◆この話は作品集160『ハートブレイカー』・作品集161『ブロークンハート』の完結編です。
地獄。
是非曲直庁で『黒』を言い渡された際、魂が己の穢れを清算する為に苦行を行う場所。
その種類・量刑は、生前の悪行によって決定される。
他の命に痛みを与えたものには針地獄。
他の命の希望を奪ったものには無明地獄と、多種多様。
加えた危害を己で味わう事で中和する。
自分が行った悪行の重さを知らぬ事こそ、心の穢れなのだ。
穢れを残したままの魂で転生を行った場合、記憶が残ってしまう。
そうなれば、新たな生で培う記憶と前世の記憶に苛まれ、その者の生涯に例外なく己と周囲に不幸を与えてしまう。
生とは平等に零で在らねばならない。それが世界の理。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
小さな黒猫が広大な地獄を駆けていく。
階層で別れている地獄の施設。
最下層の一角に、無明地獄がある。
入り口の前で黒猫は宙で一回転すると、赤髪を靡かせる女性の人の形に変化した。
火焔猫燐。
灼熱地獄で働いている火車だ。
生まれも育ちも地獄であり、若手の一労働者でありながら、地獄一番の働き者。その貢献振りは素晴らしく、地獄広しと言えど、彼女の名を知らぬ者はいない。
「ぬえのお姉さん!やっぱりあの話、本当みたいだよ!!」
「……そう、ありがとう。お燐。」
歪な羽根を持つ、黒髪の女性が答えた。
封獣ぬえ。
地獄施設の一つ、『無明地獄』の管理人。
伝説の大妖怪・鵺でお燐の同期くらいのキャリア。
だが、鵺という妖怪の格の高さから、無明地獄の管理を一任されている。
元々、地上で『正体不明の怪物』と称され、悪事を繰り返していたが、『一人でいるのが嫌だった』為に自ら庁に出頭し、地獄で更正させるという名目で、地獄の仕事に従事していた。
「お姉さん。こないだの縮小計画があったばかりなのに、今度は鬼に売り渡すなんて話しが上がって……地獄は一体どうなるのか…怖いよ、お姉さん。」
不安で声が震えるお燐。
「あたいら、このまま地獄からほっぽり出されちゃうのかな…?」
「……。」
「『教育』とか言いながら、地霊殿に連れていかれたお空だって帰ってきちゃいないのにさ……。アイツ等もう何考えてんのか分かんないよ!」
「……面倒なものを切り捨てようってことでしょ。
『地獄』ってだけで、柄や品性が無いとか思ってるからね、庁の奴等は。」
「…やだよ、お姉さん。もう……これ以上耐えらんないよ…。
仲間が散り散りになっていくのはさ……。」
ぬえは目を瞑りながら、お燐に呟く。
「分かってる。
今日の晩、地霊殿の主と会談があるの。恐らく、地上の鬼に地獄を譲渡する話だから、その時にこちらの言い分を聞いてもらうわ。」
「そんなの、聞いてくれないよ…。今までだってそうなのに…。」
「聞いてもらうわよ。どんな手を使っても……。その為に。
お燐に頼みがあるの。地獄の未来が掛かっているわ。」
「何でもやるよ……。地獄が助かるっていうんならさ!!」
胸を叩くお燐。その姿を見てぬえは微笑む。
「頼もしいわ。じゃあ、先ずは各地の地獄管理人をココに集めて。
私は助っ人を頼みに行く。
――船ごと堕ちて来た、居候の妖怪に。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あぁー。こんなに遅くなるつもり無かったんだけどなぁ。」
地底の洞窟を飛翔しながら、さとりは一人呟く。
「今日の会談の話を纏めたかっただけなのに、もう夕暮れじゃない。
大体、映姫は話が長すぎるのよ。詰めれば三十分で済む話を五時間も長々と…。
あれこそ無駄よ。時間の無駄。」
地上の鬼に、庁が所有している地獄を含め、地底を譲渡する話だ。
決行日が近づき、最終調整に入っている為、最近さとりは庁に毎日通っている。
「大体、新参者の私が言ったところで聞く訳ないし。特にぬえは。」
しかし、庁側と地獄側には古くから軋轢があり、庁出身な上に現地獄管理人の長であるさとりは、板ばさみになっていた。
「……パルスィは鬼が来ても追い出すんだって言ってるけど、話を詰めない訳にはいかないもんなぁ……。
――あれ?」
遠くで大きな明かりが見え始めた。基本、薄暗い洞窟のため、よく目立つ。
目を凝らすと、人影が二つ、向かい合い座っている様だ。
「あれは、パルスィと……小町さんだ。
……またサボってるし……。」
加速を掛け、急ぎ向かうさとり。
そこには。
涙目で座っている、サラシと下着姿のパルスィ。
そしてそのサラシを脱がそうとする小町の姿が……!
「――って、何やってんですか!小町さぁぁぁぁん!!!!」
さとりは足に妖力を込め、そのままの速度で突っ込んでいく。
脚から放たれる紅い光は、軌跡を描きながら小町の顔面を蹴り飛ばした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「違うんだよ、さとりちゃん。」
「何が違うんですか!!というか、間違いだらけじゃないですか、常識的に!!」
せっせとパルスィに着付けをしながらさとりは怒鳴った。
しかし、小町は淡々と真顔で話す。
頬に足跡がくっきり残っているが、ピンピンしているのは、普段から映姫に折檻を受けてる所為、妙に打たれ強くなってしまったのだ
「遊んでただけなんだよ。サイコロで。
脱衣丁半。」
「何ですか、それェ!???」
声が裏返るさとり。
「ホントはお金掛けたかったんだけどさ、パルスィお金持ってなくて。
どうして?って聞いたら、地底の番人はしてるけど、給金貰ってないって言ってるんだ。
労働基準法違反だよ、さとりちゃん。非常識。」
「非常識なのは貴女でしょう!?また仕事中にサボって!
それに、お金は要る時だけ渡す様にしてるんです!!」
「お母さんみたいになってるよ?」
「いいんです!! それで! なんで脱衣丁半!?」
……何故か考え込む小町。
暫くして頭をあげ、一呼吸置き、キリッとした顔でさとりに言い放った。
「博打はスリルでロマンなんだよ、さとりちゃん。」
「……映姫に言いつけますからね。」
「割と、本気で言ったんだけどなぁ。
脱衣はともかく、丁半した事ないから、やってみたいってパルスィが言うんだ。
あたいが振って、パルスィが丁半言うんだけど、まぁ、やってみるとパルスィ弱くてさぁ……。
もうこれ、三順目なんだ。」
「さ……さんじゅんめ…?」
腰が砕ける様にへたり込むさとり。そして、パルスィの事をボーッと眺める。
「二回も……パルスィが、、、すっぱるすぃに……?」
「でも、折れない心、不屈の闘志。なかなか見所があるねぇ。
いいギャンブラーになるよ、この子は。」
「望んでません!そんな事!
今のパルスィは、心だけでなく知識も不完全なんです!!余計な事吹き込まないで!!」
小町に食って掛かろうとするさとりに、パルスィが慌てて止める。
「違うんだよ、さとり!」
「間違ってるのは小町さんでしょうが!!」
「お、落ち着いてよ…?ほら……私、今さ、ところどころ記憶無いから…。
何でも経験していかなきゃって……。思いもしない事がきっかけで心が治るかもしれないし…。」
「賭博なんてしないわよ、パルスィは!!」
パルスィの耳を握りながら、暴れるさとり。
「いだだだだだ!さとり、耳引っ張らないで!!!!ちぎれちゃう!!お願い、止めて!!」
「うるさい!!私が一生懸命働いてるのに、のん気に遊び呆けて!!!」
「だって地底の番人してても、誰も堕ちて来ないんだもん!!」
「だったら私と一緒に庁に来ればいいじゃない!」
「行ける訳ないだろ!!私は体面的には、『堕ちた妖怪』なんだからあだだだだだだだちぎれるぅぅぅぅ!!」
「ちょっと、さとりちゃん!それ、やりすぎだって!!すっごい伸びてるし!!」
ヒートアップし出したさとりを小町も止めようとするが、ボコボコ蹴られて近づけない。
「元々耳が長いのよ、パルスィは!!
だいたい、何で私のいない間に――!
どうしてそんな事やってんのよぉぉぉぉぉ!!」
さとりの嫉妬の言霊が。
洞窟内に木霊した。
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「おかえりなさい!さとり様!
あ、今日はぱるしーも来たんだ!!」
「ただいま……お空。」
「パ・ル・スィだよ。うつほ……。」
地霊殿に戻ってきたさとりと、付いて来たパルスィに元気の良い声が掛かる。
霊烏路空。
地獄生まれの地獄烏でさとりのペット。
さとりが提唱した地獄縮小化計画の時、『仕事に対する知識と意欲の向上』の為、さとりが『ペット』と称して教育している一人だ。
代々灼熱地獄を管理する地獄烏の一族で、幼いながら火を扱う能力は高いが、若干健忘症らしく、さとりは知識を重点に育てている。
「んん?二人とも、顔が赤いけど、なにかあったの?」
くいっと、首をまげてお空は言う。
「え!?な、何でも無いわよ??ね、パルスィ?」
「う、うん。何も無い!それより、ちゃんとお出迎えできて偉いなぁ、うつほは。」
お空の頭を優しく撫でるパルスィ。
「うにゅぅぅぅ♪」
パタパタと、黒い翼を羽ばたかせ、喜びを表現する。
「「……はぁ…。」」
互いに目を合わせた後、さとりとパルスィの溜息がシンクロした。
さとりの絶叫の後、小町は「ごちそうさん」とだけ言って帰ってしまった。
何とも言えない空気のまま、さとりはパルスィを誘って地霊殿に帰ってきた。
その間、会話ゼロ。
移動中、しきりにさとりがパルスィをチラチラ見て、見られたパルスィはギャンブルの出来事を想起し、思考を読んださとりが小声で「よいではないかー」と呟き、それを聞いたパルスィは自分のサラシがちゃんと巻けているのか、チェックする。
ずーっと、会話の無い連想ゲームをしながら帰ったのだ。
「あ、さとり様、今日はぬえ達が来るんでしょ?わたし逢いたい!!」
思い出したかの様にお空が叫ぶ。思わずさとりとパルスィは耳を塞いだ。
「……わがまま言うな、うつほ。お仕事でやってるんだ。お前は憚らずはしゃぐだろう?」
「そんなことないよ!じっとしてる!賢くします!」
キッと、さとりを見るお空。
……瞳はキラキラしているが。
「……そうね、だったら会談にも出てもらおうかしら。地獄の次代を担う子だし。」
「やったーー!!」
答えを聞いてはしゃぎ倒す。
「……心配なんだけど、さとり…。会談ぶち壊しそうで……。」
「……大丈夫でしょう…、聞き分けは良いですし…。」
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地霊殿玄関の大扉が開き、地獄の各部署を管理している者達がゾロゾロとやってくる。
エントランスには、さとりが教育したペット達が会議室へと案内していく。
「……感心するよ。言葉も話せない動物みたいなのもいたんだろ?
