人の不幸は蜜の味、なんて誰が言った言葉だっただろうか。
人間の諺にしてはうまいと思ったし、事実、人や妖怪に関わらず、自分の巻き込まれない面倒ごとは得てして愉快なものです。
あぁ、確かにそのとおりでしょう。そのことを否定する気は、私自身更々ありません。
うん、確かにそのとおりだと思いますよ? でもね、だからといって―――
「文をいじめて泣かせていいのは私だけよ」
「いいえ、文さんをブン投げていいのは私だけです」
こんなにも嬉しくない修羅場に遭遇しなくたっていいじゃないですか。
ていうか、椛も霊夢も内容物騒なんだけど。なんで私が被害こうむるような台詞ばっかりなの?
私にとっては二人とも大切な親友ですけど、マゾじゃないんでそんな痛い思いのする愛情は勘弁願いたい。
博麗神社の縁側沿いの一室にて、ちゃぶ台をはさんで座る二人。
そして私はその間に入るように居心地悪い状態でずっと正座。
……うん、ここは博麗神社のはずよね? 魔界とか地獄とか、そんな異界ではないはずですよね?
何故こうなったし。
「えーっとね二人とも、私これから取材があるんでちょっと帰りたいかなーっと……いや、その……なんでもないです、ハイ」
脱出しようと適当な嘘を吐いて去ろうとするものの、二人の鋭い眼光にい抜かれてすごすごと元の位置で正座する。
はたして、これでこの場を脱出しようとして失敗したのは何回目だろうか。もう数えるのも億劫なんで覚えてませんけど。
ヘタレと思ったあなた、一度ここに立ってみればいい。この二人の間に座ってみなさい。生きた心地がしないから。
「あっはっは、愛されてるなぁ鴉天狗」
「魔理沙、それじゃ嫌味にしか聞こえないわ。どうせなら直球でからかってあげなさい」
そして、この部屋から見える位置で好き勝手に言葉を紡ぐ魔理沙とアリスの魔法の森在住の偏屈共。
このクソ暑い真夏日に、何故か境内で焚き火なんぞしておいでだった。そのまま燃えて灰になれッ!
とりあえず助けを期待できない魔法使いはこの際置いといて、誰かこの空気を打ち破る人物が現れることを切に願う。
その思いが通じたのだろうか。突然、この部屋のふすまが勢いよく開かれて、最近よく面倒を見るようになった後輩が姿を見せた。
鴉天狗の姫海棠はたて。親しく、仲の良い彼女の登場に、私は救世主が現れたと万歳三唱しようとして―――
「文は私のよ、このサドモンスター共が!!」
彼女の一言で、そのままちゃぶ台に思い切り顔面を打ち付ける羽目になった。
訪れた救世主が、実は状況を悪化させる死亡フラグとかどういうことですか。
顔面を突っ伏したままでも伝わる、いっそう険悪になった三つの気配。それはもはや闘気を通り越して殺意に変貌しつつある。
ぶっちゃけ、怖すぎて顔を上げられない。ドドドドドドドドドとか変な音が聞こえるんですが気のせいですよね? 誰か気のせいだといってほしい。もう切実に。
ガタリと、二人が立ち上がる気配がする。恐る恐る、突っ伏したまま視線を上げてみれば、なんだか妙に背中を反らせて立っている三人がいた。
……何故○ョ○ョ立ち?
「アンタ達はこの博麗霊夢が直々にぶっ潰す」
「右に同じく」
「やってみなさい、このはたてに対してね!」
一触即発の気配に、更に挑発的な発言を投げかける我が後輩。
火に油どころかガソリンかニトロでもぶち込まんばかりの発言に、私はもはや乾いた笑いすらもあげる事ができないほどに真っ白になっていた。
だから、その世間知らずで怖いもの知らずな性格を直せとあれ程言ったのに、この子ははたして何を聞いていたんだろうか?
