河城にとりは妖怪の山にやってきた霧雨魔理沙に自分の発明品を自慢していた。
「これが今度作った『夢共有装置』だよ!」と誇らしそうに話すにとりであったが、魔理沙は退屈そうだった。
「で、夢を共有して何の役に立つんだ?」
「たとえば、他人の頭の中に入ってその人の秘密を盗むことができるんだ」
「物騒な機械だな」
「逆もできるよ。その人にある考えを植え付けることもできる。インセプションって言うんだけど、例えばどこかの巫女に『どこかの魔法使いに物を貸したい』と......」
「そりゃいいや。やろうぜ!」魔理沙は急に興味がわいたようだった。
「そうだね。私もちょうど装置の実験がしたかったし、盟友の頼みならね」にとりもなぜかあっさりと承諾した。
そして、二人は博麗神社に向けて飛び立った。
「なあ、歌が聞こえるんだが、気のせいかな?」飛行中、魔理沙が尋ねた。
「え? そ、そうかな? 私には何も聞こえないけど」にとりはいつになくあわてた様子だったが、魔理沙はそれに気づかずに言った。
「いや、まあ、きれいな歌声だと思ってな。聞こえてないならいいんだ」そうこう言っているうちに、神社が見えてきた。作戦開始だ。
霊夢は部屋でのんびりとお茶を飲んでいた。
「私がお茶の中に睡眠薬の入った水を入れてくるよ」にとりは言ったが、魔理沙は首を振った。
「どうせなら派手にやろうぜ!」魔理沙はマジックミサイルを放った。霊夢は倒れた。
「『どうせ夢なら』の間違いじゃないの?」にとりはさすがにあきれた顔で言った。
「だってここは夢じゃないだろ?」
「え? あ、まあね......」魔理沙はそんなにとりのあわてぶりも気にかけず、部屋に入っていった。
にとりは「ドリームマシン」に自分と霊夢を接続して、言った。
「じゃあ、私が霊夢の頭の中に入るから、魔理沙はだれか来ないかどうか見張ってて」
その次の瞬間にはもうにとりは眠っていた。
「やれやれ、こんな寂れた神社にだれか来るわけないだろ?」魔理沙は言って、部屋を見回した。もうすぐここの物をいくら借りていっても文句ひとつ言われなくなる。そのうち魔理沙は、この部屋にどこか違和感があることに気づいた。もちろん霊夢たちが得体の知れない機械とともに眠っていること自体に違和感があるのだが、もうひとついつもと違うことがあったのだ。
魔理沙は部屋の隅に歩いていった。そこだけが床板が外され、人が一人通れるほどの穴になっていた。穴にははしごがついていて、かなり深くまで続いているようだった。
「なんだこれ?」と魔理沙は振り返って聞いたが、もちろん答える者はいない。魔理沙は向き直って、穴に入っていった。
穴の底は広い空間になっていた。何もない......いや、あった。中央付近にごく普通の金庫が置かれていた。鍵はこれまた普通の南京錠だった。3つのダイヤルで数字を合わせる方式だ。
魔理沙がその数字を知っているはずはないのだが、なぜか彼女の脳裏には3桁の数字が浮かんできた。これまでに聞いたことのある数字なのかはわからないが、唐突に、しかしはっきりと、その数字は浮かんできたのだ。
「5......2......8......」魔理沙は開く確率が0に近いと知りながら、ダイヤルを回した。すると、信じられないことに、鍵が外れた!
