※前回投稿分「気持ちのスレ違い」の設定を多少引き継いでいます。
私は最強だ。
自他共に認める事実である。
幻想郷の誰もが「風見幽香」の名を聞けば震え上がる!
・・・だが一部には例外もいる。
我こそは最強と自称する輩が、他にいないわけでもないのだ。
最近これが頭痛の種になっている。
どうでもいいが、頭痛の種から咲く花はきっと美しくないのだろうな・・・
さて、私の信条を教えてあげよう。
邪魔をするものは全力で叩き潰す。
そして、見敵必殺の精神で立ち向かう。
容赦だと!?
敵に情けなどかければ、いずれ寝首をかかれるであろう!
・・・とまあ、こういうわけである。
今までは放置してきたが、そろそろ目障りだ。
最強とは、最も強いと書く。最も強いものは1人だけで良い!
向日葵の時期も終わりかけてきたし、大掃除にかかるとするか!
◇
手始めに、氷の妖精を叩き潰す。
こういうときは力の弱いものから叩くのがセオリーだ。団結して立ち向かわれると厄介だからだ。
まとまりのないうちに各個撃破する。
さて、こいつだが、妖精にしては力を持っているようだ。
そのせいで増長して「あたいったら最強ね!」などと発言している。
・・・身の程を教えてやろう!
この妖精は「⑨(まるきゅー)」と呼ばれているらしい。
どういう意味なのかはわからないが、どうやら最強であることと結びついているようだ。
つまり、この⑨の称号は、最強の証であるのだろう。
・・・なら、奪ってやる!
新聞屋の烏天狗に、「風見幽香=⑨の新事実発覚!」という見出しの記事を作らせた。
内容は任せた。見出しで充分だからだ。
近代戦略において、情報戦に勝利することは必須条件だ。
新聞というマスメディアを経由し、圧倒的な宣伝力で情報を浸透させる。
・・・これで、私は戦わずして勝てるというものだ。
効果はすぐに確認できた。
会う人会う妖怪が、「あんた⑨なんだって?」と聞いてくる。
もちろん私は、得意げに頷き認める。
やっぱりねえなどと言われるあたり、私の強さに根拠がある証拠だ。
笑いが止まらない。
チルノに会った。
泣きながら「あんたに感謝するわ!」と握手を求めてきた。
・・・ほほう。私はこいつのことを少々勘違いしていたのかもしれない。
ただのバカで無鉄砲な妖精かと思っていたが、最強の称号を奪って欲しかったのか?
無理もない。・・・最強とは常に孤独であること。
だから、寂しかったのかもしれないな・・・
かくいう私も、寂しくないわけではない。
だが、それを乗り越えなければ真に最強たることは出来ない!
だが敗者にそれを強いるのは、酷というものだ。
思いやりをこめて、こう答えてやった。
「任せなさい、私が新しい⑨になったのよ。あなたはゆっくり休むといいわ」
一戦目はあっさりと終わった。私の、完膚なきまでの勝利だ。
とはいえ、妖精相手に大人気なかっただろうか?
いまや幻想郷で、私が⑨だということを知らぬものはない。
◇
次の作戦に取り掛かる。
相手は、言わずと知れたスキマ妖怪だ。
今回の作戦では、スキマ妖怪から最強の称号を奪い、これを撃滅する。
・・・どうしようか?
さすがに攻めあぐねたのだが、突破口を見出した。
風の噂に聞けば、奴の歌があるという。
実際に取り寄せて聞いてみたが、ひたすらあの妖怪の名前を連呼し褒め称えている。「蓮子と聞いて」
・・・変な声が聞こえてきた。根をつめすぎたのだろうか?
少々疲れているようだ。最近頑張りすぎたもんなあ。
だが休んでいる暇などない。・・・この突破口を、最大限利用してやる。
そして、秘策を編み出した。
「ゆかりん」や「ゆか」となっている歌詞。
これをすべて、「ゆうかりん」と「ゆうか」で置き換える。
するとどうだろう、瞬時に私の応援ソングだ!
これを利用しない手はない。
早速、新聞経由で歌詞を流す。
同時に、ミスティアに依頼し街宣活動も行った。
しばらくして、紫がやってきた。
こいつもまた、泣きながら「ありがとう」などと言ってきたではないか。
なんだなんだ、皆喜んでばかりではないか。張り合いがないな。
・・・実はMなのか?
ちょっと背筋がぞくりとする。私にそういう趣味はないのだが・・・
一応、「どういたしまして」と言ってやる。
千年以上も生きている妖怪にしては、ひどくあっけない幕切れだ。
・・・・・・後味が悪い。私の勘違いだといいのだが。
なんだ、この奇妙な恐怖感は。
まさか。最強の私が、怯えるだと?ありえない!
◇
最強を奪う旅は続く。
幻想郷には、有名な屋敷がいくつかある。
そこの主を撃滅する。
始めに、紅魔館を強襲する。
そしてレミリアのZUN帽を奪った。
「ふぇぇぇぇん」などと泣き喚かれたうえ、グングニルを投げられた。
ついでにナイフも飛んできた。
何だあいつ、あの人間とは思えない動き・・・忠誠心の賜物か?