何も聞いてなかったんだろうなぁ……。未だに、宴会の席になると鬼の方々の頭をバシバシはたく子だし。
それを見て、天魔様が卒倒していたのも記憶に新しい。心中お察しします。
「面白いことになってんなぁ」
「こら魔理沙、頬に食べかすついてるわよ」
なんとも暢気な言葉をこぼす魔理沙に、あきれたような表情で頬の食べかすをハンカチで拭いてやるアリスさん。
「やーめーろーよー」などと言いつつも、満更でもなさそうな白黒はなされるがままに目を細めている。
何だろう、この室内と境内の温度差。とりあえず爆発しろバカップル。
そう念じたら代わりに部屋が爆発した。
いや、正確に言えば音速を超えて外に飛び出した三人の余波で、室内がむちゃくちゃになっただけの話。無論、私ごと。
ごろごろと吹き飛ばされた私はゴンッと後頭部を強かに打ちつけて、一瞬意識が飛びそうになったのを何とか踏みとどまった。
後に、このまま気絶しておけばよかったと自らの迂闊さを呪う事になるのだが、それももはや後の祭り。
外から「オラオラオラオラオラ」だの「無駄無駄無駄無駄無駄」だの「おぉブラボー!」とか聞こえてくるけれど、きっぱり聞かなかったことにして縁側にまで這って移動する。
そこから見えた光景は、弾幕勝負などきっぱりさっぱり忘れ去ったかのような、もはや常軌を逸した戦いであった。
繰り出される拳と拳の応酬。あまりの速さに無数の拳が見えて映るというその異常。
加えて突然消えたかと思えばまた別の場所で拳の応酬を繰り返し、三人は瞬間移動を繰り返しながら博麗神社の上空で拳で語り合っている。
空気が振動し、爆ぜ、衝撃が津波となって辺りを粉砕していく様は圧巻の一言だった。
これで私がまったく関わっていないのなら、嬉々として新聞の記事に採用したことだろう。
見出しは「衝撃、とうとう博麗の巫女が人間を辞めた!!?」とかその辺りで。
ていうか、本当に人間やめてるんだけどあの子。私が視認できないとかドンだけなのよ。
三人そろって「波ぁー――ッ!!!」とかビーム撃ち始めた辺りでついていけなくなった私は、空中で聞こえてくる戦闘音無視して平和そうな境内に視線を向けた。
要するに現実逃避なわけだけれど、そこで目にした光景は―――
「あ、射命丸さん。こんにちはー」
「ウホッ」
「ゴリラっ!!?」
いつの間にか訪れていた稗田阿求と純然たるゴリラそのものだった。
魔法使いたちと一緒に焚き火で温まる稗田家当主と類人猿。だから今は夏だと何度言えばわかるのかこいつ等は。
どうやらこっちの方でも私の心は癒されないらしい。ていうか、どっから沸いて出たこのゴリラ。
「何をおっしゃいます射命丸さん。こちらの方は我が家のお隣のイサオさん(オス・20歳)ですよ」
「……ごめんなさい、どう見ても私にはゴリラにしか見えないんですけど? ていうか、今サラッとオスって言いましたよねこの子。人間扱いしてなかったよねこの子?」
「そんなことないですよ?それにですね射命丸さん、彼は女の子に囲まれて緊張すると、畏まって彫りが深くなっちゃうんですよ」
「全身毛だらけになる畏まり方ってなんですか!!? どこからどー見ても純然たるゴリラそのものでしょうがッ!!?」
「だから、それの相談のためにこの神社に来たんですよ。ね、イサオさん」
「ウホッ」
「整形しなさい!! いいところ紹介するから!!」
主に永遠亭とか。
いや、あそこに相談すると下手すればショッ○ー張りの怪人に改造されそうな気がしないでもないですけど。
「なぁ、アリスぅ。頭撫でてくれよぉ」
「まったく、しょうがないわねこの子は」
そして相変わらず桃色空間展開中な魔法使い(バカ)共。自重しろお前ら。
そう思った次の瞬間。
ズドォォォォン!!
