お嬢様観察記録
お嬢様の様子にこの所、気に掛かる点がある。
お嬢様は何かを考えてぼうっとしている事が多く、脈絡の無い単語をブツブツと呟いているのを良く見る。
クイーン、ストーカー、針の山、ミッドナイト、冥界、呪い、カタストロフィ、ダビデ、不夜城、デビル、ボンバー、全世界、マイスタ、等々だ。
何の事なのかと尋ねてみても、秘密よ、と一切教えてくれない。
かと思えばお嬢様は昼間なのに長時間出かけたりもする。
その際にお供を申し出ても、咲夜は付いてこないで、と素っ気なく断られる。
昼間に一人で何かしているのだと思う。でも普段なら私が仕事をしていようが休んでいようが、お供をするように言われるのに。
私に何か至らない点があったのか、嫌われてしまったのか、などなど考え出すと、不安になってしまい切りがない。
パチュリー様に相談に行ってみたら、レミィのやることにいちいち気使ってたら早死にするっていつも言ってるじゃない、大丈夫だからほっときなさい、どうしても不安なら、これ読んでみたらどう、まあ半分冗談だけどね。と何冊か参考になりそうな本を貸してくれた。
児童教育関連の本だった。その中の一冊に大変気になる記述があった。
子供がいつもと違う行動をしていたら、それは何かの信号です。子供は不器用なのです、自分の思っていることを大人に上手く伝えることが出来ない事も多いのです。なので大人は子供が発信する信号を見逃さないようにして、汲み取ってあげましょう。子供を非行から守るのは大人の義務です。非行に走った子供は様々な問題行動を起こします。悪友とたむろす、喫煙、シンナー、薬物乱用、万引き、恐喝、喧嘩、傷害、家庭内暴力。どれも子供の未来に重大な障害を残すだけではなく、家庭崩壊にも繋がります。今の時代ほど大人の子供に対しての責任ある行動が求められる時代も無いでしょう。
つまりは私がお嬢様の信号を理解しなくては、お嬢様が非行になってしまうという事だ。
最悪だ。
非行化した少年少女の話ならば、図書館の漫画で読んだことがある。
酷い物だった。
非行少女はずるずるスカートを履いたりしていた。
きっとお嬢様も非行化したらみっともないずるずるスカートを引きずるに違いないし、それとか館中の窓ガラスを割ったり、ドアに黒板消しを仕掛けて置いたり、メイド妖精たちの着替えを覗いたり、スカートめくりをしたり、居眠り美鈴にいけない悪戯したり、ボンタン狩りしたり、何が因果かマッポの手先になって金属ヨーヨーを振り回したり、おら糞ばばあ金寄こせよレミリア様がゲーセン行くっつてんだこの野郎と私に怒鳴ったり、でも幻想郷にゲーセンはないから、どこか他の所へいくのだろうけど、たぶんそこで大勢のとっぽい妖怪とがんの付け合い飛ばし合いをした挙げ句大乱闘になったりして、ピンチになったときに親友が助けに来るものの、二人ともぼこぼこにされてしまい、河原に寝そべって、助けに来いなんて言ったおぼえはないぜパチェ、へへへ、とか夕日に向かって笑うのだけろうけど、そんな体力的にハードな生活になったら間違いなく死んでしまう、パチュリー様が。
放っておいて大丈夫なんてものではない。
喫煙や万引きや恐喝くらいならまだしも、お嬢様や私たちが生活する場である紅魔館の平穏な日々が崩壊してしまうのは、お嬢様自身のためにも、私たちのためにも、なんとしてでも避けなければならない。
何より私はお嬢様には今のお嬢様で居て欲しい。
だというのに、今のところ私はお嬢様の信号を何も理解していないのだ。
これではいけない、私はお嬢様の理解者であるべきだ。そうありたい。
もう一度相談しに図書館へ行った。どうすればお嬢様をもっと理解できるようになるだろうとパチュリー様に相談しにだ。
パチュリー様はいい加減読書の邪魔をされて不機嫌そうだった。心底めんどくさそうな顔をしていた。
今の状況でそんな面倒くさそうにしてたら、いつか夕日の河原で息絶えることになる、と警告しようと思ったが、良いことを教えてくれたので止めた。
確かにお互いに近すぎるとかえって相手が見えにくくなる物事もあるわね、時には相手を含めて自分自身をも客観的に見直すことが、自分と他者の関係をより正確に理解しうる切っ掛けにもなる、なんならレミィの観察記録でも付けてみたらどうかしら、九割冗談だけど。
面倒臭そうな上に、だるそうな顔で言われたが、パチュリー様がだるそうな顔をしているのはいつものことだし、九割は冗談らしいが私は藁にも縋りたいところだった。
お嬢様を中心とした記録を付けていけば、お嬢様をもっと理解できるかも知れない。
試せることは試してみるべきだ。
私はお嬢様をもっとよく理解しなくてはならない。
7月27日
今日は雨だったせいか、お嬢様は久しぶりに日没まで寝ていた。
やはり吸血鬼は夜まで寝ていると体調が良さそうで、顔色も優れて白く、羽の艶も申し分なかった。心なしか髪の癖も素直になっていて、セットするのが楽だった。
気分もいいみたいで、寝起きからとても上機嫌の様子、着替えをお手伝いしている間、いつもの三倍くらいからかわれて遊ばれてしまった。
どうしてお嬢様は着替える途中でかくれんぼをするのが好きなのだろうか。はしたないから止めてくださいと言ってもなかなか直らない。
夕食の時にお嬢様は、夢の中で良いことを思いついた、明日は昼間に一緒に出かけようなどとも、明るい顔で言ってくれていた。
昨日までのお嬢様は何をしているときも、物憂げで難しげな顔をしていたので、今日の様子は私としても安心した気分になっていたのだが。
夕飯が終わった後に、お嬢様の部屋の隙間から赤いモヤが廊下に出ていた。
火事か何かの煙かと思い、慌てて中を見てみたら、お嬢様が手からモヤを出して遊んでいた。
部屋がモヤで赤く汚れてしまっていた。酷い悪戯だ。
止めてくださいと私は言ったけれど、お嬢様は嫌だと言って聞いてくれず、紅い霧で幻想郷を覆って太陽を隠す、そうすれば昼間でも煩わしい日傘無しで外で動けるでしょう、などと無茶苦茶な事を言いだした。
つまり私は盛大にからかわれてるらしかった。
お嬢様が昼間に何をしているのか、と、私が心配しているのをお嬢様は知っている。
きっとその上で無茶苦茶をやってみせて、私の反応を楽しもうという事なのだろう。
明日は昼間に一緒に遊びに行こう、などと私を安心させておいて、喜ばせておいてだ。
頭に来てしまった。一番茶化されたくない部分を馬鹿にされた気分だった。
叱ってモヤを出させるのを止めさせた。
きつく叱りすぎたかなとは思うけど、私にだって感情はある。
やはり今のお嬢様はどこかおかしい。
今まであんな風な方法で私を怒らせるような事をしたことはなかった。
お嬢様はいったい何を考えているのだろう。
私はどうすればいいのだろう。
借りてきた本には書いてある。
子供が許されるべきではない行動をしていた場合は、曖昧に許したり放っておかずに、けじめを付けてキチンと叱るのが、非行を防ぐためには重要です。
感情的になった結果にだが、私はその通りにしてみた事になるけど、もう咲夜はどこにも連れていってやらない、などと拗ねられてしまった。
なんだか悲しくて挫折してしまいそうだ。
でも私がお嬢様を理解しなくてはならない。挫けるわけにはいかない。
明日からもがんばらないと。
カーテンが赤く染まってしまっていて、洗うのが大変だった。
7月28日
また美鈴が門番中に居眠りをしていた。
美鈴の居眠りはお嬢様の様子がおかしいのと関係なく、日常の出来事ではあるが一応、お嬢様を取り巻く環境のサンプルとして書いておくことにする。
平和な幻想郷での門番の必要性を考えると、確かに寝てしまっていても真剣には咎められない。
せいぜい外からやってくる脅威があるとすれば、無鉄砲な野良妖精がメイド長の座を狙って私に勝負を挑んでくるくらいだから、警備上は何ら問題は無いのだが。
しかし大人ならば大人らしく、お嬢様に模範を示してもらわなければならない。
今の時代ほど大人の責任ある行動が求められる時代は無いのだ。
仕事中に居眠りしているなど自己中心的な行動を野放しにしていては、お嬢様に悪い影響を与えかねない。
なので美鈴には罰として、居眠りしている間に、こっそり眉墨で眉毛を片一方だけ二倍くらい太くしておいた。
美鈴は夕飯の時にお嬢様とパチュリー様に笑われて、やっと眉毛の異常に気づいていた。
自らの顔の間抜けさに居眠りを反省するだろうと思ったのだが、美鈴は鏡を見て二人と共に自分自身の顔を笑っていた。
私も一緒に笑いたかったが、示しが付かないのでぐっと我慢した。
あの太さではさっぱり懲りてなかったようだ。次は眉毛の太さを三倍に増したほうがいいだろう。
今日のお嬢様は昼間から起き出し、どこかへ一人で出かけていっていた。
私がお供を申し出ても断られるどころか無視された。
食事の片づけが終わった後で、また赤いモヤがお嬢様の部屋から出ていた。
またやってるのかと思ったら、やっぱりまたやっていた。
昨日私がきつく叱った事への当てつけのつもりだったのだろう。
だから私は本気で怒った。お嬢様は半べそをかいて霧を出すのを止めてくれた。
怒鳴ったのは大人げなかったかとは思うが、お嬢様が相手だからこそ、して貰いたくない事柄がある。
どうしてお嬢様はそれをあえてするのだろう。
どうして今そうなってしまったのだろう。
確かにお嬢様は元から酷く我が儘ではあった。
幻想郷に移り住んできてからというものの、さらに我が儘さに磨きがかかった気もする。
何がお嬢様の我が儘さを助長したのか。
原因の一つは間違いなく、この幻想郷という世界のあり方によるものだろう。
紅魔館が幻想郷に転送されて来たときには既に、お嬢様は他の妖怪たちから畏れ敬われており、幻想郷の賢者と言われる妖怪との間に吸血鬼条約という妙な条約による契約が成されていた。
幻想郷に住む人間に危害を加えてはいけないが、糧である血液は幻想郷を代表して賢者から無償で提供される、という。
お嬢様にとっては一方的に有利な条約だが、どのようにしてそんな契約が成立しえたのかの過程については、賢者の使者に尋ねてもはぐらかすばかりで、お嬢様に訊いてもどうしても語りたがらなかったので、私も他の妖怪から聞き出したりするのを含めて、一切の詮索をするのを止めてしまった。
確かであろう事は、私たちが幻想郷にやってくる前の数日間の間、お嬢様が一人でこの世界に居た時に、何かがあった上で条約が成立したものではないか、と言うことだけだが。
いずれにせよ、外の世界では単なる伝説でしかなかった夜の支配者が、幻想郷では現実に存在する畏敬の偶像となり得ているのだから、幼心を増長させるには十分な要因なのだろう。
7月29日
パチュリー様にお嬢様の悪戯の事についての相談をしに図書館へ行った。
図書館はいつ行っても暗くてほこりっぽいから苦手だ。
蔵書が多いのは結構だが、あの広さはどうにかならないものか。いつものようにパチュリー様の使い魔に道案内を頼んだが、結局本人を見つけるまで十分近く図書館を探し回ってしまった。
使い魔なら主人から魔力を供給されているのだし、主人の位置くらいはわかりそうな物だが、かなり大ざっぱにしかわからないものらしい。
吸血鬼の子供に赤いモヤを出す悪戯を止めさせる方法、をパチュリー様に尋ねてみたが、消極的にも積極的にもこれといった方法は知らないそうだ。
何度も言うけどレミィのやる事にいちいち本気で気を揉んでたら、ストレス溜まって長生きできないわよ、などと諦め調子に言われてしまった。
お嬢様が非行に走ったら、私がストレスで死ぬ前に、夕日の河原で犠牲になるのはパチュリー様だと言おうと思ったが、変に怖がらせるのも良くないと思い止めた。考えてみれば河原に助けにゆくのは私だっていいのだ。むしろ私が率先してお嬢様を助けに行くべきだろう。
それにしたってパチュリー様は無関心すぎる気はする。
だいたい、パチュリー様は幻想郷に移住してきた事についてすら、殆ど無関心だった。
本さえ読んでいられれば、後の事はどうでも良いのではないか、とも思えてしまう。
実際に移住してからのここ五年ほどの間、外の世界に居たときと生活が少しも変わっていない。一日中本を読んでいるだけだ。
ただ。一つだけ言えるかも知れないことがある。とパチュリー様は言っていた。
レミィが太陽を隠すと言ってるのは、本人は自覚してるかどうかわからないけど、悪戯とかじゃなくて本気かもね、妖怪でも人間でも、自らが置かれた状況に思うところがあれば、どのような形であるにせよ、どのような結末に至るにせよ、自らの世界においての存在意義を確認したくなる物かも知れない、と。
ならばパチュリー様がひたすらに本を読み続けるのも、そのためだったりもするのか、と聞いてみようと思ったが、早くカビ臭い図書館から出たくなって止めた。
世界に対する存在意義、と言われると、確かに幻想郷に来る前のお嬢様にも私にも、無い物だったかもしれない。
もちろん、私が仕える前の、もっと大昔、外の世界でも吸血鬼が実際の脅威であった時代ならどうかは知らないけれど。
私が初めてお嬢様に出会った時には、吸血鬼などと言うものに、どこにも居場所は無く、世の中にとって、ただのおとぎ話に出てくる怪物に過ぎず、私もおとぎ話にしか出てこないはずの怪物を撃ち破る者に過ぎなかった。
外の世界では、私たちは、とてもとてもシンプルな存在だったはずだ。
世界中の誰も実在を信じず、実在を知らず、実在の者として知らしめることもない。
お嬢様も私も、ただのそういう存在だった。
初めて対峙した時に、私はとても似ていると思った。
言い知れない親近感を感じたのを良く憶えている。
でも今のお嬢様の幻想郷での存在意義、などと言いだしたら、既に吸血鬼という存在そのものが象徴的な地位を得ているわけなのだ。
