時刻は朝方、9時頃のことだったろうか。
知識と歴史の半獣、人間の里の守護者である上白沢慧音が一人庵で本を読んでいると、戸を叩く音が庵に響いた。
「ご免。上白沢慧音殿はご在宅でしょうか。」
妙に固い、それでいてよく通る声が庵に響く。その声の主の性格を、よく表していた。
「戸なら開いているぞ。それに、そんなにかしこまったいい方でなくていいと前に言っただろう?・・・妖夢。」
慧音は、つけていたミニグラスを外しながらその声の主に答える。
「・・・う。すいません。慧音さん。どうにもこの感じが抜けなくて。」
そう言いながら、戸を開けて庵に入ってきたのは、冥界の姫である西行寺幽々子に仕える庭師兼剣術指南役の半人半霊、魂魄妖夢であった。
「まあ、そんなところがお前の可愛いところだから、いいのだけどな。」
「・・・みょん。」
「それで、今日はどうした?あぁ、主人に無理難題でも吹っかけられでもしたか。なんせあんなふわふわしていて掴み所のない主だからな、大方・・・。」
「あ、いやいや!そんなことないですよ!今日は、幽々子様から休暇を頂きまして。」
「・・・おや、てっきり私はあの蓬莱の姫のビビンバでも取って来いとでも言われたのと思ったのだが。そうか、それでわざわざ、私の所に来てくれたのか。・・・うれしいよ妖夢。ありがとう。」
「あ・・・、って慧音さん!そんな、頭撫でるだなんて、私をそんなに子供扱いしないでくださいよ・・・。」
「いいじゃないか。こんな時くらいしか、こんな妹みたいな妖夢に会えないのだから。あの満月騒動のときの妖夢は怖かったものだぞ?・・・すごい気合が入っていてな、夜明けのテンションだった。まさかあの時は、こんなに素直だとは思いもしなかったものだ。・・・そうだ、お前がここに来るようになってそこそこ経つ。そろそろ『慧音お姉様』と、呼んでみる気はないか?みょん吉。」
「もう!からかって・・・!知りません!それに、みょん吉ってなんですか!みょん吉って!からかわれるのは幽々子様だけでもう十分です!」
「ふふ、それだけ、可愛がられてるということさ。羨ましいな、幽々子殿が。」
「う。・・・みょん。」
「・・・さて、からかうのもこの辺にしておこうか。済まなかったな妖夢。・・・まあ、相変わらず粗茶しかなくて悪いんだが、その辺で適当にくつろいでいてくれ。すぐ戻るから。」
「あ、・・・あの、慧音さん。その・・・今日はちょっと相談があって来たんです。」
「む?・・・そうか、分かった。私でお前の悩みが少しでも軽くなるなら、聞かせてもらえるか?」
「はい。実は・・・」
慧音は、妖夢の話を大方聞き終えるとすっと、壁に掛けてあった帽子を深く被った。
「そうか、なるほどな・・・。よし、妖夢、お前に見せたい物がある。ついて来るといい。」
「え?あ、はあ・・・。ってああ!待ってくださいよ、慧音さんー!」
そう言うと、慧音はすたすたと、彼女の庵を出て、里への道を歩いて行く。妖夢は慌てて、彼女の後を追いかけて行った。
しばらく歩いて、二人は里の入口に差し掛かる。門の両脇に、槍を携えた男が二人立っていた。
この村の門番なのだろう。ふと、その中の一人が、慧音の姿を見つける。
「おお、おはようございます慧音様。今日は快晴で御座いますなぁ。」
「おはよう。本当に、いい天気だな。五作。里の守り、いつもご苦労様。お陰でとても助かるよ。
・・・ああ、もちろん喜助もな。喜助、お前もそろそろいい年なのだから、そろそろ静音を嫁に迎えて身を固めたらどうだ?」
「な、なな!?け、慧音様!お、お戯れが過ぎますよ!どど、どうして俺があんな気の強い女なんかを・・・。」
「ふむ。顔が赤いぞ喜助?やはり、図星か。」
「そっそ、そんなこと・・・ありません!ええ、ありませんとも!」
「そうか、なら私が静音に聞いておくことにしよう、好いている男が誰かをな。」
「ふぐあっ。」
「くっくっく。いやはや、愉快愉快。おっと・・・おや?・・・おお、妖夢様ではありませんか。
しばらく見ないうちにまた大きくなられましたなぁ。いやはや、可愛らしいさもこれまた。」
「え・・・。いや、そんな可愛いだなんて・・・そんなことありませんよ。」
「気付くのが遅いぞ?それに妖夢。可愛いのは事実なんだから、素直に受け取っておけ。なあ五作?
