歴史家に問われたる冬妖怪の物語
ええ、今日のおやつは私が用意していたわ。
みんなのところに持っていこうと思って、大福とお茶を六人分。チルノと、大ちゃんと、リグルと、ルーミアと、ミスティアと、先生の分ね。
え、私の分? 私はいいのよ~。どうせ熱いお茶は飲めないし、大福もちょうど六つしか無かったから。
台所の戸棚から、大福を取り出してお皿に並べたわ。残り六つで、全部出しちゃったから数え間違いとかはしていないわ。このお皿に確かに六つ並べたの。
それからお茶を淹れようと思って、戸棚を探したのだけど、お茶の葉が見つからなくて~。台所の勝手口から外に出て、庭いじりをしていた幽香に声をかけたの。
幽香が勝手口から中に入ってきたときには、まだ大福は六つあったわ。ちらりと横目で見ただけだけど、減っていたらすぐ気付いたはず。
それから、幽香とふたりで台所の隣の物置部屋に入ったの。ねえ、隣なのに廊下に出ないと物置部屋に入れないの、不便じゃないかしら~? 扉、つければいいのに。
いいえ、そんなに長い時間じゃないわ。幽香も少し探すのに手間取っていたけれど、せいぜい二分かそこらだと思う。
物音? さあ~、私は聞かなかったわ。
ともかく、お茶の葉の缶を見つけて、また廊下を通って台所に戻ったの。幽香も一緒に、勝手口から外に出るために台所についてきたわ。
そう、台所に戻ったら、お皿の上の大福がひとつ減っていたの。
幽香は私とずっと一緒だったから、少なくとも幽香と私は犯人じゃないわ~。お互いアリバイは証明できるし、私たちがわざわざつまみ食いなんてする必要、無いじゃない~。
誰かがつまみ食いしたのかと思って、あたりを見回したけど、誰もいなかったわ。
大福は六つしかなかったから、それで困っちゃって~。
幽香がおはぎを取り出してくれたから、これから持っていこうと思うんだけど。
結局、誰がつまみ食いしちゃったのかしら?
歴史家に問われたる花妖怪の物語
その時間は、私は確かに庭の花壇の世話をしていたわ。
ええ、仰る通りよ。台所から出て来たレティに、お茶の葉のストックがどこにあるか訊ねられて、その勝手口から中に入ったの。
テーブルの上に大福が並んでいたのは、確かにそのときに見たわ。
六つ。そう、確かに六つあったわ。間違いないわね。
物置部屋にあるだろうと思って、レティと一緒にそこへ向かったの。ええ、ふたりとも物置部屋の中に入っていたから、廊下や台所の様子は分からないわ。誰かがこっそり入ってきて大福を盗んでいくぐらいは、造作も無かったでしょうね。
ちょっと探すのに手間取って、二分ぐらいかかったかしらね。廊下を通って台所に戻って、私は勝手口から外に出ようとしたのだけれど、レティが「あら?」って首を傾げて。見ると、大福が五個になってしまっていたわ。
大方、目を離した隙に誰かがつまみ食いしたのだろうと思って、私は戸棚からおはぎを出して、それからレティの代わりにお茶を淹れたわ。その後はまた庭に戻って花壇の世話をしていたの。ええ、私の話せることはそれだけよ。
大福の中身?
ああ、あの大福、一昨日私が買ってきたあれの残りだったのね。
十二個入りで、あんこ入り六個とクリーム入り六個の箱だったわね。
白があんこ入りで、黄色がクリーム入り。一昨日もあの子たちと食べたから覚えてるでしょ。
無くなったの? 黄色の方だったわよ。
歴史家に問われたる光の蟲の物語
わ、私はつまみ食いなんかしてないよ!