その上でさらに夜の支配者らしくあるために地上から光りを奪い、自ら夜の世界を作り出して、力を誇示するとでもいうのだろうか。
しかし、その先のお嬢様にあるものはなんだろう。
増長を際限無く繰り返した後、力の誇示も度を超し、他者の利害を侵すような事があれば、得ていた畏敬の念の大きさの分だけ、他者の心は敵対心がとって代わってしまう事になる。
戦争が始まるだろう。
いくらお嬢様と言えども、幻想郷全ての妖怪を敵に回して勝ち目があるとも限らないが、増長しきった夜の支配者が敵と認識する者に対して引き下がる事は、絶対に無いと断言出来る。
そんな事態を恐れてなのか妖怪の賢者がついこの間も、流血を伴わない紛争解決手段を謳ったスペルカードルールなどという条約を、使者を遣わし触れ回ってきた。
お嬢様を始めとして私たちも契約を結んだものの、賢者は吸血鬼が契約を絶対に破らないという迷信を信じていたのかも知れない。
甘いとしか言いようがない。
いざとなればお嬢様はそんなものを微塵も気に掛けずに、あらゆる手段と絶対的な実力をもって敵を排除しようとするだろう。
吸血鬼にとって敵に対するルールなど、自らの心持ち以外にはあり得ない。
幻想郷そのものがお嬢様の敵になった時に待っているのは、あらゆる秩序や形式を排した全面戦争以外にあり得ないということだ。
その戦争が一年後に起こりえる事か、十年後の事か、百年後の事か、千年後の事かはわからないが。
そうなったときに、誰がお嬢様の勝利を、生命や平穏な生活を100%保障できるのか。
誰にも出来やしない。
もし未来永劫100%、お嬢様により良い未来を保証できる方法があるとしたら、それは悪い未来に踏み込まない方法を私が手を引いて教え、いずれは私が手を引かずとも、お嬢様一人でも道を踏み外す事がけしてないように、今現在を導いて歩き方を教えて差し上げる事だけだ。
ならばそう、もしお嬢様が力の誇示のために今回のような悪戯をするというのであれば、私への悪ふざけだけで済む事ではない、さらに厳しい態度で接するしかないだろう。
お嬢様は今日も昼から出かけていた。どこで何をしているかはわからない。
夕飯には帰ってきたものの、一度も私と目を合わさず、眉毛が三倍太くなった美鈴を見てパチュリー様や美鈴と一緒に楽しそうに笑っていた。
私は笑わなかった。
夜中にお嬢様がモヤを出していた。
部屋の中ではなくテラスでだったから、物が汚れたりはしなかったけれども、紅い霧で地上を覆うという事がどういう事なのか、お嬢様にはもっと考えて欲しい。
洗濯物を外に干せなくなるだけではなく、ベッドのマットレスや毛布も干せなくなる、庭の花壇も荒れるだろう、掃除のために換気しようと窓を開けただけで、館中が赤く汚れてしまうに違いない。
パチュリー様に言われたことも気になっていたので、どうしてそんな悪戯を何度もするのかと、改めてお嬢様に聞きただしてみたが。
お嬢様は意地になっているらしく、太陽を遮ることで日傘無しで昼間に出歩きたいからだとしか答えなかった。
霧を出す根本の動機が力を誇示したいという欲求に駆られた自覚しての、または無自覚な行動なのか、私への当てつけによるものなのか、わからなかったが。
罰としてお尻を十五回ほど叩いた。
私の事を悪魔の犬などと言う輩が居るらしいけれど、私が膝の上にお嬢様を腹這いにさせて尻を叩く姿を見たら、そういった彼らはどう思うだろう。
確かに私は小さな吸血鬼に一度は敗北した。
結果として家政婦として仕えている。
そしてその小さな吸血鬼のお尻をたまにバシバシと叩いたりしている。
きっと彼らの目には奇妙に映るに違いない。
犬のくせに主人のする事に口出しし、あまつさえ叱責したり、体罰を加えたりするのかと。
私たちを単に絶大な力を持った妖怪とその従僕としてしか見ない多くの他人たちならば、その見解はきっと正しいのだろうが、私にとってお嬢様は単に絶大な力を持った主人なのではない。
もっともっと大切な相手だ。
他人にはそれがわからないだけだ。
7月30日
朝起きたら紅かった。
窓の外が紅い霧だった。
びっくりした。
びっくりしたので、メイドたちの一致団結を図るために、朝一番に妖精メイドを集めて人間ピラミッドを作らせて、私は一番上に乗った。
私はメイド長だ。私がしっかりしなくてはいけない。
どうやら、お嬢様は私が寝た後で、こっそりモヤを出し続けていたらしい。
問いただそうとしたけれど、お嬢様は館の中には居なかった。
お嬢様を捜しに方々を飛んで回ってみたが、紅魔館を中心にかなり広い範囲が霧で覆われていて人間の里にまで及んでいた。
少し飛んだだけでエプロンが紅く染まってしまった。
体にもあまり良くないようで、煙草の煙のように、肺の中に溜まって息苦しさを感じた。
そのせいか里では出歩いている人間が一人もおらず、外で働いている者も居なかった。
霧を吸い込んで気分が悪くなった人も多いそうだ。
もしこの霧がしばらく続くようであれば、人間の生活が破壊されるのは避けられないだろう。
里から仕入れていた日用品が手に入らなくなるかも知れない。
今の内に買いだめを考えた方が良い。
結局、お嬢様はどこを探しても見つからなかった。
仕方なく館に戻った。他にもやらなければならない仕事が山ほどあった。
お嬢様以外で妹様のお世話が出来るのは、時間を操れる私だけなのだ。
お嬢様もお腹を空かせば館に帰ってくるだろうと思ったけれど、夕飯になっても帰ってこなかった。
昨日はお尻を叩き過ぎたかも知れない。五回くらいにしておけば良かった。
今からまた探しに行こう。
もしかしたら霧のせいで、他の妖怪とのトラブルに巻き込まれているかも知れない。
もっと最悪な場合は、実は既にお嬢様は非行化してて、今頃がんの付け合いや飛ばし合いをしているかも知れない。河原で大乱闘をしていたらどうしよう。そうでなくても里の商店の前とかで日傘をさしながら悪い仲間と不良座りくらいはしてるのではないだろうか。もし見つけたら、はしたない座り方はお止め下さいと言って止めさせればいいのだろうか、それとも椅子を持っていって差しあげるべきだろうか。夜の支配者なら商店の前にたむろすにしても立派な椅子に座るべきだ。
心配だ。心配で仕方がない。
何より今回のお嬢様の行動は、人間に危害を加えない、という吸血鬼に対する条約に抵触する可能性があるのだ。
例えお嬢様が非行化していなくても、他の妖怪たちから制裁を招く可能性も考えなくてはならない。
とても心配だ。
もっとも、お嬢様が霧を出したのは自分だと自ら触れ回ったりするような事をしなければ、他の妖怪には知れはしないだろうが。
ともかくも早いところお嬢様を見つけなければならない。
けれど、もし紅魔館総出で幻想郷中を探し回れば、他の妖怪などに怪しまれてしまう。
お嬢様が霧を出した張本人だと、他の妖怪に知られるわけにはいかない。
私が一人で秘密裏に動いた方がいい。私がお嬢様を守るしかない。
8月7日
情けないが、たかが一週間ほど寝ずに飛び回っていただけなのに、倒れてしまった。
前庭で意識を失っていたらしく、美鈴が私をベッドまで運んでくれていた。
お嬢様を見つけることは出来なかったものの、ようやく無事であることが判明したので、一週間ぶりに記録をつける余裕も出来た。
誰にもお嬢様を捜していることを伝えずにいたのが間違いだった。
せめてパチュリー様と美鈴にだけでも、私がお嬢様を捜していることを一言でも言っておけば、一週間も家事をおざなりにする事もなかったのに。
自分の至らなさが悔やまれる。
美鈴の話によると、お嬢様は一週間、普段通りに紅魔館で生活していたそうだ。ずるずるスカートもまだ履いていないらしく、金属ヨーヨーもまだ持っていない普段通りのお嬢様だそうだ。
それはとりあえず良かったのだが。
私とて一週間ずっと外に居たわけではなく、毎日妹様のお世話やその他の仕事をこなし、何時間かおきにお嬢様の部屋も確認していたのに、一度も紅魔館でお嬢様を見なかった。
広い館とはいえ、普通ならばあり得ないことだけど、それを実現する方法はすぐに思いついた。
どうやら私はお尻を叩いた時から、お嬢様を見つけられないように、お嬢様から運命を操られてしまっていたらしい。
それ以外に考えられない。
私はそこまで差し出がましかったのだろうか。
そんなにお嬢様には疎ましかったのだろうか。
どん底まで嫌われてしまったのだろうか。
違う。何を今更だ。
差し出がましくて結構。疎ましくて結構だ。嫌われるのだって覚悟の上。
いや、あまり覚悟はしてなかったけれど、仕方ないと思う。
お嬢様をより良い未来に導くためだったのだ。
などと言うのも、もう言い訳にもならないのだろう。
現に私はお嬢様と会話することすらかない状況まで来てしまった。
どんどん悪い方向へ向かって行ってる気がする。
より良い未来に導いて差し上げるなど、言うだけ虚しく思えてくる。
本当に私にそんな事が出来るのだろうかと。
自分の至らなさが本当に悔やまれて悔やまれて悔やまれて仕方がない。
美鈴には私がお嬢様を探していたことや、倒れた事は言わないようにと念を押した。
私の間抜けさのせいで、お嬢様に余計な心配をかける必要はない。
他の妖怪からの襲撃を警戒するように、とだけ伝えてくれるよう頼んだ。
それと、出来ればもう霧を出したりせずに、霧が晴れるまでの間は目立つ行動を控え、もしどうしても、たむろしたくなった時にはちゃんと椅子に座るようにと。
すると美鈴は、大げさだなあ、などと笑った。そろそろお嬢様と仲直りしたらどうなの、とも言ってきた。
美鈴が仲介役になって、運命を操る能力を解除してもらうように頼んでくれるという。
しかしそんな事をすれば、余計にお嬢様を増長させてしまう事にならないか。
もうこれ以上過ちを重ねてはいけないのだ。
今回は私が軽々しく頭を下げて良い問題ではないのだと、美鈴はわかっていないようなので色々と説明したら、肩を竦められてしまった。お嬢様もあなたも二人してどっちも天然不器用なんだから、と。
ならばせめて夕日の河原で大乱闘になった時には、パチュリー様の変わりに美鈴がお嬢様を助けに行ってくれ、と頼んでみたが、美鈴は大笑いして、任せとけと頷くだけだった。
8月8日
お嬢様観察記録のはずなのに、お嬢様を観察出来ないので、お嬢様観察記録ではなくなってきたが仕方ない。
お嬢様のためをと思い、ここしばらくがんばって来たつもりではあるものの、どうにも泥沼な状況に陥ってしまった。
この状況をどうにか打開しなければならない。差し当たっての有効な手は思いつかない。
しかし焦りは禁物だ。私がしっかりしなくてはいけないのだから。
大事なのは良く考えることだ、状況を入念に分析し、最良を判断し、正確に行動する。
そのためにも、こうして身辺の状況を整理して書き記すのは好都合だ。
お嬢様の事は直接に記録出来なくなってしまったが、状況打開に向けて情報を蓄積していくのは重要だ。
などとここで見栄を張っても仕方ない。私は混乱しているだけだ。
私は混乱しているのだと思う。自分を見失ってしまいそうだ。
数日前のお嬢様の様子を読むと、少しだが気分がマシになる。
もうなんでもいい。少しでも解決へ近づけるよう、とにかく思いついたことを書いていくしかない。
今日は妹様の部屋が荒れていた。
昨日、私が意識を失っている間に妹様のお世話をしたのはお嬢様だろうけれど、それが原因かどうかは、お嬢様と話す事すら出来ない今の私には想像するしかない。
紅魔館で働き初めてすぐの頃だった。
初めて妹様の部屋のお世話を言いつかった時に、お嬢様から警告されたことがある。
妹様の部屋に入るときには、必ず時間を止める事。
妹様の心はとても揺れやすく、お嬢様以外と顔を合わせるのを酷く怖がるらしい。
だから妹様のお世話をする場合には、時間を止めて妹様の目に触れないようにと言うことだった。
私が部屋に入った時、妹様はベッドの上に座り、歌を歌っている途中のように見えた。
それともただ独り言を呟いていたのか、表情と言う物がまるで見て取れなかったので、どちらか判らなかったけれど。
もし歌を歌っていたのだとしても、きっと一人では楽しくは無かったのだろう。
ティースプーンやフォークやナイフ、それにペン等がいくつも、落書きで埋め尽くされた壁に突き刺さっていたので、それらを一本ずつ引っこ抜かなければならなかった。
もっと細かな尖った白い物はたぶん、お皿やカップだったもの。
粉々の破片になったそれらも天井や床にめり込んでいて、掃除する間中、私の靴底を細かく裂いた。
綿や布きれも床に散らばっていた。
昨日までは、熊のぬいぐるみと女の子の人形が、おもちゃの椅子に仲良く並んで座っていたはずだけど、それらのなれの果てらしかった。
新しいぬいぐるみと人形を代わりに置いておいた。
そこで一度、私は部屋を出て時間を元に戻した。
連続で時間を操る能力を使いすぎると、疲労が急激に高まってしまう。
掃除中ではないが体力の限界まで能力を使い続けたときには、意識を失った事もあった。
妹様の部屋のお世話をする時は、少し休憩を挟まなければならない。
私が休んでいる間も、妹様は扉の中でしばらく歌い続けていた。私が掃除をすれば部屋の様子が急に変わるのだから、最初の頃は妹様も驚いていたが、今ではもう慣れっこだ。
妹様も扉越しにのみだが私の存在は知っている。
今日も扉越しに話しかけてきた。いつもと同じ話題だ。お嬢様が今日は何をしているかといった事を聞きたがる。
部屋の外や館の外に興味は尽きないらしいが、絶対に妹様が部屋から出てくることはない。
扉に鍵が掛かっているわけでも、吸血鬼を拘束するような結界が施されているわけではない。
そもそも、妹様がその気になれば、どんな頑丈な扉や強力な結界も破壊されてしまうのだから、閉じこめておくのは現実的にはもちろん、理論的にさえ不可能だ。