よく教え込んだものだな……。」
パルスィがその光景を眺めながら呟く。
「ええ。ですが、しっかりと教育し、当人が努力すれば、誰しも人並みにはなれますよ。
しかし、動物と対話する能力がこんなところで役立つとは思いませんでした。
……パルスィの言うとおりでした。力は使い道だって。」
「……。」
「おお、お空ぅぅぅ!!」
その一行から、飛び出す者が一名。
それは目にも留まらぬ速さでお空に飛びつく燐だった。
勢い止まらず床を数メートル滑りながら、抱いたお空の喉を手でゴロゴロする。
「お燐!久しぶり!!…くすぐったいよ!」
「逢いたかったよお空――!!ちょっと背、伸びたかい!?」
「うーん、分かんない!」
「そうかいそうかい!それは良かったよ!ああもう、可愛いなぁお空は!!」
廊下でゴロゴロする二人。
凄まじいテンションに、その光景に唖然とする他二人。
「り……燐?」
「にゃ!?あ、これは粗相を…。」
声を掛けるさとりに恥ずかしそうに赤らめる燐。
「いやぁ、久々に逢ったもので、気が昂ぶってしまいました。ご勘弁を……。」
「いえ、気持ちは分かりますから…。」
ヘコヘコする燐を落ち着かせるさとり。
「お空もよく学んでくれています。お利口です。とても。
地獄へ返す日も近いでしょう。」
「そ、そうですか!」
それを聞いた燐はパァーっと表情が明るくなった。
「……? お燐、ぬえは?」
「へ?あぁ、そうだった。ぬえのお姉さんは欠席するって…。代わりにあたいが…。」
お空の質問を聞き、さっきとはうって変わって、上目遣いで恐縮しながらさとりを見る燐。
「そうですか…。分かりました。貴女は役職が無くとも、目を見張るほどに優秀ですからね、貴女は。ぬえの代わりは十分務まります。
――お空、案内を。」
「はい、さとり様!!
お燐、こっちだよーー!!」
「分かったよぉ、お空ぅぅぅぅ!」
フニャフニャしながら会議室へ駆けていく二人。
「……凄まじいな、あれは…。人目を憚らずイチャイチャできる仲が妬ましい…。」
「そうですね……羨ましい様な、恥ずかしい様な…。」
呆然としながらパルスィとさとりは言った。
会議室に全員入って行くのを確認し、パルスィに声を掛ける。
「それでは行ってきますね、パルスィ。
会談が終わるまで、私の部屋で待っていてください。」
「……また、アレやるの?」
次第に、彼女の表情が濁ってくる。
「一日でも早く、記憶と心が戻った方が良いですし。」
「……。やだ。縦穴に帰る。」
「パルスィ…。」
「最近、それをやっても思い出せないもん。変にトラウマばっかり思い出して……。」
目を合わせず、俯いたまま消え入りそうな声で呟く。
「お願いですから、言う事を聞いてください。
貴女に『恐怖催眠術』を掛けて深く記憶を掘り起こす。
…………精神的に負担を掛けているのは分かってます。ですが…。」
「……私は…。」
「私が壊した貴女を治してあげたい。償いたいんです…。お願いです……。」
ハッと、パルスィは顔を上げた。
眼前の者は眉間にしわを寄り、目が潤んでいる。
「さとり……そんな顔しないで…。
分かったから……。待ってる。」
まるで観念したかの様に納得するパルスィ。
「私の為にしてくれてるのに、さとりを困らせて……。
どうしようもない奴だよ…。私は。
どうして昔みたいに振舞えないんだろう…。今の私じゃ…。私。。。」
「パルスィ…、過去の自分を妬まないで…。焦らず、いきましょう。ね?
美味しいお菓子も持って行きますから、待っていてください。」
そう言い残し、辛そうな面持ちの彼女の頬にキスしたさとりは会議室へと向かっていった。
暫く、一人佇むパルスィ。
その姿は、家に取り残された留守番の子どもの様に寂しそうだった。
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「――それでは、やはり地獄は鬼達に譲り渡すと?」
「管轄は庁のままですが、監督は鬼が行う事になります。
しかし適正に運営できるか見定める為、試験期間が五年設けられています。
年に四度、十王・四季映姫様が査察を行い判断。
問題無しとされれば契約は成立されます。
その間の指導・補佐は私に任されています。」
会議室ではさとりを主とした、地底譲渡の会談がされている。
とは言っても只の報告だ。庁の決定をさとりを介して地獄の者達に公表されるだけ。
意見などあっても、殆ど通らない。有無も言えず従わなければならない。
軋轢があるのだ。
天国や裁判の仕事があの世の光の部分であれば、地獄の仕事の影の部分。
そこに所属しているだけで疎まれ、嫌がられる。
当たり前だ。罪を思い知らせ、罰を与える機関だと言えば、まだ聞こえは良い。
だが、実態は何の接点も無い者達を、己の意思に関わらず刑と称し、ただただ危害を加えるだけの仕事なのだ。
しかし、それを快楽でやっていると罵る庁の者は少なくなかった。
「決定事項です。もう変更は無いでしょう。」
言い終えたさとりは、会談で使用した書面の片づけを始める。
「……、結局、あたい達の意見なんて聞いてもくれやしないんじゃないか!!」
燐は机をバンと叩く。
「お燐…。そんな勢いで机叩いたら壊れちゃうよ…。」
「お空!悔しくないのかい!!あたい達の願いなんてどこ吹く風でさ!!
地獄だけでも庁の管轄にしてもらって、今の状態を維持して欲しいっていうだけさ!
それなのに、汚らわしいモン捨てるような感覚で……!!」
「私だって、やだよ…いやだけど……。」
お燐やお空は地獄生まれの地獄育ちだ。
そんな自分達が生まれた場所をぞんざいにされるのは許せない。
「さとり様に言ったって仕方ないよ…。さとり様より偉い人が言ってるんでしょ…?」
「……。」
「燐、何を考えているのです。」
さとりが作業をやめ、立ち上がった。
「そんな事をすれば、只ではすみません。
それどころか、この地獄を窮地に招くことになりますよ。」
「……こういう結果になってるって、分かっていたんだよ、さとり。」
「だからと言って、逆らった所でどうにかなる訳無いでしょう?」
「そうは言っても、今が窮地だろうさ。」
燐は横に座っているお空を引き寄せた。
「お燐……?」
「……今なら、無かった事にできます。やめなさい、燐。」
言葉に反応し、不適に笑う燐。
「もう遅いさ……。アンタの大事な人、もう責め苦を受けてんじゃないかな?」
「なッ!!?」
さとりの驚愕とともに、扉から一斉に人影がなだれ込んで来る。
会談は少数で行われていたが、広い会議室。
百名に届くほどの地獄の者達がさとりの眼前に現れる。
「お空達をペットにして教育したみたいに、あたい達もアンタに教育してやるよ。地獄の責め苦って奴さ。」
じりじりと、さとりに攻め寄ってくる。
「パルスィは無関係です!開放しなさい!!」
「何であたい達の言い分聞いてくれない奴の言う事、聞かなきゃならないのさ。」
「けど、これは庁の決定です!」
「アンタは庁側の者だろう?あたい達の気持ちも理解しないで、ハイハイと向こうの言う事聞いて。」
「そんなつもりは…。」
「無いなんて言えないよ。そうじゃなきゃ、淡々と話なんてできるもんか。
――分かるかい?お空。
コイツの本性は自分の事しか考えてないロクデナシだ。」
「お燐…?さとり様はそんな方じゃ…。」
仲間達の行動を止めようとするお空。
それを見た燐は哀れむ表情をしながら、キュッと抱きしめて囁いた。
「かわいそうに、お空。誑かされて。
いいかい?あの女はお空達を自分の考えに染め上げようとして、都合のいい駒の様にするつもりなんだ。
……大丈夫、あたい達のところに戻ったら、すぐ正気に戻るよ。」
「…そ、そうなの?さとり様…?」
お空は真っ直ぐ、さとりの方へ向いて問いた。
「ち、違う!私はそんなつもりでお空をここへ連れてきた訳じゃない!!」
「聞いちゃダメだよ、お空?また惑わそうとしてるからね。
……あたいはお空を助けたいだけなんだよ。昔っからそうだっただろ?
親からも、周りからもバカだって言われたお空を助けてやっただろ?」
「うん…。」
燐はお空を振り向かせ、目を見ながら、一瞬躊躇って、
「これが終わって、地獄に戻ったら……一緒に暮らそうよ、お空。
……親はロクデナシに追放されたけどさ、あたいが代わりに面倒見てあげる。
ぬえのお姉さんも、力貸してくれるって言ってたし。」
「お燐…。」
「……さあ、みんな。モタモタしないでさとりを捕らえなよ。
教育してさ、考えを改めてもらおう!この地獄の為に!」
さとりは後ずさる。
どう切り抜けるか考えている。
しかし、心身ともに人間とさほど変わらないさとり妖怪。
少数なら読心でスキを見つけられようが、数が多過ぎて答えが出ない。
「く……パルスィ…。」
ふと、さとりは上に目をやる。
自分を阻む者達の上に、この雰囲気とは場違いなハートマークが漂っている。
「……なんだいありゃ?誰が宴会芸してるのさ?」
お燐も首を傾げている。
ふよふよと、漂うハート。
『ジェラシーボンバー』
そのハートは弾幕を撒き散らし爆発した。
突然の攻撃に混乱する敵達。
「あ、あれって…。」
「さとり!!」
事態に見とれていたさとりの前に、突如パルスィが現れた。
弾幕を囮にし、テレポートを使って。
「パルスィ!?」
「無事でよかった、さとり!」
さとりを安否を確認し、胸を撫で下ろす。
「部屋にいたら襲われたんだ……。私、さとりが心配で…!!」
パルスィは振り返り、敵からさとりを阻むように立った。
「どういうつもりだ、お前達!!」
「なんで抵抗しちゃったのさ、橋姫のお姉さん?抵抗しないで捕まってくれれば手荒なマネしないで済んだのに。」
「ふざけるな!一斉になだれ込んで来て!!」
「さとりがあたい達の言う事聞いてくれるまでの辛抱なのにさ。」
「……何!?」
燐の言葉と態度を見て、目を細めるさとり。
「人質ですよ、パルスィ…。」
「アンタ達、グルなんだろ?この地獄を好きな様にしようって魂胆でさ!!自分等の欲の為に、あたい達を切り売りしてさ!!」
「そんなつもりは――。」
「言い訳なんて聞かないよ!あたい達は取り戻すんだ!
アンタ等が追い出し、攫ったお空達を……!
