私――スピア・ザ・グングニルは決意した。
あの我儘極まりないレミリア嬢から袂を分かたれる事を。
思えば、私とレミリア嬢が出会ったのは何百年も昔の事。楽しい時も苦しい時も悲しい時も、そして嬉しい時もレミリア嬢の隣に私がいた。
私はレミリア嬢が好きで、レミリア嬢も私が好きだった。
しかし、もう限界である。
これ以上レミリア嬢の我儘に付き合っていてはこちらの身が持たなくなる。
レミリア嬢の元を離れて次は誰の元へ行くのかは考えていないが、それでもレミリア嬢のいない場所であるならばどこへだっていい。
私は決意した。
『本気なのですか、スピア・ザ・グングニルさん!
まさか貴女がレミリア様の元から離れるなんて……!!』
出発の晩、そう話しかけてきたのは不夜城レッドだった。
彼女も私と供にレミリア嬢の元で戦ってきた仲間の一人である。彼女は少しそそっかしいところがあるが実力は折り紙つきである。
私は荷物を纏めるのを止めて彼女の方へと振り返った。
『もう決めた事だ。今更覆す事なんてできない』
『貴女がいなくなったら誰がレミリア様を守るというのですか!?』
『私の代わりなどいくらでもいるだろう?
ハートブレイクの奴には私の全てを教えた。私がいなくても、彼女さえいればレミリア嬢の子守は務まる』
『しかしレミリア様が一番信頼していたのは貴女のはずです!』
不夜城レッドの声が響き渡る。
私はふぅ、とため息をつくと、間を取るために紅茶をすする。
そういえば私は元々コーヒー派だった。しかし、レミリア嬢と生活を供にしていくうちにいつの間にか紅茶派に変わっていた。
今では紅茶を飲む事は当たり前の習慣となっていた。
いつの間にか、私の当たり前の中にはレミリア嬢がいた。
『……それはありがたい言葉だな。
レミリア嬢が私を一番信頼していた、か。
私もそう思っていたし、だからこそ誰よりも命を張ってレミリア嬢のために戦ってきたと自認しているつもりだ』
『ならば、なぜ!?』
『だからこそだよ、不夜城レッド。
私はレミリア嬢のそばにいる事に疲れたのだ』
不夜城レッドが口を開き何かを言おうとして、でも口を閉じた。
彼女にも私の決意が伝わっているのだろう。そして、私の性格も理解してくれているのだろう。
私が一度決めたら決して覆さない女性である事を。
残酷な事であるが、今は彼女の聞きわけの良さがありがたかった。
今は彼女の行為に甘え、決心が鈍らないうちに出発する事にしよう。
『それでは別れの時だ、不夜城レッド。
後の事は任せる』
そう言って、私が部屋から出ていこうとした時だった。
ドアが反対側から開く。私はとっさに本棚の影に隠れた。
「また妹さまと弾幕勝負ですか? お願いですから館をこれ以上壊さないでくださいね」
「そんな事言われてもフランが挑んでくるんだから仕方がないじゃない。
妹に勝負を挑まれて断りでもしたら、姉としての威厳が失われてしまうわよ」
やはりというべきか、入ってきたのはレミリア嬢と咲夜だった。
二人の会話から察するに、今からフラン嬢との戦いが始まるらしい。
ならば、相手は私のライバルというべきレーヴァテインという事になるだろう。
彼女とは幾度ともなく刃を交えた。今のところは私の勝ち越しで終わっているが、彼女も戦うたびに実力を上げてきている。この前の勝負の時は危なかった。タイミングが刹那遅れていれば負けていたのは私の方だっただろう。
今やレーヴァテインの実力は、私に最も近い場所にいると言っても過言ではない。私とて次に彼女と勝負をして確実に勝てるという保証はできない。
ましてや、今回は私無しの勝負となる。
不夜城レッドやハートブレイクが彼女相手に勝機を見いだせるかどうか……。
――いやいや、何を考えているんだ私は!!
