Coolier - 新生・東方創想話

約束のために…

2014/03/12 12:36:50
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日差しが眩しい夏。今日は何となくのんびりしたい気分だと思い、霍青娥はさして広くもない道を歩く。もっとも歩くと言うよりは漂っているのだが。
彼女は仙人であるが、今日は人間との約束がある。その場所へ向かう最中だった。

しばらく道を進むと、とある小さな店の前に一人の少女が立っていた。

「青娥さーーん!」

元気な声で青娥を呼ぶ声には少し怒りが混ざってた。
「早いわね芳香。どうしたのかしら?」

青娥の悪意のない言葉が更に芳香を怒らせた。

「どうしたのかしら? じゃないですよ!巳の刻とっくに過ぎてますよ!」

少しずつ怒りが露になっていく様子を見て青娥はまずいと感じた。芳香は怒ると少しばかり面倒くさいのである。この前も芳香の団子を食べて怒られたばかりであった。

「まぁそう怒らないで。今日は良い物を持ってきたの」

そう言うと青娥は芳香の頭に青い帽子を乗せた。星のマークが付いた可愛い(青娥の感覚で)帽子だった。通り道の店に置いてあって似合うと思い買ってきたのだ。

「どうしたんですか?これ」

「ん~、家に置いてあってね。捨てるのも面倒くさいからあげるわ」

問う芳香に青娥は嘘を吐く。あんまり威厳がないと付いて来るものも付いて来ない。唯、こんなわかりやすい嘘を彼女は信じるのだろうか。

「捨てるなんて勿体無いですからね。使わせてもらいます」

さっきの怒りは何処へ行ったのか、満面の笑みを浮かべ帽子をかぶり直す。信じたのだろうか、それとも青娥の嘘がバレたのだろうか。芳香は何も言わずに歩き出した。青娥もまた、それを追う。しばらくは他愛もない話をしてたのだが、ふと、青娥は思い出したように話をしだした。

「今日は何であそこで待ち合わせたのかしら?いつもなら普通に家にきてくれるのに」

芳香は少し恥ずかしがるように答えた。

「青娥さんのお家行きづらいじゃないですか。いつも迷うんですよ。それに今日はこの先に見せたいところがあるんです。私のお気に入りの場所なんですよ。本当は誰にも秘密なんですけど、青娥さんにはお世話になってますから」

正直青娥はそんな所に連れて行っていいのかと思う。仮にも青娥は仙人。自分の益になることは何でもしてしまうかもしれない。そのことは初めて会った時に伝えたはずだ。

だが芳香はそんな心配は全く関係ないといった様に歩いて行く。しばらく歩くと少し高度のある丘の上に着いた。

丘の上から見る景色に青娥は息を呑んだ。彼女は今までいろんな景色を見てきたが、此処はその中でもかなり良い景色だった。

霧が漂う中、何も建物がないお陰で綺麗に水面に空が映る湖。普段はなんとも思わない鬼と天狗が暮らす山は鮮やかな緑がその形を彩っていた。遠くに見えるまだ真新しい神社はこの世界を見渡せる位置にあり、その風格を崩さなかった。

「すごいと思いませんか?この狭い世界が一気に見ることができるんです」

「ええ、そうね。とてもいい場所だわ」

問われたことに対し、今度は正直に答えた。芳香はえへへっと頭を掻いた。
「でもよく見つけたわねこんなところ。それに道中は危険じゃないかしら?貴方は人間なのだからもっと周りを警戒しないと食べられるわよ?」

