―1―
『同級生を何度も刺し殺害 少年を逮捕』
三面記事は、仰々しい文体と見出しの後に、端的に書き進められていた。
少年Aは同学友の少年Bにナイフで刺されたんだそうだ。メッタ刺し。
それも最近新設された学び舎の校庭のど真ん中で。
普段の私ならば、こんな記事に大した興味は無い。
何百年と見飽きた、人間の死だ。
しかし少年A達は、私の友人、上白沢慧音の教え子だった。
それだけで、足まで伸びた銀髪に、リボンを結ぶ意義がある。
―2―
校門の前は青いビニールが覆っていた。
即席にしては壁って印象が強くて、3メートルぐらいは高さもあるだろう。
私は真っ赤なズボンに白いシャツという身なりで、色味でいえば相当浮いた存在に違いない。
ビニールよりも色濃い紺の服を来た連中がウロウロしている。
警官ってやつだ。政府なんてものはないから、この辺一帯の自警団だろう。
人間の新聞記者やらリポーターやらも垣間見えるが、空を飛べる妖怪達がカメラをかまえている。
そいつらを防ぐ術はないと諦めているのか、上空を守る手段は何も用意していなかった。
人間に対してのメンツ保ち程度のバリケードという訳だ。
巫女やら魔法使いやらの姿は見えない。異変という認識はなさそう。
そりゃそうよね、人間の死だもの。
慧音が開いた歴史学校。
小学生から大学生まで、私学の場として敷地内に収めようと慧音は動きはじめていた。
それは慧音なりの文化発展のさせ方であり、ライフワークで、希望だった。
初めは人も集まらないし、入学させる親という存在もいなかったようだが、近年の新しい勢力介入が大きく人々の暮らしに嗜みができた。
ただただ生活の為だけでない人生の楽しみ方を、幻想郷の人間も妖怪も見出し始めている。
学校というものが生活や学習の場として改めて幻想郷で注目される、というのは裏を返せば外の世界ではとっくに廃れているんだろう。
それでも慧音は作り上げていた。自分のやるべき勤めだと、力を注いだんだ。
だから、絶望が一番大きい赤の他人は慧音のハズ。
自分の過失などと考えていても不思議じゃない。
私はグッとしゃがみこみ、地面をふみしめ、跳躍する。
急上昇して青い壁を飛び越え、ゴシップ集めに必死な烏天狗に手を振りながら落下した。
着地。足が少し痺れる。こういう痛覚は忘れたくない。
如何にもなイカツイあんちゃんに、
「おいおい何してんだお嬢ちゃん!?」
とか言われるが無視して校庭を一歩一歩進んでいく。
校庭、と言われて想像出来るような景色は、紺色の群れがウロウロする異様な空間となっていた。
私はそれらの記号を目に留めず、中心地に向かう。
何人かに止められそうになったが、前進に躊躇がなければ、自然と道を開いてしまうものだ。
真っ直ぐに突き進むと、すぐに事件現場にたどり着いた。
地面の色を赤黒く染めている。
既に固まってしまった液体と、人の形をした白い線。
私にとっては無限に発生する血だけれど、少年にはもう作れない。
周囲の紺を着たオッサン達よりは、私の赤いズボンの方が近い色をしている、と何故か思った。
ふと顔をあげなおすと、そのオッサン集団に完全に取り囲まれていた。
ズボンのポケットに手を突っ込んだら、警戒の目が余計に強くなる。
その様が滑稽でおかしい。そんなに私って、怪しいのかな?
次に私は、
「ここで教師やってる上白沢慧音教諭の友人だよ。あいつ、どこにいる?」
と、当たり前のように言ってやった。
―3―
テーブルまみれの職員室で、慧音は椅子にしょんぼり座っていた。
大人びた顔立ちは、喪に服すように俯いて、ドアを開けた私にも気が付かなかった。
授業に使うのであろうプリントの山はどの机の上にもおいてあって、ファイルやホッチキスといった文房具から、教員達の好みが垣間見える。
慧音の机の上は、分厚い本が積み上げてあるのが印象的だ。
付箋などは見当たらないしカラフルな女性らしい小物も全く無い。
恐らく、本の内容を全部覚えているんだろう。一冊一冊が辞書程度の厚みだというのに。
ペン立ての中も、黒と赤の万年筆のみが入っている。
ただし、机の上のプリントは歴史のテキストではなく、少年Bの履歴や素行を書き記したものになっていた。
警官から職務質問をされたんだろうな。
プリントの内容がわかるぐらい近づいても、慧音は興味をしめしてくれない。ずっと私の靴の辺りを凝視している。
認識はしてないんだろう。
こんなに人に興味がない彼女を、長い付き合いになるが初めて見た。
慧音は私に気がつくと、あっ! と素っ頓狂な声をあげて大きく息をすった。
「妹紅!」
立ち上がった慧音の頭が私の顎に直撃する。
見事なまでの頭突きじゃないか。
第二の殺人事件は職員室で起こる!