頭を振って考えていた事を打ち消す。
私はもうレミリア嬢の元から離れる決意をしたのだ。これから先は私以外のスペルカード達がレーヴァテインと戦わなければいけないのだ。
私にはもう関係のない事なのだ。
「あれ、おかしいわね。
咲夜~、私のスピア・ザ・グングニル、どこにしまったのか知らない? たしかこの引き出しの中に入れたと思ったんだけど……」
「えぇ、私もその引き出しにあったのを確認しましたが……ございませんか?」
「ないわね。不夜城レッドやハートブレイクはあるんだけど、スピア・ザ・グングニルだけないの。
おっかしいわね~、どこか別の場所へしまったのかしら」
せわしなく動くレミリア嬢の背中を見ながら、私はレミリア嬢への最後のチャンスを与えるべきであると考えていた。
もし、レミリア嬢が真に私の力を欲し、私の力がなければフラン嬢とは戦えないと宣言するならば――
私は最後の戦いに赴く事を心に決めていた。
贐というヤツである。
今すぐにでもこの場から旅立ちたいのもまた事実。
だが、このままレミリア嬢に黙って出ていくのも、今まで培ってきた信頼を裏切るようで忍びない。
レミリア嬢がカリスマ吸血鬼を名乗るなら、私だってカリスマスペルカードなのである。
今回を最後の戦いとして戦場へ赴き、レーヴァテインから勝利を得て、
そして別れを告げよう。
思えば。
私はレミリア嬢が私を欲してくれる事を、心のどこかで欲していたのかもしれない。
レミリア嬢も我儘だけれど、私も我儘だな、と思う。
いや、同じ我儘同士だからこそ、今まで一緒にやってこられたのかもしれない。そう思うとなんだか哀愁を誘った。ただし瞳から塩水が出てくるような機能を私は持ち合わせていないが。
「お姉さま、まだ~? 早く弾幕ごっこやろうよ~!」
フラン嬢の声が中庭の方から聞こえてきた。
「仕方ないわね、今日はスピア・ザ・グングニル無しで行くわ」
「よろしいのですか? あれはお嬢様の主力ともいうべきもの。あれをなくしてはいくらお嬢様でも妹さまに勝てなくなってしまう可能性が出てくるのでは?」
「ふんっ! 姉が妹より劣るなんてそんなわけないじゃない。
勝者の余裕よ。最近フランは負けが込んでいるからね。少しぐらいの余裕を見せてやるのが姉としての立ち位置となるのよ」
そう言うと、レミリア嬢はあっさりと私を置いて出ていってしまった。
レミリア嬢の懐から不夜城レッドがこちらを見ていたが、私は身を背ける事しかできなかった。
私が、レミリア嬢と供に立つ最後の戦場は途絶えてしまったのである。
「さてと……そろそろ行こうかな」
わざわざ言葉にして言ったのはなぜだろう? 自分でも分からない。
レミリア嬢は私と供に戦うチャンスを逃し、私は念願の自由を得たはずなのに。これからは自分の好きな事を好きなようにできるはずなのに。
この館を出たらいろいろやりたい事があったのに。
レミリア嬢と戦う日々はつらいものだけのはずだったのに。
一歩も前に進もうとしない。
私はいつの間にか震えていた。
戦場では勝利だけを見据えて戦慄の震えなど一度も体験した事のない私が、震えて動けなくなっていた。
怖い。
何が?
怖い。
なぜ?
怖い。怖い。怖い。
分からない。分からないよ。誰か、答えを教えてよ。
私が願ったからか――いや、そういう風に考えるのはご都合主義としか言えないだろう。
だから、それは偶然だ。たまたまこのタイミングで、たまたま私が答えを欲しい時に。
ドアが開いた。
『舞台の主役がこんなところで何をしているのかしらね……』
入ってきたのはロイヤルフレア。私と同じスペルカードである。
彼女とは幾千もの戦いを供に駆け抜けてきた戦友である。時に意見の食い違いから喧嘩した事もあったし、ワインを傾けながらお互いの苦労話を言いあった仲でもある。
私は彼女の事を信頼していたし、彼女も私の事を信頼していた。
このタイミングで彼女が現れる事はある種の必然で、ある種の運命で――もし、運命だとしたら神様もきっとご都合主義者なのかもしれない。
私が一番合いたくなかった人物を登場させるのだから。
彼女の言葉は私に響く。
私が隠したい気持ちを容赦なく抉りだす。
私が分からないフリをしている事を簡単に暴きだす。
もしも、運命を操ったのがレミリア嬢だったとしたら――私は笑う。声を立てて、他人の目など気にせずに大声で笑ってやる。
『あぁ、あなたはもうレミィ嬢のスペルカードではなくなったのね。
主役交代というわけかしら?』
『そうだ。私はもうこの館には用のないスペルカードだ』
『御苦労さま。それじゃあさようなら』
『え……?』
私が茫然とした表情でロイヤルフレアを見る。
ロイヤルフレアは相変わらずの何を考えているのか分からない顔をして私を見ていた。
『他に別れの言葉があったかしら?