彼女が死んでしまっては布教もしづらくなってしまう。下心はあるが純粋に心配しているところもあるのだ。

「そうですね。でも神社の巫女さんに魔除けの御札も貰いましたから」

芳香は袖の中から札を出してひらひらと見せる。その札はきちんとした札だった。

しばらくは此処にいてもいいだろうと青娥は判断した。

「戻るのも面倒だし今日は此処ででもいいかしら?」

青娥の、質問に芳香ははっきりと返事をした。

「よろしくお願いします先生!」

返事を聞いて青娥は芳香に布教を始めた。芳香は楽しそうに、そしてとても真剣に青娥の話を聞いた。

ひと通り話が終わり、また二人は小さな世界を見渡した。
何度見ても飽きない景色はとても美しく、平和であると言えた。

「もうすぐひぐらしの声が聞こえます。秋になれば山は赤く色付きます。冬になれば銀世界が見れます。春は神社の桜が見えます。一年中何時来ても良いんです此処は」

「そうね。どうせなら一年かけてひと通り見てもいいかもしれないわね」

夕焼けが眩しくなってくる。そろそろ帰らなければ夜道が危ないと判断した青娥はもう帰りましょうかと呼びかけた。

「はい。でも、一つだけ此処でお願いしたいんです」

何時になく真面目な顔で芳香はそういった。その目には迷いがない。

「何かしら?」

「いつまでも一緒にいてほしいんです。ずっと、こうやって私にいろいろなことを教えて下さい。私は青娥さんの一番弟子ですから」

夕日のせいか、紅く染まった芳香の顔は生きていることを実感させる。どこか気持ちのいい笑顔だった。

「ええもちろん。ずっと一緒よ」

仙人と只の人間には寿命の壁がある。しかしまた青娥は嘘を吐いた。
青娥はそれを悟られまいと話題を変えることにした。
「ほら、本当に日が暮れちゃうわ。帰らないと」

腕を引っ張り、元きた道を帰った。無事人里まで来て芳香と別れる。青娥は一人になって家に向かった。道は暗く、夏場なのでジメジメとしている。何時まで経っても欲を捨てず、天人にも神霊にもならない自分と何処か重なった気がした。

翌朝、青娥は目覚めると同時に何処か胸騒ぎがした。なんだろうか、なにか嫌なことが起こる予感がした。
数刻が過ぎ、そろそろ芳香が此方に来ることになっているはずの時間である。しかし、何時まで経っても芳香は現れない。芳香に何か遭ったのかもしれないと思った青娥は芳香の家まで飛んでいった。

芳香の家に入るとそこには芳香が倒れていた。急いで体をゆすり、意識を確認する。芳香は少しだけ目を開け、弱々しい笑を浮かべながら言った。

「せい、が、さん…すみま、せん。こん、な、ことになって…」

「何があったの?話しなさい。」

「…数刻前、盗人が、入りまして、毒をのまされ、まし、た」

その言葉に青娥は焦りを感じた。ここらで手に入る毒は弱いものばかりだが症状が早く出る上、命を落とすことになるものも多い。もし彼女が飲まされたものがそれなら危ないでは済まない。

「青娥、さん。私、青娥さんと、居たい、です。」

そう言うと、彼女の体から力がなくなっていった。開いていた目も閉じていってしまう。

「起きなさい!芳香!宮古芳香!一緒に居たいのでしょう!起きなさい!」

しかし二度と、彼女の目は開かなかった。

幾年月が過ぎた。霍青娥はまた、あの丘の上に立っていた。

最近いきなり湖に現れた洋館が見えた。最近山に引っ越してきた神社が見えた。最近建てなおした神社が見えた。最近新たに作られた寺があった。景色は少しずつ形を変え、今の青娥の目に映る。それがこの世界の変化を物語っていた。しかし相変わらずのんびりと時間は過ぎていく。

「せーが。ここきれいだな」

防腐の呪いを施したかつての教え子がそこに立っていた。

自我を持たない故に青娥の命令には忠実だ。だが、あの時のような人間らしい感情はほとんどない。

「ねぇ芳香、これでよかったのかしら。私の行動は間違ってなかったかしら」

「?」

問うても返事はない。目の前の芳香はあくまでキョンシーである芳香だ。人間の頃の彼女ではない。

「せーが。頬が濡れてるぞ。」

そう言うと芳香は手の甲で器用に青娥の頬を拭った。

「ありがとう。それじゃあ豊聡耳様の様子を見に行きましょう。」

「分かった。付いてく。」

青娥は自分なりに芳香を守ろうとした。彼女と交わした約束のために…
まずはこんな拙い文章を読んでいただきありがとうございます。
はじめましてteraと申します。
変な文章や設定になっていますがどうぞ温かい目でお願いします。
求聞口授を読み返したところ、芳香の墓が無いというのを思い出し、自己解釈で書いてみました。幻想郷には根っこから邪な人なんていないと思います。そういうイメージです。誰かの心に残ってくれると嬉しいです。
ご読了ありがとうございました。

3,12季節が可怪しかったところを修正
tera
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コメント



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2.70名前が無い程度の能力削除
都良香とはなんだったのか。

テンプレート通りにまとまっていて良いと思います。
3.無評価tera削除
2さんお褒め頂き光栄です。また書くことがあれば評価お願いいたします
4.60絶望を司る程度の能力削除
シリアスタグが幻想入りしてるぞ旦那。
あと、もう少し話が濃かったら面白いと思うんだけどな……。
5.無評価tera削除
絶望を司る程度の能力さん。そうですね。ご指摘ありがとうございます。
後に付け足させて頂きます。
6.70奇声を発する程度の能力削除
話も纏まってて面白く良かったです
7.無評価tera削除
奇声を発する程度の能力さん。ありがとうございます。次出会う機会があればその時もよろしくお願いいたします。
8.70名前が無い程度の能力削除
短くとも纏まっててよかったと思います
次回はもっと濃くて長い作品とか見てみたいですね、がんばってください
10.無評価tera削除
8さん。ありがとうございます。次も頑張らせて頂きます。