これは幻想郷始まって以来の危機なのではないだろうか。
もはや『異変』のレベルでは済まされない未曾有の事態。
視界に映るのは、どこまでも広がる謎の物体。
徐々に幻想郷を浸食する『ソレ』は。
未だ衰える気配を見せずに凄まじい勢いで広がっていく。
なんでこんなことになったか。
理由は明白だ。
全ては、あんなものを拾ってしまったのが発端だった。
◇ ◇ ◇
やぁ、私はナズーリンだ。
ネズミの妖怪であり、毘沙門天代理であるご主人『寅丸星』の部下兼監視役、かつ飛行型変形幽霊船『聖輦船』のメンバーでもあり、そして人里に建つ『命蓮寺』の雑用などもこなしている。
つまり、私はダウザーなのである。
肩書きが多いので鬱陶しいかもしれないが、事実なので勘弁願いたい。
そろそろ季節的に暖かくなってきた幻想郷。
今にもリリーが飛び出してきそうな暖かな日差し。
その中を、今日も散歩がてらダウジングに出かける。
うん、今日は調子が良い。
これは素材アイテム『ちんきさまのはね』だな。
拾得物も上々だ。
「なずっ!」
散開していたなずりん(何故かは分からないが、子ネズミたちが私と瓜二つになってしまった。詳しくは過去作品を読んでくれ)の一匹が『モノマ○ン(実物大)』を発見し、私の元へと持ってきた。
「ほぅ、これも中々の一品だな。よく見つけてきたな」
そう言って、なずりんの頭を撫でてやる。
気持ちよさそうになずなずしている可愛い部下を見て、思わず気持ちが安らぐ。
なずりんの調子も良さそうだし、今日は良い日に恵まれたな。
そんなことを考えながら、再びダウジングに集中すると。
「おや?」
この反応は・・・。
一言でいうと『珍しい』反応だった。
ダウザーとしての感覚が何時になく過剰反応する。
こういった感じのときは、主に2つに分かれる。
超希少種。
または、厄介物。
一瞬ためらった私は、その反応を頼りにソレを捜索する。
希少種なら儲けもの。
厄介なものなら放置するなりすればいい。
とりあえずは、それがどういったものかを見極めてからだ。
私はダウジングロッドに意識を集中させ、反応があった場所へと向かった。
◇ ◇ ◇
反応があった辺りを捜索する。
ずいぶん草が生い茂っている場所だな。
散開させていたなずりんたちも召集させ、全員で探す。
何か落ちていないか懸命に草を掻き分けていると。
「なずっ!」
一匹のなずりんが発見したようだ。
全員がその場所へと向かう。
そこへ落ちていたのは・・・。
「袋?」
ただの袋ではない。
これは、『プラスチック製』というのかな?
こちらではあまりお目にかかれない容器を指でつまみ、目元まで持ち上げてみる。
袋の表紙には、読んだこともない言葉が書かれている。
ちなみに、日本語だ。
ただ、書いている意味が少し分からない。
それと、開け方がわからない。
ハサミで切ればいいのかな?
・・・ふむ。
正体不明の捜索物に皆首を傾げるばかり。
正体不明。
ぬえにあげるか?
いや、いくら正体不明が売りなぬえに対しても、全く意味がわからないものをあげるのも少し躊躇いがある。
これが危険なものだったら困る。
とりあえず、提げていたバッグにしまう。
これの鑑定は後にしよう。
実はこれから、紅魔館に向かう予定になっている。
魔導書だけではなく、様々な外来の書物も保管している大図書館。
日々色んなものを探し当てている身だ。
それなりの知識も必要となってくる。
なので、そういった情報を集めるのに適した場所にはよく赴いている。
今回だって、また未知の拾得物を探し当ててしまったのだ。
ちょうどいい。
今拾った袋についても何か分かるかもしれない。
ダウザーとしての性なのか。
好奇心に胸を膨らませ、あの紅い館へと足を運んだ。
◇ ◇ ◇
「あ、ナズさん。いらっしゃいませぇ♪」
紅い館に到達して最初に出迎えてくれたのは。
「小悪魔?美鈴はどうしたんだい?」
門の前には数人の門番隊。
そして、門のすぐ傍で箒を掃いていたのは、図書館のマスコット(司書)である『小悪魔』であった。
「マスコットとは酷いですね~。ちゃんと司書としての仕事もバッチリやってますよ」
「・・・そうか、図書館を追い出されたのか」
私がハンカチに目をあてながらこぁを不必要に可哀そうな目で見てやったりする。
「ナズさんのモノローグを読んだことはスルーですか!?」
「美鈴は花壇かい?」
「私より美鈴さんのほうが気がかりですか?酷いです!私はこんなにも毎晩毎晩ナズさんのことを想って・・・」
「じゃあ、図書館までの案内を頼むよ。トラブルメーカー小悪魔さん」
「こぁ!?」
そう言って、小悪魔の横を素通りして勝手に館の扉を開ける。
さて、図書館はあっちだったな。
◇ ◇ ◇
大魔法図書館。
相変わらずの絶妙な暗さ加減と埃っぽさで雰囲気全開な魔女の住処。
魔法によるものだろう。
淡い光の玉がそこらじゅうに浮かび上がっている。
にしても、広い。
本当にこの館の一部かというくらいの敷地に、本棚がびっしりと並んでいる。
もしかしたら、前よりも広大になっているんじゃないかと錯覚する。
そんな大図書館の中心部。
図書館内でも少しだけだが明るい場所。
大き目の机には山積みになった本。
その机の傍にある椅子に腰かけているのは紫色のもやし。
きっと炒め物にして食べたら食中毒を起こすだろう。
「・・・。なんか言った?」
「いや、なにも。こんにちは、パチュリー」
もやし改め図書館の主『パチュリー・ノーレッジ』に頭を下げる。
パチュリーは何時ものような眠たそうな目でこちらをチラリと見て、すぐに本に視線を戻した。
「では、閲覧させてもらうよ」
特に何も言ってこないというのは、「好きにしなさい。邪魔だけはしないで」という意思表示。
つまり、自由に本を読んでいい、ということだ。
さて、今日はどの本を読もうかな?