天井を見っぱなしの私に、慧音はごめんごめんと何度か謝った。
「私ね、不老不死だけどさ、痛覚あるんだよね」
「本当に失念していました。ダイジョウブ?」
「あー、これ普通だったら骨折れてるな」
「えぇ!?」
「戯言だよ。もう痛くない」
笑いながらジンジンする痛みをごまかしていると、慧音は椅子に座るよう促してくれた。
片膝を立たせながら椅子に座ると、この席の持ち主はSLが好きらしく、生徒名簿のファイルスタンドのそばに、黒いボディの小さな機関者模型が机の上に並んでいた。
鉄道の歴史を語る教師なんているのか? と、目の前の上白沢慧音先生に生徒みたいに質問する。
少し笑いながら、彼女はこの鉄道オタクの教員の話をしてくれた。
でも、その笑いは何時もの彼女と違うのが良くわかる。
疲れている人間の半笑い、よくよくみると目のしたにうっすらクマが見えるうえに腫れぼったく、声も枯れている。
一通りSL先生の話が終わる。途切れた後の沈黙は、長い。
それでも、
「今日は、事件について聞きにきたのでしょう?」
と切り出したのは慧音だった。
彼女は大体の事件の様子をはなしてくれた。
二人の少年というのが、小学5年生だったこと。
凶器が図画工作室の工芸用ナイフで、同様のものが何本もあること。
少年達にいじめや問題となるような行動、虐待などのストレスも確認されなかったこと。
竹林付近での課外授業の後に、少年Bがナイフを隠し持ってきて近づくとイキナリ少年Aを刺したこと。
心臓を刺されAが即死した後も、少年Bは機械的に何度も何度も何度も何度も何度も少年Aに傷口を増やし続けていたこと。
でも、私が一番知りたい『こと』は彼らの行動じゃなくて、貴方のことなんだよ上白沢慧音。
「慧音もその現場、近くで見ていたのか?」
「私は、この窓から子供たちが遊んでいるのを眺めているのが好きでした」
窓の方に歩き出した慧音。日は真上にあるのか、私の視点からでは彼女は黒いシルエットになる。
真っ黒な影、そのもののような。
「良く見ていたわ。血の吹き出し方から、倒れ方、ワンテンポ遅れた周囲の悲鳴、返り血を浴びた顔の赤さ……」
「もういいよ。わかった」
「私の能力は知っていますね?」
「歴史を操る程度のってやつでしょ」
「そう。でも、私の目の前で起きた殺人事件の歴史は、なかったことに出来なかった」
「あった事件は事件って事か……何でも出来そうだけれど、隠したり後世への伝達の仕方による湾曲程度しか出来ないって不便だよね」
「私、薬を作る力とか持っていれば良かったのかな」
阿呆な事を慧音はやっぱり考えていた。
窓の方を向いたまま、黒いシルエットは言葉を続ける。
「私は見ているだけだった。生徒一人ひとりをちゃんと把握し、親身になっているつもりだった」
「つもりじゃないさ、慧音の学校の生徒は危ない所に迷い込んだりしたって聞いたことないよ。ちゃんとこの世界のルールまで教えてる証拠だ」
「じゃあ、何故あの子は刺した? 何故刺された? 私の中では、突然なんだ、全部。わからないの、そんな肝心な事が」
慧音はすっかり少年達の事を自分の子供のように錯覚してしまっている。
彼らは他人のガキなのに、母親ではないのに。
隠れ家住まいで不老不死の私を理解してくれる視点も、その母性なのか。
私は曲げ乗せていた右足で椅子を押し飛ばして立ち上がると、ゆっくりと慧音に近づいた。
窓に反射した彼女の目は赤く、水のつたう様子がわかる。
泣くなって。
「泣いて何になるんだよ」
私はストレートに言う事にした。慧音の手が冷たい窓を触る。
窓を開けたいんじゃない、閉めておきたいんだろう。
私は、カーテンを閉ざさせるつもりはない。
「慧音は全知全能じゃない。気に病む事はないんだ。防げない事だってある」
「でも、私は彼らの……」
「教師だから事前に防ぐ必要があった、なんてまさかそんな事思ってないよね?」
「思ってちゃいけないか」
「思いすぎが良くないって、言いたいのさ」
後ろから抱きしめた。
右手を、窓に添えた冷たい手を握って逃れようとする握りこぶしを、間からじっとりと開く。
左手はあまりにもふくよかな左胸に当てる。鼓動が早い。慧音の心臓は血を一生懸命に出しているんだ。
