Coolier - 新生・東方創想話

寄り道

2007/02/03 20:49:15
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※以前投稿した作品、アリス イン ワンダーランドと題名が違うだけで、内容は全く変わってません。

唐突だった。不可解だった。怪しげだった。
躊躇わず踏み込んだ。

美しかったのだ。





ドンドンドン、ドンドンドン。

魔法の森は人を寄せ付けない。
昼でさえ危険なこの場所に、日が落ちてから訪れるなんて、まともな神経の持ち主ではありえない。

ガチャ。

「……何よ」
「いきなり何よとはひどいな、お客様に失礼だぜ」
「お客様なんてどこにいるのよ」
「まあいいや、時間が無いんだ、乗れよ」
「いきなり何?用件ぐらい説明して欲しいんだけど」
「いいからつかまれって、面白いところに連れてってやる」
「だから行き先はどこなのよ」
「いったら面白くないじゃないか」

怪しさ満点だったけど、研究にも行き詰ってたところだ。気分転換には丁度いいかな。

「面白くなかったら承知しないわよ」
「わたしが嘘をいったことなんてあったか?しっかりつかまっとけよ。飛ばすからな」

そういうやいなや、箒は空に向かって駆け上がった。
ほんの数秒で充分だったわ。自分の判断の誤りに気づくには。





篝火が煌々と輝いている。

夜の神社の境内は、さまざまな人妖でごった返している。
子鬼が起こした一連の宴も今日が最後になるらしい。

「これで宴会も終わりと思うと寂しいな、ちとハードな毎日だったが」
「あんたみたいな無神経と違って、私はこれでようやく平穏な暮らしに戻れるとほっとしてるわ」
「平穏?家にこもって毎日人形いじりをすることがか?うまい言い方があったもんだ」

倍ほどの反論をつむぎ出そうとした私の口は、半開きになった状態から動き出そうとはしなかった。
目の前の光景は、私を驚かせるのに充分だったから。
紫色の導服に身を包んだ金髪の女性が、何もない空間に手を振り下ろしたかと思うと、空中に裂け目ができた。
次の瞬間、彼女はその裂け目に手を突っ込むと、中から一升瓶を取り出したのだ。

「アリス、おいどうしたんだアリス、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してるぜ」
「……なに、あれ」

視線を金髪の妖怪に向けたまま、魔理沙に尋ねた。

「ああ、そういや知らなかったか。何度か話しただろ、あいつが八雲紫。
 今回の事件も、あいつの仕業とふんでたんだがな。」

「あんたから聞いていたのは、胡散臭くて厄介な妖怪だということだけよ、一体あれは何なの?」
「あれ?ああ、スキマのことか、あいつの能力ってのが『境界を操る程度の能力』らしくてな、
 空間を切り裂いて別の空間につなげることができるらしい、便利な能力だよな。」
「まったく、いつも肝心なところを教えないんだから」

小声でつぶやく。

「おお、なんだか向こうで面白そうなことをやってるな、行こうぜアリス」
「遠慮しとくわ、鬼と飲み比べをしようなんて馬鹿げてる、つぶされるのが関の山だわ」
「相変わらずノリの悪い奴だ、宴会ではつぶれるのが作法だぜ。」

そう言い放つと、魔理沙は子鬼たちがいるほうへ駆け出していった。
本気で鬼に勝つつもりなんだろうか、相変わらず無鉄砲な奴だ。

「さてと」

先ほどの妖怪の方にむかって歩き出す。
いままでの疑問に終止符を打つために。



「理由を教えてもらいましょうか」

「あらあら初対面なのに挨拶も無し?魔理沙と違って、礼儀はわきまえていそうなのに」

美しい金髪をたたえた妖怪は、顔をしかめてそういった。

「アリス・マーガトロイドよ」

むっとしつつもそう答える。
賭けてもいいけど、相手はこっちの名前ぐらい絶対わかってる。
ただ礼儀知らずと言われるのは、都会派の魔法使いとしては許しがたい。

「八雲紫と申しますわ」

そういって優雅に一礼した後、

「そうねえ、理由っていわれても困るわね。今回の事件はあいつが起こしたんだから、あいつに聞くべきじゃないかしら」

わずかに笑みを浮かべてそういった。
困っているようにも、楽しんでいるようにも見える不思議な笑みだ。

「とぼけないで欲しいわね、私が聞きたいのは今回の事件のことじゃないわ」
「そういわれても……、どの事件のことかしら?心当たりがありすぎてわからないわ」

絶対嘘ね。

「本人を前にしてまだとぼけるつもり?私をここに引きずり込んだ理由を聞いているのよ!」
「あらあら、あなたを幻想郷に連れ込んだ覚えなんか無いわ。勘違いじゃないかしら」