昔の様な地獄を……あたい等の元あった、『世界』を!!」
敵意・殺意の念を持った地獄の者達は、怒涛の勢いで二人に向かっていく。
「さとり、私のフォローを!!」
パルスィは一歩前に踏み出し、妖力を両手に籠める。
「布陣を打ち崩し、突破口を開く!!合わせろ、さとり!」
「は、はい!」
『『グリーンアイドモンスター』』
二人が放った碧き双獣が地獄の者達を喰らっていく。
だが、地獄の者達は一斉に弾を撃ち出し、それをかき消していく。
スペルブレイクを確認し、目標を二人に合わせた。
パルスィも正面に障壁を張り、防ごうとする。
が、多勢に無勢だ。前も見えぬ程の重密度の弾幕に容易く破られしまった。
さとりを庇う様に矢面に立ち、被弾するパルスィ。
「くそ…止められない!!」
「テレポートは!?」
「無理だ!一人ならともかく、さとりを抱えてだと5メートルが精々…!逃げ切れない!!」
「だったらパルスィは逃げてください!目的は私です!」
「お前を置いて行ける訳ないだろ!」
口論しつつも奮戦するが、努力の甲斐なく壁まで押しこまれてしまった。
庇った分、ダメージが大きいのか、パルスィは壁にもたれ掛かる。
「いいから、貴女だけでも逃げて!!」
「出来ないって、言ってるだろ!!」
「嫌なのよ!!私のせいで貴女を二度も失うのは……!!」
「失うって……、私は――!」
パルスィが物言おうとしたが、さとりが両手で突き飛ばす。不意な出来事に、パルスィは踏ん張れずこけてしまう。
「うッ!!さ、さとり、……!?」
突き飛ばした当人を睨んだ瞬間、彼女は絶句した。
さとりの脇腹から、赤い液体を纏った黒い棒が生えていた。
「逃げて……パルスィ……。」
違う、槍だ。
パルスィが背にしていた変哲も無い壁から黒い槍が生え、さとりを貫いたのだ。
「チッ!!取り巻きを仕留めるつもりだったのに!」
さとりが壁から撃ち出されるように宙に飛ぶ。
槍から黒い煙が生じ、やがて、人の形へと変えていく。
「ぬえのお姉さん!」
お燐がその人型に向かって声を掛けた。
「私とした事がしくじったわ。壁に化けながら、じっと機を狙っていたのに。
私の殺気を瞬間的に拾って反応するなんてね…。
……致命傷では無いみたいだけど。
さとり、アンタはまだ生きてもらわないと困るのよね。」
さとりを抱えたまま、ぬえは刺した槍を引き抜く。宙に赤の鮮血が彩る。
「お前ぇぇぇぇ!!」
激昂したパルスィは弾幕を繰り出そうとする。
「おっと、アンタ。今、私を狙ったらさとりにも当たるわよ?」
「グッ……!!」
「まぁ、そうはいっても――お前はここで終わりだがな。」
ビュンっと、風切り音。
「あがァッッッッッ!!!」
唐突に、地を揺らす程の振動。衝撃。
地獄の者達の狭間から、大きな妖力の塊が飛び出したのだ。
攫われたさとりに気を取られていたパルスィは直撃を受け、それもろとも壁に撃ち込まれた。
「ぱ、パルスィ……!」
「ハハハハ、何とか上手くいったね!あとは頼んだよ、みんな!!」
ぬえはさとりを担ぎ、パルスィを尻目に地霊殿から抜け出した。
船の錨を模した光弾。
パルスィを中心に直径10メートルを越えるクレーターが威力を物語る。
「ぐ……ぅ…しまった、、、さとり。。。」
意識は飛んでいないものの、咄嗟に庇ったであろう左腕が不気味に折れ曲がっていた。
「ぱるしー、ぱるしーーー!!」
「やめな、お空!あれは敵なんだよ!!」
パルスィのところへ向かおうとするお空を、羽交い絞めするお燐。
「違うの!ぱるしーは優しい人なの!わたしを良い子って言ってくれたの、ぱるしー!!」
反論するお空に面食らった表情をしたが、ゆっくりと言葉を紡ぎ、諫めるお燐。
「……大丈夫だよ、お空。命を奪おうって事じゃないの。
ちょっと聞き訳がないから、お仕置きしてるだけなの。分かる?」
「お、おしおき?でも……でも、すごく痛そうだよ……。」
「あたい達のお願いを聞いてくれない意地悪なお姉さんだからね。
お空やお空の両親達を帰してって言っても、知らん顔して嫌がる事ばっかりするから、お仕置きをするのよ。」
「ぱるしーが…?」
「さとりのお姉さんもね。
……あたいだってやりたくてやってる訳じゃないの。
でも、分かってくれなかったお姉さん達が悪いんだ。このままにしてたら、地獄が地獄でなくなっちゃうんだよ。
話し合いで分かるならそれで終わるのに。」
見つめ合いながら、沈黙する二人。
「う、うん。そうだね、お燐。話し合ったら分かるよ。」
「あたいはまた、大好きなお空と一緒に暮らしたいだけなんだよ。」
「わ、私もお燐と一緒に暮らしたい。」
「そうだろ?だから、私の言う事聞いて、大人しくしててね、お空。」
「うん。。。」
抵抗を止めたのを確認したお燐は羽交い絞めを解く。
「分かってるけど……ぱるしー。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はっ………はっ……。」
何とか身体を立たせるパルスィだったが、足が震え、視点がおぼつかない。
二、三歩足を運ぶだけで、体勢が崩れ落ち、地に手を付く。
「くそ……マズった。」
満身創痍。立ち上がる事すらままならない。時間が経つにつれ、足元に血の池が出来上がっていく。
対して相手は古くから地獄に封印され、罪人を管理して来た強者達が大勢、無様な怨敵を取り囲むように見つめている。
状況は絶望的。このままでは、嬲り殺しだ。
静観の中、もがくパルスィに歩み寄る者が一人。
お燐だ。
前まで来て、見下す。忌むべき対象を。
憎しみを宿した瞳で睨み、砕けた左腕を踏みつける。
「あぐぅぅぅぅ!!」
パルスィの悲鳴が部屋に響き渡る。
踏めば踏むほど、濡れた布が絞られる様に血が噴出する。
「とっても痛いだろう?叫びたいほど辛いだろう?
けど、これはアンタ達が招いた結果だよ。あたい達の平和を乱して、偉ぶって!!」
踏んだ足に捻りを入れる。その都度、パルスィの身体が痙攣を起こす。
「ひぐッッ!!」
「あたい達だって痛かったんだ。心が。ずっといた仲間達をたくさん追い出されて。
絆を引き裂かれてさ。
このまま死体にして灼熱地獄の燃料にしたいところだけどさ、アンタがさとりのお姉さんのお気に入りっていうのなら、仕方ないけど生かしておいてあげるよ。
けどね、半殺し程度に仕置きはする。
楽しみだよ。
みんな、アンタを怨んでるからね。」
嗤い声が出始める。
自分達に不幸を撒いた者に制裁を加えられる事が嬉しくて堪らないのだ。
それを聞いても、何の抵抗も出来ないパルスィはただ、残った右手を握り、震わせるだけだった。
「おやめなさい。」
不快な嗤い声の中、凛とした声が響く。
群れの中から一人、割って出てくる女性。
被った白い帽子に、先ほどの光弾に似た船の錨のエンブレムが付いている。
彼女がパルスィに一撃を加えた本人。
船幽霊・村紗水蜜。
地上の人間に封印されるというイレギュラーな形で地獄に落とされた妖怪だ。
その為、庁では裁けず、封印が解けるまでの間、居候という形で地獄で暮らしている。
「その嗤い方は醜悪です。
己が行いが正しいのであれば、その様な声は控えなさい。
下賤な言動は、自他を下賤な心に染め上げます。」
「けど、村紗のお姉さん!こいつはあたい達をさ!!」
喰い付くお燐だが、村紗は手をお燐にかざす。
「気持ちは分かります。
ですが、ここで憎しみに任せて行動を起こせば、更なる憎しみを呼ぶでしょう。
それに、彼女達も是非曲直庁の関係者。
組織の者が独断で行動できる筈がありません。更なる混乱を招くだけです。」
「違うよ、村紗のお姉さん!お姉さんは最近落ちて来たから知らないんだろうけどさ。
さとりは閻魔の連れでも、こいつは只の『堕ちた妖怪』なんだ!
本当は地獄の責め苦を受けなきゃならないのに偉い奴に媚売って、地底の番人を気取った下賤な妖怪なんだよ!?」
それを聞いた村紗は腰を下ろし、パルスィの顔を覗く。
「それは事実なのですか?」
「……。」
「言いなさい。」
「どうしてお前の質問なんかに答えて…!? ッアアァッッ!!!!」
パルスィの言葉が中断される。言動に腹を立てたお燐が左腕を蹴ったのだ。
赤い血飛沫が、純白な村紗の服に付着する。
「やめなさい、お燐!!」
「あぁ、ごめんねお姉さん。綺麗な服を汚しちゃって。」
悪びれる事無く謝罪する。
「……全く。どちらが悪者か分からないじゃない。」
「……どちらが悪者だって?お前は、善悪の判別だけで行動してるっていうのか?」
反応した、パルスィが。
「お前らは善で、私達が悪だからゴミみたいに見下せるっていうのか?
ハハッッ……面白いよ、お前。」
乾いた声で笑っている、パルスィが。
村紗を憐れむ様に。
「……何が可笑しいんですか?」
「滑稽なんだよ。お前は。
そんな不確かなもので自分の行動を判断してるなんて。
燐の方が偉いよ。手前の大事な者の為に私を憎んでいるんだからな。
私から言わせれば、そっちの方がよっぽど素晴らしいよ。」
「……。
私は貴女を救いたいだけなのです。
この地獄に落とされた貴女の絶望は私には計れません。ですが、混乱を生めば、貴女は更なる不幸を呼び込む。
私がお燐達とぬえを説得します。ですが、今は従ってください。
無論、責め苦などさせません。」
「お姉さん!?」
「地上の鬼に受け渡すという話もまだ時間があるのでしょう?
時間があるなら、最後まで試行錯誤するべきです。」
村紗は優しい口調でパルスィを諭す。
「……もういいよ。」
「良くありません、パルスィ。貴女だって、諍いもなく平穏に暮らしたいでしょう?」
「ほざくなって、言ってるんだよ!!」
弱々しかったパルスィが吼えた。
咆哮に気圧されたお燐と村紗は思わず後ずさる。
「パルスィ!?どうして!?」
痛みに堪え、脚を震わせながら懸命に立ち上がるパルスィ。
「そんなお高い言葉で誰を……誰を護れるって言うんだよ!!!
言えば聞いてくれるのか!?
願えば叶えてくれるのか!!?
……違う!!
この『世界』はそんなもんじゃない!!
私だって無くしたものは、頑張れば取り戻せるって信じてたさ!!
正しい事をしていれば報われるなら、とっくにやってたさ…!
でも……そんな考え、意味なんて無いんだよ!!
いつも『世界』は気まぐれで、残酷なんだ!!
失うのは簡単なんだ……。
でも、得るには何かを代償にしなきゃ得られやしない最低の世界なんだ!!
燐も、お前らも、失わない為に私を倒して勝ち取らなきゃならない!!
勝ち取らなきゃ……お前らも、私の様になる……!!」
目尻に涙が溜まっている。
緑眼の光を反射した涙は、エメラルドの様に輝き放っている。
「私だって……もう、失いたくないんだ……。
ここでお前に流されたら、二度と取り戻せない。だから、抗わなきゃダメなんだ……。
故郷を失って。
家族を失って。
記憶を失って。
心さえ失って。
血に塗れて地獄に落ちても、護りたい想いが私にはあるんだ。
卑怯だろうと下賤だろうと、お前らが私をどう言おうと構わないさ。
けどな、この想いだけが……私がさとりを護り抜くって想いだけが!
たった一つだけ残った今の私の、『水橋パルスィの心』なんだよッッッ!!」
パルスィの身体から、緑色の波動が出始める。
砕けた左手から蒼い光が。握った右手から紅い光が。
村紗を捕えた。
『積怨返し』
蒼と紅の爆光。
衝撃でパルスィは元いたクレーターの壁に激突し、お燐と村紗は仲間のところに吹っ飛ばされた。
何人も仲間を巻き添えにして止まったお燐は、錨の光弾を抱えた村紗の元へ走る。
「村紗のお姉さん!!?」
「グ…咄嗟に錨を出して直撃は避けたけど……。
パルスィ、こんなの無謀よ!!」
村紗は叫び掛ける。自分に危害を加えた者に。
「……謀るつもりなんてない…。そんな回り道、時間の無駄だッ!!
さとりを待たせる訳にはいかないんだ!!」
叫び返したパルスィに、他の仲間が襲い掛かる。
「やめなさい、貴方達!!」
「どうして止めるのさ、お姉さん!!アイツはお姉さんを倒そうとした奴なんだよ!?」
「あの子を護ってあげないと!
