Coolier - 新生・東方創想話

こいしのグルメ3~夜雀の屋台~

2011/01/18 14:03:45
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……

…………

………………


気が付くと私は人混みの中にいた。
無意識で行動する私にとって見知らぬ場所にいる事はよくある事ではあるのだが
身動きが取れないほどの人混みの中にいるのは初めてだった。

ほぼ身動きがとれないため人の流れに身を任せる事くらいしか出来ないのだが
深刻な事にまた私は空腹感を抱えていた。
時刻は――周囲を確認すると真っ暗だから恐らく――夜中だろう。
きっとまた無意識で暫く何も口にしていないのだろう。

それにしても何なんだろうこの人達は、一体何を思ってこんな夜中にココに
集まっているのだろうか?
そもそもココは何処なのだろうか?
人に囲まれているうえに周囲は暗く場所の特定すらできない。

だが『ココが何処』で『何故こんなに人がいるのか?』という疑問も
お腹が空きすぎてもうどうでもよく感じていた。

私の中をしめる感情は、全く身動きが取れないこの状況と込み上げる空腹感による
苛立ちだけだった。



――



ほどなくして、この人混みが一体何の集まりだったのかを理解した。

「…………」

私の目の前には大きな賽銭箱が置かれている。
よくよく考えてみると今日の日付は1月の1日、つまり元日だ。
私は特に初詣などに興味などもないのにいつの間にか参拝客の人混みの中に
紛れていた様だった。

……私は一体何をしているのだろう?
無意識の行動とはいえ、特に参拝をする事もなく興味もないのに初詣客の中に紛れ込み
結局お参りをする事もなく人混みから離れる。

一体私は何がしたいのだろうか?
自分で自分の事が解らない。



――



やっとの思いで人混みから離れると私は何か食べる物がないか周囲を捜してみる。

初詣とはいえこれだけ人が集まるからだろう、出店が何件か出ているのだが
そこにもまた人が集中していてとても並ぶ気になれない。

特に私は他者に認識されにくいから、並んでいても順番を抜かされてしまう事が多い。

彼らも空腹なのだ、だから我先に我先にとはやる気持ちのせいで視界は狭くなり結果として
ただでさえ認識しにくい私に気が付く事なく順番を抜かしてしまう。

開き直って割り込みをしても、ここまで人が多いと上手くいかない。
お店の人も沢山のお客さんの相手をするために目の前が見えにくくなっている事が多い。
だからいくら私が目の前で注文をしても聞こえない事が多い。

経験で解る。

こういう雰囲気の場所には私が座る席は用意されていないのだ。

「……はぁ」

暖かそうなオデンや焼き鳥、甘酒やお汁粉を配っている所もあり後ろ髪が引かれる思いだったが
私はペコペコのお腹を抱えながら帰路についた。



――



「あーあ、せっかく外に出てきたのに結局家に帰って食べるのか……」

愚痴を洩らしながら帰る私の視界にある物が映った。
それは赤い提灯と古びた屋台、提灯には『八目鰻』と書いてあった。

「鰻か……、よし!買って帰ろう」

そこは神社の喧騒から少し離れた場所で人気は無かった。
これならば私でも普通に買う事が出来るだろう。

何故わざわざ人気の少ない所で商売をしているのか少々気になったが
空腹だったため私は期待を胸に屋台に近づいた。



――



屋台は(寒さ避けのためだろうか)シートを被っていたのでシートを退けて中に入る。

屋台の中を見て私は固まってしまった。
こんな人気の無い所で仕事をしている事だけでも変わっているのに
屋台に立っているのは鳥の羽の付いた妖怪だった。
屋台にいるお客さんも人間ではなく妖怪や妖精ばかりだ。