だいたい、私はずっと教室にいたもの。みんなが証人だよ。
え? ……ええと、確かに、みんなずっと教室にいたわけじゃないけど。でも、私は教室から出てない。それは本当。
先生の授業が終わったあと、五人で教室でお喋りしてたんだ。私と、チルノと、大ちゃんと、ルーミアと、ミスティア。レティがおやつ持ってきてくれるのわかってたから、それをみんなで待ってたんだよ。
私たちの誰かを疑ってるの? ……まあ、そうだよね。その時間、寺子屋にいたのが私たちだけなら、犯人は私たちの中の誰かって考えるのが普通だよね。
ずっと教室にいたの? 私とミスティアのふたり。だから少なくとも、私とミスティアは犯人じゃないよ。でも、他の三人が犯人とも思えない。ううん、別に庇ってるわけじゃなく、純粋に状況的に、そうは思えないっていうだけ。
最初に教室を出たのはルーミア。なんだかふらっと出ていって、すぐ戻ってきた。一分も出てなかったんじゃないかな。何しに外に行ったのか? さあ、知らない。
次に教室を出たのは大ちゃん。お手洗いって言って出ていったの。その後、チルノも追っかけるみたいに出ていった。あたいもトイレ、ってチルノは言ってた。それで、大ちゃんとチルノは一緒に戻ってきた。
確かに、教室からお手洗いに行くなら、台所の近くを通るけど……。
でも、一緒に戻ってきたってことは、ふたりはお手洗いのところで一緒になったわけだよね。
お手洗いに行く途中で、大福をつまみ食いしようなんて思うかなぁ。
それに帰りがけにつまみ食いするなら、大ちゃんとチルノは一緒だったから、大福はふたつ無くなるはずだよね。レティがその場にいなかったなら、ひとつ取るのもふたつ取るのも一緒じゃない?
そもそもチルノはともかく、大ちゃんはつまみ食いなんてしないと思うけど。
でもルーミアだって、そんな大慌てでつまみ食いしてきたって感じじゃなかったし。
だいいち、ちゃんと人数分用意されてた大福、つまみ食いなんてしたらすぐバレちゃうに決まってるわけで……まあチルノならそれでもやりかねないけどさ。
私は、三人とも犯人じゃないと思うよ。
いや、じゃあ誰なのかって言われると、困るけどさ……。
歴史家に問われたる夜雀の物語
あんたの生徒を信じなさい~♪ って、先人も歌ってるけど。
うん、私は犯人じゃないし、他のみんなも違うわよ。
私はリグルとずっと教室にいたもの。お互い、犯人じゃないことは知ってるわ。
そう、ルーミアと大ちゃん、チルノがその順番で教室を出たわ~。ルーミアは何か、気になるものでも見つけたみたいに出ていったわね~。すぐ戻ってきたけど。
何か食べてたらすぐ気付いたし、ルーミアのことだからつまみ食いなんてしてたら口の端に食べかすでもついてただろうから、やっぱり誰か気付いたと思うけど。
大ちゃんのあと、チルノもトイレに行って、一緒に戻ってきたわよ~。もちろんふたりとも大福食べたりしてなかったし~、なにか隠し持ってたりもしなかったわ。
ホントよ~? ほれ信じなさい、ほれ信じなさい~♪
ところで、先生はそのときどうしてたのかしら~?
教材を片付けに部屋にいた? まあ、そうよね~。
いえいえ~、まさか先生が犯人なはずないものね、わかってるわよ~♪
× × ×
宵闇の妖怪の白状
うー、バレちゃったのかー。
ごめんなさい、私が大福をつまみ食いしたの。
レティがおやつ、用意してくれてるの知ってたから。つい、今日は何が出てくるのか気になってー。台所のぞいたら、レティがいなくて、大福が置いてあったから、つい……。
その場で一口で食べて、飲みこんで戻ったのー。
え、大福の中身?
あんこだったよー。甘くて美味しかったのかー。
……ごめんなさい。
反省してます。だから、ず、頭突きは止めてほしいのかー。
ほへ? わ、私が食べたよ? ほ、ホントなのかー。
大妖精の白状
ごめんなさい。
あの大福を盗んだのは私です。
行く途中で、レティさんがおやつの準備してくれてるのを見てました。
お手洗いを済ませて、帰る途中でもう一度台所を覗いたら、レティさんがいなくて、大福だけが置いてあって。……思わず、手が伸びてしまったんです。
そしたら、そこでチルノちゃんに声をかけられたんです。
びっくりして、思わず大福を服の中に隠しちゃいました。
え、その大福をどうしたのかって?