ああいう子を護る事こそ、私達の……。
見過ごしたら、私は地上に還っても、あの人に顔向けできない……!!
抵抗しないで、パルスィ!!」
「黙れよ、海兵の女!!
ここは、さとりが困難と苦痛を越えて得た、最果てなんだ!譲れるもんかぁぁぁぁ!!!!」
緑色の爆発が巻き起こり、地獄の者達が撃ち負かされていく。
弾幕がパルスィを何度も襲い、都度、壁に打ちつけられる。
それでも、前に出て弾幕を展開し、自分を仇成そうとするものを伸していく。
勢いが止まらない。地表を飲み込まんばかりの津波の如く。
その気迫に、次第に皆が戦慄を覚え始めた。
「何だいあれは…。化け物じゃないか……。
アレだけ傷ついて、どうして妖力が無くならないんだよ……。」
お燐が恐怖で凍りつく。
村紗が思わず息を呑む。
橋姫ゆえ。
地獄の者達がパルスィに向けられた怨恨が糧に、妖力となるのだ。
得た力で弾幕を作り、精魂だけで撒き続ける。
「つ……貫きたいんだ…。この…想いだけは。
そうじゃなきゃ、もう、私は……さとりの傍にいられない……。
あの子は……今でも…昔の私が好きだから……。
今の私が護りたいの……。
今の私を見る度に……。
後悔と未練を……抱かれるのは……嫌なのよ……。」
村紗が飛び出す。
両手に、光る錨を握り、向かう。
「もう……もうやめて、パルスィ!!」
村紗の接近に気づいたパルスィは、大玉の弾幕を撃ち出した。
両手の錨を力任せに振り回し、弾幕を消し飛ばしながら留まる事無く突き進む。
「ごめん、パルスィ……!」
今の彼女に避けるだけの体力は無い。止めを刺さんと、錨を投げ飛ばす為に振りかぶる村紗。
パルスィの方から業火が放たれ、空間を包んだ。
突然の出来事に、皆がパニックに陥る。
地獄の者達の幾人が向かって来る火に巻かれた。弾幕を撃つどころではない、仲間を助けんと消化に励む。
村紗はその光景を目にして、咄嗟に錨を消し、底の無い柄杓を取り出し水を放つ。
しかし、消火活動が間に合わない。
次から次へと火は巻き起こり、混乱が増す。
「ぱるしーをいじめるなぁぁぁぁ!!」
『メガフレア』
術を唱える度、火は勢いを増し熱風が吹く。
お空がパルスィの前に立ち、炎を呼んでいるのだ。
「お空!???」
お燐が声を上げる。
「な、何やってんのさ、お空!?なんでアイツを庇うんだい!?
アイツとさとりは、アンタの親や仲間を奪ったんだよ!??
鳥頭で忘れちまったのかい!?」
「知ってるよ!」
負けじと声を上げるお空。
「知ってるなら……なんでさ!?」
「お燐は護ってくれたじゃない、私を!バカだっていじめられてた私を!」
「当たり前だろ!快楽だけでいじめるだなんて、そんなの許せるわけ無い!!」
「だったら、何でぱるしーをいじめるのさ!!」
「アイツが悪いからじゃないか!!」
「優しい人だって、私、お燐に言ったよ!!
暖かいんだよ、ぱるしーは!よく頭をナデナデしてくれるの!!」
「そんなの、お空を騙す為に演じただけよッ!!」
「そんな事を言って、ぱるしーをいじめるお燐なんて……嫌いだ!!」
「なッ!????」
お燐は猫に変じ、炎を掻い潜り高速でパルスィに向かう。
「あたいの、大事なお空を…よくも……惑わせて!!」
お燐の声と心が怒りで震える。直接、この手でパルスィに引導を渡す為に果敢に駆ける。
再び人型に変わり、甲高い口笛を鳴らす。
白い幽霊が現れ、パルスィに襲い掛かる。
「アンタなんてどうでもいい!!もう、死体になっちゃえよ!!」
「お燐!!ぱるしーをいじめるなぁぁぁぁ!」
お空はありったけの炎を呼び出し、身体に纏ってお燐に突っ込んで行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ドサリと、投げ捨てられるさとり。
右も左も分からぬ闇の中。さとりは空間を一瞥する。
「無明地獄…。」
「ご明察。まぁ、腐っても管理人だもんね。アンタ。」
周囲から声が響く。ぬえの姿を捉えられないさとりが周囲をしきりに見廻す。
「見えない上に、入り組んだ所だからね。難度の高い迷路ってだけなんだけど。」
「邪魔されず脅迫をするには、打って付けという訳ですか……。」
「いや?アンタを『教育』する為にここに連れて来たのよ。」
ドスッ。
「あぅッ……!!」
「地獄は言わば、転生前の教育機関ですから。」
ズズッ。
「グゥゥッ……!!」
「一度、体験していただかないと分からないと思いまして。地獄の大切さを。」
ズバァ。
「――ッ!??」
突如、槍で貫かれ、裂かれた右肩を、無意識に地面へ押し当て痛みに耐えるさとり。
「私はサディズムではありませんので、良心の呵責に毎日悩んでますのよ?」
「そ…その割には、嬉しそうじゃないですか…。」
「それは貴女だからです。勝手に地獄を縮めて、仲間達を追放した方ですもの。みんな腹を立てていますの。
ああ、でもこれは復讐ではありませんから。
教育です。お間違え無き様。」
「あ…あの、鬼との交渉の破棄なら、無理ですよ……。
私が与り知らぬ所で起きたものですから…。
譲歩くらいなら、出来ると思いますが……。」
ズドッ。
「ッッッ!!」
「教育のし甲斐がありそうですね。」
「し……したって、無駄です。私だって……破棄したいくらいなのに…。」
「このまま、太ももをバックリと斬って、ほおっておきましょう。
失血というのがどれだけ苦しいものかが分かる、よい機会です。」
ズバッ。
暗闇の中、血がパタパタと落ちる音が鳴る。
「うグッ……ぅ…パルスィ……。」
痛みに耐えながら、呻くさとり。
「……あの女ですか。今頃、皆に地獄の責め苦を受けているところでしょう。
大丈夫ですよ?死なない程度に痛めつけろと言ってます。」
聞いたさとりは、地に埋めていた顔を上げる。
「あ…あの人は……庁の関係者じゃない……。
私のわがままで連れて来ただけなんです。…放してあげて下さい。」
「存じています。あなたのお気に入りの方だそうで。
でも、あの方をお預かりしていないと、あなたの決意が鈍りそうなので聞けません。
彼女の命を助けたければ、私達のお願いを叶えてください、さとり様?」
「叶えれるものなら……叶えています。
私だって、安寧を、望んでます…。
努力はします…。もし、地上の鬼が地底に飽き足らず、地獄をも……好き勝手にするというなら、いくらでも抵抗しましょう……。私の首を掛けたって構いません…。
地位が欲しくて、仕事をしてるわけではありませんから、私は。
ですが、以前行った地獄の縮小化は……戻せません。」
強情だと言わんばかりにため息をつくぬえ。
「私達は、今までの生活を取り戻したいだけなのです。それの、どこがいけないのです?」
息荒く、さとりは答える。
「あのままでは……あなたの様に真摯な者達や、庁や他の部署まで巻き添えにする。あなたの願いを聞いてしまえば、怠惰を認める事と同じになる。
ただある現状を享受し、言われた事だけをし、無ければ何もせず、努力せず、必要無きものを取り上げれば己のものを奪ったと憤怒する。
それは……ただの贅沢です。」
「……何、分かった様な口利いてんのさ。」
「分かるんですよ。私は、さとり妖怪ですから。
誰が真面目で、誰が不真面目かだなんて、心を読めば、五分で分かります…。
建前と体面ばかり繕う輩ばかり飛ばしましたよ、私は。お陰で庁の財政が潤った。…喜ばしい事です。」
「たかが金の為にアンタは、お空の両親を地獄から追放したって言うのかい?」
「不憫だとは思いましたよ…。
ですが、あの子には貴女や燐さんがいたので、大丈夫だと判断しました。
でも、本当にお空の事を想っているのなら。
貴女が取ってしまえば良かったんですよ。お空を、あの両親から。」
「何を言ってんのさッッ!??」
ぬえが声を荒げる。
落ち着いた口調でさとりは続ける。
「あれ等は、地底の気温設定も兼ねる灼熱地獄の管理を任されながら、何もせぬ輩達でした。
私が何度責めても、上辺だけで取り繕い、すぐ同じ過ちを繰り返す。
その上癇癪もちで、すぐ娘のお空を虐めていた。
仕事で失敗した時など、酷いものです。
彼女がよく物事を忘れるのはその後遺症……いえ、辛い記憶を消す為の防衛手段では無いかと思うくらいに。
それを庁に悟られまいと、燐さんは四六時中走り回っていたそうじゃないですか。
火を起こせない火車が、懸命に死体を運び、灼熱地獄に火をくべて、火力調整をし続けた。
親友の為に。
けれど、それを言い事に自分の子どもを質にして、燐さんを扱き使ってたんです。
貴女だって、その親とよく衝突していたんでしょう?
――視えてますよ、今でも、その思い出が。」
ギリギリと、歯が軋む音が聞こえる。
「……したさ、お空を大事にしてやれって、お燐を扱き使うなって!!
アンタの言うとおり、取っちまえば良かったかも知んないけどさ……。
でも、お空の親はあいつ等なのよ!それは揺るがない事実!!曲げらんないのよ!!
アンタが知ってるかどうか、分かんないけどさ!
追放された日、お空は一日中泣き叫んでさ!!次の日、親がいない事を忘れて探し回って、思い出してまた泣いて……。
お空だけじゃない!他の仲間だって嘆いてたよ!突然身近な者がいなくなって、現実受け入れられなくて……!
出来の悪い奴ばっかり、アンタは排斥したって言ってるけど、それでも、必要なのよ!!
要らない奴なんて、一人もいないんだ!!!!
その上、『教育』だとか抜かしてまた仲間を攫って、今度はお空まで……
あの時のお燐の顔なんてもう、見てらんなかった!!
それだけ不幸をばら撒いて、アンタは何とも思わないのかい!?」
「……一方的であったのは確かです…。それは謝罪します。
ですが、お空たちは仕事さえきちんと覚えてくれれば、貴女達の下へ還します。
生きる為には然るべき教養が……。」
「うるっさいんだよ!信じられるか!!
コロコロ言ってる内容変えて!!
お空を連れて行った時、もうこれ以上は無いって言ったでしょ!?
なのに勝手に地獄を、地上の妖怪達に売り渡すだなんて言われて、黙ってられる訳ないでしょ!!
アンタは一体、どれだけ私らをかき回せば済むんだよ!!」
「……。」
「部外者のポッと出のアンタが、何様のつもりなのよ…!!」
「……地獄の、管理人です。」
「――ッ!!」
ぬえは怒りに任せ、さとりの脇腹に再び槍を突き刺した。
「あゥゥッ!!」
「認められるか!!アンタなんかが管理人だなんて…上役だなんて!!