てっきり人間がやっている屋台だと思っていた私にこの光景は驚きだった。

何だか夢でも見ている気分だ。

「あ、いらっしゃいませ♪」

ボーっとその光景に目を奪われていた私は、店主の声で我に返った。

「あ、えっと……鰻、一人前買って帰りたいんだけど」

「はーい、寒いですから中に入って待ってください」

と言われても狭い屋台の中はいっぱいだった。
そんな困惑する私の顔を見てだろう、店主である女性は柔らかに微笑んだ。

「大丈夫ですよ、今つめますから……、リグルごめん裏から椅子持ってきてくれる?」

「うん、いいよ」

言って緑髪の子が屋台から出て行った。

「どうも……すいません」

わざわざ寒い場所に椅子を取りに行く彼女の事を考えるとなんだか申し訳なくなってくる。

「いいんですよ気にしないで、ところで失礼ですけどお客さんも人間ではないですよね?
今夜は初詣か何かですか?」

「え?……うん、そうだけど」

無意識の行動のため参拝目的で外に出てきたわけではないが、わざわざ自分の事を
説明するのも面倒に思ったので適当に相槌をうっておいた。

「へぇ、アンタ妖怪なんだ?あんまり見ない顔だけど、どっから来たの?」

「地底からだけど……」

青い髪のやけに馴れ馴れしい感じの妖精が話掛けてきた。
それに何だか彼女の横にいる(さっきのリグルと呼ばれていた子とは別の)緑髪の子が
笑顔なのに随分青い顔をしているのが気になった、体調でも悪いのだろうか?


「そうなんだ通りで肌の色が白くて綺麗なわけだ、地下なら日の光が当たらないもんね」

外から椅子を持ってきてヒョコッと顔を出してリグルと呼ばれた子が言ってきた。

「…………」

突然肌の事を褒められて思わず黙ってしまった。

「お客さん、飲み物は何にします?ビールでも熱燗でも用意できますけど♪」

その声にハッとする。

「あ、いや、持って帰って食べようと思って」

私の言葉に屋台の中の視線が集まった。

「持って帰るって自分の家まで?」

「え?うん」

「家は地下のどこら辺なの?」

「えと、地下の旧都のはずれだけど……」

リグルの問いかけに私は反射的に答えていた。

「地下のそんなに奥までだったらまでだったら冷めちゃうよ?せっかくだから熱い内に食べないと
せっかくだから食べていきなよ」

「そうそう、出来立ての熱々が一番美味しいんだよ?ごめんミスティアちゃん私限界、熱燗お願い」

「はぁ……」

あまり気乗りしない感じの私の声に

「そうそう、食べてけばいいよー」

奥で先ほどからひたすら鰻を消費していた金髪の子が言ってきた。

うーん、どうしてこうなるのだろう?
持って帰るつもりが何だかココで食べなければいけない雰囲気になってきた。

「……リグル何だかその子に妙に優しくない?」

私が頭をかかえていると、そんな事をポツリと青い髪の少女が呟いた。

「え?別にそんな事ないと思うけど?」

リグルとしては特になんでもない親切心だったのだろう。

私もそう思っていたのだが違うのだろうか?
そんな私の疑問は、奥の席でひたすら鰻を食べていた子が解消してくれた。

「違うよリグル、チルノは構ってもらえなくて寂しいだけなんだよ、それにリグルがその子の
肌の色が白くて綺麗とか言ったから拗ねてんだよ」

「な、何言ってんのルーミアそんなわけないじゃない!最強のアタイがリグルごときに
構って貰えなくて寂しがってるわけないでしょ!!」

何だか解りやすいくらい墓穴を掘っている。

「何、チルノアンタもしかして拗ねてんの?」

「な!?バ、バカじゃないの!?そんなわけないじゃん!!」

チルノと言われた子が反論しているが、さっきの言動からどう見ても拗ねている様にしか
見えなかった。

「ほらほら構ってあげなくてごめんね~」

まるで子供と話すような口調でリグルはチルノの頭を撫で始める。

「うっさい!止めろバカ!」

ソレをチルノは鬱陶しそうに払いのけるがリグルは止めない。

どんなに払いのけても撫でるのを止めようとしないリグルにチルノは真っ赤になって叫んだ。

「く、この、いい加減にしなさいよこのGめ!」

『G』と言う単語にリグルが動きを止めた。
私にはどういう意味だか解らなかったがどうやら禁句のようだった。
なぜなら、リグルだけじゃなく、店内にいる私以外の全員が複雑な表情をしていたからだ。

