暑い。
あっつい。
ぬぐい。
「咲夜」
「咲夜ー」
「咲夜さーん」
知る限りのあらゆる単語で表現してもしきれないほどに暑い。
だが私はパーフェクト・メイドなのだ。
たかだか30℃程度でどうにかなるほど、十六夜咲夜は軟弱ではないのだ。
「アイスティー淹れなさい」
「ヒエピタンとかいう何かを探してきて」
「水もらえませんかね?」
だから決して自分でやれなどとは、言わない。
とりあえずお嬢様の注文にはお茶菓子を添えて、パチュリー様には氷嚢を頭の上に載せて、美鈴には頭から冷水をぶっかけて応えた。
「あの……咲夜さん」
「あによ」
ずぶぬれになった門番が、前髪から水を滴らせながら見つめてきた。
「適当な容器にでも入れて持ってきた方が楽だったんじゃ」
「別にいじめじゃないわよ」
「わざわざタライなんて重いもの」
「えーそうよ。 ちょっとイライラしてたもんでウッカリしてたわよだけどそれが何か? というかなんで当然のように私を呼ぶのよ」
わざわざ門前から呼ぶとは、なんて図々しい門番なんだろう。
私はメイドであって便利屋じゃないのに。
ああ、ジリジリと照りつけてくる太陽が、憎たらしいことこの上ない。
「しかも金属製の……」
「いーじゃないぶっかけは日本の文化らしいわよ。 うどんとかうどんとかうどんとか!」
「あ、いえ、なんでもないです。 すいません」
決して色々と表現するにはまずいものではない。
断じてない。
「毎年夏は面倒くさい人ですね」
なんだかんだで少しは暑さが紛れたのか、紅い髪をかきあげながら話す美鈴の声に覇気が戻っていた。
それでも、愚痴るような調子のせいで情けない声色だったのだけれど。
面倒くさいとはなんだ。
「何よそれ」
殺気をいつもの二割上乗せして睨みつける。
今日の私への喧嘩は、二十割増しで返してやろう、などと考える私の目に、天を指す美鈴の指が映った。
「まず一つ。 多分お嬢様にお紅茶をお出ししたんでしょうけど」
美鈴の台詞をさえぎって、金切り声が聞こえた。
お嬢様の悲鳴だった。
「……」
「……ホットだったのでは?」
「……あ」
ちなみにお嬢様は、可愛いことに猫舌だったりする。
温かい飲み物はいつもフーフーしながら召し上がるお嬢様のお姿を思い出してニヤけそうになるが、美鈴の立てる指が増えたのを見て、慌てて相好を正した。
「二つ。 パチュリー様がまた無茶なことをおっしゃられたんじゃないですか?」
確かに、ヒエピタンだかサロンパスだかを探して来いと言われた覚えがある。
「氷嚢をお渡ししてきたわよ。 もちろんこっそりと」
「失礼ですが、氷の量はちゃんと確かめましたか?」
あ。
「……その様子だと、今頃パチュリー様の首は」
そういえば、適当に氷を突っ込んだ覚えがある。
……十回くらい。
「そして、三つ目が私なわけで」
三本の指が立った直後、紅魔館の時間は止まった。
私が止めた。
ついでに美鈴にもう一杯冷水をかけてやることを心に誓った。
「このように夏の咲夜さんは面倒わぷっ」
「うっさいわよ」
超重量級の氷嚢を撤去して、ホットからコールドへと紅茶を交換してから、私は能力を解除した。
もちろん、門前に戻ってきて、美鈴にもう一度ぶっかけてやるのも忘れない。
「ほら、涼しいでしょう。 うらやましいわぁ。 私はもう暑くて限界よ」
「……ええ、おかげさまで。 ところで咲夜さん」
「なにか文句ある?」
「いえ、そうでは……文句と言えば文句かもしれませんけど」
はっきりしない美鈴。
この熱気の中であんまり待たせてほしくないんだけど。
なんだか、仕事したせいか余計に日光の存在感が増した気がする。
「暑いのなら、どうしてここまで戻ってきたんですか?」
「あれ?」
「あれ、じゃないですよ」
「なんでって」
なんでって。
「なんでだっけ……」
色々どうでもよくなってきた。