部下にも見習わせてやりたい。
同時に、副目標のフランドールからもZUN帽を頂いた。
・・・危うく破壊されかけた。これはさすがに危険だったか。
次の目標への移動中、妖精たちに「変態」「帽子フェチ」と言われた。
なぜだ。最強はいいが変態は嫌だ。それにフェチとはなんだ。
気がついたら妖精たちが壊乱状態に陥っていた。口は災いの元だな。
続いて、冥界に突入。
寝ている隙を突き、幽々子から三角の布を奪ってみた。
よく見たら@ではなくQと書いてあった。
偶然映姫に遭遇した。
そういえば、これでも閻魔だったな。
よし。映姫から卒塔婆のようなものを奪う。
・・・阻止され、その上説教された。
うるさいので唇を奪ったら黙った。よしよしと頭をなでてやる。
帰り際、鎌を持った何かに襲われた。あれはいったいなんだったのだろう?
竹林でしばし迷う。竹の花の導きでなんとかなったが、危ない危ない。
輝夜から「ぱそこん」なる道具を奪った。
驚いたことに、輝夜の従者たちから感謝された。薄情な奴らだ・・・
ついでに神社へ向かう。
呆れるほど、霊夢から奪えるものがなかった。
賽銭も含め、本当に何もない・・・
仕方がないので腋を出すファッションにしてみた。どうだろう。
・・・家で部下に鼻血を出された。いったいどうしたというのか・・・
◇
幻想郷の平定事業はだいたい完了した。
手元には戦利品の山が出来ている。大半がZUN帽なので、使い道がない。
・・・後で返してやるか?一度奪ったし、最強の称号はすでに私のものだろう。
最後に、魔理沙の最強を奪うことにした。
別に魔理沙が強いというわけではなく、ただ単に忘れてしまっていただけだ。
どこぞの図書館に行き、奴が本を奪っている-
そういう新聞記事を見かけた。よって、これを叩く。
方法は簡単だ。
奪われる、というのなら元を断てばよい。
私が全て奪えば、奴は持ち出せないだろう?泣いて許しを請う魔理沙が目に浮かぶ。
なので、図書館の本をごっそりと頂いてきた。
すごい量だ。部下と花を総動員して、やっと運びきれる量だ。
「もってかないでー」と言われたが、今更返す気などない。
攻撃を適当にあしらい、帰宅した。
・・・どうするか、これ。さすがに邪魔だ。多すぎる。
数日経って、部下から金髪の魔法使いが来たと報告があった。
魔理沙が来たものと思っていたら、違う。
誰だ、こいつは?
まず、服が青い。言葉遣いも違う。
・・・いや、よく考えてみろ。
負けを認めたくないがゆえに、奴が変装しているのかもしれない。
そして、油断したところを・・・
魔法使い自体希少なこの幻想郷において、金髪の魔法使いなど一人しか知らない。
だいたい、金髪の魔法使いなんてものがそうそういるものか。
しかも、こちらから名乗ってもいないのに私の名を呼んだ。
したがって、奴は自分のことをアリスと名乗っていたが、脳内で魔理沙と呼ぶことにする。
即座に看過されてしまう変装などするからだ。・・・茶番に付き合ってやるか。
魔理沙は、本を返して欲しいと言っている。いい度胸だ。
「本?なんのことかしら?」ととぼけてみせる。
魔理沙がきっと睨み付けてきた。・・・泣いている?
「ふざけないで・・・あんたがパチュリーから奪った本のことよ!返しなさい、このっ・・・泥棒!」
ちょっと剣幕が怖いな・・・
だが、なんと言われようと最強の称号を渡すつもりはない。ふん、言わせておけばいいさ。
「そうねえ、私は本を奪った。認めてあげるわ」
「・・・あんたのせいでパチュリーは寝込んでしまった。許せない・・・許せない!」
なんだ?・・・すごい魔力だ。
面白い。魔理沙、やる気か?
「ふふっ、すぐ熱くなるのね・・・まあ、条件つきで返してあげないこともないけど」
でも怪我したら嫌だ。今日はそんな気分じゃない。
「条件ですって・・・!人のものを奪って、めちゃくちゃにして!・・・この恥知らず!!あんたなんか絶対に許さない!!・・・・・・覚悟しなさい!」
おや、これは・・・人形?
こっちに飛ばしてきた。こいつを使うのか?
奴はこんな魔法も使えるのか・・・知らなかった。てっきりパクリスパークを打ってくると構えていたのだが。
と、感心している場合ではない。
まずいな、この魔力の量は半端ではない・・・!
これでは攻撃した自分もただでは済まないはずだ。
最悪、魔力のオーバーフローで死に至る。
・・・・・・正気か!?
何とか切り抜けなくては・・・
・・・・・・
「あら。いいのかしら?私を攻撃してしまって、ねえ?」
「な、何が言いたいの・・・?!」
・・・よし。手ごたえを確認できた。魔力もしぼんでいる。
慎重に進まないと、思わぬ地雷を踏む。
「私を攻撃したら、本も全て消えてしまうわよ。・・・そういう仕組みにしたの」
嘘をついてみる。
「う、・・・嘘だ。はったりだ・・・!!」
ちっ。聞き分けのない奴だ。
「なら、来てみなさい。・・・あーあ、私は無事でも本が残念なことになっちゃうわねえ。ねえ?くすくすくす」
嘘は、矛盾を生み出さないこと、信憑性を持たせることが重要だ。
「こ、このっ・・・!まだ嘘をつく・・・!」
魔理沙の動揺が手に取るようにわかる。
「アリス、と言ったかしら。・・・あなた、最強なんでしょう?その称号を私に寄越しなさい。そしたら返してあげる」
そして、逃げ道を作ってやる。
ここにいるのは、「霧雨魔理沙」ではなく、奴が変装した「アリス」という存在なのだろう。
その存在に負けを認めさせる。
・・・これで、奴は穏便にかつ紳士的に、最強の称号を引き渡すことが出来るだろう。
窮鼠猫を噛む、と言う。逃げ道を作ってやればそこへ逃げ込むものだ。
下手に追い詰めて、やけどでもしたらつまらない。
「何を言うのかと思えば・・・最強?最強の称号ですって?!・・・・・・私が最強なわけがないじゃない・・・!」
感触・・・あり、か?
遠い目をしているな。だが、油断させているだけとも取れる。
「以前、大切な人を・・・裏切ってしまった。・・・許してもらった。だけど、それは・・・・・・自分の罪が、消えることを意味するわけじゃない」
・・・家出の話か?
確か親に勘当されたと聞くが。許されたのか、それは良かった。
「だから、だからっ・・・私が最強であるはずがない!そんなものいらない・・・欲しいならくれてやる!!」
ふーむ、最強ではないと言い切ったな。どういうことだ・・・?
「お願いだからぁ・・・返してよ、パチュリーの本を・・・・・・ううっ・・・パチュリーは、・・・私の大切な人なのよ・・・返してよ・・・」
ようし、交渉成立だな。
「わかったわ。・・・そこの部屋にある。勝手に持っていきなさい」
正直危なかった。
顔から脂汗を出さないようにするので精一杯だ。
この脇のあいた服のお陰で、汗が滲まなかったのが救いだ。
滲んでいたら、緊張を気取られることにもなりかねない。
そうしたらすべてご破算だ。死闘が始まる。
魔理沙は、一歩も譲らない姿勢を見せていた。
自分の死すら厭わない・・・そんな必死さが見て取れる。決死の覚悟があったのだろう。
魔理沙にあそこまでこだわるものがあるとは思わなかった。要注意だ。
・・・ああ、穏便に済んでよかった。
フラワーマスターも楽ではないな。
しかしまあ、こういう結末になったとはいえ、私の戦略は素晴らしい。
思えば、数多くの猛者が私の戦略の前に散っていった。
手元にはもてあますほどの最強がある。
・・・
・・・・・・なんだか、つまらないな。
・・・・・・こんなものなのか。
最強というのは人に認めさせるもの。だったら、私がつまらなくても。
・・・仕方ないか。
「これで、全部かしら・・・?嘘をついていたら、容赦はしない」
魔理沙か。警戒しているな。
「大丈夫。フラワーマスターは嘘を吐かないわ。・・・わかったらさっさと行きなさい」
早く帰ってくれ。
「覚悟しなさい・・・!!私は、あんたを許しはしない!もし嘘を吐いていたら」
帰ってください。
「くどいわね。さっさと行きなさい。・・・でないと、本燃やしちゃうわよー?」
意地悪く笑う。あまりこういうやりかたは好きではないが、さっさと追い払いたい。
ていうか、帰れって!
「くっ・・・」
・・・ようやく行ったか。あれだけの本、よく持っていったな。
よく見れば人形に持たせているのか・・・孤独な奴だ。
もしかしたら、私が本を奪った相手は、奴のかけがえのない友人だったのかもしれんな。
そんなに情に篤いようじゃ、最強はまだまだ遠い。
・・・疲れた。寝るか。
これだけの最強を手に入れたのだ。今日は良く眠れるといいな。
・・・・・・おやすみ、皆。つき合せて悪かったわね・・・
・・・あ、服着替え忘れた・・・まあいいか・・・・・・
◇
ヴワル魔法図書館では、大騒動が起こっている。
アリスが取り戻した本をメイド総動員で本棚に詰めているのだ。
その量はあまりにも多い。しかもこれを整理して詰め直すとなると、並大抵の煩雑さではない。
小悪魔曰く、「蔵書チェックもできてちょうど良かった!」ということだったが、メイドたちはたまったものではない。
寝込んでいるパチュリーに変わり、アリス、咲夜、小悪魔の指揮で整理に当たっている。
終わる見通しは全く立っていない。
ちなみに、まだパチュリーは本が帰ってきたことを知らない。
と言うのも-
まさに戦場と化した図書館に、小さな人影が入ってきた。
「・・・あら、お嬢様。パチュリー様のほうはもうよろしいのですか?」
レミリアに気付いて声をかける咲夜。
すでにZUN帽は戻っている。
「ああ。まだ駄目よ。あれは私じゃ駄目ね・・・とーいうわけでそこのアリス!」
くるっと向き直る。
「あ、レミリア。・・・あんた何しに来たの?」
「随分な言われようね。・・・ほれ、さっさとパチェのところへ行け!」
しっしと手を振るレミリア。
そして、アリスの姿がいきなり消えた。
「え・・・ええー!?・・・アリスさんが消えた!?」
小悪魔、驚く。慣れていないのだ。
「私が運びました。うじうじされても面倒なので、ね」
時止めの張本人がにこやかに笑う。
レミリアが親指を立てる。もちろん上に。
「咲夜、グッジョブね。・・・あなたたちは引き続き作業に戻りなさい」
にこやかな笑みのまま、咲夜。
「はて。それでは、お嬢様はいかがなさいますか?」
同じくにこやかになり、返すレミリア。
「・・・・・・ふっ。見物にきまっているでしょ?・・・後学のためよ」
にこやかな笑みのまま、左に10度ほど首を傾け、咲夜。
「お嬢様の忠実な従者がお供いたします。・・・それこそ、時を止めてでも」
親指が下を向いた。
◇
気がついたらパチュリーの部屋にいた。
一瞬にして景色が切り替わるというのは、不気味なものだ。
・・・何が起きたんだろう?
そういう考えは、パチュリーの姿を見て止まった。
ベッドに寝ている彼女は、起きていた。
そして、こちらを見ている-
「あ、アリス・・・」
目に、驚きや嬉しさが表れている。
「・・・パチュリー、本は取り返したわ。・・・あのフラワーマスターから」
歩み寄りながら告げる。
急に、パチュリーが怒り出す。
「・・・と、取り返したですって!?・・・・・・バカ!」
「えっ・・・?」
歩みが止まる。
何かまずかったのだろうか・・・?
「あの妖怪は、幻想郷の中でもトップレベルに危険なのよ・・・!もし戦うことになれば、容赦なく、命を奪うまでやりつづける・・・!!あなたはそういう危険性を理解していたの!?」
昔の話だ。
だが、必要とあれば今でもやる。
過去に、とある事情で襲われた経験がある。アリスも覚えていた。
「そ、そんな・・・私、そういうつもりじゃ・・・・・・」
パチュリーの怒りは収まらない。
「あなたと私、二人がかりで戦っても勝ち目はないの・・・!一歩間違えれば、死んでいたのよ!?」
本気にさせれば、の話ではあるが、本当だった。
実物に会い、妖力を実際に感じてみればわかることだ。
・・・幽香は、恐ろしいほど強い。
「・・・あなたのためなら。命なんてっ・・・惜しくない・・・!」
これは本当だ。
図書館の防備が完全に壊滅させられていたのを見て、正直勝てるのか不安ではあった。
それでも、やりかえさないと気がすまない。
・・・パチュリーが倒れたと聞いたから。
「だからって・・・!一人で行くことないじゃない!もしあなたがやられたら・・・私はっ・・・・・・!」
布団をつかむ手に、力が篭る。多少涙が浮いているようにも見える。
実際、本を取り返せたのは運が良かったからだろう。
・・・生半可な覚悟であれば。幽香が本気になっていたら。やられていた可能性は高い。
アリスも理解した。なぜ、怒られているのか。
「ごめん・・・考えていなかったわ。・・・・・・また迷惑をかけて、ごめんなさい・・・」
これ以上、言葉は必要ない。だから、パチュリーの背中で腕を組み、引き寄せた。
「わかってくれれば・・・いいの。だから、無茶をしないで・・・・・・一人では、ないんだから・・・」
「・・・・・・ありがとう・・・」
窓から見える空には、綺麗な星が輝いていた。
◇
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・放しなさい、咲夜」
「いいえ、謹んでお断りいたします」
結局、レミリアと咲夜は覗きをしていた。
その後、あろうことかレミリアが部屋に突入しようとした。
なんでも、「テンポが遅いから活を入れてやる」とかなんとか。
いったい何を期待しているのでしょう?
そして、レミリアを羽交い絞めにした咲夜。
瀟洒な従者としては、覗きをしていることが露見するなど死活問題である。
次の日からピープ長、出歯亀咲夜などと呼ばれること請け合いだ。
かろうじて咲夜のほうが体格的に有利なため、ずりずりと部屋から離れていた。
・・・だが、吸血鬼の筋力はすさまじい。油断すればふりほどかれるだろう。
そんな2人を戦々恐々として見守る小悪魔。
別に覗かなくてもどうなるかわかるからいいのだが、ぶち壊しにされないかそれだけが気がかりだった。
咲夜に加勢したい。しかしどうすればいいのかわからない。
力も、能力も及ばないからだ。
ならば、知識で・・・!
「そういえばレミリア様。この間霊夢さんがやらないかって言ってましたよ?」
何をだ。即座に、心の中で突っ込むメイド長。
「なななな何!?霊夢が!いつ?!」
「はあ。昨日ですね、ご存じないと思いますが」
「おおおおおおおおおお!ついにこの日が来た!!待っていなさい霊夢、すぐ行くわ!!!」
あっという間に咲夜を振りほどき、飛び出すレミリア。
すぐに見えなくなった。
「小悪魔。・・・嘘をついたわね?」
やれやれと言う感じで咲夜。
「とぉころが。嘘じゃないんですよー?・・・弾幕勝負ですけどね?」
言葉は便利である。取りようによってはどうにでもなる。
「・・・あ、そう。・・・後始末がやっかいだわ」
「そうですねえ・・・」
小悪魔は満足している。後でレミリアにお仕置きされるだろうが。
主人の幸せを守り通した。それでいいのだ。
だが、安心するためには、もう一つ懸念事項を片付けなければならない。
「おーい、今晩も本を借りに来てやったぜー」
それが来た。
「・・・咲夜さん・・・あれ、やっちゃいましょう」
「・・・先に気晴らしというのも、悪くないわね」
「おや?どうしたんだお前ら。こんなとこにいるなんて珍しいなー」
震える小悪魔。・・・もともとの元凶は、こいつだ。
「お前は・・・」
咲夜が後をつぐ。
・・・その瞳は、すでに赤い。
「お呼びでない!」
殺人ドールが輝く。
夜空に、星が一つ増えた。
◇
「師匠?・・・なんで素振りなんかしてるんですか。危ないですよ」
「あらうどんげ・・・何でって、パソコン叩き壊してるだけよ」
私は最強だ。
自他共に認める事実である。
幻想郷の誰もが「風見幽香」の名を聞けば震え上がる!
