人間なんて、そんなにいいもんじゃないよ。
妹紅がそう言うと、慧音は決まってとんでもない、と首を振ったものだ。
人間たちの強さを、暖かさを、優しさを、素晴らしさを。
とくとくと、彼女は語る。だから私は人間が好きなんだ、と。
いつもなら、ここで妹紅が納得したような、していないような生返事をして終わる。
「なら」
だが、その日はいつもと違う言葉が続いた。
「どうしてそんなに、悲しそうなの?」
はっと、慧音は自分の顔に手をやる。
昨日の煙を思い出す。
里より昇った、その煙。
人の死告げる、その煙。
それは月には届かない。
人は月まで届かない。
「どうして慧音は、自分をそんな顔にさせる人間が好きなの?」
どこか苛ついた口調で、妹紅は言う。
彼女のそんな顔は、見たくなかった。
彼女のそんな顔だけは、見たくなかった。
彼女にそんな顔をさせる人間なんて、憎みさえする。
「好きになるというのは、いいことばかりじゃない」
慧音は悲しげに、しかし笑って言うのだ。
「それでも私は、人間が好きなんだ」
「こんなに悲しいのに?」
「こんなに悲しいのに」
人は死ぬ。
人は死ぬ、彼女をおいて。
どんなに人を愛しても、どれほど好きだと叫んでも、彼らは彼女を置いて逝く。
それでも彼女は好きだと言った。
それでも好きだというのなら。
「私が一緒にいてあげる」
そんな言葉が突いて出る。
「……え?」
呆気にとられたような声。
そんなこと、当たり前だと思ってた。
言葉になんてしなくとも、伝わることだと思ってた。
でも今は。
言葉にすべき、ことだと思った。
「こんな体だけどさ。私は人間、なんでしょう? だから私がいてあげる。私が一緒にいてあげる。死が私たちを分かつまで、ずっと一緒にいてあげる」
人間。
口を酸っぱくして彼女が言い、耳にたこができるほど彼女が聞いた言葉。
それでも耳になじまない、どこか白けた言葉だけれど。
彼女が笑ってくれるなら。
笑って一緒にいてくれるなら。
人間でいいかな、と思った。
結局彼女は涙をこぼした。
でも、すぐに笑ってくれた。
妹紅にとって、人間とはそんなものだった。それで十分だった。
十分だと、思っていた。
殺しに行こう。
そう思い立ったのはいつのことだっただろうか。おそらく一月は経っていないと思うのだが。
思い立ったが吉日、というのは定命の者達の概念である。
悠久なる時の流れに身を委ねる蓬莱人には、無縁の理。
もっとも彼女と殺り合うとなると、無煙も無炎も有り得ないし、木乃伊取りが木乃伊になることも間々あるのだが。
輝夜がそう言って永遠亭を出ると、永琳はただ頭を垂れ、そしてイナバは―――鈴仙は複雑な表情で彼女を見送る。
彼女は普通なのだ。悪党にはなれず、英雄にもなれない。
彼女が悪になれたなら、月を見上げて憂うことなく、この地で生きてゆけただろう。
彼女が善になれたなら、そもそもここもはいないだろう。
彼女は普通なのだ。だから殺し合う彼女らに、心を痛める。
そんな必要はないのに。
そもそも輝夜と妹紅の殺し合いは、殺し合いなどではないのだ。
積み上げた、石の柱の倒し合い。
倒れた柱をまた積み直し、蹴られる前に蹴り倒す。
無益で不毛な似非戦。
彼女にはわかるまい。
定命の者にはわかるまい。
人間には、わかるまい。
荒涼たる蓬莱のココロなどは。
闇に染まった竹林に、染み出るように明かりが一つ。
この地に明かりは二つしかない。
その片割れは永遠亭。
もう片方は、藤原妹紅の安普請。
輝夜は静かに舞い降りた。眼前の戸を二度叩く。
この廃屋じみた庵ごと吹き飛ばしてしまってもいいのだが、それでは味気ないし、何より報復が恐ろしい。
報復そのものが恐ろしいのではなく、その後の永琳が恐ろしい。
殺し合いについては何も言わない彼女だが、ことが永遠亭にまで及ぶとなると黙ってはいないのだ。
誰何の音に、返事はない。しかし中ではなにやら物音がしているので、留守というわけではないようだ。無論明かりもついたまま。輝夜は気にせず戸を開いた。
