サンドウィッチが生き物である事を知る者は意外と少ない。
しかし、それは仕方がないだろう。
基本的に流通しているサンドウィッチは死んだものばかりだし、きっと最近の子供は生きたサンドウィッチを見た事すらないに違いない。
紅魔館に遊びに来た霊夢と魔理沙は、何の疑問もなくサンドウィッチのお尻から齧りついていた。
それを見るに、彼女達はサンドウィッチが生き物である事を知らないのは明白だろう。
本来、サンドウィッチは頭から齧り付く食べ物なのだ。
それは生きたサンドウィッチが食卓に給されていた頃の伝統であり、最初の一噛みでサンドウィッチを殺す為に、サンドウィッチの急所である頭に齧りつくのである。
そうやって仕留めないと、サンドウィッチは食べた人間の腹でも動き回り、お腹を食い破ろうとしてとても危ない。
昔は、サンドウィッチ一つ食べるのも命がけだったのだ。
「レミリア。なに黄昏てるんだ?」
魔理沙が声をかけてきた。
私は、ここでサンドウィッチに関する昔話をしても仕方がないと思い「なんでもないわ」と答える。
死んだサンドウィッチしか食べた事がない人間に、生きたサンドウィッチの話は理解しにくいだろう。
そう言えばフランも、自分が食べているお菓子の材料が人間の血だと知らない。
きっと、そういう事は知らないままの方が良い事なのかもしれない。
「しかし、このサンドイッチは美味しいわね。私はご飯派だけど、思わずパン派に鞍替えしてしまいそうだわ」
「そりゃ、咲夜が作った洋食だもんな。美味いに決まってるぜ」
「……それは、養殖じゃなくて天然ものよ」
なんとも的外れな事を言っていたので訂正する。
しかし、咲夜がサンドウィッチの養殖をするとは……魔理沙の言う事は突拍子もなくて面白い。
「あー、天然か。確かに咲夜って天然なところがあるよなぁ。意外と抜けてるっていうか」
そう言って魔理沙はサンドウィッチを一気に詰め込んだ。
私も、BLTサンドを頭から一気にいく。
そう言えば、昔にBLTサンドとハムサンドを間違えて、唇を怪我したのは良い思い出だ。
BLTサンドは普通に頭を噛めばいいが、ハムサンドは頭がやや大きいのでBLTサンドと同じように頭を噛んでも仕留められない。
ハムサンドに食べ慣れていなかった私は、まだハムサンドが生きている事に気が付かず食べてしまい、お腹の中を噛みつかれて痛い思いをしてしまったものだ。
「失礼します」
咲夜が台車を押しながら部屋に入ってくる。
台車には紅茶のポットやデザートなどが積まれていた。
「お、咲夜。サンドイッチ美味かったぜ」
「そうね。家で作るのとは一味違うわ」
霊夢と魔理沙が口々に褒め称えるが、咲夜は困ったような笑顔を浮かべる。
それは、そうだろう。
「二人とも、うちのメイド長を困らせないでほしいわね」
「あー、なるほど。ここのサンドイッチは紅魔館秘伝ってわけか? 門外不出って事か」
「いや、門外不出っていうか。取ってきた奴なんだけど」
「……盗ってきた? なんだレミリアも隅に置けないよな。まあ、前に八卦炉を持っていかれた事もあったし、そういう事もあるか」
やはり、どうにも会話が噛み合わないが、そればかりは仕方がない。
いっそ、ここはサンドウィッチハントに付いて、事細かに説明をし、彼女らにサンドウィッチの正しい知識を享受してやろうかとも思ったが、それは随分とめんどくさそうだ。
ここで、サンドウィッチハントに付いて朗々と語っても仕方がないので、私は話題を変える。
「そう言えば、貴方達は正しいサンドウィッチの見分け方を知っているかしら?」
「正しい見分け方って……どういう意味だ?」
「具を見ればそれがどんなサンドイッチか分かるでしょう」
魔理沙が質問の意図を聞き、霊夢はあっさりと答えた。
「魔理沙は考えすぎ、私はそのままの意味で聞いたのよ。そして霊夢の答えも正しくないわ。確かにサンドウィッチが口を開けていれば中身が見えるけど、閉じていたらどうするのよ」
「いや、サンドイッチって普通は具が見えるものでしょう」
「あー、養殖物はだらしないの多いらしいわね」
「洋食モノって、サンドイッチはそもそも洋食じゃない」
やはり、最近の子は分かっていないようだ。
私は、一つ溜息をつくとマヨネーズを手にとって二人の前に置いた。
「例えば、BLTサンドだったら木にマヨネーズを塗っておくと、夜にマヨネーズを塗った木に寄ってくるのよ。逆にハムサンドは、溶けたチーズに寄ってくるわ。貴方達が和食党というのは知っているけど、これくらいは知っていても損はしないんじゃない」