「ウホォォォォォォッ!!?」
『イサオさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!?』
空中で争っていた三人の流れ弾がゴリラに直撃した。
盛大に爆発し、ひゅるりひゅるりと紙くずのように空を舞う類人猿。それだけで今の一撃の威力がわかるというものだろう。
当たり前のように宙を舞い、そして当然のごとく地面に頭から落下するゴリラことイサオさん。
「イサオさん、しっかりしてください!!」
「そうだイサオ、気をしっかり持て!!」
「阿求と魔理沙の言うとおりよ。意識をしっかり持ちなさい!」
三種三様にゴリラに語りかける光景は、傍目から見るとすさまじくシュールなことこの上ない。
話についていけずその場でボー然とする私をよそに、なんか知らないけどいつの間にか目の前で感動的なドラマが展開されてるっぽい。
弱々しく腕を上げ、ゴリラは何か言葉を紡ごうとして―――
「……ウホッ……ガクリ」
『ゴリラァァァァァァァァァ!!?』
種族の壁は超えられず、そのままあえなくお亡くなりになったのであった。
真っ白になったゴリラの側で、おいおいと泣き崩れる魔法使いたちと稗田当主。
ていうか、今この人たちゴリラって言ったよ。ゴリラって認めたよ。はっきり三人してハモッてたもん今。イサオさんじゃなかったんですか?
……なんですかね、この茶番。
その光景に耐えられず、ふと視線を上に向ける。
そこに繰り広げられている光景は、天狗二人を相手に金色のオーラを纏いながら圧倒する巫女の姿だった。
……スペルカードルール、要らなくないこれ?
「はたてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「霊夢ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「椛ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
そして気合とともに三人が激突する。
霊夢の拳がはたてに、椛の拳が霊夢に、そしてはたての拳がもみじへと。
三人それぞれの拳が、三人の頬にめり込み、いい具合にカウンターになったらしいその一撃は三人を気絶させるには十分だったようで。
地に落ちる三人を、私があわてて回収する羽目になった。
三人まとめてキャッチするのは骨が折れたが、そこは幻想郷最速をほしいままにする私だ。彼女たちを取りこぼすなんて万が一にもありえない。
彼女たちの顔をそれぞれ覗き込むと、幸い大きな怪我はしていないようで、三人とも気絶したまま起きる気配は見せないでいる。
ほっと、一安心とため息をつく。彼女たちのことは友人だと思っているし、怪我がなくて素直に嬉しいとそう思えた。
まぁ、それ以上に自身に対する危機が去ったことの喜びも大きいのですが、それは言わないお約束ということで。
「本当、私さえ巻き込まなければ愉快だって言うのにねぇ、この子達は」
肩の荷が下りたようにするりとこぼれた言葉は、不思議な温かみがこもっていた様な気がする。
彼女たちがどうして喧嘩をしたのか、それは私だってわかってるつもりだ。
長い年月を生きた分、どうしても年下の子の面倒を見るような感覚が抜け切らないのはどうしようもない。
まぁ、多分きっと。自惚れでなければ、そんな私を彼女たちは好いていてくれてるのだと、そう思っているから。
「ウ……ウホ」
「立った!? ゴリラが立ったわっふぅ!!?」
その後、私がせっかくいい感じに終わらせようとしたのに、その邪魔をしたゴリラと阿求を竜巻で吹っ飛ばしたのは言うまでもない。
ついでに、いい加減描写できないイチャつき方を始めた魔法使いたちも吹っ飛ばしたのは余談である。
嫉妬ではない。嫉妬ではないんだったら!
