「ヴぁー」
「ぬぁー」
こたつにみかん……ではなく煎餅を口に、だらける二人。
「霊夢ぅ~、お茶がもうないぜ~」
「あんたが淹れてきなさいよ~」
この時、ひたすらダラダラしていた二人に衝撃走る。
「ッハ!?」
「ッハ!?」
煎餅が……残り一枚……っ!
残された煎餅は一枚、それはつまりどちからが食べられないということ。
それはつまり、どちらかが席を立たねばならぬということ!
「き、今日はいい天気だなぁー……」
「そ、そうね、ふふ」
弾ける火花。線香花火も真っ青である。
「だから、煎餅はもらおうか」
「駄目」
ちっと、舌をうつ魔理沙。
霊夢は言う。
「いくらなんでもストレートすぎでしょう……もうちょっとないの?
こう、ひねる気は」
「んー……」
「ほいっと」
「だぁぁぁぁあい!!」
伸ばした霊夢の手を、魔理沙は必死に掴みとった。
「……何よ」
「なに人が考えてる間に取ろうとしてるんだよ」
「あ・な・た・のじゃないでしょ」
ぷるぷると震える二人の手と手。
見詰め合う二人、と書けばロマンチックなものだが、ようは睨み合いである。
「もう、寒いから放して、ほら」
はぁっとため息をつき、手をこたつに戻す霊夢に、魔理沙は悪びれた様子もなく言い放った。
「お前のものは、私のもの!」
「ほいっと」
「にゃぁぁぁい!」
伸ばした霊夢の手を、魔理沙は必死に掴みとった。
「抜・け・駆・け・禁・止!」
「いいじゃない魔理沙、あなたお茶淹れて来てよ」
「よーしわかった、こうなりゃゲームだ」
「嫌よ、寒いし」
「ルールを説明するぜ」
「をい」
すっと、魔理沙は懐から銀色の硬貨を取り出した。
「これを投げる、これが地面に落ちた時、その時が勝負、いいな」
「ようは早撃ちでしょ、ちょろいわね」
なんだかんだ言ってノリノリである。
「ふふ、幻想郷最速は伊達じゃないぜ」
「元、ね」
「…………」
「…………」
ぴんと、一瞬にして空気が張り詰めた。
ただでさえ寒いこの一室。
緊張により、空気そのものが鋭利な刃となったような錯覚さえ覚えた。
ぴーんと音をたて、魔理沙の指から一枚のコインが舞い上がった。
銀貨はやがて位置エネルギーの最大地点へと到達し、その動きを一時的に停止する。
位置エネルギーが運動エネルギーへと、力学的エネルギー保存の法則により移り変わる。
3、2……心の中でそうカウントダウンする。
やがて数字が1になった時、全てはスローモーションの世界へと変わった。
コインの、一挙一動が手に取るように判る。
表……裏……表……
回転するそれが、やがてこたつの机の上へと
「「…………はぁ!?」」
落ちなかった。
というより、直前になってコインが消えたのだ。
「さぁ、おぜう様、落ちてたお煎餅ですよー」
「わーい」
ぼりぼりと、紅い悪魔が二人の神器を頬張っていた。
「落ちてるもんやるなよ!」
「いや、落ちてないから!」
なんという二段ツッコミ、これは間違いなく修羅場。
ヤンキーもびっくりのガンをたれる二人なんぞアウトオブ眼中。
レミリアはその小さな口で煎餅をなんとか食べ終えると、すかさず咲夜が口を拭きにかかった。
水筒から出した紅茶で喉を潤し、ぷはーっと落ち着いたところで一言。
「アレをやるわよ!」
ずびしーっと、人差し指を霊夢にむけ、かっこよくポーズ。
ほとばしるカリスマ波に、咲夜は鼻血を禁じえなかった。
「あ……アレですって!」
?マークを頭に浮かべる魔理沙をよそに、霊夢は一人劇画になっていた。
「時間は今日、日が沈んだ頃よ……せいぜい首を洗ってなさい!」
はーっはっはっはーと、悪役笑いを響かせつつ、小さな煎餅ハンターは空へと消えていった。
咲夜も続き、メモを一つ置いて飛び立った。
メモには、「お煎餅取ってごめんね ミ☆」と書いてあった。燃やした。
「なぁ、アレってなんだ?」
「……アレとは」
ごくり、と魔理沙は唾を飲む。
「アレとは?」
「…………知らん!」
─────────
「さぁ始まりました第一回紅魔館病み鍋大会! それでは主催のレミリアさん、ご挨拶をどうぞ!」
何故か司会をしている射命丸文、まさに神出鬼没である。
「なぁ、なんか第一回とか聞こえたんだが気のせいか?」
「日常茶飯事よ、アレにとってのアレは暇つぶし大会の総称」
「えーっと、本日はみんな、よく集まってくれたわね
まぁ、せいぜい頑張っていって頂戴」
くすっと笑うレミリア。
ほとばしるカリスマビームに咲夜は胸キュンした。
「しっかし、結構色々いるんだな」
「ほんと、よくこんだけ集めたわ」
「それでは、ルール説明を行います!」
「ん? ルール?」
「どうぞ」
見ると、メイド達がパンフレットのようなものを配っていた。
表紙には、第一回紅魔館病み鍋大会! ペア選手権 と大きく書いてある。
「病み……? 闇じゃなくてか?」
「っし」
「パンフレットは行き渡りましたね? それではルールを説明しますよー」
「まず最初のページをめくってください、はい、リストが載っていますね?
