜が終わってもまた次だ。
三人は月に向かって吼えるように笑うと、屋根に寝転がって意識を手放した。
酒を飲んだ翌日は眠い。
二日酔いなんぞ生まれてこの方したことはないが、ただひたすらに眠いな、と、レミリアはいつの間にか寝転んでいたベッドの中でまどろみながら思う。
吸血鬼は自室で朝から深夜まで寝ていた。
魔女は図書館で本も読まずに寝ていた。
門番は門前でいつも通り寝ていた。
「酒だ」
珍しく、自室ではなく図書館で書き物をしていたレミリアは、さっきまで忙しなく走らせていた羽ペンを止めると、そう呟いた。
「酒ですか」
大机で向かいあうように座っている、レミリアとパチュリー。
紫の魔女は、目の前の当主の発言にさほど興味もなさそうに、読んでいる本から視線を動かさずに聞き返した。
「久しぶりに飲みたい気分になったよ」
羽ペンを羊皮紙の上に投げ出すと、机に頬杖をついて楽しげに目の前の魔女を見つめる。
「付き合ってくれる?」
魔女はため息をつくと、本を閉じて自分への視線に向き合う。
「元より、断る理由もないけれど」
そう言って、目の前の友人と同じように笑った。
からからと二人は笑う。
こらえ切れない愉快さで。
日傘をさして、庭を闊歩する当主。
外勤のメイド、門番統括の彼女らにとっては、またぞろ当主が我が屋敷の庭園を愛でに来たのだと思うだろう。
見かければ、花の手入れをする者も、警備のように歩いている者も、慌てて当主にお辞儀をする。
そんな従者達を適当にあしらいながら、正門へ向かって歩いて行く日傘。
見えてきた、門横の塀の上に腕で枕をしながら器用に寝転がる我が門番の姿。
素晴らしい勤務態度だ。
近づくにつれて、その周りで仕事をしているメイドの顔が蒼白に近くなっていくが、特に気にすることもないだろう。
当主は、近くで庭仕事をしていたあるメイドに、投げるのに適当な大きさの石を要求。
震える彼女から石を受け取ると、適当な力で門番めがけて放り投げる。
その場にいたほとんどの者に視認不可能な速度で飛んでいったそれ、着弾予測地点はおよそ目標後頭部。
誰しもが数瞬後の悲劇を予測した直前、時折もぞもぞと体をかいていた門番の手がぬるりと動いて、器用にそれをキャッチした。
パシンと乾いた音を立てて手に収まった石に、勤続の長い一部メイドと投げた張本人を除いたその場の面々は目を丸くする。
そのまま後ろに石を軽く放ると、門番は勢いをつけて枕をしていた片手で倒立し、体をひねって門の内側に向けて起き上った。
「どうかしましたか、お嬢様」
悪びれもせず、それどころか欠伸までもらしながら、当主に尋ねる門番。
「その帽子の字、狸に変えた方がいいんじゃないか?」
見上げる当主は笑っている。その様子に、どうやら怒りは感じられない。
周りのメイド達はほっと胸を撫で下ろした。
「美鈴、今夜は飲むよ」
そのまま笑いながら、レミリアは言った。
「飲みますか」
返す美鈴も笑顔。
「飲むでしょう?」
「飲みますとも」
からからと二人は笑う。
こらえ切れない愉快さで。
レミリア・スカーレットは吸血鬼である。血を吸う鬼と書いてそれである。
つまりは、彼女は一種の鬼なのだ。
で、あるからして、当然強い。
実力も腕力もそうだが、この場合は酒である。
そう、酒。
彼女は血液をいっとう好むが、同じくらい酒が好きという立派なウワバミ、呑んべぇであった。
が、その事実はあまり外部に知られていない。
彼女が参加する宴会には、元来の鬼もいれば、彼女と同等に酒好きな者もたくさんいた。
常に酒の入った瓢箪を担ぐほどに酒好きでもない彼女の酒量は、それほど目立つものでもない。
それでも、呑み比べでもすれば鬼の次くらいには盃を空けるであろうはずなのだ。
だが、彼女は宴会ではそれほど飲まない。貴族としての矜持があった。
多少は浮かれても、浴びるほど飲んだ後に場所がなくて自分の帽子に戻すどこかの黒白のようなレベルの醜態を人前で晒すことはできないのだ。