喜助もそう思うだろう?・・・ふむ、他にもういるような奴には・・・眼中にはないかな?」
「だー!!もう!だから・・・!まあ、妖夢様は可愛らしいですよ・・・。」
「え・・・?あー・・・うー・・。みょん。」
「ふふ、分かった分かった、妖夢も喜助も、そんなに顔を赤くするな。悪かったよ。
・・・というわけで、入れてもらえるか?妖夢に、里のあるものを見せてやりたくてな。」
「おっと、そういうことでしたか。それでは随分と長話をさせてしまいましたな。もちろんですとも・・・さて。
そら、喜助!いつまでも赤くなっとるんじゃ、門を開けるのを手伝わんか!」
そう言って、五作はいまだ赤くなっている喜助に、そう喝を入れながら、木製の大きな門へあるいて行く。
喜助も慌ててそれに続いた。そして、二人が重い音を響かせながら門を開け放つ。そして慧音と妖夢に改めて会釈すると、門の両脇にどっしりと立った。
それを見て、彼女らもまた、そんな二人に会釈しながら、里の中へと入っていったのだった。
里に入ると、慧音はいつも通り、会う人全員から、声を掛けられていた。慧音も、そんな人々に、一人ずつしっかりと、聞き入っては返す。
「あ、けーね様だ!あ、よーむ様もいるー!ねぇねぇけーね様!よーむ様!おれたちとたまけりいっしょにやろうー?」
「あ、ずるいよこうた!けーね様!よーむ様!そんなのよりわたしたちとあやとりしませんか?」
「おい。れいか!そんなのとはなんだよそんなのとは!」
「おお康太に麗香、相変わらず仲良しだな。いいことだ。
・・・だが済まんな、今は妖夢に見せたいものがあって、ちょっと忙しいんだ。そのあとで、混ぜてくれるか?」
「たまけりはいいけど・・・また前みたいに半身を蹴ろうとしないでね?前にそれで転んだときは、とても焦ったのだから。」
「あら、慧音様。それに、妖夢様も。おはよう御座います。・・・あの、昨日うちの智香が少し熱を出してしまって・・・。」
「おはよう麻衣子。ふむ・・・智香はまだ少し体が弱いからな。分かった、後で伺せてもらうよ。とりあえず、症状を教えてもらえるだろうか。」
「申し訳ない。多分・・・すぐ終わると思うので。しばらく待っていて下さい。」
「あらまぁ、これは慧音様・・・。ご機嫌よろしゅうございますか?この婆がも安心して暮らしていられるのも、慧音様がこの里のことを見て頂いているから・・・。本当に有難う御座いますじゃ。」
「おはよう。いい調子だよ、鈴。だが、私がしていることなど、ほんの少ししかないさ。それに鈴、お前はまだまだ若いさ。婆なんて言うにはまだまだだ。大丈夫。」
「・・・。」
道を行くうちに、段々と人も少なくなってきていた。そんな中。妖夢が少し笑いながら始めた。
「相変わらず、大人気ですね。・・・けーね様?」
「な・・・、こら妖夢!からかってくれるな・・・。どうにもその呼ばれ方はくすぐったくてしょうがない・・・。お前に言われると特に。」
「なに、さっきのお返しですよ。」
「まったく、この子はっ。」
「うわっ!何を・・・!ってうわぁ!髪ぐしゃぐしゃにしないでくださいよ!・・・うわあ・・・、何するんですか!」
「なに、さっきのお返しだよ。」
「・・・もう。でも、慧音さんは。やっぱり慕われていて・・・羨ましい限りですよ。」
「ああ・・・。私は半獣で、半分人ではないというのに・・・。
そうだと分かっていてなお、彼らはこうやって私に話かけてくれる。頼りにしてくれる。本当に、幸せなことだ。」
「・・・。」
「でも、私は妖夢も羨ましく思うがな。そのいじりやすさとか。」
「・・・切りますよ?」
「悪い悪い、でもそんなところが羨ましいのさ。」
妖夢は、そう笑いながら前を歩いてゆく慧音の背が、なぜだかとても大きく見えた。
「ここだ。」
そう言って、慧音は歩みを止める。
「ここ・・・ですか?」
妖夢は訝しげに尋ねながら、慧音の横に立ち止まった。