扇を口元に当て、困ったように笑う。
なんだかこちらが間違っているような気がしてくる
魔理沙の言うとおり本当に厄介な妖怪だ、心のなかでため息をつく。

「残念ながら勘違いじゃないわ、あなたの罠に騙されて、幻想郷に放り込まれたのよ。
 あの空間の裂け目は、間違いなくあなたが作ったものだから」
「何のことだか分からないわ、でも察するに、あなたはこちらに流れ着いてきたわけね。魔法使いのお嬢さん。」
「そういうこと、あなたの作ったスキマのせいでね」

睨み付ける私のことなど気にもとめてないのだろう。
その顔から笑いが剥がれることは無い。

「それはどうかしら。そういった裂け目は偶然できることもあるし、私以外にも空間を操る能力者はいるもの。
 吸血鬼のメイドみたいに」

このままじゃらちが明かない。決定的な証拠を口にする。

「わたしがくぐった裂け目には、リボンが結んであったのよ。
 偶然発生した裂け目に、そんな酔狂なものがついてるはずないし、あなた以外にそんなことをする奴がいるとも思えない」

「へえー、しっかりした観察眼をもってるのね、感心したわ。さすがは都会派」

ぱちぱちぱち、拍手をされて腹が立つのは初めてね。

「お褒めに預かり光栄ね、で、認めるの?」
「いいえ、あなたのいってることは間違ってるわ。あなたを幻想郷に引きずり込んだ覚えなんてないもの」

こんなのが相手では理性を保つのも一苦労だ。

「この期におよんでまだとぼけるっていうの」

荒くなりそうな声を抑えて、静かに詰問する。
彼女は先ほどまでと全く同じ調子で

「そうね、あなたのいうそのスキマ、あれは私がつくったものね、今思い出したんだけど。
 でもあなたをここに引きずりこんだ覚えはないわ、あなた自身いってるじゃないの、スキマに踏み込んだってね」

といってのけた。

「……!」

あれだけ性質の悪い罠にかけて、いけしゃあしゃあとよくもまあ。
わたしが反論を口にしようとすると

「私もねえ、気紛れに開けたスキマに、たまたま魔界の人が迷い込んで驚いたのよ。
 でも私って慈悲深いでしょ、哀れなあなたに、たまたま幻想郷に流れ着いていた洋館を用意してあげたの。
 偶然って重なるものよねえ」

とうそぶいた。そんな偶然あるわけないじゃない。
あの家が誰に使われている形跡もなかったのは、そういうことか。

「どうして忘れていたのかしら。一度思い出すといろいろ思い出すわね。
 そうそうあなたのこと、観察させてもらったわ。幻想郷に入ってくる住人なんて珍しかったから。
 面白かったわー、妖怪なのにほんとに繊細。
 あなた、人形劇でお金を稼ぐ妖怪なんてみたことある?普通は人間を襲って強奪しちゃうものよ」

ニヤニヤ笑うな。

「私が繊細なわけじゃなくてあなたたちが野蛮なのよ。
 それより結局理由はただの暇つぶしなの、私を騙したわけは」

妖怪は人間に比べて気が長く大雑把だ。有り余る寿命のせいだろう。
が、指摘されたとおり、私はどうも人間に感性が近いようね。
単なる暇つぶしのために、しなくてもいい苦労をさせられたのかと思うと腹が立つ。

「騙した、騙したって人聞きが悪いわね、まるで詐欺師みたいじゃないの」

そうでないとでも思っていたんだろうか。

「ありもしない風景を餌に、魔物ひしめく魔法の森に放り込まれたのよ。これが詐欺じゃなくてなんなの!」

私は声を荒げて問いただした。

「騙してなんかいないわよ、スキマに見える光景は、必ず縁のあるものなんだから」

開いていた扇子をぱちりと閉じると、悠然と微笑む。

「あなただって気づいているんでしょ」





篝火が煌々と輝いている。

「……生きてる」

境内で仰向けになりながらつぶやく。
石畳のひんやりとした冷たさが、ごつごつした感触を通して、背中からゆっくりと伝わってくる。
今はそれが気持ちいい。地面にいるって実感できるもの。