死んだ子供達の事を思って、速度をあげているんだ。
頬と頬をくっつける。心音はこんなに大きいのに、頬は保冷パックみたいに硬くなっている。
窓越しにうっすらと目と目があったけれど、慧音は涙を押し出すように瞳を閉じた。
「少し休みな。働きすぎだ」
「私は……私は!」
「もう、うるさいよ」
けーねの首筋を吸うようにしてキスする。
彼女は震えて、言葉の続きが出ない。
自分を責めるだけの発言なんて私の唇はさせやしない。
それでも泣き叫ぼうとするから、右手を頬にあてて私の方に無理やりむける。
口と口がふれる。舌が舌に触れる。
驚きながらも求めるように、慧音は体の硬直を解いた。
その味はミントよりも淡く涼しい。
―4―
流石に殺人現場にドカドカはいって、担当教諭にキスをぶちかますだけでは、相当無責任だろう。
少しぐらい探偵の真似事をしてやるべきだ、と考えた。
私の胸で泣きじゃくる慧音に、
「きっと、答えは見つかるよ」
と言ってやり、留置所に向かった。
少年Bと面会して、そのままの足で永遠亭の診察所に来ていた。
薬品の臭いが充満している室内に、八意永琳は実に良く白衣が似合っている。
竹林の奥地にあり外見から内装まで日本家屋の永遠亭だが、診察室だけは洋風だ。
点滴をつなぐ台に病人用のベッド、薬品や良くわからない器具がグレーのデスク上に整理整頓されている。
風邪を引いたって事にしてやってきたので、口に温度計を咥えさせられた。
消毒液の味がほんのりして苦い。
目の前の永琳は、呆れた顔をしながら一応カルテを書いている。
温度計をひっこぬいた。
それ医者がやる事か? ってぐらいに強引に引っ張るから少し前のめりになる。
永琳は温度を確認すると、万年筆にインクをつけて、サッと数字を書く。
そして、尖った筆先が私の首に刺さる。
「貴方、病気でもなんでもないでしょう? こっちは暇じゃないのよ」
幾ら死なないのがわかってるからって、いきなり首狙いで投げてくるとは、おっそろしいもんだ。
首に刺さった万年筆を引き抜くと、赤インクがついた見たいに鮮やか。
万年筆をデスクにほおって、ポケットからSL模型を取り出す。
学校に行った時にいくつか、くすねてきたもののひとつだ。
理由は自分でもわからない。何となく気に入ったからだ。
早めに帰しに行かないと、SL先生に怒られるかもな。
「これ、何だか知ってるか?」
「そんなのを見せに来たって訳じゃないでしょう」
「急ぐなよ。これ知ってるよな。石炭で動くんだ。蒸気機関だなんて、モノクロみたいだよね」
デスクの上で人差し指を使って、機関車を走らせる。
車輪の部分がしっかり連動して動く。よく出来ているな。
きこきこ、とチャチな音が診察室に似つかわしくない。
「銀河鉄道がどうとかって話あったけどさ、月にも機関車とかきてたのか?」
永琳は黙っている。無視か。
私の方を見たままボンドで固まったみたいで、息をしてないんじゃないかと思うほどだ。
機関車は延々と私の指の範囲を行き来する。
そろそろ、本題を切り出さないと、次はメスが飛んできそうだ。
「あのさ、今日の新聞みたかな」
「大体目を通しているわよ、それなりに警戒心はあるから」
「ガキがガキ殺したって胸糞悪い事件、知ってるか?」
「ええ」
模型を指で弾いた。
途中まで勢い良く走っていたけれど、バランスを崩して倒れてしまう。
万年筆から垂れて出来た血の池に、先頭車両が濡れる。
「ガキを動かしたの、あんただろ?」
永琳は顔の表情を変えない。
部屋の空気もまるっきり変化がなく、静けさが不気味で体感よりも寒い。
こんな面見てても仕方がないので、私は勝手にしゃべる。
「竹林に行った後、事件は起こっているんだ。課外授業でガキ達はここを見に来ていた。あんた、ガキ共にあっただろ」
「その通り、会ったわよ」
拍子抜けするぐらいにアッサリ認めた。
潔いじゃないか。
「何をした?」
「社会見学の一環よ。診療時間が始まる前に来てもらったの。ドクターとしてどんな仕事があるかの簡単な説明よ」
「それ以外は」
「何をするっていうの」
「薬を飲ませたんじゃないのか」
それでも無表情で、まるで暖簾を押すようにスルリと抜けるようだ。
おかしい。
私はもしかして、見当違いだったのか?