妹様はあの部屋から出たくないと思っているのだ。他人と会うのが怖いからだ。
休憩を終えてから、妹様の部屋の壁紙を全て取り替えてしまった。
とてもではないが、あれだけの量の落書きを消すのは無理だ。
クレヨンが箱からほとんど無くなっているくらいだった。
妹様が部屋に落書きを描くときはいつも同じ絵。
床に描かれるのは、大人の下半身が二つ。
一つは紺色のズホンを履いていて、もう一つは白の長いスカートを履いているものだ。
上半身の部分は描かれているのを見たことがない。
四方の壁には人間の腕がそれぞれ合わせて四本。
天井には、男性に見える髪の短い顔と、長い金髪の女性の顔が描かれる。
あとはただ床も壁も天井も、赤と茶色と桃色で滅茶苦茶に塗りつぶされているだけ。
今日は途中でクレヨンが足りなくなったらしく、茶色や赤や桃色の代わりに、青や黄色や、その他の様々な色が混じっていた。
妹様は画用紙にも同じ男女を描いている事が多い。
今日はそれもびりびりに破かれてしまっていたが、ちゃんと上半身と腕と頭が下半身と繋がっている男女で、赤や茶色で塗り潰されていることも無く、紅魔館の庭と思われる花園に二人で立っている絵だ。
妹様の心が揺れていない時には、それがベッドの枕元に張られている。
私は初めてその枕元の様子を見た時に、絵の男女が誰であるのか判った。
私も子供の頃にまったく同じ事をしていた。
壁紙を張り替え終えてから、お茶とお菓子を置いて、妹様の頭と頬を二度ずつ撫でてから、部屋を出て扉を閉めた。
止めていた時間を再び進ませたら、扉の中から小さく歌声が聞こえてきた。
表情の無い顔で歌う、表情の無い歌声だった。
今日は、というよりも今日も美鈴が居眠りしている所を見なかった。
紅い霧が出て以来というもの、彼女も門番本来としての役割を忠実にこなしている。
美鈴は怠けものなのではない。居眠りが他人よりちょっぴり好きなだけだ。そして居眠りよりも大切なものが彼女にはある。
紅い霧の件が紛争に発展した場合に備えてのつもりなのだろうが、彼女はスペルカードルール用らしい技を毎朝練習している。目が痛くなりそうな程に派手な技をだ。
もっとも人間に危害を加えないという条約に抵触したのはこちら側である以上、他の妖怪たちが制裁に動いてきた場合も、スペルカードルールによる解決ではなく、もっと根本的で最終的な解決手段を選ぶ可能性もあるわけだが、どちらの場合にも備えておいて損は無いだろう。
パチュリー様も似たような見解だそうだが、美鈴と同じで他の妖怪がいきなり流血による解決を挑んでくるとは考えていない。もし仕掛けてくるとしてもスペルカードルールの形でだろう、と。
のんきな物だが、もし最悪の事態になったらなったで、その時はその時だと考えているのだろう。二人の実力は私も信頼している。
パチュリー様は私の相談役になってもらっていた過程で、とっくにお嬢様の行動については諦めていたようで、既にスペルカードルール専用の魔法をいくつか開発していて、さらに増やす予定だそうだが、実戦用の攻撃魔法を作るよりも大変だと言う。
見た目が出来るだけ華麗でかつ殺傷力を持たせないようにしつつ攻撃自体に意味を持たせなければならない、というバカバカしいルールに沿う攻撃を創り出さなければならないわけだ。
美鈴もパチュリー様とも相当苦労しているようだった。
私もなのだが。
私は綺麗だとか意味だとか、どうすればいいのか正直わからない。
相手に自分の存在すら悟られずに、必要最小限の時間と労力で息の根を止めるだけなら、何百通りもの方法を身につけているけれど。
相手に自分の存在を可能な限り美しく知らしめて、不必要最大限の時間と労力を掛けて、相手の息の根を止めないように攻撃するなど、いったいどうしろと言うのか。
美鈴のように気を放てるわけでもなく、パチュリー様のように魔法が扱えるわけでもなく、外の世界から持って来た武器はナイフだけ。地味この上ない。
こんな事ならば爆薬や銃器も外の世界から持ってくれば良かった。そうすれば派手には出来そうだが。ああそれでは相手を殺してしまうからダメなのか。そもそも幻想郷に銃火器を持ち込めるかどうかもわからない。
本当にどうすればいいだろう、さっぱり思い浮かばない。
と思ったが。
今スペルカードルールの条文を読み直していて、私でも出来そうな必勝法の手がかりを思いついた。
スペルカード戦中は、不慮の事故で相手が死んでしまっても、咎を受けないらしい。
相手が死ねばそこで決闘も終了だ。どんなに私が地味でも、私の勝ちになる。
決闘中に偶然相手が死んでしまうように見せかける方法なら、なんとなく思いつける気がする。
例えば、戦っている最中に偶然にも五十本のナイフどこかから飛んできて相手の全身に刺さってうっかり死んでしまうとか。
これはいいアイディアな気がする。かなり良いアイディアだ。
まどろっこしい事には変わりがないが。
どうせ相手を殺してしまうなら、いっその事、お嬢様に敵対しそうな妖怪を予め調べ上げて暗殺してしまうほうが楽ではないのか。
もっともだ。
いよいよとなったら、その方法論も考慮しないわけにはいかないだろう。
いやそれでは遅い。予め強力な妖怪だけでも抹殺する計画をたてて置いた方が良いだろう。
そうすれば、いざ衝突が避けられないとなった時にこちらから先手を打てる。
派手で美しく血を流さない決闘などにはこれっぽっちの自信は無いが、人知れずに化け物を消していくのなら最も自信のある分野だ。
8月9日
洗濯物が外で乾かせないので、乾燥室の暖炉に火を入れなければならなかった。
霧の濃さは昨日と変わらない。
いつまで霧が続くのかわからないが、今週中にでも妖精メイドたちに蒔きを取りに行かせなければならなそうだ。
もし、このままずっと霧が続いて日光が地上に届かないようならば、来年には蒔きの元になる木が全て枯れて無くなってしまうことになるかも知れない、と考えると不安だ。
そうなったら、どうやって洗濯物を乾かせばいいだろう。
燃やせる物が無くても火が出る物があればいいのだが。例えば火の妖精とか。
氷の妖精は見たことがあるから、火の妖精くらいは探せばいるはずだ。
明日から時間を作って探して捕まえてみよう。
とりあえず大きめの瓶を用意しておこう。
今日の妹様の部屋は昨日の荒れ具合と打って変わって、綺麗なままだった。
枕元には画用紙が張ってあった。あの男女の絵だ。描き直したのだろう。
妹様は絵に顔を向けて眠っていた。両親の夢を見るたのだろうか。
私は妹様と同じように枕元に両親の絵を張っても、両親の夢を見られたことはなかった。
想像上の両親の絵を描いて張っていたからかも知れない。
でも私は両親の顔を知らないのだから、でっち上げで描くしかなかった。
私を育ててくれた老人は、私は二度捨てられた子だったのだと言っていた。
最初に私が拾われた教会の孤児院でも、私を持て余したらしい。
生まれつきに備わっていたらしい時間を操る能力のせいだ。
もっとも時間を止められている側には、自分たちがいったい何をされたのかなど、感知すら出来ないのだけど、おしめを代えようとした赤ん坊がいつの間にか、別の部屋を這っていたりしたら、不気味がるのは無理もない。
信心深い人々なら尚更だ。悪魔の子だなどとも言われていたぞとも老人は教えてくれた。
そうして世界に在るはずのない存在は、在るはずのない存在の元へ。私が孤児院からあの老人へと引き渡された事こそは運命と言えるかも知れない。
老人は私に山奥の結界に閉ざされた古城で一人で生きていくための方法と、吸血鬼を殺しきる技術を教えてくれて、私が十歳くらいの時に死んだ。
未だに自分の年齢は正確にわからない。特に古城に住んでいた頃は歳を数える習慣が無かったし、誕生日なども祝ってもらったことがなかった。
老人は死ぬ時に、ベッドの上からとても哀れそうな目で私を見ていた。
私は老人が死んで少し泣いた気がするけれど、あまり涙は印象に残っていない。
本当は私は泣かなかったかも知れない。
老人は不自由のない生活と教養を与えてはくれたが、愛情らしい愛情は殆ど与えてくれなかった。
抱き上げられた記憶は一度しかない。負ぶられた記憶も二度しかない。手を繋いだ記憶は三回だけ。
食事さえ別々だった。私が一人で食事を作れるようになってからは、老人は老人の分だけを作って食べ、私は私の分だけを作って食べた。老人が死ぬまでだ。老人は動けなくなってからも、私の作った物を食べるのを拒否した。
だから老人とテーブルを共にしたのはマナーを教えてくれたときの四回のみだ。
どの記憶も温かな感情と共に今でも鮮やかに思い出せるけど、本当にそれだけだった。
名前すらくれなかった。
老人は私に、必要のない者、という呼称で老人自身を呼ばせていたし、私のことを、誰かさん、と呼んだ。
いつも死ぬ間際と同じ、哀れむような目で私を見ていた気がする。
老人は私と同じような世界に在るはずのない能力を持っていて、吸血鬼を撃ち破る者だと自称していたが、本当かどうかはわからなかった。本当なのだとは思うけれど。
何しろ、老人が何かしらの能力を使った所や、吸血鬼を殺しに行った所を見たことがなかったし、何故吸血鬼を殺すのかと訊ねても、理由は無いと答え、では憎いのかと問い返せば、憎くも無いと言った。
だって毎日紅茶を啜ってるだけの連中だぞ。老人はそう言っていた。
なのに、私に吸血鬼を撃ち破る者に成れと言った。死ぬ直前にだ。
言われたときには不思議に思わなかったが、どうして私を後継者にしたかったのだろう。
後継者など馬鹿らしい。紅茶を啜るだけの連中を撃ち破る者などに、世界の何処を探したって存在意義など在るわけがない。
それでも、もしかしたら。と今ならば思う。
老人は自分の人生の孤独を誰かに知って欲しかったのではないか。
だから私にいつもあの哀れむ目を向けていたのではないか、とも思う。今ならだ。
当時の私は、吸血鬼を撃ち破る者に成りたいとも思わなかったけど、成りたくないとも思わなかった。
他に成りたい物が、欲しいと思う物が一つだけあったが、死んでいく老人を見ていると、私にはそれは絶対に無理な事なのだろうと、ほとんど信仰と言って良いほどに信じ切っていた。
自分の未来の姿だと思っていた。恐らく何十年後かには、この老人のように孤独に死ぬのだと。
私は家族が欲しかった。両親や兄弟が欲しいと思っていた。
家族の一員の誰かさんに成りたかった。
例えば誰かを抱きしめて上げたり、抱きしめられたりしたかった。
例えば誰かに負ぶられたり、負ぶってあげたいと思っていた。
例えば誰かと手を繋ぎたいと思っていた。
例えば誰かと自分の作った食事を一緒に食べたかった。
けど私は捨てられた子供だった。家族は居ない。
しかし家族の居ないお前でも、自ら家族を作ることは出来るかも知れないな。そう言った老人は一人で死んでいこうとしていた。まるで説得力が無かった。
将来に誰か愛する相手と結婚し、子供を産み、育てる。
それらは物語の中でしか知らない出来事だ。
山奥の古城で一人朽ち果てていく自分の将来のほうが、ずっと現実的に思い描くことが出来た。
だから私は吸血鬼を撃ち破る者に成った。それ以外に自分の将来は無いと思っていたからだ。
吸血鬼を殺す理由も持たず、憎しみさえ抱かず、毎日紅茶を飲んでいるだけの連中を殺すための訓練を、老人が死んだ後も毎日繰り返した。
それにしても、昔のことばかりを思い出してしまう。
これではお嬢様の記録ではなくて私の伝記のようだ。
私はやはり壮絶に混乱している。
今のお嬢様に対して私はいったい何をしてあげられるのだろう。
何をしてあげればいいのだろう。話すら出来ないのに。
その思いだけが心の中でグルグルと何度も何度も同じ場所を行ったり来たりしているようだ。
私なりに気持ちを整理する必要がある。自分を見つめ直す必要があるのかも知れない。
自分を客観的に見直す事も他者の理解に繋がる、というような事もパチュリー様が言っていた気がする。
これもお嬢様を理解するための助けになるかも知れない。
どうせ、お嬢様からのお供の呼び出しや、直接お世話する事も無い今となっては、暇も増えている。
大切な誰かのために何かをする時間ほど、私にとって貴重で嬉しい物はなかったはずなのに。
誰のためにも、何をする事も無い時間の虚しさを、私は知っていたはずなのにだ。
吸血鬼の居場所を知ったのは、老人が死んでから確か六年ほど経ってからだ。
正確な年月は憶えていない。ただでも月日の経過が季節の移ろい以上の意味を持たない生活だった。
その頃の私はそれまで触れもしなかった老人の遺品を、城の中から探して集める事に没頭していた。
いつも私を哀れむ目で見ていたような相手でも、懐かしくなるものらしい。
私は寂しかったのだろう。
色々な物を集めた。
膨大な量の銀製武器や銃火器だけではなく、服は靴下から帽子まで。書物はプライベートな手紙から地図まで。
その中の一冊の手帳に書いてあった。吸血鬼が暮らす館の場所だ。
場所が判明しているというのに、老人が標的を抹殺したという記述は手帳のどこを探してもなかった。
何故、老人は吸血鬼の居場所を知っていながら、殺しに行かなかったのだろう。
紅茶を啜るだけの相手を殺すことに意義を感じないからだろうか。
でも、私の人生の意義など、吸血鬼を殺すほかにはあり得ない。
私の人生など誰も知らない古城で朽ち果てていくだけの人生ではないか。
それに比べれば、紅茶を啜るだけの相手を殺すことすら、とてつもなく有意義と言える。
そんな事を考えながら、私は吸血鬼を撃ち破りに行く準備をした。
初めての旅はトラブル続きだった。
街で車を借りようとしたら免許が無ければダメだと言われ、タクシーに乗って行き先を告げたら、空港で降ろされた。
空港に行きたかったわけではない。運転手に文句を言ったが。
だから飛行機に乗ってくんだろ?