暑い。
もうただひたすらに暑い。
「ちょ、咲夜さん?」
「あれ」
その時、私は迫りくる地面を見た気がした。
「本当に夏は面倒くさいお方ですね……」
「ぐぅ……」
言い返せないのが悔しい。
私は、いよいよもって暑さにやられたらしい。
本当に、どうしてわざわざ一番暑いところに戻ったのか、自分でもわからない。
「何よ、嫌ならこんなことしなくてもいいのよ」
「別に嫌じゃないですよー。 咲夜さん軽いし柔らかいし」
「やらしい。 背中に全神経を集中させてるのね」
「……どうして女性同士でそうなるんですか」
体に力を入れるのも面倒だから、背中に当てるしかないんだけど。
そう、暑さにKOされた私は、現在美鈴に背負ってもらっている。
子どもに戻ったみたいで恥ずかしいが、背に腹は変えられない。
正直、今の状態では部屋に帰るのもしんどい。
「たまには、手を抜くことも考えてください。 辛い状況の時はなおさら、手を抜いてください」
本当に子どもにでも説教するような美鈴の態度が気に食わなくて、私は唇を尖らせる。
「手を抜いたから、ああなっちゃったんじゃない。 お嬢様は軽い火傷、パチュリー様は骨折未遂」
「抜きどころがおかしいんですってば……。 むしろ、私の時は余計に手がかかってましたよ」
「じゃあ今度は川に落としてやる」
「この暑い中を川まで移動するんですか?」
「う、それはイヤ……」
「もう、面倒くさいなぁ」
そうぼやいて、笑う美鈴に、少しつられて笑ってしまった。
口で言うほど、嫌そうじゃない美鈴に救われたのも、あったのかもしれない。
でも。
「でもね」
「はい?」
美鈴の首辺りを抱きしめる腕の力を、少し強めた。
私の、気持ちの分だけ。
ただし、美鈴が苦しくない程度に。
「例えば、私が無茶したら、お嬢様もあなたも、人間だからっていうでしょ」
「言いますね」
「確かに、私は弱いわ」
「ええ、弱いですね」
敢えて、フォローしないでくれたのが、嬉しかった。
同情なんて、いらないもの。
「でも、それを理由にしたくないの」
「なるほど」
「そうなの」
湿った紅い髪に顔をうずめた。
汗臭くはなかったけれど、ちょっとだけ、いい匂いがした。
「なるほど」
美鈴は二度その台詞を繰り返した。
何か、言葉を選んでいるような具合だった。
「なるほど。 面倒くさい上に意地っ張りときましたか」
「面倒くさい?」
「うわぁ、って言いたくなりました」
「そう」
「でも」
後ろからでも、彼女が苦笑いしていたのがよくわかった。
「面倒くさいくらい可愛いですよ」
「何よそれ。 口説いてる?」
「うーん。 女性にはあんまり興味ないんですけどねー。 咲夜さんだったらいいかもしれません」
「えっち」
「人聞きが悪いですね……」
こう見えてもプラトニックだなんだと、騒ぐ美鈴のつむじに、ごめん、とだけ呟いておいた。
ただし、聞こえない程度に。
大人しくてしてて下さいよ、なんて言いながら去っていった美鈴には悪いのだけれど、そんな気分ではなれそうになかった。
「うう」
自室まで連行された私は、ベッドという名の牢獄にぶちこまれ、絶対安静を言い渡された。
主と、門番の両方に、時間差でだ。
ちなみに、時間停止に必要な懐中時計も没収されてしまっている。
それほど重病でもない人間にとって、安静ほど嫌なものはない。
こっそりと、足音を立てないように、ベッドを抜け出す、が。
「仕事……」
「そこまでよ」
「あう」
静かにドアを開けた私を待ち受けていたのは、パチュリー様だった。
My椅子と、本もセットだった。
ちなみに制止の台詞を言う間も、本から目を放すことはなかった。
「いえ、でも室内なら……」
「……締め切ってるから、意外と蒸すのよね、この館」
「それにほら、まだ熱中症というわけでもありませんから」
「予防線を張った臆病者と、張らなかった馬鹿者と、どちらが正しいのかしらね」
「……」
ダメだ。
口ではやはり勝てない。
このお方やお嬢様はともかく、美鈴や妹様にまで負けるのは釈然としないものがある。
ちなみに、目線はほとんど動かなかった。
ただ部屋に戻る気にもなれなくて、なんとなくパチュリー様がページをめくるのを観察していると、ようやくアメジストのような目がこちらを向いた。
「……なに?」
「あ、その……」
「なにもないのなら、とっととベッドに戻って安静にしてなさい」
「あの、何か本を……」
「知恵熱でも出されたらたまらないわ」
どうやら、この館の妖怪たちにとって私は子どもも同然らしい。
「……何、暇なの?」
「……はい」
呆れたような目で見られて、少し頬が赤くなる。
くそう。
今日は羞恥プレイデーなのか。
「でも残念ながら私は忙しいの。 玩具になれなくて残念だわ」
「お忙しいのでしたら、図書館に」
「そうしたら、どこかの馬鹿娘がまた抜け出すでしょ」
誰が、とは言われなかったが、誰かは明白だった。
「はい、馬鹿一号ですいません」
「夏風邪は馬鹿がひくらしいわね」
「風邪じゃないです」
意地でも部屋に戻ろうとしない私に、とうとう何かを諦めたらしい。
ため息をつきながら、魔女は本を閉じた。
「わかった。 じゃあ疲れるくらい暇をつぶさせてあげるわ」
「ありがとうございます」
わぁい。
「咲夜咲夜咲夜、お見まいにきたよ!」
「……わぁい」
はい、愛玩玩具よ、とパチュリー様が連れてきたのは妹様だった。
仮にも御友人の妹君を玩具呼ばわりはどうだろう、と思う。
思う、が。
「咲夜、大丈夫?」
妙に元気のない私を心配してか、私の額に右手を当てて、瞳を潤ませるその様は、なんというか。
「咲夜? ねえ、おーい?」
まさに愛玩吸血鬼。
「咲夜!」
「あ、はいなんでございましょう御犬様」
「私、吸血鬼なんだけど……あ、それよりお話しよう! ね、ね!」
「そ、そうですね」
確かに、この勢いについていくのは、疲れるだろう。
「むう、なんかイヤそう」
「わ、わぁい、咲夜ちゃんは妹様とお話したいです!」
「えへへ」
機嫌を損ねないようにするのなら、余計に。
「それでねー。 お姉さまがね」
「そうなんですか」
最初は私もいくらか喋っていたが、途中からほとんど妹様がお話して、私は相槌を打つだけというような状況になっていた。
正直、話すようなネタもそれほどなかったから、助かった。
「魔理沙や霊夢とまた戦いたいなー」
「そうですねえ」
「咲夜」
「なんですか?」
「暑いだけなの?」
「はい?」
質問の意味を捉えかねて、つい聞き返してしまった。
妹様の目は、どこまでも透き通っているような、綺麗な紅色だった。
「んっと、咲夜ね、さっきすっごくミケンに皺が寄っててね」
そんなにひどい顔をしていたのか気になって、眉間に手を当ててみるが、当然わかるはずもなかった。
「人間って、暑いのがそんなに辛いのかなーって」
「ああ……」
そういうことか。
純粋な妹様のことだから、なにか別の病気にでもかかったのか、心配してくれたのだろう。
そんな心配は無用だったりするのだけれど。
「暑いのも、たしかにあるのですが」
「うんうん」
「えーと……」
「?」
妹様にこんな変なことを言うのもどうだろうか、とも考えた。
だが、誤魔化すのもよくないだろうと、思い直す。
「なんというか。 構われるのが、少し……」
「んー?」
ああ、やっぱり。
妹様には少しばかり難しいかもしれない。
「妹様は、お強いですよね」
「うん! さいきょーって言うんだよー」
「お嬢様も、パチュリー様も」
「美鈴も強いよ」
「そうですね」
「咲夜も、強い、けど」
「弱いですよね」
「う、ん……? 強いのに弱いのかな」