なずりんたちも思い思いに散らばっていく。
一匹だけパチュリーの頭の上でぐっすり寝ている子がいるが、あの子がよく爆睡しているのは日常茶飯事なので放っておいてもよいだろう。
並べられている本にざっくりと目を通しながら館内を歩く。
全部見ていたら日が暮れるからな。
パッと見だけで関心の引くものを選んでいく。
ふむ、『一休さんに習うめんどくさい虎狩り大全集』か。
ウチの寅は狩ったらマズイよな。
『虎狩で有名な空手家に教わる躾のなっていない寅の飼いならし大辞典』とかはないんだろうか?
そんなことを考えながら、あれこれ見て回って数十分。
「ナズさーん!お茶入りましたよー!」
遠くから聞こえてくる、この図書館には似つかわしくない陽気な声。
なんだ、小悪魔は内勤に戻ってきていたのか。
図書館では静かにしたほうがいいぞ?
後で主に怒られるのは小悪魔だから私には関係ないんだがね。
まぁ、それも仕方ない。
『紅魔館三大陽気妃』とか言われている内の一角なのだ。
彼女の持ち味なのだから仕方がないともいえる。
たまにトラブルを起こすのがアレなんだがね。
◇ ◇ ◇
「・・・ふむ、美味いな」
「ありがとうございます」
私の率直な感想に笑顔で応える小悪魔。
紅茶を飲める場所だなんて、幻想郷では少ない方だからな。
特に紅魔館で出される紅茶は逸品だと思う。
私の周りでも美味しそうになずりんたちが飲んでいる。
やっぱしあるんだな、なずりんサイズのティーカップ。
そんな風に優雅なティータイム(私の柄じゃないが)を楽しんでいると。
「あら、それは今回の拾得物?」
本から視線を外していたパチュリーが、私のカバンを見ていた。
そこから見えていたのは『例』のプラスチック製の袋。
やはりパチュリーでも珍しいと感じるか。
「あぁ。ここに来る前のダウジングで得たものでね」
「以前に話していた『珍しい』反応?」
流石、鋭いな。
「この世界では珍しい袋に入っているんだがね。中身がどういったものなのかはまだ未鑑定だ」
そう言いながら、袋を上下に振る。
中からはガサガサという音。
ふむ、どうやら複数の小さな物が入っているのかな?
「じゃあ、ここで開けちゃいましょう!」
はぁ、言うと思ったよ。
凄いキラキラした目で袋を見つめている小悪魔一体。
コイツが興味を持ったということは、これはトラブルの種だな。
私は軽い頭痛を感じながら。
「いや、何が入っているかも分からないし。ここは慎重に」
「はい!ハサミでチョキチョキっと開いちゃいました~♪」
わーお、コイツ人の忠告無視して開けちゃいましたよ。
言っておくけど、コレ私が見つけてきた物だからな?
小悪魔が近くに置いてあった皿の上に中身を出す。
出てきたのは・・・。
「・・・なにこれ?」
「硬い、ような。でもちょっと力を入れたら崩れそうな」
珍しく前かがみになって覗き込むパチュリーに対して、触ってみた感想を私が述べる。
参ったなぁ。
まさか、中身を出してみても正体不明だとは。
ぬえ、呼んでおいたらよかったかなぁ。
「食べれるのかしら?」
「いや、これは食べ物には見えないんだがね」
そういや、パチュリーは食べるの大好きだったというのを魔理沙から聞いたことある。
なんでも、私と一輪が挑んだ大食い競争の店にも足を運んだとか。
「この袋にデカデカと書かれているのが、この物体の名前だとは思うんだけど」
「聞いたこともないぞ、幻想郷では」
パチュリーでも知らないか。
となると、十中八九これは外来のものだな。
私たちが目の前の正体不明に頭を悩ませていた、その時。
「あっ」
「え?」
小悪魔が、紅茶用のお湯を皿の上に零した。
もちろん、皿の上には謎の物体が乗っていたわけで。
「こら、小悪魔。貴方なんてことを」
「・・・!?パチュリー!!」
最初に異変に気付いたのは私だった。
すぐさまパチュリーを抱えて離脱を図る。
なずりんにはすでに指示を出してある。
皆、一目散に図書館の出口を目指す。
「ちょ!いきなり何を!?」
「パチュリー、後ろを見ろ!」
私に抱えられたパチュリーが後方を見る。
そして。
「な、何あれ!?」
普段から物静かなパチュリーでも流石に驚きの声を上げた。
私も速度を落とさずにチラリと後ろを見る。
視線の先。
図書館の中心地は。
謎の巨大な物体で埋め尽くされていた。
◇ ◇ ◇
図書館の扉をすぐに閉める。
パチュリーを降ろし、荒い息を落ち着かせる。
だが、鼓動だけはバクバクと早いままだ。
アレは何なんだ?
