春の陽気の中。私こと宇佐見蓮子は友人のメリーと春休みのサークル活動のため登校しようと彼女の住むアパートを訪ねドアを開けようとした。
ドアの鍵はいつも通り掛けられていなかったがドアにチェーンが掛かかっていた。
いつもはこの時間に私がメリーを迎えに行くのだが、普段はチェーンなんて掛かっておらず、私が一言挨拶してからドアを開けてメリーの部屋に入るのだが、今日は違っていた。
「はっはーん……サボりでも決め込むつもりね。ねぇメリー? 私も付き合うから早くチェーン外して、ほらほら早く!」
ドアを開けたり閉めたりしながらチェーンを鳴らすが返事が無い、まだ寝ているのだろうか、体調が悪くなったのなら私の携帯にメールなり電話の一つくらい入れていると思うのだけども、鞄の中から携帯を取り出し電話帳からメリーの番号に電話をかける。
呼び出し音が一回、二回、三回……メリーの声は返ってこない。
「さーてと。コレは質の悪い悪戯ね……気付いて眠そうな声で電話に出たら怒鳴ってあげようかしら? だから早く起きなさいよ。早く、早く」
十秒ぐらいすればメリーの眠そうな声が聞こえてくる、聞こえてくる聞こえてこない聞こえない電話に出ない。出なかった
三十秒程経っても耳に入ってくる音は呼び出し音だけ。
「充電し忘れてるなんてことも無いだろうし、まさか昨日の今日で携帯を落とすなんてこともしないはずよね」
ガチャガチャとドアを引っ張っている内にただのサボりじゃないのじゃないかと思えてきた。あまりにも静かすぎる。いつもなら反応の一つや二つぐらい返っても来ていいはずなのだが。
現在時間が気になって腕時計を見た途端に謎が解けた。時計の短針は9を長針は2と3のちょうど間を指しており、その下の装置には『0401』と今日の日付が示されていた。
「……あぁ、なるほど、今日は四月一日!! 今頃メリーは私が外でこんなに慌ててるのを見てクスクス笑っているんだわ!! あっちゃー、やられたわね。昨日の約束はブラフだったのか……メリー、私の負けよ。だからさっさと起きて大学に行きましょう? 今日ものんびりおやつでも食べながらお話しよう?」
そうドアを叩きながら叫んでいる内に昨日メリーの夕食を買いに行った時の帰り道での会話を思い出す。はっきりと覚えている。
二人で夕方の歩道を歩きながら話していたあの会話。私が荷物持ちでメリーが嬉しそうに私を横目に見ながら隣を歩いていた。
『ねぇ蓮子、明日は何の日か知っているかしら』
『エイプリルフール、四月馬鹿、勿論知ってるわよ。呼び方は多々あるけど、嘘をついても許される日といっても毎年何かしようと思うけど結局何もしないのよねー、春休みだからってのもあるんだろうけど』
その後メリーが小走りで私の前に立ち、くるり、と髪を揺らしながら振り返るとこう言った。
『いい考えがあるわ。お互い四月馬鹿で遺言状を書き合って次の日、明日見せ合いましょう、蓮子』
『うっわ、悪趣味ね。でも面白そうだし乗ったっ。涙が溢れるような文をメリーに見せてあげる』
『私もそれなりに頑張るわ。元々死ぬ気なんて無いからいい文章が思い浮かぶかどうかもわからないのだけど』
そんな話をコンビニの買い物袋を持ちながらしていた。その後メリーと別れてアパートに帰宅し、昨日の残りの煮物とインスタント麺で軽く夕食を済ませ、風呂にも入らずベットの上で寝転がりながら『人生に疲れました、死にます』とだけ便箋に書いて封筒に入れ、眠った。それが私の昨日したこと全て。
しかし相変わらず反応は無い。肩に担いだバッグを持って扉とは反対側に向かう。このアパートには庭があり、メリーの部屋にあるガラス戸から中の様子を確認したかった。
あまり手入れされていないが蒲公英や土筆等の春らしい彩りに恵まれた庭に回りこみ透明なガラス戸から部屋を覗き込む。
「……居ない? あ、錠が掛けられていない。いいわよね、私とメリーの仲なんだし」
隣の部屋に住んでいるであろう人に見られない内に静かに部屋に入った。電気も付いていない薄暗い空間の真ん中に置かれているガラステーブルの上にはトマトだけが丸々残っているコンビニ弁当と空っぽの発泡酒のアルミ缶二本が置かれていた。ふと、トイレの扉が開いていて、そこから朝だというのに橙色の光が漏れていた。電気代が勿体無い、そう思って消しに行こうと近づくと異変に気付いた。
