Coolier - 新生・東方創想話

お月見と秘封倶楽部

2011/12/11 01:36:16
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よく晴れた日だった。
雲一つない夜空は2万マイルくらい深い藍色をしていて、そこにある無数にちりばめられた星は小さくても眩しいくらいに輝いている。
でもその中に、間違ってインクを垂らしてしまったみたいに真っ黒な場所があった。まるで空に穴があいているみたいだ。

「見事な月ねぇ」

そう、そこは月があるべき場所だった。





「――っ!」

飛び起きた。そこは、当然自分の部屋だった。
窓から差し込む朝日が眩しくて目を細める。
汗で張り付いた寝間着がこの上なく鬱陶しくて、落ち着きの無い鼓動が少し苦しかった。
そのまま寝床に逆戻りするように倒れて溜息を吐く。また今日も向こうで妖怪に追いかけられてさんざん走り回されてしまった。
前は忘れた頃に見る悪夢だったのに、ここ最近、多い。その事について考える事も増えた。今だってそうだ。
なんだか振り回されているような気さえしてくる。自分は現実の存在のはずなのに、まるで夢の向こうの意思に、糸で操られている様に。まるで肌にじわじわとしみ込んで侵蝕されているみたいだと思った。
多分、考え過ぎだろう。それに、こういう風に考えるから向こうに行ってしまうのかもしれない。
でも、誰も知らないし理解されないであろうこの私だけの世界はあまりにも生々しくて。服を着替えて一歩外の世界を歩けば、普通に世界は続いていて。酔いそうになる。自分がいるのが現実なのか夢なのか、境界が曖昧でよくわからなくなる様だった。





見飽きた駅を降りて少し進むと、すぐに見飽きた校舎が見えて来た。大学の入り口に学生や教授や事務員らしき人々が吸い込まれていくのが見える。なんだか巣に帰る蟻みたいだなあなんてぼんやりと考えていると、後ろから肩を叩かれた。

「おはようメリー」

宗教の勧誘とか新手の詐欺とか馴れ馴れしいナンパかと思ってちょっと吃驚したけれど、聞き慣れた声がすぐに聞こえて来て安心する。

「奇遇ね蓮子。貴方、今日は講義取ってないんじゃなかったっけ」

振り返ると、私と同じくらいの背格好の少女がいた。
相変わらずの白いシャツに赤いネクタイ、黒いスカートと帽子という、おめでたいのかお悔やみたいのかよくわからなくなる様な色の服装だ。墨みたいに黒い髪は最近切って短くて、ところどころ跳ねている。

「ええ、無いけど来たのよ。放課後は活動するわよ!今日は何の日か知ってる?」

一気にそう捲し立てられる。そうか、サークル活動の為に来たのか、とまるで少年みたいな表情の蓮子を見ながら一人納得する。

「ふっふー、分からないでしょ?メリーってこういうのに疎いもんね」

別にまだ何も考えてなかったけど。

「何、また変な事やらかそうとしてるの」
「別に変な事じゃないわよ!古来から続く、れっきとした行事」

そういうと蓮子は空を指差した。

「今日は一年に一度の風流な夜。中秋の名月よ。今宵はお月見と洒落込もうじゃない」

見上げた昼間の空はうすぼんやりしていて、なんだが間抜けに見えた。

「月見て何か面白いの?」
「まったく。メリーは時々情緒が足りないわ。たまにはこういうのもオツなものよ?そゆことで、今日の放課後は部室に集合ね。じゃあ私はこっちだから。また後で!」

そう言って蓮子は購買の方に走っていってしまった。まるで突風の様だった。
そのエネルギーを貰ったというか押し付けられた気がする。こういう時に私の相棒はタイミングが良くて助かるな。