いきなり巨大化して増殖を始めたぞ?
私が額の汗を拭っていると。
「いやぁ、図書館がピンチですね、アレは」
何で小悪魔は私たちより先に図書館から出ていたのだろうか?
素早いな、コイツ。
てか、笑顔でのんびり感想述べている場合か?
私の予測だと、今頃図書館内は滅茶苦茶だぞ。
私と同じ予測をしているのだろう。
いつも以上に顔色が悪くなっているパチュリーが床に手をついて項垂れている。
あ、マジ泣きしている。
「本、本、本・・・」
「えーっと。済まなかった。私がもうちょっと慎重に取り扱っておけば」
「そーですよ、ナズさん!一体図書館の落とし前はどう付けてくれるんですか?」
「「お前の所為だろーが!!」」
あんなものを持って来てしまった罪悪感もあったので謝ったっていうのに、この小悪魔は。
お前が勝手に開封して、勝手に変なもの投入したからこうなったんだぞ?
パチュリーが怒り狂ったように小悪魔の胸倉を掴み、ガクガクと揺らす。
「まぁまぁパチュリー様。ほら、いつも白黒魔法使いに荒らされている図書館なのです。今回もきっと大丈夫ですよ」
「荒らされている規模がどう考えても違うでしょうが!!確実に中は破壊の限りを尽くされているわよ!?」
コイツは本当にこの図書館の司書なんだろうか?
それはともかく。
アレは一体なんなんだ?
見たこともない物体。
突然の増殖。
増殖のスピードだってハンパじゃなかった。
そんなことを考えていると。
ミシッ。
ミシミシッ。
イヤな音が図書館から聞こえてくる。
正確には、その扉から。
「パチュリー!小悪魔!言い争いは後にしろ!今すぐにここから離脱するぞ!!」
「・・・!小悪魔!館全内に緊急避難命令を出しなさい!」
「いえっさー♪」
だから何楽しそうにしているんだ、この小悪魔は?
いや、それよりも。
確かに今はすぐに館の中の全員を避難させる必要があるかもしれない。
扉の軋み。
それは、もう図書館全体があの謎の物体に埋め尽くされているということだ。
つまり。
次の瞬間。
扉が破壊される音。
一気に廊下へとなだれ込んでくる例の物体。
増殖は止まってない。
しかも、この浸食スピード。
瞬く間に館全内を覆ってしまうに違いない。
『あー。テステス、ただいまマイクのテスト中』
「「早くしやがれやぁ!!!」」
私とパチュリーが血管ブチ切れそうな勢いで叫ぶ。
マイクテストなんてやっている暇か!
学生時代の作者みたいな遊びはやめろ!
その間にもどんどん館内に広がっていく謎の物体。
これは間に合わないんじゃないか!?
そう思っていたのだが。
「あら?」
パチュリーが不思議そうな声を上げる。
どうやら、窓の外を見ているようだ。
そこには。
ここで働いている妖精メイドたちが外へと避難しているではないか。
もう館の半数は外に出ているんじゃないか?
