だれがこまどり ころしたの?
わたし とすずめがいいました
わたしのゆみやで
わたしがころした
だれがこまどり しぬのをみたの?
わたし とはえがいいました
わたしがこのめで
しぬのみた
だれがそのちを うけたのか
わたし とさかながいいました
ちいさなおさらで
わたしがうけた
……………
……………
……………
……………
……………
……………
……………
……………
だれがさんびか うたうのか?
わたし とつぐみがいいました
こえだのうえから いいました
わたしがさんびか うたいます
だれがかねを つくのかね
わたし とおうしがいいました
なぜならわたしは ちからもち
わたしがかねを ついてやる
かわいそうな こまどりのため
なりわたるかねを きいたとき
そらのことりは いちわのこらず
ためいきついて すすりないた
薄い白色の上に、仰向けで横たわる大妖精と呼ばれる妖精に、チルノという名の妖精はゆっくり覆い被さる。しっかりとチルノを見る大妖精、ちゃんと大妖精を見れないチルノ。
ためらいながら、チルノは大妖精に触れる。その小さな掌に、後ろから伸びた掌が重なる。大妖精はうなずいて、ゆっくり目を閉じる。
チルノの掌から凍れる力、重なった掌から流れる寒気が後押しして、瞬く間に冷たく、凍り付いて、霜の白に染まった大妖精は、呼吸を止めていた。
チルノの掌に重なっていた手は、ふわりとチルノを包み込んだ。チルノは自分から、背後にいる人物の、豊かな胸に飛び込んだ。震えるチルノの小さな体を受け止めた女性、レティは、改めてぎゅっと抱きしめる。
チルノは声を震わせて。
「レティ、あたい、あたいね、みんな好き、大好き……」
「うん」
レティは、より強く、抱く。
「レティ、あたい、あたいもう、疲れたよぉ……」
「うん」
チルノは、自分の胸の上に両手を重ねる。
「レティ、あたいを、眠らせて……」
「わかったわ。チルノちゃん、おやすみなさい」
チルノが自らに放つ凍れる力、抱きしめるレティが、その力を強める。霜に包まれて、息をしなくなるのは、すぐだった。
レティは、チルノを大妖精の隣に寝かせた。二人は、自分等が横たわる白色の一つになった。何故なら、チルノと大妖精の下は凍って霜の掛かった妖精で、その隣も下も凍った妖精で、そのまた隣と下も凍った妖精で、そのまたさらに隣と下も凍った妖精で、それからまたまた隣と下も凍った妖精で、ずっとずっとずっとずっと、凍った妖精が続いて重なって延々積み上げられて出来上がった、白い山だったから。
山頂で佇むレティ、頂きとなった二人を見下ろす瞳から、こぼれる物はない、ただ、その後に真っ青な空を見上げた瞳は、噛み付くよう。
「Who killed Cook Robin?……」
井戸の前、荒い息を繰り返し、九つの狐の尻尾を持つ少女が一人、少し離れたところに脱いだ着物を畳んで重ね、汲み出した冷水を頭から被る。水の滴る裸体には塞がったばかりの傷跡が沢山、肩から乳房までをばっくり割った痕、腹から背までをざくっと貫いた痕、腕や足やあちこちにすぱすぱ切れた痕。
彼女、名付けられた名は八雲 藍。
藍は井戸を背もたれに、そのまま地面に座り込んだ。
ぼんやりと開いた目で、右手の指が、左手の指が、右足の指が、左足の指が動くのを見て、安心し、目を閉じた。そして、そのまま横に倒れた。
藍の閉じた目蓋に像が浮かび、語りかけてくる。
『いいこと?貴女は式神なのよ。私が決めた通りに動かなければ、力を発揮することはできないし、何より、貴女自身も消滅しかねない。いいこと、肝に銘じておきなさい。私が命令した以外のことを、絶対にしては駄目よ。絶対よ』
そこに誰もいないが、藍はつぶやく。
「……紫様、ごめんなさい。私はこれから賭けを打ちます……」
藍は眠った。
藍が目を覚ましても、水を汲みに来る人間はいなかった。
山々の様子を一目で望める上空に留まる、カラスの羽を羽ばたかせた天狗が二人。
「どうだった」
「駄目だ、どうしようもない」
天狗の一人が苦虫を噛み潰す。
「くそ。空高く見渡そうとも見つけることかなわず、地を行こうとも至ることかなわず。これが大天狗様が危惧された異変なのか」
もう一人の天狗は深く息を吐く。
「……いや、恐らくこれは異変の一端でしかない。大天狗様が危惧された異変の本質はもっと別。でなければ、我等だけを使いとして寄越される筈がない」
怒声が響いた。
「馬鹿なこれで一端だと?これ以上の異変があるものか!?」