でも、いや、だからこそ、彼女には醜態をさらすほどに潰れられる場所が別にあった、必要であった。
それこそが、彼女が心を許す家人とのみ、たまに設ける酒の席。
紅魔館、地獄の飲み会である。
ホームパーティーや楽しみ事は頻繁に行われ、ほぼ全員が参加する紅魔館だったが、この飲み会に参加する……出来るのは極少数であった。
というより三人しかいなかった。
メイドらも酒は好きだが、それはあくまで並みレベル。それは咲夜も例外でなく、彼女の肝臓は人間並みだった。
必然、多少は存在する妖怪メイドも候補に挙がるが、人間より強くても鬼に敵う相手というのは滅多にいない。酒の話であるが。
だが、滅多にいないというだけで、少しはいるということだ、もちろんこの紅魔館にも。
その一人は紅美鈴、これは意外でも何でもないだろう。
なんかもう見た目飲みそう、というか宴会に行ってもしこたま飲んでいた。
自他共に知られるウワバミが彼女である。
もう一人はパチュリー・ノーレッジ。これはかなり意外ではあるが、彼女も目立たず相当な酒好きであった。
体は丈夫じゃないのに飲む。とにかく飲む。
レミリア以上に目立たない酒豪であったが、そもそも彼女は宴会に滅多に参加しなかった。
ついでに言うと、レミリアの妹、フランドールも吸血鬼だがは酒を好まない。
小悪魔は酒は嗜むが、あくまで人並みだった。あくまで。
とにもかくにも、紅魔館に三人だけの呑んべぇは今夜に会す。
幾多もの燭台は照らす部屋に、円卓にて三人。
紅き館の鬼当主、自称血よりも酒が好きな吸血鬼、レミリアが微笑んで一人。
紅き館の謎の門番、自称八岐大蛇を超えた蟒蛇、美鈴が欠伸をしながら一人。
紅き館の動かぬ図書館、自称肺の機能を全て肝臓に回した魔女、パチュリーが黙して一人。
その空間には、これからの宴席に対しての仄かな興奮と緊張が滞留している。
「よくもまあ」
レミリアがにやにやと笑いながら、口火を切る。
「久しぶりじゃないの、この面子ってのも」
「ひと月ぶりだと思うわ」
パチュリーは無表情に、呟くように。
「まあ、それ以上のペースでこれをやってたら破綻者ですよ」
美鈴も笑いながら。
「じゃあ、鬼は破綻者だな」
「ええ、破綻してなきゃ鬼とは言えません」
「逆に言えば、人が破綻すれば鬼になる……」
三人の間で、小気味よく交わされるジャブの応酬。徐々に温まる空気。
「ともあれ、今夜ばかりは私達も破綻者よ。まあ、私は生まれついてからだけど」
子供のように笑うレミリア。外見は実際子供だが。
「そうね、今夜ばかりは大いに破綻しましょう」
パチュリーも地味に口の端をあげて笑顔を返す。
「には、まず酒がなくてはならんでしょう」
美鈴の言葉に、レミリアは頷いてベルを鳴らす。
それを合図にドアが開くと、静々と杯をもったメイド達が三人。
三人がかりで運ぶそれを一人ずつに手渡すと、また同じように退場する。
三人の手には杯、俗にはジョッキと呼ばれる太く縦長いグラス。
だが、それは、ジョッキというにはあまりにも大きすぎた。
陶器で作られたそれは、ともすれば幅がレミリアの胴ほどあり、高さは首から臍に届きそうなくらいであった。
美鈴はともかく、パチュリーや特にレミリアがそれを持つ絵は、不釣り合いを超えて遠近が狂った様を思わせる。
だが、持つ当人達はそれを一向に意に介していない。自然体である、その大きさに、如何ほどの疑問も持ち合わせていない。
「さて」
酒が行き渡ったところで、レミリアは小さく咳を一つ。
それを合図に、美鈴もパチュリーもレミリアを向く。
「酒に対しては、当に歌うべし」
レミリアは歌うように。
「まあ、長いから全部は言わないけど。いい詩よね、美鈴」
「まったくです」
美鈴は目をつぶって聞き入る様に頷いている。
「契闊談讌し、心に旧恩を念う……乾杯」
吸血鬼が、杯を掲げる。
「乾杯」
続いて魔女が。
「乾杯!」
続いて門番が。
そのまま三人の杯が空中でぶつかり合い、鈍い音を立てた。
三人とも杯を引き戻し、口にあてがう動作は無駄に神速であった。