すこし夕焼けの名残を残した夜空は、気持ちいいくらいの快晴だった。もう気の早い星がいくつか輝き出している。
遠くから渡ってくる涼やかな風が、開け放たれた窓から入って来て肌を撫でていく。虫の音と何処かで練習している吹奏楽のメロディが風に乗って届く。
レポートは珍しく早めに終わらせた。こんな時くらい、いつものコーヒーじゃなくてお酒でしょという事で、部室の真ん中にある机にはチューハイの缶と、蓮子と私で作った、大きさの不揃いの白玉団子が積み重ねられて置いてある。
それから私は、まるで子供みたいにはしゃいで準備する蓮子といっしょに部屋を飾り付けた。
教科書や漫画や煤の付いたランタンや古いノートや表紙に何も書かれていない本がそこら辺に転がっていたり、望遠鏡が放置してあったりと、いつも雑多で生活感あふれる部室に、天井からはリング状の紙が何個も繋がった、誕生日パーティとかクリスマス会でよく見るあれを吊り下げ、殺風景だった壁にはウサギが月見している絵が掛かれた色付きの掛け軸を掛ける。どこから持って来たのか、ふさふさしたすすきも花瓶に入れて机に並べた。





こうして準備万端で迎えたお月様は、それはそれは綺麗だったみたいだ。
蓮子が感嘆の声を漏らす隣で、私は驚愕に目を丸くした。
あるはずの場所に月が無かった。
いや正確には、月は確かにそこにあるはずなのだけれど、私の視界からは見えなかった。
見晴らしの良い空で、大きな大きな境目が月をすっぽり隠していたのだ。思わず目を疑ってしまう程の。
今まで見た事も無い様な巨大さ。境目なんて常識外れなものだけど、これは流石に色々超越しちゃってると思う。最初は唖然としたけれど、そのうち驚きを通り越して、呆れてしまう。
というかこれじゃ、月見なんて出来ない。
昔の人は曇って月が出なくても、それを想像して月見をしたって聞く。でも生憎、自分はそんな情緒は持ち合わせていない。

「はぁ」

やっぱり最近、この瞳に振り回されてしまう事が多い。

「どうしたの。具合でも悪い?」

いつのまにか蓮子が心配そうにこっちを見ていた。

「いや、ちょっと考え事してただけ」
「いまそんなことするのは無粋よメリー」

そう言ってテーブルから缶を取る。

「そんな悩み事なんてお酒で退治しちゃいましょう。今宵は良い肴もそろってるしね。こんな素敵な月夜とお団子をアテにして飲めば一発KOよ」
「ただ飲みたいたけでしょ蓮子は」

自然と笑ってしまう。
段々可笑しくなってきてしまった。こんな深く考えている自分がちょっと馬鹿に思えてくるくらい。
苦笑しながら、良い笑顔の蓮子から冷たい缶を受け取る。

「かんぱーい!」

タイミング良く打ち合わされた缶から、小気味良い音が部室に響いた。





相変わらず月は境目に隠されて見えない。
でも隣を見ると、月を見上げる蓮子の横顔がある。
今はそれだけで十分だ。

「どうしたのメリー。私の顔に何か着いてる?」
「良い風景だなって思っただけよ。ずっと見てたいくらいにね」
本当は中秋の名月の時に上げたかったんですが、結局間に合わずじまいで今まで放置されてた物を、皆既月食にこじつけて完成させてみました。
拙い文章ですが、二人の温かい関係を感じ取っていただければ幸いです。

読んでくださってありがとうございました!
yoshi
http://niziirocreators.blog135.fc2.com/
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
綺麗な雰囲気が出ていて良かったです
皆既月食見たかったなぁ…
3.100名前が正体不明である程度の能力削除
あれ?タグおかしいかも?
5.70名前が無い程度の能力削除
ちゅっちゅちゅっちゅ
でもおもしろい素材だったからもう少し膨らませて良かったかな
7.70とーなす削除
むう、面白かったですが結局どういう意味があったのかはっきりしないのでもやもや。だって皆既月食なら蓮子にだって見えないとおかしい筈ですしね。
確かにここから話が続いていたほうがよかったかもです。
8.100名前が無い程度の能力削除
皆既月食見ようと思ってたら寝てて悲しくなった

蓮メリちゅっちゅ
9.90名無しな程度の能力削除
昨夜はこのメリーの気分を少し味わえたのかも!

雰囲気が良いので、もう少し長く読みたかったな
11.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです