Coolier - 新生・東方創想話

星空の下で

2010/09/22 23:13:37
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「ここでいいかな……」

彼女はパソコン画面を見ながらそう呟いた。
パソコンの画面には、綺麗な海辺の写真が映っている。

「海は久しぶりだし、なにより……」

そう呟いた彼女――宇佐見蓮子は、パソコンで旅行地に相応しい場所を探していた。
旅行会社のプランにのった旅行だとつまらないし、なんといっても高い。
それに旅行と言っても、どこかに泊まったりするつもりではない。

「うん。これなら安く済みそうね」

蓮子は、楽しそうな笑みを浮かべながらそう呟いた
安く、楽しくを目指し、自分達の計画を立てる。
相棒である、メリーを喜ばせるために。

「よし。これで決まり。
メリーに、メールでも送りましょうか」

そう言うと、近くにあった携帯を拾い上げ、大学近くのカフェで会いましょう、
という旨のメールを送り、彼女は、カフェに出かける準備を始めた。





「やっと終わったぁ……」

大学の研究室から疲れが多分に含まれた声が聞こえる。
研究室の中には、疲れ果て、机に突っ伏している人がいた。

彼女はマエリベリー・ハーン、蓮子にはメリーと呼ばれている。

メリーは、自分の論文を完成させるために、教授を尋ね、手直ししてもらっていた。

(面倒くさすぎる……)

メリーは、心の中で呟く。
どうやら論文が完成したらしい。彼女は切っていた携帯の電源を入れつつ、ぐったりとしていた。

「我が相棒は何をしているのやら……」

メリーは、秘封倶楽部の相方である蓮子に対して、妬ましそうに呟いた。

(どうせ、楽しそうに人生を謳歌しているんだろうなぁ……)

相方が妬ましい、とメリーが思っていると、携帯が鳴り始めた。
送信主は、宇佐見蓮子。

(何故こんなにタイミングがいいのかしら……)

そう思いつつ、メリーは、届いたメールを読んだ。

『15時に大学近くのカフェに集合』

メールには、そんな感じのことが書いてある。

(蓮子はいつも突然ね……)

メリーはそう思った。
事実、秘封倶楽部を立ち上げた時も、蓮台野に行った時も、いつも突然だった。

(論文も終わったし、ちょうどいいか)

メリーはそう思いつつ、了承の旨を書いたメールを返し、学校近くのカフェへ向かって歩き始めた。





「こんな感じでいいかな……」

自分の計画を確認しながら、私は言った。
ここは、1人暮しの私の家だ。
当然、答える人はいない。
もしいれば、警察を呼ぶなり、答えた人に鉄拳をたたき込むなり、
自分の身を守るための何らかの手を打たなければならないだろう。
もちろん、そんなことにはならない。
戸締まりはちゃんとやってる……、ハズ……。

気付くと、約束の時間が近づいている。

「さて。戸締まりの確認をして、カフェに向かいますか」

私はそういって、鼻歌を歌いながら戸締まりの確認を始める。
すべての窓を見終え、出掛ける準備をする。

「うん。大丈夫」

私はそう言って、お気に入りの帽子を被って、カフェに向けて出発した。





「もうすぐ15時ね……」

私はため息をついた。
相変わらず、蓮子は来ていない。

今日も遅れるんだろうな……。
私は、注文したクッキーを食べながら、そう思った。

私は、クッキーと一緒に注文したアイスティーを飲む。

「おいしい……」

夏、ここに来るといつも飲んでいるこのアイスティーは、いつものようにおいしかった。

しかし、急に呼び出して、一体なんの用なのだろうか……。
さっきからずっと考えているが思いつかない。

サークル活動のことだろうか?
それとも、単なる暇つぶし?
それとも……。
さっきから考え続けているが、一向に分かりそうにない。

物思いに耽っていると、背後から話掛けられた。

「何考えてるの? メリー」

蓮子の声だ。
時計を見ると、長針が、1のところを過ぎたあたりだった。
何かを考えていたからだろうか。
思いの外、時間は早く進んでいた。

「今日は何の用なのかな、って思っていただけよ。
それより、5分の遅刻よ、蓮子」

いつものように、この台詞を言う。
もう何度目だろうか。
既に慣れてしまっている。
蓮子は遅れてもせいぜい10分が最長。
待たされる側としては、悠々とティータイムを楽しめるぐらいの時間だからいいのだが。