と当たり前のように言われたので、そっちのほうが早いのかと思い、飛行機に乗ろうとしたら、空港のエントランスで警官に呼び止められた。
大き過ぎる荷物が不審に思われたらしい。
私の荷物を開けた巡査、それに回りに居た人々は顔を青くしていた。
私が引きずっていた大きなケースには、マウザーM1918対戦車ライフルと13×92 ㍉シルバーホローポイントが五十発、MG42Ⅴ重機関銃と7.92×57㍉が五百発、マウザーシュネルフォイヤーピストルが二丁と45ACPが三百発、それと銀製の長剣が一本とナイフが四十本ほど入っていた。
まるで時間が止まったように、周囲の野次馬が凍り付いたのを憶えている。
今考えると、本当なら巡査はすぐさま彼が持っていた拳銃を私に向けてホールドアップさせなければならなかったはずだけど、私が抵抗したりする素振りを見せなかったからなのか、よっぽど彼が動揺していたのか、どちらかだろう。
ランボーかよあんた、こんな沢山の武器でいったい何機ハイジャックするつもりだったんだ?
巡査は緊張で震えてしまっている唇で訊ねてきた。
だから私は答えた。
ハイジャックするつもりではなく、吸血鬼を殺しにいくところだ、と。
すると、野次馬の中で若い男が、いかれた女だ、最高だ、狂ってる、などと笑い出し、釣られて回りの人たちも小さな声で笑い出した。
みんなが私を笑っていた。
巡査が私に向ける目が変わっていた。
緊張した感じが無くなっていて、代わりに不憫そうに、私のつま先から頭の天辺までを眺めて。
そうかいそうかい、お嬢さんはエイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授の子孫かなんかって事なんだな。それともヴァムピーラかい? ともかくちょっと一緒に来て貰うよ。
そう言って巡査が私の腕を掴むと、人々の笑い声が一瞬だけ大きくなった。
一緒に行けば飛行機に乗れるのかと巡査に訊ねてみた。
また野次馬の笑い声が大きくなった。
それは難しいかもしれないが、すぐに病院に送り返してあげるから安心しなさい、と巡査は答えた。
飛行機に乗れないならば、付いていく意味は無い。
巡査の手を振り解こうとしたら、彼は舌打ちして拳銃を抜いた。
面倒になりそうだったから私は時間を止めてタクシー乗り場に戻り、往きに乗ってきたタクシーがまだ居たので、荷物を括り付けて乗り込んだ。
止まっていた時間を戻し、私が行き先を告げると、運転手は座席から飛び上がって驚いていた。
彼はルーフにぶつけた頭を痛そうにしながら、いつ後ろに乗ったんだ、とか、どうして飛行機に乗らないのかと訊いてきた。
時間を止めてる間に乗った、吸血鬼を撃ち破る者は飛行機に乗ってはいけないらしい、と私が言うと、彼は怪訝そうな顔をしながらも頷いた。
まあ、金さえちゃんと払ってもらえりゃ、ヴァンパイアハンターだろうが、心の病を患ったかわいそうなお嬢ちゃんだろうが、俺ぁ乗せてやっけどよ。あんだろうな金、飛行機乗ってくより高く付くぜ?
旅費も十分に持ってきていた。幸い一人で暮らすだけなら三万年かかっても使い切れない額が、老人の遺産として私に残されていたから、お金に困った事は無い。
財布の中身を見せると、タクシーはすぐに出発し、運転手はご機嫌になってぺらぺらと良く喋った。
運転手は品は無かったが、気さくな人だったのだと思う。
私が知らない話しをいっぱい話してくれた。知らない歌をカセットテープでいっぱい教えてくれた。一緒に歌ったりもした。
私の事も訊かれたが、吸血鬼を撃ち破る者だと何度言っても馬鹿にされ信じてもらえず、時間を止めて左手に持っていたガムを右手に持ち替えて見せても、すっげえ手品だな、ぜんぜん種がわからねえ、あんた実はすげえ手品師だったんだな、向こうで吸血鬼退治っぽいショーやるのか? 見に行ってやっても良いぜ。と面白がられるだけだった。
吸血鬼を撃ち破る者は必要だと思うか? 空港で私はみんなに笑われたが必要無い者なのだろうか? 誰かに一番訊きたかった事を訊ねても、彼は茶化すばかりでまともに答えてくれなかった。
やはり老人の言うとおりなのだと思った。
私は老人と同じ必要の無い者になったのだと思った。
せいぜい世の中にとって茶化されるだけの存在でしかないようだった。
例えばもし私がこれから吸血鬼に殺されたとしても、運転手は明日も明後日もタクシーを走らせ続けるだろうし、私の腕を掴んだ巡査も寂れた地方空港のエントランスに立ち続けるだろうし、私を笑っていた人々もそれぞれの生活を続ける。
ほんとうに、どうしようもないくらい当たり前の事なのに、急にそれがたまらなく寂しいと感じた。
自分一人を置いて世界が進んでいって居る。そんな気がした。
誰でも良いから自分の事を憶えている相手が欲しいと思った。
だからタクシーを降りる時に、私を忘れないでほしい、と私は運転手に言っていた。
運転手は料金の札束をニヤニヤ数えていて、不思議そうな顔で私を見返してきた。
良くわからんけど忘れないも何も、お嬢ちゃんの名前も聞いてないぜ。名前なんてーんだ?
自分に名前が無い事を初めて嫌だと感じた。
でも、誰かさんだ、としか私には答えようがない。
まったく変な奴だなあんたは、そういう意味じゃ忘れないだろうが、いったいなんなんだあんたは本当に、こんな夜中にこーんな山の中で降りて何しようってんだ。ここらにゃ軍の施設くらいしかないぜ。そこに用があるなら送るつってんじゃねえか。
そんな事を言っていた彼だったが。私が車から降ろした装備を身につけ始めると、さっきまでのおちゃらけた様子を一変させて、急に怯えた様子で捲し立てだした。
なんだよ。最初からおかしいと思ってたんだ。そういうのかよあんた。わかってる。俺は政治にもテロにも興味はねえし、あんたが旧シャウセスク派の工作員でもCIAでもKGBでも、んなもん知らねえ、俺はただのしがないタクシードライバーだ。誰にも何も言わねえよ。俺は何も見なかった。あんたの事も綺麗さっぱり忘れる。そう言いたかったんだろ? ああ、あんたは間違いなくただの誰かさんだよ。ああ忘れるさ。ほんとだ。口止め料ならあれで十分だって。頼むから後ろから撃つとかしないでくれよ。じゃあなあばよ。
彼に何か言わなければならないと思ったが、言い返す気力がもう無かった。
全てが無駄な気がした。
エンジンを命一杯吹かしたタクシーのヘッドライトが山道をあっという間に滑り降りて言って見えなくなった。
エンジンの音も聞こえなくなると、虫の音が聞こえだした。
私はまた一人になった。今までだってずっとそうだったじゃないかと思っても、涙がこみ上げてくるのを感じた。
泣くのは嫌だと思った。瞼を綴じて我慢した。
結局私は必要ない者でしかない。吸血鬼を撃ち破る者以外の何者でもないらしい。
自分のこんな人生に何か意味があるのだろうか。たぶん無い。
だって紅茶を啜ってるだけの奴らだぞ。それを殺すのに何か意味があるのか。
もっともだ。意味のない人生には意味のない行為がきっとよく似合う。
紅茶を啜ってるだけの連中を殺そうと思った。そのために私は旅をしてきたのだ。
吸血鬼が張ったと思われる結界はすぐに見つかった。手帳の記述通りの場所だ。
結界を張った主に気づかれないように、結界内に侵入するためのスペルを探るのに少々手間取ったが、三十分もせずに侵入出来たのは、日頃の訓練の成果というものだろう。
上出来だった。結界内部で紅い館を私が見つける段になっても、何者も私を攻撃してこなかった。発見された気配も無かった。
原生林の土手から館の正面を双眼鏡で覗くと、二階のテラスには人間離れした青色の髪をした女の子。背中にはコウモリのような羽。
明らかに吸血鬼だった。満月の光の下、椅子で脚を組んでいて、茶を啜る口から牙が覗いた。
こちらに気づいている様子はまったく無い。
ほとんど無意識に私はマウザーM1918のバイポッドを土手に置いて構えていて、右目で覗いたスコープで吸血鬼の頭に照準した。
そして時を止め、引き金を落とす間際に、とても似ているかも知れないと思った。
だって紅茶を啜っているだけの連中だぞ。老人の言葉を思い返した。
あの吸血鬼はああしてずっと、この結界に閉ざされた空間で、誰にも知られずに、暮らしていたのではないか。
どんな人生だったのだろう、どんな事を思って生きてきたのだろう、なんのために生きてきたのだろう、どんな意味があって生きているのだろう、などと考えつつ引き金を引ききった。言い知れない親近感を感じながら。
テラスの吸血鬼が何のために生きているのか私に知るよしも無かったが、私の人生は、吸血鬼を撃ち破るためにしかありえなかったのだ。
生まれて初めての自分の生が有意義になりえるひとときだった。
止まった時の中で、弾丸の時間だけを吸血鬼のこめかみに触れる直前まで進め、二発目を心臓に向かって同じように撃ち込む。
動物相手ならば標的の命中点だけ時間を進めることで、急所を抉って殺す事も出来るが、中枢神経や循環器的な急所を持たない吸血鬼相手では、それはあまり意味がない。
頭を飛ばす事も心臓をもぎ取る事だけでも、程度の低い吸血鬼相手ならば仕留められるが、相手の強さは不明だ。
ノーライフキングなどとも呼ばれる限りなく不死に近い種類の存在も知っていた。
念を入れてライフルの手持ち五十発全て、テラスの吸血鬼の体全体に向かって撃ち込んだ。
私が止まった時間を戻せば、その瞬間に吸血鬼は五十発の弾丸で押しつぶされることになる。
吸血鬼の身体に干渉可能な物体によって、可能な限り強い運動エネルギーを可能な限り広い範囲で出来る限り短い時間内に与えること、それが強力な再生力を持つ吸血鬼に対して最大のダメージを与えるセオリーだ。
時間を元に戻す前に、両耳から耳栓を抜いて、五十発分の反動で痺れた右肩を少し揉んでから、MG42Ⅴの安全装置を外した。
対戦車ライフルの五十発だけで死んでくれるとは限らない。
そしてやはりだった。
時間を戻した瞬間、吸血鬼の体は粉々に砕け散り赤い気体になったように見えたが、テラスが弾丸の塊によって粉砕された粉塵の中に紛れてしまった。
命中はしたし、ダメージもあったはずだが。まだ殺し切れていない。直感した。
標的を見失ったらすぐに時を止めろ。老人から言われたとおりにするのと、背中から視線を感じたのは、ほぼ同時。
振り向けばそこに、さっきまでテラスに居たはずの彼女が居た。
笑っていた。楽しくて仕方がないみたいに。牙を覗かせてだ。
その笑顔を見て、私は悟った。自分はとんでもない化け物を相手にしている。
機関銃の五百発を再び吸血鬼の全身に撃ち込んで粉砕し、赤い気体へと還元させても、また次の瞬間には私の背後に居た。
レミリア・スカーレットは私が老人から教えられた中でも、限りなく不死に近い、もっとも強力な種類の吸血鬼だった。
殺し切るには再生出来なくなるまで、何度も出来るだけ多くのダメージを与え、何度も殺し、何度も砕け散らせる、しかない。
ピストルの弾丸を使い切ってもまだダメだった。
本当にこの吸血鬼を殺しきれるのだろうか。私はそう思ったはずだ。その時が離脱するならば最後のチャンスだっただろうが、私が吸血鬼の前から逃げた先に、何があると言う。
何も無い。
勝利か死か、私にはどちらかしかあり得なかった。
私は長剣を鞘から抜いた。能力の限界も近づいていた。
かといって能力を使用を中断するのは無謀。
吸血鬼の、特にレミリア・スカーレットの身体能力を相手に、人間の身で近接戦を挑めば、時を操る事なくしては、一太刀すら浴びせることもかなわない。
逆に彼女が私に繰り出す赤い槍を避ける事もだ。
レミリア・スカーレットに四十四回目の斬撃を浴びせた時、時間の流れを遅くすることすら苦しくなってきて、ほんの一瞬だけ時間の流れが元に戻ってしまった。
たちまち長剣が根本から槍の一撃でへし折られ、彼女の槍の切っ先が、私の胸に触れようとした瞬間、どうにかまた時の流れを緩めることに成功したが。
折れた長剣を捨て、両手をナイフに持ち替え、彼女の心臓を抉って四十五回目の死を与えようと、踏み込もうとした時には、体のどこにも力が入らなかった。
能力の限界だった。時間切れだ。私は吸血鬼を殺し切れなかった。
私の体は意志での制御を離れて、純粋に重力に従って、吸血鬼に向かって倒れ込んだ。 吸血鬼の体に触れたとき、彼女の頬を温かく感じたのを憶えている。
酷い耳鳴りが鳴り出して、ゆっくりと時間の流れが戻っていくのを、薄れていく意識で感じていた。
彼女は倒れた私を見下ろした。
退屈そうな表情だった。
実際に吸血鬼にとっての戦っていた時間は数秒といったところだ。あっけなく感じたのだろう。
彼女が何か言っていたように見えたけど、耳鳴りのせいで何を言っているかはわからなかった。
これで私の人生が終わるのだと思うと、とても安らかな気持ちになった。
寿命までの何十年かを過ごす必要も無くなった。
吸血鬼を倒すためだけの人生の人間が、吸血鬼に負けたなら、これほど完璧な終わりもない。
さらに幸いにも一人で朽ち果てる事も無いようだった。
私の人生にひとときだけでも、唯一の意義を与えてくれた相手が私を見下ろしていた。
私の人生はとても完全にとても完璧に、これで終わったのだと思った。
8月10日
相変わらずお嬢様とは顔を合わせることが出来ない。
私が今、お嬢様に対して出来る事は、せめておいしい食事を用意しておくことだけだ。
今日も夕飯にオムライスを作ってテーブルに置いておいたら、お嬢様の分もいつのまにか綺麗に平らげられていた。
お嬢様はオムライスが好きだ。ケチャップにB型の血を少々混ぜて食べる。
小食なので他の物では残してしまうことが多いが、あれだけは必ず残さずに食べる。
紅魔館で初めてした仕事もオムライスを作ることだった。
美鈴もパチュリー様も料理は得意ではないらしく、私が紅魔館に来るまでは誰もまともに作れなかったらしい。極東にしか無いマイナーな料理だから無理も無いのだが。
お嬢様に敗北した後、目覚めたときに、私は館の中で寝かされていて、オムライスを作れるかと訊かれた。
私を負かした吸血鬼の女の子が、私が寝かされていた同じソファに座っていたのだ。
そしてオムライスは作れるかと言っていた。
どうして敗北した自分がまだ生きているのかは、すぐに思いついた。
吸血鬼に敗北すれば血を吸われ僕にされてしまう。そして早速料理を作れと命令されているのだろうと。
でもなんでオムライスなんだろう、などと考えながらも自分の首筋を探ってみたが噛み痕は無かった。
吸血鬼も、血は吸っていないと言っていた。
お前はオムライスを作れるか?