「ここは、里の中心。一面の稲穂が目の届く限りどこまでも広がる、水田地帯だ。
稲穂はあと数日もすれば収穫できるだろうな・・・。立派になったものだ。」
「はあ・・・そう、ですね?」
「この稲穂が何だというんだと思っているだろうな。妖夢は。」
「え、あ、いや。そんなことは・・・。」
「・・・無理しなくていいぞ妖夢?お前は・・・すぐに顔にでるからな。」
「もう・・・またそう言いながら頭に手を乗せて。・・・そんなに鈍いんでしょうか。私。」
「いや、そうじゃないとは思うぞ?・・・それでな妖夢。そろそろ、・・・さっきの相談に答えようか。」
「あ・・・。は、はい。」
「よし。じゃあ、心を軽くしてこの稲穂を見てみるといい。」
「え・・・。急に心を軽くって言われても・・・。どうやって?」
「そうだな、とりあえず、目を瞑って、その半身を普段より高く持ち上げてみるというのはどうだろう?」
「えええ?」
「どうだ?」
「わ、分かりましたよ・・・。」
「・・・むー・・・むー・・・むーむー・・・!」
少女(の半身)上昇中。
みょんみょんみょんみょん。
「おお、すごいな妖夢。あんなところまで上がるとは。」
「ふう・・・。って、あの。なにも変わらない気がするんですけど。」
「いや・・・、流石に冗談だったのだが。まさか本当にやってくれるとは・・・。ふ、ふふ、あはははっ。」
「な!?慧音さん!何度私をからかえば気が済むんですか!?・・・なるほど、そんなにまた楼観剣の錆になりたいんですね!?」
「よしよし。大分出てきたな、軽さが。」
「まだそんなこと言って!大体なんでこんなところに私を連れて・・・」
「こんな所だからこそ。意味があるんだよ、妖夢。」
「う。」
「だからその刀に伸ばしてる手を引いてくれると助かる。」
「・・・みょん。」
「ほら・・・。来るぞ?」
「来るって・・・なにが―――」
―――そう妖夢が言葉を続けようとしたその時。
一陣の風が。辺り一帯を駆け抜け始めた。
「ほら、来た。」
慧音が、呟く。
「これは・・・。」
妖夢が、驚く。
ごうっ・・・。 さささ。 ささささ。 ざざざざざ・・・。
ささあ、ささ、さささささあ・・・。
整然と、そしてどこまでも広がる稲穂。それは、さながら金の海のようであった。一陣の風が稲穂を揺らし、抜き去る。
擦れながら、どこまでも揺れてゆく稲穂のそれぞれは、さながら金のさざ波のようで。
そして、駆け抜けた風は金を纏いて、妖夢と慧音を撫でてゆく。
それらは妖夢の整然と、切り揃えられた短髪を揺らして。そのまま、青い青い空へ疾っていった。
「・・・綺麗な物ですね・・・。」
「・・・どうだ?」
「え?」
「少しはできたか?妖夢。余裕が。」
「・・・あ。」
「『努力に・・・努力を重ねているつもりです。でも、いつまで経っても、自分は半人前のまま。いつになったら、私は幽々子様の頼りになれるのでしょうか・・・?』」
「それは・・・。」
「・・・庵でお前にそう真剣な目で尋ねられたとき、私はすぐいってやりたかった。妖夢、お前には余裕が足りないだけ、時間がまだ追いついていないだけだと。・・・でもな、お前はそれで終わらすと・・・結局一人で勝手に抱えて、引っ込んでしまいそうで怖かったんだ。だから、ここに連れてきた。」
「慧音さん・・・。でも、なんでそう、思ったんです?」
「なに、簡単だよ。」
「?」
「私も、昔同じように、里の人々のことを考えては・・・必死になっていたからな。至らないとこばかり目に付いて・・・。とても、やりきれない思いに駆られたものだった。それでな。そんなときは私はいつもここに来てたんだ。この風を受けに。この風は焦りを、吹き飛ばしてくれた。私の余裕の無い視界を、吹き払ってくれた。だから、お前もこの風に当たれば分かってくれるか、感じてくれるかと思ったんだ。今のお前は昔の私によく似ているからな。だから、お前を見ていると、ひたむきで。危なかしくて、可愛らしいのさ。まあ、私はお前のような可愛らしさはなかったが・・・な。みょん吉。」