唇が触れると同時に、口中に中味は流し込まれる。
何よりも冷たいという感覚が来た、後に発砲し、下を刺激する炭酸、ほのかな麦の香り。微かな甘み。
麦酒である。
明治十七年、都市部ではハイカラな酒として普及していたそれも、この村落部に近かった幻想郷においては日本酒を席巻するほどの地位は得ていなかったし、それは時の進まぬ現代でも変わりはない。
しかし、紅魔館では事情が違う。
当主が好んだ、従者が好んだ、何より魔女が異常なまでに好んだ。
幻想となった直後に、麦酒の存在が希少だった新天地で何よりもまず紅魔館オリジナル麦酒の醸造に取り掛かったのは、他でもないパチュリーであった。
鬼気迫る表情と勢いで蔵書を漁り、麦畑を耕し、自ら大工仕事で敷地内に釜や貯蔵用巨大樽やその他設備を作る姿は館内の伝説になったとかなっていないとか。
ともかくまだ生きているこの先人の功績のおかげで、紅魔館には安定した麦酒の供給がなされているわけである。
その麦酒を、三人はすごい勢いで喉を鳴らしながら嚥下していく。
鳴らす、鳴らす、鳴らす。
たっぷり十秒はかけて飲み干すと、三人はまったく同じタイミングで空になった杯を目の前の円卓に叩きつけた。
「ぷはぁっ!」
大きく息を吐く。
次いで飲んでいる最中とは違う、口に広がる濃厚な後味。
「あぁぁ……」
体を通り抜ける快感に、低く声を洩らす。
「うまい!」
まずレミリアが叫んだ。
「この一杯のために門番してる!」
美鈴が叫び。
「次よ!」
物凄い勢いでベルを鳴らしながら、パチュリーが叫ぶ。
こうしてここに点火であり、幕開けであり、開宴であった。
三人の呑んべぇは体を駆け巡る狂喜に咽ぶ。
しばらくは口をつけると、一拍の間も置かずに杯を空けていた三人。
「うまい!」「たまらない!」「生きててよかった!」などと叫びながら止むことのない呼び鈴。
渡しては呼び戻され、渡しては呼び戻されをメイド達が五回繰り返した辺りで、ようやく一息ついたらしい。
同時にメイド達もほっと息をついた。
円卓の三人は、やや放心したように背を椅子に預けていた。
「おいしかったわね……」
レミリアが呟く。
「最初の数杯というのは、いつもと違うまたこたえられないものがあると思うわ」
パチュリーは感慨深く頷く。
「体も温まってきましたよ」
美鈴は背を離すと、大きく伸びをした。
「そうね、温まったところで」
三人同時に半分くらい残った杯を、また一気に飲み干し。
「料理といきましょう」
料理といっても、酒を飲んでいる最中にはさほど食べない三人であった。
何せ料理に胃のスペースを譲るくらいなら、酒を流し込んだ方がマシという考えである。
故に一品目、突き出しにメイドが運んできたのは、ぬか漬けの盛り合わせであった。
悪魔の館に存在するぬか床というのは、彼女らの日本文化の中での生活の長さを思わせるのかもしれない。
「にしたって、最近どうかしら」
どうでもいい当たり障りのない切り出しをしながら、器用に箸を使って胡瓜をつまむレミリア。
胡瓜をポリポリ食べながら杯を傾ける吸血鬼という光景はシュール以外のなにものでもない。
「どうもこうも、いつも通りよ」
茄子に薬味の辛子をつけながらパチュリー。
「異変が多いですよね、三ヶ月……半年おきくらいには起きてるような」
自分の小皿に置いた大根に醤油をかける美鈴。
余りにも手慣れすぎてる彼女らの漬物スタイルは、日本文化の中での生活の長さを思わせるのかもしれない。本当に。
「駆り出される霊夢もたまったもんじゃないだろうね」
また胡瓜をつまみながらレミリアはベルを鳴らす。
杯が空いたのだ。
他の二人にはまだ残っているので、この辺から各人のペースは別れる。
宴は踊る。
そりゃもう好き勝手に。
「あん時はやられたわよ、まったく!」
レミリアは杯をドンと卓に叩きつける。
「私は寒いのは嫌いじゃないからいいけど」
パチュリーは枝豆を自分の口から少し離したところから飛ばして食べる。
いつの間にか、つまみは枝豆になっていたらしい。