もう一度訊かれた。
僕にされたわけでもないのに、何故生かされているのだろう、と不思議だったが、私は頷いた。
作れるか作れないかと言われれば、作れる。
いまいち状況が飲み込めなかったし、どうしてオムライスなんだろうと再び思ったが、隣に座る吸血鬼の女の子が何を考えているかなどは、私にとってはもう、どうでもいい気がしていた。
それまでの人生の全てを注いで戦い、破れた。
自分の人生の意義の全てがひとときの間に否定され、意義を無くした生だけが、私の人生を否定した張本人によって私に残されていた。
それを屈辱にも絶望にも感じなかったのは、結局私はそれまでの自分の生き方に、少しの愛着も意味も感じていなかったからなのだろう。
私には最初から何も無かった。とても単純な結論。
お前はオムライスをつくれるか?
吸血鬼に頷いてみせた時。私の吸血鬼を撃ち破る者としての人生は既に、私の中で完全に完璧に終わっているのだと、改めて自覚した瞬間だった。
オムライスは得意な料理だった。
というよりもレシピを知っている物ならば、得意ではない料理は無い。
古城で長く一人で暮らしていた中で、訓練以外にする事と言えば、三食の食事を作る事くらいしかなく、城にあった書籍などから世界中のレシピを探し、古今東西の料理を再現して楽しんだものだ。
それがただ一つの私の趣味だったとも言える。
吸血鬼の女の子は、私が厨房でオムライスを作る過程を興味深そうに見ていた。
どころか竈に入れる蒔きや食材を運んできたりして、積極的に手伝ってくれた。
不気味な位に無邪気だと思ってしまった。
私に対してまるで警戒しているようにも、憤りを感じているように見えなかった。命を狙ってきた相手だというのに。
もっとも私としてはもう、あの時点では吸血鬼を殺すことに何の意義も感じてなかったのだから、隙を見て殺してやろう等は、頭の片隅にさえ無かった。
私は自分が完全な空っぽになってしまっていると感じていた。殺し合いをしていた相手に従って従順に料理を作るという異常な行動も、私にとっては何ら矛盾もなかった。
元々相手に憎しみを抱いていたわけでもなく、むしろ引き金を落とすときには一方的に親近感さえ感じていたのだ。
吸血鬼の女の子としても、私がまた刃向かって来たとして負ける要素は一切無いと思っていたのだろう。
でも私が襲撃してきた事自体に吸血鬼の女の子は怒ったりはしていないのだろうか、との純粋な疑問はあった。
だから、私が憎くないのか、何故殺したり僕にしなかったのかと訊ねてみたら。
最初に撃たれたときはむかついたけど、勝ったらすっきりした。僕にすると管理がめんどくさいし、オムライスを作れそうな顔をしていたから起きるまで待っていた。オムライスが作れるなら許す、一度ちゃんとしたものを食べてみたかった、と言われた。
筋が通っているのか、いないのか理解に苦しんだが、言いたいことだけは良くわかった。
とにかくこの吸血鬼の女の子は、おいしいオムライスをたいそう食べたいらしい。と言うことだ。
私もお腹が空いていた。お腹がグーグー鳴っていた。
オムライスオムライスと繰り返し聞かされると、私もとてもオムライスが食べたくなってきていたのだ。
私の分も作っていいかと訊くと、ならば五人分作るように、と言われたので五人分作った。
でも食堂に集まったのは私を含めて四人だけだった。
私と吸血鬼の女の子と、東洋風のドレスを着た赤髪の女、それと眠そうな目をして気の弱そうな少女だった。
食堂で初めて顔を合わせた二人は、私を訝しげな目を向けてきた後に、吸血鬼の女の子が食卓のオムライスを前にご機嫌にはしゃぐのを見て、何か色々と諦めつつ納得たような顔をしていた。
こんばんわよろしくね、と言うだけで、他には特に何も言ってこなかった。
いただきますと同時に、吸血鬼の女の子が彼女の分のケチャップに医療用血液パックを混ぜだしたのは少し驚いたが、それ以上に四人という人数でテーブルを囲んでいることに、私は戸惑っていた。
しかも初めて自分の料理を他のひとに食べて貰っていたのだ。
三人とも、おいしいと言ってくれていた。
吸血鬼の女の子は頬がケチャップで汚れるのも気にせず夢中でスプーンを口に運んでいた。
他の二人もそれを見て笑っていた。とても楽しそうに見えた。
私のお腹は鳴っていたけど、どうしたらいいかわからず、ただ三人を見ていた。
会話に参加するとか、そんな概念はまだ私の中には無かったが、私の作った物をおいしそうに楽しそうに食べているのを見ているだけで、嬉しかった。嬉しくて胸が熱くなったのを感じて。
気づいたら、私の両目から涙が零れていた。
どうして自分が涙を流したのかわからなかった。
数十分前に殺し合いをしていた相手が食事をしているのを見ているだけなのに。
自分の頭がおかしくなったのかと思った。でも涙が嫌だと感じなかった。我慢しようとおも思わなかった。
例えば誰かに自分の作った料理を食べて欲しかった。私が自分の人生で諦めていた願いだ。私の人生の全てを否定した相手が、その願いをかなえていた。
それを私はどう捉えればいいのだろう、と考えていたとは思うが。
嬉しくて涙を零してしまっていたのが、単純に自分の実像でしかない。
どう捉えるかなど考える必要はなかった。
一切自分を偽らない本物の私が心から求めていたけれども、絶対に手の届かなかった光景が目の前にあっただけだ。相手が誰であろうが関係なかったのだと思う。
例えば誰かに食べて欲しかった。自分の作った料理を食べて欲しかった。
全てを無くして空っぽになっていた私に残っていたのは、幼い日に憧れたまま忘れていたそんな願いを心の奥に持ち続けていた、本物の自分の姿だけだった。
三人が私を心配そうに見ていた。どうして泣いているのかと訊ねてきた。
私は、みんなが私の作った料理を食べてくれて嬉しいのだと答えた。
それでも三人は訳がわからなかったらしく、首を傾げたが、吸血鬼の女の子は言った。
だったらこれから毎日、この館でご飯を作りなさい。あんたはオムライスを作るのが上手いからメイド長に任命する。命令よ。
筋がとおってるのか通ってないのかはわからなかったけど、私に頷く理由はあっても、拒否する理由は無かった。
ずっと昔に、自分が成りたいものがあったのを思い出していた。
私は例えば、自分の作った食事を誰かと一緒に食べる、誰かさんに成りたかった。
だから私は、ケチャップだらけのお嬢様に頷いた。
パチュリー様や美鈴から言わせると、最初は私の事をかなり気味が悪い人間だと思っていたそうだ。
この上なく完璧に仕事をこなすけど、もの凄く無愛想で、何を考えているのかわからない人間。
それが私の印象だったらしい。無愛想と感じられているとは思っていなかった。
私としては自分に名前が出来た事が嬉しくて、やっと自分の居場所を見つけた気分で新しい生活を楽しんでいたのだが、確かに誰かと積極的に会話をするとか、表情を作って意志や気持ちを伝えるといった事は苦手、というよりもやはり概念としてすら無かったかも知れない。
何しろ、毎日一緒にご飯を食べる皆のために働くだけで私は満足していたのだから、それ以上に何かをしようとは、すぐに思いつかなかっただけだ。
メイドとして働く振りをしてお嬢様の弱点を探っているのでは、とも疑われていたようで、パチュリー様に呼び出されて聞き質されたこともある。
どうして吸血鬼の館で働くのか、無償でこき使われて自由な時間もほとんど無い、メイド長だなんて言っても奴隷みたいなものではないか、人間ならこの状況ならば絶対に逃げようとする、なんなら魔法で逃がしてあげよう、もし逃げないというのであれば、やはり咲夜はまだ吸血鬼を殺すことに拘っていると解釈する。
そんな事をパチュリー様に言われたが、まず、こき使われているという意味が理解できなかった。
だって紅魔館の掃除や洗濯などの維持管理なんて、前に住んでいた城から比べれば遙かに規模が小さくて楽だったし、給料など貰っても使い道が無いどころか、お金なら一生使い切れないほど持っていた。
私は、逃げる理由がありません、と答えた。
すると、どうして何の目的で、あなたはここに留まるというの、とさらに訊かれた。
改めて目的は何かと言われると、どう答えて良いかわからなかったから、一番思っていることだけを言った。
ここでご飯を食べれるからです、とだ。私は紅魔館で誰かと一緒に食事を出来る誰かさんになったのであって、それ以上に素晴らしいことを知らなかったし、もっともな理由だと思っていたのだが。
パチュリー様はなんとも不満そうで呆れた顔をしていた。
まさか食い扶持に困ってここに強盗に来たわけでもないでしょうに、嘘にしても稚拙すぎて疑うのも馬鹿らしくなるわね。レミィがあなたを信頼してるのが何となくわかった気がするのだけど、あなたのその一日中の仏頂面がもう少しどうにかなれば、私も素直に信じてあげられるのかしらねえ。
それからと言うもの、笑顔を作る練習を繰り返して、仕事の間も出来るだけ笑顔を維持したり、出来るだけ皆の会話に割り込むように努めたが、残念ながら余計に気味悪がられる結果になってしまった。
もっと自然に笑ったり話したりすることは出来ないのか、と皆に言われたが、自然に笑ったり話すという事が、どれだけ難しいのか皆は知らないようだった。
結局のところそういったものは、生活していく中で少しずつ身につけるしかない。
半年たった頃には大分マシになったとは思う。パチュリー様も私を疑うような事は無くなっていた。美鈴が晩酌に誘ってくれるようになった。お嬢様が無理難題を私に吹っ掛けて、からかってくるようになったのもあの頃からだ。
そして。そんなお嬢様のお遊びの付き合い方や、あしらい方や、叱り方が身に付いてきた頃には、お嬢様は私にとって最も多くの時間を一緒に過ごす相手になっていて、私はお嬢様にとって最も多くの時間を一緒に過ごす相手になっていた。
そういった何気ないある日だ。お嬢様に大きなケーキを作れといわれた。
私が紅魔館に来て一年目なので、私の誕生日なのだったが。
私は自分の誕生日は知らなかったので、お嬢様がそう決めたそうだ。
一年経つ間にお嬢様やパチュリー様や美鈴の誕生日も祝ったけど、自分にも誕生日があるのだと言うことを忘れていた私は凄く驚いた。
何歳になったのかと訊かれても正確に憶えてなかったので、10~20歳程度だと答えたら、自分の歳もわからないのかとみんな笑っていた。
ともかく20本くらいならケーキに乗っけきれるからと、ケーキにろうそくを立ててくれた。
ろうそくの火は一息に消さなければならないのだけど、初めての事だったので、上手く吹き消せなくて、時間を止めてもう一度息を吸い込んで誤魔化した。
お嬢様とパチュリー様と美鈴が、おめでとうと、と言ってくれた。
私は生まれて初めて、生まれてきて良かったと思った。
そういえば今日、火の妖精を見つけることが出来たが、捕獲に失敗した。
夕方近くに竹林の近くを飛んでいたら、煙りが上がっているのが見えたので降りてみた。
真っ白な髪の毛の娘が指先から炎を出して、七輪の炭に火を入れようとしていたのを発見した。
良く見ると火の妖精は焼き鳥を焼こうとしているみたいだった。
妖精も人間の真似をして食事を作ることがあるらしいから、夕飯の支度をしていたのかも知れない。
私はすぐに時間を止めて、頭から瓶に詰め込もうとしたが、瓶の口の幅が足りず、火の妖精の頭に被せるまでしか出来なかった。
諦めて瓶の口を頭から抜こうとしたが、なかなか抜けず、瓶を回転させたり捻ったりする内に、妖精の長い髪の毛が瓶の中でグチャグチャに絡まってしまい、真っ白い毛玉お化けみたいで気持ちが悪くなった。
どうやっても瓶が抜けないので、仕方なく時間を元に戻し、頭に瓶を被ったままの火の妖精にごめんなさいと謝ったが、火の妖精は、なんだこりゃ髪の毛で前が見えないぞ、と、凄く驚いていたので、私はもう一度ごめんなさいと謝ったが、妖精は、ふざけんな、と瓶で籠もった声で怒鳴ってきて、思いっきり私の脛に喧嘩キックしてきた。凄く痛かった。
火の妖精が、さてはお前カグヤの新しい刺客だな、などと意味不明な事を言って暴れ、竹林が燃えだしたので危険だから私は逃げた。
妖精は話しが通じない事が多くて困る。次はもっと大きな瓶を持っていこう。
8月11日
二日前からコツコツと作業していた暗殺対象のリストアップがようやく終わったが、思ったよりも障害が多い事に気づいた。
まずもっとも脅威になると思われるのは妖怪の賢者。最優先の標的にすべきだ。
元々が無秩序だったらしい幻想郷に、現在のあり方を適応させた中心的な固体であるならば、条約を蔑ろにするような事件に関しては、率先して介入してくる可能性がある。
固体としての力をとってみても神出鬼没で得体の知れない能力を使うという彼女は、もっとも対処しにくい妖怪である事は間違いない。
真っ先に消しておきたいところだが、居場所や行動に関する情報が全く無いので、殺しようがない。使者を送ってくることは何度かあったが、直接賢者の姿を見たこともない気がする。
となると重要なのは、彼女以外の敵の数を紛争に至った直後にどれだけ減らせるかだが。
賢者の次ぎに脅威になるのは、組織力からしてもっとも強大な勢力、妖怪の山の天狗や河童だ。
だが天狗や河童には他の妖怪には無い弱点がある。社会性を持っていることだ。
どんなに固体の能力が優れていて数が多かろうが、社会組織を麻痺させてしまえば、種族を丸ごと無力化できるということだ。
要人を根こそぎ消してしまえばいい。
社会的な混乱を引き起こさせてしまえば、紛争への介入などは不可能になるだろう。
しかし妖怪の山の内部は徹底した秘密主義で貫かれていて、やはりこれに関しても一切の資料が存在しない。
そこで今日は山の資料の奪取に時間を充てた。まずは情報が無くては話にならない。
