Coolier - 新生・東方創想話

烏天狗は二段式

2011/03/09 08:55:03
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 春が近づきつつある空気の中、私は縁側でお茶を啜っていた。
異変も事件もなにもない日常の空気。魔理沙は退屈だと文句を言うだろうが、平穏無事がなによりだ。

「いつでも暇そうですね」
「あんたよりはマシだと思うわ」

嫌味とともに降り立った文に適当に返す。こいつも日常に文句をいう奴だったか。
今日は何の用だろうか。つまらない事だったら追い返してやろう。

「物騒なこと考えてません?」
「いいえ。む、なんかいい匂い。ケーキでも持ってきたの?」
「相変わらず勘のいい。それとも鼻ですかね」

背中に回していた手には白い包装箱が握られていた。
受け取ろうと手を伸ばすと、それよりも早く背中に隠される。

「なにしてるのよ。はやく」
「一言くらいお礼があってもいいと思うんですよね」
「ありがとうございます早くよこせパパラッチ」
「もう少し本音を隠しましょうよ」

そうじゃなくて。

「『文お姉ちゃんありがとう』とか。言って欲しいです」

文はニヤついた顔を隠すことなく言う。
私は鼻で笑い返す。

「私がそんなこと言うとでも?」

この博麗霊夢、たかがケーキのためにプライドを捨てるほど安くはないのである。
例えその恥ずかしい台詞を言わなければケーキを食べられないとしてもだ。

「ああ、ところでこれ限定10個の大人気商品なんd」
「文お姉ちゃんありがとう!」

たかがケーキされどケーキ。限定ケーキよりは安いプライドで結構です。

「……そこまで感情を込められるとは思いませんでしたが、まあいいです」

そう言って文は私に手を伸ばす。

「頭撫でないでよ」
「お姉ちゃんなんですから。それくらいいいじゃないですか」
「年はともかく、背は私と変わらないじゃない」

一言。そう言うと文はぜんまいの切れた時計のように動きを止める。
特別暑いわけでもないのに頬には汗がつたっていた。

「文?」
「な、なんでもないですありません! 早く食べましょう! 飲み物もほしいですね!」

文は押し付けるように私にケーキを渡すとまくし立てるように飲み物を要求してきた。
急激な態度の変化に戸惑ったが、ケーキを早く食べる意見については賛成だ。
立ち上がり、襖を開けて居間に向かう。

「ああ、ところで文」

紅茶と珈琲、どちらがいいか訊ねようと振り返る。

「……なにしてんの?」

先程まで立っていたはずの文は何故か縁側で四つん這いの体勢をとっていた。履物を脱ごうとして転びでもしたのか。
私と視線を合わせると文は気まずそうに目を泳がせる。

「えっと……こ、小銭を落としちゃって……どこかな~」
「ふぅん?」

特に音はしなかったと思うが。
これは別に私ががめついとか言うわけではなく、普通小銭が落ちれば気がつくという一般論であるからして。
まあ、そんなことより今はケーキだ。
様子のおかしい文を放っておき、台所に向かった。





ケーキを食べている最中も文の様子はおかしかった。普段はしない正座をして不自然なくらいに背筋を伸ばしている。

「楽にしたら? せっかく美味しいのに」
「い、いえ。お気になさらず」
「それと。部屋の中で帽子かぶってたらハゲるわよ」
「うえっ!?」

一言。またそれだけでわかりやすく身体を跳ねさせる文。
……妖怪なんだからナッパにはならないと思うが。
それとも別の心配事か。

「あんた何か隠してるの?」
「いいいいやなにもありませんよ隠してません」
「それで何でもないって言うなら世界は平和よ」

後ずさる文をジリジリと壁際に追い込む。

「なんでもないんですってうひゃぁ!?」
「ひゃっ」

突然奇声をあげて立ち上がる文にこっちまで驚かされる。
一体何だって言うんだ。

「な、なんだか冷たいものが背中に……」
「雨漏りでしてるのかしら。ん……?」

あれ。立ち上がった文になんだか違和感が。どうしてか可愛く見える。こう、小動物的な可愛さだ。

「あ……」

しまった、と絶望を顕にする文。泣き出しそうな目で私を見上げる。
……見上げる? 文と私の背は変わらないはずだったと思うが。

「あ、ひょっとして下駄履いてないから?」

ふと思いつき帽子を取る。

「あーなるほど。下駄と帽子で鯖読んでたのね」
「……っ!」
「おっと」

逃げ出そうとした文をがっちり抱きしめる。下駄と帽子のない彼女は私の胸くらいまで背のしかなかった。

「離してくださいよぉ!」
「嫌よ。こんな面白いじゃなくて、可愛いのに」
「ぼ、帽子返してください!」

取り返そうと伸ばされた腕を避け、頭上に掲げるように持ち上げる。

「あーあーきこえなーい」

さっきの仕返しにぐしぐしと頭を撫でてやる。飄々とした態度の文が真っ赤な顔をしているのはなかなか新鮮で。それ故やめようとは思えなかった。

「いじめはやめてくださいってばぁ!」
「苛めてないし。からかってるだけだし」
「たいして変わらないですよそれ!」

帽子を取り返そうと必死に背伸びをして腕を伸ばすが頭ひとつ分の身長差では届かなかった。
涙目になりながらも懸命に取り返そうとする彼女の姿に私の中の加虐心が沸き上がってくる。