▼
『……』
さて、それからしばらくたった後、三人は目を覚ましてすぐにまた一触即発な雰囲気に逆戻り。
これから一体どうやって彼女たちを諌めようかと頭を悩ませていると、おもむろに三人とも立ち上がった。
「表に出なさいあんた達」
「ふ、今度こそ決着をつけてあげますよ」
「やれるもんならやってみなさいよ、霊夢、椛」
「……アンタ達ねぇ」
疲れきったため息がついて出るのがとまらない。
どうやったら彼女達は仲良くできるのだろうかと必死になって考えるのだけれど、うまい考えが見つからないのだ。
そんな時である。ちょうど部屋の真ん中から空間に亀裂が入り、そのスキマから一人の大賢者が姿を現した。
彼女の出現に三人は警戒して身構え、賢者はニィッと口の端を吊り上げて。
「合意と見てよろしいですねぇぇぇぇ!!?」
マイク片手に、超ノリノリでそんなことをのたまったのであった。私がその場でずっこけたことは、皆さんの脳裏に容易に想像できたことと思われる。
ある夏の日のこと。私の苦悩はまだまだ続くらしい。ていうか、マジで勘弁してください。
▼
後日、散々殴りあった彼女達は後に和解したらしく、友情が芽生えたとか何とか。
……私の今までの苦労は一体なんだったというのか。
「はい、文。あーんして」
「ちょっとはたて、アンタだけずるいじゃない!! あ、……別に、アンタのためにお茶持ってきたわけじゃないんだからね!」
「霊夢、それじゃ照れ隠しにもなってないですよ。文さん、今度人里でプリズムリバーのライブがあるんで、みんなで見に行きましょう」
キャイキャイと急に仲良くなった三人を尻目に、私はぼんやりと空を見上げてお茶をすする。
仲良くなったのはいいことなんだけど、釈然としないこの気持ちはどうすればいいのやら。
でもまぁ、いいですよね。きっとこんな関係も、悪くないと思える自分がいるのですから。
人間の諺にしてはうまいと思ったし、事実、人や妖怪に関わらず、自分の巻き込まれない面倒ごとは得てして愉快なものです。
あぁ、確かにそのとおりでしょう。そのことを否定する気は、私自身更々ありません。
うん、確かにそのとおりだと思いますよ? でもね、だからといって―――
「文をいじめて泣かせていいのは私だけよ」
「いいえ、文さんをブン投げていいのは私だけです」
こんなにも嬉しくない修羅場に遭遇しなくたっていいじゃないですか。
ていうか、椛も霊夢も内容物騒なんだけど。なんで私が被害こうむるような台詞ばっかりなの?
私にとっては二人とも大切な親友ですけど、マゾじゃないんでそんな痛い思いのする愛情は勘弁願いたい。
博麗神社の縁側沿いの一室にて、ちゃぶ台をはさんで座る二人。
そして私はその間に入るように居心地悪い状態でずっと正座。
……うん、ここは博麗神社のはずよね? 魔界とか地獄とか、そんな異界ではないはずですよね?
何故こうなったし。
「えーっとね二人とも、私これから取材があるんでちょっと帰りたいかなーっと……いや、その……なんでもないです、ハイ」
脱出しようと適当な嘘を吐いて去ろうとするものの、二人の鋭い眼光にい抜かれてすごすごと元の位置で正座する。
はたして、これでこの場を脱出しようとして失敗したのは何回目だろうか。もう数えるのも億劫なんで覚えてませんけど。
ヘタレと思ったあなた、一度ここに立ってみればいい。この二人の間に座ってみなさい。生きた心地がしないから。
「あっはっは、愛されてるなぁ鴉天狗」
「魔理沙、それじゃ嫌味にしか聞こえないわ。どうせなら直球でからかってあげなさい」
そして、この部屋から見える位置で好き勝手に言葉を紡ぐ魔理沙とアリスの魔法の森在住の偏屈共。
このクソ暑い真夏日に、何故か境内で焚き火なんぞしておいでだった。そのまま燃えて灰になれッ!
とりあえず助けを期待できない魔法使いはこの際置いといて、誰かこの空気を打ち破る人物が現れることを切に願う。
その思いが通じたのだろうか。突然、この部屋のふすまが勢いよく開かれて、最近よく面倒を見るようになった後輩が姿を見せた。
鴉天狗の姫海棠はたて。親しく、仲の良い彼女の登場に、私は救世主が現れたと万歳三唱しようとして―――
「文は私のよ、このサドモンスター共が!!」
彼女の一言で、そのままちゃぶ台に思い切り顔面を打ち付ける羽目になった。
訪れた救世主が、実は状況を悪化させる死亡フラグとかどういうことですか。
顔面を突っ伏したままでも伝わる、いっそう険悪になった三つの気配。それはもはや闘気を通り越して殺意に変貌しつつある。
ぶっちゃけ、怖すぎて顔を上げられない。ドドドドドドドドドとか変な音が聞こえるんですが気のせいですよね? 誰か気のせいだといってほしい。もう切実に。
ガタリと、二人が立ち上がる気配がする。恐る恐る、突っ伏したまま視線を上げてみれば、なんだか妙に背中を反らせて立っている三人がいた。
……何故○ョ○ョ立ち?