「……何を、しているの?」
戸を開き彼女が最初に口にしたのは、そんな言葉だった。
背を向け戸棚を開くのは、居の主たる藤原妹紅……ではなかった。
尾が舞い、緑銀の髪が翻る。
常には在らざる角を生やし、振り向いたのは。
「……輝夜か」
上白沢慧音。
気のない視線を輝夜に向けると、彼女は再び作業に戻った。
「何をしているの、と言ったのだけれど」
「何をしているように見える?」
不愉快げに言う彼女に、慧音は今度は振り返ることなく手を動かし続ける。
「……部屋の整理をしているように見えるわね」
質問に質問を返されたことに、更に顔をしかめながらも輝夜はそう答えた。
「部屋の整理、ね。まあ、大体当たりだ」
「そう」
特に感慨もなく、輝夜はさして広くもない室内を見渡した。
寝床に人影はなく、囲炉裏にあたる者もない。
目当ての人物がいなかった。
「それで? あなたをあごで使って部屋の整頓をさせている、いい御身分の彼女は何処?」
彼女の問いかけに。
慧音の動きがぴたりと止まる。
再び振り返る、彼女。
「……先ほど、大体当たりと言っただろう」
淡々と、無表情に。
慧音は言った。
「私は確かに整理をしている。ただし頭に遺品と付くが」
「……なんですって?」
何を言っているのだ、こいつは?
遺品? 遺品とは死んだ者が残した物だ。
「そうだよ」
あっさりと、無機質に。
彼女は頷いた。
「妹紅は死んだ」
「……何を言っているの、あなたは」
その戯言に、輝夜は高くなりそうな声を何とかひそめてそう言った。
何を言っているのだ、こいつは。
彼女は死なない、死ぬはずがない。
何故なら彼女は。
「人間だからな」
淡々と、無表情に。
慧音は言った。
「人間ですって?」
何を言っているんだ、こいつは!
永遠をその身に宿し、輪廻の輪から外れた、否、輪廻の枷から解き放たれた。
終わりなき蓬莱を、人と呼ぶのか?
「ああ」
あっさりと、無機質に。
彼女は頷いた。
「だって彼女は死んだじゃないか」
「戯れ言を!」
今度こそ、彼女は激昂したように叫んだ。
「もう一度訊くわ。妹紅は何処? 無限の住人、久遠の輩! 藤原妹紅はどこにいる!」
「わからん奴だな!」
静謐の仮面を同じくかなぐり捨て、慧音が叫ぶ。
「無限の住人? 久遠の輩? 不死不滅? 蓬莱人? 巫山戯るな! 彼女をそんなものと、お前達などと一緒にするな!」
絶叫だった。
輝夜をして呑まれるほどの、絶叫。
「彼女は人間だった! 彼女はやはり人間だった! 私の好きな人間だった! 私の愛した人間だった!」
「私を置いて逝く、人間だった!」
「私は正しかった!」
叫ぶように、彼女は宣言した。
「私は正しかった! 私が正しかった! 正しかったのは私だけだ! 誰も! 彼も! お前も! 彼女も!」
彼女は人間だったのだと。
でも。
「誰も知らなかった!」
居てくれると、思ってしまった。
「誰も知らなかった! 誰もが知らなかった! 知ろうとすらもしなかった! お前も! 彼女も! 私も!」
彼女は本当に人間だったのだと。
どこまでも、人間だったのだと。
博麗霊夢と八雲紫。
霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイド。
十六夜咲夜とレミリア・スカーレット。
魂魄妖夢と西行寺幽々子。
彼女の元を、訪れた者達。
死なずの体。死ねずの体。老いすらもないこの体。妖怪のような、この体。
それ故に、人里離れて密やかに。竹林の奥に隠れて潜む。
人と共に、あれはしないから。
だが。
彼女らは、何だ?
博麗霊夢と八雲紫。
霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイド。
十六夜咲夜とレミリア・スカーレット。
魂魄妖夢と西行寺幽々子。
それはすなわち。
人と妖。
人と妖。
人と妖。
人と妖。
肩を並べて共にある、目の前のこれは何なのだ?
人と共に、在れたのか?
不変の精神。不屈の肉体。
されど心は摩耗していく。
それに気付かぬ振りをして、それが見えない振りをして。
殺し殺され殺され殺し、生きていることを確かめて。
それはあまりに歪な形。
すり減りすり切れ向こうが透ける、まるで自分の心のように。
気付かされてしまった、彼女たちに。
死なずの体。死ねずの体。年すら経ないこの体。妖怪のような、この体。
妖怪のような。
ああ。
気付いてしまった。
知ってしまった。
我に、返ってしまった。
人と共に、在れたはずなのだ。
だって。
私は、人間なのだから。
「何がわからない?」
堰が切れたように、彼女は言う。
「何がわからない? 誰がわからない? どこがわからない? 訊いてみろ、尋ねてみろ、問うてみろ。幻想郷に、この幻想郷に、私に解らぬ事などない。何もない!」
熱に浮かされたような慧音の言葉が、途切れる。
「もはや、ない」
対する輝夜も言葉はなかった。
何を言っているのだ、こいつは?
これではまるで、本当に……
「冴えない顔を、しているじゃないか」
顔をあげ、彼女は言う。
捻れた笑顔で、彼女は言う。
「何故笑わない? 何故喜ばない? 笑え、喜べ、謳歌しろ! お前の懸案は、負の遺産は、最早昇華されたのだぞ」
藤原妹紅こそ、忘れ形見。棄てた彼の地の最後の関わり。
それを踏み消そうと、揉み消そうとしていた。
切れることない砂上の線を、躍起になって消そうとしていた。
消えないと知っていた。絶えないと知っていた。
そのはず、だったのに。
須臾も揺るがぬ、綱の引き合いだと思っていたのに。
終わるはずがないと、思っていたのに。
終わってしまった。
叶ってしまった。
望んだ通りに。
望んだことは、何だった?
彼女を滅することか?
それとも。
延々と、永遠と。綱を引き合うことだったろうか?
わからない。
わからないはずはないのに。
この息苦しさは、何だろう。
ああ、と思う。
私は、わかりたくないのだと。
いや違う。
我に返って首を振る。
単に動揺しているだけだ。
壊れるはずがないと思っていたものが、突然壊れた。それに戸惑っているだけなのだ。
「去れ」
はっと、彼女を見上げる。
「去れ。ここはお前の場所じゃない。お前のいるべき場所じゃない。お前がいていい、場所じゃない」
そして彼女に身勝手な幻想を抱いていた私もな、と。
淡々と、無表情に。
結局。
我に返ってなど、いなかったのだ。
ふらふらと。おぼつかない足取りで。輝夜は歩いていた。
歩いていた。
飛ぶ気には、ならなかった。
普通をしたかったのかもしれない。
人間の、普通を。
「姫様」
永遠亭の門をくぐったところで、一羽のイナバが寄ってきた。
「お客様がお見えになっております」
「客?」
はい、と彼女は頷く。
「応接間にて、永琳様がお相手しておりますので……」
お早く、と一礼すると、そのイナバは下がっていった。
客。
永年の懸案が片づいたのだ。本来なら宴の一つも開くところだろう。
そんな気にはなれなかったが。
そもそも誰かに会う気にすら、なれなかった。
しかしイナバがわざわざ自分に報告に来るくらいだ、自分宛の客人なのだろう。
ならば行かぬわけにもいくまい。永遠亭の主として。
「遅い」
客間での第一声は、けんもほろろ。
見飽きた姿が、そこにはあった。
いや。
見慣れた姿が、そこにはあった。
下品な赤い目。
のばしっぱなしの白い髪。
幽鬼の如く白い肌。
胡座をかいて茶を啜る、藤原妹紅がそこにいた。
「ったく、こんなもん送りつけてきた当の本人が不在ってぇのはどういうことよ?」
すっくと立ち上がり、指を突きつける彼女。
「……こんなもの?」
笑う両膝叱咤して、輝夜は努めて平素に返す。
妹紅は無言で、彼女の前に何かを放った。