矛盾に首をかしげる妹様の可愛らしさに、自分のおかしさもあって、笑みがこぼれた。
「咲夜?」
「すいません……えっと、ですね。 私、なんだか人形みたいだな、と思ったわけです」
「お人形?」
「はい」
弱いから、できないから。
そんな理由で大事にされる人形。
まさに愛玩玩具だ。
「お人形……お人形!」
「妹様?」
何度も人形人形と繰り返すのを見て、妙なスイッチでも押してしまったかと不安になるが、それは杞憂だったようだ。
「咲夜、クリスチーナ見なかった?」
「はい?」
妹様の、拙くも可愛らしい説明を要約すると、こうだ。
『クリスチーナ』とは以前、お嬢様よりもらった大事な、それはもう大事な大事な人形らしい。
人形の背部に名前が刻まれてあり、その刻まれた名が『クリス』。
商品名なのかどうかはわからないが、妹様の『クリス』ということで、ご自分で『クリスチーナ』と名付け、可愛がっていた。
ところが、そのクリスチーナ、数日前から行方不明。
今日も探していたところを、パチュリー様に呼ばれて、私のところに向かう途中で、頭の中から消えてしまっていたんだとか。
「咲夜、見つけたら教えてね」
堂々とベッドを抜け出せる、立派な理由を逃す手はなく、もとい!
そんな可愛らしい少女のお願いを聞けない理由もなく、私は妹様をあの手この手で『クリス』捜索に向かわせて、監視がいなくなった隙に。
「脱出!」
脱獄に成功したのだった。
多少は蒸すとはいえ、室内の温度は、外のそれに比べれば遥かにマシだ。
そんな中を、誰かと出会わないよう、慎重に進んでいく。
「さて、一応クリスチーナとやらを探しておこうかしら」
抜け出すダシとはいえ、妹様の大事な物なら、探さないわけにはいかない。
「……見つかった時に、言い訳もしやすいしね」
などと本音を呟きながら、どこから探すべきか、考えてみる。
かなりの広さを誇るこの紅魔館を、たった一体の人形のために隈なく捜索して回るのは、骨が折れるだろう。
ならば、少しでも見つかる確率が高そうな場所から探すのがセオリーというものだ。
「……あ」
よく考えてみれば、それは無理な話だった。
クリスチーナがいそうな場所、それイコール、妹様がよく行く場所、さらにイコール誰かがいる場所だ。
図書館、お嬢様の部屋、門。
そのどれもが脱獄犯である私にとっては、そのどれもが看守の見張り小屋に等しい。
「仕方ない、か」
色々と決意を固めながら、手近なドアノブに手をかけた。
とりあえず三十くらいの部屋を探しまわったら、大人しく、こっそりと仕事に戻ることにしよう。
うん、そうしよう。
引きちぎらんばかりの勢いでドアノブを一気に回して、ぶちやぶらんばかりのパワーでドアをぶち開けた。
「絶対に、ベッドには戻らない!」
「え?」
その部屋の真ん中には、先客が立っていた。
「早速見つかった!」
一部屋目にしてまさかのチェックメイトをかけられた私は、自身の不運を嘆いた。
私を見つけたお手柄者は、きょとんとしていた。
「見つかった……」
「ん?」
何かが、おかしい。
よく見れば、お手柄者は紅魔館では見ない顔だった。
いわゆるロリータ系ファッションに身を包んだ、可愛らしい少女。
明らかに、妖精メイドではなかった。
「まさか……不法侵入」
「?」
「……いえ」
やっぱやめた。
下手に動けば追われてるはずの身の私が、不届き者に仕置きするわけにはいかないだろう。
「あの……」
「ああ、いいわよ。 今回だけは特別に見逃してあげるわ」
「あ、ありがとう?」
「どういたしまして?」
妙な会話だった。
噛み合っているのか、合っていないのか。
ああ、私が合わせてないだけか。
「アンタ、不法侵入者?」
「ふほう……? なにそれ」
「なんでもないわ」
「?」
あまり頭はよろしくなさそうだ。
まあいい、この際だ。
「アンタにも共犯者になってもらうわ」
