Coolier - 新生・東方創想話

半人半霊は全身全霊で

2009/01/09 18:24:23
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迷う。時々迷うこともあった。

「……」

いや、もちろん間違っていないのはわかるのだ。しかしこのままでいいのだろうかと思う。
半人半霊の庭師、魂魄妖夢。ふと悩むとどうしようもなかった。半人前なのがいけないのか、まだ絶対という自信がないのだ。

悩み事とは簡単だった。
すなわち主人、西行寺幽々子に対するものである。
彼女はいつも妖夢を振り回してばかりであり、被害者である妖夢にとっては散々なのである。しかも全く考えが読み取れないポーカーフェイスは、とにかく従事するのが難しい。
果たしてこのまま振り回され続けていていいのか。もしかしたら幽々子さまは何か伝えたいのではないか。
一度悩んでしまうと、どうにも収拾がつかない。半霊に問いかけてものれんに腕押しというものだった。自問自答……いや、半霊は答えなかった。



「あ、庭師発見!」

「こんにちは、紫さん」

かねてから予定があった。八雲紫が遊びに来るという事である。客人はもてなすのが当たり前。妖夢はすぐに頭を切り替えた。

「お待ちしてましたよ」

「待ってる間は何を考えてた?」

「へ?」

「ふふっ」

わからないといえば紫も同様である。スキマから覗いたのか、心の中を読むような真似までやってのける。しかも笑顔だ。

「いえ。大したことではないので」

「ふーん……嘘つきね」

「だ、大丈夫ですよ」

普段からそうだが、妖夢は紫の得意そうな笑顔は苦手だった。幽々子だけならまだしも、最近は彼女にまで振り回され気味なのである。

「面白いわぁ。だって宝を持ち腐れているんだもの」

「宝、ですか?」

「人の悩みを断ち切る名刀を持ちながら悩んでるのね」

「いえ、まさか自分は斬れませんよ。第一、幽々子さまに申し訳が立ちません」

「いいじゃない。それで」

話が飲み込めない。あやふやな返事の通り妖夢は理解できていなかった。悩み事が自刃の話題にすり替えられたのだとは勘違いしたが。

「うーん……『だから半人前』ってこの前言ったっけ」

「はい。言われました」

「えっと、じゃあ……そうね。今のあなたには『だから嘘つき』と、言っておこうかしら」

「?」

もう何がなんだかわからない。ただほおをポリポリと掻いて苦笑いするしかないのだ。



__________



語ること半々日。
よほど話題を溜め込んでいたのか、日が暮れるまで幽々子と紫は語っていた。世間話は尽きないものだ。

彼女を帰らせてから、幽々子は妖夢を呼び寄せたのだった。

「はい?」

また何か思い付いたかな。それでも呼ばれたら応えるのが従者たる心得。綺麗に平らげられたお土産を片しながら、幽々子の話に耳を傾けた。

「紫がね、妖夢は嘘つきだって言ってたの」

「私も言われました」

「でね、妖夢は自分に嘘をついてるんだって」

「はあ……」

実はあれから、妖夢は妖夢なりに考えた。何に対して嘘をついていたのか。なぜ嘘つきなのか。だが、自分には正直にいたつもりだ。少なくともそうでなければ、長々と幽々子に付き合うのは不可能に近い。

「わかる?」

「いえ……。でも私は、幽々子さまについていて一度と後悔した事はないですよ」

「うーん……。そうなんだぁ」

「はい」

あれ、と思った。紫はそれしか伝えなかったのだろうか。
曖昧にされつつも、とりあえずお土産はごみを残さず片付けた。

「あ、そうだ。面白い話があるの」

「?」

「もし幻想郷が滅亡したら。それこそ物理的にも精神的にも滅んでしまったら、妖夢は死んじゃうの?」

「え゙?」

一瞬だが顔がこわばる。一体どの辺りから面白い話になったのだろうか。

「なぞかけですか?」

「ううん。普通に」

「普通に?……うー、普通に考えたら私は死んじゃいますね。幽々子さまは大丈夫だと思いますよ」

「一回死んでるから?」

「多……分」

自信は無いが一応答える妖夢。しかしすでに流れは読めない。頭の回線は早くも不足気味だ。

「じゃ、もし妖夢が死んじゃったらまた会えるかしら。幻想郷のみんなとはまた会えるかしら」

「えー……どうでしょう。確率は低いと思います」

「えー。私は嫌だ」

「いえ、嫌だと言われても」

「嫌よ。妖夢とまた会いたい」

幽々子はわがままが言いたいのだろうか。あるいは紫から何か吹き込まれたか。どっちにしろ妖夢が左右できる問題でないのは確かだ。

「えと……、じゃあどうしたらいいですか」

精一杯の苦笑いしかできないが、妖夢は回線不足を隠した。

「妖夢がいいの」

「いや、それは……その」

「だからね、妖夢。簡単な話よ」

もう収拾におえなくなった妖夢に気付いたのか、幽々子は人差し指を一本立てた。

「紫が教えてくれたんだけど、来ちゃうものは来ちゃうの。わがままを言っても歳はとるし、人は死ぬ。
妖夢はさっき、私についていて一度も後悔した事はないって言ったわよね?」

「はい」

「じゃあどうして悩んだの?」

「え」

「なぜ私についていて後悔した事がないのに悩んだの?死ぬまでつくのが……」

「そんな事ないです!!」

──あどけない少女の心からの叫び。感受性の強いその瞳から、少なくとも“嘘”は感じない。
それを確認した幽々子は、そっと言ってのけた。

「じゃあ、いいじゃない」

「ぇ……」

「何も悩まなくていいじゃない。自分が後悔していないなら、その道を貫いて。わざと悩む必要はあるの?」

「わざとなんて……違います。わざとじゃないです」

「ううん、わざと。私を喜ばせたくて、深すぎる所まで探していた。
私はね、妖夢。今のあなたが好き。まっすぐで正直だから、私は楽しい。だから妖夢がいいの」

まだまだ小さな少女はあまりにまっすぐすぎて、小さな自分を見失いかけていた。だからこそ自分に難題を吹っ掛け、解き洗いだそうとして悩んだ。
その答えは自分にあった。
その答えまで誘ってくれたのは、他ならない主人だった。こうだと思ったらこうでいい。それだけの話だったのだ。

「ね、わかった?簡単でしょ」

「……はい。……幽々子さま」

「ん?」

少女はもう一度、決意を語る。先代と全く変わらぬ固い覚悟。

「私、……幽々子さまにずっと、死んでもついていきます。幽々子さまを守る盾であり、剣でありたいです」

「ほんと?」

「はい」

幽々子が微笑み、妖夢は半泣きになりながら返す。そこにはまた少し成長した証と確認が、間違いなく含まれていた。















「じゃあ妖夢、早速だけどこれ。文々。新聞の折り込みチラシ」

「は?」

「人間の里でこのお菓子が大特価なのよ。早く買ってきて頂戴」

「……」

「私にずっとついてきてくれるんでしょ?」

「………」

開いた口が塞がらない。まさかこのために?そう考えたって不思議じゃない。



それでもいい。妖夢はもう、主人についていくと決めてしまったから。
__________


ちょっと短いですかね。こんばんは。
とりあえずゆゆ様と妖夢が書きたくて、大したネタもないのに無理やり文章作りました。要は妖夢頑張れぃって言いたかったんですけどね;
しゃーぷ
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