「アンタ今何ていった?私はGじゃないっていつも言ってるでしょ!!」

「へへーんバーカ、Gのくせに最強のアタイをからかう何て生意気なんだよ」

「このっ!」

チルノ挑発にリグルがスペルカードを発動しようとするが、女将さんの制止が入った。

「ちょっと二人共弾幕勝負するなら外でやってよ、迷惑でしょ!!」

「だってミスチーリグル(チルノ)が……」

「両方とも悪い!!」

女将さんの一括に二人は罰が悪そうに押し黙った。
その二人を見て女将さんは呆れた感じで口を開く。

「まったく…、バカな奴らでしょ?許してくださいね、でも、こんなお店ですけど6ボスの方が
来てくれたりもするんですよ」

「へぇ」

私は特に騒がしいのは気にならなかったが、彼女の言葉に店内にいた者達が反応する。

「ちょっとミスチー酷いよ、バカな奴らとかさ」

「そうだよミスティアちゃん、他の子はともかく私は馬鹿じゃないよ!」

その言葉に店内全ての視線が彼女に集まった。

「……前言撤回、大ちゃんが一番酷いや」

リグルが何とも言えない顔で大ちゃん(本名が解らない)に言う。

「でもミスチーも酷いよ、アタイミスチーのハート信じられなくなった」

チルノのその言葉に女将さんは上品に笑う。

「フフ、ハートは変わらないよ昔から五百万円」

言いながら彼女は手を開いて見せている。

「いや、変わらないのは歌声だよ」

「そうそう、ミスチーは昔から歌手やっててそこらじゃ有名なんだよ」

「あ……、そうなんだ」

リグルに言われてみてマジマジと見つめてしまう。
この鰻を焼いている女将さんは確かに顔も可愛いし声も綺麗だ。
地下には名前は届いていないが有名な歌手と言われても何だか納得出来る。

そう思って何度か無言で頷く私をみて女将さんは慌てる。

「ああ!ちょっと嘘ですよ嘘!私なんてまだまだ無名なんですから!もう皆も始めてのお客さん
の事からかっちゃ駄目だよ、勘違いしちゃうから」

別に嘘とは思えなかったが、女将さんは照れたのか顔が真っ赤になっていた。

「…ハハ、五月蠅いでしょこのお店」

照れ取れ隠しのためかジッと見つめる私に頬を掻いて女将さんは言った。

「ううん……」

賑やかとは思ったが五月蠅いとは感じなかった。

でもだからこそ私には少しこの空気が辛かった。
誰も周りに遠慮していない会話で解る。
きっとこのお店にいる人達は私以外が皆顔馴染みで親しい仲なのだろう。
たまに失礼な事を言い合っているがソレを皆で楽しんでいる様に感じる。

その証拠に先ほど弾幕勝負を始めようとしていたリグルとチルノは何事もなかったのかの
様にまた話をしていた。

これが彼女達の日常であるのだろう。

何だか私が何か言葉を発する度にその空気を壊している気がしてしょうがなかった。

「はい、お待たせ!秘伝のタレを使って作った特製のヤツメウナギですよ♪」

「あ…美味しそう」

私はお腹が空いていた事もありさっそく注文した鰻に箸をつける。

鰻の身をほぐし一口、口に入れると鰻とタレの美味しさが口の中いっぱいに広がる。
焼きたての鰻の身はホクホクとしていて少し甘めのタレとよく馴染んでいた。

「(うん……これは美味しい、けど……)」

この美味しさを私はどうやって表現したらいいのだろう?
何だか何を言ってもここの空気を壊してしまいそうで怖い。

「……お姉ちゃんにも食べさせてあげたいな」

それは私の素直な感想だった。
ただ、幸いな事にその言葉は無意識に発したもので自分以外の誰もその呟きに
気が付く人はいなかった。

皆の話し声が聞こえる中私は一人黙々と鰻を食べ続ける。

うん、美味しい……、凄く美味しい、本当に……これ。



――



私が鰻を食べ終わっても皆の楽しそうな話し声は終わる事はなかった。

ただ食べ終わっただけだ、そう、それだけの事をいちいち報告する事もないだろう。
私は『ご馳走様』と呟くと、彼女達の話の邪魔にならない様にこっそりと屋台を抜け出した。



――



屋台を出ると身を切るような寒さが私を迎える。

「う~寒い」

もう一度屋台の中に戻りたくなる気持ちを我慢して歩き出す。

無意識にとはいえ、今日は外に出てきて良かった。
あんな美味しい鰻屋台を見つけられるとは幸運だ。

そんな事を考えながら、屋台からそれなりに離れた頃だった。

「あ、いた!お客さーん!」

先ほどの鰻の味を思い出しながら歩く私の後ろの方から声がかけられた。
声の方を見るとさっきの屋台の女将さんが慌てた感じで追いかけてきていた。

あれほど慌てた感じでどうしたというのか?