他にも出汁巻き、山葵とオクラの醤油和え、揚げ出し豆腐、ふうきみそ、タラの芽の天ぷらなどが並んでいる。
西洋風のお洒落なメニューが微塵も並んでいない辺り、彼女らの日本文化の中での生活の長さを思わせるのかもしれない。いい加減に。
「いっつも図書館にこもってりゃ季節もクソもなさそうですしね」
美鈴は笑いながら、料理をつまみつつもう片手で酒を飲む。
「咲夜が取り戻したからいいものの……春も、何もかもここのものだというのに」
「傲慢ね」
パチュリーは呆れたように呟きながら、出汁巻きに付け合わせの大根おろしをのせて醤油をかけた。
「まあ、そこがお嬢様の、ひいてはここの売りですもの。お嬢様、あーん」
「あ?あーん」
口を開けるレミリアのそこめがけて美鈴が豆を皮から飛ばす。
「……うん、うまいな」
ナイスキャッチしてもぐもぐと咀嚼。普段では見られないというか、許されないというか、色々すごい光景だった。
何杯飲んだかなんて、当人も周りも絶対に覚えていない。
数えられない数を表す有名な言葉がある、「百から先は数えていない」。
「昔からそうなの?あいつ?……私はそれほど知らないけど」
「そうでしたよー、もうねぇ……」
レミリアと美鈴は何かを思うように頷くと、同時に杯に口をつけ、飲み干す。
卓に叩きつける。
「んあ?パチェ、止まってるんじゃないの?」
黙して、ゆらゆらと首を動かしているパチュリー。
その言葉を聞くと、首の動きを止めて、目の前の杯を一気に飲み干した。
「誰が止まってるのかしら、レミィ?……げふ」
ギラギラと睨みつける魔女に頷くと、レミリアはベルを鳴らした。
入ってくるメイド達。
「純米、『黒心』。ボトルごと」
杯を渡しながらレミリア。意外にもプレインジャパニーズアルコールを好むのだ。
こういう席では、大抵自分のイメージに合った方のワインは飲まない。
ワインは好きだが、あれは集まって飲むものではなく一人で楽しむものだと思っていた。
「私は麦酒もう一杯」
と、美鈴。
「芋の『大往生』。ボトル、梅干しつきで」
パチュリーの注文。西洋の魔女が頼むにはどうかと思える。
さらに夜は更け、深夜に入っても、三人はまだまだ飲む。
時間間隔など今の三人にはないのだ。
「んく、んく……くぁっ!……ふー、私もそろそろもう一回異変でも起こすか」
ラッパ飲みしていたボトルを、掴んだまま手をおろしてブラブラ。
すでに床には三本くらい日本酒の一升瓶が転がっている。
「また?やめてくださいよ、先駆け私なんですよ」
美鈴もいつの間にか日本酒だった。
「ああ?一番槍の名誉をお前に与えてるんだぞ!……て、パチェ!」
呼ばれたパチュリーは、首の動きが大分おかしかった。座ってないというやつである。
箸で焼酎に入れた梅干しを一心不乱に潰しているそこにもう落ち着いた知識人の姿はない。
同じ呑んべぇとはいえ、やはり差はあるようで、三人の中ではいつもパチュリーがやや遅れを取る形だった。
「なによレミィ……飲んでるわよ!」
首を縦にカクカクさせながら、焼酎の入った、先のジョッキ並にルナティックなでかさのグラスを一気に空ける。
パチュリーの周りにも芋焼酎の一升瓶が散乱していた。
「飲んでるならいいのよ、わははは!なによその首の動き」
「そうとうキてますね、わははは!」
笑うレミリアと美鈴。
パチュリーは二人を睨みつけると、美鈴めがけて口から梅干しの種を吹き出した。
「あたっ!?」
見事目標のおでこに命中し、レミリアとパチュリーは肩を組んで笑った。
さらに飲む、どんどん飲む。
これだけ飲めば、パチュリーに限らず美鈴やレミリアだって酔ってくる。
主従、友人、いろんな関係を超えて、くだらない話と笑いが場を占有して。
当に歌うべしとは、当にこの事。
「しーずざみすとれーす!ざせんとおーぶじおーりーえん!」
というか、まさに歌っていた。
「いいぞー!さすが私の門番だ!」
「前から思ってたけどそれ何の歌よー!」
どっからか取り出してきた月琴をベンベン弾きながら歌う美鈴に、指笛を吹きながら囃し立てるレミリアとパチュリー。
