紅魔館の庭を一人の女が歩いていた
頭にはカチューシャ、身に纏ったエプロンドレス、脚線美に映える絶対領域
説明するまでもなく、この館を取り仕切るメイドの長だった
なぜ彼女がここを歩いているのか、それは誰にも知る由は無い
ただし、その表情に明るさはなかった、あるのはただ落胆の表情
ふと彼女の目に一つの影が映る
誰か?と思い空を見上げれば、そこにいたのは緑の髪をした女性
その右手に握られている悔悟の棒が、彼女を閻魔だという事を知らしめていた
閻魔はメイドの前へと降り立った
メイドは聞いた、何をしにきたのかと
その右手にはいつの間にか淡く光るナイフが握られていた
発せられる威圧に一切物怖じせず、堂々と閻魔は答えた
貴方の様子を見に来た、と
メイドは察し、ナイフをどことなくしまう
閻魔も安心してか、悔悟の棒をどことなくしまった
かつての花の異変の時、二人は対峙した
人間に忌み嫌われ、人間との関わりを持とうとしなかった人間
それを良しとせず、極楽浄土へ導くために悔悟の棒を向けた閻魔
その時に与えた言葉を守っているか、それを確認しに来たのだった
心がけてはいます、とメイドは答えた
ならばよろしい、と閻魔も答えた
では早々にお引取り願おうとメイドが考えたその時
閻魔の顔が自分の顔とは違う、どこか別の場所を見ている事に気づいた
胸だった
閻魔はメイドの胸をじぃっと見つめている
メイドは一瞬たじろいだ、冷や汗が彼女の頬を伝い、ぽとりと落ちた
そして閻魔が右手を前に突き出し
もにっ
もにもにっ
メイドは固まった、女性としての本能で固まったわけではない
隠していた大罪がばれたことに、その秘密が明らかになった事に固まった
閻魔は右手を下ろすと、やはりという表情を浮かべ、メイドを見つめる
メイドはただひたすらにうつむき、何も言葉を発する事はなかった
咲夜、と閻魔が呼びかける
しかし何も反応は返ってこない
もう一度閻魔は咲夜、と呼びかけた
それでもなお、反応は返ってこない
顔を上げなさい、と閻魔は言った
だが、メイドは顔を上げなかった
閻魔は目を瞑り、しばしの時間何かを思案していた
それは迷っているようにも見え、そして閻魔は答えをだした
閻魔はそっと左手を伸ばし、彼女の右手を掴む
手を掴まれたにも関わらず、メイドはうつむいたままであった
閻魔はそっと彼女の右手を自らの胸へと導き、当てる
一時の間の後、メイドは顔を上げた、その顔に驚きを浮かべながら
メイドの右手が何かを掴もうとする、しかし掴めた物は虚空だけだった
何度も、何度も手を開き、閉じる
胸にあわせた手を、上下に、左右に、動かす
いつしか、メイドの目から一筋の涙がこぼれる
それは、閻魔も同じだった
二人は抱きしめあい、そして心の底から泣いた
彼女らは今この時より心友となった
丁度その時、彼女らの前を一人の女性が陽気に歩いていた
それは門番であった
鼻歌混じりに歩く彼女の胸で、二つの巨大な塊が揺れ動く
その破壊力は、メイドと閻魔の理性を吹き飛ばすには十分であった
もにゅっ
もにゅっもにゅっ
もにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅ
もにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅ
茂みに連れ込まれた門番の穢れきった胸を、閻魔とメイドの清らかな手が浄化する
穢れた胸は音が違うと二人は嘆き、門番は喘ぎ声をあげ続けた
二人は穢れた胸を浄化し続けた
およそ半刻の間浄化し続けた
だが、穢れに満ちた胸は浄化される事はなかった
二人も気づいていた、穢れていたのは私達なのだと
それを認めたくはなかった、だが、認めるしかなかった
二人は泣いた、抱き合って泣いた
門番も泣いた、また胸が大きくなってしまうと言って、泣いた
門番の放った言葉は、二人を生きたまま地獄へと引き摺り落とした
その破壊力は、害なす魔の杖をも遥かに凌駕した
メイドと閻魔は嘆き悲しんだ
なぜこの世はこんなに不条理なのかと
なぜこんなにも生まれ持った物が違うのかと
門番はその言葉を聞き、悲しむ二人を見つめていた
そして両腕を広げ、二人をそっと自らの胸へと抱き寄せた
そして門番は語った、私の胸には愛と哀が詰まっているんです、と
かつて彼女は、大陸に住む妖怪であった
仕えるべき主がまだいない彼女は、ひっそりと山奥に暮らし、ひっそりと生きていた
ある日、彼女の元へ一人の男が現れた
男は旅人を襲う妖怪を成敗しに来たと言い
彼女は自分がその妖怪だと答えた
そして二人は戦った
しかしその妖怪はあまりにも強く、男はすぐに地に伏する事となる
男が次に目を覚ました時、そこは妖怪の腕の中であった
なぜ殺さないのか、男は尋ねた、しかし妖怪はなにも答えなかった