そこに。
「なずっ!」
一匹のなずりんが私の元へ駆け寄ってくる。
その手には。
「・・・へぇ」
「ナイスだ、なずりん!」
なずりんが手に持っていたのは四角いボード。
そこには『パチュリーからの緊急命令。すぐに館外へと避難せよ!』の文字が。
そうか、先に外へ出ていたなずりんたちが館のみんなに避難命令をだしてくれていたのか。
しかもパチュリーの名前を使って。
それなら効果は抜群だ。
次々に避難していく妖精メイドたち。
『緊急勧告、緊急勧告。皆さん落ち着いて館外へ避難してください。これは訓練ではありません』
ようやくまともな小悪魔アナウンスが流れ、次々と外へと出ていく。
「これなら間に合いそうね」
「私たちもうかうかしていられない。すぐに出るぞ!」
◇ ◇ ◇
外へ出てきた私たちの元へとすぐさま駆け寄ってきたのは。
「パチュリー様!一体何があったのです!?」
「見てください咲夜さん!何か館内から変な物体がはみ出ていますよ!?」
咲夜と美鈴。
避難した妖精メイドたちの指示を終えて、慌てて状況を確認にきた。
この2人も無事だったか。
まぁ、いきなりのこの惨状は誰だってパニくるよな。
私とパチュリーは2人に簡潔に説明をする。
「小悪魔の所為ですか」
「小悪魔さんの所為ですね」
2人が呆れた顔で納得する。
あぁ、やっぱしこんな事態でも小悪魔の名前を出したら納得してくれるんだ。
元凶を持ってきたのが私だったので少し罪悪感もあったのだが、それでも小悪魔の所為になるってのはなんとも。
「酷いです、咲夜さんも美鈴さんも。私はただ懸命に館の業務をこなしていただけなのに」
「勝手に開けるな」
「普段から図書館では水気の物を零すなと言ってるでしょうが」
「貴方、この前私の紅茶にハバネロ入れたでしょ」
「以前お嬢様の部屋の入口にタライをしかけて頭の上に落としたの小悪魔さんですよね」
ハンカチに目を当てながら涙ぐむ小悪魔に対して、次々とつっこむ私たち。
大体、今回はただの悪戯のレベルを超えているんだぞ。
ついに館の外まで浸食し始めている。
もはや館が見えないくらいまでの広がりを見せている。
もうすぐ、広い庭をも埋め尽くし、門まで広がっていこうとした、その時。
「あぁ、お嬢様!」
叫び声を上げた美鈴の視線の先。
トタトタと一生懸命門の外へと向かって走っている姿。
『レミリア・スカーレット』
館の主である紅い悪魔が、すぐ後ろまで迫っている謎の物体から懸命に逃げていた。
「お嬢様!」
慌ててそちらへと駆け寄ろうとした美鈴。
その腕を。
「ダメよ、美鈴!」
懸命に掴んで引き留める咲夜。
「だって、あのままじゃお嬢様が!」
「貴方まで巻き込まれたらどうするのよ!?」
いや、仲が良いことはいいんだがね。
館の主のピンチだぞ?
咲夜、お前何美鈴の心配しているんだい?
「うー、助けてぇ!」
「お、お嬢様!」
「美鈴!お嬢様なら大丈夫よ。だってこの館で一番お強い方なんだから。でも貴方がアレに巻き込まれてもしもの事があったら。私は、私は・・・!」
あぁ、咲夜に言わしてみれば美鈴>レミリアなんだな。
私が若干汗を垂らしながら2人のやり取りを見ていた。
だが。
私も呑気にそのやり取りを見物している事態ではないことに気付いた。
「なずっ!?」
突然、隣にいたなずりんが焦りの混じった悲鳴のようなものを上げた。
なずりんの指差す先。
私がそちらのほうに視線を向ける。
周りにいたパチュリーたちも気付いたようだ。
レミリアが必死になって走っている少し先。
門の近くあたりだろうか。
そこには。
「「「「「なずりん!?」」」」」
アイツだ。
暇さえあったらぐっすり寝ているやつだ。
そのなずりんが、あろうことか迫りくる謎の物体の近くでグースカ寝ていやがったのである!
あのままでは巻き込まれる!
「な、なずりん!?」
私が慌てて駆け寄ろうとしたところをパチュリーに止められる。
「は、離せパチュリー!私の部下が・・・!」
「ダメよ、今からじゃ間に合わないわ!貴方まで犠牲になる気!?」
確かに間に合わない。
だが。
だからといって、可愛い部下を見捨てるような真似を上司がやっていいのか?
否!
断じて否だ!
確かに迫りくる謎の物体を止める術は私には無い。
だが、一瞬動きを止めるくらいは出来るはずだ。
私が持っているすべてのスペルカードを同時発動してアレにぶつける。
それで止めた一瞬の隙になずりんたちに救出してもらう。
スペルカードクラスの技を同時発動なんてやったことないんだが。
だが、迷っている暇はない。
すべてはアイツを助けるため!
私が手持ちのスペルカードを全部出す。
ペンデュラムが、ロッドが大きさを変えて展開される。
こ、これは結構キツイな。
身体の中を逆流するように暴走している巨大な力を必死に押さえつけ渾身の一撃を放つ。
だが、その時。
「時よ!」
一瞬、変な感覚に包まれる。
重い、自分の外界への感覚が狂ったような。
次の瞬間には。
「はい。貴方の大事な部下よ」
いつの間にか私の横へと立っていた咲夜。
その腕の中には呑気に寝ているなずりん一匹。
そうか。
咲夜が時間を止めて救出してくれたのか。
全く、心配させて。
咲夜から渡されたなずりんをギュっと抱きしめる。
人の気も知らないでグッスリ寝ている姿を見ると、何故かホッとする。
これからは、この子の動向を注意深く見とかないとな。
そんなことを考えていると。
「で、あの咲夜さん?お嬢様は・・・」
美鈴の言葉に、ピクッと動きを止める咲夜。
おぉ、そうだ。
時間を止めれる咲夜ならレミリアだって救いだせてるはずだ。
いやぁ良かったな、紅魔館には優秀なメイド長がいて。
・・・。
・・。
動かない咲夜。
見る見るうちに真っ青になっていく顔。
おいおい、まさか。
「うーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「お嬢様ーーーーーーーーーーーーー!!」
「咲夜さんーーーーーーーーーーーー!?」
紅きカリスマの最後の断末魔。
やっちまったと言わんばかりの完全で瀟洒なメイド長の叫び。
全力でツッこむ門番長。
こうして館の主は。
謎の物体に飲み込まれていった。
◇ ◇ ◇
とりあえず、妖精の住む湖の畔まで避難してきた私たち。
もはや紅魔館は完全にその姿を見失っていた。
この浸食状況はマズイ。
まさか館だけでは飽き足らず、どんどん範囲を広めていっているとは。
この調子でいくと、ここら周辺どころか人里まで侵攻していくんではないか?
