-紅魔館-
月が美しく輝く夜。雲の少ない空は、その月をいっそう美しく見せるかのようだった。
そんな月の輝く下。紅魔館のテラスに吸血鬼の姿が二つ。月を眺めながら夜を満喫していた。
「フラン」
「なあにお姉さま」
「たまには、こういうのもいいでしょ」
「ええ、そうね」
何をするでもなく、月を眺める。ただそれだけっただが、充実している時間。会話の内容もたいしたことはなく、どちらからともなく声を出し、相槌を打つ。それだけ。しかし、その姿は周りから見れば、さぞかし美しく、神秘的な姿に見えるだろう。
「お姉さま、咲夜まだかな」
「そうね、多分気を利かしてくれてるんじゃないかしら」
「ふ~ん」
「でも、そろそろ来るわよ」
そう言いながらレミリアはそっと目を閉じ、空気を大きく吸うとゆっくりその空気を吐き、目を開けてフランの手を取った。
「さあ、中に戻りましょう」
「はい、お姉さま」
レミリアとフランが部屋に戻ると、テーブルの上に頼んでいたものが用意されていた。どうやらレミリアの言うとおり、咲夜は既にきていたようだ。しかし本当に気を使っていたのか、その姿は既になく、人の気配は全く感じなかった。
「美味しいそうね」
「ほんと、美味しそう」
テーブルについたレミリアとフランは、用意されたものを見て、思わず感嘆の言葉を吐く。
「それじゃ頂きましょうか」
「ええ、お姉さま」
レミリアとフランは、礼儀正しく手を合わせた後、
「「頂きます」」
そう言って、咲夜の用意した物を美味しそうに食べ始めると、その姿を窓から差し込む明かりが優しく見守った。
-白玉楼-
白玉楼の庭で、妖夢が修行に励み必死に剣を振るっていた。
幽々子はその姿を見て、たまに妖忌の姿を思い出す。
「ほんと、そっくりね」
「え、何ですか?」
幽々子の言葉に、妖夢は剣を振るのをやめ、幽々子の方へと向きなおる。
「妖夢、あなたは本当に妖忌に似ているわ」
「それは、私のおじい様ですから、似ていても不思議ではないかと」
「そういうことじゃないんだけどね」
「?」
「いいわ、気にせず修行を続けなさい」
そう、幽々子が似ているといったのは、何も見かけのことだけではなかったのだ。何気ない仕草や口調、とくに幽々子に尽くすところは本当によく似ていた。
「妖忌……今頃何してるのかしら」
ふと呟いた声は、妖夢に聞こえることなく、冷えた空気の中に四散していく。
そういえば、妖夢が修行を始めてどのくらい時間が経っただろうか。幽々子は考えるが、ぼ~っと見ていただけったので、どの程度時間が経ったかは分からなかった。分からなかったが、日の角度を考えると相当時間は経っているかもしれないと思い、妖夢を休ませようと思った。
「妖夢」
「何でしょうか幽々子様」
「お茶が飲みたくなったから、お願いするわ」
「あ、はい、分かりました」
幽々子のその言葉に、妖夢は剣を鞘に収めると、早足で建物の中へと戻っていく。そんな妖夢の姿を見て、幽々子は優しく微笑みながら見送った。
幽々子は分かっていたのだ。休みなさいと言って休むような性格でない妖夢を休ませる方法。それはお茶の用意をさせ、一緒に飲むこと。それに幽々子自身、一人でいるよりは妖夢と一緒にいる時間が好きだったから。
妖夢を見送った後、幽々子もゆっくりと歩きながら、建物中へと戻っていった。
-永遠亭-
今宵は満月。輝夜は永遠亭の庭でその満月を見上げ、過去を思い出しながらその雰囲気に浸っていた。
蓬菜の薬を使い幾千年。過去に囚われることなく、今を生きる輝夜にとって、今更過去を思い出し浸るのも馬鹿らしいかもしれないが、たまには過去を思い出すのもいいかな、なんて思ったりする。
「なあ輝夜」
そんな浸っている輝夜に、妹紅が声をかける。何故妹紅がここにいるかって?