あなたと歩んできた戦いの人生は楽しかったわよ、とか? ……いいえ、戦場は楽しいものではなかったわね。失言だわ」
ロイヤルフレアは淡々と語る。それは、まるで私との別れが惜しくないように。
『なんで、なんでそんな簡単に別れを済ませられるんだよ!?
私と貴女の仲じゃないのか!?』
自分でもこんな大声を出せる事にびっくりしていた。
……私は何を言っているんだ。
言ってから思った。これじゃあ、まるで誰かに引きとめてもらいたいようじゃないか。
『あら、意外。あなたって引きとめてほしかったのね。
ほら、私が知っているあなたって頑固者で一度決めた事は最後まで貫き通す女の子だったじゃない? だから、別れを決めたのならこんな館やレミィ嬢に未練もなく、それこそあっさりと旅立つと思ったんだけれど?』
『くっ……』
彼女は容赦なく私の心を抉る。
誰にも見せたくない部分まで簡単に踏み込む。
そのせいで言いたい事がまとまらない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
だから私は言い淀む事しかできない。
『答え、もうあなたの中で決まっているんでしょ?
それこそ私なんかが登場するまでもなく、あなたの取るべき行動は決まっているのだわ」
『……』
『だから……この先を私に言わせるな、スピア・ザ・グングニル』
ロイヤルフレアの突然の冷たい言葉に私は背筋が冷たくなるのを感じていた。
これは彼女が戦場で敵に見せる表情だ。私はいつも隣で見ていた。
だが、今は目の前で見ている。目の前で見させられている。
と、その時だった。
突然の爆発音と衝撃が私とロイヤルフレアを襲った。
地震が起きたかのように館が大きく震え、天井からぱらぱらと砂埃が落ちてきた。
私は思わず態勢を崩し地面へと臥せる。
『レーヴァテインが暴れ回っているようね』
ロイヤルフレアが口にする。私もすぐに分かっていた。
これほどまでの大規模な衝撃を起こせるスペルカードを私は彼女以外に知らなかった。
『ご都合主義とは言い得て妙なものだわ。
あなたにふさわしい舞台がどんどんと整っていく。
レミィ嬢とのすれ違いから始まり、私の登場、そしてレーヴァテインにとって優勢な戦況。
もし、ここが舞台の場であなたが主役ならば、それはきっと最高の演出になるのでしょうね』
『私は……私は……』
今の衝撃だけでレミリア嬢が劣勢である事が分かってしまう私が恨めしかった。
私が今出ていかなければレミリア嬢は負けてしまう事だろう。レミリア嬢が負ける事は、私にとっても敗北である。
それはなぜか……。
『行きなさい、スピア・ザ・グングニル。
あなたはスペルカードなのだけれど、それはレミィ嬢のスペルカードなのでしょう?』
一歩踏み出そうとして、やっぱり踏み出せなかった。
私は我儘な上に愚かで、情けなくて、バカで、どうしようもないスペルカードだった。
こんなスペルカードはレミリア嬢以外に誰が扱えるというのだろうか。
『早く行けって言ってんだよ、スピア・ザ・グングニル!!
自分の居場所を勝手に決めるな! ご都合主義だと思うのならそれをぶっ壊せ! 無理だ無理だと言うのなら、それを最後まで貫き通せ!!