「アンタ達はこの博麗霊夢が直々にぶっ潰す」
「右に同じく」
「やってみなさい、このはたてに対してね!」
一触即発の気配に、更に挑発的な発言を投げかける我が後輩。
火に油どころかガソリンかニトロでもぶち込まんばかりの発言に、私はもはや乾いた笑いすらもあげる事ができないほどに真っ白になっていた。
だから、その世間知らずで怖いもの知らずな性格を直せとあれ程言ったのに、この子ははたして何を聞いていたんだろうか?
何も聞いてなかったんだろうなぁ……。未だに、宴会の席になると鬼の方々の頭をバシバシはたく子だし。
それを見て、天魔様が卒倒していたのも記憶に新しい。心中お察しします。
「面白いことになってんなぁ」
「こら魔理沙、頬に食べかすついてるわよ」
なんとも暢気な言葉をこぼす魔理沙に、あきれたような表情で頬の食べかすをハンカチで拭いてやるアリスさん。
「やーめーろーよー」などと言いつつも、満更でもなさそうな白黒はなされるがままに目を細めている。
何だろう、この室内と境内の温度差。とりあえず爆発しろバカップル。
そう念じたら代わりに部屋が爆発した。
いや、正確に言えば音速を超えて外に飛び出した三人の余波で、室内がむちゃくちゃになっただけの話。無論、私ごと。
ごろごろと吹き飛ばされた私はゴンッと後頭部を強かに打ちつけて、一瞬意識が飛びそうになったのを何とか踏みとどまった。
後に、このまま気絶しておけばよかったと自らの迂闊さを呪う事になるのだが、それももはや後の祭り。
外から「オラオラオラオラオラ」だの「無駄無駄無駄無駄無駄」だの「おぉブラボー!」とか聞こえてくるけれど、きっぱり聞かなかったことにして縁側にまで這って移動する。
そこから見えた光景は、弾幕勝負などきっぱりさっぱり忘れ去ったかのような、もはや常軌を逸した戦いであった。
繰り出される拳と拳の応酬。あまりの速さに無数の拳が見えて映るというその異常。
加えて突然消えたかと思えばまた別の場所で拳の応酬を繰り返し、三人は瞬間移動を繰り返しながら博麗神社の上空で拳で語り合っている。
空気が振動し、爆ぜ、衝撃が津波となって辺りを粉砕していく様は圧巻の一言だった。
これで私がまったく関わっていないのなら、嬉々として新聞の記事に採用したことだろう。
見出しは「衝撃、とうとう博麗の巫女が人間を辞めた!!?」とかその辺りで。
ていうか、本当に人間やめてるんだけどあの子。私が視認できないとかドンだけなのよ。
三人そろって「波ぁー――ッ!!!」とかビーム撃ち始めた辺りでついていけなくなった私は、空中で聞こえてくる戦闘音無視して平和そうな境内に視線を向けた。
要するに現実逃避なわけだけれど、そこで目にした光景は―――
「あ、射命丸さん。こんにちはー」
「ウホッ」
「ゴリラっ!!?」
いつの間にか訪れていた稗田阿求と純然たるゴリラそのものだった。
魔法使いたちと一緒に焚き火で温まる稗田家当主と類人猿。だから今は夏だと何度言えばわかるのかこいつ等は。
どうやらこっちの方でも私の心は癒されないらしい。ていうか、どっから沸いて出たこのゴリラ。
「何をおっしゃいます射命丸さん。こちらの方は我が家のお隣のイサオさん(オス・20歳)ですよ」
「……ごめんなさい、どう見ても私にはゴリラにしか見えないんですけど? ていうか、今サラッとオスって言いましたよねこの子。人間扱いしてなかったよねこの子?」
「そんなことないですよ?それにですね射命丸さん、彼は女の子に囲まれて緊張すると、畏まって彫りが深くなっちゃうんですよ」
「全身毛だらけになる畏まり方ってなんですか!!? どこからどー見ても純然たるゴリラそのものでしょうがッ!!?」
「だから、それの相談のためにこの神社に来たんですよ。ね、イサオさん」
「ウホッ」
「整形しなさい!! いいところ紹介するから!!」
主に永遠亭とか。
いや、あそこに相談すると下手すればショッ○ー張りの怪人に改造されそうな気がしないでもないですけど。
「なぁ、アリスぅ。頭撫でてくれよぉ」
「まったく、しょうがないわねこの子は」
そして相変わらず桃色空間展開中な魔法使い(バカ)共。自重しろお前ら。
そう思った次の瞬間。
ズドォォォォン!!