見覚えのある紫色のスカート、白い靴下、間違いない。友人のメリーだ。でもどうして便器に向かって座り込んでいるのか、それは簡単で、私にも覚えがあった。
「やっぱり二日酔いね。全くもう、お酒に強くなる必要なんて無いんだから、ほらメリー起きて……っ」
ガチャリと扉を開くとそこは予想外の空間だった。壁に掛かっているカレンダーは赤茶色に染まっており、何よりも便器に突っ伏して倒れているメリーの首には鋏が刺さっており、酸素に触れ黒ずんだ血がその場所から漏れていた。
「メリー? メリー!! 嘘、嫌、嫌。なんで……」
必死に肩を揺らすが手遅れで、脈を測ろうと取った右手首には三本の痕があった。二本はいわゆる躊躇い傷と呼ばれるものでそこまで深くなく血も滲み出るほどしか出ていないが残りの一本は深々と刻まれておりそこからは首のソレと同じように黒ずんだ赤が流れていた。
その後のことは覚えていない。携帯電話で警察と救急を呼んだことまでは覚えているがそこから先は覚えていない。ただただ印象に残っていたのは担架に乗せられ運ばれているメリーの顔だった。警察に色々聞かれた気もするがどんな回答をしたのかも覚えていない。ただただ無難な答え、いや最善の答えをしたはず。
いつの間にか帰宅していたのだろうか……夕日が刺し込む中、電気も付けずに一人ベットの上に寝転がり。白い天井に右手を伸ばす。手の甲に乾いた血が付着していた。くるり、手の平にも手の甲と同じ物があった。メリーはこんな皮の薄そうな手首を切ったのだろうか。三回も、一回目二回目でどうして止めなかったのか、そして三回目の後に首に突き刺した。
思い出してみてもやっぱりわからない。メリーはどうしてあんなことを、昨日まで笑っていたはずじゃない。
「自殺なんて……どうして」
警察の検察結果によると死因は大量出血だそうだ。手首だけではなく首も切られていたのは恐らく早急に死にたかったのだとか。結構珍しくもないケースだというのも聞いたが、只々その場で立ち尽くしていたあの時の私には理解なんてする余裕なんて無く、いつのまにか話が終わっていていつのまにか家に着いていた。
一日ぶりの風呂を済ませ、軽い夜食の準備をするためにフライパンに野菜炒めの材料を入れ火を付けた。私服のスカートを洗濯する前にポケットの中を確認しようと手を入れると手応えがあった。
「……あれ? これは」
警察がメリーの部屋を“荒らし回った”時に見つけた封筒、遺書だ。昨日作ろうと言っていた遺書、今日笑いのネタにするはずだった遺書。無地の封筒に可愛らしい熊のシールで封がされている面に『by マエリベリー・ハーン』とその逆の面には『蓮子へ』とだけ書かれていた。
勿論すぐに封を切り、中から紙を取り出すと、一般的なルーズリーフが綺麗に折りたたまれて入っていた。ゆっくりと深呼吸してソレを開く。
「なになに……『私、マエリベリー・ハーンは今日死にます。理由なんて語るほどでもありません。今日までの生活に満足しただけです、蓮子との生活に満足しただけなんです。窒息、首吊り、どちらも綺麗に死ねないらしいので昔蓮子に貰った剃刀でこの白い身体を刻んで死のうと思います。今までで何度か剃刀で身体をうっかり切ったことがありますがそんなのとは違う痛みが襲うでしょう。今夜、零時ぴったりに死ねるように努力します。嘘を付くべき日に死にます。この手紙を最初に読んだ人が蓮子ならお願い、どうか私のことを忘れて、馬鹿な友人だったと忘れて大学の友達と仲良く勉強し、そして笑顔で卒業してください。そして偶に私のお墓に……なんで忘れてって書いたのにこんなこと書くんだろう。ごめんなさいね。もし、もし今読んでいる人が宇佐見蓮子じゃないのならこの手紙を以下の住所にあるポストに入れておいてください。友人の住んでいるマンションです。どうかお願いしますね、あと、後片付け紛いな事をさせて申し訳ありません』うん、合ってるわ……私の住所ね」
そこには今居るマンションの住所が部屋番まできっちり書かれていた。合っている、どうやら本気でこの遺書を私に向けて書いたのだろう。
再び続きを読む。紙の半分まで読み進めたがそろそろこの文も終わるはず。再び呟きながら読み始めた。
「……ひっ」
悪寒が背筋を走りまわり、思わず床に紙を落とすと、そこには血文字で『ハヤクキテ』とだけ書かれていた。
これの意味がよくわからない、助けに来て。なのかそれとも……考えれば考えるほど訳がわからなくなっていく頭がぐらぐらする。私は立っているの? 座っているの?
――何日か後。蓮子たちが通っていた某大学の食堂にて二人の学生がテーブルを囲んで話していた。食堂でよくあるメニューのカツカレーと狐饂飩。ごく一般的な食堂のメニューを食べながら二人は話し始める。
「なぁ知ってるか? この大学で自殺者が二人出たらしいぜ、しかも連日」
片方の男が狐饂飩の油揚げを食みながら向かいの男に言った。もう一人の男もすでに小さく切り分けられたカツをスプーンに乗せながら答える。
「おいマジかよ、誰だ誰だ?」
「マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子。ヘンテコ不良サークルの所属メンバーさ。」
「あぁ、あまりいい噂は聞かなかったな、レズなんじゃないかと疑われてた時期も無かったっけ? まさか仲良く心中か?」
饂飩をずるずると音を立てて啜りながら片方の男が続ける。
「それが違うらしいぞ、マエリベリー・ハーンが四月一日に死んでそれを追うように翌日宇佐見蓮子が死んだんだとさ」
「それただの偶然じゃねぇのかよもしくはお前の推測とかさ」
「いつもならそうなんだけど今回は違うんだな。ホトケさん、宇佐見蓮子の手にはマエリベリー・ハーンの遺書が握られていたらしい。それを読んでなのか読んでいる最中なのかはわからないがな……酸欠死だっけか、ガス点けっ放しだったんだとさ」
「なる程ね」
「んでこっから面白いんだけど宇佐見蓮子の死体のそばの床に『イマイク』って薄く彫られていたらしいぜ」
「へぇ、名前と顔ぐらいしか知らなかったけどまぁ残念だな。っておい、人が増えてきた。早めに食べてここから離れようぜ。」
「はいはい……」
他愛のない話を終わらせた後、二人は数分で昼食を食べきった後の空になった食器を返却口に戻した後食堂から出ていった。
後日秘封倶楽部の二人の葬式は別々の会場、別々の日程で行われた。
ドアの鍵はいつも通り掛けられていなかったがドアにチェーンが掛かかっていた。
いつもはこの時間に私がメリーを迎えに行くのだが、普段はチェーンなんて掛かっておらず、私が一言挨拶してからドアを開けてメリーの部屋に入るのだが、今日は違っていた。
「はっはーん……サボりでも決め込むつもりね。ねぇメリー? 私も付き合うから早くチェーン外して、ほらほら早く!」
ドアを開けたり閉めたりしながらチェーンを鳴らすが返事が無い、まだ寝ているのだろうか、体調が悪くなったのなら私の携帯にメールなり電話の一つくらい入れていると思うのだけども、鞄の中から携帯を取り出し電話帳からメリーの番号に電話をかける。
呼び出し音が一回、二回、三回……メリーの声は返ってこない。
「さーてと。コレは質の悪い悪戯ね……気付いて眠そうな声で電話に出たら怒鳴ってあげようかしら? だから早く起きなさいよ。早く、早く」
十秒ぐらいすればメリーの眠そうな声が聞こえてくる、聞こえてくる聞こえてこない聞こえない電話に出ない。出なかった
三十秒程経っても耳に入ってくる音は呼び出し音だけ。
「充電し忘れてるなんてことも無いだろうし、まさか昨日の今日で携帯を落とすなんてこともしないはずよね」
ガチャガチャとドアを引っ張っている内にただのサボりじゃないのじゃないかと思えてきた。あまりにも静かすぎる。いつもなら反応の一つや二つぐらい返っても来ていいはずなのだが。
現在時間が気になって腕時計を見た途端に謎が解けた。時計の短針は9を長針は2と3のちょうど間を指しており、その下の装置には『0401』と今日の日付が示されていた。
「……あぁ、なるほど、今日は四月一日!! 今頃メリーは私が外でこんなに慌ててるのを見てクスクス笑っているんだわ!! あっちゃー、やられたわね。昨日の約束はブラフだったのか……メリー、私の負けよ。だからさっさと起きて大学に行きましょう? 今日ものんびりおやつでも食べながらお話しよう?」
そうドアを叩きながら叫んでいる内に昨日メリーの夕食を買いに行った時の帰り道での会話を思い出す。はっきりと覚えている。
二人で夕方の歩道を歩きながら話していたあの会話。私が荷物持ちでメリーが嬉しそうに私を横目に見ながら隣を歩いていた。
『ねぇ蓮子、明日は何の日か知っているかしら』