「正確には、5分14秒よ」

蓮子はいつものように返してきた。

「遅刻しないで欲しいのだけど」

悠々とティータイムを楽しめるが、やはり遅刻はやめてほしい。
楽しんではいても、待たされているのだから。
待っている間は、早く蓮子に会いたいと思っているのだから……。

「まぁまぁ、いいじゃないの」

良いわけない。
まぁ、そんなことを言っても、蓮子の遅刻癖は治らないのだから、私はこれ以上は言わない。

「それで? 用件はなんなの?」

遅刻を咎めるのを止め、呼び出した理由を聞く。

「日帰り旅行に行きましょう、メリー」

「日帰り旅行?」

蓮子の突然の提案に、私はとても驚いた。





メリーの傍にあるコップから、カコンという音がする。
氷が入っているようだ。
そのコップを取って中の紅茶を飲んだ。

「冷たくておいし~」

「勝手に飲まないでほしいのだけど」

「気にしない、気にしない」

メリーは諦めたような顔をしている。
やっぱり、メリーと一緒にいると楽しい。

「日帰り旅行ってどういうこと?」

メリーが尋ねてくる。

「そのまんまの意味よ、メリー」

「意味が分からないから聞いているのだけど」

「一緒に海に行きましょう」

「もう9月なのよ」

「9月だからこそよ」

「9月だから? どういうことなの?」

「行けばわかるわ」

メリーはよく分からないといった顔をしている。
もちろん、分かりにくく説明しているからだが。
驚かせなければ意味がない。
だからこそ、強引にでも連れて行かなければ……。

「出発は明日の昼過ぎかな。
どお? 一緒に行こ、メリー」

「まぁ、暇だからいいけど。
でも、何で昼過ぎなの? 旅行なら、朝早くから行くものじゃないの?」

「今の世の中、常識に囚われちゃいけないのよ」

「なにそれ?」

「今作った」

メリーはため息をついた。
私は、2人でいると楽しいな~、と思う。
ずっと、こんな「時」が続けばいのに……。

やっぱり、私にとって、メリーは特別な存在なのだろうか……。
いや、それは当たり前だ。
私と同じ、異端の力を持ち、この力を認めてくれる。
でも、それだけじゃない……。
なんだろう、この気持ちは……。
メリーにしか抱かないこの気持ちは……。

「んじゃ、明日の午後2時に、駅で待ち合わせね」

私は、この悩みを考えるのを止めて、明日の待ち合わせ時間を告げる。
明日が、とても楽しみだ。
メリーと一緒に旅行に行くことも、私のひそかな計画のことも。

「持っていくものは?」

「日帰りだから、お金とか飲み物くらいでいいわよ」

「わかったわ」

このやりとりの後、雑談やら自分がやっている研究内容やらを話し合っていると、
いつのまにか、5時近くになっていた。
夕食や明日の準備があるので、私たちは、それぞれの家路に着いた。





「……まだ来ない」

私は呟いた。
時間は2時を少し過ぎたところだ。
相変わらず、蓮子は遅刻だ。
こういうときくらい、遅刻しないで欲しいのだが。
電車は大丈夫なのだろうか……。

「遅れてごめ~ん」

「その遅刻癖、こういうときくらい、なんとかしてもらいたいのだけれど」

そう言いながら、私は歩き始める。

「ごめん、ごめん。準備に手間取っちゃって」

横に並んで、蓮子は言う。
改札口が見えてきた。

改札口を通りながら、重要なことを蓮子に尋ねる。

「電車は大丈夫なの?」

「大丈夫よ。まだ時間があるから」

どうやら、ヒロシゲに乗るようだ。
何処へ行くのだろう?
2人一緒だから大丈夫だとは思うが……。

「じゃあ、行きましょうか」

「ええ」

私は、蓮子の後に付いて電車に乗り込んだ。





「結局、何処へ行くのかしら?」

「秘密よ、秘密。ミステリーツアーみたいなものよ。
私は行き先を知ってるから、ちょっと違うけど」

メリーの問いに、曖昧に答える。
びっくりさせなきゃ意味がない。
「行って損はさせないからさ」

私は、メリーにそう言った。
メリーなら、きっと、喜んでくれるハズ……。
絶対に、損にはさせない……。

現在、2時57分46秒……。
乗り換えする駅まであと25分ちょっと……。
そこから2時間くらいかな……。
たぶん、ちょうどいい時間に着くだろう。
というより、そうでないと困る。
しばらくの間、メリーとの雑談に耽る。
気付けば、窓の形をしたスクリーンには、富士山が映っていた。
乗り換えする駅までもう少しだ……。