山の各地に存在する自警隊の監視哨と、白狼天狗の哨戒順路の死角になりやすい森林部を、時間を止めて移動し、物陰で休息する、と繰り返して進み、山の中腹に内部への入り口を発見した。
そこから内部に侵入し、自警隊の施設から山内部の地図を奪取してきた。
他の資料も持ち帰りたいところだったが、あまり多くの物品を消え失せさせてしまっても、いざ本番に出向いた時に警戒が厳しくなっていたりしてしまったら、元も子もない。
早速地図を元に計画を練ることにしよう。早ければ明後日からにでも、いつでも実行に移せる段まで計画を作り上げられるだろう。
それにしても、まさか幻想郷で化け物退治をする事になるとは思わなかった。
世の中から忘れ去られた者たち同士が平穏に暮らす理想郷、少なくともつい先月まではそうだったはずなのだが。
どこから歯車が狂いだしたのか。
私がお嬢様とたがえた時、これは間違いない。
でもその遠因となったのが、幻想郷での暮らしによるものだったとしたら、私たちが移住してきた事自体が間違いだったのではないか。
何故、お嬢様が移住すると言い出したときに、私は反対しなかったのだろう。
理由は簡単だ。一人で幻想郷に行って帰ってきたお嬢様が、それまで見たことがないほどに、生き生きとして見えたから。それ以外には無い。
だからお嬢様が移住すると言い出しても、賛成はしても反対は一切考えなかった。
何百年と山奥に閉じこもっていた生活から解放されるのが、お嬢様はよっぽど嬉しかったのだろうと思って、私も喜んでいた。
でも、その結果が今だ。私たちの生活さえも危機に瀕している。
時間を戻すことが出来ればと切に思う。
元々私自身は幻想郷に来た事自体はどうでも良いと思っていた。来て良かったことと言えば、メイド妖精を雇えるようになった事と私が空を飛べようになった事くらいだ。この世界ではメイドだと空を飛べるのだ。でも別にメイドが空なんて飛べなくたっていい。メイド妖精も正直居なくてもそこまで困らない。平穏な生活に戻りたい。
五年前に時間を戻すことが出来るならば、私は絶対、移住に反対する。
しかし時が戻せない以上は、未来に望みを託すしかない。
もし望みを託すに心許ない未来ならば、自らの手で強引に切り開いて、自らが住み良いようにしてまえばいい。
そのための手段が刃と流血であったとして、私が躊躇うことはない。
私は私のもっとも大切な物事のために、この世界に対してあらゆる犠牲を強いるだろう。
8月12日
今日は、というよりも正確にはもう今現在は日付は変わっているのだが。
とにかく色々な事がありすぎて、何から書けばいいのかわからない。
順を追って書いていくことにする。
二十時頃だった。妹様のお世話や地下の掃除を終え、一階北側の廊下を清掃していたところで、騒がしい音が聞こえてきた。
聞き慣れた音。館に乗り込んできたメイド長志望の野良妖精が、血気だけは盛んなメイド妖精たちに迎撃されるお馴染みのサウンドだった。
何せうちの妖精メイドたちは元々メイド長志望での殴り込みがきっかけで働きだした者が殆どだ。家事よりも戦闘のほうが得意な者のほうが多いくらいだから、ああいった騒ぎも日常茶飯事ではあるのだが、時期が時期だ。
妖怪の襲撃かも知れないとも思い、私はすぐに身構えた。けれど。
廊下を猛スピードで飛んできたのは、魔女だった。
人間の里でも何度か見かけたことのある相手。妖怪ではなく人間だ。
手癖の悪さでちょっとした有名人らしく、実家から勘当されたとか里から追い出されたとか追い出されないとかなんとか聞いたことがある。
大方、館にめぼしい物でも無いかと忍び込んでいて妖精メイドにでも見つかったのだろうと思い、私は誰に対しても最も理解しやすい方法で、魔女がお帰り遊ばせたくなるよう説得を試みようとした。
と言っても相手が野良妖精の殴り込みなら、相手の頭にリンゴを乗せた上で額に銀の刃を突き立ててやれば、それで事が済むのだが、今は人間を傷つけるのは不味い。
ならば、時間を止めて魔女の金髪を全て丸坊主にまで刈り取り、服をズタズタに裂いた上で喉元をナイフでチクチク突いて説得してやれば、と考えたが、そこまでせずとも、ちょっとばかしナイフを投げつけて、おさげの一本でも切り落としてやれば十分だ、と思ったのが甘かった。
私が最初のナイフを投げるとほぼ同時に、魔女が一枚のカードを私に示し、マスタースパーク、などと叫び、私に向かって魔法を撃って来た。
間一髪でかわしたが、おかげで廊下は滅茶苦茶だ。
魔女はスペルカード戦を挑んで来たのだ。
相手は手癖の悪さで里を追い出された奴だ。つまりスペルカードルールを利用して、合法的に強盗をしようというつもりなのだと、私は解釈した。
この場合の魔女にとっての決闘の条件は館の物品を持ち出すことで、対する私の条件は魔女の館からの退出、という事になるのだろうか、と考えた。
確かに決闘をする利害は一致している、が、何かが根本的に間違っている気がした。
しかしそれ以上に、スペルカードルールを利用して強盗を働くとは、良く考えた物だと、私は感心してしまっていた。
ルールの理念は流血を伴わない紛争解決手段と謳っているが、要は合法的な暴力の行使を明文化したものに過ぎない。
100%の非がある強盗だろうが、スペルカードルールで戦いを挑んで勝ってしまえば、それが肯定されてしまうわけだ。たぶん。
しかも、ルールに則った勝負を受ける以上は、こちらも則った行動で対処するしかない。相手を丸坊主丸裸にしてお帰り願うよう説得する、というような事は出来ないと言うことだ。
不慮の事故でついうっかり人間を殺してしまうのも、やはり今は不味い。わざわざこそ泥を殺して世間の目を紅魔館に集める理由も無いだろう。
ならば極めて紳士的にルールに則ってお帰り頂けば良いだけだ。
黒い服を着て箒にのっているような時代遅れの魔女に、空飛ぶメイドの私が後れを取るともなんとなく思えなかった。
のだが、問題はスペルカードルール用の技など、私は一つも考えてなかった事だ。
仕方が無いので時間を止めて急いで考えたが、今までじっくり考えても思いつかなかった物が急に思いつくはずもなく、アドリブで適当にやる事にした。
ルールでは予め全ての使うの技を提示しなければならないとあった気がするが、魔女もいきなり撃ってきたのだから、その辺りはきっとアバウトにやってしまっても問題ないのだろう。
決まり事とは常に利用する側によって、都合良く解釈され運用されていくものなのだ。
技はアドリブでやるとして、あと決闘に必要なのは技の名前を書いたカード、それと武器だったが、武器は幸いにして刃を削り落としたナイフはあった。スペルカード戦のために用意してあったものだ。手加減して投げれば人間に直撃させても死にはしない。
私は時間を止めている間に急いで自室に戻り、思いついた技名を机の上にあったトランプに書き、刃を落としたナイフも持って魔女の居る廊下に戻った。
そして時間を戻し、魔女に対してポケットから取り出して見せた私のトランプは、ミスディレクション、と書いてあるものだった。
私のカードを見た魔女が生唾を飲み込んだのが伺えた。どんな技なのかと緊張していたのだと思う。
スペルカードとは、技の名前に何かしらの意味を持たせる物であり、だとすれば名前から技を想像してしまうのだろう。
もちろん私としてはなんとなく格好いい感じの名前をでっち上げただけで、技の内容はまだ何をするかすら考えていなかった。
なのでカードを示したは良いが、私は固まってしまっていて、睨み合う魔女となんだか微妙な空気になってしまったので、焦って両手に握っていたナイフを全て放った。
しかしそれでは芸が無さすぎる。すぐに時間を止めて、さらに追加で手持ちの全てを放射状にばらまくように投げてみた。
魔女から見れば、私が両腕を一振りしただけで、数十本のナイフが飛んで来たように見えただろう。
我ながら上出来な派手さだと思ったが、魔女には簡単に避けられて、逆に反撃さえ受けてしまった。
廊下中に魔法をまき散らされると、逃げ場が非常に限られる。
もちろんそれでも、時の操作を駆使すればどうにか避けきれるが、能力は主に自分が投げたナイフを回収するために使わなければならなず、回避に充てる余裕がほとんど無かった。能力を使いすぎれば自滅あるのみだ。
魔女からすれば私が無限にナイフを持っているように思えただろう。
でも私はナイフを投げきる度に時間を止め、廊下に散らばったナイフを回収し、何事も無かったかのように、だいたい元の位置に戻って技を繰り出す、という事をひたすらに繰り返していたのだ。
だから、たまに戻る位置が大きくずれて瞬間移動をしているようにも見えただろうが、まあそういう技ということにしておけば恰好も付くのか。
バカバカしい気がしたけど、ルールに則る以上は仕方がない。
今思えば何故、たかが泥棒だと思っていた相手に勝負の形式に拘っていたのか、自分が不思議にも思えるが、単純に私はルールを破ったり悪用する方法など考えつく間も無いほどに、初めてのスペルカード戦というものに必死になっていたのだと思う。
必死になりすぎて、能力の限界が近づいたときに、思わず逃げてしまったほどにだ。
勝負の途中で逃げてしまってもルール的には良かったのだろうかと、ドキドキしているところに、魔女が追いついてきた。スピードではあちらが断然に上だった。
私は出来るだけ平静を装って、掃除で忙しいのだから邪魔をするな、と魔女に言い訳じみた余裕をぶって見せた。
刃物を握りしめながら掃除が忙しいと言ったところで、説得力などあったものではないが、それくらいに必死だったのだ。
すると魔女は私の焦った様子がよっぽど滑稽に見えたのか、全地球上の家政婦を敵に回すような発言で馬鹿にしてきた。ワシントン条約がどうしたとかいう絶滅危惧種の珍獣扱いだ。
なんとなく悔しいので咄嗟に言い返してみたが、魔法使いが生類哀れみの令などと、自分でも何を言ってるのか良くわからなかった。それくらい焦ってしまっていた。
案の定魔女は、あわれんでぇ~、なんて茶化してくる始末で、ものすごくむかついた。
むかついたけど、どう言い返して良いかわからなくて、とにかく悔しくて、なんでもいいから何か言い返してやろうと思った。
で、あなたもこの館に雇われてきたの。と私は言ったはずだ。自分でもなんでそんな事を訊きだしたのか未だにわからないが、私はとにかくそう言ったのだ。私の頭の中はもうパンクしそうになっていた。
でもそれが魔女が館にやってきた真の動機を暴き出すきっかけになったなど、誰に予想出来ただろう。
あとの魔女とのやりとりは殆ど憶えていないが、とにかく奴はメイド長の座を狙っていたことだけは確かだった。真の目的はそれだったのだ。なんて汚い奴だ。
そうなれば私がやるべきことは単純だ。メイド長の座を賭けて魔女と勝負するだけ。
ところが魔女はスペルカード戦に慣れているらしくやたらと強かった。
もともと私の能力が決闘ごっこに向く物では無いと言うこともあるのだろうが。
二種類の技があっという間に破られてしまった。最初に破られたのと合わせると三つだ。
まあ全部で三種類くらい技の名前を考えておけば、どうにかなるだろうと思っていたのが間違いだった。
このままでは負けを認めなくてはならなくなってしまう、追いつめられた私は時を止め、その場で新しいカードを書いた。
技の名前もかなり追いつめられていた感じがする。メイド秘技操りドール、それが私が咄嗟に思いついた技の名前だった。
メイド秘技操りドール、と技の名前を大声で宣言した時には、魔女が半笑いしていた気がする。
あるいは笑っていたのは、魔女の余裕の現れだったのだろうとも思う。
だってメイド秘技も難なく破られてしまったのだから。
私の負けだった。むかつく魔女にメイド長の座を奪われてしまう。
こうなったら死んで貰うしかない、と私は思っていた。
例え人間を殺し全幻想郷を敵に回したとしても、メイド長の座を他の誰かに譲るつもりはない。なんという軽率な決意だろう、でもあの時の私は本気でそう考えていた。
のだったが。
あー疲れた。と言って魔女は突然帰ってしまったのだった。
私が本気になった事を悟って怯えたのか、それとも勝負の後で、メイドじゃなければ私に勝ってもメイド長になれないという事実を知って、ショックだったのかは知らないが。
元々私を倒せばメイド長に成れるという話は、妖精をおびき寄せて妖精メイドに仕立て上げるための宣伝文句で、当然私が負けた時の事など考えてなかった。けど決まっていない事を咄嗟にきっちり決めただけだから、私は別にずるくないと思う。
ともかく魔女はあっさりと帰ってしまった。我ながら上手く立ち回ったと思う。
とりあえずは魔女との決闘で滅茶苦茶になった廊下を片づけなければならなかった。
が。マーフィーの法則という物だと思う。
片づけ始めてすぐに、また別の人間が殴り込んできたのだ。今度は巫女だった。
博麗の巫女だ。
博麗の巫女なら私も知っていた。妖怪に対して人間が誇る最終兵器。
スペルカードルールのモデルになった決闘戦術を一子相伝で代々継承しているというから、恐らくスペルカード戦においては彼女以上の実力をもった人間も妖怪も存在しないのではないだろうか。
まともにルールに沿ってやりあえば、私が到底敵う相手ではない事は明らかだった。
私が掃除しているところへ、それが襲いかかってきた。問答無用だった。
いきなり撃ってきた。夢想封印、と巫女はカードを振りかざしながら叫んでいた。
巫女からすればこちらを攻撃する理由は語るまでも無いという事なのだろう、霧のせいで人間が困っている、だから巫女が怪しい妖怪を懲らしめに来たわけだ。
反射的に時を止めた。私は魔女に負けたせいもあってか、最強の敵を前にして精神に余裕が無かったのだろう。
身に染みついた行動とは恐ろしい。