「・・・みょん。」
「・・・あ。」
「・・・ふっ。」
「って!またみょん吉って言いましたね!?人がしんみりしてたのに、どうしてあなたはそうはぐらかすんですか!」
「それが、余裕というものだぞー?・・・さてと、そろそろ戻ろうかみょん吉?康太と麗香達が待っているし、あとは智香の病気の歴史も・・・食べてやらないといけないからな。」
「ううっ・・・。ええい!こうなったら!」
「おいおい妖夢、そんなに走って・・・ってどこまで・・・?」
慧音から、妖夢の姿が大分小さくなるまで駆けて、妖夢が、振り向く。
「みょんって言わないでくださいよ!!この!慧音お姉様!!!」
「なっ!?」
そう言って、妖夢は先ほどの道を駆けてゆき・・・、見えなくなった。
「・・・やれやれ、やってくれるよ。あの可愛いみょん侍が。」
そういいながら。慧音は嬉しそうに目を細め、その長い髪を風になびかせて、一歩一歩あぜ道を歩いて行く。
「忘れるなよ妖夢・・・。この風を。そしてその余裕、その笑顔を。そうすれば、お前は必ず、辿り着けるさ。」
本日晴天。風が里を吹き抜ける。秋の日に相応しい、澄み切った青空の下での、一幕であった。
知識と歴史の半獣、人間の里の守護者である上白沢慧音が一人庵で本を読んでいると、戸を叩く音が庵に響いた。
「ご免。上白沢慧音殿はご在宅でしょうか。」
妙に固い、それでいてよく通る声が庵に響く。その声の主の性格を、よく表していた。
「戸なら開いているぞ。それに、そんなにかしこまったいい方でなくていいと前に言っただろう?・・・妖夢。」
慧音は、つけていたミニグラスを外しながらその声の主に答える。
「・・・う。すいません。慧音さん。どうにもこの感じが抜けなくて。」
そう言いながら、戸を開けて庵に入ってきたのは、冥界の姫である西行寺幽々子に仕える庭師兼剣術指南役の半人半霊、魂魄妖夢であった。
「まあ、そんなところがお前の可愛いところだから、いいのだけどな。」
「・・・みょん。」
「それで、今日はどうした?あぁ、主人に無理難題でも吹っかけられでもしたか。なんせあんなふわふわしていて掴み所のない主だからな、大方・・・。」
「あ、いやいや!そんなことないですよ!今日は、幽々子様から休暇を頂きまして。」
「・・・おや、てっきり私はあの蓬莱の姫のビビンバでも取って来いとでも言われたのと思ったのだが。そうか、それでわざわざ、私の所に来てくれたのか。・・・うれしいよ妖夢。ありがとう。」
「あ・・・、って慧音さん!そんな、頭撫でるだなんて、私をそんなに子供扱いしないでくださいよ・・・。」
「いいじゃないか。こんな時くらいしか、こんな妹みたいな妖夢に会えないのだから。あの満月騒動のときの妖夢は怖かったものだぞ?・・・すごい気合が入っていてな、夜明けのテンションだった。まさかあの時は、こんなに素直だとは思いもしなかったものだ。・・・そうだ、お前がここに来るようになってそこそこ経つ。そろそろ『慧音お姉様』と、呼んでみる気はないか?みょん吉。」
「もう!からかって・・・!知りません!それに、みょん吉ってなんですか!みょん吉って!からかわれるのは幽々子様だけでもう十分です!」
「ふふ、それだけ、可愛がられてるということさ。羨ましいな、幽々子殿が。」
「う。・・・みょん。」
「・・・さて、からかうのもこの辺にしておこうか。済まなかったな妖夢。・・・まあ、相変わらず粗茶しかなくて悪いんだが、その辺で適当にくつろいでいてくれ。すぐ戻るから。」
「あ、・・・あの、慧音さん。その・・・今日はちょっと相談があって来たんです。」
「む?・・・そうか、分かった。私でお前の悩みが少しでも軽くなるなら、聞かせてもらえるか?」
「はい。実は・・・」