『エイプリルフール、四月馬鹿、勿論知ってるわよ。呼び方は多々あるけど、嘘をついても許される日といっても毎年何かしようと思うけど結局何もしないのよねー、春休みだからってのもあるんだろうけど』
その後メリーが小走りで私の前に立ち、くるり、と髪を揺らしながら振り返るとこう言った。
『いい考えがあるわ。お互い四月馬鹿で遺言状を書き合って次の日、明日見せ合いましょう、蓮子』
『うっわ、悪趣味ね。でも面白そうだし乗ったっ。涙が溢れるような文をメリーに見せてあげる』
『私もそれなりに頑張るわ。元々死ぬ気なんて無いからいい文章が思い浮かぶかどうかもわからないのだけど』
そんな話をコンビニの買い物袋を持ちながらしていた。その後メリーと別れてアパートに帰宅し、昨日の残りの煮物とインスタント麺で軽く夕食を済ませ、風呂にも入らずベットの上で寝転がりながら『人生に疲れました、死にます』とだけ便箋に書いて封筒に入れ、眠った。それが私の昨日したこと全て。
しかし相変わらず反応は無い。肩に担いだバッグを持って扉とは反対側に向かう。このアパートには庭があり、メリーの部屋にあるガラス戸から中の様子を確認したかった。
あまり手入れされていないが蒲公英や土筆等の春らしい彩りに恵まれた庭に回りこみ透明なガラス戸から部屋を覗き込む。
「……居ない? あ、錠が掛けられていない。いいわよね、私とメリーの仲なんだし」
隣の部屋に住んでいるであろう人に見られない内に静かに部屋に入った。電気も付いていない薄暗い空間の真ん中に置かれているガラステーブルの上にはトマトだけが丸々残っているコンビニ弁当と空っぽの発泡酒のアルミ缶二本が置かれていた。ふと、トイレの扉が開いていて、そこから朝だというのに橙色の光が漏れていた。電気代が勿体無い、そう思って消しに行こうと近づくと異変に気付いた。
見覚えのある紫色のスカート、白い靴下、間違いない。友人のメリーだ。でもどうして便器に向かって座り込んでいるのか、それは簡単で、私にも覚えがあった。
「やっぱり二日酔いね。全くもう、お酒に強くなる必要なんて無いんだから、ほらメリー起きて……っ」
ガチャリと扉を開くとそこは予想外の空間だった。壁に掛かっているカレンダーは赤茶色に染まっており、何よりも便器に突っ伏して倒れているメリーの首には鋏が刺さっており、酸素に触れ黒ずんだ血がその場所から漏れていた。
「メリー? メリー!! 嘘、嫌、嫌。なんで……」
必死に肩を揺らすが手遅れで、脈を測ろうと取った右手首には三本の痕があった。二本はいわゆる躊躇い傷と呼ばれるものでそこまで深くなく血も滲み出るほどしか出ていないが残りの一本は深々と刻まれておりそこからは首のソレと同じように黒ずんだ赤が流れていた。
その後のことは覚えていない。携帯電話で警察と救急を呼んだことまでは覚えているがそこから先は覚えていない。ただただ印象に残っていたのは担架に乗せられ運ばれているメリーの顔だった。警察に色々聞かれた気もするがどんな回答をしたのかも覚えていない。ただただ無難な答え、いや最善の答えをしたはず。
いつの間にか帰宅していたのだろうか……夕日が刺し込む中、電気も付けずに一人ベットの上に寝転がり。白い天井に右手を伸ばす。手の甲に乾いた血が付着していた。くるり、手の平にも手の甲と同じ物があった。メリーはこんな皮の薄そうな手首を切ったのだろうか。三回も、一回目二回目でどうして止めなかったのか、そして三回目の後に首に突き刺した。
思い出してみてもやっぱりわからない。メリーはどうしてあんなことを、昨日まで笑っていたはずじゃない。
「自殺なんて……どうして」
警察の検察結果によると死因は大量出血だそうだ。手首だけではなく首も切られていたのは恐らく早急に死にたかったのだとか。結構珍しくもないケースだというのも聞いたが、只々その場で立ち尽くしていたあの時の私には理解なんてする余裕なんて無く、いつのまにか話が終わっていていつのまにか家に着いていた。
一日ぶりの風呂を済ませ、軽い夜食の準備をするためにフライパンに野菜炒めの材料を入れ火を付けた。私服のスカートを洗濯する前にポケットの中を確認しようと手を入れると手応えがあった。
「……あれ? これは」