・・・だが一部には例外もいる。
我こそは最強と自称する輩が、他にいないわけでもないのだ。
最近これが頭痛の種になっている。
どうでもいいが、頭痛の種から咲く花はきっと美しくないのだろうな・・・
さて、私の信条を教えてあげよう。
邪魔をするものは全力で叩き潰す。
そして、見敵必殺の精神で立ち向かう。
容赦だと!?
敵に情けなどかければ、いずれ寝首をかかれるであろう!
・・・とまあ、こういうわけである。
今までは放置してきたが、そろそろ目障りだ。
最強とは、最も強いと書く。最も強いものは1人だけで良い!
向日葵の時期も終わりかけてきたし、大掃除にかかるとするか!
◇
手始めに、氷の妖精を叩き潰す。
こういうときは力の弱いものから叩くのがセオリーだ。団結して立ち向かわれると厄介だからだ。
まとまりのないうちに各個撃破する。
さて、こいつだが、妖精にしては力を持っているようだ。
そのせいで増長して「あたいったら最強ね!」などと発言している。
・・・身の程を教えてやろう!
この妖精は「⑨(まるきゅー)」と呼ばれているらしい。
どういう意味なのかはわからないが、どうやら最強であることと結びついているようだ。
つまり、この⑨の称号は、最強の証であるのだろう。
・・・なら、奪ってやる!
新聞屋の烏天狗に、「風見幽香=⑨の新事実発覚!」という見出しの記事を作らせた。
内容は任せた。見出しで充分だからだ。
近代戦略において、情報戦に勝利することは必須条件だ。
新聞というマスメディアを経由し、圧倒的な宣伝力で情報を浸透させる。
・・・これで、私は戦わずして勝てるというものだ。
効果はすぐに確認できた。
会う人会う妖怪が、「あんた⑨なんだって?」と聞いてくる。
もちろん私は、得意げに頷き認める。
やっぱりねえなどと言われるあたり、私の強さに根拠がある証拠だ。
笑いが止まらない。
チルノに会った。
泣きながら「あんたに感謝するわ!」と握手を求めてきた。
・・・ほほう。私はこいつのことを少々勘違いしていたのかもしれない。
ただのバカで無鉄砲な妖精かと思っていたが、最強の称号を奪って欲しかったのか?
無理もない。・・・最強とは常に孤独であること。
だから、寂しかったのかもしれないな・・・
かくいう私も、寂しくないわけではない。
だが、それを乗り越えなければ真に最強たることは出来ない!
だが敗者にそれを強いるのは、酷というものだ。
思いやりをこめて、こう答えてやった。
「任せなさい、私が新しい⑨になったのよ。あなたはゆっくり休むといいわ」
一戦目はあっさりと終わった。私の、完膚なきまでの勝利だ。
とはいえ、妖精相手に大人気なかっただろうか?
いまや幻想郷で、私が⑨だということを知らぬものはない。
◇
次の作戦に取り掛かる。
相手は、言わずと知れたスキマ妖怪だ。
今回の作戦では、スキマ妖怪から最強の称号を奪い、これを撃滅する。
・・・どうしようか?
さすがに攻めあぐねたのだが、突破口を見出した。
風の噂に聞けば、奴の歌があるという。
実際に取り寄せて聞いてみたが、ひたすらあの妖怪の名前を連呼し褒め称えている。「蓮子と聞いて」
・・・変な声が聞こえてきた。根をつめすぎたのだろうか?
少々疲れているようだ。最近頑張りすぎたもんなあ。
だが休んでいる暇などない。・・・この突破口を、最大限利用してやる。
そして、秘策を編み出した。
「ゆかりん」や「ゆか」となっている歌詞。
これをすべて、「ゆうかりん」と「ゆうか」で置き換える。
するとどうだろう、瞬時に私の応援ソングだ!
これを利用しない手はない。
早速、新聞経由で歌詞を流す。
同時に、ミスティアに依頼し街宣活動も行った。
しばらくして、紫がやってきた。
こいつもまた、泣きながら「ありがとう」などと言ってきたではないか。
なんだなんだ、皆喜んでばかりではないか。張り合いがないな。
・・・実はMなのか?
ちょっと背筋がぞくりとする。私にそういう趣味はないのだが・・・
一応、「どういたしまして」と言ってやる。
千年以上も生きている妖怪にしては、ひどくあっけない幕切れだ。
・・・・・・後味が悪い。私の勘違いだといいのだが。
なんだ、この奇妙な恐怖感は。
まさか。最強の私が、怯えるだと?ありえない!
◇
最強を奪う旅は続く。
幻想郷には、有名な屋敷がいくつかある。
そこの主を撃滅する。
始めに、紅魔館を強襲する。
そしてレミリアのZUN帽を奪った。
「ふぇぇぇぇん」などと泣き喚かれたうえ、グングニルを投げられた。
ついでにナイフも飛んできた。
何だあいつ、あの人間とは思えない動き・・・忠誠心の賜物か?