「夜の遊覧飛行は楽しかっただろ」

魔理沙がこちらを覗き込みながらそういった。
にやけた顔に腹が立つけど、言い返す気力も沸いてこない。
あれのどこが遊覧飛行だ。
飛べるんだから、手を離せばよかったんだけど、思いつきもしなかった。
あの狂った速度のおかげで、理性なんか吹き飛んでしまった。

「ご愁傷様、えーと、アリスだったかしら?」

霊夢が苦笑いしながら、お茶を持ってきてくれた。
ありがたく受け取り、お茶をいただく。
お茶の香りと暖かさが疲れた心にしみていく。

「あんたも説明ぐらいしとけばよかったのに」
「時間がなかったからな、仕方ないぜ」

「何が仕方なかったのよ、いい加減説明して頂戴!」

私は立ち上がると、魔理沙を睨み付けた。
死の恐怖を味わったのだ、私には知る権利がある。

「怒るなよ、すぐにわかるさ……ほら、主役の登場だぜ」

魔理沙は夜空を指差した。
月が欠けているせいでどうにも暗いのだが、遠い夜空にきらきらと、わずかな燐光が輝いていた。

「なんでわざわざ蝶を出してるのかしら」」
「提灯がわりじゃないか」

燐光は徐々に明るくなってきている。どうやらこちらに近づいているようだ。

「一体何の話なの?」

これを口にするのはもう何度目だろう。

「ここまできたら知らないほうが楽しめるぜ、そうだろ、霊夢」
「それもそうね、ま、悪いようにはならないから安心なさい」
「はあ……もういいわ」

こいつらに聞くだけ無駄ね。詰まらなかったら魔道書でも請求しましょう。

そうこうするうちに、燐光の正体は確認できる大きさになっていた。色とりどりの無数の蝶だ。
燐光の中心には和服姿の女性が一人、その後ろには銀髪の少女が付きそっている。

「誰、あれ」
「冥界のお姫様とその従者、今回の騒動の原因よ」
「さて役者も揃ったし今からショーの始まりだな
 ……あれだけ回ったのに、結局アリスしかいないってどういうことだ」
「みんなのんきな奴らだからね、そのうち来るでしょ」

そういうと、霊夢はこちらを見ているお姫様に向けて手を振った。
それが合図だったのか、彼女は頷くと、私たちの頭上にゆっくりと昇っていく。

「いよいよだぜ」

お姫様は両手に扇を広げると、おもむろに舞い踊り始めた。

「きれいなものね」

霊夢がそうつぶやくのも無理は無い。
動作のひとつ、ひとつに無駄が無く、一連の動作は流れるようにつながっている。
あれだけ優雅なダンスは見たことが無いわ。
そうおもっていたら、彼女に付き従っていた少女が、手に持っていた包みを紐解いた。
包みの中からは大量の白い粉がとびだした、粉まみれになると慌てたのも束の間、
それはゆっくりと夜の空へと拡散していった。どうやらお姫様の踊りが原因らしい。

一体何のつもりかしら?
神社の上空を覆い尽くした白い粉は、ゆらゆらと舞い降りてゆく。
それが神社の木々に触れた時、


世界の色が塗りかえられた。


うっすらとしたピンクの花が視界を埋め尽くす。
ゆっくりと降り注ぐ白い粉が、枯れ果てた木々に触れるたび、白雪のような花が咲き開く。
みすぼらしいオブジェにすぎなかった枯れ木の群れは、瞬く間に晴れやかなアートに成り代わった。

「そんな……」

篝火の火が揺らめくたびに、光と闇の境界が揺れ動く。
そのたびに花の色は白から黒、黒から白へとうつろっていく。
光と闇が織り成す夢のような芸術。
片時も同じ姿にとどまらないこの光景は、まるで幻想のよう。

「どうだ、見事なもんだろう、桜っていうんだ、この神社唯一の自慢だな」

「桜……」

魔理沙の言葉もろくに頭にはいらない。
空を埋め尽くすように咲き誇る桜をまえに、私は言葉を無くして立ち尽くしている。
仕方が無いじゃない。

だって、だって、この光景は……。

あの日私が見たものと、全く同じものなんですから。






「あら、図星だったかしら」
「……だからどうしたっていうの、騙したってことには変わりないじゃない」

普通に考えれば、スキマに写った場所に移動すると考える。
夜桜の舞う風景をみせといて、闇夜の魔法の森に放り込むなんて立派な詐欺だ。
騙したことには違いない、違いないんだけど……。
なんだかさっきまでの怒りがすぼんでしまった。どうしてなんだろう。