警察がメリーの部屋を“荒らし回った”時に見つけた封筒、遺書だ。昨日作ろうと言っていた遺書、今日笑いのネタにするはずだった遺書。無地の封筒に可愛らしい熊のシールで封がされている面に『by マエリベリー・ハーン』とその逆の面には『蓮子へ』とだけ書かれていた。
勿論すぐに封を切り、中から紙を取り出すと、一般的なルーズリーフが綺麗に折りたたまれて入っていた。ゆっくりと深呼吸してソレを開く。
「なになに……『私、マエリベリー・ハーンは今日死にます。理由なんて語るほどでもありません。今日までの生活に満足しただけです、蓮子との生活に満足しただけなんです。窒息、首吊り、どちらも綺麗に死ねないらしいので昔蓮子に貰った剃刀でこの白い身体を刻んで死のうと思います。今までで何度か剃刀で身体をうっかり切ったことがありますがそんなのとは違う痛みが襲うでしょう。今夜、零時ぴったりに死ねるように努力します。嘘を付くべき日に死にます。この手紙を最初に読んだ人が蓮子ならお願い、どうか私のことを忘れて、馬鹿な友人だったと忘れて大学の友達と仲良く勉強し、そして笑顔で卒業してください。そして偶に私のお墓に……なんで忘れてって書いたのにこんなこと書くんだろう。ごめんなさいね。もし、もし今読んでいる人が宇佐見蓮子じゃないのならこの手紙を以下の住所にあるポストに入れておいてください。友人の住んでいるマンションです。どうかお願いしますね、あと、後片付け紛いな事をさせて申し訳ありません』うん、合ってるわ……私の住所ね」
そこには今居るマンションの住所が部屋番まできっちり書かれていた。合っている、どうやら本気でこの遺書を私に向けて書いたのだろう。
再び続きを読む。紙の半分まで読み進めたがそろそろこの文も終わるはず。再び呟きながら読み始めた。
「……ひっ」
悪寒が背筋を走りまわり、思わず床に紙を落とすと、そこには血文字で『ハヤクキテ』とだけ書かれていた。
これの意味がよくわからない、助けに来て。なのかそれとも……考えれば考えるほど訳がわからなくなっていく頭がぐらぐらする。私は立っているの? 座っているの?
――何日か後。蓮子たちが通っていた某大学の食堂にて二人の学生がテーブルを囲んで話していた。食堂でよくあるメニューのカツカレーと狐饂飩。ごく一般的な食堂のメニューを食べながら二人は話し始める。
「なぁ知ってるか? この大学で自殺者が二人出たらしいぜ、しかも連日」
片方の男が狐饂飩の油揚げを食みながら向かいの男に言った。もう一人の男もすでに小さく切り分けられたカツをスプーンに乗せながら答える。
「おいマジかよ、誰だ誰だ?」
「マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子。ヘンテコ不良サークルの所属メンバーさ。」
「あぁ、あまりいい噂は聞かなかったな、レズなんじゃないかと疑われてた時期も無かったっけ? まさか仲良く心中か?」
饂飩をずるずると音を立てて啜りながら片方の男が続ける。
「それが違うらしいぞ、マエリベリー・ハーンが四月一日に死んでそれを追うように翌日宇佐見蓮子が死んだんだとさ」
「それただの偶然じゃねぇのかよもしくはお前の推測とかさ」
「いつもならそうなんだけど今回は違うんだな。ホトケさん、宇佐見蓮子の手にはマエリベリー・ハーンの遺書が握られていたらしい。それを読んでなのか読んでいる最中なのかはわからないがな……酸欠死だっけか、ガス点けっ放しだったんだとさ」
「なる程ね」
「んでこっから面白いんだけど宇佐見蓮子の死体のそばの床に『イマイク』って薄く彫られていたらしいぜ」
「へぇ、名前と顔ぐらいしか知らなかったけどまぁ残念だな。っておい、人が増えてきた。早めに食べてここから離れようぜ。」
「はいはい……」
他愛のない話を終わらせた後、二人は数分で昼食を食べきった後の空になった食器を返却口に戻した後食堂から出ていった。
後日秘封倶楽部の二人の葬式は別々の会場、別々の日程で行われた。
結局エイプリルフールというギミックが全然働いていないような気がします。
目を背けたくなるインパクトはすごかった。
穴がないようきっちり説明入れるか、あるいはすべてすっ飛ばして不条理ホラーにするかどちらかにした方がよかったような
文章のテンポが悪く読みにくかったのもちょっと厳しい
お話としての味がしっかりあるだけに惜しいと思いました