部下にも見習わせてやりたい。
同時に、副目標のフランドールからもZUN帽を頂いた。
・・・危うく破壊されかけた。これはさすがに危険だったか。
次の目標への移動中、妖精たちに「変態」「帽子フェチ」と言われた。
なぜだ。最強はいいが変態は嫌だ。それにフェチとはなんだ。
気がついたら妖精たちが壊乱状態に陥っていた。口は災いの元だな。
続いて、冥界に突入。
寝ている隙を突き、幽々子から三角の布を奪ってみた。
よく見たら@ではなくQと書いてあった。
偶然映姫に遭遇した。
そういえば、これでも閻魔だったな。
よし。映姫から卒塔婆のようなものを奪う。
・・・阻止され、その上説教された。
うるさいので唇を奪ったら黙った。よしよしと頭をなでてやる。
帰り際、鎌を持った何かに襲われた。あれはいったいなんだったのだろう?
竹林でしばし迷う。竹の花の導きでなんとかなったが、危ない危ない。
輝夜から「ぱそこん」なる道具を奪った。
驚いたことに、輝夜の従者たちから感謝された。薄情な奴らだ・・・
ついでに神社へ向かう。
呆れるほど、霊夢から奪えるものがなかった。
賽銭も含め、本当に何もない・・・
仕方がないので腋を出すファッションにしてみた。どうだろう。
・・・家で部下に鼻血を出された。いったいどうしたというのか・・・
◇
幻想郷の平定事業はだいたい完了した。
手元には戦利品の山が出来ている。大半がZUN帽なので、使い道がない。
・・・後で返してやるか?一度奪ったし、最強の称号はすでに私のものだろう。
最後に、魔理沙の最強を奪うことにした。
別に魔理沙が強いというわけではなく、ただ単に忘れてしまっていただけだ。
どこぞの図書館に行き、奴が本を奪っている-
そういう新聞記事を見かけた。よって、これを叩く。
方法は簡単だ。
奪われる、というのなら元を断てばよい。
私が全て奪えば、奴は持ち出せないだろう?泣いて許しを請う魔理沙が目に浮かぶ。
なので、図書館の本をごっそりと頂いてきた。
すごい量だ。部下と花を総動員して、やっと運びきれる量だ。
「もってかないでー」と言われたが、今更返す気などない。
攻撃を適当にあしらい、帰宅した。
・・・どうするか、これ。さすがに邪魔だ。多すぎる。
数日経って、部下から金髪の魔法使いが来たと報告があった。
魔理沙が来たものと思っていたら、違う。
誰だ、こいつは?
まず、服が青い。言葉遣いも違う。
・・・いや、よく考えてみろ。
負けを認めたくないがゆえに、奴が変装しているのかもしれない。
そして、油断したところを・・・
魔法使い自体希少なこの幻想郷において、金髪の魔法使いなど一人しか知らない。
だいたい、金髪の魔法使いなんてものがそうそういるものか。
しかも、こちらから名乗ってもいないのに私の名を呼んだ。
したがって、奴は自分のことをアリスと名乗っていたが、脳内で魔理沙と呼ぶことにする。
即座に看過されてしまう変装などするからだ。・・・茶番に付き合ってやるか。
魔理沙は、本を返して欲しいと言っている。いい度胸だ。
「本?なんのことかしら?」ととぼけてみせる。
魔理沙がきっと睨み付けてきた。・・・泣いている?
「ふざけないで・・・あんたがパチュリーから奪った本のことよ!返しなさい、このっ・・・泥棒!」
ちょっと剣幕が怖いな・・・
だが、なんと言われようと最強の称号を渡すつもりはない。ふん、言わせておけばいいさ。
「そうねえ、私は本を奪った。認めてあげるわ」
「・・・あんたのせいでパチュリーは寝込んでしまった。許せない・・・許せない!」
なんだ?・・・すごい魔力だ。
面白い。魔理沙、やる気か?
「ふふっ、すぐ熱くなるのね・・・まあ、条件つきで返してあげないこともないけど」
でも怪我したら嫌だ。今日はそんな気分じゃない。
「条件ですって・・・!人のものを奪って、めちゃくちゃにして!・・・この恥知らず!!あんたなんか絶対に許さない!!・・・・・・覚悟しなさい!」
おや、これは・・・人形?
こっちに飛ばしてきた。こいつを使うのか?
奴はこんな魔法も使えるのか・・・知らなかった。てっきりパクリスパークを打ってくると構えていたのだが。
と、感心している場合ではない。
まずいな、この魔力の量は半端ではない・・・!
これでは攻撃した自分もただでは済まないはずだ。
最悪、魔力のオーバーフローで死に至る。
・・・・・・正気か!?
何とか切り抜けなくては・・・
・・・・・・
「あら。いいのかしら?私を攻撃してしまって、ねえ?」
「な、何が言いたいの・・・?!」
・・・よし。手ごたえを確認できた。魔力もしぼんでいる。
慎重に進まないと、思わぬ地雷を踏む。
「私を攻撃したら、本も全て消えてしまうわよ。・・・そういう仕組みにしたの」
嘘をついてみる。
「う、・・・嘘だ。はったりだ・・・!!」
ちっ。聞き分けのない奴だ。
「なら、来てみなさい。・・・あーあ、私は無事でも本が残念なことになっちゃうわねえ。ねえ?くすくすくす」
嘘は、矛盾を生み出さないこと、信憑性を持たせることが重要だ。
「こ、このっ・・・!まだ嘘をつく・・・!」
魔理沙の動揺が手に取るようにわかる。
「アリス、と言ったかしら。・・・あなた、最強なんでしょう?その称号を私に寄越しなさい。そしたら返してあげる」
そして、逃げ道を作ってやる。
ここにいるのは、「霧雨魔理沙」ではなく、奴が変装した「アリス」という存在なのだろう。
その存在に負けを認めさせる。
・・・これで、奴は穏便にかつ紳士的に、最強の称号を引き渡すことが出来るだろう。
窮鼠猫を噛む、と言う。逃げ道を作ってやればそこへ逃げ込むものだ。
下手に追い詰めて、やけどでもしたらつまらない。
「何を言うのかと思えば・・・最強?最強の称号ですって?!・・・・・・私が最強なわけがないじゃない・・・!」
感触・・・あり、か?