「魔界に帰りたい?」

黙り込んでしまった私に、唐突な質問が飛んできた。

「できるの?あなたが」
「あなたがここに流れ着いたの、私にも責任の一端がありますから。」
「何を今更」

ちょっと考えたが、答えは決まっていた。

「いいわ、遠慮しとく」
「あら、いいの?私は気まぐれよ、こんな機会二度とないかもしれない。」
「あなたくらいができること、そのうち私にもできるようになるわ。あなたの気まぐれに一喜一憂なんてしたくないもの」
「頼もしいわね、そのときは幻想郷の管理人、引き継いでもらえるかしら」

「お断りよ」

彼女に背を向けながらそういった。



スキマ妖怪にああいったものの、実のところあてがあるわけじゃない。
大口を叩いてみたものの、あれほどの空間操作能力を手にいれる自信はない。
彼女の気まぐれは本物だろうから、次のチャンスがあるかどうかもわからない。
でも私は断った。ほとんど迷いもしなかった。
何故だろう。幻想郷にきたころなら、間違いなく帰してもらっただろうに。

そんなことを考えてたら、魔理沙にいきなり首を抱え込まれた。

「ヒック、なにひそひそやってんだ~、せっかくの宴会だってのに」
「ちょっとなに、この酒臭さは」
「ま~り~さ~、次はこのワイン開けるわよ、とっととそいつをつれてきなひゃい」

宴の中心から、ワインの瓶を振り回しながら霊夢が近づいてくる。

「二人揃ってつぶれてるんじゃないわよ」
「つぶれてる?馬鹿ひってんじゃない、私たちゃまだまだ平気だぜ、なあ霊夢」
「そうよ、そうよ、まだ宵の口じゃにゃい。飲むの~、飲まないの~」
「飲まないかもな~、こいつつぶされるのがこわい~んだぜ~」

なにその子供じみた挑発。

どうやら考え事をしてられるのも、ここまでのようね。
でもまあいいか、、妖怪の寿命は長いのだ。
使える時間はたっぷりとある。
ちょっぴり長くなった不思議の国の寄り道を、今は楽しむことにしよう。

私は霊夢に近づくとワインの瓶をつかみとり、一気に飲み干した。

「妖怪の恐ろしさ、たっぷり思いしらせてやろうじゃない」

派手なパフォーマンスに、宴の参加者から喝采がわきあがる。

「どうした~、いつも陰気なお前らしくないじゃないか?」

「たまには羽目をはずさないとね」

ウインクしてそう答えたら、二人とも眼を丸くして驚いた。
いつも傍若無人なやつらだが、驚いた顔は可愛いものね。
両手で二人の手を引きながら、私は宴の中心に向かって歩き出した。
これで2作目になります。といっても一度投稿した作品ですが。
考え無しにつけた題名と、あまりの設定無視に恥ずかしくなり、題名だけ変更させてもらいました。
yam
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コメント



0.400簡易評価
6.50名前が無い程度の能力削除
場面の前後関係がちょっと判りにくかったものの、アリスが実にアリスらしくて面白かったです。しっかり『アリスインワンダーランド』してると思いますよ。以下、誤字脱字です。
>騙しった
>したくな(い)もの
>手にい(れ)る自信
あと幽々子の従者はウドンゲじゃなくて妖夢なので、ブレザーとはちょっと違うと思います。なんて名前の服かまではわかりませんが。
8.無評価yam削除
ご指摘ありがとうございます、いろいろ修正しました。

>アリスが実にアリスらしくて面白かったです。
しっかり『アリスインワンダーランド』してると思いますよ。

アリスらしく感じてもらえたのなら、嬉しいですね。
題名はアリスのテーマみたいなものですから、もっとふさわしい作品に使われるべきかなと、個人的に思いまして。


9.100名前が無い程度の能力削除
こういうアリスいいなあ・・・。清涼剤をありがとう!
10.90名前が無い程度の能力削除
良いアリスでした。設定もウマい感じ。
11.60名前が無い程度の能力削除
新作から辿ってきました。
一年余りの間があるといっても、これほど著しく上達された方は珍しいと思います。
12.無評価yam削除
>こういうアリスいいなあ・・・。清涼剤をありがとう!

この感想をいただいたお陰で新作が完成したようなものです、ありがとうございます。

>良いアリスでした。設定もウマい感じ。

そういっていただけると嬉しいなあ。もっとアリスが書きたい。

>新作から辿ってきました。
一年余りの間があるといっても、これほど著しく上達された方は珍しいと思います。

そういわれると励みになります。自分では上達したかどうかなんて、なかなわかりませんので。