Coolier - 新生・東方創想話

エドゥアルトのローズ宇宙

2010/12/29 01:47:49
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≪三途の川 宇宙≫


 蓮子が眼を覚ました時、その眼前にはスタティックな世界が広がっていた。無音で不動、音は聞こえず、何かが動く事もない世界はどこまでもただ、冥い。
……おかしいな……。ゆっくりと眼を閉じていく。気だるい。起きたくない。眠っていたい。しかしその衝動を本能だろうか、それとも心だろうか、自分の中の何かが邪魔立てをする。仕方が無いので眼を開いてみれば、先程までには無かったまばゆい光の数々が視界に広がっていた。その光景はまるで天体写真のようだ。しかし、時間が静止したままのそれは写真にしか見えない。光と色という効果が現れただけでこの世界が動いているとは蓮子には思えなかった。
……いよいよもっておかしいぞ……。視点を動かす。それと同時に、世界が少しだけ動いた。ダイナミックと形容する程では無いものの、それでもわずかに動いた。その動きに安心したのか、それとも恐れたのか、一息つく。
こぽ。自分の口元から泡が漏れたのを見た。こぽ、こぽ、こぽ。実際には聞こえていないのだが、こんな音が聞こえたような気がした。ここは深海なのか。それとも何だ、何処だ。

 意識が徐々に鮮明になり状況を確認する程度の冷静さが蓮子に戻ってきた頃、その瞳には暗闇とその中に光る何かが映るようになっていた。深海から見た遠い空だろうか、それとも、地上から見た星空か。どちらも違う。違和感はあった。足は地に着いておらず、そもそも地となる重心が何処にもない。ただ流動的に何処とも分からぬ場所を浮いている、感覚。具体的な位置が分からないとはいえ、この観測地点が何処か蓮子は薄々気づいていた。だからこのような星空が見えるのだろう。蓮子は宇宙にいたのだった。
 辺りを見回す。地球は見当たらない。数多の星が輝いているだけだ。地上から見てはるか上空に位置するそれらは曇に隠れていない場合、観測者は普通それを小さながらも観る事が出来るが、これは違った。地球と云う宇宙のある一地点から観た星空などとは訳が違った。上下八方、見渡した全ての場所に星があった。季節ごとにしか見れない筈の星座の数々が蓮子を囲んでいた。宇宙の一部だった。人類が、自分が、今もそしてこれからも夢見る事になるであろうあの宇宙の一部になったような気持ちを彼女は覚えた。
 蓮子の専攻している学問は宇宙に関連するものでもある。素粒子のさらにその先、極微小の世界を『哲学的』に説明し、また自然界の四つの相互作用、≪強い相互作用≫、≪弱い相互作用≫、≪電磁相互作用≫、≪重力相互作用≫をプランクエネルギーに統一する為の万物の理論――統一場理論の唯一の候補として挙げられるような難解極まりないものである超弦理論などと呼ばれるそれは、宇宙の姿やその誕生のメカニズムを解き明かす事など宇宙論への応用も可能であった。
 もしこの理論が証明されたならば、偉大なる先人達が証明した電磁相互作用と弱い相互作用を統一し電弱力という形にしたワインバーグ=サラム理論や、大統一理論の証明を超える偉業となるだろう。ノーベル物理学賞受賞は間違い無い。だからこそ世界の先端物理学者はこぞってこの理論を研究し、数式的、哲学的に証明しようとしているのだった。
 そんな学問を学んでいる蓮子だが、否、蓮子だからこそ、宇宙を形成する一つの"星"から感じる情緒は並み一通りでは無かった。
蓮子は月を見る事で今いる場所の正確な位置を、星を見る事で今現在の正確な時刻(JSTに限る)が分かるという能力を持っている。星は夜にだけ使える時計代わりでもあった。しかし、それだけではない。時計代わりの便利なものだけでは決してない。
 蓮子は現在社会ではもはや珍しい部類に入る『星を眺める』人だったのだ。時計になるとはいえ、夜という短い時間にしか使えない時計。そんなもの、腕時計を日頃から持ち歩いていればいい。場所を知りたいのなら、今やGPSがある。
 それでも蓮子が月や星を見るのはやはり彼女が幻想の追いかけ人に他ならないからである。

 ふと顔を上げると飛び込んでくる夜空にただ深々と煌めいている星の美しさ。星々が作りだす図としては意味の無い図形の数々――星座。そして追求対象でもある宇宙全体。それらは蓮子に現在にわずかに残ったあわい幻想の香りを感じさせた。
一つ一つの名も無き星々を連結させ意味を、名を与えた古人達のなんとロマンティストな事か。こんな美しい光景。もしメリーが今あの星座の数々を見ることがあったならどんな世界が、どんな境界が見えるのだろう。そう思うと蓮子はメリーの目が気持ち悪くて気持ち悪くて堪らなくなった。
 ある少年が親友の少年と一緒に"銀河鉄道"に乗って旅をするお話。その物語に書かれていたような景観がそこにはあるのだろうか。《ルビーよりも赤くすきとおリチウムよりもうつくしく酔ったようになって燃えている蠍の火》《小さな水晶の二つのお宮》《プリシオン海岸に落ちている小さな火を中で燃やしている礫》
 それはきっと、なんて気持ち悪い素敵な景色なのだろう。蓮子はそれらを想像すると笑みが止まらなくなる。メリーだけに見える世界。その世界と普段自分の上空に見えるいくつもの数字が書かれている世界、果たしてどちらが気持ち悪いだろう。当然貴方の世界よ、と微妙な表情をしながらも微笑むメリーの姿が目に浮かんだ。ああ、気持ち悪い。

 微笑ましい気持ちになりながら再び星に焦点を絞る。蓮子の眼前に在るのはOrionis――オリオン座のペテルギウスである。
 ペテルギウスは"巨人の腋の下"という語源から来ているという説が日本では有力視されていたが、今では"ジャウザーという女性の手"を意味するこの星のアラビア語名に由来しているとの説が有力視されている。蓮子はそれを知っていたのでその二つのイメージを組み合わせ"日本人女性が左手で右腕の腋の下を隠している"場面を頭の中に浮かべた。日本で腋と言えば巫女さんだろう、巫女服の似合う少女だ。巫女服を着た少女がオリオン座の観測できる冬の夜、野晒しにされ冷たくなってしまった腋を温めようと小さな手で覆っているのだ。「うー、さむさむ」と口にしながらも、もう片方の腋はガラ空きの矛盾している少女。我ながら不思議なものだと思う。だがそれがいい。蓮子は何故かそう思った。少女の無限なる幻想は宇宙に通ずるところがあるのかもしれない。
 
 さて、オリオン座から左方向を向くとMonocerotis――いっかくじゅう座が姿を現した。
そしてその中にこの星座を形成している恒星の中で最も明るいβ星の姿を目にすることが出来る。β星の発見者ウィリアム・ハーシェルが「全天で最も美しい景観の一つ」と云ったその景観が今、蓮子の目の前に在る。望遠鏡越しでしか、あるいは写真でしか見れないその景観を蓮子は今独り占めしているのだ。確かに綺麗だ。陳腐な言葉しか出てこないのが悔しいぐらい綺麗でため息が漏れる。三重星が作りだす三角形の静かな静かな美しさ。スタティックな宇宙の美しさだ。

 胸をときめかせながら蓮子は一度眼を閉じた。目を開いたらまたあの美しい光景が見れるのだろう、そう考えながら目を開いていく。だからこそ驚愕した、予想していた景観とはまるで正反対の鮮烈な色がそこに現れたのだ。

               赤い。赤い。紅い。紅い。

 紅としか形容できそうにない鮮やかを通り越してもはや毒々しい色の花が咲いていた。薔薇だ。暗黒の宇宙に大輪の薔薇の花が咲いていた。その毒々しさの中にある危うい美しさが蓮子の目を焼く。蓮子はこの宇宙に咲く花の名を知っていた。あれはばら星雲だ。英名はThe Rosette Nebula. 正式名はいっかくじゅう座NGC22379星雲。他にも何かに例えられて呼ばれていたような気がするのだが、はて――なんだったろうか、思い出せない。蓮子は怯えた。美しい景観を見ているというのにその時、蓮子の頭に湧いて出てきたものは疑問だけだった。おかしい。何から何までおかしい。まずは星座がしっかりその形に見えるのがおかしかった。星座を形成する星は地球から観測すると近くに位置しているように見えるが、地球との実際の距離はそれぞれ違う。ただ地球から見るとどれも遠すぎて近くに在るように見えるだけだ。が、辺りを見回しても地球の姿は見当たらない。それどころか惑星の存在が無い。恒星だけが宇宙に点々と、それも星図に書かれているような規則正しさで存在しているといった状況だ。もし星図に書かれているような宇宙であったなら、何処から見てもこう見えるのかもしれないがそれはまずない。次にばら星雲を肉眼で見ることはまず出来ない。ばら星雲は望遠鏡に干渉フィルターをつけることで初めて視認できる散光星雲だったはず。第一、こんな間近で星を見たらそのあまりの眩さに目が瞑れる。それ以前に体が持たない。呼吸だって酸素が無ければ出来ない。そもそも何故ここに居るのだ。地球が在る太陽系からこんな遠いところまで来れる筈がない。時間が足りない。ここに来る以前の記憶は何処へ。駄目だ、見つからない。それに、ああ、忘れていた。すっかり忘れていた。美しい景観に舞い上がり過ぎていたのだ。星を見ているのに時間が把握できていない事に気づかなかった。
 考えれば考えるほど疑問は蛇口を最大出力で開け放ったかの如く、湧き出る。疑問とは不安の種である。子供でさえ疑問を疑問のままにしておくのを嫌がるのだ。ましてや、自分に判らぬ事など何もないと思いこめるくらいの頭脳明晰な人ならばその疑問が与えた不安の程度は非常に大きい。不安を消すために疑問を追及したがるのだ。勿論、それはただ頭が良いだけに過ぎない人間にとってだけである。真に頭がいい人間と云うのはどうやらそれすらも糧にしてしまう。蓮子もその部類の人間である。疑問をただ一つの回答がある追求対象として見るだけでなく、時にはつついてみたり、叩いてみたり、さらには壊して、挙句の果てにはそこまでやったというのに放置してしまう。蓮子は確かに世界の構造を現実的にほぼ理解している人であったが、それと同時に世界を幻想的にも理解したいと思う人でもあった。
……こんなにも幻想的な光景を目にしているというのに真実を思うなんてそれこそ興醒めだろう。
蓮子はその真実を今は無視することにした。

 ――しようとしたのだ。しかし、体は正直なもので胸の動悸はみるみる高まっていく。音の全く無かった世界に本来なら聞こえていた筈のその音だけがようやく響き篭っていく。苦しい。呼吸がそれに連れて荒くなり、やがて首を両手で抑えたかと思うと喘ぎ出した。呼吸ができなくなっていた。
体中に重りを落とされたかのような鈍痛が走る。その痛みが頭の天辺から足の爪先までどんどん広がっていく。全身が、それを構成する全器官が、さらにその器官達を構成する全組織が、その組織達を繋ぎ止め震えている一つ一つの細胞が知らず知らずの内に糾合し続ける。痛みに耐え切る事が出来ず、ついに叫んだがその声は世界に響かぬままでただ息だけが漏れていく。体中の震えが止まらない。しかし、どうすることも出来ない。煩い動悸の打ち出す音が無力感を緊緊と与える。その音も小さくなっていく。ああ、死ぬのだな。死を受け入れる。全身に入れていた意識から眼をそらした。するとどうであろうか。首を絞め続けていた両腕から力を抜いた途端、全身を侵していた苦痛がまるで嘘だったかのように楽になり、消えて亡くなった。
それでも動悸は止まない。呼吸の音も緩まない。それどころかブウウ――ンという耳障りな音まで聞こえるようになった。一体何が起きたというのか、蓮子にはその不思議の判別がまったくつかなかった。

 再度目を閉じる。蓮子は自分の体が消滅してしまったかのような恐怖にも似た寂しさを感じていた。先程までは宇宙と一体化しているような感覚に果てしない嬉しさを覚えたが、今度はその感覚に恐怖した。震えは止まず鼓動の音だけが狂ったように鳴り響く中、返ってその音だけが自分が存在しているという実感を蓮子に感じさせている。宇宙は生と静の空間ではなかった。死と動の空間でもあった。
蓮子はじっと動かぬままで、只、宇宙に流されるだけであった。ああ、宇宙だ。寂しくて泣きそうなあの宇宙だ。何時までも冷たくて何処までも寂しくて、それでいて美しい宇宙のように見える何か。本来の宇宙とは違い時々誰かに包まれたように温かくて、呼吸をする事も出来る何処か。此処が死の世界でもある宇宙とは到底思えない。夢なのかしら。それにしては随分と現実味のある夢ね。メリーと同じような体験をしているのだろうか。もしかしたら自分は既に一つの星になっているのかもしれない。だからこうして宇宙で意識を保ち続けていられるのだろう。
蓮子の頭の中を様々な思考が流れ、やがて消えていく。蓮子の意識は再び底へと沈んでいった。


 2胎児の夢、逆行


 ……何だ、あれは……。
 ……? 温かい? 誰かがワタシの手を握っている? 金髪の女の子。素敵な笑顔の持ち主の女の子が私に笑いかける。
 アナタは誰? ワタシを知っているの? どうしてワタシに笑いかけている? ワタシも笑っている。
 ……あれ、消えた……。

 ……?。温かい? 誰かがワタシを抱いている? たくましい腕。知っているような知らないような誰かがワタシに微笑む。
 その隣りから出てきたまたも知らない誰かもワタシに微笑みかける。高いソプラノの声。
 アナタ達は誰? ワタシを知っているの? どうしてワタシに笑いかけている? ワタシも笑っている。
 ……あれ、消えた……。

 ……? 温かい? 何かがワタシを包んでいる? 目は開けないけれど、声が聞こえる。優しい声。野太い声と消え入りそうな声。二つの声が幸せそうに混ざって。
 温かい何かがワタシを包んでいる何かを通じてワタシに触れる。ワタシは嬉しくて動く。それに反応して彼らも笑う。
 アナタ達は誰? どうしてワタシに笑いかけている? ワタシも笑っている。
 ……あれ、消えた……。

 ……? なんだ、気持ち悪い……入り込んでくる……ヤダ。……ヤメ……。

 ――……? イタイ? 何か長い間、気持ち悪くてたまらないものがワタシの中を貫いていた気がするのだけれど一体何だったのだろうか。それにしても嬉しい。ようやく自由な姿になれた。これでもう安心して寝られる。だってコンナに大きくなったんだ。他の奴らのように下卑ていないコンナニにも素敵な体を手に入れたんだ。もう怖いものなんて何もない。
 あ、れ。何だろう、背後から感じる視線は――。


 ……モウ見タク……。

 ――……? ヒドイ? 何か不安でたまらないものがワタシを襲っていた気がするのだけれど一体何だったのだろうか。それにしても嬉しい。もう怖い奴は何処にもいないぞ。だってようやく陸に這い上がることが出来たんだ。あの重苦しい水の中から出てやったんだ。きっと此処は新天地だ。ワタシでも穏暖に暮らせる。
 あ、れ。何だろう、この重々しい音と揺れは――。

 ……アア……。

 ――……? ヤリキレナイ? 何か恐ろしくてたまらないものがワタシを囲んでいた気がするのだけれど一体何だったのだろうか。それにしても嬉しい。あの恐ろしい暑さ寒さの変化にも耐えることが出来る体。自由に動き回れる体。食べることのできる口。キミを判断する瞳。キミ? はて、誰だっただろうか。とりあえずこれだけ進歩した体があればもう自然から体を守ることができる。怖い事なんて何もない。
 あ、れ。何だろう、あの大きな影は――。

 ……アァ……ア゛ァ……。

 ――……? コワイ? 何か今よりずっと良くて、だけどやはり何も変わらない夢を見ていたような気がするのだけれど一体何だったのだろうか。それにしても嬉しい。見えないけれど、仲間がこんなにもいるのが感じ取れる。生まれてきたよ、ワタシ、生まれてきたよ。ねえ、キミは誰? あれ、伝えられない。キミの姿も見えない。そこにいるのに。
 ア、レ。何だか体中がイタイ。ヒドイ。ああ、キミが死んでしまった。ヤリキレナイ。ドウシテ……。
 ア、レ。何ダロウ。え。まさか ワタシ も 死ぬの? イやダ。ヤだ。コワイ。消エるのは。コワイ。シぬのは。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ……。
 
 ――……アア、モウ堪エラレナイ。モウ 嫌 ダ。見タクナイ。モウ見タクナイ。イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ

 ――……イヤダ……アア、恐ロシイ。消エル。ワタシ ガ 消エル。消エ去リテ、シカシ、何時カハマタ此処ニ戻ラナケレバナラナイノカ。コンナ生、モウイヤダ。
 ――生ノ理想ハ……無意識ノ……植物的ナ生――

 ―――――ブウウウウウウウウウウウウン―――――プツン。

 ……何だ? 先ほどまでのあの恐ろしい光景は何だ? 何だ、もう死ぬのか。ワタシは死ぬのか。それとも既に死んでしまったのか。ワタシとはそもそも何処の誰だ。

「残念ですが宇佐美さんはもう……」

 ……? 声だ。声が聞こえる。聞いたことの無い声だ。

「――蓮子
 
 ……また違う声だ。聞き覚えのある声。誰の声だろう? 呼んでいる? ワタシを? 

「――蓮子、目を覚ましてよ、蓮子!」

 ……煩いなぁ。聞こえてるよ。起きてるよ。それとも何? ワタシはお呼びじゃない? 誰よ、  って。あれ、  ? それがワタシの名前?

「――ッ! どうして、こんな、いきなり! 勝手に! いつもは遅れてくる癖してどうしてこんな時だけ一人、先に行っちゃうのよ!」

 ……仕方がないじゃない。そういう事もあるわ。何かが滅びる事は必然的な定めでしょ。……あれ、今、確実な個々たるワタシがいたような気がする。何か、何かを思い出せそうな。思い出せない、誰だろう。

「――許さない! そんなの絶対に許さない!」

 ……あなたに許されるも許されないも無いと思うけどなあ。あ、れ? 今自然に言葉が出てきたような……何なんだろう、この懐かしい感じ。ねえ、誰なの? お前は誰だ。お前は。お主は。君は。貴方は。貴女は。あなたはワタシを知っているの?

「――ねえ……」

 ……どうしてだろう。ワタシもあなたを知っているような気がするのよ。誰だったかな。顔を見れば思い出せるかな? 思い出せば、自分自身の事も思い出せるかな? あなたと私はそこまで深い関係だったのかしら。
 判らない、判らない。あなたは誰。あなたを思い出したい。あなたを知りたい。だって、あなたを知っているんだ。あなたはとっても魅力的な女の子で。女の子? あなたは女の子だったかしら。女の子、高いソプラノの声に素敵な笑顔の持ち主で。そうよ、あなたは笑っているんだわ。沢山の表情をワタシに見せてくれる。沢山の笑顔をワタシにくれるんだ。
 なのに、どうして? 今あなたは泣いているんだ。その金色の髪を戦慄かせて、透き通った瞳にその瞳より透き通った涙を浮かべて、その白い体を震わせて。どうして? どうして綺麗な顔を歪ませているの? 何だろう、泣いてほしくないな。笑ってほしい。あなたには笑っていてほしい。どんな笑い方でも良いから笑ってほしい。
 ねぇ……。

 笑って?

 貴方の笑った顔、好きなんだ。人を馬鹿にしたような笑い顔も、くすくす笑う小動物みたいな顔も、全てがワタシのお気に入り。ワタシの宝物。

 その時、温かい気持ちで包んであった全てが明るみに出た。美しいあなた。そんなあなたが見せる美しい世界。美しい世界にいる私。あなたと一緒にそんな世界にいる私。知っていた。思い出した。あなたの事を知っている。きっとあなた以上にあなたの事を知っている。あなたの笑う顔も怒る顔もたまに見せる隙だらけな顔も――、一度だって見たことが無い泣く顔も。あなたの呼びにくい名前だって知っている。呼びにくいからって、私が、私だけが呼んでいい愛称をつけた事もちゃんと覚えている。きっと、きっと知っている。私はあなたを知っている!

「――お願いだから、目を開けてよぉ……、蓮子……」

 ……目? あれ、目は何処に行った。そもそも体はどこに行った。これじゃあ開けたくても開けられないや、はは。あなたこそ目を開けてよ。メリー。ああ、泣いてほしくないな。そばに駆け寄ってあげたい。でも、駄目なんだ。どうしてだろうね。
無いんだ。あなたを安心させられる腕が。背後からそっと抱き締めることができたらな。こんなにも近くにいて、それが出来ない。近いはずのその距離でさえ今は遠くに感じられる。
腕を伸ばす。泣いているあなたが目の前にいて、なのに、あなたは私に気づかないで一人しくしく泣いている。それがとても寂しくて、それがとても切なくて。腕が。腕さえあれば。腕なんてものは無い。それでも、近づきたいという一心で懸命に何かを伸ばしてみる。少し近付けた気がした。だから、諦めない。ただ一心不乱に伸ばしていく。腕が無理なら体ごと。近づけ、近づけ! と何かを動かす。少しずつ彼女に近づいていく。その距離はまだ遠い。でも、そんな事は関係無い。少しでも近くに、少しだけでもいいから彼女の傍にいたい。

「蓮子、嫌よ、いなくならないで、蓮子、蓮子、うぅいやだぁ」

 もう少し! きっと届く! メリー、ここにいるよ。あなたの後ろにいるんだよ。私、蓮子、今あなたの後ろにいるの。だから、ねえ、もう泣きやんで。あなたが泣く事なんて無い。もう少しだから、待ってて。もう一センチ、あと八ミリで触れる、あなたに触れられる。感触は無かったけれど、確かに触れた。
気づいて。『蓮子』の胸の上で泣き崩れているメリーの体をそっと抱きしめた。



 3無意識少女は死人と夢を見るか


 はっとして、蓮子は飛び起きた。目の前にはばら星雲。体感はしっとりふわふわ。内側から感じられる体温は熱くも冷たくもなく、只、温い。確かに眠っていたはずなのに、醒めていない。これは夢ではない! 顔を引っ張ってみる。……イタタ!
 夢ではない。これも夢ではない。しかし、現実でもなさそうなこの空間。蓮子は疑問符を頭の上に置きたくなった。?、この空間で真実を思うのは意味がないように思える。頭が痛い。
 それにしても思い做しであろうか、先程よりばら星雲との距離が縮まっているような気がするのだが、はて。ばら星雲しか見えない。折角の機会なので蓮子はばら星雲をじっくり観測することにした。先ほどとは違い落ち着いて観測しているとばら星雲の概要が思い出される。薔薇の花びらのように見える個所には素晴らしい宝が隠されている。赤子だ。星の赤子が此処で生まれるのだ。宇宙の神秘、星が生まれるその瞬間。それを知る。
 ……赤子……。先ほどの夢を思い出す。最初は明るくて幸せな世界だった。祝福に満ち溢れた素敵な世界だった。それがどんどん暗くなっていった。共鳴するように私の体も小さくなっていた。やがて宇宙よりもさらに暗い世界に着いた。最初に見たのは肉の壁だった。厚い肉の壁で出来た袋に私は包まれていた。最初は見えていたその眼も徐々に見えなくなっていった。否、閉じていったというべきか、それとも、退化したというべきか。
 そして見始めた奇想天外な夢。――ああ、これ以上は恐ろしくて何も思い出せやしない。思い出したくない。思い出したら壊れてしまいそうで。頭を抱えた。いつの間にか手に持っていた帽子を深く被った。ばら星雲は変わらず輝き続けている。ああ、誰か。父さん、母さん、メリーさん、羊さん。
 その時だ。蓮子は紅い花びらの中にある黒いひび割れた場所からこちらに向かってくるのを見た。
 一体なんだろう、星が生まれたのかな、近付いてくるということは違うか、だとすれば隕石だろうか、よけないと。あわてて避けようとするが今までただ逆らわずに流れていたため、動き方が分からない。あたふたする。駄目だ、動けない。
 覚悟を決め、ゆっくりと近づいてくるそれを凝視して蓮子はぎょっとした。蓮子は信じられないものを見た。女の子だ。遠目にも綺麗な女の子がこちらに流れてくる。完全に力を抜き流れに任せて流れてくる。静かに眠っている西洋人形の様なその少女が蓮子には薔薇のお姫様のように思えた。薔薇の中心から生まれたそれは、それほどまでに無垢な少女だった。白く透き通るような肌。銀の輝く髪。薔薇のように見える刺繍の縫われたスカート。胸に置かれた黒い帽子。そして、愛らしい天使の寝顔……と何かコードのようなもの。不思議だった。宇宙の神秘だろうか。穢れが一掃される、そんな神聖さの持ち主であった。

「ねえ」

 思わず声をかけていた。蓮子の声が宙に浮く。今まで叫んでも叫んでも響かなかった声が。木霊し続けるその声は少女には聞こえていないのだろうか、返答は無い。しばらく経って少女が蓮子の眼の前を通り過ぎようとした時、

「なあに」

 眠っているかのように見えたお姫様がその綺麗な顔に柔らかい笑みを保ち続けたまま、そう呟いた。鈴のような声が響く。西洋人形の様な姿をしていたので英語で話した方がいいかと思っていたのだが、どうやら日本語が通じるらしい。

「聞こえているんじゃない」
「聞こえてるよ?」
「貴方は薔薇のお姫様?」
「薔薇のお姫様? 違うよ。でもロマンティックね」

 違ったらしい。

「私はこいし。貴女はなんて言うの?」
「へぇ、こいしって言うんだ。良い名前ね。私は蓮子。こいしは、ここが何処だか分かる?」
「ここは意識よ」

 こいしと名乗った少女の言葉を聴いて蓮子は成程なと思う。宇宙のように広がる意識の無限性。宇宙と同じように人間の心もまた一部を除いて観測不能、未知の領域である。

「誰の意識なの?」
「うーん。誰かの?」
「貴方の意識なのでは?」
「うふふ、違いますわ」
「じゃあ私の意識? って、あ……」
 
 少女が流されていく。抵抗もせずただそのようにあるのが当然だと言わんばかりに。蓮子は思わずその手を掴む。

「え?」
「こうやって手を繋いでいれば流されない。独りでいるより温かいし」
「……そうだね!」

 先ほどまでの微笑みが宇宙のような静かなものなら。今こぼれたこの愛らしい笑顔はどう表現するべきか。ハーシェルの三重星やばら星雲と同じようにやはりそれは形容しがたい神秘的な笑顔だった。

「じゃあさっきの質問ね。ここは私の意識?」
「知らなーい」
「それとも宇宙の意識……って宇宙に意識があるわけがないよね、ごめん」
「あるよ」
 
 少女の声が真剣みを帯びる。 

「え?」
「宇宙にもあるよ、意識」
「どうして分かるの?」
「だって宇宙には意識が無いもの」
「意識が無いのなら、意識は無いでしょ?」
「無意識がある。意識が無ければ無意識があるわ。宇宙は無意識そのものよ。だって何も分かっていないし。だったら地球は見える意識、宇宙は見えない無意識と言えない?」
「言えなくもないけれど、それでも意識があるかどうかは判らないわ」
「だからこそ宇宙は未知の領域、無意識の領域なの」
「仮にその理論を採用したとした場合、深海や地底のような未知の地もその領域に入りそうだけど。そういうところにも意識はあるのかしら」
「海は見た事が無いなー」
「内陸部の人?」
「うーん、地底人?」
「嘘だ」
「嘘じゃないよ?」

 これは無意識を体現したような生き物だ。蓮子はこいしと話していてそんな事を思い始めた。無意識を人の形にしたならば、このような無垢な少女の姿になるのだろう。最初に感じたあの不思議な気持ちに成程、納得がついた。この少女もまた一つの不思議なのだ。

「どんなに小さな生き物にだってきっと意識はあるわ。鳥にだって。猫にだって。蜥蜴にだって。魚にだって。虫にだって。微生物にだって。私の細胞にだって。さらに小さなものにだってあるはずよ」
「それと宇宙に意識があるという論題とにどう関係があるの? ……さらに小さなものって素粒子の事?」
「でも、貴方の意識は自分の体を構成しているその小さな意識達の経験を感じてる? あなた以外の意識の体験を感じてる? 違うよね。貴方という個体の意識に基づいた意識体験でしょ?」
「そうね。だけど宇宙とは関係がないと思うの」
「一番小さいものから一番大きいものまで、こんなにも沢山あるのにどうして意識はこんな中途半端なところに個別であるんだろうね」

 蓮子は言葉を失った。こいしが語ったのは意識の境界問題という命題の一部だった。色や光、音などの意識体験を構成する性質はそれぞれが個々に見えるものではなく、それら全てが統一されたひとつの全体として体験される。また、自分の体験したことは自分にしか判らないように意識体験は境界を持って個別化されている。ここで問題なのは不思議なことに意識体験の統一と個別化が宇宙で一番小さな存在である素粒子でもなく、はたまた宇宙全体でもなく、生き物の脳という中途半端な所の位置で起きていることと、それら個々の意識体験を個別化する境界線の決まり方である。何故意識体験は個体レベルで起きるのか、どうやってそれらを区切る境界は決まるのか。この命題のことを意識の境界問題と云うのだが、何故こいしはこんなことを知っているのだろう。

「意識に関しては何も分かっていないよ、……心を読めたって判らなかったもの。宇宙に意識があるかどうかも同じように判らないよ」
「……そうね、それにしても、意識関連の話が好きなんだね」
「うん、大好き。多少なりとも誰かの心を意図的に知ろうとする事は必要だもん。……あのね、私、人の心を読む事が出来たんだ」
「どういう意味?」 
「人の考えていることを、表層意識を見ることが出来たの。この目を通じて」

 こいしはコードのようなものを掴む。その中心に位置する球体状のものは確かに眼球を包んでいるようにも見える。こいしは帽子を深く被り、時折目を伏せてはその眸子を撫で続けていた。蓮子も黙って
それを見ていた。

「でも、閉じたんだ。こんなものを持っていても嫌われるだけだったから。そうしたら何も見えなくなった。見えなくなったけれどそれでも世界は素敵だった。それは未開の地だったわ。地底だったわ。海だったわ。宇宙だったわ。私を囲んでいる世界は全て未知の領域だった。私はそんな事も知らなかった。見える世界だけを恐れていた」
「それからは色んなことを知ったの。じっくり観察できるようになったから。人を知ったわ。動物や植物の事も知ったわ。無意識の世界から知識を取り出したりもした。怖いものは何もなくなった。けれど怖かったからもっと知りたかった。ねえ、貴方も私を嫌う?」

 人の心が読める。もし自分の心が読まれたらどう思うだろうか。蓮子は考えてみる。どちらかといえば見られたくない。でも、仮にメリーの意識体験が見れたとしたら? それは是非とも見てみたいと思う。人の見ている世界と云うものは、特にメリーの眼が見ている世界と云うものは見てみたい。メリーが見ている世界をメリーの目線で見てみたい。同じものを見ていても、見ているものはきっと違うから。メリーの感じた事、考えた事を知りたい。そう考えてみれば、案外そういうものなのだろうとも思う。自分の内は知られたくない。しかし、他人の内は知ってみたい。一方的に心を読まれるのが癇に障るだけで、自分がその能力を持っていったら絶対に人の心を見ないと誓える人間がはたしてどれほどいるだろう。いないだろう。人間はそこまで綺麗な生き物ではない。何かを知りたいという欲は強い。ましてや人間なら誰にも見えない処を這い廻って自分だけ甘い蜜を吸おうとする。きっとこの少女は、優しすぎたのだ。優しすぎたから、他人に自ら弱点を見せたのだろう。この少女が何物かは判らない。心を読む力を持っているなんて事、自分で言わなければ誰が知るだろう。優しい真実が酷い現実を生んだのかもしれなかった。この子は何にも悪くない。嫌われる所以なんて何処にもない。嫌われたくなくて、わざわざ嫌われる能力を封印するような少女をどうして嫌わなければならない。
 
 蓮子は次第にこの少女の事をもっと知りたくなっていた。心が読めるか読めないかなど知ったことではない。少女の持つ儚い幻想を、この少女という存在を知りたい。感じ取りたい。

「嫌わない。そんな事より、貴方の話をもっと聞きたいわ。貴方の事が知りたいの。聞かせてくれる?」

 我ながら話を聞くのが好きな人間だ、と半ばあきれながら今の気持ちを正直に伝えた。こいしは一瞬
呆けたような顔をしたが

「う、うん。私も貴方の事をもっと知りたいな。教えて?」 

 その申し出を快く受け入れた。
 
 ◇

「楽しかった~、メリーさんって素敵な人なのね」
「ええ、とんでもなく気持ち悪くて素敵だわ。こいしのお姉さんだってメリーとは違う部類で素敵な変人だと思うけど。それに博麗の巫女? 彼女も相当面白い子ね。こいしが住んでいる所にも博麗神社があるのね」
「うん、お姉ちゃんは変人だね、それもかなりの。霊夢はとっても可愛いのよ。蓮子みたい」
「あはは、そういう貴方もなかなか素敵よ」
「蓮子お姉ちゃんこそ、あ……」

 不意に握っていた手から温かい感触が消えた。どうやら繋いでいた手が外れてしまったらしい。蓮子はこいしの手を掴む。こいしは一瞬だけ嬉しそうな、けれど泣きだしそうな顔をして、笑う。

「そろそろ手、放さなきゃ」
「どうして」
「だってほら、お姉ちゃんはもう帰らなきゃ」

 こいしがある方向に指を指す。その方向に振り向くと

「あ」

 地球。地球だ。蓮子はまた一つの神秘を見た。生で満ち溢れた生そのもののようなその惑星を。
 こいしの手が蓮子の手から離れていく。冷たい手と手が離れ離れになる。

「どうしても帰らなくちゃいけないの?」
「お姉ちゃんはこんな所に来ちゃいけない人だわ。帰らなくちゃ」
「どうしても?」
「ここにいたいの?」
「あなたと一緒にいたいのよ」
「う。嬉しいけどさ。お姉ちゃんの好きな人たちともう二度と会えなくなるよ。それでも?」
「うーん、悩むところだなぁ」
「私もさとりお姉ちゃんに二度と会えなくなるのはやっぱり少しだけ嫌かな。蓮子お姉ちゃんと別れるのも寂しいけれど。でも、我がままは駄目だよね。お姉ちゃんは帰らなくちゃ」
「こいし、泣かない?」
「私はきっと泣けないわ。お姉ちゃんにはちゃんと泣いてくれる人がいるでしょう?」
「……解った」

「……そうだわ! この帽子あげる!」
 
 こいしが蓮子の頭に帽子を被せる。

「え?」
「もらって!」
「いいの?」
「うん!」
「ありがとう、じゃあ、私も……って帽子が無かったわ。ごめんね」

「……でも、だから、ううん」

 こいしは一瞬だけ何かを躊躇うと、もう泣いてしまいそうだと蓮子が思うような表情で尋ねた。

「ねえ、またいつか逢える?」
「きっと逢えるよ」
 
 こいしの顔がぱぁと輝いて、また曇る。  

「そうだよね、逢えるよね、絶対に。でも、お姉ちゃん。簡単に来ちゃ駄目だよ? すぐに来ちゃ駄目。メリーさん、泣かせちゃ駄目だよ?」
「絶対に? どうして来てはいけないの?」
「遭えるよ、だってここは――」

 ここは? 

 そこで会話が途切れた。
 こいしはばら星雲に吸い込まれていくように。蓮子は地球まで流れ落ちるように。二人は離れた。
 蓮子が最後に見たばら星雲に美しさは何処にも無かった。地球を見た後だからだろうか、余計に禍々しさを感じる。あれはそう、まるで。

 死そのもの。

「ああ! やっと思い出した! ばら星雲の別名は骸骨――」

 そこで蓮子の意識は途絶えた。

「おやすみ、そして、おはよう、お姉ちゃん」
 4臨死体験後


 目を開く。目を開くとまたも宇宙が広がっていた、なんてことも無い。ところどころ黒カビか何かに腐食された白い天井が見える。真下の柔らかい感触からしてどうやらベッドの上らしい。起き上がろうとすると右腕がちくりと傷んだので何かと見てみれば、針が刺さっていた。その針の根元を目で辿っていく。点滴装置だった。ここは病院か。ぎょろりと辺りを見回す。冬なのに開いている窓と収納されているカーテン。果物などが置かれた棚。清潔の白で塗られた壁に床。それに点滴台とベッドとドアー。殺風景な場所だった。
 一息つく。どうやら生きている。不思議な事に生きている。一度死んだのだろうか。臨死体験というものをしてしまったのかもしれない。確かにそれらしき体験をしてきたが、そうなればあの恐ろしい夢の正体は走馬灯だろうか……。もう詳しい内容を思い出すことさえ出来ないが、一つだけ言えるのはあんな経験をした覚えはないということだ。ではいったいあれは誰の……ん? 足音がする。どんどん近付いてきている。やがてこの病室の前でその足音の主は止まったようでドアーをノックし始めた。

「……入るわよ、蓮子」

 ドアーが開いたかと思えば、何だか懐かしく感じられる友人の姿がそこにある。

「あら、メリーじゃない、いらっしゃい」

 あまりにも蓮子が平然と歓迎したので。メリーは唖然としてしまった。あまりに蓮子が普段と変わらない様子でそこにいたから。目を覚ましているはずが無いと思っていた。だからこそ、起きている事に驚いて目を覚ましたら言おう、言おうと思っていたことを忘れてしまった。言おうと思っていたことは沢山ある。不安だったこと。怖かったこと。まだまだ沢山、数えきれない程ある。そんな感情の山々を抑えきることなど出来るわけがない。もう我慢の限界だった。

「どうした? 入ってこないの? ……って、わ!」

 メリーは蓮子に座っているベッドの上に飛び乗る。きっと眸子を結んで蓮子の顔を見つめる。
 白くて消えてしまいそうだったその顔を。

「メ、メリーさん?」
「蓮子の馬鹿!」
「い、一応病人? なんだから優しく扱ってよ。あと、ベッドの上なんだから靴は脱ごうね」
「なんで貴方そんなに平然としてるのよ!?」
「帰ってこられたから」
「い、いや、だ、だって、あなた、一週間も昏睡状態だったのよ!? 2回も心臓止まっちゃうし、買い物中にいきなり倒れるし、わた、私、どうしたら、いいか、解らなくなっちゃって、とりあえず、救急車呼んで、病院に運んでもらって、お医者様もすぐ目覚めるでしょうって仰ったのに、それでも蓮子は目覚まさないし、蓮子のお父様とお母様も東京から駆けつけてくださったのに、蓮子目覚まさないし」
「へぇ、そんなに酷かったんだ、って一週間も!? 研究室のスケジュールに遅れが生じてるじゃない! どうしよう」
「そうよ、一週間もよ! 一週間……一週間もよ…」

 ああ。

「……ごめんね、メリー。心配掛けて。……あのさ、気の遠くなるような間、夢を見ていたんだ。色ん
な夢をね。とっても怖くて恐ろしい夢を見た時、壊れそうで堪らなくなった時、メリーの声が聞こえたよ。あの時のメリーの声だけは今でもしっかり覚えてる。メリーのお陰で帰ってこられたんだよ。ありがとう」
「私、の声?」
「『いなくならないで』『蓮子、蓮子、蓮子』」
「聞こえてたの!? どうしてあの時起きなかったのよ!」
「夢の中で聞こえたんだもの。起きる体が無かったわ。それに……」

 貴方の声を聞いていたら泣きそうになって。貴方の温かい声を聞いて悪い夢から目が覚めたような気がして。それなのに、泣いたりなんてしない貴方が泣いているのを見たら、どうしようもなくて、堪らなくて。抱きしめ……。

「蓮子?」
「……『蓮子、いやよ、いなくならないで、いなくなっちゃやだ!』」
「ちょ、ちょっと蓮子、そんな大声で言わないでよ」
「『蓮子、蓮子ー』」
「止めてってば!」
「……メリーの泣き顔なんて初めて見た。貴方が私のために泣いてくれるなんてね」
「そ、そりゃあ泣くわよ、友達だもの。……私もあの時、蓮子が近くにいたような気がしたの。目の前にいるはずなのに、背後からしたのよ」
「へぇ、不思議なこともあるんだね」
「……蓮子は私が死んでしまったら泣いてくれる?」
「そりゃあ泣くさ、一升瓶くらい。友達だもの。メリー、私のために泣いてくれてありがとう」
「こちらこそ、い、生きていてくれてありがとぅ」
「あ、泣かないでよ、笑っている方がいいよ」
「もう……! 泣かないわよ」
 
 ねえ、メリー。話したいことが沢山あるんだ。星座の事。ハーシェルの三重星のこと。ペテルギウスの腋を露出した少女の事。宇宙の神秘と不思議とそれらが生み出した奇跡の景観。心細かったこと。恐ろしかったこと。死の間際の景観。可愛らしい少女と出会ったこと。彼女と友達になった事。約束した事。そんな現実と幻想との間で見たこと。いつか話してくれたように今度は私から話をさせて。
 
「ねえ、メリー。今度は……」

 星空に咲く薔薇の花を見に行かない?



 おしまい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……というわけで、帽子とってくれない」
「はいはい。……あら? この帽子、何だかいつものものと違う気がするわ」
「え? ……本当だ。だけど、この帽子何処かで見たような……あ!」
――地霊殿。

「こいし、何だか今日は機嫌が良いみたいね。何か嬉しい事でもあった?」
「うん!」
「……あら、その帽子……」

 こいしは逆さ向きにした帽子の底をじいと眺めていた。いつも彼女が被っている帽子に似ているが、若干違ったその帽子。彼女はそこに膨大な宇宙空間を見ていた。深く深く……。
そうして心底嬉しそうな自身の顔を脳裏に浮かべた後、愛おしそうにぎゅうと帽子を抱持した。

 今度こそおしまい。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

メリーの眼なら見えそうですね、フィルター無しでばら星雲。大統一理論はまだ証明されていないのであしからず。ばら星雲の写真は是非見ていただきたいです。また、まだ見に行けるやもしれません。
いっかくじゅう座は冬の星座ですので。機会があれば、是非。

追記。どうしても加えたくなったので増やしました。元々、こうする予定でした。


ここからはご自由にご覧ください。
テーマは見ての通り『死』及び『臨死体験』です。
その対比としての『生』及びその原始たる『宇宙』。
副題「哲学者と近未来の哲学的物理学者のほのぼのとした争い(一部)」
最初は蓮子とこいしちゃんの話を書きたかっただけなのですが、なぜかこのような結果に……。
こいしちゃんを出したのが蛇足だった気もします。
さて、題名の説明。
『エドゥアルト』=ハルトマン。エドゥアルト・フォン・ハルトマンの『無意識の哲学』によると無意識とは『死への欲動』だそうです。またエドゥアルトによると『宇宙にも意識はある』そうです。
『ローズ宇宙』=ばら星雲。ローズ星雲のほうが的確な気がします。が、あえてローズ宇宙。ローズ地獄。
こいしを出した理由=前述の『無意識の哲学』と『ばら星雲』。宇宙といえば無意識?
実はこの作品、12月17日に投稿する予定だったのですが、遅れました。なので12月26日に投稿する予定だったのですが、遅れました。12月17日=いっかくじゅう座流星群最後の日。12月26日=ウィリアム・ハーシェルがコーン星雲(いっかくじゅう座方向にあるばら星雲とはまた違う星雲)を発見した日。
最後に夢野久作氏『ドグラ・マグラ』と宮沢賢治氏『銀河鉄道の夜』の二作品に土下座。
『追記』対比。対比。頭蓋という『死』の骸骨星雲と、花という『生』のばら星雲、見た人の感受性の違いによってどちらにも見えるその星雲から生まれるのは星の赤子。骸骨星雲と地球と宇宙全体。意識者、蓮子と無意識者、こいし。胎児の見る進化し進んでいく夢と、ほぼ死人の見る退化し戻っていく夢。細胞と宇宙。

読了ありがとうございました。
疼木
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コメント



0.480簡易評価
4.90ulea削除
作者の描きたかったテーマとは違うかもだけど、生体への並々ならぬロマンを感じる作品でした。
生体は極最小の宇宙であり、宇宙は全生体を包括する概念であり、なーんて。
作中で宇宙の無意識によって殺されかけた(のかもしれない)彼女は、
生体によってアポトーシスされてゆく細胞のようにも見えました。
5.80名前が無い程度の能力削除
 途中難しくて自分には良く解らないところがありましたが、何か色々と考えさせられる作品でした。粒子単位に意識があるのではなくて、ある一定量の粒子が集まったら始めて意識が生まれるのではないのか、単なる空間に意識が存在すると考えるのは人間中心的じゃないかなーとか。生き物の脳が中途半端な大きさというのは人間都合の観測じゃないかとか。(意識の境界問題の説明を読んでも一体それが何で問題なのかいまいちピンときませんでした)まあ東方自体、人間中心的な感じですよね。
 宇宙の情景描写がとても綺麗で読み入ってしまいました。
 いっこだけ、いっかくじゅう座はMonocerotisじゃないですか?Monocettisで検索しても出てこなかったんですが……間違ってたらごめんなさい。
6.100名前が無い程度の能力削除
僕の頭では理解出来なかったけど百点は入れたかったんです
7.90かすとろぷ公削除
うん、面白いな。こいしの価値観がちょっと変わった気がした。しかし天文学はワタクシ自身本当に苦手な為こういうウンチク語れるのが羨ましく感じます
8.90即奏削除
主観と客観が混じることで見える世界、ワンダフルです。
面白かったです。
9.90赤井削除
なんでしょう。なんとしても読みたいものにかなり近くて、でももどかしいくらい微かな距離を感じます。とても不思議な心地を覚えました。無論、良い意味で。知識の及ばぬ箇所がいくつかあって、作者さんの知識の豊富なことに、宇宙の広さを眺めて思うのと同じく、ただただ感心するばかりでした。静かな星の瞬きが、いまにも瞼の裏で甦るような文章は、魅せるものがあって、たとえ彼女の心に生じるのが負の感情であろうとも、それは美しいものだと思いました。
まとまらない文章で申しわけないですが、とにかく好きな作品であるということが、伝われば。
10.70名前が無い程度の能力削除
うーん、「理」の世界の記述が少しまだ読みづらかったです。
いや、これだけの理論量にしたらかなり読みやすいとは思うのですが。
心理学、物理学、天文学等多岐に分野を渡り歩くので、足場はもっとしっかりしたほうがいい、かと。
11.80名前が無い程度の能力削除
あー圧倒されました。
物語と詰め込んだ要素が、がっちりと組み合わさっている印象を受けました。
スケールが違う物事なのにあっさり読むことが出来た気がします。
2はどう理解すればいいのかは分かりませんが……
12.80名前が無い程度の能力削除
偉い先生曰く人は死を体験しないそうですが、これ読むとなんかそんなこともないような気がしてくる。
作者さんが伝えたかったことのいくらかも受け取れてないと思うけど楽しめました。
13.無評価疼木削除
素敵なご感想、ありがとうございます。
≫ulea様
>作者の書きたかったテーマ テーマである『死』の対比としての『生』、裏テーマとでも云うべきそれをより鮮明に描写できたら……と考えていましたので、そう感じてくださったのなら嬉しい限りです。対比はあとがきに加えておきます。
>ロマン 私自身、このお話を書いたことで宇宙や生命の神秘への興味関心がより一層深まりました。ロマンだらけです、って恥ずかしい。 
ありがとうございました。

≫6様
>途中難しくて 書いた私自身、解釈に苦労しました。今でも納得のいかぬ個所が多々あります。だけれど、そのお陰で貴方様と同じように色々と考えることが出来、良かったと思っております。
>人間都合の観測、人間中心的 『ドグラ・マグラ』にも似たようなことが確か書かれていますね。そう言う事が出来ますし、逆に人間である以上人間中心でなくてどうするとも言えますが……。
>いっかくじゅう座 スペルを書き間違えていました、ありがとうございます。
仰る通りいっかくじゅう座の学名はMonocettisではなくMonocerotis及びMonocerosです。
訂正しました。ご指摘、ありがとうございました。

≫7様 なんだか嬉しいです。ありがとうございます。
>理解出来なかった 精進します。

≫ かすとろぷ公様 ありがとうございます。人さまの価値観を少しでも変える(変えれていないかもしれませんが)……それって凄いことだと思われます。これからも蘊蓄を傾けて書き続けます。時に私の語った天文関連の蘊蓄は『学』と云っても良いものなのでしょうか。趣味の範囲内の産物のようにも思われます。ありがとうございました。

≫即奏様
>ワンダフル 英語では最高位に近い褒め言葉の一つですね。ありがとうございます。

≫赤井様
>なんとしても読みたいものに~ 案外それが私が納得いかぬ箇所なのかもしれません。 
>知識の及ばぬ~ いいえ、私などまだまだです。しかし、ありがとうございます。
>文章 文章には力やら祈りやらを色々と詰め込めました。
>とりあえず好きな作品 十二分に伝わってます。最高の賛辞です。ありがとうございました。

≫10様 
>理の世界の記述 納得のいかぬ個所です。結構誤魔化しております。
足場> そうですね。実際誤魔化している点が多々見受けられます。もっと知って考えていかねば。ありがとうございました。

≫11様 ありがとうございます。
>物語と詰め込んだ要素 自身ではこんなぐちゃぐちゃな状態で良いのだろうかと思いながら投稿したので、そう言っていただけると、とても嬉しいです。
>2 反転すると副題が出ます。『胎児の夢、逆行』
前半。いわゆる走馬灯です。走馬灯体験のさらに拡大版。人は臨死体験時、走馬灯体験なるものをするそうです。
そこでは前の記憶、自分の過去の人生が見えるそうなのですが、今回はそれをさらに拡大しました。
ここからはネタバレになるのですが。
今現在の記憶→意識が芽生えはじめる幼少時までの記憶を見る。ここまではいわゆる普通の走馬灯体験です。
そこからさらにヒトの形になってからの母の胎内での事→自分の最初の先祖まで(ここはカット)→胎児の成長及びヒトの進化段階と逆行していきます。
『ドグラ・マグラ』の中の『胎児の夢』という論文では『一つの細胞→魚類→爬虫類→哺乳類→ヒトは進化してきた。母の胎内で子はその最初の細胞の始まりからの夢を成長と密接に関連してみていく。一つの細胞が分裂し(この時胎児は一つの細胞であり、分裂を開始する)、魚類と言われる生き物まで少しずつ進化していき(魚形状へ)、それは怯えながら爬虫類と分類される生き物までやはり少しずつ進化していき(爬虫類形状へ)、その怯えはさらに大きくなり哺乳類の形、やがてヒトへと徐々に進化していく(ここで胎児はようやくヒトと呼ばれる生物の形に)。しかし、悪夢はそこでは終わらず、細胞に記憶された自分の先祖の悪行、悪夢を延々と見せられ、それが親の代まで続き終わったところでようやく母から生まれる』と書かれています(要約)。……解りにくいですね。もしよかったら『ドグラ・マグラ』をどうぞ。『青空文庫』でも読めますので。2で描いたのはその逆です。さらにその苦痛を走馬灯体験なので、胎児の夢とは違いほぼ一瞬の内に見ているという……。『死人の退化し戻っていく夢』です。
後半。細胞レベルまで遡り、とうとう消滅しかけます。ところが……。そんな具合です。
さらに解りにくくなったかもしれませんね……。これはあくまで私がこれを書いていた時に考えた一例に過ぎませんのであしからず。

≫12様
>偉い先生 自分自身が経験したことがないので本当に人は死を体験するのかどうか、それは判りません。体験するのかもしれないし、しないのかもしれませんね。
>そんなこともない気~楽しめました それは何より。読了ありがとうございました。

この作品はかの有名な夢野久作『ドグラ・マグラ』(理論)と宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(宇宙の描写)を参考にしております。
前者は『細胞(の神秘)』と『生(と死)』、後者は『宇宙(の神秘)』と『死(と生)』について書かれている部分があるので良かったらお暇なときにでもどうぞ。

wikipediaの『臨死体験』の記事を覗いてみたら、無意識について言及されている部分がありました。少し嬉しいですね。ユングの定義した無意識なので直接関係はありませんが。

ありがとうございました!
21.100サク_ウマ削除
たいへんに美しく魅力的でした。良かったです。
22.100名前が無い程度の能力削除
日本的なSF、美しい星空の表現が素敵でした。
23.100クソザコナメクジ削除
じっくりと読ませてもらいました
また読み直したい
24.100水十九石削除
膨大な宇宙の爛然と輝く光景、細胞の個の持つ過去の進化の逆走、と来てからのこいしちゃんの登場。
意識と無意識の対比は、冒頭の星図の平面上に埋め尽くされた星々と実際はボイドまみれの立体空間の対比とも重ねられて、ちょっとしたグレイン問題の様相を呈しているかのようでした。
にしても、銀河鉄道の夜と出ているのだから星雲と言えば石炭袋で当然死に臨しているのかなと勝手に思わされて事実当たらずとも遠からずだったのはなんとも情けない話ですが、ローズ地獄と組み合わせてこいしちゃんと繋げているのが乙な物で。
ならば二節目のそれは「胎児の夢」がモチーフかとすぐ理解出来るようになっているのもまた読んでいて気が楽でした。
反転に気付いていればもう少し早かったというのもさておき。

そして何よりも秘封倶楽部チックな物語構成ですよ。死と宇宙の狭間でヒトならざる怪物と会話するだなんてロマンの塊でしょう。
その相手がこいしちゃんというのもまた、原作ブックレットのノリで会話してくれると思える信頼性で溢れまくっている。
それはそうとしてこんな時に初見で読んだからこそ言えるのですが、鳥船遺跡も求聞口授も出ていない時代の物語でここまで解釈のピースに嵌るかのような快感を得れるってのは本当に比倫を絶しているとしか言い表せません。強過ぎます。
最後の骸骨星雲という別称を思い出してもメリーに『星空に咲く薔薇の花を見に行かない?』と死を振り切ったかのように快活に笑っていそうな蓮子の言葉に余韻を響かせられて、ちゃんと大団円で終わるのも良かったですね。
科学世紀は望遠鏡やお高いカメラを使わずともあの真紅の妖艶な色をくっきりと視界に入れられるのでしょうか、そんな事も願ってみたくなるものです。それか秘封倶楽部の二人が地底深くの薔薇の弾幕をいつか鑑賞出来る日が来ると良いな。

壮大なテーマを巧みに集約させた手腕にも唸る他ありません。
最初は多少の読み辛さを感じこそすれど、宇宙に対する造詣や会話文も含めてとても楽しませて貰いました。
後半に掛けて一気に物語が加速していく様が特に良く、やはり全体的に面白かったです。ありがとうございました。