「ウホォォォォォォッ!!?」
『イサオさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!?』
空中で争っていた三人の流れ弾がゴリラに直撃した。
盛大に爆発し、ひゅるりひゅるりと紙くずのように空を舞う類人猿。それだけで今の一撃の威力がわかるというものだろう。
当たり前のように宙を舞い、そして当然のごとく地面に頭から落下するゴリラことイサオさん。
「イサオさん、しっかりしてください!!」
「そうだイサオ、気をしっかり持て!!」
「阿求と魔理沙の言うとおりよ。意識をしっかり持ちなさい!」
三種三様にゴリラに語りかける光景は、傍目から見るとすさまじくシュールなことこの上ない。
話についていけずその場でボー然とする私をよそに、なんか知らないけどいつの間にか目の前で感動的なドラマが展開されてるっぽい。
弱々しく腕を上げ、ゴリラは何か言葉を紡ごうとして―――
「……ウホッ……ガクリ」
『ゴリラァァァァァァァァァ!!?』
種族の壁は超えられず、そのままあえなくお亡くなりになったのであった。
真っ白になったゴリラの側で、おいおいと泣き崩れる魔法使いたちと稗田当主。
ていうか、今この人たちゴリラって言ったよ。ゴリラって認めたよ。はっきり三人してハモッてたもん今。イサオさんじゃなかったんですか?
……なんですかね、この茶番。
その光景に耐えられず、ふと視線を上に向ける。
そこに繰り広げられている光景は、天狗二人を相手に金色のオーラを纏いながら圧倒する巫女の姿だった。
……スペルカードルール、要らなくないこれ?
「はたてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「霊夢ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「椛ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
そして気合とともに三人が激突する。
霊夢の拳がはたてに、椛の拳が霊夢に、そしてはたての拳がもみじへと。
三人それぞれの拳が、三人の頬にめり込み、いい具合にカウンターになったらしいその一撃は三人を気絶させるには十分だったようで。
地に落ちる三人を、私があわてて回収する羽目になった。
三人まとめてキャッチするのは骨が折れたが、そこは幻想郷最速をほしいままにする私だ。彼女たちを取りこぼすなんて万が一にもありえない。
彼女たちの顔をそれぞれ覗き込むと、幸い大きな怪我はしていないようで、三人とも気絶したまま起きる気配は見せないでいる。
ほっと、一安心とため息をつく。彼女たちのことは友人だと思っているし、怪我がなくて素直に嬉しいとそう思えた。
まぁ、それ以上に自身に対する危機が去ったことの喜びも大きいのですが、それは言わないお約束ということで。
「本当、私さえ巻き込まなければ愉快だって言うのにねぇ、この子達は」
肩の荷が下りたようにするりとこぼれた言葉は、不思議な温かみがこもっていた様な気がする。
彼女たちがどうして喧嘩をしたのか、それは私だってわかってるつもりだ。
長い年月を生きた分、どうしても年下の子の面倒を見るような感覚が抜け切らないのはどうしようもない。
まぁ、多分きっと。自惚れでなければ、そんな私を彼女たちは好いていてくれてるのだと、そう思っているから。
「ウ……ウホ」
「立った!? ゴリラが立ったわっふぅ!!?」
その後、私がせっかくいい感じに終わらせようとしたのに、その邪魔をしたゴリラと阿求を竜巻で吹っ飛ばしたのは言うまでもない。
ついでに、いい加減描写できないイチャつき方を始めた魔法使いたちも吹っ飛ばしたのは余談である。
嫉妬ではない。嫉妬ではないんだったら!