封書だった。
ただし達筆ででかでかと、果たし状、と記されていたが。
息を吸い、息を吐く。乱れそうになる呼吸を整える。
「……そう。見事に引っかかったのね」
「あ?」
「それはそこのイナバが出した悪戯よ」
目を細める彼女をよそに、輝夜は一羽のイナバに視線をやった。
てゐ。
「はっ?」
「あー」
思わず自分を指差す彼女に、妹紅は納得とばかりに深々と頷く。
「まあ饅頭くらいなら許すけどさぁ……私とこいつにまで踏み込んでくるってのは、やりすぎなんじゃない?」
「いやいや妹紅様! 私じゃないですって! 私もその辺はわきまえてますって! ねえ永琳様?!」
「あなたの嘘は聞き飽きたわ」
「永琳様までー?! いや、本当に私じゃないですってば!」
「そうね、永琳。いい機会だから躾なおして頂戴」
「承知しました」
「姫様ー?! ご、ご冗談……ですよね?」
にこにこと微笑んでいる輝夜から、返事はない。てゐの表情が、本格的に引きつった。
「れ、鈴仙様、た、助け……!」
「師匠、私も後学のために見学して構いませんか?」
「勿論よ」
「ごはー?! なんという裏切り! なんというウサギのダン……っていたたたた?! そんな猫運ぶみたいに首根っこ掴まないで下さいよ! ていうか助けてー! たすけ」
ぴしゃり。
弟子が襖を閉じたところで、被献体の悲鳴は途切れた。
「……で、何故だか水入らずとなったわけだけど」
彼女らの背を何となく見送っていた妹紅が、輝夜に向きなおる。
「やんの?」
「白々しい」
やる気なさげに言う彼女に、輝夜は苦笑する。あんたもでしょうが、と呟いて、
「人払いするんなら、もっと素直にやりなさいよ」
正直気の毒よ、と続ける妹紅に、
「まあ、いい薬よ」
と、彼女。輝夜もそれなりに、手を焼いているらしかった。
「で? 結局なんなのよ」
「ちょっと思うことがあってね。あなたに言うことがあるの。……誓うこと、かしら」
「はぁ?」
思いもよらぬ彼女の言葉に、面倒くさそうに頭を掻いていた妹紅が間の抜けた声をあげる。
「半獣にね、会ったのよ」
「慧音に?」
訝しげな表情になる。
わざわざ輝夜が彼女に会いに行ったとは思えない。
たまたま会ったか、もしくは会ってしまったのか。そのどちらかだろう。
「それで何故だか、色々話すことになったのだけれど。その時彼女が言ったのよ。今際の際は妹紅に看取ってもらいたいものだ、って」
妹紅を見る。
彼女は、まるで鞭にでも打たれたかのように顔をしかめた。ほんの一瞬のことだったが。
「だから、約束したのよ。あなたが死ぬまで妹紅には手を出さない、って」
「はぁ?!」
今度こそ、妹紅は驚愕した。
顎がはずれんばかりに口を開き、叫ぶように。
「どうしたの?」
「……どうしたも何も」
不思議そうに問う輝夜に彼女は、我に返って首を振る。
互いの体を互いの血潮で朱に染めあうこの二人。
その片割れが、もう殺さない、といったところで。
「はいそうですか、ってあっさり頷いてやるほどに、私は純じゃあないんだけどね?」
「でしょうね」
対して彼女はあっさり頷き。
「だからこれをもって、約束を誓いとしましょう」
一振り短刀取り出して。
右手でそれを引き抜いて、左手で背の髪の毛束ね。
そして。
左肩にて纏まる髪を。
いともあっさり無造作に、右手の刃で。
さり、という軽い音。
切り落とした。
妹紅は驚愕に目を見開き、息を呑む。
「誓いましょう」
左手を掲げ、輝夜は宣す。
「藤原妹紅と上白沢慧音の蜜月果てるまで、蓬莱山輝夜は何らの諍いも引き起こさぬと」
左手を、開く。
はらりはらりと、黒が散る。
言葉はない。
わけが、わからなかった。
何故、こんな事を言う?
何故、こんな事をする?
何故、こんな事が言える?
何故、こんな事が出来る?