「どうも、ご静聴いただきありがとうございました」
歌が終わると、美鈴は立ってお辞儀をし、円卓から少し離れて演奏していた椅子をまた元に戻して座る。
この辺になると流石にペースも落ちてきたのか、各自自分の酒をチビリチビリと飲み続けている。
いや、ラッパ飲みとグラスのでかさを見るにつけ、その一口にその擬音はつけられないくらいだったが。
同時に瓶というラッパを口から離すと、意味もなく笑う美鈴とレミリア。
完全に出来上がっている。これ以上ないというほどに。
パチュリーに至っては、すでに首の動きがすごいことになっていた。
グラグラ前後に体ごと動き始めている。パーフェクトに危ない人である。
「パチェ!おい、パチェ!しっかりしなさい!」
言葉とは裏腹すぎる爆笑とともに親友に呼びかけるレミリア。
「しっかり!?してるわよ!レミィ!あなたの服の色、白なのかピンクなのかはっきりしてちょうだい!」
一方パチュリー、卓をドンと叩いて怒鳴ると、そのまま突っ伏しおでこをガツンと卓に当てて変なうめき声を洩らす。
「大変よ美鈴!パチェが面白いぞ」
「そうですね!ところでどっちなんですか!」
レミリアは笑いながらこちらも笑っている美鈴の口に瓶を押しつけると、強制的に酒を飲ませて誤魔化した。
もはや何のために飲むのか、わからなくなっても飲む。
とにかく飲む。だってお酒はおいしいもの。
だって飲むのは楽しいもの。
「月を見るぞ!」
「そりゃいいですね!」
言葉と共に、笑いながら外に面した壁を蹴り破る二人。紅魔館には窓が少ない。
瓶を持ち、すでに意識のはっきりしてないフラフラのパチュリーの襟を引っ掴み。
飛べばいいのにわざわざ壁をよじ登って、屋根に到着。
屋根に座って上を見る。空があった。月があった。手には酒があった。
「月に」
一升瓶を掲げて瓶の腹をぶつけ合うという他に類を見ないロックな乾杯をすると、瓶が垂直に傾くほどのラッパ飲み。
向かい合う二人の傍らには、寝ながら屋根にしがみついてよろよろとグラスを掲げているパチュリー。
静かに照らす月光。目の前には、幻想の郷。我が屋敷と、酒。潰れるまで飲み合える友と従者。
「はは」
レミリアは、からからと笑う。
ああ、楽しきは破綻者の生き様。
ああ、楽しきは呑んべぇの生き方。
「また飲もう」
静かに呟いた。
「ええ、飲みましょう」
美鈴が頷く。
「いつだってね」
そこだけは何とか気合で正気に戻りながら、パチュリーも同意した。
宴はいつか終わる。でも、終わったって、またやればいいのだ。
今夜が終わってもまた次だ。
三人は月に向かって吼えるように笑うと、屋根に寝転がって意識を手放した。
酒を飲んだ翌日は眠い。
二日酔いなんぞ生まれてこの方したことはないが、ただひたすらに眠いな、と、レミリアはいつの間にか寝転んでいたベッドの中でまどろみながら思う。
吸血鬼は自室で朝から深夜まで寝ていた。
魔女は図書館で本も読まずに寝ていた。
門番は門前でいつも通り寝ていた。
さぁ次の作品を書くんだ!
こういう話、大好きです。
>自称肺の機能を全て肝臓に回した魔女
吹かざるを得ないwww
日常からの逸脱と回帰が書かれていて素敵でした。
旨かった。
飲み会では、騒いでる連中を遠くから見るのも楽しいけど、近くでバカやるのも楽しいもんです。
飲み会の後のゲップはやべぇ
確かにこの人たちはめちゃんこ呑みそうですね。
>門番は門前でいつも通り寝ていた。
中国仕事しろww
ヒャア我慢できねぇ。
莫迦になるまで呑んだのってどれくらい前だっけなぁ。
なんか久々に呑みたくなったんで呑んでくるwww
おーい咲夜さん、酒持ってきて!
よき酒の席でした
文句なしに100点
いいなぁ…、楽しそうだなぁ…パルパルパル…
楽しそうでいいなぁ
乾杯!
こんな酒が飲みたいですなw
パチュリーはがんばりすぎだった
ああ最高だ
乾杯!
気の合った友人達と思いっきり呑みたくなってきた。
実に酒が飲みたくなるSSだなぁ