遠い目をしているな。だが、油断させているだけとも取れる。
「以前、大切な人を・・・裏切ってしまった。・・・許してもらった。だけど、それは・・・・・・自分の罪が、消えることを意味するわけじゃない」
・・・家出の話か?
確か親に勘当されたと聞くが。許されたのか、それは良かった。
「だから、だからっ・・・私が最強であるはずがない!そんなものいらない・・・欲しいならくれてやる!!」
ふーむ、最強ではないと言い切ったな。どういうことだ・・・?
「お願いだからぁ・・・返してよ、パチュリーの本を・・・・・・ううっ・・・パチュリーは、・・・私の大切な人なのよ・・・返してよ・・・」
ようし、交渉成立だな。
「わかったわ。・・・そこの部屋にある。勝手に持っていきなさい」
正直危なかった。
顔から脂汗を出さないようにするので精一杯だ。
この脇のあいた服のお陰で、汗が滲まなかったのが救いだ。
滲んでいたら、緊張を気取られることにもなりかねない。
そうしたらすべてご破算だ。死闘が始まる。
魔理沙は、一歩も譲らない姿勢を見せていた。
自分の死すら厭わない・・・そんな必死さが見て取れる。決死の覚悟があったのだろう。
魔理沙にあそこまでこだわるものがあるとは思わなかった。要注意だ。
・・・ああ、穏便に済んでよかった。
フラワーマスターも楽ではないな。
しかしまあ、こういう結末になったとはいえ、私の戦略は素晴らしい。
思えば、数多くの猛者が私の戦略の前に散っていった。
手元にはもてあますほどの最強がある。
・・・
・・・・・・なんだか、つまらないな。
・・・・・・こんなものなのか。
最強というのは人に認めさせるもの。だったら、私がつまらなくても。
・・・仕方ないか。
「これで、全部かしら・・・?嘘をついていたら、容赦はしない」
魔理沙か。警戒しているな。
「大丈夫。フラワーマスターは嘘を吐かないわ。・・・わかったらさっさと行きなさい」
早く帰ってくれ。
「覚悟しなさい・・・!!私は、あんたを許しはしない!もし嘘を吐いていたら」
帰ってください。
「くどいわね。さっさと行きなさい。・・・でないと、本燃やしちゃうわよー?」
意地悪く笑う。あまりこういうやりかたは好きではないが、さっさと追い払いたい。
ていうか、帰れって!
「くっ・・・」
・・・ようやく行ったか。あれだけの本、よく持っていったな。
よく見れば人形に持たせているのか・・・孤独な奴だ。
もしかしたら、私が本を奪った相手は、奴のかけがえのない友人だったのかもしれんな。
そんなに情に篤いようじゃ、最強はまだまだ遠い。
・・・疲れた。寝るか。
これだけの最強を手に入れたのだ。今日は良く眠れるといいな。
・・・・・・おやすみ、皆。つき合せて悪かったわね・・・
・・・あ、服着替え忘れた・・・まあいいか・・・・・・
◇
ヴワル魔法図書館では、大騒動が起こっている。
アリスが取り戻した本をメイド総動員で本棚に詰めているのだ。
その量はあまりにも多い。しかもこれを整理して詰め直すとなると、並大抵の煩雑さではない。
小悪魔曰く、「蔵書チェックもできてちょうど良かった!」ということだったが、メイドたちはたまったものではない。
寝込んでいるパチュリーに変わり、アリス、咲夜、小悪魔の指揮で整理に当たっている。
終わる見通しは全く立っていない。
ちなみに、まだパチュリーは本が帰ってきたことを知らない。
と言うのも-
まさに戦場と化した図書館に、小さな人影が入ってきた。
「・・・あら、お嬢様。パチュリー様のほうはもうよろしいのですか?」
レミリアに気付いて声をかける咲夜。
すでにZUN帽は戻っている。
「ああ。まだ駄目よ。あれは私じゃ駄目ね・・・とーいうわけでそこのアリス!」
くるっと向き直る。
「あ、レミリア。・・・あんた何しに来たの?」
「随分な言われようね。・・・ほれ、さっさとパチェのところへ行け!」
しっしと手を振るレミリア。
そして、アリスの姿がいきなり消えた。
「え・・・ええー!?・・・アリスさんが消えた!?」
小悪魔、驚く。慣れていないのだ。
「私が運びました。うじうじされても面倒なので、ね」
時止めの張本人がにこやかに笑う。
レミリアが親指を立てる。もちろん上に。
「咲夜、グッジョブね。・・・あなたたちは引き続き作業に戻りなさい」
にこやかな笑みのまま、咲夜。
「はて。それでは、お嬢様はいかがなさいますか?」
同じくにこやかになり、返すレミリア。
「・・・・・・ふっ。見物にきまっているでしょ?・・・後学のためよ」
にこやかな笑みのまま、左に10度ほど首を傾け、咲夜。
「お嬢様の忠実な従者がお供いたします。・・・それこそ、時を止めてでも」
親指が下を向いた。
◇
気がついたらパチュリーの部屋にいた。
一瞬にして景色が切り替わるというのは、不気味なものだ。
・・・何が起きたんだろう?