それでも、私は言葉を続けた。
「ここに来た事以外、全てが日常なんだよ。ガキどもにとって唯一、普段と違うのがここに来た事だ」
「それで、私が薬を使って子供同士で殺させたと?」
「とぼけないでくれよな? どう考えたって、原因になりそうなのがお前だけなんだよ。実験台にアンタなら子供一人ぐらい使いそうだ」
「随分と、極悪非道に見られたものね」
そりゃそうだ。
私を不老不死にした薬だって、お前が作ったものじゃないか。
ぶん殴りたくて仕方が無いのを堪えて、にらみ付ける。
永琳は、初めて反応した。
笑み。
「そんなことを言うために、ここに来たのね。思った以上に馬鹿馬鹿しいわ」
「……」
「言いがかりすぎるし、証拠も何もないけれど、確かに私が薬をもった可能性は一番高そうよね」
「可能性じゃない、真実だろ。調べりゃ証拠も出てくるだろうさ」
「真実が貴方に、わかるの?」
私が口を開く前続けて、
「貴方に、この幻想郷で真実を見つけることなんて、出来るのかしら」
「何がいいたい」
「ところで貴方、事件を起こした犯人の子に、会いに行っているわよね?」
「ああ」
「なんて言ってたかしら?」
私は答えられなかった。
答えがなかったから、何も言えない。
黙っていると、消毒液の臭いが鼻の奥を刺激する。
「言えるわけないわよね。犯行を起こした子供、焼死したのだから」
冷たい笑い。温度のない、唇だけの笑いに私は見つめられている。
こいつはどこまで知っているんだ。
少年Bは私の前で燃えた。
何も言わず、虚ろな目で、何かに操られでもしているようで生きている息吹を感じなかった。
そして、突然に燃え広がってあっという間に黒焦げになって炭くずになってしまった。
面会していた私も容疑者として尋問されたけれど、証拠不十分という事ですぐに解放されていたんだ。
「なんで知っている……」
「夕刊よ。既に何処でも掲載されているから帰ったら見てみなさい。妖怪の伝達力は侮れないわね」
「それだって、お前がやったんだろ!」
「でも、貴方にも出来るわ」
「私がやる理由がないだろ」
「誰にだって同じよ。私の薬学でも、貴方の使う術式でも、他の妖怪達でも、彼らに殺人を行わせたり、火あぶりにする事が出来る。でも、する理由はない」
反論できない。
私がここにきたのは、訳を知るため。
もっといえば、理由を知るためだった。
一番可能性がある、この女の人体実験という、自分が作った仮説を信じてきた。
ガキのあまりに虚空な様に、蓬莱の薬を飲んだ当初の私自身を思い出した私の直感だった。
心のどこかで、もしかすると犯人のガキを焼いたのは私がやったことではないかと思いながら。
あの考えなしの黒い目を見たから、衝動で燃やしたのではないかと、自問しながら。
「過去の事をこの幻想郷で解決するのは、ほぼ不可能なのよ。幻想郷が全てを受け入れているのが残酷だ、とはあのスキマ妖怪の言葉だけれど的を得ているわね」
言いながら永琳は血塗れた万年筆を手に取ると、ガーゼで拭いた。
こすれた音が耳に痛い。
「誰にもわからない。もう、この事件の真相は迷宮の奥底で眠っている。それも、砂利に混じりながら」
「砂利じゃない、人間だ」
「貴方にもうひとつだけ質問してあげるわ。その少年ABのフルネーム、知ってるの?」
「それは……」
「そんな無名の子らの為にあくせくやってるなんて、その方が理解に苦しむわね」
「納得出来ないんだよ、お前みたいに私は冷徹じゃない!」
「迷宮は砂漠で出来ているのよ。暇なら永遠に探してなさい」
続けて、医師らしい余裕のある顔をしながら、
「頭痛薬、出しておきますから。お大事に」
カルテを閉じた。
―5―
事件から1週間が経った。
私は少年らの葬式だとか告別式やらには出席しなかった。