「いつもと変わらない映像ね」

メリーは言う。
確かに、数年前から変わることのない映像だ。
富士山付近を通過するときは、富士山の映像が映る。
毎回変わることはない。

ヒロシゲは、東海道五十三次にあわせ、53種類の映像が、1分毎に映るようになっている。
まぁ、数年前よりかはマシだ。
数年前は、映像すらなかったし。

「普通の電車だって、風景は毎回変わらないわよ」

私はこう答える。
大体、返ってくる答えはわかっているが。

「天然の風景じゃない、こんな映像とは違って」

うん、ほとんど合ってた。
まぁ、私もほとんど同意見だし。

「それに、この映像は動かないじゃない。
動いているものに乗り、過ぎ去っていく風景を見るのがいいんじゃないかしら」

「メリーらしいわね」

気付いたら、富士山の映像じゃなくなっていた。
乗り換えまで、もう少しだ。

「メリー、終点で乗り換えるわよ」

ヒロシゲは、終点に近づいたのか、速度を落とし始めたようだった。




「何処へ行けばいいの?」

私は蓮子に尋ねた。

「こっちよ、こっち」

私は蓮子について行く。
どうやら、地方私鉄に乗るらしい。

「時間とか大丈夫なの?
 ヒロシゲは10分に1本くらいあるけど、私鉄はそんなにないでしょ」

私はさっきと同じようなことを聞く。

「大丈夫よ、いくらでもあるから」

「鈍行?」

「そうよ。たまには、ゆっくりと行くのもいいでしょ」

確かに、たまには、ゆっくりと2人旅って言うのもいいな、と思う。
秘封倶楽部の活動では、いつも活動的であわただしいから。

また、私は蓮子の後について電車に乗る。
何処に行くのか、検討もつかない。
損はさせないと言っているから、変なところではないだろう。
結構、期待はしている。

電車はゆっくり動きだす。
ヒロシゲとは違い、レトロな感じだ。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。
いつもは聞くことのないリズム感のある音。
とても、心地いい……。

電車の中には、ほとんど人がいない。
私たちだけで、貸し切っているみたい……。

2人で雑談をしていると、電車は、畑の中を進んでいく。

田舎で、静かないい所だ……。
ここに住みたいとは思わないけど……。
たまには、来てもいいかな、って思う。

いつのまにか、電車は山の中。
ゆっくりと曲がりくねっているところを進んでいく。
上って下って、気付けばまわりは山だらけ。

何処へ行くつもりなのだろう。
なおさらわからない。
ここは、何処なんだろう……。

「メリー、メリー!! 見て、海よ」

蓮子の声につられて外を眺める。
すると、そこには綺麗に輝く海が広がっていた。





目的の駅に着いた。
時間は17時23分49秒。
ギリギリだ。
タイムリミットが、刻々と近づいてくる。
もう少し早く着くと思っていたのだけど……。

「メリー、こっちよ」

電車を降り、メリーの手を取って駆け出す。
早く行かなければ……。
タイムリミットまであと少ししかない……。

私は急いで目的の場所へ進む。
木々の間に入っていく。
メリーは私の後についてきている。
あともうちょっと……。

私たちは、木々の間を駆けて行く。
どんどん、タイムリミットが近づく。
間に合って……。

私の思いに答えるように、突然、視界が開ける。
目の前に、海岸が、海が広がる。
間に合った……。
綺麗に輝く、緋色の夕暮れ空。
空を紅く染める、太陽の輝き……。
私の求めていた、メリーのためのもの……。

「これが、私からの、メリーへのプレゼントよ」

私からの、大切な気持ち……。
受け取って欲しい、大切な風景……。
喜んで、欲しいな……。





美しい、夕焼け空。
蓮子からの、私への、プレゼント……。

「……」

声が出ない……。
涙が出そう……。
感謝しきれない、想いを伝えきれないくらいに……、うれしい……。

この力のせいで、友達なんて、1人もいなかった。
初めてできた、たった1人の親友が、私の為だけに、こんな素敵なものを用意してくれた……。
それだけで、涙が零れてしまいそうだった……。