そういう考えは、パチュリーの姿を見て止まった。
ベッドに寝ている彼女は、起きていた。
そして、こちらを見ている-
「あ、アリス・・・」
目に、驚きや嬉しさが表れている。
「・・・パチュリー、本は取り返したわ。・・・あのフラワーマスターから」
歩み寄りながら告げる。
急に、パチュリーが怒り出す。
「・・・と、取り返したですって!?・・・・・・バカ!」
「えっ・・・?」
歩みが止まる。
何かまずかったのだろうか・・・?
「あの妖怪は、幻想郷の中でもトップレベルに危険なのよ・・・!もし戦うことになれば、容赦なく、命を奪うまでやりつづける・・・!!あなたはそういう危険性を理解していたの!?」
昔の話だ。
だが、必要とあれば今でもやる。
過去に、とある事情で襲われた経験がある。アリスも覚えていた。
「そ、そんな・・・私、そういうつもりじゃ・・・・・・」
パチュリーの怒りは収まらない。
「あなたと私、二人がかりで戦っても勝ち目はないの・・・!一歩間違えれば、死んでいたのよ!?」
本気にさせれば、の話ではあるが、本当だった。
実物に会い、妖力を実際に感じてみればわかることだ。
・・・幽香は、恐ろしいほど強い。
「・・・あなたのためなら。命なんてっ・・・惜しくない・・・!」
これは本当だ。
図書館の防備が完全に壊滅させられていたのを見て、正直勝てるのか不安ではあった。
それでも、やりかえさないと気がすまない。
・・・パチュリーが倒れたと聞いたから。
「だからって・・・!一人で行くことないじゃない!もしあなたがやられたら・・・私はっ・・・・・・!」
布団をつかむ手に、力が篭る。多少涙が浮いているようにも見える。
実際、本を取り返せたのは運が良かったからだろう。
・・・生半可な覚悟であれば。幽香が本気になっていたら。やられていた可能性は高い。
アリスも理解した。なぜ、怒られているのか。
「ごめん・・・考えていなかったわ。・・・・・・また迷惑をかけて、ごめんなさい・・・」
これ以上、言葉は必要ない。だから、パチュリーの背中で腕を組み、引き寄せた。
「わかってくれれば・・・いいの。だから、無茶をしないで・・・・・・一人では、ないんだから・・・」
「・・・・・・ありがとう・・・」
窓から見える空には、綺麗な星が輝いていた。
◇
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・放しなさい、咲夜」
「いいえ、謹んでお断りいたします」
結局、レミリアと咲夜は覗きをしていた。
その後、あろうことかレミリアが部屋に突入しようとした。
なんでも、「テンポが遅いから活を入れてやる」とかなんとか。
いったい何を期待しているのでしょう?
そして、レミリアを羽交い絞めにした咲夜。
瀟洒な従者としては、覗きをしていることが露見するなど死活問題である。
次の日からピープ長、出歯亀咲夜などと呼ばれること請け合いだ。
かろうじて咲夜のほうが体格的に有利なため、ずりずりと部屋から離れていた。
・・・だが、吸血鬼の筋力はすさまじい。油断すればふりほどかれるだろう。
そんな2人を戦々恐々として見守る小悪魔。
別に覗かなくてもどうなるかわかるからいいのだが、ぶち壊しにされないかそれだけが気がかりだった。
咲夜に加勢したい。しかしどうすればいいのかわからない。
力も、能力も及ばないからだ。
ならば、知識で・・・!
「そういえばレミリア様。この間霊夢さんがやらないかって言ってましたよ?」
何をだ。即座に、心の中で突っ込むメイド長。
「なななな何!?霊夢が!いつ?!」
「はあ。昨日ですね、ご存じないと思いますが」
「おおおおおおおおおお!ついにこの日が来た!!待っていなさい霊夢、すぐ行くわ!!!」
あっという間に咲夜を振りほどき、飛び出すレミリア。
すぐに見えなくなった。
「小悪魔。・・・嘘をついたわね?」
やれやれと言う感じで咲夜。
「とぉころが。嘘じゃないんですよー?・・・弾幕勝負ですけどね?」
言葉は便利である。取りようによってはどうにでもなる。
「・・・あ、そう。・・・後始末がやっかいだわ」
「そうですねえ・・・」
小悪魔は満足している。後でレミリアにお仕置きされるだろうが。
主人の幸せを守り通した。それでいいのだ。
だが、安心するためには、もう一つ懸念事項を片付けなければならない。
「おーい、今晩も本を借りに来てやったぜー」
それが来た。
「・・・咲夜さん・・・あれ、やっちゃいましょう」
「・・・先に気晴らしというのも、悪くないわね」
「おや?どうしたんだお前ら。こんなとこにいるなんて珍しいなー」
震える小悪魔。・・・もともとの元凶は、こいつだ。
「お前は・・・」
咲夜が後をつぐ。
・・・その瞳は、すでに赤い。
「お呼びでない!」
殺人ドールが輝く。
夜空に、星が一つ増えた。
◇
「師匠?・・・なんで素振りなんかしてるんですか。危ないですよ」
「あらうどんげ・・・何でって、パソコン叩き壊してるだけよ」