ええと……その、食べちゃいました。
え、いつって、それは、その……。
だ、大福の中身ですか? ……あ、あんこでした、けど……。
わ、私です。
私が犯人なんですっ。
だから、チルノちゃんを疑わないでくださいっ。
氷精の白状
うー。
そうよ、あたいが食べたの。
あたいが、大福つまみ食いの犯人よ! あたいったら犯人ね!
トイレで大ちゃんと一緒になって、帰る途中であたい、台所に誰もいなくて、大福だけ残ってるのに気付いたの。
だからこっそりとって、あたいが食べたのよ。
ホントよ!
大ちゃんは関係ないの。あたいが勝手にやったこと。
も、もちろん、ルーミアが犯人なわけないじゃない!
え、大福のなかみ? クリーム入りだったわよう。
× × ×
歴史家に問われたるダウザーの推測
やれやれ、今度はつまみ食いの犯人捜しかい。
私の専門は物探しで、窃盗犯捜しじゃないんだけどね。
まあ、いいさ。だいたいのところは理解したよ。
容疑者は三人。ルーミア、大妖精、チルノだね。
その三人に話を聞いたら、三人とも自分が犯人だと言ってると。
まず前提を確認だ。
消えた大福はひとつきり。だから、まず三人とも別々に犯人ということはあり得ない。
そして次に、大妖精とチルノが教室を出たのはルーミアが一度出て戻った後だから、三人とも共犯という可能性も度外視していいね。
それから、三人の話はそれぞれ別個に聞いたんだよね?
オーケイ。ルーミアも大妖精もチルノも、他のふたりが何て言ったかは知らないと。
先生が三人の教えた事実は? 「六つあった大福のうちひとつが消えた」、それだけ?
何の入った大福かは教えていないわけだ。なるほどなるほど。
まずルーミアの証言だ。
消えたのはクリームの大福、これは確かだね?
だとすれば、まず「あんこ入りを食べた」という部分はルーミアの嘘だ。
さてこの場合、どうしてルーミアはこんな嘘をついたのか。
普通に考えれば――実際には食べていないから、消えたのがクリーム入りだとは解らなかった、というところだろうね。
実際はクリーム入りを食べたのに、あんこ入りを食べたと偽る理由も、私には思いつかない。
とするとこの証言自体が、大妖精とチルノのどちらか、もしくは両方を庇うための嘘だ。
次に、大妖精。
これはもう、嘘が下手で微笑ましいね。どうしようもないほど露骨に、チルノを庇うための嘘だ。大福を隠して、まさか戻る道すがらにチルノの目を盗んで食べたわけでもないだろうし、教室で他の面々の目を盗んで食べるなんて尚更、彼女には無理だろう。
彼女もルーミア同様に「食べたのはあんこ入り」と言ってるしね。
さて、だとすれば大妖精はどうしてチルノを庇ったのか。
――チルノが犯人だと知っているから。果たして本当にそうだろうか。
さて、チルノだ。
食べたのがクリーム入りと言っている分だけ、前のふたりよりは信憑性はある。
けれど、大妖精とトイレで一緒になって、その帰りがけにつまみ食いというのはやはり妙な話だね。チルノと大妖精が共犯、というなら解るが、それならあんこの中身についてチルノと大妖精で証言が食い違うのは不自然だ。共犯なら大福はふたつ狙うだろうし、ひとつ盗んだのだとしても半分こするんじゃないかい? あの子たちは仲良しだろう。
単独犯だとしても、大妖精と一緒に戻る途中でつまみ食いしたなら、大妖精は当然チルノの行為に気付くはずだし、スルーするとも思えない。共犯になるにしても咎めるにしても、そうなるとやはり大妖精が大福の中身を知らなかった、ということが不自然になる。
チルノが食べる現場を見ていたなら、大福の色でクリーム入りだと解っただろうし、気付いた時にはチルノの口の中だったとしても、台所の様子は覗いているだろうから、その場に残っている大福の色から、チルノが食べたのがクリームだと推察はつくんじゃないかな。
つまり、このことからどういうことが言えるか。
大妖精はチルノが大福を盗んで食べる場面を一切見ていない。
しかし、大妖精はチルノが犯人だと思っている。――ということだ。
この推察から、容疑者三人の行動と、大福が消えたタイミングを確定できる。