「あ、ありがとう。蓮子……」

「喜んで、もらえた?」

「もちろんよ、蓮子」

本当に、ありがとう、蓮子……。
辺りが陰り始めていた。
海辺の夕方は……、怖い……。
辺りに灯りは無く、波の音だけが耳に響く……。
蓮子がいなければ、自分を保っていられないかもしれない……。

「ねぇ、メリー。ちょっとここで待ってて」

「えっ!? ちょっと待って!!」

突然、蓮子がそう言うと、どこかへ行ってしまった。
何故かわからないけど、蓮子が遠くに行ってしまいそうに思えた……。

辺りがどんどん、暗くなっていく。
暗くなるにつれ、恐怖が心を支配していく。
孤独が、私の心を侵食していく。
怖い……、こわい……。

「蓮子、れんこぉ……」

暗闇の恐怖で、涙が溢れだしてくる。
怖い、怖いよぉ~……。
どうすればいいのか、わからなくなっていった。
ただ、親友の名を呼ぶことしか出来なかった……。

「こわいよぉ……、れんこぉ~……」

「め、メリー!? どうしたの?」

「……れ、れんこぉ~、こわかったよぉ~」

どんどん、目から涙が溢れていく。
蓮子は背中から、私を抱いてくれる。
蓮子の温もりが、私の心を満たしてくれる……。

「蓮子が……、私から、離れて行っちゃいそうで……」

「大丈夫よ。私は、メリーとずっと、一緒にいるわ」

この言葉が、私を安心させる。

「私は、メリーのことが、大好きだもの……」

この言葉が、私の心の中に染み渡っていく。

「わ、私も……、れ、蓮子のこと……、大好きよ……」

私は、蓮子に、精一杯の気持ちを伝えた……。
ちゃんと、伝わったかな……。
私の、気持ち……。

月が、遅れて昇ってくる。
今宵は、十六夜月だ。
不完全な月の光は、私たちを薄暗く照らす。

「ずっと、一緒にいようね、蓮子」

「もちろんよ、メリー」

だって……。

「「2人で1つの、秘封倶楽部ですもの」」

私たちの言葉は重なる。
まるで、自分たちの絆を示すかのように。

私は、大切な親友と、ともに生きていけることを、夜空に輝く星と、十六夜月に願う。
ふと横を見ると、蓮子は、私に向けて、幼く、やわらかい笑みを浮かべてくれた……。





十六夜月は高く昇る。
海辺には、肩を寄せ合う2人。

「そろそろ帰ろ、メリー」

「帰りましょう、蓮子」

2人で手を繋ぎながら、帰路につく。
不完全な十六夜月は、彼女たちをやさしく照らしていた……。
ど~も、朔盈です。
2作品目のこの作品、楽しんで頂けたでしょうか?
ぶっちゃけ、前のやつより悪くなってるような気がするんですが……。
そして、改行を多用するより、地の文を増やした方がいい、って言われたのに
結局、改行を多用して、かつ、地の文、減ってしまいました。
ごめんなさい……。

ヒロシゲの設定が微妙に違ったりしていますが、
その辺はあまり突っ込まないでください。
2人の話し方とかも、ちょっと違うような気が……。
気にしちゃダメだ。

では、ここまで読んで頂いてありがとうございました。
楽しんで頂けたのなら幸いです。
朔盈
http://fluck2011.web.fc2.com/index.html
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コメント



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短めで楽しかったです
10.90もぐら削除
素直で優しい、素敵な作品だったと思います。やはり秘封ssはハッピーエンドの方が良いのかもしれませんね。
ただ、少し気になる点が2つ。
・昼間にも関わらず、蓮子が正確に時間を把握している理由
・「ねぇ、メリー。ちょっとここで待ってて」と言って立ち去った蓮子は何をしようとしていたのか
何かの伏線かな、とも思ったのですが…無粋なこと言ってごめんなさいね。
イラストも拝見しました。ssと同じく、優しい印象を受けました。

これからも頑張ってください。
11.70koo削除
秘封ものでこんな優しい印象の作品はあまり見かけないので、かえって新鮮でした。
蓮子の想いを夕陽で表してみたりするあたり、ニクいなぁとw

少しテンポ悪く感じたのがもったいなかったなぁ、と思います。
13.80名無しな程度の能力削除
良かったです

あぁ、綺麗な夕日を見に行きたいものだ…