※これは月の涙の欠片シリーズです
他の作品は読まなくても良いような一話完結の作品です。
ですから私の他の作品を未読の方も気軽にお楽しみください。
「何だかここは落ち着くねぇ…」
「ふふ、レミィは畳がお気に入りかしら」
私とレミィは永遠亭で寛いでいた。
レミィは畳の肌触りがお気に入りみたい。
あんな洋館に畳なんてないものね。
「ふふ、レミィったら猫みたい」
レミィの可愛い仕草に思わず笑顔が零れる。
だって体を丸くさせて気持ちよさそうに寝転んでいるのだもの。
あのメイド長が興奮する訳もわかるわね。
「ねえねえレミィ、髪を撫でても良いかしら?」
「…私は子供じゃないよ、輝夜」
あらあら拗ねちゃった。
そういうところも猫っぽくて可愛いわね。
「別に子供扱いなんてしてないわよ~。ね、ちょっとだけだから良いでしょ?」
私はレミィに拝み倒す。
これはもう思いっきり愛でるしかないもの。
目に入れても痛くないってこういう事を言うのかしらね。
「…まあ、仕方ないねえ」
レミィは優しい。
何だかんだで折れてくれる。
だからあんなに従者達にも愛されているのだろう。
式を道具扱いする妖怪とは大違いだ。
「おいでおいで、レミィこっちこっち」
私は自身の膝をパンパンと叩く。
膝枕したいのよ。
もう何だかすっごく可愛くって。
あらあら、レミィが不審そうな顔で見てるわ。
ちょっと調子に乗りすぎたかしら。
よし。
「あらあら、夜の王ともあろう者が私の膝に臆するのかしら?」
レミィがカッと目を見開く。
レミィを怒らせる危険性があるからあまりこういうことしたくないのだけども。
どうしてもレミィを膝枕したかったんだもの。
「…!私はお前の膝なんて恐くもなんともないよ」
予想通りの返答。
ならばこちらも用意しておいた言葉を言うだけ。
「じゃあ私の膝に頭を置いてごらんなさいよ。貴女の勇気を私に証明して見せて頂戴」
ふふ、夜の王は私の難題にどう立ち向かってくるかしら。
「…ふん、後悔するなよ」
レミィは私の膝にゆっくりと頭を置く。
後悔なんてする訳ないじゃない。
ああ、もう可愛いわ。
「ふん、どうだ輝夜」
私の膝に頭を乗せて誇らしそうな顔をするレミィ。
なんでこうも愛らしいのかしら。
これは褒めてあげなくちゃね。
「さすが夜の王。勇気があるわね。御褒美に撫でてあげましょう」
むしろ私に対しての御褒美ね、これは。
あら、レミィの髪の毛柔らかくてふわふわしてるのね。
こんなところも何だか猫みたい。
あ~もう何だか私幸せよ。
レミィがずっと永遠亭にいてくれたらいいのに。
ダメ元で言ってみましょうか。
「ねえレミィ。いっそ永遠亭に住んでみない?」
「…?私には紅魔館という自分の家があるんだよ?それにいつでも来ようと思えば会えるじゃないか」
レミィは私の言っている意味が分かってくれてないのね。
それでもよ。
私はレミィに永遠亭に住んでほしかったのよ。
まあ、私が何度言ってもレミィは紅魔館から出ないでしょうね。
あそこには彼女を慕う従者達が沢山いるのだから。
本来気紛れな妖精にまで愛されるって本当に凄いことだと思うの、私。
「言ってみただけよ。あまりにもレミィが可愛かったものだから」
「…やっぱり私を子供扱いしてるんじゃないのかい?」
「してないわよ」
猫扱いはしてるけど。
拗ねちゃったレミィも本当に可愛いわね。
いっそまた永遠亭の時間の流れを止めてレミィを帰れなくさせちゃおうかな。
そうしたらレミィはどんな顔をするのかしらね。
「ねえレミィ、私今幸せよ」
「…そうかい。私も…まあ悪くはないね」
悪くはない、それはレミィにとっての最大限の賛辞。
このまま持って帰りたいわね。
持って帰る場所はこの永遠亭だけれども。
「ちょっとちょっと!何よ突然!」
「いいから黙って通しなさい」
…ん?
