Coolier - 新生・東方創想話

活字中毒

2008/04/29 10:29:55
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 すべての知識を集めている図書館。

 空間の狭間に存在するその図書館への扉を開いたのは、今から何年前になることか・・・

 あの時にも…いや、あの時から、ここには優秀な司書がいて、私に微笑みかけ、可愛らしく一礼したのだ。


「ようこそ、ヴワル図書館へ。まずは目録をご覧になってください」


 私が、このヴワル図書館を探していたのは、他でもない秘中の秘、まさに究極の魔術書を探しに来たのだ。

 究極の魔術書-賢者の石ー。

 錬金術の到達点。卑金属を貴金属へ変える触媒。

 それが実はタダの一冊の本で、すべての知識が集まる伝説の図書館。ヴワル図書館に蔵書として保管されている。

 なんて、荒唐無稽な仮説。

 普段の私なら、いや、仮にも魔女を名乗っているものが、そんな根も葉もない噂話を研究の題材に選んでしまう事は十分愚かしい行為であり、労力を割く行為は無駄の結晶と言っても相違ないだろう。

 しかし、何気なく始めたジグソーパズルのピースが早く埋まる事というものがある。気がつくと、私はヴワル図書館への行き方についての研究を進めてしまい、そしてあろうことか、完成させてしまったのである。ヴワル図書館への地図というパズルを。

 興奮冷めやらぬまま、私は司書から目録を奪い、欲望の赴くままにページをめくった。




 それだけで、気が狂いそうになった。


「ネクロノミコン」

「エイボンの書」

「死者の書」


 存在さえも怪しまれていた伝説級の魔術書が目録の中に存在した。中には「フレアの書」「読んだら死ぬ書」など、よく分からないものもあったが…

 しかし、今はあとだ。とりあえずは、ここに来た目的。「賢者の石」を見ることが先決。


「賢者の石が見たいわ」

「かしこまりました。すぐお持ち致しますので、そちらでしばらくお待ちください」


 そういって、司書は近くの机を示した。私ははやる心を抑えながら、椅子に腰掛け、伝説の魔術書との対面を待ち望んだ。


「お待たせしました。こちらになります」


 司書の姿が現れるまで、そう時間はかからなかった。私は、半ば奪うように司書から本を受け取り、内容に目を走らせた。

 驚いた。

 まず間違いなく、この魔術書は本物だった。卑金属を貴金属へ変える秘術が子細に記されている。しかし、私をさらに驚かせたのは、その後の事だった。

 卑金属を貴金属へと変える秘術…それは賢者の書の内容の、ほんの一端にすぎなかった。次々と現れる、今までの魔術の常識を覆しかねない秘術・理論の数々。それらはあまりにも刺激的で、興味深い資料だった。

 だが、それらはまた、私の知識で噛み砕けるほど甘い物でもなかった。たちまち私は論理と解釈の壁に阻まれ、ページをめくるスピードも落ちてきた。

 その時、机に一冊の本が置かれた。つい、そちらに目を向けると、先ほどの司書がいた。こちらの視線に気づくと、少しはにかんだ笑みを浮かべ、


「あの…賢者の石をお読みになるなら、この本が参考になるかと思いまして…」


 司書の予想外の行動に、私は顔をしかめたのかもしれない。司書の顔に怯えの色を確認した私は、賢者の石に栞を挟み、机の上に置いた。


「一休みするわ。紅茶を用意できるかしら」

「はっ…はい!ただいま!」


 できるだけ、声に暖かみを持たせたつもりだったが、司書の慌てぶりとしっぽの揺れ具合を見るに、あまり効果的に作用しなかったようだ。

 首を一回りさせると、関節音が館内に響く。

 大して時間は経っていないように思えたのに、自分が酷く疲弊していることに気がついた。これは長丁場になりそうだ。何日、いや、下手したら数ヶ月…もっと見積もっておかないと、読破するのは難しいのかも知れない。道のりの険しさに、ただただため息を漏らすしか無く、私は視線を適当に泳がせた。

 ふと、あの司書が置いていった本に目がいった。装丁はしっかりとしているものの、タイトルには何も書かれていない。中を開いてみる。内容は賢者の石に関する解説本。中身の詳解と、読解のコツについて書かれた本だ。

 私の頭に再びスイッチが入った。先ほど、断念したジグソーパズルに新たな解釈としての方向性を発見したのだ。それは、快楽として私を満足させ、再び賢者の石への欲求へと、私を駆り立てるのだった。