認めて欲しかったら返してよ!!私達の生活を、今まであった世界を返してよ!!!」
「あ……貴女は幸せですね。」
刺された槍を撫でながら、さとりはぬえに向かって言う。
「こ、このガキ…何言ってんのよ!!!」
「護るべき仲間達と……世界があって。
とても……羨ましいです。
私はもう……何も、無いから。
生きてた『世界』に、妹を、仲間を奪われて…。
身近にあった大切な者も……自分で壊す羽目になってしまって。」
さとりの身体が小刻みに震えている。
ポタポタと、地面に雫が落ちる音が聞こえる。
「…アンタ、何言ってんのよ……。」
「パルスィを……もう、これ以上治してあげられなくて……。
そのパルスィも……次第に私を遠ざけていって……。
自分が非力で必要ない存在だって、見せ付けられるのはもう、耐えられないんです。
もう、…どうでもいいんです。
殺してくださっても、結構です。惰性で生きてるだけですから……。」
――槍が身体から引き抜かれた。
痛みに呻きながら、さとりが倒れた。
「……殺しはしないわ。アンタが交渉して、私達の安寧を取り戻すまではね。」
虚ろな瞳で、涙を流しながら。
「……ごめんね、パルスィ。。。」
今際の際の様に、さとりが呟く。
「……ごめんね、こいし。。。」
無明地獄に光が現れる。
「な…光が…!?」
さとりとぬえを囲う様に。
「さとり……じゃない!?でも、私とコイツ以外の気配も感じない!?何が起こってるの!?」
突然の出来事に混乱するぬえ。
その光は力を持ち、弾幕となり、ぬえに襲い掛かった。
「うわ……ッ!!」
堪らず回避行動を取る。
しかし、弾幕はぬえに照準を合わせている。
「くそ、何だって言うの!?正体不明の私が見えないものに脅かされるだなんて……!」
ぬえも負けじと弾幕をばら撒く。
しかし、牽制にもならない。
周囲から突然飛び出す弾幕に慌てふためいている。
「弾が出てるって事は撃ってる奴がいる……だから。」
大量・連続の弾幕に追いやられ、退路を失いつつあるぬえ。
「今……時計回り…そこよッ!!」
腕に、衝撃が走った。
私は目をやる。
当てられた傷口は、何故か、華が咲いている。
「見えないなら、見えるようにすればいいだけよ!撃ち込んだ弾に妖術を込めて、別の物体に見えるようにした。……咲いてるわね、華が!!
これでアンタの不可視の手品は使えない!正体を現せ!!」
現したくなんて、無かった。
でも、今の目的は戦うこと。
そうしなければ、さとりがどんな目に合うか分からない。
居場所が割れてしまうなら、攻撃に妖力をまわした方がまだ、勝機があるだろう。
……仕方なく、私は、能力を解いた。
「あ……あああ………!!」
さとりが声を上げている。
「何で……どうしてここに……!?
こいし……こいしぃぃぃぃ………!!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ぬえが、私の身体を見て、特に第三の目を注視しながら言った。
「アンタもさとり妖怪かい?
でも、読心なんて関係ないわ。身心が人間並みの種族なら、避けられないだけの攻撃をすればいいだけの事だからね。」
彼女の言う通りだ。
さとり妖怪という種族は身体的には人間と変わらない。
頭の回転速度だって変わらない。
心を読めても、膨大な情報量に対する処理が出来なければ、何の意味も成さない。
「こいし……逃げなさい!こいし……!!!」
後ろでさとりが騒いでいる。
「逃げて…!敵わないわ……!!
ぬえはその種族であるだけで大妖怪なのよ…!!お願いだから…逃げて……!!」
私はさとりの方へ振り向いた。
身体のあちらこちらから血が出てる。
無意識に、顔を歪めてしまった。
もっと、早く出てくれば良かったと、後悔する。
でも、いつもの事だ。後悔なんて、馴れている。
「さとりさん。それは聞けないよ。」
「……え?」
「逃げるつもりだったらこんなところに、いないもん。
今、私が貴女を助けたいから、ここに立っているの。
だから……待ってて。さとりさん。」
「『さとりさん』……って、貴女…。」
言い終えた私は両手を揃え、渾身の妖力を込めながら、ぬえに駆け出す。
いくら妖怪としてのスペックが違っても、至近距離で全力を撃ち込めばダメージを与えられるはず。
「特攻? 愚かねぇ……。避けれぬ程の雨の弾幕で果てなよ!!」
嵐の様に吹き荒れる弾幕。
安全地帯なんて見当たらない程の、隙間の無い攻撃。
「こいし、無理よ!!やめてぇぇぇ!!」
私はただ、駆け抜ける。
弾幕の中を。
「な……何で当たらない!!?こんなに撃ち込んでるのに!?」
ぬえは更に弾を放ち、密度を高めていく。
私は気にせず、そのまま走る。
そして、ぬえの懐に飛び込み、妖力を開放した。
「うあぁッ…!!」
炸裂した。抵抗できず、数メートル吹っ飛んでいく。
「な……何でよ!?」
先ほどと同じ弾幕を展開する。
「どうしてよ!!どうして当たらない!??」
再び接近して二撃目を加える。
「きゃぁぁッッ!!」
尻餅を突きながら飛ばされていく。
手応えがある。繰り返せば、勝てる。
「こ、こいつ。違う!!さとり妖怪とは何かが……――!?」
叫びながら、また同じ弾幕。
三度目、両手に力を込めて接近を試みる。
難無く掻い潜り、ぬえに攻撃を仕掛ける。
両手を突き出し、全力の光弾をを放った。
瞬間、意識が飛びそうになた。
三撃目も命中し、吹き飛ぶぬえを確認したが……。
私は思わず地面に這いつくばる。
呼吸が……出来ない。
必死に空気を取り入れようとするが、喉が麻痺しているらしく、逆に咳き込んでしまう。
時間が経つと喉から痛みが表れる。
「う…上手くいったみたいね。カウンターよ。」
私が光弾を放った瞬間、喉を槍の石突きで突かれた様だ。
力が入らず塞がらない口から唾液が漏れてくる。
ぬえが私に向かって四度目の弾幕を放つ。
ここで、やられる訳にはいかない……。
放った弾幕は、私を避けるように流れていく。
「……その能力で私の弾幕を避けてたのね。
さとり妖怪だと思ったから、意識しないで大量に撒いたのが逆効果だったわ。
よく見れば、その目、閉じているわね…。」
もう、少しだったのに……。
「さとり妖怪は意識を司る妖怪。その第三の目は心を読む象徴。
でも、塞いでいるという事は……逆。」
私に向かって、ぬえは光弾を放つ。
よ……避けないと。
しかし、身体が動かず、右肩にまともに食らってしまった。
「痛っ…。」
衝撃で、仰向けに引っ繰り返る。
「今のアンタは無意識を司っている訳ね。
バラ撒くだけで明確な意思のない弾はアンタに操作されてしまう。
さっきも姿が消えていたわけじゃない。その能力を使うことで、アンタを意識できなかっただけ。
でも、今はアンタの腕には、私が咲かせた華があるから、意識を逸らせない訳ね。
私が知らないものなら、今からでも意識を飛ばせるんだろうけど、自分が確信が持っている物なら、注視できる。
そして、しっかりと、アンタを狙った弾なら操作できない。」
ツカツカと近づき、私の襟を掴む。
軽々と私を持ち上げた。足が付かず宙を彷徨っている。
「い……息苦しい…。」
「そうしてんの。
いやぁ、良かったわ。さとりが自棄になってたけど、人質二人もいれば、流石にやる気になってくれる。
そうよね、さとり。」
「あ…ああ…。」
さとりの憔悴しきった顔が見える。
「やめて……。お願い…。私はどうなってもいいから……こいしだけは……。」
また、心配掛けちゃってる。ダメだなぁ。私。
「しかし、面白い能力ねぇ。アンタ。」
私の顔を覗き込んで言った。
「ありがとう…。嬉しいな…。
昔も、みんなに言われたの。
私って、さとり妖怪で特別すごいって、褒めてくれたんだ…。」
苦しい体勢だけど、胸を張って言う。
「へぇ?こんな状態でその態度?図太いというか、なんと言うか…。」
「私、嬉しかったんだ…。何やってもさとりさんみたいに上手く出来なくて、ドジで、不器用で。
でも、能力が高いって言われて、みんなに出来ない仕事を任されて、必要にされてるって実感できてね。
本当に幸せだった。
――みんな、死なせちゃったけど……。」
無意識に思い出していく。村の事。みんなの事。
「私、平凡の方が良かったかもって、何度も思ったよ?
それだったら、ずっと村の中で暮らせたのに。
お姉ちゃんと一緒に暮らせてたのに。
私がドジだから。
大したことも無いくせに、調子に乗っちゃったから。
みんなの生命も居場所も、灰にしちゃった。」
「あ…アンタ…。」
「ぬえさんはまだいいよ。他者に腹を立てられるんだもん。
私はね、自分が憎らしくなっちゃって、自分でいるのが嫌になって。
自分をやめたんだ。」
ぬえは黙って聞いている…。
さとりがすすり泣く音が聞こえる…。
「私は、何者でもない。
何の妖怪でもない。
ただ、漂うだけの存在なの。」
私を静かに、ゆっくりと降ろしてくれた。
「アンタ達は……。もしかすると、未来の私達かもしれないわね。」
ぬえは、倒れた拍子に落ちた帽子を拾い、埃を払って私に被せてくれた。
「地獄が地獄でなくなったら、私達も世界の孤児になるんだろうね……。
孤独が辛いって言うのは、分かるわ。地上にいた時、そうだったし。
鵺ってだけで、恐れられて、寄っても来なかった。
……嫌だったなぁ、あの頃は。
良い事したって、悪い事したって、何にも変わらなかった。
そもそも、何が善悪なのかも分からなかった。
ずっと一人だったから、誰も教えてくれなかった……。
でも、私はこの地獄が好きだから護りたいの。私を受け入れてくれたこの地獄が。
だから、今の目的も行動も変えられない。
悪いことであっても、私にとって正しい行動だからね。」
「うん……私も、さとりさんを護りたい。」
「ダメよ。もうアンタは私に負けてるんだから。」
「そうだね…。でも……まだ、パルさんがいるから。」
「パルさん?……あの女が?
――嘘つきね。村紗の一撃食らってんのよ?あれは私でも耐えられない程の威力。
アイツが私より頑丈に出来てるとは思えないけど?」
そう言うぬえに、私は笑顔で言った。
「…身体は弱そうだけどね。心はとっても強いよ。きっと世界で、一番強いの。
私は時間を稼げればいいだけなの。
必ず、来るよ。
あの人は橋姫で……お姉ちゃんの守護神だから。」
そういった直後、天井が砕けた。
無明地獄に光が指す。
その光の中に、私達が求めた人影が、あった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「げほっ、げほっ……!?ぱるしー、あそこ!」
「!??見つけた、さとり…それに……!!」
撃ち破られた岩盤と土煙のから、お空を肩車したパルスィが現れる。
「何…!?あの女と……お空だって!?」
二人の姿を確認し、呟くぬえ。
信じていた人が来た。
あの包囲を突破してきた。
けれど、パルスィもお空も、見た目ではもう戦闘不可能な程に傷を負い、血を流している。
ぬえが私を遠くに突き飛ばし、信じられないという表情をしながらお空に叫び掛けた。
「お空…!アンタ……!?さとりがアンタに何したか、忘れたの!?