大妖精が庇っているのが、ルーミアではなくチルノということから、ね。
ルーミアが戻ってから、大妖精は教室を出ている。その行きがけに台所を覗いたのは事実だろう。このときに、大妖精は大福が六つあったのを確認していたはずだ。
なぜなら、この時点で大福が五つだったのなら、犯人はルーミアになる。
大妖精が庇う対象が、チルノになることはあり得ない。
そして、大妖精が用を足して戻るまでの間に、大福は五個になった。大妖精はそれを確認しているからこそ、チルノを庇った。大妖精はチルノと一緒に戻ってきたわけだからね。チルノは大妖精のあとを追ってトイレに向かったのだから、ふたりはトイレで合流したはずだ。
それならば、チルノが大福をつまみ食いするタイミングは、行きがけしかない。
大妖精はそう思ったんだろう。
けれど、チルノは帰りがけにつまみ食いしたという。
大妖精の証言からして、チルノがつまみ食いするタイミングは行きがけしかあり得ない。そしてチルノが本当に犯人なら、素直にそう言えばいいだけだ。
それなのにチルノも嘘をついているとすれば、事実はひとつだ。
チルノも犯人ではない。
だいたい、トイレの行きがけにつまみ食いすること自体が不自然だしね。
ということは、だ。
チルノの目から見れば、犯人は大妖精かルーミアに見えた、ということになる。
となると、これで大福が実際に消えたタイミングは完全に確定する。
大妖精が行きがけに台所の前を通りがかってから、チルノが行きがけに通りがかるまでの間。この間に大福は消えたんだ。
この場合、チルノの目には、最初から大福は五個だったように見える。
それが六個だったと、貴女の追求で知ったんだろう、先生。
一個大福が無くなった。チルノが見た時には既になくなっていた。
それなら犯人は、自分より先に教室を出たルーミアか大妖精だ。
そのぐらいの判断は、チルノにだってついたんだろう。
大福の中身の証言は、一昨日チルノが食べたのがクリーム入りだったんじゃないかな?
ルーミアはルーミアで、自分が犯人でないのだから、大妖精かチルノが犯人だと思って、庇ったんだろう。全く、微笑ましい友情譚だね。
というわけで、三人とも犯人ではないよ。
え? じゃあ誰が犯人なのかって?
そりゃあ――そのとき、誰かこの寺子屋にもうひとりいたんじゃないのかい?
それが誰なのかは、先生が一番よく知ってるんじゃないかい?
ルーミアがふらりと教室を出たのは、その誰かが来た気配に気付いたからじゃないのかな?
× × ×
歴史家に問われたる蓬莱人の物語
ん、どうした、慧音?
私がさっきここに来たとき? なんだ急に……。
……う、まさか。
ああ、いや、うん。――バレた?
――いや、玄関に入ったら、大妖精がぱたぱた歩いてるのが見えてさ。その背中が足を止めて台所を覗きこんで、それからまたトイレに向かったのを見たんだ。
その後、レティと幽香が台所から出て来て、物置に入っていった。
それを見送ってから、私は台所を覗きこんだんだ。
そしたら、皿の上に大福が並んでたから、つい、さ。
――こっそりつまみ食いして、それから慧音の部屋に行ったんだ。
あ、いや、ごめん。つまみ食いは謝るからそんな怖い顔しないでくれよ、慧音。
え、何か私そんなにまずいことしたのか?
あの大福、そんな大事な――あ、ちょ、慧音、角、角しまって角!?
アッー
皆暖かくてよかったです。
謎の成り立ち方にアガサ・クリスティーに通じるところがあると思う、まじで。
冗長的な箇所が少ないので読み取るのが非常に楽です。
ところで、推理物としては、真犯人が推理始まってから登場するのは禁物じゃないでしょうか?
いやまあ、推理小説ではないので問題ないのですが…。
話は面白かったのですが、犯人が推理途中から出てくるというのはちょっと萎えてしまいます……
ほのぼのした雰囲気だけどしっかりと落ちもあって面白かったです。
きれいでほのぼのしたイイハナシダッタナー
「東方Project」という圧倒的な共通の認識が下地になるならこの展開でも問題ないのでは?
と思った。
自分は普通に推理ものとして面白かったです