「あの…」


 芳醇な香りを鼻が捉えた。司書が紅茶を持ってきたようだ。私は本と賢者の石を交互に読み進めるのを止め、再び司書の方に向き直った。司書の片手には金属のトレーの上にポットとティーカップが一つずつ、そして、もう片手には本が数冊。


「紅茶をお持ちしました、それからこちらは、賢者の石をお読みになった方が読まれた本です。ご参考になるかと思いまして…」


 そう言って、司書はトレーと本を机の上に置いた。私は、ポットの中の紅茶をカップに注ぎ、口に含む。美味しい。


「ありがとう」


 久しぶりに口からでた感謝の言葉だが、これは効果的に作用したらしい。まるで花が咲いたように華やかな笑みを浮かべると


「はいっ」


 と司書は子気味のよい返事を返した。

 それが、私たちの馴れ初め。




---




 賢者の石の解析は遅々としながらも進んだ。

 司書が毎日のように解説書や、検証用の実験器具、賢者の石専用に作られた言葉の用語集、魔法の歴史書に至るまで、様々な書物を用いて私のサポートをしてくれる。お陰で作業にタイムロスを強いられる事はない。

 しかし、賢者の書はそんな贅沢なサポートを備えていても尚、解読に手間取る難物だった。一文、一語、一字の解釈の違いで、数百、数千通りの解が生まれてしまう。素晴らしい作品が、僅かの瑕疵によって凡作と化すかのような、解析には神経質すぎる解釈の選択と、気の遠くなるほどの検証を行う必要があった。

 それにしても…何という知識の量と質を秘めているのだろうか、この書物は。安易な解析を当てはめて、ページを早々に捲りたくなる誘惑に駆られるのは何回目のことだろうか。こっそり、章の終わりのページだけを読んでみたい衝動を必死に抑えたのは、何回あっただろうか。読みたい…この書に記された全ての知識を、魔法を、謎を、全て私のモノにしてしまいたい。食べることも、眠ることも、もはや時間を空費させる障害でしかない。早く、解析を。一刻も早い解析…


「コホッ…コホコホッ!」


 最近、少し咳き込むようになってきた。風邪だろうか。ホコリっぽいこの図書館に長く居すぎたのが原因かも知れない。




---




「申し訳ありません。少し、宜しいでしょうか」


 いつものように、検証用の機材を持ってきた司書が話しかけてきた。珍しいこともある。いつもなら、私が話しかけなければ、何も言わずに反応を待つだけだったというのに。


「何か用…?」


 私は普段通りの素っ気居ない態度でそれに応えた。賢者の石の解析は順調に進んでいる。司書が持ってくる参考書に目を通す時間は減っていき、今では解析の過程で作成したノートのメモ書きを元に、独力での解析を行っていた。

 いずれは、清書して分かりやすくまとめてみるのも一興かも知れない。


「実は、そのノートに関する事でお願いが…」

「…?」


 司書が申し出た願いは、この覚え書きレベルのノートを借用したいという事だった。私が、返却の希望を出したらすぐに応じること、借用の期間は10日間とする事、など、諸処の条件をつけた上で、私は借用を許可した。


「何か、契約をした方がいいかしら?」


 今の今まで失念していたが、この司書はいわゆる悪魔に分類される種族だった。取引/契約に関する話は得意中の得意である以上、安易な口約束は厳禁だ。

 司書は一瞬、何を言われたのか分からないような顔をしたが、理解したかのように両手を合わせた。


「そ…そうですね。契約、必要ですよね。ただいま書面をお持ちします」


 …まさかとは思うが、自分の種族としての特性を忘れていたのではないか。他人事ではありながら、心配になる。

 深く考える間もなく、ワゴンに載せて契約書を持ってきた。羊皮紙に書かれた契約の文面に一通り目を通す。特に問題点は見あたらない。というか、司書の提示した条件が本当に“ノートの借用”のみしか書かれてしないことに、思わず笑みが零れた。


「貴女、契約関係は得意なの?」


 半ば、皮肉を含んだ問いかけだったが、図星だったのか、司書は顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。


「それが…お恥ずかしながら余り…」


 もじもじと、スカートの隙間から覗く尻尾がうねるのを見る限り本当の事のようだ。私は微笑ましく思いながら、契約書内の書面に追記し、署名した。


「前の契約じゃ色々と抜け道があるからね。この内容なら契約してあげる」


 司書は私から書面を受け取り、文面を見返す。やがて、自分の作った契約書が穴だらけだったことに気づいたのか、再び尻尾をうねらせながら、


「で、では。この内容で契約させていただきます」


 そう言うと書面へ早々と署名をして、そそくさと退散してしまった。悪魔でありながら、契約が苦手というのも、中々難儀な事だと思う。恐らく、悪魔の中でもおちこぼれに分類されているのではないだろうか。