今のはイナバとどこかで聞き覚えのある声。
この声は確か…。
そう考えていると、目の前の襖が開く。
「…やっぱりここにいたのね、レミリア」
「…霊夢?」
レミィが侵入者の名前を呟いた。
そう、侵入者の名前は博麗霊夢。
外の世界と幻想郷の境界である博麗大結界を守る巫女。
「…随分と乱暴な来訪者ね。もう少し落ち着いて行動出来ないものかしら」
私は少々不機嫌になっていた。
そうなるのも当然よ。
レミィとの幸せな時間を邪魔されたのだから。
「霊夢、どうしてここに?」
レミィが浮気がばれた亭主のような顔をしてる。
レミィは巫女の旦那でも何でもないからそんな罪悪感があるような顔をしなくて良いのに。
こんな女のことなんて気にしなくて良いのよ。
貴女は私だけを見ていてくれればいいのに。
私が守ってあげるから。
「…別に私はあんた達が何をしようと良いんだけどさ」
誰に向かってか知らないが、突然言い訳を始める巫女。
何をしようと良いなら邪魔しないでほしいのだけれども。
「紅魔館のメイド長が神社にやってきて愚痴愚痴とうるさいのよ。お嬢様のいない紅魔館なんて…とか」
「…咲夜…」
レミィが呆れたような声を出す。
そりゃ呆れるわよね。
あのメイドはちょっとレミィに依存しすぎよ。
まあ、私も永琳いないとさすがに色々と困るけど。
「それに異変を起こした犯人達がこそこそと会っているのも捨て置けないのよね」
本当に言い訳ばかりね、この巫女は。
素直に自分に懐いていたレミィが神社に来てくれなくなって寂しいって言えば良いのに。
しかし、この巫女にも女のプライドがあるなんてちょっと意外だったわね。
レミィのことなんて何とも思ってないと思っていたのだけれど。
それとも、レミィを自分の所有物とでも勘違いしていたのかしら。
ま、どっちにしてもこの女が気に入らないわ。
「あら、私とレミィがどこで会おうと私達の勝手じゃなくて?」
私はレミィの体を持ち上げる。
軽い。
どうしてこんなに軽いのに戦闘ではあんなに力強いのかしら。
吸血鬼って本当に不思議ね。
「ちょっ…輝夜…」
「あら、ダメかしら?」
そしてそのままレミィの体を抱きしめる。
霊夢に見せつけるようにね。
実際見せつけているのだけれど。
「…ダメじゃ…ないけどさ…」
…真っ赤になったレミィ可愛い。
何よこの可愛い生き物。
やっぱりこのまま逃げちゃおうかな。
「じゃあね博麗の巫女」
私はレミィを抱きしめたまま立ち上がり、能力を発動する。
私の能力は永遠と須臾を操る程度の能力。
空間を永遠にする事も、一瞬にする事も私の思うがまま。
私は自分の空間を一瞬とし、レミィを抱いたまま空に飛びあがる。
「…輝夜!?」
「レミィ、このままどっかに行っちゃいましょうか」
「どっかに…って」
どこに行こうかしら。
このまま駆け落ちってのも悪くないかもね。
そしたら後で永琳に怒られそうだけど。
「待ちなさい!」
「…あら」
下を見ると巫女の姿があった。
全くしつこいわね。
貴女には私達を追いかけてくる理由なんてないでしょうに。
それともレミィを取られて悔しいのかしら。
だとしたら遅かったわね。
レミィは貴女には渡さないわ。
レミィを抱いて飛ぶ私と私にしっかりと掴まるレミィ。
気分はすっかり新婚旅行だった。
「行きましょう、レミィ。貴女とならどこにだって行ける気がするわ」
そう、月までだって。
いえ、月の向こうまでだって。
私が貴女を永遠の先へと連れて行ってあげる。
「しっかりと掴まっててねレミィ」
一緒に来てくれないと私が泣いちゃうんだから。
必要以上に色んな正義を敵に回してるよな、と思ったり。
需要ですって?
ここに有り余ってますよ。