無理を通せば道理が引っ込む!!!」
『ああああぁぁぁああぁあああああっ!!!!!!!』
もう何も考えたくなかった。
最初からこうすればよかったのだ。
私は武人だ。根っからの武人なのだ。
格好つけて理論を組み立てて不夜城レッドを説き伏せたり、賢い魔法使いのようにレミリア嬢に問いかけをしたりする必要はなかったのだ。
頭で考えるよりも身体を動かした方が私にあっていたのだ。
暴れたい。今はおもいっきり暴れたかった。
今までうだうだ考えていた分、その埋め合わせをするように、全力を出したかった。
『うああああぁあぁあああっ!!!!!!』
開いていた窓から飛び出しすぐさまに状況を確認。フラン嬢とレーヴァテインを確認。レーヴァテインはレミリア嬢に向けて一直線にその身を向けていた。
対するレミリア嬢には不夜城レッドもハートブレイクもいなかった。
やはり私がいないと誰もレミリア嬢を守れないのだ。
「なっ!?」
くるくると回転しながら宙を舞い、レーヴァテインからレミリア嬢を遮る位置に着地。すぐさまレミリア嬢の前に仁王立ちするように立ち塞がり、まっすぐに襲いかかるレーヴァテインを真正面から見据え返す。
びりびりと全身に伝わるレーヴァテインの激しいまでに燃え盛る業火と熱風。一瞬でも気を緩めただけで全身が吹き飛び燃やしつくされてしまいそうだ。
だが、今はこの熱さが心地いい。冷え切った私の心にめらめらと戦いの炎を燃やし続けてくれる。
一瞬レミリア嬢を見やると、茫然とした表情で私を見つめていた。
なんて顔をしているんだ、レミリア嬢。
私がこの場にいる事がそんなにも驚く事なのか? 私はいつでも貴女のすぐそばにいたじゃないか。
貴女が呼べば私はいつだって貴女の元に駆けつけよう。
それが私――スペルカードに課せられた宿命なのだから。
「スピア・ザ・グングニル……」
レミリア嬢が私を呼ぶのを、私は最後まで聞く事はできなかった。
なぜなら、すでに私とレーヴァテインは全力でぶつかりあっていたからである。
『久しいな、レーヴァテイン!』
『遅刻してきたスペルカードが勝利を納められる程私は甘い存在ではなくてよ。
今日こそ倒すっ! 私がっ! あなたをっ!!』
全力同士のぶつかりあい。私とレーヴァテインの力の余波が周囲のもの全てを吹き飛ばす。草木は一瞬にして塵となり荒野と化す。真っ平らだった地面は刹那の瞬間に巨大なクレーターへと変化する。
すさまじいまでの弩音が鳴り響き、そのたびに館の窓に亀裂が入る。やがて窓もその衝撃に耐えられなくなり、ばりばりと大きな音を立てて砕け散った。
ガラスの欠片が空に舞い上がり、月夜と反射してきらきらと光っている。
真剣勝負の真っ最中と言えども、私はそんな光景を美しいとまで感じていた。
いや、真剣勝負の真っ最中だからであろう。
スペルカード戦とは元々華麗にして美しい戦闘ルールなのである。
相手を打ち負かせばもちろん勝利となるが、相手を美しさで魅了させても勝利となる。
『どこを見ているの?
この私を前にして油断のつもり?』
『くぅっ……!!』
油断していたつもりはない。そんな言いわけをする程私は愚かではない。
だが、結果として私はレーヴァテインの美しさに魅了されてしまっていたのだ。
受け身を取る暇もなく私は吹き飛ばされて、息をつく暇さえ与えられずに巨木へと叩きつけられる。巨木に亀裂が入りみしみしと音を立て始める。
ダメージを受け意識が朦朧とする中で、私は本能で巨木が倒れる事を予測していた。
ここにいては巨木の倒壊に巻き込まれる。この場所から離れなくては……!!
頭では分かっているのに身体が動かない。
これも――レミリア嬢を一瞬でも裏切ってしまった私へと罰なのかもしれない。
だとしたら、神はご都合主義者ではなく、立派に仕事を行っているジャッジメントだ。
めきめき、と巨木が倒れる音を、私はどこか遠い場所で起きている出来事のように聞いていた。
☆ ☆ ☆
「じゃあ次はスピア・ザ・グングニルが鬼ね」
幼いレミリア嬢の声が聞こえる。
あぁ、これは遠い遠い昔の記憶だ。
私とレミリア嬢が戦いに赴く前の記憶。この頃のレミリア嬢は年相応に無邪気な少女でよく私と一緒に庭を駆けずり回っていた。
「手加減したらダメだからね。全力で私を追いかける事、いい?」
この頃からレミリア嬢は負けず嫌いだったらしい。
そんな事を思い出して私は苦笑した。
「あ~! スピア・ザ・グングニル、何を笑っているの!
