Coolier - 新生・東方創想話

こいしのグルメ2~寺と精進料理~

2010/02/01 02:47:36
最終更新
サイズ
6.7KB
ページ数
1
閲覧数
1354
評価数
8/31
POINT
1700
Rate
10.78

分類タグ


あまりの空腹にお腹と背中がくっ付いてしまいそうだった。

今回は久しぶりに自分の意思で地上を訪れた。
人間の里に美味しい甘味屋があるとペットのお燐に聞いて楽しみにしていたのだが
教えられた店に行ってみると店は閉まっていた。

表には張り紙があり
『身内に不幸がありましたので、申し訳ございませんがしばらく休ませていただきます』
と書かれていた。

まったく、せっかく地上に出てきたのに無駄足に終ってしまった。

「はぁ……」

私は以前森で迷った時と同じ様にまたも空腹のお腹を抱えていた。

と言うのもお燐からその店はメニューが豊富だと聞いていたから沢山食べようと思って
朝食も昼食も我慢してきたからだ。
我ながら間抜けだと思う。

さて、お腹は減りすぎている。
……どうしょう?

何でも良いと思いながら入る店のなさと空腹感に苛立ちを覚えてくる。

昼食時だからだとは思うけど、どうしてどこの店も満員なのだろう?
普段なら一件や二件くらいなら空いている店もあるだろうに今日に限って運がない。

「あ、しまった……」

ああ……、情けない。
どこにも入れずに私はとうとう里の端まで来てしまった。
引き返そうか……?
いやいや、無意識の時ならまだしも今回は意識的に動いていたせいで認識されてしまっている。
同じ顔がウロウロしていては変に思われる、それが妖怪なら尚更だ……。

「……はぁ、ん?」

溜息をつき、今日はもうしょうがないからこのまま大人しく帰って地霊殿で何か食べよう。
そう思っていた私の目にある建物が映った。

それは最近人間の里に出来たという寺だった。
寺なんて妖怪にとって天敵の巣窟でしかないが、たしかこの寺の住人達は人間だけでなく妖怪にも
寛容であると聞いた事がある。

もしかしたら何か食べさせてもらえるかもしれない。

精進料理はちょっと抵抗があるが、どうせ里の食べ物屋には入れないだろうし、なによりずっと何も食べてない
空っぽの胃にはそういった物の方がいいかもしれない。

私の足はフラフラと無意識に寺の方へ進んだ。



――



「…………」

寺の中に入ったもののまったく寺の住人に会わない。
誰もいないのだろうか?

だとしたら困った事になる。
何か食べられるかもと期待していたんだ。
これではまたも無駄足だ。

寺の中を空腹のままでキョロキョロと詮索する。
その時ふと昔に、まだ私が目を閉じて間もない頃にお燐とした他愛のない話を思い出した。



――



『そういえば、アタイってどうしてもお寺って好きになれないんですよ』

『ふーん、どうして?』

目を閉じて間もない頃はお姉ちゃんに言われてだろうが、お燐かお空がよく私に話掛けてきた。
心を閉じて、私はどんな物事にも無関心になっていて、いつもは生返事を返すばかりだったのだが
その日だけは何故かお燐に話の続きを求めた。
そんな私にお燐は嬉しそうな顔で話を続けてくれた。

『いや、アタイが妖怪だってのも理由なんですけどね、でもソレを抜きにしてもお寺の匂いが嫌なんですよ』

『匂い?』

『そうなんです、何だかどこもお線香臭い気がして嫌なんですよ』



――



『お線香の匂いってアタイ苦手なんです』そう言ってお燐は笑っていたが……

「(スンスン)」

私は意識して匂いを嗅いでみる。

「……うん」

確かにお線香の匂いがする気がする。

そう思った私の鼻にお線香とは違う何か良い匂いが入ってきた。

「!」

私の足は再びフラフラと無意識に動き出した。



――



台所と思しき所で私はソレを見つけた。
そこには数人分の料理が準備されいた。
本来なら寺の住人を捜すべきなのだろうが私はとてもお腹が空いていた。
そのため私は無意識に料理に手をつけていた。