慧音は、妖夢の話を大方聞き終えるとすっと、壁に掛けてあった帽子を深く被った。
「そうか、なるほどな・・・。よし、妖夢、お前に見せたい物がある。ついて来るといい。」
「え?あ、はあ・・・。ってああ!待ってくださいよ、慧音さんー!」
そう言うと、慧音はすたすたと、彼女の庵を出て、里への道を歩いて行く。妖夢は慌てて、彼女の後を追いかけて行った。
しばらく歩いて、二人は里の入口に差し掛かる。門の両脇に、槍を携えた男が二人立っていた。
この村の門番なのだろう。ふと、その中の一人が、慧音の姿を見つける。
「おお、おはようございます慧音様。今日は快晴で御座いますなぁ。」
「おはよう。本当に、いい天気だな。五作。里の守り、いつもご苦労様。お陰でとても助かるよ。
・・・ああ、もちろん喜助もな。喜助、お前もそろそろいい年なのだから、そろそろ静音を嫁に迎えて身を固めたらどうだ?」
「な、なな!?け、慧音様!お、お戯れが過ぎますよ!どど、どうして俺があんな気の強い女なんかを・・・。」
「ふむ。顔が赤いぞ喜助?やはり、図星か。」
「そっそ、そんなこと・・・ありません!ええ、ありませんとも!」
「そうか、なら私が静音に聞いておくことにしよう、好いている男が誰かをな。」
「ふぐあっ。」
「くっくっく。いやはや、愉快愉快。おっと・・・おや?・・・おお、妖夢様ではありませんか。
しばらく見ないうちにまた大きくなられましたなぁ。いやはや、可愛らしいさもこれまた。」
「え・・・。いや、そんな可愛いだなんて・・・そんなことありませんよ。」
「気付くのが遅いぞ?それに妖夢。可愛いのは事実なんだから、素直に受け取っておけ。なあ五作?
喜助もそう思うだろう?・・・ふむ、他にもういるような奴には・・・眼中にはないかな?」
「だー!!もう!だから・・・!まあ、妖夢様は可愛らしいですよ・・・。」
「え・・・?あー・・・うー・・。みょん。」
「ふふ、分かった分かった、妖夢も喜助も、そんなに顔を赤くするな。悪かったよ。
・・・というわけで、入れてもらえるか?妖夢に、里のあるものを見せてやりたくてな。」
「おっと、そういうことでしたか。それでは随分と長話をさせてしまいましたな。もちろんですとも・・・さて。
そら、喜助!いつまでも赤くなっとるんじゃ、門を開けるのを手伝わんか!」
そう言って、五作はいまだ赤くなっている喜助に、そう喝を入れながら、木製の大きな門へあるいて行く。
喜助も慌ててそれに続いた。そして、二人が重い音を響かせながら門を開け放つ。そして慧音と妖夢に改めて会釈すると、門の両脇にどっしりと立った。
それを見て、彼女らもまた、そんな二人に会釈しながら、里の中へと入っていったのだった。
里に入ると、慧音はいつも通り、会う人全員から、声を掛けられていた。慧音も、そんな人々に、一人ずつしっかりと、聞き入っては返す。
「あ、けーね様だ!あ、よーむ様もいるー!ねぇねぇけーね様!よーむ様!おれたちとたまけりいっしょにやろうー?」
「あ、ずるいよこうた!けーね様!よーむ様!そんなのよりわたしたちとあやとりしませんか?」
「おい。れいか!そんなのとはなんだよそんなのとは!」
「おお康太に麗香、相変わらず仲良しだな。いいことだ。
・・・だが済まんな、今は妖夢に見せたいものがあって、ちょっと忙しいんだ。そのあとで、混ぜてくれるか?」
「たまけりはいいけど・・・また前みたいに半身を蹴ろうとしないでね?前にそれで転んだときは、とても焦ったのだから。」
「あら、慧音様。それに、妖夢様も。おはよう御座います。・・・あの、昨日うちの智香が少し熱を出してしまって・・・。」
「おはよう麻衣子。ふむ・・・智香はまだ少し体が弱いからな。分かった、後で伺せてもらうよ。とりあえず、症状を教えてもらえるだろうか。」
「申し訳ない。多分・・・すぐ終わると思うので。しばらく待っていて下さい。」