妖怪は男の傷口に手を当て、静かに傷を癒し続けた
傷もほとんど癒えた後、妖怪は両腕でしっかりと男を抱きよせると、ぽそりと呟いた
さみしい、と
誰も私の話を聞いてくれない、皆私を見て逃げてしまう、と
その言葉に心打たれた男は何度も妖怪の元へと通い続け、いつしか二人は愛し合っていた
人間と妖怪、違う生き物、違う存在、だがその心は一緒だった
いつしか妖怪の胸には愛が溢れていた
だから私の胸には、一人で生き続けて貯まった哀と
あの人から受け取った溢れんばかりの愛が詰まっているんですと門番は言った
メイドと閻魔は、ひたすらに泣き続けた
愛と哀で溢れている胸に顔をうずめ、涙を流し続けた
そして門番が見送る中、メイドと閻魔は空へと旅立つ
彼女の言葉を確かめるために、愛と哀を確かめるために
最初に会いに行ったのは人里を守る半獣だった
彼女の胸には、半獣であるために人にも妖怪にも嫌われ続けた哀と
理解し、受け入れてくれた人里の者達の愛が詰まっていた
半獣と共に居た蓬莱人とも会った
彼女の胸には、不死身ゆえに貯め続けた哀と
自らが理解されたように、彼女を理解し、居場所を与えた半獣の愛が詰まっていた
永遠亭の薬師にも会った
彼女の胸には、天才であるがための孤独で満ちた哀と
その天才を孤独から救い上げた姫の愛が詰まっていた
次に会ったのは隙間の式だった
彼女の胸には、寂しさゆえにひたすらに全ての物を欲した哀と
そんな彼女を側に置き、静かに見守り続けた主の愛が詰まっていた
式の主にも会った
彼女の胸には、あまりにも強い力ゆえに、誰からも恐れられてきた哀と
自らを信じ、側に居続けて愛を返してくれた式の愛が詰まっていた
冥界の主にも話を聞いた
彼女には生前の記憶が無く、それゆえにわからぬ理由で溜まり続けた哀と
親友である隙間の妖怪、そしてまだ半人前な従者の愛が詰まっていた
最後に閻魔とメイドは、三途の川の渡し人に会いに行った
すると彼女は照れながらこう答えた、私にはいつも映姫様に叱られる哀と
いつも見守ってくれている愛が詰まっていますよ、と
答えを受け取った閻魔は踵を返すと、仕事に励みなさいと一言だけ残し、メイドと共に飛び立った
確かに彼女達の胸には愛と哀が詰まっていた
湖の氷精には、ほんの少しの愛と哀が詰まっていた
永遠亭の姫には、愛しか詰まっていなかった
冥界の主の従者にも、愛しか詰まっていなかった
他の者達も、その胸に愛と哀がそれぞれ詰まっているのだろう
それならば、私達はどうなのか
メイドの胸には、人間から忌み嫌われ続けた哀と
ほんの少し、主が与えてくれた愛が詰まっていた
閻魔の胸には、心を押し殺し
ひたすらに死者を裁き続けた哀だけが詰まっていた
メイドと閻魔は考えた、私達には誰が愛を与えてくれるのだろうか
しばらくの後、彼女達の脳裏に、愛を与えてくれる者の姿が浮かび上がる
そうして二人は別れた
愛を求め、愛を受けんがために、愛を与えてくれる者の元へ向かわんと
それからどれくらいの年月が経っただろうか
月光に映える紅魔館の庭に、ポツリと佇む二人の女性がいた
メイド服に身を包んだ吸血鬼と、荘厳な衣装に身を包んだ閻魔
彼女達は、愛と哀に満ちた胸を揺らしながら、静かに、そして和やかに語り合っていた・・・。
なんとも素晴らしきQ.E.D.
混ぜ人さん特有の文体だからこそ輝く一作だと思います。
哀もいいですねぇ……
さすがです
ちょwめーりんwww
『メイド服に身を包んだ吸血鬼』は分かる。だけど
『荘厳な衣装に身を包んだ閻魔』は何によって愛に満たされたのかわからん。
もどかしくて仕方ない。誰か教えて下さい。
最後に咲夜が吸血鬼になっている所を見るに……
愛に気付きそれを受け入れる事で満たされるのではないでしょうかね。
いや、愛はいい。ところで後書きの続きは牡丹と薔薇ですか?
_, ,_
(;´Д`)!?
ふふふこのお茶目さんめ! もっとやれ!
いや間違ってはいないんですけどね、あのですね
まぁ何が言いたいかというと、GJ
おのれ、紅魔館の門番は化け物か!!
感動的だ!…と思うけど何故かしっくりこないっ
ああでもシリアス・・・・?
淡々とした文体で語られる穢れた二人に爆笑しましたw
「誰によって」「どうされることが」閻魔にとっての救いなのかが知りたかった。
愛に満たされることと「衣装」がどんな関係があるのかが知りたかった。
最初は悟りを開いて菩薩か如来にでもなったかと思った。
後は自分自身で補完することにするよ。では失礼。
だが、それがいい。
私以外の人も居るはずです。・・・・・はい。
これが愛……
まあ最終的に皆幸せになってるしw
結局これはギャグなのか・・・?
とりあえず後書きに全部持ってかれたwww
というか、後書きがwww