私は恐怖に駆られていたと言っても良い。
止まった時の中で巫女へと、私は一足飛びに接近し、彼女の目玉の前に刃を落としていないナイフを投げた、角膜に突き刺さる寸前で止めてだ。それと心臓と延髄と左右の肺と腋と肝臓と腎臓と膀胱とアキレス腱にもだ。
巫女の死が確定した。
あとは時を進めるだけ、その寸前だ、寸前でやっと理性が働いた。
人間を殺すのは不味い。でもどうやら巫女には霧の犯人がばれてる。やるしかないのではないか。いやそれでもスペルカードルールで解決できるならば、妖怪が介入してくる前に人間側と決着を付けてしまえば、介入の大義名分をつぶせるのではないか。少なくとも巫女を殺してしまえば間違いなく戦争になる。戦争の原因を私が作るのか、それがお嬢様に示すべき模範になるのか、暗殺の計画などと言っていたくせに私は今更何を、でもあるいは、まだ平穏な日常に戻れるチャンスも何かあるのでは。何を馬鹿な、世界中を敵に回してもと言っていたのは私ではなかったのか。
様々な思考が頭の中を駆け巡っては消えていった。
結局、停止させたままの時間の中で、私が巫女に向けさせていた全ての武器を、自分の手の中に戻し巫女を殺さなかった理由は、そうしたほうが良いと感じたからとしか言いようがない。
あえて肯定的に言えば、私は希望を最後まで信じようとしたと言えるだろうし、否定的に言えば無謀な楽観主義に流されたとも言えるのだろう。
混濁した思考で頭の中はこんがらがってしまったが、進行している状況は単純だった。
外から殴り込んで来た誰かが、お嬢様をどんな目的であれ攻撃しにいこうと言うのだ。
相手にとってどれほど有利な戦いになるかなど関係は無い。
私は全身全霊を持って阻止するだけだ。
時を戻した私が巫女に対して宣言した最初のカードは、ミスディレクション。
二度目だけあって魔女との決闘の時よりは、技の切れ自体は良くなっていたはずだ。
それでも魔女と戦ったときよりも、ずっと早く技が破られてしまった。
巫女は完全にナイフの軌道を読み切っていたのだと思う。最小限の動きで刃と刃の間をくぐり抜け、その間にも反撃をしてきた。極めて涼しい顔をしてだ。すると気づけばもう私に逃げ場はどこにもなく、あえなく巫女の攻撃を受けてしまう、といった有様だった。 あまりにスペルカード戦の練度が違いすぎた。
しかし諦める訳にはいかない。魔女との決闘の時のように私は一度退却した。
僅かでも休んで能力を使える時間を回復させなければと考えた。
少しの間、メイド妖精が時間を稼ごうとしてくれていたものの、おおよそ妖精が止めきれる相手ではない。
私が逃げ回ってもどうにもならないのは明らかだった。
またお掃除の邪魔する~。追ってきた巫女と再び対面した時に、私はそう言った。
どんな内容の会話でもいいから、時間を稼ごうと思った。
というのは建前で、実際は巫女とのあまりの実力差と、逃げ回っていたという事実がなんとなく悔しくて、掃除が忙しくて決闘に構っている暇なんかないのよ、という振りをついしてしまったのだ。
もちろん私はナイフを握りしめながら、箒で床を掃く振りをしていたのだから、巫女としたらさぞかし、おかしな光景だったろうが、案外気を遣ってくれる人間なのか、それとも他人の事に極端に無関心なのか知らないが、笑ったりしないでくれて、あなたはここの主人じゃなさそうね、とだけ言ってきた。
最初は突然に攻撃して来たから確認する暇が無かったが、私は巫女がどこまで今回の件についての情報を知っているのか、聞き出そうとした。
するとやはり巫女は、霧を出した犯人がお嬢様である事を、どういうわけか確信しているらしく、霧を出すのを止めさせろと私に頼んできた。
そんな頼み事をするなら最初から問答無用で攻撃してくるな、と言いたいところだったけれど、頼まれたところでお嬢様に会うことが出来ないのが私だ。
ついでに言えば、散々止めさせようとした結果がこれだったわけだ。
なんだかもの凄くいじけたくなるような気持ちになったが、気を取り直して、霧を止ませたいなら、お嬢様に直接言ってくれ、と言うしかなかった。
ならばお嬢様とやらを呼んでこい、と巫女は返してきたわけなのだが、はいそうですかと、私が頷くとは当然あちらも思っているわけがなく、彼女の左手には既にスペルカードが。
私の手にもだ。
二回戦目が始まった。
自分が何をしたのかあまり良く憶えていない。極限まで集中していたのだろう。
使った技は魔女の時とたぶん同じだ。わりと別物になっていた可能性も高い。
何しろ殆どアドリブでやってた上に、私なりにより効果的な攻撃になるように工夫もしていたつもりだから。
全力で戦った。とにかく全力で戦った。
そして私の能力の限界が近づいた時だ。
不意に停止していた時間が意志に反して動き出し、集中攻撃を受けてしまった。
完全な敗北だ。
廊下に倒れた私に、巫女はお嬢様の居場所を訊ねてきたが、私が答えられるわけがない。
しかしだった。
私が答えないでいても、巫女は何かを感じたらしい、顔を空に向けたと思えば、窓を開け、時計塔の方へと上昇し始めた。
私ではまるで歯が立たなかった。でもあるいはお嬢様ならば。
と、そこまで考えてやっと、自分の馬鹿さ加減に気づいた。
お嬢様が館に殴り込んできたような相手に、わざわざルールを守って相手をするだろうか、と言うことだ。
普通に五千回くらい巫女を殺しそうな気がした。
やはりあの巫女は、私がどうしても止めなければならなかったのだ。
今更巫女を追いかけて再戦を挑んだとして、勝負にならないのは分かり切っていた。
しかし、あの時の私が、他にどう出来ただろう。
客観的な理念が主観的な意志に、合理的な思考が非合理的な感情に取って代わられていたのだ。まともな行動規範など望むべくもない。肉体的にも精神的にも、全てが限界を超えていた。
ろくに動こうとしない体を強引に動かし、巫女を追って窓から時計塔へ向けて飛び立った。ただ意志と感情に突き動かされてだ。
巫女はまだ窓のすぐ上空にいた。妖精メイドを蹴散らしていたようだ。紅い満月が彼女を照らしていた。
巫女の背中を追いながら、それに、と考えていた。考えていたと言うよりも、最早、私の中にあった願望と不安と希望と絶望が混じった物が、形ばかりの脈絡を成していただけと言ったほうが良い。
それに、もしお嬢様が気まぐれで巫女とスペルカード戦をしたとして、不慣れなルールによって負けてしまった場合、敗北を受け入れるとは思えない。そう私は考えていた。
お嬢様がルールに則った勝負事で運命を操る能力を使うこともあり得ない、自らが勝利を得るように巫女の運命をし向ける事は絶対にないだろう。それはお嬢様にとって勝負での敗北を認めることに等しいからだ。
つまりもし、お嬢様が能力を使わざるを得ないまでに追いつめられれば、その時に本物の実力による殺し合いが始まる。殺し合いではなく、最高級の吸血鬼による人間に対しての一方的な殺戮にしかならないだろうが。
もし巫女がスペルカードで負けてくれれば、お嬢様とて命までは取らないはずだ。
でもあの巫女がスペルカードルールで負ける姿は、どうしても想像出来なかった。
どうあってもお嬢様は巫女を殺してしまうに違いない。
そうなればつい数週間前までの私たちの日常は全て、永久に過去の物になってしまうだろう。
私が守るのだ、私がお嬢様の日常を守るのだ。その一心だった。私がしっかりしなければ。私がお嬢様を勝たせなければ。こんな様では申し訳が立たないではないか。きっと怒られる、所詮は咲夜はひ弱な人間だとか言われるかも知れない。それでもいい、私はまだ動ける、少しでもお嬢様の勝利のために。少しでもいい、巫女を消耗させよう、なんとしてでもお嬢様にスペルカードで勝って貰うしかない。
恐らく私はそんな事を思っていたとのだと思う。
時計塔へと上昇する巫女の前に立ちふさがり、私は最後のカードを書いた。
エターナルミーク。
散々藻掻いた後にただ一つ残るのは、いつだって本物の自分の姿だけなのかも知れない。
戦術や戦法を考える余裕などあるわけがなかった。
めくらめっぽうにありったけのナイフを投げつけるだけ。
能力のキャパシティー全てを、ナイフを拾い集めて絶え間なく攻撃をし続ける事だけに向けた。
巫女からの攻撃を避けることもしなかった。巫女から私の全身に浴びせられた霊力の針は致命傷にこそならなかったが、骨まで軋むようで、とっくにボロボロだった私の服や髪をさらに破り、引きちぎり、むしり取っていった。
痛覚が意味を無くしていて、自分の行動にも意味をなくしていて、私の中に残っていたのは願いだけ、永遠のおだやかさ、永遠に続いて欲しいと思えるおだやかさの中で生きてゆきたいという願いだけだった。
いつしか、私の体は空を飛ぶ力さえも失って落下しようとしていた。
巫女は力つきた私を一瞥だけして真っ直ぐに時計塔へ飛んでいった、何かを言っていた気もするが何を言われたのかは憶えていない。
私が重力にひかれて裏庭の花壇と激突する寸前、意識が途切れる寸前だ。誰かが私を受け止めてくれたけれど、誰だったかはわからなかった。
目覚めたのは日付が変わる直前だった。
意識が戻った瞬間にもう、お嬢様と巫女の事が頭の中いっぱいを埋め尽くしていて、ベッドの上で飛び起きたら、体中から来る痛みに大きな悲鳴を上げてしまった。
側にいた美鈴が慌てて、酷い怪我なのだから起きたらいけない、と私を宥めようとするのが腹立たしかった。
門番のくせに何をしていたのだ、やり場の無い感情を吐き出してしまいそうになったが、私は美鈴が指をさす月を見て、理解した。
窓から見える月は紅く無かった。
終わったんだよ、と美鈴が教えてくれた。お嬢様は巫女とスペルカードで戦って負けを認め、霧を晴らしたのだそうだ。
私が思う程には、お嬢様は子供ではなかった、というだけの極めて単純な事実なのだが、いきなり単純すぎる事実を突きつけられても、俄には納得出来ない物だ。
本当なの? 私は呟いた気がする。
けれど美鈴に言われてしまった。相手を大切に思い心配するのも愛情ではあるが、信じてあげることもまた愛情である、二つの愛情のバランスが大事なのだ、なんて。
私がお嬢様を信じていなかったと言うのか、と、言い返したくなってしまったが、お嬢様とたがえてからを思い返すと、言い返せない自分を発見してしまった。
お嬢様が私たちの暮らしを壊してしまうかも知れない。
私の不安はそれに尽きていたというのに、私は最も根本的な部分を見失っていたようだ。
お嬢様が私たちの暮らしを壊してしまうような事をするわけがない。
パチュリー様も前に言っていた。相手が近すぎて見えにくくなってしまう時がある。そういう事だったのだろうか。
茶でも持ってくるよ、喉乾いたでしょ。そう美鈴が言って部屋の扉を開けた。
すると、廊下の部屋の前に、お嬢様が立っていた。突然に扉が開いたのが驚いたようで、私と目が合うと、慌てて逸らしてた。
おやおや、お嬢様は咲夜に何か言いたいことがあるみたいですねえ、さあどうぞ中へ。と美鈴がお嬢様を中へ招き入れ、扉が閉められた。
二人だけになった部屋の中で、窓からの月の光が、お嬢様の顔を浮かび上がらせていた。
お嬢様は逸らしていた目を、私に向け直し、真っ直ぐに私の目を見返した。
私の主人として威厳を持って振る舞おうとしていたようにも見えた。目を逸らしてしまっていたという事を、まるで取り繕うように、とてもとてもキツイ目をしてベッドの上の私を見てた。
けれど、私がベッドから降りてお嬢様に駆け寄りだすと、どうだろう、私はそんなに怖い顔をしていたのだろうか。確かに顔は歪んでいたかも知れないけど。
お嬢様は体を小さくして両手で頭を庇うようにしゃがんでしまっていた。
私にまたぶたれるとでも思ったのだろうか。両手が届くまで私が近づいた時にお嬢様は、ごめんなさい、と焦った大きな声で言っていた。
私が両手を伸ばしたのは、お嬢様を叩くためじゃない。
私はお嬢様を抱きしめていた。
そして、ごめんなさい、と私は言った。もっと何か言わなければならない事もあった気がするけれど、お嬢様を抱きしめた瞬間に、全部頭の中から吹き飛んでしまった。
私は泣いてしまった。お嬢様の髪に自分の涙が染みこんでいっていた。
お嬢様は私が泣いている間じっと、私の胸に頭を預けていた。
そうしてしばらくしてからだった。お嬢様は、ごめんなさい咲夜、と、最初のごめんなさいよりも、ずっと小さく穏やかな声で、もう一度言った。
8月13日
昨日の騒動で荒らされた館を片づけなければならなかった。
と言っても私はベッドから動くのも難しく、まともに働けるのには、もう少し時間がかかりそうだ。
今日は一日、寝たきりの老婆にでもなった気分だった。
いつもお世話をしているお嬢様に逆にお世話になる生活というのも、妙な気持ちだったけれど、お嬢様があんなに優しくしてくれるならば、正直に言うと後一ヶ月くらいはこうしていてもいい気がしてきてしまう。
今日ほどお嬢様と長く多く話した日もなかなか無い。
ともかくは紅魔館に日常が戻ったのだ。
このお嬢様観察記録も役目を終えた。今日がこの記録を書く最後の日になるだろう。
しかし今更ながら、本当に客観的に記録するべき対象は自分自身だったのかも知れない。とも思う。
もし私がお嬢様の行動について、もう少しだけでも肯定的に捉えられていれば、ここまで騒ぎが大きくならなかったのでは、というのが私の今の感想だ。
そもそも、最初にお嬢様が昼間に一人で出かけていたのは、スペルカードルールの練習のためだったのだそうだ。
お嬢様が言うには、幻想郷のカリスマたるもの例え重い制約のあるルール上でも、他人に遅れを取るわけにはいかない、むしろ本気を出さずとも余裕で他を圧倒できなければならない、どんな状況でも常にナンバーワンになる事こそがカリスマの存在意義の証明なのだ、という事だったらしい。