 いずれにせよ、私には関係の無い話ではあるが。


「それでは、この書をしばらくお借り致します」


 司書が戻ってくるのは早かった。テーブルの上にこんもりと盛られたノートの山より数冊を選ぶと、いつものように図書館のいずこかへと去っていった。

 あの司書がいつも何をしているのか、今回、ノートを借用したくなったのは何故なのか、私の知ったことではないし、興味はない。呼べばすぐに現れるし、頼んだことは私の期待を超えた満足のいくレスポンスを返してくれている。サポートとしてはそれで十分であるし、それ以上を求める気もない。

 そんな事よりも、賢者の石の解析を進める事が先だ。私は再びノートに言葉を紡いでいく。そろそろ折り返し地点に到達する。残り半分…かつては夢や幻の類と思い、見向きもしていなかった究極の知識が、もうすぐ私のものにな…


「ガボッッ!ゴボッ!」


 配水管がつまったような、不愉快な音が聞こえた。


「ゴッッッッッ!ゴボゴボッ!」


 ノートに赤い貯め池が出来た。まずい、漏れている。何かは分からないが漏れている。


「ゴボゴボゴボ…ゴッッホ!ゴホゴホ!」


 何が漏れている?血だ。どこから漏れている?口だ。不意に、重力の変化を感じ、視点がノートから図書館の天井へ向かっていく。

 間抜けな事だ。

 私は溺れている。この十分な空気のある図書館の中で、喉に溜まったわずかな量の血液によって。

 溺れてしまえば、空気が無くなれば…私はどうなるのか…

 脳に空気が届かなくなれば、私は…

 私の脳は…

 私の、知識は…




---




 気がつくと、私は見知らぬ部屋のベットで眠っていた。


「気がつかれましたか」


 声のした方へ顔を向けると、そこにはいつもの司書がいた。心配そうに、顔を固めてこちらの様子を覗き込んでいたようだ。


「貴女が?」


 私の問いに、司書はゆっくりと首を縦に振る。


「倒れておられましたので、とりあえず、私の部屋で応急処置を行いました。症状は、多少は和らいでいると思います」

「そう、貴女には迷惑をかけたわね」


 労いの言葉に、今度は首を横に振った。


「安心しました」


 口元に笑みを浮かべるのを見て、私は静かに息を吐いた。


「ちゃんと効果があって」


 息が止まった。

 効…果…?

 何のことだ?

 司書の顔を見ると、先程と同じ口元に笑みを浮かんでいた。だが、眼光は鋭くこちらを凝視している。まるで私を、私の病状を観察するかのように…


「本当なら、今頃、死んでおられるかと思っていたのですけれど」


 明瞭に聞こえる落ち着いた声。しかし、その声の温度はいつもとは比べものにならない程低い。


「やはり、魔女ともなるとそんじょそこらの人間の魔法使いとは、身体の作りが違うのでしょうか。“パチュリー・ノーレッジ”様」

「どういう…意味なの…?」


 私は全く様子が変わってしまった眼前の司書へ問いかけた。


「そうですね…パチュリー様には私が直接説明するより、文章で説明した方が理解しやすいでしょう…」


 そう言って司書は一冊のレポートを差し出した。レポートの表題は“ヴワル図書館に特有の喘息の要因と対処”


「お早めに読まれた方が宜しいかと。次の発作がいつになるのか、分かりませんから」


 私はページを捲る。内容は至って簡単な物だった。ヴワル図書館に長期間滞在することにより、特殊な喘息を患う可能性があると言うこと。喘息の特異性とは、必ず呼吸困難になる程の重篤な症状を引き起こし、やがて体力を失って死に至る。他の喘息と同様、治療法は確立されていない。


「なんてこと…!」


 私は愕然とした。

 私には既に喘息の症状が現れている以上、もはや快復は望めそうもない。これから一生、私はこの病と付き合っていかなければならないのか。


「そこでですね、パチュリー様。良い方法があるのです」


 そう言って、司書は一枚の羊皮紙を取り出した。先程使った物と同じ…契約書だ。契約内容は、魂を条件とした、いかなる病も治す薬の提供。

 これはなかなか、どうして。可愛い悪魔と思いきや、とんだ食わせ物だった訳だ。

 すっと、眼を細める。


「具体的に、何をしろというのかしら?」


 魂を引き替えに何かを与える。悪魔との取引ではポピュラーな条件であるが、魂というのは比喩的な表現だ。実態は『貴女は一生私の言いなりになってください』という意味合いになる。つまり、私はこの司書の奴隷として、延々と何かを行う必要が生じてくる。

 司書はまるで、そう聞かれるのを待っていたかのように、満面の笑みを浮かべた。


「この図書館に知識を、貴女の知識を全て、捧げていただきたい」

「知識…」


 と言うことは、つまり…


「パチュリー様には、この図書館の蔵書を作っていただきたいのです」


 ああ、なるほど。そう言うこと。理解した。


「『全ての知識が集まる図書館』とは、そういう意味合いがあったわけね」


 私の繰り出した解は間違っていなかったようだ。司書は首肯する。


「その通りです。ヴワル図書館が高度な知識を揃えるためには、やはりそれなりの仕組みが必要となります。本に宿っている知識というのは、基本的に過去の物。この図書館が高度な知識レベルを保持する為には、常に新しい知識の風を入れ込む必要があるのです」

「そこで貴女はこの図書館に餌を用意した。賢者の石という、魔法使いなら誰でも飛びつきそうな餌を」


 私は解を続ける、が、これは解釈に齟齬があるようだ。小悪魔は、軽く首を振った。


「貴女の求めた賢者の石。それ自体も、もはや当初の目的である卑金属を貴金属へ変える為の本のみでは無くなってしまいました。いえ…そもそも、賢者の石は錬金術の最終目標であり、明確な目的が書かれている書では無いのかも知れません。様々な知識人達による改版による改版を繰り返していく事により、賢者の石は様々な顔を持つ究極の書物へと進化し続けています。とても素晴らしいことです」


 司書の語りが多く、そして速くなってきた。交渉が苦手だなんて…酷い冗談だ、笑えない。


「パチュリー様も賢者の石が、いえ賢者の石のみではありません。この図書館の全ての蔵書を読破する事を望んでおられるでしょう。隠さずとも、私には分かります。貴女は魔法に手を染め、それを誇りにしていらっしゃる。そのような方は知識を吸収したくてたまらない人種です。今までの方がそうであったように。

 確かに契約では、パチュリー様の知識を書にしたためて戴く事になりますが、それ以外は、今までとは変わらない生活を送ることが出来るのです。この図書館の蔵書を読み漁り、その中で何かインスピレーションが働けば、それを書にして戴き、私に提供して下されば宜しい。契約にかかる貴方の制約は、実はそれだけの事なのです。貴女は、この図書館の知識を得ることが出来、私はこの図書館に新しい知識を得ることが出来る。WIN・WINの関係です。何も問題はございません」 


 そう、かも、知れない。


「ご決断を、パチュリー様。喘息は苦しゅうございます。私も、喘息による呼吸困難で珠玉の知識が眠る貴女の脳に傷がつくのは、本意ではありません。このまま苦しみ抜いた末の死を選ぶか。仮初めの契約の元、延々と知識を吸収する充実した日々を謳歌するか。お選び下さい、パチュリー様」


 司書が羊皮紙を差し出す。

 私は羽ペンをにインクを付け、そして…




---




「こんな筈じゃあ、無かったんですけどねぇ…」


 頭を抱えながら、司書は嘆息した。その背中は、自らの企みが失敗したことを受けて丸くなっており、後ろから見ていて微笑ましい。

 私は羊皮紙の裏に、生薬の処方を書き記し、司書に手配するよう命じた。勿論、司書は何を言われたのか、さっぱり分かっていなかったようだが、羊皮紙の内容を見ると、稲妻を受けたかのように酷くうろたえた。それはそうだろう。ここの特異喘息を、ただの喘息程度にまで症状を抑える薬の処方なのだから。


「賢者の石に検閲をしておけばこんな事にならなかったのに、惜しかったわね」


 それ以前に、私の指示に従わずに薬の材料の用意をしなくても良いとは思ったのだが、


「悪魔の端くれたる物、ルールは遵守しなければならないのです」


 そう、司書は涙目で応えた。どうやら、図書館の司書として、図書館利用者が求める物は手に入れなければいけないらしい。むろん、司書の能力を超える物は用意することは出来ない。いかなる病も治す薬にしても、契約成立ごとに受注生産される大変貴重な物であるらしく、おいそれと用意出来る物ではないとか。

 そして、『検閲』も厳禁。図書館の司書が検閲を行うなど、知識に対する冒涜甚だしく、自らの首を絞めることに他ならないのだそうだ。


「まぁ、恨むならここの喘息を研究して、賢者の石に記した人物を恨みなさい」


 恐らく、司書との契約後にしたためたのだろう。あの時、タッチの差で私は賢者の石の、喘息の章まで読み進めていた。あそこに書き留めてくれていた事には感謝してもしたりない事だ。しかし、冷静に考えると、司書との契約後にわざわざここの喘息について調べるなど、よっぽどの偏屈か何かか…とにかく偏った人なのには間違いないだろう。ペンネームにも、その特徴が良く現れている。“魔界神”なんて…普通の人が考えつくネーミングではないと思うのだが。