いや、もしこのまま浸食が止まらなかったら。
ゾッとする。
これは異変とかいうレベルではない。
幻想郷全体の危機だ。
「・・・作戦会議だ。私たちで止めるぞ」
決意を胸に、私が宣言する。
拾ったのは私だ。
例え絶対疑いようがないくらいホンマにこの事態の所為が小悪魔にあったとしても、私はこの現実から目を背けることはできない。
「ナズさん・・・」
「何感極まったように瞳を輝かせて感動しているんだよ、このトラブルメーカーが!お・ま・え・の所為なんだよ!」
自分の行動を全部棚上げにして感動の表情を浮かべている小悪魔に全力で突っ込む。
「諦めなさいナズーリン。コイツの性格がまともになるようだったら、私が真っ先に改善しているわ」
私の方にポンと手を置き、パチュリーが優しく語りかける。
あぁ、そうだな。
パチュリーも大変だな。
てか、なんでこんなヤツを今の今まで自分の元に置いていたんだい?
それはともかく。
まずは現在の戦力を確認。
私、なずりん、パチュリー。
小悪魔は役に立つのか?
妖精メイドたち。
咲夜は・・・、ダメそうだな。
今も自分の失態にショックなのか完全に意気消沈状態。
その背中を優しくさする美鈴。
正直、少ない。
アレを止めるには更なる戦力が必要だろう。
博麗の巫女。
白黒の魔法使い。
麓の巫女。
いや、もしかしたらまだ足りないかもしれない。
それほどまでに異常な浸食を図っている例の物体。
しかも、アレが何なのかも分からない。
作戦がたてようがない。
弱点も分からない。
だが。
アレが幻想郷を揺るがすとんでもない事態だということは確かだ。
今の戦力で少しでも食い止める。
一応なずりんに頼んで、霊夢に救援を要請しているところだが。
私たちが少しでも食い止めている間に強力な助っ人が来るかもしれない。
そう、例えばあの隙間妖怪とか。
幻想郷の実力者たちがこの異変に気付いて動き始めるまでに、私たちで少しでも抑えるしかない。
「・・・あれは、小悪魔が零したお湯で増殖を始めたのよね」
ふと、パチュリーが何かを思いついたように語り始める。
「てことは、きっかけは『水』。もしアレが水分によって増殖するものであれば・・・」
その言葉にピンとくる。
そうか。
もしパチュリーの推理が正しければ。
「『水』と反対の性質。例えば『熱』とか『炎』とかが有効ということか?」
「おそらくね。だとすると」
飛び立つパチュリー。
すぐそこまで迫ってきている謎の物体。
それを前にしてパチュリーがスペルカードを掲げ、宣言する。
「日符『ロイヤルフレア』」
無数に飛び交う炎。
次々に標的に向かう煉獄の炎が視界を真っ赤に染める。
流石は幻想郷きっての魔女。
迫りくる脅威に対して引けを取らぬ攻撃が展開される。
そして。
「動きが止まった!効いているぞパチュリー!」
一瞬だが。
確かに侵攻が止まった。
効いている。
パチュリーの炎が効いている!
だが。
「止めれるのは、ほんの少しの間ね」
悔しそうに呟くパチュリー。
止まらない。
再び進行を始める例の物体。
くそっ、パチュリーの大魔術でさえ一瞬の効果か。
「ロイヤル・・・」
「ダメです、パチュリー様!」
第二弾を放とうとしたパチュリーを止めたのは小悪魔。
おい待て、なんで止めた!?
今の状態ではパチュリーの魔術が最も有効だというのに。
だが、それは。
パチュリーのことを『本当』に知らない私の浅はかな疑問だった。
空中で崩れ落ちるパチュリー。
それを必死に抱きかかける小悪魔。
「ダメですよ、ロイヤルフレアの2連発なんて。ご自分の身体のことも考えてください!」
「・・・本当に悔しいわね。今になって自分の症状が腹立たしいわ」
そうか。
パチュリーは元々喘息持ち。
強力な攻撃が繰り出せない身体だったんだ。
パチュリーが小悪魔を傍に置いている訳が分かった。
小悪魔は小悪魔なりに主人のことを気遣っていたんだな。
アイツが、一番パチュリーのことを分かっているのかもしれない。
だが、どうする?
パチュリーが大魔術を連発できないとなると、あれを止めるのは更に難しくなってくる。
今から妹紅に伝達するか?
間に合わないということはないにしても、出来ればアレが少しでも拡大する前に抑えておきたい。
考えろ、ナズーリン。
まずは順を辿って思い出せ。
小悪魔が袋を開けた。
中から出てきた物体にお湯がかかった。
・・・。
・・。
そうだ!
もしアレが増殖している理由が、未だに小悪魔が零したお湯に元凶が浸かっているのだとすれば。
「なんとか。元凶が起こった場所。図書館まで行けないか?」
それが難しいのは承知だ。
だが、あそこをどうにかすれば解決するはずだ。
「どういうこと?」
咳込みながら、小悪魔に抱えられ戻ってきたパチュリーが問いかける。
「元々は、アレがお湯に浸かっている状態だからこんな状態なんだろ?だったら、中心部をどうにかすれば」
おそらく、未だあの謎の物体はお湯に浸かっている状態だ。
なら、それを取り除けばいい。
中心部を叩く。
そうすれば、少なくとも浸食は止まるのではないか?
「でも、あそこまで広がった状態で、どうやって中心部までたどり着くつもり?」
パチュリーの言葉ももっともだ。
もうあの物体は途轍もない大きさまでになっている。
あれを突破して図書館、中心部までいくには途方もない戦力が必要だ。
今の私たちにはそんな力は無い。
次に打つ手がない。
そんな時に。
「なずっ!?」
突然、近くにいたなずりんが慌ただしい行動をとる。
何が起こったかと、なずりんの視線に目を向けると。
いた。
巨大な浸食物を目の前に、トタトタと進んでいくなすりんが一匹。
あの、いつも爆睡しているやつだ。
久々に起きたというのに、何をするつもりだ。
謎の物体を目の前に怯むことなく前進を続ける。
「な、なずりん!」
気付いたのが遅かった。
私の制止も聞かず、あの物体に迷わず進んでいったなずりん。
私は。
ただ、その部下が飲み込まれるのを見ていることしかできなかった。
もう、言葉にすらできない。
見ていることしかできない。
それが歯がゆくて。
それがとても悔しくて。
私はどうすることもなく、それを見ているしかなかった。
◇ ◇ ◇
飲み込まれるなずりん。
自然と、涙が溢れてくる。
膝をつき、地面に手を着く。
「な、なずりん・・・」
周りに声を掛ける者はいない。
あの小さな身体に対して、あの物量。
誰もがその顔に諦めの表情を浮かべていた。
大切な部下。
思い返せば、アイツはいつも寝ていてばかりいた。
それか食べてばっかりでいた。
それがダウジングの最中でも。
聖の説法の最中でも。
私がアイツとの大切な思い出を走馬灯のように思い返していると。
ゴゴ、ゴゴゴゴゴ・・・。
な、なんだ?
何か腹の底に響くような重い音がしはじめ、涙を拭って辺りを見渡す。
「なんか、さっきなずりんが飲込まれた辺りから聞こえませんか?」
美鈴のその言葉に、全員が一斉にその方向へと目を向ける。
次の瞬間。
先ほどなずりんを飲み込んだ辺りの謎の物体が大きく盛り上がり始めた。
な、なんだ!?
こんどは何が起きたというのだ!
全員が警戒しながらそちらを見つめる。
そして。
ソイツは現れた。
◇ ◇ ◇
開いた口が塞がらない。
紅魔館のメンバーも唖然として見上げている。
そう。
私たちはいま、見上げている。
デカい。
とてつもなくデカい。
というか、いまも現在進行形でデカくなっている。
50m。
いや、もっとデカくなっていっている。
謎の物体を押しのけ現れた巨体。
ソイツは両手を天に向かって広げ、高らかに咆哮した。
「NAZUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」
「な、な、な・・・。なず、りん!?」
そう、アイツだった。
さっき飲み込まれたはずのなずりんが、どういうわけか巨大化して現れたのである!
・・・。
・・。
いやいや!
ちょっと待てや!?
この場合、無事(?)でいたことを素直に喜ぶべきかどうか激しく悩むぞ!
てか、なんでそんなに大きくなっちゃったのさ!?
そんな私(というか、ここにいるメンバー全員)の驚愕と困惑を前に。
「NAZU,NAZU,NAZUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」
その巨大ななずりん(便宜上、『びっぐ・なずりん』と呼ぶことにする)が同じく巨大化したロッドやペンデュラムを振り回し、次々と謎の物体を薙ぎ払っていく。
す、すごい・・・!
私たちでさえどうしようもできないと思っていた謎の物体を蹴散らしながら、館へと前進していく。
私は、びっぐ・なずりんの所まで飛んでいき、その肩へと乗る。
「な、なずりんなのか?」
「NAZU!!」
「そ、そうか。無事で良かった。それよりも、なんでそんなに巨大になることが出来たんだ!?」
「NAZU!」
「た、食べた!?あの訳の分からんモノ食べたのかい!?」
私とびっぐ・なずりんのやり取りを遠巻きで聞いていた紅魔館メンバー。
「食べる・・・」
「いやいや、パチュリー様!ダメですからね!食べちゃダメですよ!?」
「でも美鈴。ここでパチュリー様が巨大化すればロイヤルフレアだって」
「ダメですって!なんか色々とおかしいことになるからダメなんですってば咲夜さん!」
「パチュリー様!食べましょう!もう貪るように食べちゃいましょう!」
「煽らないで下さい、小悪魔さん!貴方自分の主人に対して何を求めているんですか!?」
「いやぁ、そりゃもうその後に待っている絶対面白可笑しい展開を考えると私ゾクゾクしてきちゃいまして」
「お前もう黙っていろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
・・・向こうは無視しよう。
うん、無視。
無視。
む、し・・・。
・・・出来ない!