奴らに出くわして以来、命の取り合いに飽いてきていたのは確かだった。
しかし彼女はそうではないだろう。
届かぬ葡萄が落ちてきた。
酸っぱい葡萄、とは言わないけれど。
それでも彼女の誓いに素直に頷くことは、どうしても憚られる気がした。
だから。
「……あんたの髪やら誓いやらはどうでもいいけど」
舞い散った髪を追っていた視線を、上に戻す。
「慧音の名前を出されたら、首肯するしかないわね」
肩をすくめて、すとんと腰を下ろした。輝夜も同じく、彼女の対面に座る。
向かい合う二人に、言葉はない。
そんな奇妙な沈黙に、そんな無意味な緊迫に堪えかねたのか、妹紅は湯飲みに手を伸ばし、
「……おかわり」
輝夜に、既に空となっていた湯飲みを突きだした。
期待など全くない、調子に乗るなと突っ返されるだろうと思っての行為。
しかし。
あろう事か、彼女はそれを受け取って立ち上がり、薬缶を持ち上げ急須に湯を注し、茶を満たした湯飲みを彼女の前に置いたではないか。
「……あんた、なんか悪いもんでも食べたの?」
「そうね。……一杯食わされたわ」
目を丸くして言う妹紅に、彼女は悪戯っぽく笑って言った。
「ところで妹紅」
一転して、毒でも入っているんじゃなかろうかと湯飲みの中を眇めるように見る彼女に、輝夜は思いだしたように付け足した。
「その襟元の、赤茶けた染みは何?」
「そろそろ来る頃合いだと思っていた」
戸も叩かない、声すらかけない来客に、慧音はゆっくり振り向いた。
「何用かな?」
「大したことじゃないわ」
「ほう」
輝夜の言葉に、慧音は面白そうに眉を上げる。
「洗濯を忘れたの? それともさぼったの?」
「何のことだかわからんな」
軽く笑って言う彼女に、そう、と呟き、なら、と続ける。
「玩具を直してくれて、ありがとう」
「何のことだか皆目検討もつかないが……珍しい言霊を得たのは確かだな。後で歴史書に記載しておこう」
「それはあなたの思うがままに」
輝夜は澄ましてそう言った。
「そもそも本来、あなたの我が儘に礼を言ういわれもないのだけれど」
「それでも大きかったのだろう? お前にも」
「どうだかね」
見透かしたように言う慧音に、彼女は肩をすくめる。
ふ、と。含みもなく彼女が笑う。
「……何よりも遠いもの。それは己の心である」
「何かの格言?」
「私の教訓だ」
「……須臾も永遠も、私には同じ事。でもあなたにとっては違うのでしょう? なら、それを心し、笑い喜び謳歌なさいな。吹けば散るよな儚いその身が、吹かれて散り去るその日まで」
「ああ、そうさせてもらう。精々見せつけてやることにするさ」
「ええ、そうしなさい。その憤懣で、私は生きるから」
話は終わったと、彼女は彼女に背を向ける。
「……その髪型、似合っているな」
さらりと揺れた、肩口までの黒い髪を見、
「まるで恋に破れた、女の童のようで」
髪と同じくさらりと言う。
背けたその背がぴたりと止まる。
「……彼女に散々、悪女、性悪、腹黒と言われてきたけれど……断言するわ」
振り向かずに言う。
「あなたほどではないってね」
「誉め言葉として受け取っておこう」
うん、とりあえず、いろいろと衝撃的でした。
この技法は見習いたいです。
堪能させていただきました
騙されて、騙されて、場面ごとに『えっ?』って思いながら、最後でしっかりとやられました。
それにしても……やっぱりお姫様は、恋愛合戦では、頭の良い奴には一歩遅れをとるのでしょうかね。がんばれ輝夜、負けるな輝夜。
思わず魅入ってしまいました。いや本当に素晴らしい!
慧音と輝夜の二人の鬩ぎ合い、一本取ったのは慧音とはいえ、こうも見事だと
そりゃ輝夜も引くしかないですねぇ。また輝夜の引き際も綺麗でした。
本当に素晴らしい話をありがとうございました!
おいしく頂きました。合掌。重ねて、合掌。
綺麗にだまされましたw
読んでいくごとに ??? となっていったのに、
最後にストンと納得。
お見事………
まだよく分かってないですが。
いいお話でした。
そうでなかったら自分は読み解けてない...