担任教師とは知り合いだけれど、子供達とは面識がなさすぎるし、何処の誰ともしれぬ銀髪の女が出ていっても怪しいだけだろう。
慧音とは、一度だけ会って謝った。
私には答えを見つけることは出来なかった、という無様をキレ悪く伝えると普段の調子で微笑んで
「動いてくれた歴史だけで、嬉しいですから」
と、前のお返しのように私を抱いた。
情けない話だが、救われたような気分になって、全く本末転倒だった。
暖房もつけずに冷たい自室で肩膝を立てて、眠りながらボンヤリとこの1週間を思い出す。
どうしたってスッキリしない。
自警団も犯人が死んだって事で、捜査も既に打ち切っているそうだ。
子供達の家族はどんな気持ちなんだろう。被害者の親も、加害者の親も、周囲の親も。
けれど、考えたって頭の中でモヤモヤするばかり。結論なんて出ることはないんだ。
私なりにケジメをつけよう。
立ち上がり、水を一杯飲んで、たたんでおいたズボンに足を通し、玄関のドアを開く。
そこには、黒い髪の少女が優美に立っていた。
「ごきげよう、久々に殺しあいましょ」
―6―
夜の校庭は生き物のいる気配がしない。
私と蓬莱山輝夜は、事件のあった場所まで徒歩でやってきた。
律儀に、歩いた。
先程玄関先までやってきた輝夜に殺しあう気分じゃない、と告げると絶世の美人として男をたぶらかしまくった顔を、にんまりさせて
「それじゃ、散歩ね。暇なんだから付き合いなさいよ」
と指を刺し、私の後をついてきたのだ。
人同士が殺しあえば、それだけで事件だってのに、この姫様は道楽で殺しあう。
普段なら私もノリに乗って、竹林ワンブロックを脱臭炭にしてしまう訳だから、日々の生活を考える必要があるかなぁ、なんて余計に思いつめる。
道すがらも冬空らしい寒さだったけれども、この校庭は更に冷えて、冷凍庫みたいなものだ。
外に開けた巨大な極寒。日中の暖かみは忘れ去られたよう。
月も今日は照っていないから、殆ど光がない。
輝夜は何処から出してきたのか、カイロとみかんを手に取り、私の方を見て羨ましいでしょーなんて暢気な事を言う。
竹の中で発行したり出てきたりしてただけの事はあるな。
この薄ら寒い空気感に無頓着でらっしゃる。
輝夜のホッカイロ自慢を無視して、ポケットから工芸用ナイフを取り出す。
先日職員室から持ち出したもののひとつだ。
ちなみに、機関車の模型は血塗れてしまったのを洗って返しておいた。
校庭についていたはずの赤黒い染みも、すっかり何処だかわからなくなっていた。
人を象った白い線も消えている。何もなかったかのように。
もう学校を覆う青いビニールもない。授業だってとっくに再開して、子供達は平日に舞い戻っているんだ。
私は取り出したナイフを、事件があった辺りの地面に突き立てる。
少し斜めになったけれど、安定していて倒れそうにない。
ゆっくりと周囲に円陣を描いて、気をおくると蝋燭のように火種がつく。
供養の送り火だ。
地べたに座ると輝夜がみかんを食べながら、肩が触れそうなぐらいの距離でしゃがみこんで
「なんだかキャンプファイヤーみたいだわ」
と、これまたマイムマイムを踊りそうなぐらい軽快に言ってのける。
一緒に燃やしてやりたいところだけれど、これはあくまで少年達への炎なのだから、こいつには分けてやらない。
ピンク色の袖に頬をのっけ、みかんの皮を炎に投げ込みため息をつく。
「あんたさ、永琳に事件の犯人だ! なんて言いに来たわよね。あの日すっごい機嫌悪かったんだから」
「そうかい。もっと散々に言ってやりゃ良かったね」
「うん、あんなのてゐが薬棚ひっくり返しちゃった時以来かも。楽しかったわ、また喧嘩ふっかけなさい」
「二度とごめんだよ」
赤々として炎は大きくなっていく。