確かに、顔を合わせば殺し合いを続けてきていた二人にとっては、珍しいことかもしれない。ふらりと現れた妹紅が、無言で輝夜の横で寄り添う。そしてそんな妹紅を邪険に扱うでもなく、ただ静かに二人で満月を見上げるのだ。
「月、綺麗ね」
「ああ、そうだな」
「妹紅、それ頂戴よ」
「ん、ああ、ほら」
輝夜は妹紅が来たときに、それには気づいていた。それと一緒に用意していた猪口を妹紅は輝夜に渡すと、その猪口に酒を注ぐ。
「美味しい……」
猪口を口元まで運び軽く傾けると、輝夜の口の中をしっとりとまろやかな感覚が満たす。あまり酒を飲まない輝夜だったが、妹紅が用意した日本酒はとても美味しかった。
「妹紅も」
猪口を妹紅に返し、輝夜が酒を注ぐ。
「旨いな……」
同じように、妹紅も酒の美味しさに酔いしれた。ただ二人して月見をし酒を飲む。こんな日があってもいい、そう思った。
その後も、二人は特に話をするでもなく、酒を飲みながら月見を楽しんだ。
-妖怪の山-
「おーい早苗、お茶いれてくれないかぁ」
「あ、私もお願い」
「はい、分かりました~」
二柱と現人神が部屋の中で寛いでいたとき、神奈子と諏訪子にそう言われた早苗は、すぐに立ち上がるとお茶の準備を始めるため、パタパタと可愛らしい足音を立てながら台所へと向かっていった。
「なあ、諏訪子」
「ん、どうしたの神奈子?」
早苗が居なくなったあと、神奈子はふと諏訪子に声をかける。
「この幻想郷にきてから、どのくらい経ったと思う?」
「ん~、詳しくは分からないけど、結構経ったんじゃないの?」
「ああ、諏訪子の言うとおり、かなりの月日が経った」
「それがどうしたのさ」
突然の神奈子の質問に、意図を汲み取れない諏訪子は首をかしげながら、そう聞き返す。
「いや、ここに来てから大分経ったけどさ、時々ふと思うんだよ。本当に来てよかったのかなって」
「神奈子、もう来ちゃったもんはしょうがないよ」
「確かに、来ちゃったもんはしょうがないけどさ」
「ならなんで」
「早苗のことを考えるとさ、やっぱり来なかったほうがよかったのかな、なんて思うときがあるのさ」
「私だってそう思うことはあるよ。でもだからこそ私たちは、早苗がこっちに来たことを後悔しないようにする使命があるんだよ」
「ああ、そうだな」
時折、神奈子と諏訪子はこうして早苗のことを憂いて、話をすることがあった。信仰心を取り戻すためとはいえ、一人の人間を幻想郷という場所へ来させることになってしまったことを悔やんでいたのだ。信仰心が薄れ、そのまま存在がなくなるのならそれで良かったのかもしれない。だが早苗がそれを望まなかったから幻想郷に来た。またこうしてふと憂いてしまうときがあるかもしれないが、早苗のために頑張ろうと思う神奈子と諏訪子であった。
早苗は廊下の壁に背をあずけ、そんな二人の会話を聞きながら小さく呟いた。
「ありがとうございます、神奈子様、諏訪子様……」
そして、
「神奈子様、諏訪子様、お茶用意できましたよ」
そういいながら、神奈子と諏訪子の元へ戻り、心のなかでこう続けた。
『私は、幻想郷に来たことは後悔していません。初めは戸惑うことも多かったですが、この幻想郷が大好きです。何より神奈子様、諏訪子様と一緒に居られることが幸せですから』
-地霊殿-
「うにゅ?」
お空は、手で頭のリボンを触りながら、今何してたんだっけと思った。
場所は地霊殿だから、誰かに用事があったのかもしれない。
しかし、誰に用事があったのだろう、と今度は腕を組んで考え始める。ちょっと制御棒が邪魔だとおもったが、そんなことは大したことではなかった。
「あっ」
暫く考えていたとき、ふとさとりの顔が脳裏をよぎる。
「そうだ、さとり様に会おう」