 ともあれ、色々な意味での、急場はどうにか凌ぐことが出来た。賢者の石も、そろそろ解析が終わる。私はページを繰りつつ、重要箇所を噛み砕き、ノートに記す。そうやって量産したノートを元に、司書は一冊の本を執筆していた。

 そう、ノート貸借の契約は未だ有効だ。私としては、特に破棄する必要性のない契約であるし、実質無料でこの図書館を利用させてもらっているという負い目もないではない。


「パチュリー様。申し訳ありません。ここの解釈がちょっと分からないんですけれど…」

「…そこはよく考えなさい。教授するのは契約外よ」

「そんなぁ…」


 私としては、それでも充分噛み砕いて分かりやすく書いたつもりなのだ。そんな恨めしげに睨まないで欲しい。それに、今まで数多の高名な魔術師をタダ同然で使役していたのだ。罰として、先人が解析の為にかけた労力や手間を体験してみるというのも、悪くないのではないか。

 そのような旨の話をした所、司書は勢いよく立ち上がってこちらを見下ろした。おお、怒ってる怒ってる。


「この、魔女めぇぇ!」


 おや、ようやく悪魔らしい悪態を聞いたような気がする。それでも、その悪態が寸分違わず的を射ている事に思わず頬を緩めつつ、私は解析を続けるのだった。

 今度はもっと分かりやすくノートを書くことを心がけながら。
 パチュリーと小悪魔の関係について、某同人誌のアイデアをヒントに、自分なりに物語を紡いでみました。当初はもうちょっとブラックに書く予定だったのですが、プロットを埋めていくに従って、予想外の方向に…

 予想以上に長くなってしまった故、短文のSS以外をあまり書かない身としては色々とお見苦しい所があるかも知れません。ご指摘等ありましたらよろしくお願い致します。



「ゴホッゴホッ、何だか最近喉が痛いぜ」

「そんなことより魔理沙様、その本を読んだ方はこんな本も読んでいます」



※5/6 一部、誤字と表現を修正しました。
vol
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コメント



0.1160簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
魔理沙オワタw
こういう形ならもう少しお互いの性格がシビアでも良かったような気はしますが(小悪魔に比べてパチェが素直すぎるんだろうか)、十分面白いものでした。
4.100名前が無い程度の能力削除
いいねこの二人。お互い一筋縄じゃいかないあたりがイイ。
なんで図書館、紅魔館に移転したんやろ?
5.80名前が無い程度の能力削除
涙目で処方箋を書くアホ毛神を幻視したwww
あとで夢子さんが実力行使で反故にしたんだろーなぁ、契約。
6.90名前が無い程度の能力削除
こういう切り口は面白いね。
展開が星○一のショートショートっぽいような。
8.80名前が無い程度の能力削除
うまい。なるほどね、な作品。
いい解釈。
9.無評価誤字を見つける程度の能力削除
一か所、誤字っぽいのを発見しました。
・・・わざとだったら申し訳ないが。

>卑金属  非金属では?
10.80野狐削除
ふむふむ。なるほど。小悪魔の設定には確たるものが無いということをとったアイデアの作品ですね。発想は面白いですー。
紅魔館の書斎はパチュリーの書斎であり、ヴワル魔法図書館というのはBGM名なんですが、まぁ野暮って物ですよね。小悪魔もらしくて良いと思いました。
テンポも良いし、短いとも思えない、あっさりとした作風にも好感がもてますー。そんなに長いとは感じませんでしたよ。
賢者の石は様々な解釈のある物品なのですが、特に奇をてらうことなく卑金属を貴金属に変えるというもので分かりやすかったですね。
11.90名前が無い程度の能力削除
まさに小悪魔といった感じですね。
>卑金属  あってるよ。卑金属でぐぐってみよう。
14.100☆月柳☆削除
これはいいヴワル図書館。
面白い解釈のお話でした。
読み始めは固そうなお話しに感じたけど、何時の間にか物語りに引きこまれている自分がいました。
長さも短くもなく、長くもなく、読みやすい量だったかと。
17.70名前が無い程度の能力削除
あとがきでamazonを想像した。
19.60RYO削除
さすが喘息でも魔女!
しかし魔界神こんなとこでなにやってんだw