強く諌める。
「取り乱すな。俺はもう少しここで粘ってみるが、お前は報告に戻れ」
さらに大きい怒声が響く。
「それこそ馬鹿だ!お前が粘ってどうなる。こうなった以上、帰りの安全も保障できん。俺達二人で、ここで起こったことを確実に報告するんだよ」
わずかな間。
「そう……だな。その通りだ。何があろうと確実に報告しないとな、『どうしても博麗神社に辿り着けない』と」
分厚い雲の下を冷たい風が駆け抜け、それがやんで、みるみる内に雲が晴れて、それなりに明るくも眩しくはない晴天が開けた。
雑草一つもない地面が続いて、大きいお屋敷がひとつあって、その向こうに桜。そこここに桜の花びらが舞い、どこもかしこも桜の香が漂う。全ては、一本の桜の仕業。
その桜はとても大きくて、幹は一人の腕では包めない、縄でぐるりと囲もうにも、それだけ長い縄はほとんどお目に掛かれない。高さも同じ、人の体で測れない、何人肩車してもどうしようもない、きっと半分も届かない内に下の人間が崩れてしまう。
そんな風に、人の寸尺では「とても大きい」としか言えない桜の木の根元で、これまた人で測ると骨の折れそうな途轍もなく広がる枝々に咲いて描く桜花の雲を、じっと見上げる瞳が二つ。
桜の根元で隣り合う二人の少女。真下から空を覆う桜花爛漫を眺める、頭上の桜と同じ桜色の髪をした少女は、ぽつりと言う。
「やっと、暖かくなるのね」
その隣、光沢を孕んだ金の髪を長くなびかせる女性は、真っ直ぐ前を向いたまま。
「うん……」
言葉だけで、うなずいた。
桜色の少女は、ずっと上の、ずっと遠くの桜の花、一輪一輪をつぶさに見る。
「綺麗。春を待たずにこの繚乱」
「うん……」
同意はすれど、金色の少女、その視線は頭上へ向かわず、正面の落ちる桜の花びらを見て……もいない、焦点があっていない。
「お腹すいた?貴女の好物、人間、持ってくるわ」
「いかないで……」
「そう」
桜色の少女は、浮いた腰を落ち着けた。
そして。
桜色の少女は、肩から手を回して、金色の少女を抱き寄せた。
桜色の髪と、金色の髪が、触れ合う。
そのまま。
「幽々子、温かい……」
「私もよ、紫……」
これは、千年昔の話。
わたし とすずめがいいました
わたしのゆみやで
わたしがころした
だれがこまどり しぬのをみたの?
わたし とはえがいいました
わたしがこのめで
しぬのみた
だれがそのちを うけたのか
わたし とさかながいいました
ちいさなおさらで
わたしがうけた
……………
……………
……………
……………
……………
……………
……………
……………
だれがさんびか うたうのか?
わたし とつぐみがいいました
こえだのうえから いいました
わたしがさんびか うたいます
だれがかねを つくのかね
わたし とおうしがいいました
なぜならわたしは ちからもち
わたしがかねを ついてやる
かわいそうな こまどりのため
なりわたるかねを きいたとき
そらのことりは いちわのこらず
ためいきついて すすりないた
薄い白色の上に、仰向けで横たわる大妖精と呼ばれる妖精に、チルノという名の妖精はゆっくり覆い被さる。しっかりとチルノを見る大妖精、ちゃんと大妖精を見れないチルノ。
ためらいながら、チルノは大妖精に触れる。その小さな掌に、後ろから伸びた掌が重なる。大妖精はうなずいて、ゆっくり目を閉じる。
チルノの掌から凍れる力、重なった掌から流れる寒気が後押しして、瞬く間に冷たく、凍り付いて、霜の白に染まった大妖精は、呼吸を止めていた。
チルノの掌に重なっていた手は、ふわりとチルノを包み込んだ。チルノは自分から、背後にいる人物の、豊かな胸に飛び込んだ。震えるチルノの小さな体を受け止めた女性、レティは、改めてぎゅっと抱きしめる。
チルノは声を震わせて。
「レティ、あたい、あたいね、みんな好き、大好き……」
「うん」
レティは、より強く、抱く。
「レティ、あたい、あたいもう、疲れたよぉ……」
「うん」
チルノは、自分の胸の上に両手を重ねる。
「レティ、あたいを、眠らせて……」
「わかったわ。チルノちゃん、おやすみなさい」
チルノが自らに放つ凍れる力、抱きしめるレティが、その力を強める。霜に包まれて、息をしなくなるのは、すぐだった。