両親から引き剥がされた悔しさ、お燐とも逢えなくなった寂しさを、それすら忘れてしまう鳥頭だったの、アンタは!??」
手に胸を当て、懇願するように叫ぶ。
「私らは仲間だったでしょ!それを奪ったさとりを庇おうっていうの!??」
「さとりさまをいじめるなぁぁぁぁぁ!!!」
ぬえの説得を、打ち消す様にお空は猛る。
「いじめる奴は、誰であっても許せるもんかぁぁぁぁ!!」
お空の手に炎が宿る。
「お空…!」
ぬえも両手を広げ、矢状の光を具現させる。
「く……可哀想だけど、ガマンして!」
ぬえが作り出した光は、空気が振動するほどの妖力が篭っている。
……これが、ぬえの本気。私の戦闘で疲弊しているはずなのに、それを微塵も感じさせない。
対するパルスィとお空は満身創痍。動きも力もガタガタだ。
「派手な暴力だけが力じゃない……。一撃で仕留める。」
パルスィの右手が碧白い光を放ち始める。
「大した妖力でもない、それで私の術が防げるもんか!!」
必殺の威力を籠めた光を携え吼えるぬえ。
「うつほッッ!!」
「うん、『メガフレア』!!」
パルスィの掛け声に応じ、お空が手をかざすと灼熱の轟炎が拡がり、ぬえに襲い掛かる。
「前面に炎を張って、バリアのつもり!?
そんなもので止められないよ!!」
『源三位頼政の弓』
ぬえから放たれた光の矢は拡散し、その炎を吹き飛ばす。
ドウゥゥゥン!!
「ぐッッああぁぁぁ!!」
轟音と絶叫が響き渡る。
炎と土埃で視界が悪く、状況が見えない。一体、どうなったの……?
「ああああ止めろ止めろぉぉぉぉ!!」
炎が消え、土埃が収まる。
そこに、ぬえの顔面を掴むパルスィがいた。
「何だコレ!?こ……心が、ムカついて暴れて、身体が動かない…!?」
掴んだ体勢で、パルスィは苦しむぬえを地面に打ちつける。
右手の輝きが光度を増していく。何をしているのだろうか……。
「嫉妬や怨恨の感情を増幅させているのよ、こいし。
感情のオーバーフロー。暴走する心は思考を停止させ、身体の自由を奪うわ。」
足を引き摺りながら、私の傍に来たさとりが説明を入れる。
「あれで精神にダメージを与えるの。捕えれば、抵抗不可避の業。
……私はあれで……
パルスィを……。」
悲しそうな瞳で、パルスィを視ている。
「……さとりさん……?」
「炎で目眩ましで、目の前に瞬間移動だなんて……ずるっこい…!」
「ほざくな……。」
「アンタ達さえいなきゃ、私達は変わらないまま平穏に過ごせたのに!地獄のみんなは傷付かなかったのに!!
消えろよ、居なくなっちゃえよ!!この地獄から!!」
「黙って寝てろォォッ!!」
瞬間、青白い光が空間を埋め尽くした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
パルスィは、気を失ったぬえから手を離し、さとりを見つめる。
「お待たせ……さとり。」
半開きの目で、顔を上げる。
「パルスィ……よく……来てくれました。
助かりました……本当に。」
くしゃくしゃな顔でパルスィに近寄るさとり。
それを見て安心したのか、パルスィの身体が地面に崩れ落ちそうになった。
倒れる身体を慌てて抱き寄せる。
「嫉妬と怨恨を抱いた輩が、私に勝てるもんか…。」
息も絶え絶えに言うパルスィの顔に付いた血を、さとりはハンカチでせっせと拭う。
「そんな事言って、ボロボロじゃないですか……。」
「……そうだな。。。
……見栄張りたいところだけど…私一人じゃ、ダメだった。
必死に『炎幕』撒いてくれて、その隙付いて、みんな伸して。。。
ぬえの居そうな所を案内してくれて。。。
ホントに……うつほには感謝してる。。。
さとりを助けられて……良かった…。」
緑眼の怪物が眼を塞ぎ、天を仰ぐ。
彼女は護るべき者を護り抜いた達成感で心が満たされていた。
「……さとり様。」
お空が、気絶したぬえを膝枕しながら言う。
「ぬえもお燐も、目を覚ましたら私の事、許してくれるかなぁ?」
「お空…。」
「私は、みんなが仲良しな方が良いと思ったから。大好きなさとり様やぱるしーがいじめられるのが、いやだったんだ。昔の私みたいで、いやだったの。
理由を言ったら、許してくれるかな?
……でも、やっぱり間違ってるって、いつもみたいに怒られちゃうのかな?
私……バカだから分かんないけど。」
寂しそうに言う。
いくら自分が悩んだ末に正しい事だと思った行動とはいえ、一緒に暮らしてきた大事な友達よりも、さとりとパルスィを優先した事は裏切りなのだ。
そう罵られる恐怖と、今まであった友情が無くなってしまう不安で、お空は心が潰れそうになっていた。
ふら付きながらパルスィが歩み寄り、お空の頭を撫でる。
「そんな事ない。貴女は賢いわ。周囲の言動に惑わされず、自分の正義を貫いた。
その弱き者を思いやる心を持ち続けなさい。
――そうすれば、分かってくれる。
うつほを護ってくれた友達なんでしょ?」
「……うん。そうだった。ぬえもお燐も私より賢いから、私の言う事、分かってくれる。
私、がんばるね。」
「そう、その意気だよ。」
パルスィが言うと、お空の萎れた顔が次第に笑顔になっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お空がふと、こちらを振り向く。
「――あ、そうだ。あなたが、こいし様ですか?」
……。
「さとり様にそっくりですねぇ。一目で姉妹だって判ります!!
あ、私は霊烏路空です!こっちは水橋ぱるしー!」
「……ぱるしーじゃない。パ・ル・スィ。
それに、さとり妖怪なんだから言わずとも分かるだろ。」
「あ、そうだった!心読めるもんね、アハハハ!」
……。
「読めないよ。私はさとり妖怪じゃないから。」
「……え?」
「…?」
怪訝そうな顔をして私を見る二人。
「パルさん、お空ちゃん。私は、さとりさんの妹でも、さとり妖怪でもないの。」
「で、でも、第三の目もあって、さとり様とお揃いじゃないですか!」
慌てるお空に、私は第三の目を両手で持って見せた。
「ほら、目を瞑ってるでしょ?こうなってしまったらもう何も視えないし、聴こえない。
代わりに無意識を操れる様になって、誰とも気付かれずに過ごせるの。
心を読めるさとりさんにも、読まれずにね。」
難しい表情でパルスィは閉ざされた第三の眼を見つめる。
「……第三の目を瞑ったこいしの夢を見たと、さとりは言っていたが……。
そういう意味か。」
「耐えられなくなったの。さとり妖怪として生きていくのが。
心を読む能力なんて、私にとっては害でしかないもん。」
そう、分かった。
私のせいで村が滅んだ。
古明地さとりを苦しめた。
「大丈夫だよ、じきにココから消えるから。」
災いを生む私が、さとりといるわけにはいかないから。
「き、消えるって、こいし…!?」
さとりが私の肩を掴む。
「嫌よ……行かせないわよ。こいし。」
「さとりさん…。」
「違う!違うでしょう、こいし!『お姉ちゃん』でしょう!!」
彼女の瞳から涙が溢れ出す。
「こいしがどんな姿になっても、貴女は古明地こいしで、古明地さとりの妹なのよ!!
この日を……貴女と逢う日をどれだけ夢見たか!!
地上で探し続けて、是非曲直庁で調べ続けて、地底で待ち続けて!!!
あ…あたしは……あたしはッッッ!!!」
私の肩を引き寄せ、抱き締めた。
しがみ付く様に、離さぬ様に。
「さ…さとりさん。」
「お姉ちゃんだって言ってるでしょう!!」
「……わたしにもう、そんな資格、ないの。
与えられた仕事を失敗して、みんな死なせて、お姉ちゃんも見捨てて、さとり妖怪である事もやめて、浅ましく一人で逃げたんだよ。
そんな私が、あなたの所に戻って良い訳がないんだよ。」
「こいし…。」
「だったら、何でここにいるんだ。」
パルスィが割って入る。
「さとりの所に帰る気が無いなら、何で地底にいる?さとりに寄り付く?」
「……それは……。」
緑眼が私の眼を睨みつける。
「こいし、本当は。
近くにいたんじゃないのか?地上に私達がいた時も。
ずっと感じていたんだ。未練というか、縁というか、そういう想いを、私は。」
「ずっと、傍にいた訳じゃなかったけど。」
いたかったけど、いたら辛くて、泣きそうで。
「村に、ずっと居たの。
お姉ちゃんとパルさんが作ったお墓に立てた、木の横で、
ずっと、座ってた。
私が行けるとこって、自分の村しか無かったから。
何回もお姉ちゃんを見かけたけど。
怖くて。
声、掛けられなかった。」
「……そ、そんな……。」
聞いたお姉ちゃんの手から、身体から力が無くなり、膝を付いた。
「時折お墓参りに来るお姉ちゃんの姿を見られるだけで、私は良かったの。」
「あ、あたし、全然気が付けなかった……。」
「仕方ないよ。無意識ってそういう能力だから。」
「お……お姉ちゃんなのに…あたし……。」
「でも、暫くしたら来なくなって。
何年待っても来なくって。
でも、待つぐらいしか出来なくって。
……辛くて
……堪らなかった。」
村のみんなが眠っている墓に植えられた木が季節を巡り、華を咲かせ、散らせても、お姉ちゃんは来なくなった。
年に四度、季節の変わり目に、お墓にお祈りをしていたお姉ちゃん。
私の無事を祈っていたお姉ちゃん。
私が見つかる事を願っていたお姉ちゃん。
ずっと聞いていた。お姉ちゃんの言葉。
聞いて安心していた。
私が、お姉ちゃんの心の中にいたから。
それだけで、嬉しかった。
愚かで臆病な私を、懸命に想ってくれていたから。
「私、バカだった。」
それが聞けなくなったと分かった時、不安で堪らなかった。
この土地から居なくなってしまったんだろうか?
お姉ちゃんの心の中から私の存在は消えてしまったんだろうか?
それとも、村のみんなの様に、やられてしまったのか。
「こんな事になるんなら、傍にいれば良かったって思った。
怒られて、嫌われて、突き放される結果になっても構わないから、声掛けて、謝って、お姉ちゃんの未練を終わらせて楽にしてあげれば良かったって後悔した。」
でも、私には、そこで待つ事しか出来なかった。
「ずっと、ずっと待ってたある日にね、地獄の管理人がさとり妖怪に替わるって話を聞いたの。もしかして、お姉ちゃんじゃないのかなって思って。
そしたら、ホントにお姉ちゃんだった。とっても嬉しかった。
でも、いざ前にすると、声を掛ける勇気が無くなっちゃって……。
ホント、バカだよ、私。
あれだけ後悔したのに、いざ前にしたら竦んじゃって……。
お姉ちゃんに嫌われたくなくて……。
無意識に、逃げちゃった……。」
「バカね、こいしは。」
お姉ちゃんがへたりこんだまま、私を見上げる。
「私の野良仕事を手伝えって言っても聞かないし、食べた食器は直さないし、出かけても時間通りに帰って来ないし。
私の気持ちなんて知らないで、いっつもいっつも心配ばっかり掛けて。」
何故だろう。
お姉ちゃんの泣き顔が笑顔に変わっていく。
「こいしじゃない。昔と変わらないこいしじゃないの。
昔と一緒で成長してない。ほんとバカ。
私がいないと全然ダメじゃない。
『資格』が無いとか偉そうな事言って。
貴女が私を必要だと思ってるなら、それがもう、『資格』なのよ。
姉妹でしょう、私達?
妹が姉に甘える事がダメな訳ないでしょう?
だから……還ってきて、こいし。お願い。
私も……辛くて、堪らないの。
泣いてるこいしを助けてやれないのが嫌なのよ。
私もこいしが必要なの。護っていたいのよ。
大切な妹、可愛い古明地こいしを。」
私も、お姉ちゃんの様に膝を付いた。
両目が……胸の底が……熱くなってくる。
「いいの……?本当に……?」
「そんな事より、先に言う事があるでしょ……?