載ってない人は手を挙げてくださいねー」
二人は言われたとおり、冊子をめくった。
1と書かれたページには、何やらリスト。
「ご飯(大)1,000RP……白菜500RP……なんだこりゃ」
そこには主だった鍋の具材、その他もろもろの、様々な飲食物の名が載っていた。
「いいですか? そこに載っているのはRP(レミィ・ポインツ)です、これからみなさんに、この紅魔館でRPを貯めてもらいます!
貯めたRMの使い道は自由ですが、紅魔館側の交換レートは冊子の通りです」
もちろん、と文は付け加えた。
「貯めないですぐに使うのも手ですよー」
─────────
話は、それっきりだった。
そこまで終わると、主催側の紅魔館の者、及び文は風のように消え去った。
紅魔館大ホールに集まった面々、ざっと50は超えるそれらはにわかにざわめきだした。
「なかなか面白そうだな」
「説明も糞もない説明だったけどね」
「まぁまぁ、とりあえず色々回ってみようぜ」
「うーん……面倒だからこのまま帰りたいんだけどなぁ……あ」
そういや、と霊夢は冊子をパラパラとめくり出した。
「……あったあった」
「ん?」
「これよ、RPとかいうの」
「うお、本当だ」
見ると、冊子の一番後ろ、そこに切り取って使える札のようなものが付録のようについていた。
ざっと、10,000RPである。
「これさ、普通の鍋ならこれで間に合うよな」
「でもこれ、ほら」
霊夢はリストを指した。
なるほどよくよくリストを見ると、魔理沙も今回の大会の趣旨がわかってきた。
野菜類は安い、それこそ1,000RPやそこらであるが、問題はメインディッシュ。
豚肉が100gで10,000RP、牛肉が20,000RPである。
さらに松茸50,000RP、カニ60,000RPなどがある。
「げ、鍋も10分100RPで貸し出し、スープも選択式で別料金だぜ」
「なるほど、何をするのにもRPなわけね……」
二人がざっと計算してみたところ、初期のRPでは、昆布だしベースの野菜鍋くらいしか食べられないのである。
「しっかしこれ、別に時間はあるんだしさ、いくらでも上を目指せるんじゃ?」
「魔理沙、甘いわね、ブラックサンダーより甘いわ」
ここのところ、食に関して修羅場をくぐってきた霊夢は鋭い。
「"貯めないですぐに使うのも手ですよー"、文の言葉よ、これが何を表すか、わかる?」
「……あ」
「そう、”RPは、使う以外で何かしらによって減る可能性もある”」
「最悪、何も食べられないわけか……」
「まさに、病み鍋ね」
他人が、目の前で馳走を食べる傍ら、負け犬は米の一粒も食べられない。
そんな弱肉強食スパイラル、それが紅魔館病み鍋大会なのである。
「魔理沙……」
「んー?」
「いくわよ!」
「…………おっけ!」
血を血で洗う、恐怖の病み鍋大会がいま、開催された。
─────────
「さぁ、姫様、これをどうぞ」
「ふぅぅぅ! ドーピングコンソメスーーップ! これで私も」
スカーンと輝夜の頭にナイフが刺さったのと霊夢と魔理沙が廊下の角を曲がったのは同時だった。
「不正は全面禁止とさせていだだきますわ」
どこからともなく、大会執行部長の咲夜さんは言い残し、去っていった。
「ひめー、ひめー!」
泣き崩れる永琳。
「え、えーりん、私はもう……」
「っせ」
「かはっ」
霊夢は見た、永琳が輝夜の懐から紙幣のようなものを抜き取るのを。
「……あら、どこいってたの?」
「あ、おっしょーさま!」
ひょこっと、鈴仙が顔を出した、トイレにでも行っていたのだろうか。
「さぁ、ちょっと向こう行きましょうか」
「あれ、でもそこで寝てるのは……」
「いいから、行くわよ」
「いいんですかぁ……」
霊夢と魔理沙は、何も見なかったことにした。
さて、二人の目の前にはいま、扉がある。
先程、今は亡き輝夜がドーピングしようとしたのと関係あるのだろうか。
扉には、【にらめっこ】とだけ、書かれている。
意を決し、魔理沙は扉を開けることにした。
なんでも、一回につき一人だけ入場可能らしい。
外で待つこと数分、霊夢は魔理沙の姿を見た。
「め、めーりん……が」
そこまで言い、魔理沙は倒れた。
扉は閉められ、廊下には二人だけが残される。
「ちょ、何があったの! 魔理沙!」
魔理沙は、何も答えない。
「これは……」
魔理沙の手には、8,000RPが握られていた。
そう、彼女は負けたのだ。
残された言葉、めーりん。
霊夢は、真実を知るため、仇をとるため、いま、扉を開け放った!