レティは、チルノを大妖精の隣に寝かせた。二人は、自分等が横たわる白色の一つになった。何故なら、チルノと大妖精の下は凍って霜の掛かった妖精で、その隣も下も凍った妖精で、そのまた隣と下も凍った妖精で、そのまたさらに隣と下も凍った妖精で、それからまたまた隣と下も凍った妖精で、ずっとずっとずっとずっと、凍った妖精が続いて重なって延々積み上げられて出来上がった、白い山だったから。
山頂で佇むレティ、頂きとなった二人を見下ろす瞳から、こぼれる物はない、ただ、その後に真っ青な空を見上げた瞳は、噛み付くよう。
「Who killed Cook Robin?……」
井戸の前、荒い息を繰り返し、九つの狐の尻尾を持つ少女が一人、少し離れたところに脱いだ着物を畳んで重ね、汲み出した冷水を頭から被る。水の滴る裸体には塞がったばかりの傷跡が沢山、肩から乳房までをばっくり割った痕、腹から背までをざくっと貫いた痕、腕や足やあちこちにすぱすぱ切れた痕。
彼女、名付けられた名は八雲 藍。
藍は井戸を背もたれに、そのまま地面に座り込んだ。
ぼんやりと開いた目で、右手の指が、左手の指が、右足の指が、左足の指が動くのを見て、安心し、目を閉じた。そして、そのまま横に倒れた。
藍の閉じた目蓋に像が浮かび、語りかけてくる。
『いいこと?貴女は式神なのよ。私が決めた通りに動かなければ、力を発揮することはできないし、何より、貴女自身も消滅しかねない。いいこと、肝に銘じておきなさい。私が命令した以外のことを、絶対にしては駄目よ。絶対よ』
そこに誰もいないが、藍はつぶやく。
「……紫様、ごめんなさい。私はこれから賭けを打ちます……」
藍は眠った。
藍が目を覚ましても、水を汲みに来る人間はいなかった。
山々の様子を一目で望める上空に留まる、カラスの羽を羽ばたかせた天狗が二人。
「どうだった」
「駄目だ、どうしようもない」
天狗の一人が苦虫を噛み潰す。
「くそ。空高く見渡そうとも見つけることかなわず、地を行こうとも至ることかなわず。これが大天狗様が危惧された異変なのか」
もう一人の天狗は深く息を吐く。
「……いや、恐らくこれは異変の一端でしかない。大天狗様が危惧された異変の本質はもっと別。でなければ、我等だけを使いとして寄越される筈がない」
怒声が響いた。
「馬鹿なこれで一端だと?これ以上の異変があるものか!?」
強く諌める。
「取り乱すな。俺はもう少しここで粘ってみるが、お前は報告に戻れ」
さらに大きい怒声が響く。
「それこそ馬鹿だ!お前が粘ってどうなる。こうなった以上、帰りの安全も保障できん。俺達二人で、ここで起こったことを確実に報告するんだよ」
わずかな間。
「そう……だな。その通りだ。何があろうと確実に報告しないとな、『どうしても博麗神社に辿り着けない』と」
分厚い雲の下を冷たい風が駆け抜け、それがやんで、みるみる内に雲が晴れて、それなりに明るくも眩しくはない晴天が開けた。
雑草一つもない地面が続いて、大きいお屋敷がひとつあって、その向こうに桜。そこここに桜の花びらが舞い、どこもかしこも桜の香が漂う。全ては、一本の桜の仕業。
その桜はとても大きくて、幹は一人の腕では包めない、縄でぐるりと囲もうにも、それだけ長い縄はほとんどお目に掛かれない。高さも同じ、人の体で測れない、何人肩車してもどうしようもない、きっと半分も届かない内に下の人間が崩れてしまう。
そんな風に、人の寸尺では「とても大きい」としか言えない桜の木の根元で、これまた人で測ると骨の折れそうな途轍もなく広がる枝々に咲いて描く桜花の雲を、じっと見上げる瞳が二つ。
桜の根元で隣り合う二人の少女。真下から空を覆う桜花爛漫を眺める、頭上の桜と同じ桜色の髪をした少女は、ぽつりと言う。
「やっと、暖かくなるのね」
その隣、光沢を孕んだ金の髪を長くなびかせる女性は、真っ直ぐ前を向いたまま。
「うん……」
言葉だけで、うなずいた。
桜色の少女は、ずっと上の、ずっと遠くの桜の花、一輪一輪をつぶさに見る。
「綺麗。春を待たずにこの繚乱」
「うん……」
同意はすれど、金色の少女、その視線は頭上へ向かわず、正面の落ちる桜の花びらを見て……もいない、焦点があっていない。
「お腹すいた?貴女の好物、人間、持ってくるわ」
「いかないで……」
「そう」
桜色の少女は、浮いた腰を落ち着けた。
そして。
桜色の少女は、肩から手を回して、金色の少女を抱き寄せた。
桜色の髪と、金色の髪が、触れ合う。
そのまま。
「幽々子、温かい……」
「私もよ、紫……」
これは、千年昔の話。
期待して待ってます!
だから頑張ってください。
勝手なこと言ってすみません。