******
魔理沙は中に入っていた書類を金庫の中に戻した。そして彼女が立ち上がったとき、突然地面が大きく揺れた。
「なんだ?!」
そしてすべてが崩れた。
******
霧雨魔理沙は自分の家の寝室で目覚めた。
「夢か」魔理沙は言った。
「そうだよな、人の頭に入る装置なんてあるわけないよな」外はまだ暗い。朝までもう一眠りするとするか。
そんな魔理沙を窓から見ている者がいた。
******
博麗霊夢はまた眠り始めた魔理沙を見て満足げな顔をしていた。
にとりから装置の説明を受けたのはたった1時間前だった。魔理沙にインセプションすると聞いて最初は無理だと思っていた。内容が「今後一切霊夢から物を借りたくない」というものならなおさらだ。
しかしにとりは綿密な計画を立てていた。より深い意識に考えを定着させるため夢の中で夢を見せなければならなかった。第1、第2階層では金庫の番号を印象づけるためあらゆる手を使った。図書館の書架番号528番。面白い形の古道具528円。そして第3階層へ。計画は滞りなく進んだ。
第3階層で、にとりは魔理沙にインセプションを持ちかけた。霊夢から物を借りることが簡単になるという状況を作るとより強く「借りたくない」と思わせることができるそうだ。
霊夢とにとりは偽のドリームマシンに接続して眠ったふりをし、魔理沙が「金庫室」に入るのを待った。そして任務完了だ。あの金庫には魔理沙が心を入れ替えるための何かが入っていたはずだ。だが、それはにとりが考えることであって自分には関係ない。
夢にはほかにもいろいろと規則があった。今回夢の第3階層まで潜るので、眠りを安定させるためにとりが調合した睡眠薬を飲んだ。そのせいで自分から夢を出ることはできない。そこで上の階層から衝撃を加えて起こす「キック」を使った。そして現実世界から音楽を聞かせて任務終了のタイミングも正確に合わせた。にとりによると途中で音楽に気づかれて焦ったそうだが。
博麗神社は現実の物とそっくりにつくるので現実だと錯覚する危険があった。しかし、これもにとりのおかげで楽に解決した。夢の中では弾幕が役に立たないそうだ。夢か現実か確かめるにはただ自分に向かって弾を打ち込んで見ればよかった。痛ければ現実、なんともなければ夢だ。この法則は魔理沙が神社でミサイルを撃ってきたときも役に立った。霊夢は倒れたふりをしたが、実際は痛くもかゆくもなかったのだ。
しかし、そんな瑣末なことは霊夢にとってどうでもいいことだった。重要なのは「インセプション成功」という事実だけだ。
******
河城にとりはそんな霊夢をこれまた満足げな顔で見つめていた。霊夢は油断して自分に弾を打ってみるのを怠っている。また、金庫に入っていたのがただの白紙だったということにも気づかなかったようだ。
にとりは最初から情報泥棒やインセプションなどにはまったく興味がなかった。しかし自分の技術を高める必要があった。現実と変わらない夢を作る技術だ。そのために盟友2人に協力してもらったのだ。
結果はすばらしい物だった。魔理沙はインセプションを提案されて夢を意識した状態でも神社を現実と思っていた。霊夢は夢を現実と思い込む魔理沙を見た後でも今ここを現実と勘違いしている。
ここは夢の一番浅い階層だ。最後に目覚めるときにはキックは必要ない。装置にセットしたタイマーが作動して自然に目覚める。
そしてそれはもうすぐだった。
「これが今度作った『夢共有装置』だよ!」と誇らしそうに話すにとりであったが、魔理沙は退屈そうだった。
「で、夢を共有して何の役に立つんだ?」
「たとえば、他人の頭の中に入ってその人の秘密を盗むことができるんだ」
「物騒な機械だな」
「逆もできるよ。その人にある考えを植え付けることもできる。インセプションって言うんだけど、例えばどこかの巫女に『どこかの魔法使いに物を貸したい』と......」
「そりゃいいや。やろうぜ!」魔理沙は急に興味がわいたようだった。
「そうだね。私もちょうど装置の実験がしたかったし、盟友の頼みならね」にとりもなぜかあっさりと承諾した。
そして、二人は博麗神社に向けて飛び立った。
「なあ、歌が聞こえるんだが、気のせいかな?」飛行中、魔理沙が尋ねた。
「え? そ、そうかな? 私には何も聞こえないけど」にとりはいつになくあわてた様子だったが、魔理沙はそれに気づかずに言った。
「いや、まあ、きれいな歌声だと思ってな。聞こえてないならいいんだ」そうこう言っているうちに、神社が見えてきた。作戦開始だ。
霊夢は部屋でのんびりとお茶を飲んでいた。
「私がお茶の中に睡眠薬の入った水を入れてくるよ」にとりは言ったが、魔理沙は首を振った。
「どうせなら派手にやろうぜ!」魔理沙はマジックミサイルを放った。霊夢は倒れた。
「『どうせ夢なら』の間違いじゃないの?」にとりはさすがにあきれた顔で言った。
「だってここは夢じゃないだろ?」
「え? あ、まあね......」魔理沙はそんなにとりのあわてぶりも気にかけず、部屋に入っていった。
にとりは「ドリームマシン」に自分と霊夢を接続して、言った。
「じゃあ、私が霊夢の頭の中に入るから、魔理沙はだれか来ないかどうか見張ってて」
その次の瞬間にはもうにとりは眠っていた。
「やれやれ、こんな寂れた神社にだれか来るわけないだろ?」魔理沙は言って、部屋を見回した。もうすぐここの物をいくら借りていっても文句ひとつ言われなくなる。そのうち魔理沙は、この部屋にどこか違和感があることに気づいた。もちろん霊夢たちが得体の知れない機械とともに眠っていること自体に違和感があるのだが、もうひとついつもと違うことがあったのだ。
魔理沙は部屋の隅に歩いていった。そこだけが床板が外され、人が一人通れるほどの穴になっていた。穴にははしごがついていて、かなり深くまで続いているようだった。
「なんだこれ?」と魔理沙は振り返って聞いたが、もちろん答える者はいない。魔理沙は向き直って、穴に入っていった。
穴の底は広い空間になっていた。何もない......いや、あった。中央付近にごく普通の金庫が置かれていた。鍵はこれまた普通の南京錠だった。3つのダイヤルで数字を合わせる方式だ。
魔理沙がその数字を知っているはずはないのだが、なぜか彼女の脳裏には3桁の数字が浮かんできた。これまでに聞いたことのある数字なのかはわからないが、唐突に、しかしはっきりと、その数字は浮かんできたのだ。
「5......2......8......」魔理沙は開く確率が0に近いと知りながら、ダイヤルを回した。すると、信じられないことに、鍵が外れた!