私よりちょっと走るのが速いからってバカにしないでよねっ」
ぷんぷんと顔を真っ赤にして怒るレミリア嬢。
私は謝りながらレミリア嬢を追いかけ始める。
遠い、遠い、昔の記憶。
でも確かにあった私とレミリア嬢の過去の歴史。
過去のどの場面を思い返してみても、私はいつでもレミリア嬢のそばにいた。
……なんだ。私がレミリア嬢から離れる事なんて到底不可能な事だったんじゃないか。
ロイヤルフレアはそんな事まで見透かしていたのか。
私はまだまだだ。レミリア嬢の最強のスペルカードを名乗りながらこんな簡単な事実にも気づく事もできない。
これからもレミリア嬢のそばにいるのなら、もっともっと努力しなければいけないのだろう。
望むところだ。私を誰だと思っているんだ?
私がレミリア嬢のスペルカードだ。
☆ ☆ ☆
「スピア・ザ・グングニル! 生きていたら返事をしてちょうだい!!」
レミリア嬢の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
レミリア嬢はこの程度のダメージで私が果てるとでも思っているのか?
だとしたら、レミリア嬢は少々私を見くびっている。
……いや、こんなところでも私とレミリア嬢は似通っているのだろう。私がレミリア嬢から離れる事ができないのを分かっていなかったのと同様に、レミリア嬢も私の力がどの程度のものか分かっていない。
長い年月を供にしてきてもまだまだ分からない事がたくさんある。
だからこそ、私はレミリア嬢のそばにいよう。
さぁ、レミリア嬢。私の名を呼んでくれ。
貴女が私の名を呼ぶのなら、私はどこへだって馳せ参じよう!
「スピア・ザ・グングニル! 私の最も大切で愛すべきスペルカード!!」
レミリア嬢の宣言。
それが合図となった。
私は精神を集中させるとそれを一気に解き放ち、私を覆う巨木の残骸を吹き飛ばした。
『そんな、嘘でしょ? あれだけのダメージを負って立ち上がるなんて……』
レーヴァテインの驚愕の表情が目に入る。
彼女のこんな表情が見られるとは思っていなかった。やはり戦場は予期せぬ事が起こる。
だからこそ面白い。
『ふふっ、見えるかレーヴァテイン。貴女の火遊びとは違う本物の炎というものが。
スピア・ザ・グングニルを舐めるなよ!』
『う、あ……あぁ……』
レミリア嬢を見ると、彼女は私の方を向いて笑っていた。
彼女はもう私の心配はしていないらしい。いつものカリスマたっぷりの仕草を周りに振りまいていた。
それでこそ私のレミリア嬢だ。彼女が高みを目指す限り、私はどこまでだって強くなれる。
レミリア嬢がこくり、とうなずいた。
『残念だったな、レーヴァテインよ。
貴女とフラン嬢の絆よりも、私とレミリア嬢との絆の方がはるかに深かったようだ』
『私はこんな化け物と戦っていたというの……? こんな化け物相手に勝ちを見いだせるとでも思っていたの……?』
私は一瞬でレーヴァテインに近づき、その力を解放させた。
抵抗もなく吹き飛ばされたレーヴァテインはどこか笑っているように見えた。
レーヴァテインとの戦いに勝利を得た後、私はレミリア嬢と向き合った。
「おかえりなさいと言うべきなのかしらね、スピア・ザ・グングニル。
……いえ、あなたはいつも私の隣にいてくれたのだからその言葉はおかしいわね。
じゃあ、この言葉をあなたに送ろうかしら。
――これからもよろしくね、スピア・ザ・グングニル!」
ハイタッチするために差し出されたそのレミリア嬢の手の平を見て。
私は。
所詮スペルカードなのだからハイタッチするための手足があるはずもない。
やはり無理なものは無理だと思った。
よくぞ言った。正直、終始食傷気味だったけどその心意気は見事。
シュールな世界観ながら結構きっちりまとまっていてよかったです。ただギャグとしては出オチ以外の要素が少なくて残念。
スペルカード部門は確かにあっても面白いかもしれない。