暗い校庭をけたたましい彩りに変える。
中心源にあるナイフは、まず持ち手の部分から消失した。
木で出来ていたんだろう、あっという間にボロボロと崩れていった。
刃が液体に戻るために少しずつ、ふやけるように融けてきた。
ただ燃えているだけの明かりにすぎない。それがどうしてこうも、哀しく見えるんだろうな。
「なぁ、お前さ、この事件のガキ共の名前、知ってる?」
「新聞にも載ってないでしょ、そんなの。知るわけないじゃない」
「鈴木と佐藤って苗字なんだよ。ありふれてるだろ」
「苗字だけじゃないでしょ、ありふれてるの」
輝夜の瞳にも、ナイフの銀色と炎の朱色が反射している。
けれども、私とは違って乾いていて、何もしみこんじゃいないようだった。
私は何故か口元が笑っていて、そうだよな、と返事をした。
すると、輝夜はこっちを向きなおして、私の瞳を覗き込むように顔を近づけてきた。
視界がさえぎられて炎が見えなくなる。
目をとおして、私は私を見ている。
目の中の銀色は、ナイフではなく、長い髪。
人間の死を見飽きた、私の銀色だ。
みかんの匂いがなかったら、自問自答しているように錯覚していたかもしれない。
今まで生きてきた中で、一番の疑問だとでも言いたげに呟いた。
「妹紅、どうして貴方、わざわざこんな事をしているの」
……
「訳なんて、いらない」
銀色の液体は、血の色より紅色に燃え盛り、一瞬で消えた。
―END―
結局、何を伝えたかったのかサッパリ分かりませんでした
・汚い言葉・猥褻な表現等のコメントを付ける事
・管理運営に抵触する内容、及び感想になっていない罵詈雑言
って実は規約違反なんですよね。
がいすとさんの意見は建設的ですので参考にしています。
ですが、最近ちょっと目に余るコメントをする人がいるのが残念でなりません。
それはそうと、妹紅はこの手の理不尽をたくさん見てきたと思うんですよ。
それでも慣れないものには慣れず、苛立つ姿に妹紅の人間性を感じました。
きっとこれは明確な決着がついてはいけない話なんでしょう。この部分には満点をあげたい。
しかしこれは二次創作としては出来損ないです。キャラクターのイキが悪い。だからこの点数で。
どうにもあなたには作者が作品を投稿するだけで終わってしまい、読者の気持ちを一切考えていない風に感じます。
あなたがこの名ばかりの東方二次創作にどんな意見を込めたのかはいまいち理解しかねますが、それを読者が見てどう思うのか。
それをもう少し考えた方がいいと思います。
一度自分を見直してみてはいかがでしょうか
慧音→教師Aでよかったんじゃないですか?
もやもやしたものの残る話ではありますが、これはこれでいいんじゃないかしら。世の中の全部のことに理由を見つけようとすると訳が分からなくなる。結局どこかしらで見切りをつけないと息苦しくなるものです。
ただ反発が大きかったのは、舞台設定がきっちりしてる分、それを収集しきれてない感じがするからでしょうか。確かに「訳なんていらない」という最後の妹紅の台詞は好きですが、それを実感を持って読者に伝えようとすると途方もない努力が必要になる気がします。
それと、やっぱり「幻想郷」というものがおざなりになってしまっている感。
青いビニール、紺の制服に身を包んだ警官、ファイル、ホチキス、SLの模型……どれもが現代的すぎて、幻想郷っぽくなく、特段幻想郷という特殊な世界観に配慮してるようには感じない。もう少し、東方という世界観を意識した方がいいのかな、と思います。そうでないと「過去の事をこの幻想郷で解決するのは、ほぼ不可能なのよ。幻想郷が全てを受け入れているのが残酷だ、とはあのスキマ妖怪の言葉だけれど的を得ているわね」のような台詞はなかなか生きてこないのではないでしょうか。