「?」
「暇つぶしの相手をしなさい」
「えと?」
「いいから、しなさい」
「う、うん」
夕方までなら、ここにいても大丈夫だろう。
仕事をしたいのもやまやまだが、お嬢様たちに見つかるのは勘弁したくもある。
だったら、ここで大人しく暇をつぶしていたほうが賢明だろう。
「お姉さんも追われてるの?」
「ええ、そうよ。 私は何も悪くないのに」
「ひどい」
「ええ、ひどいわ」
「……」
「……」
ダメだ、この子相手だと会話が長続きしない。
妹様なら話題が尽きないのだけれど。
「ふむ」
「?」
少女を見つめていると、見つめ返してきた。
彼女の瞳が妙に濁っているのが気になった。
そして、それが片方だけであることも。
「随分、立派な眼帯ね」
少女の右目は、薔薇の紋が入った眼帯で覆われていた。
「あんまり好きじゃない……」
「そうなの?」
「重いし、すぐズレるし」
「そっか」
「うん」
「……」
「……」
やはり、会話が長続きしない。
でも、不思議と嫌な沈黙ではなかった。
原因は、見知らぬ彼女にあるんだろうか。
「ふうん」
「お姉さん?」
「あなた、可愛いわね」
「う……」
確かに、この少女は可愛いが。
「でも、髪の毛ボサボサじゃない。 リボンも縛り方が雑」
「えう」
「怒ってるわけじゃないから、おびえなくてもいいわよ」
よくパチュリー様や美鈴が私にしてくれたように、少女の頭を軽く撫でた。
「ほら、ちょっとジッとしてなさいな」
「うん」
メイド服の中に常備してある、櫛を取り出して、少女の艶やかなブロンドの髪を軽く整える。
「あら、癖っ毛なのね」
「すぐ曲がるから嫌」
「曲がる?」
「うん」
妙な表現だとは思いつつも、羨ましかったりもする。
色々な髪型にできるから、便利なのに。
「ほら、こうすれば……もっと可愛くなった」
「おお」
リボンや、服のちょっとしたズレを直してあげれば、見違えるようになった。
「うん、可愛い」
「可愛い?」
「ええ」
「むう」
何か、不満そうに唇をとがらせている。
しかし、この少女にはやはり何かしらの魅力があるようだ。
頬を膨らませているのを見ていると、ムラムラしてくる。
「あーもう、本当に可愛い」
「!?」
抱きついてみた。
「むぅ」
嫌がられた。
「おお……」
嫌がられるほどに、こちらは燃える。
構うのも、いいかもしれない。
皆も、こういう気持ちだったんだろうか。
「可愛いって言われるの嫌」
「どうして?」
「だって、クリスは」
「ん、クリス?」
まさか。
「クリスチーナ?」
「違う。 クリスは」
夕方になって、私は厨房で仕事をしているところを、とうとう現行犯逮捕されてしまった。
「その歳でワーカーホリック? 笑えない冗談ね」
「咲夜!」
お嬢様に連行されていると、後ろから妹様もやってきた。
アレからずっとクリスを探していたのだろうか。
「全く、あんまり無茶しないでほしいわ」
「すいません。 あまりにも暇だったので」
「お姉さま、今度は縛り付けておこう?」
「そうしようかしらね」
もしかして私、意外とピンチ?
まあ、クリスチーナを見てて、なんとなく危なっかしい奴を見てる人の気持ちはわかったし。
少しは大人しくしているつもりなのだけれども。
それはそうと。
「妹様」
「なに、咲夜」
「これをどうぞ」
ずっと手提げ袋に入れておいて子を、妹様に手渡した。
「あ、クリスチーナ!」
白いヒラヒラの衣装を着た、金髪のお姫様。
それが妹様の探し物の、クリスチーナだったわけだが。
わけだが。
「咲夜、何を変な顔してるのよ」
「あの、いえお嬢様、妹様」
「なに?」
「なぁに?」
「その子の本当の名前」
クリストファって言うんだそうです。
クリストファが可愛かったw
何という俺。
あと、ペテロが英語発音でピーターだったと知ったときのショックは忘れない。