「あらまぁ、これは慧音様・・・。ご機嫌よろしゅうございますか?この婆がも安心して暮らしていられるのも、慧音様がこの里のことを見て頂いているから・・・。本当に有難う御座いますじゃ。」
「おはよう。いい調子だよ、鈴。だが、私がしていることなど、ほんの少ししかないさ。それに鈴、お前はまだまだ若いさ。婆なんて言うにはまだまだだ。大丈夫。」
「・・・。」
道を行くうちに、段々と人も少なくなってきていた。そんな中。妖夢が少し笑いながら始めた。
「相変わらず、大人気ですね。・・・けーね様?」
「な・・・、こら妖夢!からかってくれるな・・・。どうにもその呼ばれ方はくすぐったくてしょうがない・・・。お前に言われると特に。」
「なに、さっきのお返しですよ。」
「まったく、この子はっ。」
「うわっ!何を・・・!ってうわぁ!髪ぐしゃぐしゃにしないでくださいよ!・・・うわあ・・・、何するんですか!」
「なに、さっきのお返しだよ。」
「・・・もう。でも、慧音さんは。やっぱり慕われていて・・・羨ましい限りですよ。」
「ああ・・・。私は半獣で、半分人ではないというのに・・・。
そうだと分かっていてなお、彼らはこうやって私に話かけてくれる。頼りにしてくれる。本当に、幸せなことだ。」
「・・・。」
「でも、私は妖夢も羨ましく思うがな。そのいじりやすさとか。」
「・・・切りますよ?」
「悪い悪い、でもそんなところが羨ましいのさ。」
妖夢は、そう笑いながら前を歩いてゆく慧音の背が、なぜだかとても大きく見えた。
「ここだ。」
そう言って、慧音は歩みを止める。
「ここ・・・ですか?」
妖夢は訝しげに尋ねながら、慧音の横に立ち止まった。
「ここは、里の中心。一面の稲穂が目の届く限りどこまでも広がる、水田地帯だ。
稲穂はあと数日もすれば収穫できるだろうな・・・。立派になったものだ。」
「はあ・・・そう、ですね?」
「この稲穂が何だというんだと思っているだろうな。妖夢は。」
「え、あ、いや。そんなことは・・・。」
「・・・無理しなくていいぞ妖夢?お前は・・・すぐに顔にでるからな。」
「もう・・・またそう言いながら頭に手を乗せて。・・・そんなに鈍いんでしょうか。私。」
「いや、そうじゃないとは思うぞ?・・・それでな妖夢。そろそろ、・・・さっきの相談に答えようか。」
「あ・・・。は、はい。」
「よし。じゃあ、心を軽くしてこの稲穂を見てみるといい。」
「え・・・。急に心を軽くって言われても・・・。どうやって?」
「そうだな、とりあえず、目を瞑って、その半身を普段より高く持ち上げてみるというのはどうだろう?」
「えええ?」
「どうだ?」
「わ、分かりましたよ・・・。」
「・・・むー・・・むー・・・むーむー・・・!」
少女(の半身)上昇中。
みょんみょんみょんみょん。
「おお、すごいな妖夢。あんなところまで上がるとは。」
「ふう・・・。って、あの。なにも変わらない気がするんですけど。」
「いや・・・、流石に冗談だったのだが。まさか本当にやってくれるとは・・・。ふ、ふふ、あはははっ。」
「な!?慧音さん!何度私をからかえば気が済むんですか!?・・・なるほど、そんなにまた楼観剣の錆になりたいんですね!?」
「よしよし。大分出てきたな、軽さが。」
「まだそんなこと言って!大体なんでこんなところに私を連れて・・・」
「こんな所だからこそ。意味があるんだよ、妖夢。」
「う。」
「だからその刀に伸ばしてる手を引いてくれると助かる。」
「・・・みょん。」
「ほら・・・。来るぞ?」
「来るって・・・なにが―――」
―――そう妖夢が言葉を続けようとしたその時。
一陣の風が。辺り一帯を駆け抜け始めた。
「ほら、来た。」
慧音が、呟く。
「これは・・・。」
妖夢が、驚く。
ごうっ・・・。 さささ。 ささささ。 ざざざざざ・・・。
ささあ、ささ、さささささあ・・・。