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魔理沙は中に入っていた書類を金庫の中に戻した。そして彼女が立ち上がったとき、突然地面が大きく揺れた。
「なんだ?!」
そしてすべてが崩れた。
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霧雨魔理沙は自分の家の寝室で目覚めた。
「夢か」魔理沙は言った。
「そうだよな、人の頭に入る装置なんてあるわけないよな」外はまだ暗い。朝までもう一眠りするとするか。
そんな魔理沙を窓から見ている者がいた。
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博麗霊夢はまた眠り始めた魔理沙を見て満足げな顔をしていた。
にとりから装置の説明を受けたのはたった1時間前だった。魔理沙にインセプションすると聞いて最初は無理だと思っていた。内容が「今後一切霊夢から物を借りたくない」というものならなおさらだ。
しかしにとりは綿密な計画を立てていた。より深い意識に考えを定着させるため夢の中で夢を見せなければならなかった。第1、第2階層では金庫の番号を印象づけるためあらゆる手を使った。図書館の書架番号528番。面白い形の古道具528円。そして第3階層へ。計画は滞りなく進んだ。
第3階層で、にとりは魔理沙にインセプションを持ちかけた。霊夢から物を借りることが簡単になるという状況を作るとより強く「借りたくない」と思わせることができるそうだ。
霊夢とにとりは偽のドリームマシンに接続して眠ったふりをし、魔理沙が「金庫室」に入るのを待った。そして任務完了だ。あの金庫には魔理沙が心を入れ替えるための何かが入っていたはずだ。だが、それはにとりが考えることであって自分には関係ない。
夢にはほかにもいろいろと規則があった。今回夢の第3階層まで潜るので、眠りを安定させるためにとりが調合した睡眠薬を飲んだ。そのせいで自分から夢を出ることはできない。そこで上の階層から衝撃を加えて起こす「キック」を使った。そして現実世界から音楽を聞かせて任務終了のタイミングも正確に合わせた。にとりによると途中で音楽に気づかれて焦ったそうだが。
博麗神社は現実の物とそっくりにつくるので現実だと錯覚する危険があった。しかし、これもにとりのおかげで楽に解決した。夢の中では弾幕が役に立たないそうだ。夢か現実か確かめるにはただ自分に向かって弾を打ち込んで見ればよかった。痛ければ現実、なんともなければ夢だ。この法則は魔理沙が神社でミサイルを撃ってきたときも役に立った。霊夢は倒れたふりをしたが、実際は痛くもかゆくもなかったのだ。
しかし、そんな瑣末なことは霊夢にとってどうでもいいことだった。重要なのは「インセプション成功」という事実だけだ。
******
河城にとりはそんな霊夢をこれまた満足げな顔で見つめていた。霊夢は油断して自分に弾を打ってみるのを怠っている。また、金庫に入っていたのがただの白紙だったということにも気づかなかったようだ。
にとりは最初から情報泥棒やインセプションなどにはまったく興味がなかった。しかし自分の技術を高める必要があった。現実と変わらない夢を作る技術だ。そのために盟友2人に協力してもらったのだ。
結果はすばらしい物だった。魔理沙はインセプションを提案されて夢を意識した状態でも神社を現実と思っていた。霊夢は夢を現実と思い込む魔理沙を見た後でも今ここを現実と勘違いしている。
ここは夢の一番浅い階層だ。最後に目覚めるときにはキックは必要ない。装置にセットしたタイマーが作動して自然に目覚める。
そしてそれはもうすぐだった。
設定を語りたいと思うところは分かりますが、その設定で踊る人たちを見ているだけであり、物語としては盛り上がりも面白みもなくなってしまっています。
ご指摘のとおり、設定にとらわれすぎて非常に平坦な文章になってしまいました。反省します。