出来ない状況になってる!
こっちは子ネズミたちが全員私と同じ姿になってしまって、訳も分からないまま頭を悩ませ、奔走し、ようやくなずりんたちの状況を受け入れてもらえるようにしたというのに、今度はおっきくなっちゃいましたとか激しく頭痛い状況なんですけど、それでもアレは無視出来ない!
「みんな、見ろ!こ、紅魔館!正確には紅魔館があったであろう今では謎の物体に飲み込まれて姿すら見えなくなってしまっているけどその姿を脳内でイメージして恐らく門があった辺りのちょっと5m位後ろの所を皆さん見て!見てください!言い争いやめて全員紅魔館に注目っ!!!」
あぁ、私もパニックで頭が正常に働いてないな。
そんな事を頭の隅で思いながら、全力で叫ぶ。
紅魔館のメンバーが我に返り、そちらへと視線を向ける。
そこには。
「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆」
「「「「お、お嬢様(レミィ)!?」」」」
デカくなっちゃてるよ。
さっき逃げ遅れて飲み込まれた館の主もデカくなっちゃってるよ。
食ったな。
アイツも食ったな!
恐らくなずりんと同じ理由で巨大化したレミリアが、館(があった)付近で暴れていた。
「・・・、・・。・・・作戦通りね」
「その長い沈黙は何なんですか咲夜さん!?絶対作戦通りじゃないですよね!?想定外ですよね!?動揺しまくりですよね!?」
「あぁ、あの大きなお嬢様の洗濯はどうやってすればいいのかしら美鈴?」
「今は洗濯の心配している場合じゃないですよ!?」
「ねぇ美鈴?この湖の畔に家を建てて一緒に住みましょ?私子供は3人がいいわ」
「正気に戻って咲夜さん!あぁもう畜生、お嬢様無事で良かったって喜んでいいのかなんなんやらぁぁぁぁぁああああああ!?」
大変だな、美鈴。
さて、それよりも。
今は予想外の戦力を得て好機を迎えている。
びっぐ・なずりんと巨大化したレミリア(便宜上『ビッグ☆ウー』と呼ぶことにする)の力を合わせれば、中心部まで行けるかもしれない。
大丈夫だぞ、なずりん。
もしこのまま巨大化したままでも私がどうにかして面倒みてやるからな。
ビッグ☆ウーの面倒はパチュリーに任した。
「正直、面倒見きれないわ」
何時の間にかビッグ☆ウーの肩に乗っていたパチュリー(と小悪魔)が私のモノローグに突っ込みをいれる。
それはともかく。
「いくぞなずりん、パチュリー、レミリア!全てを終わらせてやる!」
「NAZUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」
「これが俗に言う最終決戦ってやつね」
「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆」
「あぁ、ナズさん私は無視ですか!?」
そう。
これが最終決戦だ。
私たちで、この異変を終わらせてみせる!
◇ ◇ ◇
びっぐ・なずりんとビッグ☆ウーの力は凄まじかった。
あの圧倒的物量の物体を次々と蹴散らし、私たちは図書館があった中心部までやってきた。
だが。
「こ、これは凄いな・・・」
「流石に中心部となると、密度が違うわね」
「あ、これは図書館ダメですね♪」
コラ、もうパチュリーが落ち込むような発言はやめろ。
・・・まぁ、ダメだろうけどね。
とりあえず、目の前の大量の物体をどうにかしないとな。
ここから先は、びっぐ・なずりんとビッグ☆ウーの力は借りれない。
あの2人は私たちの所に、これ以上侵攻してこないように蹴散らしている最中だ。
中心部まで来れただけでも僥倖。
ここからは、私たちの仕事だ。
「ここら辺に、小悪魔がお湯を零した物体を入れた皿があったはずなんだが」
「無いわね。もしかして、何処かへ吹き飛ばされた?」
「そうかもな。ただ、未だに増殖を続けていることを考えると、まだ皿にはお湯が浸った状態なんだろう」
慎重に捜査をする、という訳にはいかないな。
びっぐ・なずりんとビッグ☆ウーが奮闘しているとしても、そう長くは持たない。
すぐに目標を見つけなくてはいけない。
私は、背中に背負っていたダウジングロッドを取り出す。
元とは言えば、私が見つけたものだ。
なら、私のダウジングで何処にいったのか探し出せるはずだ。
目を閉じ、神経を集中させる。
・・・難しいな。
何せ、その物体が今ではそこらじゅうに広がっているわけだ。
そこから『中心部』だけを見つけるには骨が折れる。
「・・・拙いわね。徐々にこちらにも浸食し始めたわよ」
焦りの混じったパチュリーの声が聞こえる。
だが、焦りは禁物だ。
明鏡止水。
心を落ち着かせ、探索に専念しろナズーリン。
これが私の出来る精一杯だ。
自分に出来ることを最優先にしろ。
「・・・任せた、パチュリー」
「言っておくけど、あまり長くは持たないわよ」
「私もやりますよ、パチュリー様。このベレッタM92Fが火を噴きますよ」
「せめてマシンガンあたりにしてくれないかしら?」
ハンドガンでこの物量を相手にするつもりか、小悪魔は。
どちらにしても、長くは持たない。
再び神経を集中させる。
辺りで熱気と硝煙が漂う。
やれる。
ここでやれなきゃダウザーとして名折れだ。
私には『探すこと』しかできない。
見つかれ。
見つかれ・・・!