「あの顔は反則……」
「勝てるわけないぜ……」
二人して、廊下に大の字に倒れた。
「つ、次よ、次にいきましょう」
「もう、雑炊だけ啜って帰りたい気分なんだけど……」
「駄目よ、松茸、松茸にありつかないと!」
「結局、そこだったのか……」
霊夢に引きずられる形で、二人は紅魔館の次なるアトラクションへと穂を進めたのだった。
─────────
その後、フランとのボーリング対決や小悪魔とのひよこ鑑定勝負などを経て、二人はなお生き残っていた。
「や、やっと……50,000RP……ね……」
「二人合わせて、な」
息が、あがっている。
二人とも、空腹と疲労でそろそろ限界が近づきつつあった。
「松茸だけ食べても……ね」
「そろそろ、どかんと一発あてないとな」
「……そういえば」
「ん?」
「おかしい、おかしいわ」
「何だよいったい」
「考えてもみなさいよ、何でペア大会なのか」
「……そういや」
今までの勝負は、全てタイマンだった。
ペアの大会なのに、ペアらしいことは何一つない。
「これは、何かあるわね」
「やれやれ、やっと一組目ですか」
二人がぎょっとしたのも無理はない。
どこから聞いていたのか、いつの間にか二人の背後に咲夜が立っていた。
「それに気づいた人に、権利を差し上げますわ」
「権利?」
そう、と咲夜は言った。
「私と、おぜう様のコンビと勝負をする権利ですわ」
─────────
「それでは、ルール説明を」
レミリアの寝室、テーブルを挟んでレミリア、咲夜と霊夢、魔理沙は対峙していた。
「勝負はポーカー、しかし、ただのポーカーではありませんわ」
「ペアか?」
「いえ、脱衣ポーカー」
「ちょ、咲夜」
「それではスタートォ!」
プレイヤー:魔理沙・咲夜
脱衣捕虜:霊夢・レミリア
ルール:普通のポーカー、負けたら捕虜が脱ぐ。服がなくなったら負け。
「それでは、カードを配ります」
「…………」
(Aと2のツーペアか、ここは一枚交換してフルハウス狙いかな)
「私は全て、ホールドで」
「……一枚、ドロー」
(ノーチェンジ……? よほどの手なのか……Aか2、こい!)
「終わりましたね? それでは、ショー・ダウン」
「ノーペア」
「……フルハウス!」
「え、ちょ」
うろたえる魔理沙、向かい側の咲夜の笑顔が、怖かった。
「あら、負けてしまいましたわ」
「ちょっと咲夜、あなた……って寒! え? 寒っ!」
「ふふ、おぜう様、うふふふ」
「ま、魔理沙ぁ!」
レミリア の 哀願 こうげき!
「さぁ、次のプレイだZE」
しかし 魔理沙 にはこうかがなかった!
「魔理沙ぁぁぁぁ!」
「ツーペア!」
「ノーペア」
「ワンペア!」
「ノーペア」
「スリーカード!」
「ノーペア!」
「ストレートォ!」
「ノーペアァ!」
「ロイヤルストレートフラッシュゥゥゥ!!」
「ノーーペァァァァァァァ!」
「ちょ、咲夜、ちょおま」
「あらあら、うふふ!」
「え、ちょ、咲夜、そっちはベッド……あ、いや…………らめえええぇぇぇ」
─────────
「見て! 魔理沙!」
「これは……20万RPはある、な」
「さぁいくわよ!」
「霊夢、カニ食べようぜ!」
「カニでも松茸でもどんとこいよ!」
「ははは」
「ハハハ、こやつめハハハ」
「え、もう大会終わりましたけど?」
あと、質量保存の法則ではなく力学的エネルギー保存則ですよ。
あとがき誰と誰だ? 霖之助さんの松茸は希少価値! 渡せまs(ry
にらめっこで美鈴との勝負が見てみたかったですねぇ。
奴が真のやみなべの具だ。
その後永遠組がどうなったか気になるwww
めーりんえーりん対決が見てみたいwww
脱字報告です「どかんと一発あてないな」「あてたいな」もしくは「あてないとな」でしょうか。
/(^o^)\アッー
修正しておきました。
ありがとうございやんす。