思いついた後の行動は早かった。忘れないうちにさとりの場所まで移動したかったからだ。そもそもさとりに用事があったのかどうかも怪しかったが、思い浮かんだ顔の主に会うことが、いまのお空には重要だった。
「さとり様~」
「お空、どうしたの?」
「うん、さとり様に会いにきたよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」
そういうと、さとりは笑顔を浮かべながら、お空の頭を撫でる。
「うにゅ~」
それが嬉しかったのか、お空はさとりに撫でられるまま、じっとその場を動かなかった。
「あ、お空、こんなとこに」
そのとき、お燐がさとりの所へときて、お空に声をかけた。
「お燐、どうしたの?」
「さとり様、ちょっとお空に用事があったんですけど、全然こないから探してたんです」
「そうだったの」
「うにゅ」
何がなんだか分からない様子で、お空は首を傾ける。
「もう、やっぱりあたいから迎えにいけばよかったよ」
「なんか用事あったけ?」
「はぁ……」
そんな様子のお空を見たお燐は、呆れた顔で手を掴むと、
「それじゃ、さとり様あたいたちはこれで」
さとりにそれだけ言うと、どこかへと行ってしまった。
「ふふ」
そんなお燐とお空を、さとりは慣れない笑顔を作り、姿が見えなくなるまで見送った。
-命蓮寺-
「ナズーリン、聖呼んできてくれない?」
「了解した」
星にそう言われたナズーリンは、聖が居るであろう部屋へと向かった。聖を呼びに行く理由は至極簡単。ご飯の準備が出来たから呼びに行くのだ。聖を呼びに行くのは、誰でも良かったのだが、星のとなりにちょうどいたナズーリンにお鉢が回ったというわけである。
「聖、入るよ」
「―――南無三!」
「ご飯できたから、食べましょう」
「―――南無三!」
「じゃあ、先戻ってますよ」
「―――南無三!」
部屋に入ったナズーリンは聖にそれだけ告げると、先に食卓へともどりながら考えていた。なんか聖の様子が何時もと違っていたようだが、気のせいだろうか。まあちゃんと会話も出来ていたし問題はないだろう。
「聖呼んできました」
「ああ、ありがとう」
戻って一番に、そのことを星に報告すると、星がお礼を言ってくる。そのお礼を聞いて、ナズーリンは少し頬を紅く染めつつ食卓につくと、聖が来るのを皆で待った。
「―――南無三!」
ナズーリンから遅れること数分、聖が食卓へと現れる。
「あ、聖、早くご飯食べましょう」
「早くするといい」
「早く早く!!」
「皆待ってましたよ、早く食べましょう」
「―――南無三!」
「「「「いただきまーす!!!!」」」」
「―――南無三!」
そうして、命蓮寺の日常は変わりなく続いていくのであった。
輝代→輝夜。てるよじゃなくて、かぐやです。
簡単の言葉
感嘆?
輝代→輝夜
まさかの最悪の誤字でした……。
誤字修正、IME登録しときました。
何気に一番好きなところだったのに……。
>>賢者になる程度の能力様
それこそが、狙っていたことの一つなので、概ね成功ですね!!
「信教」⇒「信仰」
魅魔様!魅魔様!神綺様ー!
ハ!魅魔様6ボスとかそういう次元じゃねぇ!
ラスボスオールキャストを期待します
誤字っていうか、すでに読み方すら間違えていたという……恥ずかしすぎる。
信教-しんきょう
信仰-しんこう
信教の部分は、信仰心に直しました。
というか、誤字だらけで本当にもうしわけないです。
ラスボスオールキャストについては、魅魔様……。
あ、神綺様はNinjaさんの新作で出てましたよ!!
ちなみに、この作品はこれだけのために書きました。
「―――南無三!」
妹紅の台詞に「輝代」が残っています。
同じ誤字が複数ある場合は、文字列検索でチェックするのも一つの手かも!
さておき、前半も後半もなかなか面白かったです。
今度からは、検索機能も生かしたいとおもいます。
のまえに、誤字減らさないとね……。