挨拶は、礼儀の基本よ……?」
私は、お姉ちゃんに引っ付いた。
懐かしくて当たり前だった、お姉ちゃんの温もりと思い出が、私の心に想起されていく。
「お……お…ね゙ぇぢゃん……ただいま……。」
「うん……お帰りなさい……こいし…。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「………ねぇ、パルスィ。」
お姉ちゃんが、私にくっついたまま話す。
「私達、どこに行っても疎まれる存在のようです。」
「……そうだな。」
「以前の話です。
ここを出て行きましょう…。
私は……私達が憎んだ存在に成りたくないんです。
奪うつもりなんて無かったけど、地獄にとって私達が悪だと言うのなら、居ない方がお空達にとって幸せですから。」
寂しそうに言うお姉ちゃん。
だけど、その言葉は挫折や諦めの想いはなかった。
「それに……もう、こいしがいる。
どんな世界の片隅でも三人一緒なら、どこであっても楽園です。」
「……そっか。」
パルスィは私達を慈しむ様な瞳と笑みを零しながら返事をした。
「さとりがそこまでいうなら、私は構わないわ。
私は…ただ、貴女を護るだけ。もちろん、こいしちゃんも…。」
「さとり様…?何、言ってるの…?」
私達の会話と決意を遮る様に言葉が発せられた。
声の主であるお空が、眼を見開いて私達を眺めている。
「何で出て行っちゃうの?
さとり様は、わたしが嫌いになっちゃったの…?」
「……違うわ。そうじゃないの。」
呆然としているお空に、諭す様にお姉ちゃんが言う。
「これ以上、地獄にいるみんなを傷つけたくないの。
地獄の縮小化を行った時も、お空達を地霊殿に連れてきた時も、良かれと思ってやっていたわ。自分が正しいって……。
でも、肉親や親友を奪っておいて正しい訳なかったのにね…。こいしがいなくなった時の気持ちを貴女に当てはめていれば、簡単に分かることなのに…。
だからもう、私は貴女を縛らない。地霊殿にいる者達も地獄に戻すわ。
……でも、地上の鬼達の事は、本当にどうしようもないの…。ごめんね…。」
お姉ちゃんの言葉を聞いている間、お空はただ、眺めていた。 私達を。
「行こっか、さとり…。」
「ええ…。お空?
ぬえが目を覚ましたら、貴女の願いが叶った、憎い者達は去ったと…伝えて頂戴。」
足のおぼつかないパルスィを、私達二人で支えて地上を目指して歩みを進める。
「やだぁぁぁぁ!!行かないで、さとり様ぁぁぁ!」
大声に驚いて私達は振り向いた。
「わたしを捨てないで、さとり様ぁぁぁ!!
バカだから、要らないんでしょ!?私の事!!いい子にします!するから!捨てないで!!」
ボロボロ泣いて、顔を真っ赤にしてお空が叫んでいる。
「お姉ちゃん……どうするの?」
「でも、連れて行く訳にはいかないわ…。」
……苦い顔をしている。
お姉ちゃんの第三の目がお空を凝視している。本当に心の底からお姉ちゃんを求めているんだろう。その想いにどう行動していいか分からず、悩んでいる。
「……そうだよ…。バカな奴は要らないよ…。」
お空の首筋に、黒い槍が触れていた。
ぬえが目を覚ましていた。敵意の眼差しを以って。
「動くな。
動けばどうなるか…分かるでしょ?」
「ぬえ…何のつもりだ!!」
歯を剥き出しにして怒るパルスィ。
「パルスィ、アンタと話するつもりなんて無い…。お空を誑かしただけのアンタなんかに。」
「違う!私はそんな事していない…!私を助けてくれたのは、お空が正しいと信じて行動した、純粋な優しさから来た想いだ…!」
「だったら尚更だよ。私達の事を蔑ろにして攻撃したバカなんて、私にはもう関係無い。」
刃がスッと触れる。
お空の首筋に、なぞる様に赤い線が走る。
「ぬえ……ぬえ!やめてよ!」
「私達を捨てたんでしょ?お空は?そんな子の言う事、何で聞かなきゃならないの?
ああ、明日になったら、前日の事も殆ど忘れちゃう鳥頭だものね。都合の良い頭で感心しちゃうわ。」
「ぬえ……やめてよぉ…。」
泣きながら懇願するお空。堪らず私は叫んだ。
「ぬえさん!それはいけないよ!!友達傷つけちゃ!!」
「こいしは黙ってなさい!
……さとり。アンタ、ココでお空を見捨てたら、お空の親と同類よ?
よく、こうやって泣き喚いていたんだよ。『要らない』って言われ続けてね。
……地獄から追い出したのは、あの親の能力よりも、人格が気に入らなかったんだろ、アンタは。」
「……。」
ただ、俯くだけで答えないお姉ちゃん。
「でもさ、事実は事実だよ。アンタが良し悪しで考えてようと、親を奪った事実は否定できない。
そして、今ココから出て行けば、私がお空を殺す。アンタは自分の保身とエゴでこの子の存在を捨て去る事になる。
お空を助けたかったら、鬼との契約を何とかしてこい…。」
……先ほどから返事を決めかねていて動かないお姉ちゃんに私は声を掛けた。
「……お姉ちゃん、ぬえさんのお願い事、聞いてあげよう。
でなきゃ、みんな、悲しい思いをするよ…。」
「……そうね。こいしが言うならば。」
顔をあげて、お姉ちゃんはぬえに誓った。
「分かりました。出来うる限りの事はしましょう。
地底を引き渡す際、地獄の者達には極力干渉せぬように、と。
その約束が成されるまでは、お空を貴女に預けます。」
「……嘘じゃないでしょうね…。」
「私の言葉が信じられないなら…。
お空?私は嘘をついてると思うかしら…?」
お姉ちゃんにいきなり話を振られたお空は驚いて、
「え!?わたしはさとり様を信じてるよ!」
「……だそうですよ?どうしますか?」
一間。
「……そうね。今回はお空を信じてみるわ。この子がバカじゃないって証明、して見せなさい…。」
言ったぬえは、がらんと槍を落とし、再び気を失った。
「ぬえ~~ッ!!」
慌てたお空は頬をペチペチ叩いて起こそうとしている。
呆れた顔でパルスィは倒れたぬえを睨みつけた。
「……素直じゃない奴……。」
「パルスィに素直じゃないって言われたら終わりですね。」
「な……なんでよ!?」
素っ頓狂な声を上げたパルスィを見たお姉ちゃんは、大笑いしながらパルスィの質問をはぐらかした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、地霊殿に帰った私達は先ず、ペット達に怪我の治療をしてもらった。
それから、地獄で伸びている妖怪達を介抱する様、お姉ちゃんが指示し、後日、改めて会談を設け、地獄から抜けた妖怪のみ特例で、地上と地底の往来を許可された。
後日、庁に行ったお姉ちゃんは、地上の鬼に受け渡す場合には、地獄の現状をいじらぬ事を条約に盛り込む様、十王達に約束させた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……どの道、地上の鬼なんて、私が叩き出すって言ってるのに。」
地霊殿のテラス。
私とお姉ちゃん、パルスィとお空の四人、テーブルを囲って茶会をしている。
パルスィがふくれ顔で呟いている。
「さとりは全然私の事、信じてくれない。」
「そんな事無いですってば。仕事なんです。仕方ないでしょ?」
「そうだよぱるしー。拗ねちゃダメ。」
「す、拗ねてなんかないもん。」
置いてある茶請けを鷲掴みしてモシャモシャ食べるパルスィ。
「あー、もぅ、ボロボロこぼして。」
慌てて食べたせいで零れカスを撒いてしまったようだ。お姉ちゃんは笑いながらテーブルの前や、スカートを拭いてもらっている。
「ぱるしー、さとり様を困らせちゃダメなの。」
「う……うぅ……うるさいなぁ!このバカラス!!」
ガバァっと立ち上がり、お空を睨むパルスィ。
「う、うにゅぅ……。」
お空がなるべくパルスィと目を合わせないように俯いて縮こまる。ちまちまとお茶を飲む仕草がかわいい。
「ちょいと、お空が悪いわけじゃないでしょ?どう見たって今のは橋姫のお姉さんに非があるだろ?」
後ろから声が飛ぶ。
お燐だ。いつもの黒のドレスの上から白いエプロンをしている。
新しい急須と茶請けを持ってきたのだ。
あの争いの後、目を覚ましたお燐はお空と二人だけで暫く話し合いをしていた。
お燐はさほど、お空の事を恨んでおらず……というか、お空が心配で堪らなかったらしく、起きてから「お空分が足りぬぇ。」と言い、一時間ほど一緒にゴロゴロしていたとか。
その時、お空の方が「暫くさとり様と一緒にいたい。」といった為、「じゃあ、あたいも。」と一緒に転がり込んできた。
地獄管理者の中でもトップクラスに優秀だったお燐は、部署を移した地霊殿の中をあっという間に取り仕切るまでになってしまった。今ではお姉ちゃんの右腕に成り上がっている。
……そもそも、お姉ちゃんがペットにしているのは、できの悪い地獄の者がしっかり仕事をできる様に教育する為の研修が主な目的なんだけど。出来の良いのを入れるのはどうなんだろう?
けど、お姉ちゃんも家族が増えて嬉しいらしく、最近では、当初の目的と関係ないペットも増え始めている。
いいのだろうか?
空になった茶請けを回収、素早く配膳し、急須を交換する。
「ほら、こんなに縮こまちゃって。ホントおっかないお姉さんだねぇ、お空?」
「うにゅ…また私、変な事いったのかなぁ、お燐?」
「いいや、ちゃんと良く言えてお空は立派になった!あたいは鼻高々さ! これもさとり様の教育の賜物ですね。」
「ありがとう、お燐。パルスィもペットにして教育しなきゃかしら?」
「さ、さとりがそんな事言うぅぅぅ……。うぅぅぅぅ妬ましい妬ましい……。」
ヘロヘロになってテーブルに突っ伏し、呪詛を呟いてるパルスィ。
「……こいし様?お茶が進んでないようですけど、お口に合いませんでしたか?」
「ん?そんな事ないよ?美味しいよ?」
「それならいいんですけど……。」
「…みんなを見てると楽しくって、見とれちゃってた。」
心が読めなくなってから何年も、ずっと一人だった。
それがもう当たり前になってたから。
賑やかなのが、こんなに楽しいって事、忘れてた。
孤独は時間がたてば馴れるもの。
でも、やっぱり愛おしかったんだ。こういう時間が。
「やっぱさ、家族っていいなって思ったの。」
「あたいとお空はペットですけどね。」
「家族だよ。掛け替えのない大切な家族。」
「……ありがとうございます。こいし様。」
「――ぬえさんも、村紗さんも、来れば良かったのに。」
「仕方ありませんよ。無理強いできません。」
ぬえはあの後、お空とお燐がなだめて落ち着きは取り戻したものの、仕事以外では全く出会わなくなってしまった。お空はショックだったみたいだが、お燐は「根はとても真面目だから、時間置かなきゃ仕方ない。」と言っていた。状況とはいえ、お空に手を出した事を悔んでいる様だ。未だ心の整理が付いていないのだろう。
村紗はあの後、最後までパルスィとは戦わなかった。ずっと、お空が放った炎の消火作業に勤しんでいたらしい。その間、ブツブツと聖がどうとか教えがどう等と呟いていて、今でもそんな状態。パルスィの姿を見て、何か考えているみたいで、すごく近寄りづらい状態が続いているとの事。
「あの人達とも、家族になれたらいいのにな……。」
みんな分かり合って、家族になれば、きっと楽しいんだろうなぁ。
「――あ!!」
突然、お姉ちゃんが背筋をピンと伸ばして立ち上がった。
「いい事言ったわ、こいし!!」
叫ぶなり、パルスィの背中に思いっきり平手を打つお姉ちゃん。
バチィンと、大きな音と共にパルスィが飛び上がる。
「ッ――!??ッ痛ァァァァァァァァ!!!