そのために、昼間の他に妖怪が活動していない時間帯を見計らって、一人で秘密の特訓をしていたのだと言う。お嬢様はああ見えて実は無自覚な努力家でもあるのだ。
何故昼に練習するのかと言えば、敵になるかも知れない相手に、手の内を見せないためだ、とは言っていたが、たぶん練習途中で未完成の技を他人に見せたくなかっただけだと思う。何しろ私にすら秘密にしてたのだから。お嬢様は言うまでもなくプライドがとても高いのだ。
お嬢様がブツブツと呟いていた謎の単語は、カードの名前だったというわけだ。お嬢様は自由でのびのびした発想の名前を考える事が出来る子なのだ。
そして技が一通り出来上がり、お嬢様は最初に私へ技を見せようと思ったという。
飛び切りに綺麗で派手でアーティスティックな技を私にいきなり見せて驚かせようと思ったのだそうだ。
私に技を見せた後は、私を相手に練習しようと思っていたそうだが、組み手をするとなれば傘が邪魔で仕方ない。そこで霧の出番という事になる。
しかし私が怒って止めさせてしまった。
もっともお嬢様がちゃんとあの時点で霧を出す意味を説明してくれていれば、私としても感情的にならずに済んだのだろうけれど。
せっかく咲夜には世界で一番最初に私のスペルカードを見せてやろうとしたのに怒られたから、超不愉快になって後はもう意地になっていた。とお嬢様は笑って言っていた。
お嬢様は済んだことに関しては、割とあっさりなタイプなのだ。
けれど、巫女に負けたことだけは心残りらしく、咲夜と練習していればあんな人間なんかに負けること無かったのに、と何十回も私を責める。さっきも言われた。お嬢様はやはりプライドがとても高いのだ。
次は絶対に勝つから、とお嬢様は極めて気合いたっぷりな様子だ。私の怪我が治ったら早速練習をするそうだ。
次ぎ。とは、つまりまた何かお嬢様はしでかすのだろうか、少し不安になったが、その時はその時で、どうにでもなりそうな気がしてしまうのは、難が去った後の安堵感のせいだけだろうか。
昨日、霧が晴れて巫女が帰った後に、妖怪の賢者が訪ねてきたそうだ。
賢者によると、霧の件は吸血鬼からの人間への攻撃とは見なされずに、異変として処理されたらしい。よって他の妖怪が介入してくる事はないので、物騒なことは考えないように、特に従者の暴走には注意しろ、とお嬢様は言われたそうだ。
異変とは人間がスペルカードルールで解決するべきと定義されている対妖怪紛争だが、今回の件が人間に与えた影響は過小評価出来るものでは無いことも確かで、そこを含めてさえも賢者としては事を荒立てたくは無かったと受け取ることも出来る。
お嬢様も同じ感想らしく、八雲の奴は私がまた大暴れしないかとびびってんのよ、とまで言っていた。
また大暴れする、と言うワンフレーズが気になって詳しく聞いてみた。ならば以前に大暴れたしたことがあるのかと。
ま、今のあんただから話しとくけどね、吸血鬼条約の事よ、あれって実は私が幻想郷に一人で来た時にちょっとばかしここの腑抜けた妖怪と遊んでやってたらね、八雲が超マジで私にかかってきたんだけど、なかなか骨のある奴でさ、私もつい楽しくなっちゃって、相手も年期の入った妖怪でしょう、ほんとに楽しくてね、ついついあいつを結構やばいとこまで追いつめてやったら、あいつ私をスキマとやらに閉じこめたんだわ、うん私の勝ちって事。
閉じこめられたのにお嬢様の勝ちなのですか。もちろん私は聞き返した。
いいこと咲夜、あんただってわかってるだろうけど、世の中には使ってしまえば100%相手を簡単に倒せてしまう能力もある、私の運命を操る能力もそう、八雲の能力もね、先にそういう能力を使ってしまえば、それは自分の負けを認める事でしかない、わかるでしょ。
私にも八雲にも、相手を単に倒すというだけならそれ以上簡単な事は無いってこと、だから大事なのは倒すか倒されるかではなく、相手に勝つか負けるか、そしてあいつは負けを認めた。
八雲は自分から負けを認めてでも、この世界を守りたかったんだろうさ、幻想郷を壊さないでくれって土下座までしてたわ。
私だって鬼じゃないし、条約とやらを結んでやったわ、ほんとは八雲の顔たててやるために八雲が勝った事にしとかないといけないから、条約的にも誰にも真相話したらダメなんだけど、あんたくらいなら良いでしょう。
だってまた咲夜に無茶されても困るもの、だからね、あんたが私の心配なんて、ぜんぜんしなくていいんだから、その気になればこんなちっぽけな世界、私一人でひっくりかえしてやるんだから、
咲夜は、ひ弱な人間なんだから、自分の体は大切にしなさいよね、ほんと巫女と戦ってたときだってあんたね、空から墜ちたら、死んじゃうとこだったんだ、心配したじゃない馬鹿、馬鹿、馬鹿、超馬鹿、それにこんな怪我しちゃったらどこにも連れてってやれないじゃない馬鹿、早く傷を治しなさい、たかがあれくらいの攻撃で、ほんとひ弱な人間なんだから咲夜は馬鹿。
馬鹿、と言われて、私はニコニコと笑っていた。お嬢様があんまりに愛おしいと思ってしまったからだ。
でも幻想郷という世界の危ういバランスが垣間見えた気はする。
割とお嬢様の心持ち一つで成り立っている世界でもあるというわけらしい。
しかし、そうであっても、と思う。
例えば、次ぎにまたお嬢様が何かをしでかしたら、私がスペルカードルールでお嬢様と決闘して、解決してしまってもいいのではないか、だって私も人間なのだし。
そのためにも、お嬢様と練習をするというのは良い考えだと、物騒な事を考えてしまったりもする。
半分は冗談だが。
どちらにせよスペルカードの練習は必要だろう、メイド長の座を狙っているのは妖精だけではない事が判明したのだから。
あの魔女くらいには、すぐに勝てるようにならなければ。
だって私はお嬢様のメイド長であることが、この館のメイド長であることが、とてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとても気に入っているのだ。
書くことが無くなった。これでこの記録はお終いだ。
9月12日
と思ったが。一月過ぎて読み返してみると、また少々、つれづれなく書いてみたくなる物らしい。
特に書かなければならないと思った事ではないのだが、元々書かなければならない事だけを書いた記録でもないというか、むしろ無駄な事をだらだら書いた気がするので、まあ適当で良いだろう。
私は最近ちょっと寂しい気がする。それだけの事なのだが。
お嬢様に新しい友達が出来た。
博麗の巫女の博麗霊夢と魔女の霧雨魔理沙だ。
二人とも紅霧異変の時に殴り込みにきた張本人だ。
拳から生まれる友情もあるのだと、お嬢様は言っていた。
お嬢様に人間の友人が出来るとは驚いたけれど、それ以上に驚いた出来事もあった。
妹様が外に出るようになったのだ。
妹様が初めて部屋から出た当日の紅魔館はちょっとした騒ぎだったが、終わってみればどうという事はない。
本来妹様が居るべきでない場所から出て、居るべき場所に戻った。
それだけの事だったのだ。
もちろんそれが妹様にとっては、何よりも大きな事件だったのだとは思う。
例えば私にとって、私が紅魔館にやってきた日のようなだ。
当時の私にとっては、ただ誰かと一緒に食事をすることすらも歴史的な出来事だったのだから。
妹様の戸惑いつつも新しい生活に希望を抱いている気持ちは、私にはとても良く理解できる。以前の私自身を見ている気さえする。
今ではお嬢様はすっかり神社に入り浸る事が増えていて、妹様を良く連れて行っている。
もちろん私もお供することも多いのだが、それでもお嬢様のお世話をする機会が少しだけ減って私はやや寂しい。
誰もが新しい環境に自分なりに適応していこうとするもの、かつてのライバルとダチになるのは、えてして幸せに繋がる黄金セオリーパターンなの、レミィは幻想郷で自分のプライドを見つける方法と存在意義と、それまでには無かった新しい生き方を手に入れたのよ、妹様もね、かつてのあなたのように、自らの居場所と生き方をがんばって見つけようとしているわ。
パチュリー様から言わせればそういう風に語ったりもする。
ならば図書館に霧雨魔理沙がしょっちゅう遊びに来るようになったのも、パチュリー様にとっての黄金セオリーなのか、と聞いても、どうかしらね、本を勝手に持っていかれて困っちゃうわ、としらばっくられてしまう。
ならば魔理沙が次ぎに来た時には、私が彼女を倒して本を持っていかないようにしましょうか、なんてパチュリー様に意地悪を言ってみた事もある。
いいのよ、本は貸してるだけだから、いずれ嫌でも戻ってくるでしょ、そんな事はどうでもいいの、そんな小さな事より、毎日をどう過ごせるかが大事だと思わないかしら、当たり前の事だけど、私は今が楽しいの、それが私が幻想郷に来て改めて見つけたものよ、咲夜は幻想郷に来て改めて見つけたものはある?
パチュリー様は楽しそうに笑って言っていた。
私が見つけたものと言われても、なんだろう、と考えてしまった。
私自身には異変の後もこれといった変化は無いように思える。
けど美鈴が晩酌に誘ってくるのが増えた気はする。
お嬢様が妹様と二人で出かけた時などには、私は決まって美鈴と門で話し込む。
この前なんか美鈴と二人して門の前で居眠りしてしまった。
まだまだ残暑はあるが、大分過ごしやすくなってきていて、日陰に入っていると心地よくてつい眠くなってしまうのだ。
いつの間にか二人とも眉毛が四倍ほどに太くされていて驚いた。
二人でお互いの顔を笑った物だ。
あとはそういえば今日だ。珍しい物を見つけた。
裏庭の噴水を掃除しているときに、噴水の中にビー玉のような物を見つけて拾った。
ガラスよりもずっと透明で、水の中に沈んでいると存在しているかどうかもわからないくらいだった。
だけれど手の上で良く見てみると、ほんのりとだけ紅い色が入っている。
宝石には詳しいつもりだったけど、初めて見る物だった。
パチュリー様にも聞いてみたら、恐らく水に溶けていた紅霧が、噴水の水流の作用で結晶になったものだろうと言うことだった。
綺麗だと思った。
目の前で景色に透かしてみると、景色自体の色は変わらないのに、赤色が少しだけ強く見える。
お嬢様の紅い目で見る世界はこんなかも知れない。などと思うと、楽しい気分になって、仕事の手が開くたびに景色を紅く透かして見ていた。そんな事をしている間に自分が幻想郷にきて何を見つけたか、などと考えるのを忘れてしまったのだった。
でも、あるいは、とも思う。
私が幻想郷に来てから見つけたものがあったとして、それはもしかしたら、改めて見つけたという事を気づかないくらいに、もしくはつい忘れてしまうくらい、今の自分にとっては当たり前すぎる事なのかも、だなんてだ。
例えばこの紅霧の宝石の紅色みたいに、意識しなければ目に映っていることすら気づかないくらい自然な、今の私のちょっとした寂しさなんかも含めたもの。きっと私が見つけた物があるとしたら、そういうものなのだろう。
俺もそう思っていたが、阿求の求聞史紀には数日間に渡ってと書いてあるから困る。
と、咲夜さんが吸血ハンターな設定はアレ準拠だろうか。
阿求の脳内補完で切って捨ててもいいけど、これはこれでよかった。
咲夜さんの語りが彼女の心情を上手く表していたと思いますよ。
一人で暴走して考えが先走ったりしたことも、
また最後にはレミリアと話してそれが解消されたことも
面白かったですよ。
誤字・脱字が「かなり!」あったので報告です。
>ここでご飯を食べれるのからです
ここは「の」が余計です。
>私は自分の誕生日は知らないかったので
ここも「い」が余計ですね。
>頭から瓶に詰め込としたが
「詰め込もうとしたが」ですね。
>警戒が厳しくなっていたりしまったら
「厳しくなっていたりしたら」もしくは「厳しくなっていたりしてしまったら」かと。
>誰だったはわからなかった
「誰だったかは」じゃないですか?
>ここまで騒ぎが大きくならなかったでは
「ならなかったのでは」です。
>私がまた大暴れやしないかと
ここは「や」が余計かと思います。
いやぁ……ここまで誤字があるのも驚きでしたよ。
とりあえず報告は以上です。
勘違いかもしれないけど、イージーだと「操りドール」じゃなかったっけ?
でも個人的に一番気になるのは保健所はタクシーの運ちゃんに聞いたというのかwww
レミリアがその辺の妖怪ごときに負けるはずねぇだろ!!というツッコミを超越してるぜwwwww
ちょ、行ってる事まるっきり逆じゃないの、メイド長ww
終わってみれば確かにタグどおりの話だったww
咲夜でなく作者が無駄な事を(ry
話が飛び飛びなのが本当に日記のようでした。なんか、書き殴るだけ?
あんまり推敲してないのかなー、もうちょっと纏まりそうなんだけど。
と読みながら思ってしまいました。なんかこう、スマートでない。
点数はおぜうさまと咲夜さんの愛らしさとギャグパートの面白さ補正分です。
毎回太くなってゆく眉毛で笑ってしまったw
私心なんですけどね、レミリア好きの自分でも、この話に出てくる紫はだめだとおもった。
紫最強とまでは言わないけど土下座してる姿は浮かばなかったですよ……。
でも、後書き読んで、やっぱそうだったのかと思ったことも。
読んでる最中にもそうなのかなと思ったんだけど、イージーで魔理沙、ノーマル以上で霊夢での、咲夜との対決部分はお話の中で1番好きな部分です。
長いけど色々含まれてて面白かった。
紫の描写さえもう少し対等に扱ってくれていたら、80以上つけたと思います(この辺は好みだからしかたがないかもしれないですね)
土下座うんぬんはレミリアが言った強がりかと思ってた。
面白いんだけど前編後編にわけてもいい長さだと思うよー
良かったです。
面白かったです
もう10回は読みかえしたかな