▼
『……』
さて、それからしばらくたった後、三人は目を覚ましてすぐにまた一触即発な雰囲気に逆戻り。
これから一体どうやって彼女たちを諌めようかと頭を悩ませていると、おもむろに三人とも立ち上がった。
「表に出なさいあんた達」
「ふ、今度こそ決着をつけてあげますよ」
「やれるもんならやってみなさいよ、霊夢、椛」
「……アンタ達ねぇ」
疲れきったため息がついて出るのがとまらない。
どうやったら彼女達は仲良くできるのだろうかと必死になって考えるのだけれど、うまい考えが見つからないのだ。
そんな時である。ちょうど部屋の真ん中から空間に亀裂が入り、そのスキマから一人の大賢者が姿を現した。
彼女の出現に三人は警戒して身構え、賢者はニィッと口の端を吊り上げて。
「合意と見てよろしいですねぇぇぇぇ!!?」
マイク片手に、超ノリノリでそんなことをのたまったのであった。私がその場でずっこけたことは、皆さんの脳裏に容易に想像できたことと思われる。
ある夏の日のこと。私の苦悩はまだまだ続くらしい。ていうか、マジで勘弁してください。
▼
後日、散々殴りあった彼女達は後に和解したらしく、友情が芽生えたとか何とか。
……私の今までの苦労は一体なんだったというのか。
「はい、文。あーんして」
「ちょっとはたて、アンタだけずるいじゃない!! あ、……別に、アンタのためにお茶持ってきたわけじゃないんだからね!」
「霊夢、それじゃ照れ隠しにもなってないですよ。文さん、今度人里でプリズムリバーのライブがあるんで、みんなで見に行きましょう」
キャイキャイと急に仲良くなった三人を尻目に、私はぼんやりと空を見上げてお茶をすする。
仲良くなったのはいいことなんだけど、釈然としないこの気持ちはどうすればいいのやら。
でもまぁ、いいですよね。きっとこんな関係も、悪くないと思える自分がいるのですから。
……そう自分に思い込ませて読み続けたのに、ゴリラで負けたwww
ウホッ
文総受けも良いですね!
タグに登場人物全部書いてるのにゴリラはいいのかww
ていうか何でゴリラなんだww
別に要らなかったと思うけど……
あ、他のところは本当に楽しめました
この作品もブラボー!!
あやや総受けはとても新鮮でした。
とにもかくにも、面白い作品でしたよ~♪あと、何ゆえゴリラが・・・?(汗)
とりあえず、ヒロイン(?)さんらのそれぞれのポジは、こんな感じでしょうかね?
霊夢・・・ツンデレ担当
もみっちゃん・・・クーデレ(?)担当
はたて・・・ポジデレ(ポジティブのポジ)担当
・・・うわぁ・・・、マジ妬ましい・・・。あやや爆発してくんねーかな・・・(を)。
カオスっていいねwwwwww
何だろう、話が脱線している感と、各パロディが中途半端な気がして、ぶっちゃけギャグの質を下げてしまったような気が……。
結局本命のネタってどれ?
いや、ゴリラネタから…
発売以来、よく見かけるようになったぁww
東方関係ないし元ネタもわからないしで最後まで頭に浮かんだ疑問符が消えなかった。
文章ではなくて映像ならまた話は違ったのかもしれないけど。
…銀魂か?w
ピンボケ感は否めませんねえ
面白かったけど乗り切れなかった
ゴリラの話も個人的には面白かったが、いざ東方の話と言う判断をするとマイナス評価ではある。
他の方もいっていますが、パロディと話が何処に向かうのか分らない。
面白さだけで判断するなら90か80だが…。
今回の話、タイトルどおりに話をするなら霊夢、はたて、椛にスポットを当てるべきだったかなぁとは思います。
あと「アレ」を話の主軸と置くのであればクーリエ様ではなく別サイト様の方がよろしいかと。
個人的には、3人は最後まで文に対してドSであってほしかったかも
アレ?いいのかこれ?
霊夢、はたて、椛の争いは面白かった。
面白かったです。
いないと面白さが半減する気が