な、何すんのよさとり!!??」
「こいし、来なさい!」
座っていた私を引っ張り上げ、パルスィの前に突き出す。
「こいしが帰って来たんですよ、パルスィ!」
満面の笑みで言うお姉ちゃん。
……帰って来たって、もう数日経ってるんだけど…。
他のみんなも首傾げてるし…。
パルスィがきょとんとしている。二、三度首を捻って。
「う、うん。幸せそうで妬ましい。」
ベチィン!!
思いっきりパルスィの鼻に張り手を繰り出すお姉ちゃん。
「ふぎゃ……!!」
「違う!やり直し!!」
「な……何がよぉ……?」
鼻を手で押さえ、涙目で後ずさる。しかし、逃がすまいと私ごと、お姉ちゃんは攻め寄り距離を離さない。
小動物のようにプルプル震えていて、戦っていた時とは違って何とも情けない。
「こいしが・帰って・来たんですよ・パルスィ!」
「は……はい…。」
「言う事あるでしょ!?」
「い…言う事……・?
!! 待って、ち、ちょっと待ってね……?」
お姉ちゃんが張り手第二段を構えるのを見て焦り、両手をパタパタして頭を振っている。
暫くして、ピタッと動きが止まる。
「……ひょっとして、あの事?」
汗垂らしながら、恐る恐るお姉ちゃんに尋ねる。
「そうですよ!!忘れてたんですか!??」
……後ろのお姉ちゃん、今、スッゴイ目つき悪い。
さながら、結婚記念日を忘れた旦那を怒る妻みたいな?
「でも、あれは別に約束でも何でもない訳だし……。」
「ふいになんてさせません!何ならココであのセリフ、想起してもいいんですよ!?」
「そ、それだけは止めて!!」
「張り手第二段、受けたいようですね……。」
「そ、それも止めて!!」
いったい何の約束なんだと興味を示し、私も含め、焦り倒すパルスィをみんなが囲い始める。
「な、何なのよ、近いのよ、お前達…!??」
「ぱるしー、女に二言はないんだよ!」
「言っちゃいなよ橋姫のお姉さん。どうせ大した約束でもないんでしょ?」
「言ってよパルさん。お姉ちゃんに何言ったの?」
「さあ、言いなさい、パルスィ!!さぁぁぁぁぁ――――。」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
久方ぶりの地底。
地上の鬼達を筆頭に、地獄にいるみんなが自らの希望をのせて建造した、旧地獄街道をスキップで渡る。
完成目前とはいえ、暗闇を照らす光が絶えず灯っているので、交通の便が良い。
それに地底の縦穴から地霊殿まで道が繋がっているから、私にとっては便利な通い道だ。
地上からやって来た鬼達は、富にものを言わせた欲深い侵略者という私達の想像とは違い、気のいい者達ばかりだった。
中でも、長である星熊勇儀と伊吹萃香は、地獄に堕とされた罪人をも受け入れる程の器量を持ち、この地獄を楽園に変える為、奔走し続けた。
そして、一年もしない内に、鬼達が得た陰湿な地底は、終始賑わう華やかな街へと生まれ変わった。
道中には沢山の店が並んでいて、食欲を誘う香りが漂い続けていたけど、今日は寄り道する気分じゃない。
そのまま地霊殿に帰り、みんなにただいまの挨拶をした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お姉ちゃんの部屋の前。
時間的には昼なんだけど、お燐が「先ほどから、さとり様が部屋に入ったまま出てこない」と困っていた。
二週間ぶりの地上散策から帰ってきたので姉に挨拶する為、ノックをする。
……返事は無いが、入ることにする。
「ただいま、お姉ちゃん。」
「……おかえりなさい、こいし。」
だらしなく、無気力にベッドで仰向けになっているお姉ちゃんの姿があった。
折角帰ってきたというのに、張り合いが全然無い。
「話をする時は、目と目を合わせなきゃダメっていってたのに…。
お姉ちゃんの礼儀知らず!」
怒り口調で言ってみる。
「……すみません。」
その体勢のまま動かず、返事だけ返ってくる。
ふぅっ。
溜息一つ。
何となく、こんな状態になっているとは思っていた。
急ぎ聞きたい事があったから、本命の話を切り出す。
「地底に帰る時、すれ違ったんだけどね…。
パルさん、出て行っちゃったよ。地底から。」
「ええ…。知ってるわ。
萃香さんがいらっしゃって、話をしてくれたから。」
ドスンと、お姉ちゃんの腰の上に座る。
ムゥゥゥゥっとか、変な唸り声が聞こえたけど、抵抗する事無くそのままじっとしている。
「追いかけないの?」
「行く訳ないでしょ……。
あんな分からず屋……もう知らない…。」
よく見ると、枕が湿っている。
……泣いてたんだ。お姉ちゃん。
「何度も、説得しに言ったのよ…私。
勇儀さんも萃香さんも、悪い鬼じゃない。あの者達は信頼できる。きっと、これからずっと、地底を護ってくれる者達だって。
けど、あの人、変な所で強情だから言うこと聞いてくれなくて……。」
地底に鬼がやってきてから、パルスィは追い出す為に、何度も星熊勇儀に戦いを挑んでいた。
地上の鬼が逃げ出せば、譲渡の契約は破棄になり、元の地底の状態になるからだ。
お姉ちゃんとパルスィが来た時の、昔の地底に。
……でも、全く歯が立たなかった。
日が経つに連れ、塞ぎ込んでしまい、何時しか地霊殿に寄り付かなくなってしまった。
お空が時折、パルスィに逢いたいと言ってたっけ。
「……先日。
縦穴に行ったらね、パルスィ、ボロボロでね…。
自分で上手く巻けなかったヨレヨレの腕の包帯を、私が巻き直しながらその話してたら……ケンカになっちゃって…。」
「お姉ちゃんとパルさんが…?」
信じられなかった。いつも楽しそうにしてた二人だったのに……。
特にお姉ちゃんなんて、妹の私も想像つかなかった位、パルさんの前では表情が豊かだった。よく怒って、よく泣いて、よく笑って。
「ただね、私は勇儀さん達と和解して、みんなで楽しく生きようって言っただけなのに。
嫌がった挙句に、『地上の鬼を取るなんて妬ましい!私を捨てるさとりなんて顔も見たくない!』なんていうもんだから……。もう、すごく腹が立っちゃって。
引っ叩いちゃった。
そしたらパルスィ泣き叫んで、縦穴から追い出されて。
……愛想……尽かされちゃった。」
「あら……。」
「旧地獄街道の建造が進むにつれて、この地底からパルスィの妖力源である嫉妬や怨恨の念が激減していったのよ。
それに勇儀さんは、戦いを遊びの様な感覚を持ってるから、負の念を絡ませる精神攻撃なんて全然通用しないし。
力が充実していた初戦で負けてしまってるのに、今頃戦ったって勝てるわけないのに…。
それなのに、意地ばっかり張って…。
バカよ……あの人は…。
絶望しかなかった地底に希望を与えてくれる勇儀さん達なら、きっと私やパルスィも住める『世界』を作ってくれるって、何度も言ったのに…。」
お姉ちゃんの微弱な振動が、私のおしりから全身に伝わってくる。
……また泣いてる。
お姉ちゃんの上に寝添べって、耳元で囁いた。
「お姉ちゃん……。パルさんはね、お姉ちゃんを取り戻したかったんだよ。」
「……言ってる意味が分からないわよ…こいし…。
取り戻すも何も…来て欲しいくらいなのに…。
勇儀さん達が来る前の茶会の時だって、結局はぐらかして逃げたのに…。
こいしが見つかったら、私達の家族になってくれるって…。一緒に暮らしてくれるって…。」
「パルさん。前にね、地獄でお姉ちゃんを助けに行くときに言ってたんだ。
今でもお姉ちゃんが好きなのは、昔の自分なんだって。
今の私が護りたいんだって。
お姉ちゃんに、後悔と未練を抱かせたくないって。
パルさんは、心が壊れる前の様に、お姉ちゃんと触れ合いたかった。
昔の様には振舞えないけど、今だって、昔の様にちゃんと護れるって、お姉ちゃんに思ってもらいたかったんだよ。
昔、地上で一緒に過ごした、二人だけの『世界』みたいに、パルさん自身がもう一度、お姉ちゃんに『世界』を作ってあげたかったんだよ。」
「……。
パルスィは……パルスィ以外の何者でもないのに。
そんな見栄なんて要らないのに。
あのままでも、私は……。
……違う。
やっぱり、求めてたんだ。
あのままだなんて、思ってる……。
昔の様な優しいパルスィに、元に戻してあげなきゃって……思って…。
バカなのは、私だったんだ…。心が読めるのに、気持ちを汲んであげられなかった。
私と逢うと、時々自分を妬んでいたのは……私が目の前のパルスィを見てなかったからなんだ……。どうして…気付かなかったんだろう…………。
ずっと…寂しい想いをさせて、優しい言葉を掛けたつもりで傷つけて…。
……ア…アァァァ……。」
部屋にお姉ちゃんの慟哭が響く。
大切だったから、パルさんを元に戻したかった。お姉ちゃんは。
大切だったから、パルさんは取り戻したかった。お姉ちゃんを。
ケンカの原因は、今と過去との、すれ違いだったんだ、お姉ちゃん達の。
「パルスィ……ごめんね……パルスィ……。」
私は立ち上がって、ドアノブに手を掛ける。
「お姉ちゃん、私、出かけてくるね。」
「グス……出かけるって……今帰ってきたばかりじゃないの…。」
「でも、今、行かなきゃならないの。」
出来ることは、すぐ、すべきなんだ。
時間が経てば、言い出せなくなって、怖くなって、諦めて手離さなければならなくなる。
まだ、間違え始めたばかりだから。
今なら間に合う。
お姉ちゃんたちを、私の二の舞にする訳にはいかないから。
「パルさんを連れて帰ってくるから。必ず。
待っててね……お姉ちゃん。」
完結か、なんか名残惜しいです。
前々作の「ハートブレイカー」を読んであなたを知りファンになったものです。
ハートブレイカーでは意外な登場人物同士を無理なく繋げてきた文章に感心し、
ブロークンハートではどん底から懸命にもがくさとパルにwktkさせられ、
うっほぃ続編がやってきた!――と非常にわくわくしながら読みました。
…非常に言いにくいのですが、今作は登場人物が多いからかイマイチ読みにくかったかな、というのが正直な感想です。
でもこいしちゃん帰ってきたからこの点数で。
次も期待しています。
でもこれだけの量と内容のものを書き上げるのは凄いことだと思うよ
さとパルはほんとにいい組み合わせというか、絶妙の雰囲気に萌えます。
ちょっとバイオレンスな地底編も楽しんで読めました。
フェッサー様のさとパルをまた読んでみたいな~と激しく思います。
完結はしましたが、またさとパルを読める日を願って…。
個人的にはさとこい成分多めの方が良かったかな、と思ってたり。
…もちろん家族愛的な意味で。
ここから、さとこいvsさとパルという温もりたっぷりな展開を(ry