・・・、来た。
反応アリだ。
漸く待ち望んだ反応。
だが。
「・・・ここから、20m先」
私が反応があった方にダウジングロッドを向けて、おおよその距離を言う。
「20m!?ちょっと遠いわね!」
パチュリーが息を荒げながら答える。
確かに遠い。
20mという距離が、私たちには遠い。
目の前には無数に密集した謎の物体。
これを蹴散らして目標まで届くか?
「あぁ、私たちが通ってきた道も塞がれつつあります!」
小悪魔の声に目を向ける。
塞がっていく。
浸食していく謎の物体によって、四方八方が塞がれていく。
クソッ、ここまでか!?
徐々に塞がっていく退路。
絶望が私たちを支配する。
最大の攻撃力を持つパチュリーがもう限界だ。
ここまでか。
ここまでなのか?
希望は捨てたくない。
だが、目の前に広がる現実。
最後の最後まで、その小賢しい頭をフル回転させていた。
その時。
「虹符『烈虹真拳』」
塞がれつつあった退路が無数の拳によって開かれる。
光が。
一条の光が私たちに注ぐ。
その場に降り立ったのは、2組の『虹』。
「大丈夫ですか、パチュリー様、ナズーリンさん、小悪魔さん!」
「やっほー、助けに来たよ!」
一人は、門番長『紅美鈴』。
そしてもう一人は悪魔の妹『フランドール・スカーレット』。
そういえば、フランは今までどこに行っていたのだろうか?
「寺子屋の授業が終わってね。帰ってきたら紅魔館がなくなってたし、お姉さまが大きくなってるし。なにより美鈴が困ってるから。これは力を貸さなきゃなって。あと、なんか面白そうじゃん?」
能天気に笑う館の妹様。
だが、有難い。
いまの状況でフランが来てくれたのは私たちにとっては神の救いに等しい。
いやはや、悪魔の妹に対して神の救いとはなんともっていう感じはするが。
「フラン!早速だがあちらの方にあるこの訳の分からん物体を吹き飛ばしてくれないか!?」
私の言葉に、フランはうーんと考えた後。
「ねぇ、美鈴。やっちゃっていい?」
「いいですとも。それが紅魔館のため、皆のためになります」
美鈴の言葉を聞いたフランは。
「よしっ!じゃあいくよ!」
フランの手のひらに、力が収束する。
絶対の力。
全てを破壊する圧倒的な力。
誰もが逃げられない。
だがそれは。
『破壊』ではなく、『皆を守る』ための力。
「きゅっとしてドカーン」
目の前の全てが、無塵に帰す瞬間だった。
◇ ◇ ◇
その後は簡単だった。
目視できた中心物。
それに向かって渾身の一撃を放つ。
それで、浸食は止まった。
現在では、館の復旧作業が始まっている。
実際のところ、館にそこまでの被害はなかった。
まぁ、それでもかなりの損傷はあるんだが。
なずりんと、館の主は3日ほどで元の姿に戻った。
いやぁ、よかったよかった。
ただ、その間に萃香を含め『三大怪獣大決戦』が行われ、更に非想天則まで加わり滅茶苦茶な状態になったところ、異変かと駆けつけた巫女たちも加わり想像を絶する戦いになったことは、割愛する。
「それにしても、あれはなんだったんだろうな?」
『あれ』とは、もちろん今回の元凶である。
私は本を読みながらパチュリーに問いかける。
損害は少なかったものの、図書館にもかなりのダメージがあった。
本から目を離さずに。
「さぁ?」
ただ一言だけ呟いて、図書館の主は本に視線を戻す。
その間にも小悪魔は図書館の復旧に走り回っている。
頑張れ、小悪魔。
司書なんだから、それくらいはこなせよな。
だが。
本当にあれは何だったのだろうか?
今ではその物体も、袋も何処かへ消えてしまった。
あれ、なんて書いてあったかなぁ。
そう、確か・・・。
どこからつっこみを入れればいいんだwww
やっぱ可愛いからか~?
まあ、原作じゃ一言も喋らないけどねw
ちょーちぃちぇし。
幻想入りするほど廃れてるか、あれ?
そしてレミリアにまともな台詞がないw「うー」しか言ってないww