整然と、そしてどこまでも広がる稲穂。それは、さながら金の海のようであった。一陣の風が稲穂を揺らし、抜き去る。
擦れながら、どこまでも揺れてゆく稲穂のそれぞれは、さながら金のさざ波のようで。
そして、駆け抜けた風は金を纏いて、妖夢と慧音を撫でてゆく。
それらは妖夢の整然と、切り揃えられた短髪を揺らして。そのまま、青い青い空へ疾っていった。
「・・・綺麗な物ですね・・・。」
「・・・どうだ?」
「え?」
「少しはできたか?妖夢。余裕が。」
「・・・あ。」
「『努力に・・・努力を重ねているつもりです。でも、いつまで経っても、自分は半人前のまま。いつになったら、私は幽々子様の頼りになれるのでしょうか・・・?』」
「それは・・・。」
「・・・庵でお前にそう真剣な目で尋ねられたとき、私はすぐいってやりたかった。妖夢、お前には余裕が足りないだけ、時間がまだ追いついていないだけだと。・・・でもな、お前はそれで終わらすと・・・結局一人で勝手に抱えて、引っ込んでしまいそうで怖かったんだ。だから、ここに連れてきた。」
「慧音さん・・・。でも、なんでそう、思ったんです?」
「なに、簡単だよ。」
「?」
「私も、昔同じように、里の人々のことを考えては・・・必死になっていたからな。至らないとこばかり目に付いて・・・。とても、やりきれない思いに駆られたものだった。それでな。そんなときは私はいつもここに来てたんだ。この風を受けに。この風は焦りを、吹き飛ばしてくれた。私の余裕の無い視界を、吹き払ってくれた。だから、お前もこの風に当たれば分かってくれるか、感じてくれるかと思ったんだ。今のお前は昔の私によく似ているからな。だから、お前を見ていると、ひたむきで。危なかしくて、可愛らしいのさ。まあ、私はお前のような可愛らしさはなかったが・・・な。みょん吉。」
「・・・みょん。」
「・・・あ。」
「・・・ふっ。」
「って!またみょん吉って言いましたね!?人がしんみりしてたのに、どうしてあなたはそうはぐらかすんですか!」
「それが、余裕というものだぞー?・・・さてと、そろそろ戻ろうかみょん吉?康太と麗香達が待っているし、あとは智香の病気の歴史も・・・食べてやらないといけないからな。」
「ううっ・・・。ええい!こうなったら!」
「おいおい妖夢、そんなに走って・・・ってどこまで・・・?」
慧音から、妖夢の姿が大分小さくなるまで駆けて、妖夢が、振り向く。
「みょんって言わないでくださいよ!!この!慧音お姉様!!!」
「なっ!?」
そう言って、妖夢は先ほどの道を駆けてゆき・・・、見えなくなった。
「・・・やれやれ、やってくれるよ。あの可愛いみょん侍が。」
そういいながら。慧音は嬉しそうに目を細め、その長い髪を風になびかせて、一歩一歩あぜ道を歩いて行く。
「忘れるなよ妖夢・・・。この風を。そしてその余裕、その笑顔を。そうすれば、お前は必ず、辿り着けるさ。」
本日晴天。風が里を吹き抜ける。秋の日に相応しい、澄み切った青空の下での、一幕であった。
とてつもなく耳と胃が痛いです。自分の愚作2つを読み返してみて更に倍。
ですが、それでもこの素晴らしいスレを見つけられて良かった。そして、読んで頂いて、的確に評価を述べてもらえる方が居て、本当に良かった。
三点リーダーの約束といった文法自体の基本的なことから、描写の薄さ、文体の間の空きすぎ、キャラの薄さ。ストーリーの推敲の足らなさ。安易なセリフ。至らない所ばかりで、本当に何も言えません。
もし、指摘を頂いて無かったら更に酷い物を書いただろうと思います。そう思うととても、怖くなりました。逃げたくなりました。
でも、それでも。愚作に、得点と評価を頂いた皆様への限りない感謝。そして、自分への戒めと明日への教訓として。このままの形で愚作を置いておくこと。またこのコメントを残しておくことを、お許し下さい。
乱筆失礼しました。