「……どうしたの?」

「はい、あの私の鰻どうでした?」

ソレを聞くためだけに追いかけてきたのだろうか?

「……凄く美味しかった、です」

彼女の行動を疑問に思ったが、素直な意見を言っておいた。
さっき屋台にいた時に伝えられなかった事でもあるが、私の言葉に女将さんは笑顔になった。

「それはちょうど良かった、あのコレよろしければ食べてください♪」

言葉と共に鰻の入った袋が手渡された。
中を見ると4、5人分程入っている。

「え?でもこんなにい貰ってもいいの?」

「はい、今日はちょっと張り切りすぎて多くさばいちゃってて、残っても捨てるだけですし
それにお姉さんがいるんでしょ?ですから一緒に食べてください」

「え、何で……?」

私にお姉ちゃんがいる事を知っているのだろう?

「何でって、お姉さんにも食べさせたいって言ってたじゃないですか」

「…………」

私は言葉を失った。

「そう言ってもらえて、私も凄く嬉しいんですよ」

無意識の言葉だったからてっきり誰も聞いていないのだと思っていた。
彼女も聞いていないのだと思っていたのに、彼女だけは私の声に耳を傾けてくれていた。
誰も私の声になんか気が付かない中で彼女だけは気が付いてくれていた。

私は不思議な感覚に包まれた。
胸の辺りが何だかくすぐったい様な感じがするのにそれが全く不快ではない。

「あの……」

「はい?」

「今度、お姉ちゃんと来てもいい?」

「もちろん、是非いらしてくださいね♪お待ちしています!」

彼女の声に、笑顔に何だか私の閉じた第3の瞳が疼いた気がした。

「……それじゃあ、ご馳走様」

「はい、お粗末様でした、またいらしてくださいね、お待ちしています」



――



彼女はずっと手を振っていた。
その彼女の姿に私の心は何とも言えない満足感で満たされていた。

右手に出来立ての鰻の暖かさを感じながら私は口にする。

「また、今度はお姉ちゃんと一緒に行こう」
おわかりいただけただろうか?
こいし代金払い忘れ――無意識
ミスティア代金貰い忘れ――鳥頭
かんぜんはんざい!
……いや本当にすいません、くだらなくてすいません。

こいしの無銭飲食は続く……かもしれない

最後までよんでいただきありがとうございました。
暇潰しにでもなれば幸いです。


5様
和やか系の雰囲気SSを目指してのものでしたので嬉しい限りです。
かんぜんはんざいだ

奇声を発する程度の能力様
今年に入ってかんぜんはんざい(棒読み推奨)を思いついた訳ですが
楽しんで頂けたようで何よりです

10様
無意識にはまだまだ無限の可能性があるはずです!
多分、おそらく、きっと……

16様
かんぜんはんざい(笑)が認められた!
ミスチーは通常だと普通の好きキャラで終りますが、おかみすちーになると脳内順位が跳ね上がります。
そしてキャラも変わります(ぉ


コメントありがとうございました。
H2O
http://twitter.com/H2Oekijou
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コメント



0.870簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
た、たしかに かんぜんはんざいだー!

賑やかでほのぼのしてて和みましたw
9.100奇声を発する程度の能力削除
すげーww確かにかんぜんはんざいだw
和やかで良かったです
10.80名前が無い程度の能力削除
なんというかんぜんはんざい……こいしちゃんおそるべし!!
16.90名前が無い程度の能力削除
ええ、かんぜんはんざいですよ、これは。
そりゃあもう恐ろしいまでにかんぺきなはんこうです。

みすちーの女将っぷりに感動した……
23.80プロピオン酸削除
無意識ならしょうがない。うんしょうがない。