つま先を床に滑らせると、キュッと音が響く。一つ、また一つと音が鳴る。磨き上げられたフロアには曇り一つ無い。袖から覗かせた細い腕が宙に放り出される。指先に意識を込め、そして引き金を弾いた。
「バン」
紫の蝶が天井に当たって弾けた。輝く蝶の羽がパラパラと頭上から降り注ぐ。あたりが照らされてゆく。今度はもっと高く腕を振り上げて、もう一つ、また一つ。
人は"それ"を恐れた。妖怪も恐れた。
さとり妖怪を。
さとり妖怪は笑った。人の弱さを。妖怪の愚かさを。そして、孤独な自分を。
何百年も着古した衣服には怨恨がべったりとこびりついて、決して落ちることはない。
さとり妖怪はなおも踊った。洋服から振り落とされた蝶の死骸は星のように瞬いて、あたり一面をまばゆく照らした。
さとり妖怪は考えた。
こんなときピアノを弾いてくれる者がいれば。
仲間がいれば。
家族がいれば。
嫌われ者に、嫌われる者。
三つ目の目が開く。それに照準を合わせ、再び引き金を引いた。
「バン」
そこから涙が溢れ出した。
「バン」
そこから血が溢れ出した。
「バン」
ついに何も出なくなった。
そうしてさとり妖怪はすっかり安心して、再びフロアにつま先を滑らせた。
「バン」
紫の蝶が天井に当たって弾けた。輝く蝶の羽がパラパラと頭上から降り注ぐ。あたりが照らされてゆく。今度はもっと高く腕を振り上げて、もう一つ、また一つ。
人は"それ"を恐れた。妖怪も恐れた。
さとり妖怪を。
さとり妖怪は笑った。人の弱さを。妖怪の愚かさを。そして、孤独な自分を。
何百年も着古した衣服には怨恨がべったりとこびりついて、決して落ちることはない。
さとり妖怪はなおも踊った。洋服から振り落とされた蝶の死骸は星のように瞬いて、あたり一面をまばゆく照らした。
さとり妖怪は考えた。
こんなときピアノを弾いてくれる者がいれば。
仲間がいれば。
家族がいれば。
嫌われ者に、嫌われる者。
三つ目の目が開く。それに照準を合わせ、再び引き金を引いた。
「バン」
そこから涙が溢れ出した。
「バン」
そこから血が溢れ出した。
「バン」
ついに何も出なくなった。
そうしてさとり妖怪はすっかり安心して、再びフロアにつま先を滑らせた。