……あくまで無意識にである、だからしょうがない。



『(多分)精進料理全体的に量が少ない。

 ごはん
 白いお米ではなく麦飯。
 ただ、付け合せでトロロがあるのでむしろ嬉しい。

 お味噌汁
 大根と豆腐だけのシンプルなお味噌汁。

 揚げ豆腐
 ドロリとしたタレに一口大に切られた豆腐が浸かっている。
 表面はさほど熱くないが噛むと中は熱々で美味しい。

 オカラ
 嫌がらせか?と思う程山盛りにわけられている。

 タクアンのお漬物
 あまり歯応えのないメニューの中でポリポリとした歯応えが嬉しい。』 



「…………」

だいたい予想していた様なメニューだった。
それにご飯が白米ではなく麦飯だった。

「麦飯かぁ……、まぁ食べられればいいけどさ……」

トロロがあるからトロロご飯にでもすればいいか。
そう考えながら、私はお味噌汁を取り一口飲んだ。

そして

「……美味しい」

お味噌汁のそのあまりの美味しさに感動した。

お腹が減っているからだけではない。
このお味噌汁は普段飲んでいる物とは比べ物にならないほど美味しかった。
何だろう、味噌が違うのだろうか?それとも出汁の取り方だろうか?

私は何かに導かれる様に揚げ豆腐に箸を伸ばす。

程よくタレの付いた一口大の豆腐を噛む。
表面はそれ程熱くはなかったのに噛んだ場所からビュッと豆腐の吸った油が滲んでくる。
熱かったが染み出た油の旨味にまた感動した。
こんなに美味しい豆腐料理は食べた事がなかった。

「これなら……」

きっと他のオカズも期待できる。
私は思うままに料理に箸を伸ばしていった。
トロロも粘り気が強く出汁が効いていてご飯が何杯も食べられた。
普段は毛嫌いして食べないオカラも美味しくて綺麗に完食した。
寺に入る前は『精進料理なんて』と少し馬鹿にしていたのだがなんとも悔しい。