「ほらほら。そんなんじゃ届かないわよ」
「霊夢さんの苛めっ子!」
「気のせいよ」

ああ駄目駄目。どうしてこんなに可愛いだろう。私は幽香と違って苛めっ子なわけではないのに。
もっと泣かせてみたい。からかいたい。

「このっ!」
「おっとどっこい」

飛びつく勢いで手を伸ばして無駄なのだ。それくらい少し後ろに下がるだけで

「おうわぁ!?」

何かを踏んづけた感触。見事なまでに足を滑らせる。
空中に舞う黄色いそれはハンカチではなくバナナの皮。
こんなところに捨てたのは誰だ。
考える間もなく私は強かに背中を畳に打ち付けることになった。

「痛っ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「うぐ……大丈夫……」
「あっ」

痛みを堪えるようにつむっていた目を開けると、目の前に文の顔があった。
いや、顔だけじゃなかった。一緒に倒れたせいで文に押し倒される形になっていた。
彼女はぼうっと、熱に浮かされるたような目を私に向けている。

「文……?」

名前を呼ぶと彼女は不敵な表情を作る。若干、耳元が赤かったが。

「形成逆転ですね。年上をからかった罰ですよ」

そう言って、少しずつ、さらに顔を近づけていく。
緋色の瞳は吸い込まれそうなくらいに透き通っていて、ただ純粋に綺麗だと思った。

「背が低くても」

頬に手が触れる。鼓動が服越しに伝わりそうなくらいに体は密着していた。

「キスは、出来るんですよ」

そっと唇を近づけてきて。
私から唇を重ねた。

「……え、あ、い、あう……えっ」

何が起きたのか理解の追いついていない文は意味のない言葉を漏らし続ける。
私は身体を回転させて上下を入れ替える。
立場は完全に逆転していた。

「れ、霊夢さん!? なななななにを!?」
「うん、その。今のあんた」

年下の幼なじみが意地をはって、大人ぶろうとしているようにしか見えない。

「正直、可愛すぎて」
「か、かわっんぅっ!?」

なにか言おうとした文の口をふさぐ。

「我慢、できない」
「え、それはどういう……あの霊夢さん目が怖いです飢えた獣の目なんですがあのちょっとやさしくしてほしいですけど」
「ごめん」
「なんで謝るんですかあ、ちょ、やめt」





「紫? 何見てるの?」

もそもそとバナナを食べていた天子は訊ねる。
鋭いまなざしでスキマを覗き込んでいた紫は、息を吐き出しスキマを閉じた。

「天子」
「……なに?」

あまり見ることのない真剣な顔に少し見惚れながら、素直に近づく。
紫のほうが背は少しだけ高いため、自然と見上げることになる。

「っ、いきなりなにするのよ」

紫に抱きとめられた天子は抗議するような視線をやる。
しかし、それに気にもとめず紫は大真面目な口調で言い放った。

「身長差っていいわね」
「はぁ?」
「いいわよね?」
「馬鹿じゃないの」

まあ、悪い気はしないけど。
そう言うのは胸の中だけにしておいた。
三段式かもしれない。

45作目です。身長差あやれいむを求める声が届いたので応えてみた。
最後のは個人的趣味によるおまけです。
すねいく
https://twitter.com/kitakatasyurain
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コメント



0.2590簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
にやけがとまらない
6.100名前が無い程度の能力削除
この発想に乾杯
9.100奇声を発する程度の能力削除
>突然奇声をあげて立ち上がる文にこっちまで驚かされる。
ピクッ
やっぱ身長差って良いね
10.100名前が無い程度の能力削除
ほんとにやにやが止まらなくなったじゃないでしかww
GJです
11.100名前が無い程度の能力削除
これをおかずに酒が飲めそう
12.80名無し削除
ああ、良いよな
身長差
13.100名前が無い程度の能力削除
捗るな
14.100名前が無い程度の能力削除
ちめぇ丸じゃないか、ここでも見れるとは。なでなで。
身長差っていいですよね。なでなで。
17.100名前が無い程度の能力削除
ごちそうさまでした。
18.100電動ドリル削除
ゆかてんに釣られて見に来たら、今まで興味がなかったあやれいむにニヤニヤさせられた。
圧倒的に年上のはずなのに、霊夢に押されっぱなしの文が可愛いw

個人的にゆかてんの身長差は、紫の膝に天子が乗って少し猫背になれば、紫の顎が天子の頭に乗るくらいが理想的。
19.100名前が無い程度の能力削除
ちめぇ丸はもっと流行るべき
21.100ぺ・四潤削除
3段式って、ああ、背伸びしてお姉さんぶってるっていう意味か。なるほど。
涙目で上目遣いの文ちゃんとか高くあげられた帽子をぴょんぴょんしながら取り返そうとしてる文ちゃんとか可愛すぎてあああああああああああああああああああああ
22.90名前が無い程度の能力削除
かわいすぎだろw
あやれいむは甘ぇなwww
27.60鈍狐削除
なんか展開が急激に変わって面食らいました。
29.100名前が無い程度の能力削除
身長差っていいな!にやけがとまらねぇ
32.100名前が無い程度の能力削除
く、口から砂糖g
37.80名前が無い程度の能力削除
すばらしいものです>身長差
41.80がま口削除
身長差。大好物です。
大柄な人に迫られるってドキドキしてしまいますよね!
……思いません? ああ、そうですか……(赤面)
42.100名前が無い程度の能力削除
たぎるのぜ
52.90名前が無い程度の能力削除
>18の人と同意見すぎる。あやれいむも悪くないな。
63.100名前が無い程度の能力削除
低身長文可愛い
アヤレイム!アヤレイム!
78.100名前が無い程度の能力削除
身長差万歳