悔しかったが、全体的に量が少なかったせいか一人分では物足りず私は無意識に用意されていた
全ての料理を完食した。

全て無意識の行動だったのだ、だからしょうがなかった。
自分では止めようがない、でもせめて食器くらい片付けておこう。

私は食器全てを流しに運んだ。

そして、『精進料理もこれなら悪くない』と言う、新しい発見の驚きと

「うー、ちょっと食べ過ぎた」

満腹感による幸福感に包まれながら私は寺を後にした。



――



こいしがいなくなった後すぐに星、一輪、村紗、ナズーリンは台所を訪れた。
星は皆に自慢するように

「今日は自信作ですよ、特に揚げ豆腐が美味しくできました、私用で聖が出かけていて残念です」

と言ってテーブルの上を見て固まった。

「あ、あれ?」

確かに用意したはずの昼食が影も形も食器すらなかった。

『はぁ……』

またかと言う感じの皆の溜息に星は慌てる。

「ちょ、ちょっと待ってください、何ですかその溜息は?私は確かに用意していたんですよ!?」

「しかしご主人、その料理がないのだよ?たしか以前もあったよねこんな事?」

ナズーリンは横にいた村紗に聞く

「ええ、確か夕方に転寝して、夕飯を夢の中で作って現実じゃまったく用意してなかった事あったね
あの時もうしませんって言ってたのに……」

呆れた様なナズーリンと村紗の目に思わず星は顔を引き攣らせる。

「うぐ、た、確かにそんな事もありましたけど……、今回は本当に用意したんですよ
一輪は信じてくれますよね?」

「え、ええ、解ってるわ星、きっと誰かが食べちゃったのね?」

星の声に一輪は気まずそうに目を逸らした。

「ちょっと!本当なんですよ!?」

一輪の気を使った態度に思わず星は叫ぶが、ナズーリンの冷静なツッコミが入る。

「一輪、『うっかり星ちゃん』の異名を持つご主人と話していてもラチはあかない出前を取るか
もしくは私達で作る事にしよう」

「ナズーリン、貴女は本当に私の部下ですか?少しはフォローしてくれてもいいじゃないですか!?」

「あ、私カレー食べたい」

「またかい村紗?本当に君はカレー好きだなぁ……」

星の言葉を無視して二人は遣り取りを続ける。

「あの?無視ですか?ねぇ?」

「まぁほら、星もうっかりしてたんでしょ?気にしなくていいから一緒にカレー作りましょう?
今日の事は姐さんには内緒にしてあげるから、ね?」

優しい一輪の言葉に

「本当に作ったんですってば!!」

と星は叫んだ。
25度目になりました
前回一発ネタで終ろうとした『孤独のグルメ』のパロネタにまさかの続編希望があったので
書いてみました。
前回もオチも山場も特にない作品だったのに続編希望が嬉しかったです。

さて、今回は命蓮寺ですが、やはりどう見ても食い逃げです。
終わり方が前回と同じだ……orz
オ、オチが思いつかない……

あー、食べ物食べる時の表現が上手くなりたい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
少しでも楽しめてもらえれば幸いです。

煉獄様
今回は命蓮寺でした。次回はどこだろう……、むしろ続くのだろうか……
……白玉楼とか?いっそ全シリーズに挑戦!?(ぇ

8様
星はきっとうっかりさん、でも今回はちゃんと用意していた。
以前京都旅行をした時銀閣寺近くにあった飯屋で食べた豆腐料理が異常に美味しかった。
あの時食べた揚げ豆腐が今でも豆腐料理で一番美味しいと思っています。

ぺ・四潤様
誤字の報告感謝いたします。あまりの多さに泣きたくなりました。
私はオカラが苦手だったのですが京都旅行中食べたのは美味しかった。
あと、聖さん『は』ババアではないですよ!
おや?誰か来たようだ……

15様
はい、オ、オチがですね……、その思いつか(ry
……読んでいただきありがとうございました。
つ、次があればちゃんとしたオチを……つけれたらいいなぁ(ぉ

18様
後で流しにある食器から誤解は解けました。
でも、星はちょっと可哀相なくらいが可愛いと思っています(ぉ

22様
そう言っていただけるとは、ありがとうございます。
>次の無銭飲食の舞台
食い逃げ前提なんですねww
まぁ、多分次も食い逃げになるでしょうが……

ずわいがに様
無意識だったんです、仕方がなかったんです。
でも私の書く星は信用がすくないな仲間内なのに……

コメントありがとうございました
H2O
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1010簡易評価
7.90煉獄削除
今回は命蓮寺で食べちゃいましたか……大根と豆腐の味噌汁が美味しそうでしたねぇ。
星たちの会話も面白かったですし、続編があるなら、こいしが次に向かうのはどこなのか楽しみです。
8.100名前が無い程度の能力削除
精進料理も捨てたものではありませんね。美味しそうです。

うっかり星ちゃんイイネ
12.90ぺ・四潤削除
いやぁ……線香くさい話になったから、途中でこいしちゃんが白蓮と出会って無意識に
「おねえちゃんお婆ちゃんの匂いがするー」とか言って、それはもう大変な事態になるのかとハラハラしてしまいましたが。

オカラとかけなしてますけど大好きですけどね。なんで捨てるのかわからない。
凝った料理よりもこうした普通の料理のほうがいいですね。
こいしちゃんにはもっといろんな所の突撃隣の晩御飯やってもらいたいです。
しかし、うっかり星ちゃんもはや威厳のカケラもねえww

誤字脱字等いろいろ報告です。
「精進料理はちょっと抵抗がるが」抵抗があるが
料理の紹介で「お味噌しる」
「全ての料理を間食した。」完食
「仕様で聖が出かけていて」私用?
「え、ええ、解ってるは星」解ってるわ
あと「村紗」が全部「村沙」になっています。
15.90名前が無い程度の能力削除
ちょうぶんなげ
18.60名前が無い程度の能力削除
哀れすぎるよ星さん……
22.90名前が無い程度の能力削除
オチがないなんてとんでもない。良くまとまっていたと思います。
これは好みかもしれないですが、こういう話大好きなもので。
こいしの次の無銭飲食の舞台を楽しみに待ってます。
27.80ずわいがに削除
星ちゃんwwwこいしひでぇょw
30.90プロピオン酸削除
星ちゃん可哀想ww