そういうと魔理沙と霊夢は、ポカーンと口を開けて私を見ている。
まあ、仕方がない。
「では、お嬢様。二人を実際にサンドウィッチハントに連れて行ってはどうでしょうか」
咲夜が良い事を言った。
確かに、百聞は一見にしかずとはよく言う。
もしかしたら、サンタクロースの正体を子供に教えるように子供の夢を壊す事になるのかもしれないけど、二人とも良い歳だ。そろそろ大人の階段を上っても良い頃だろう。
それに、こうしてサンドウィッチの捕まえ方に見分け方、そして食べ方も知っていれば、いざという時に困るまい。
「それじゃあ、今のうちに準備をしてくとして、貴方達はどんなサンドウィッチが食べたい?」
そう言って、私は蜂蜜とマヨネーズを手に取った。
夜中、私と霊夢と魔理沙と咲夜に美鈴は霧の湖の近くにある森の中に居た。
「というか、お前らの意見を総合するとサンドウィッチは生き物って事になるんだが」
「生きたサンドウィッチを見た事がないと、どうしてもそうなるでしょうね」
「まあ、見てみましょうか。レミリア達が私達を担いでいるのか、それともサンドウィッチが生きているという戯言が真実なのか」
失礼な事を霊夢が言う。
こちらは、親切心でサンドウィッチが生きているという事を教えてあげようというのに随分な了見だ。
しかし、私は彼女らよりもずっと年上。我慢して、素直にサンドウィッチハントに向かう事にする。
「しかし、カブトムシを捕るのと似てるわね」
「まー、大差は無いですよ。アレって虫みたいなものだし」
霊夢の文句に応えながら美鈴は気楽に先頭を歩く。
紅魔館でサンドウィッチを取ってくるのは彼女の仕事だ。餅屋は餅屋、手慣れている者に任せた方が良い。
歩いて行くと、マヨネーズを塗った木のある場所に近づいてきた。
「……お嬢様。沢山います」
美鈴が小声で私達に囁く。
「それじゃあ、バスケットを用意するわね」
咲夜も捕まえたサンドウィッチを入れる為のバスケットを取り出した。
木の方を見れば、BLTサンドが三匹ほど蠢いているのが見える。
「……居るのか? 全然見えないぜ」
ああ、忘れていた。
人間は夜目が全然利かないんだ。
咲夜に目配せをすると、彼女は明かりを木に向けた。
「…………」
「……へぇ」
魔理沙は絶句したままで、霊夢は面白そうに声を上げる。
マヨネーズを塗られた木には、BLTサンドがマヨネーズを求めて群がっていたからだ。
木に蠢くBLTサンドの集団は、見慣れない者にとってはショッキングな光景だろう。
しかし、美鈴は流石に手慣れていて、噛みつかれないようにBLTサンドの背中を持っては、咲夜の持つバスケットに入れていく。
「私もやるわね」
そう宣言して、私もBLTサンドの背を持った。
すると、私の鋭敏な鼻腔をBLTサンドが放つベーコンの香りが直撃する。
やはり死んだサンドウィッチは食べやすくていいけど、生きたサンドウィッチは活きが良いし、とても美味しそうだ。
「ここで食べても良いかしら」
咲夜に聞くと「噛まれないように気を付けて下さいね」と注意をしてくる。
ふん、私を誰だと思っているのだか。
サンドウィッチに口を噛まれるほど餓鬼じゃないのだ。
「私も取れたて、頂いて良いかしら」
「……わ、私も! 私も食べてみたいぜ」
霊夢と魔理沙が声を上げた。
「こっちがBLTサンドの頭よ。そして、ここをガブって噛んでやると大人しくなるから、そうなったら食べてもOK」
なので、私は二人にBLTサンドの食べ方をレクチャーしてやる。すると、二人は初めてなのにサンドウィッチをスムーズに食べ始めた。
少し生意気な気もしないでもない。
私がサンドウィッチを上手に食べられるようになるまで、随分と時間がかかったのに。
「うめー!」
「……本当っ、これはちょっと言葉にできないわね」
二人が口々に舌鼓を打っているのを見て、私もBLTサンドを食べる事にする。
一口目で、BLTサンドの頭を噛んで仕留めてから、私はベーコン・レタス・トマト・サンドウィッチを食べ始めた。
すると、BLTサンドが主食とするマヨネーズのまろやかで濃厚な味、それにカリカリなベーコンの旨みにトマトとレタスの爽やかさが絡み合い、極上のハーモニーが口内に奏でられる。
マヨネーズが垂れてきたので、手を舐めて、少しはみ出たトマトをパクリといく。
卵サンドも良いし、アメリカンクラブハウスサンドも悪くない。
しかし、このBLTサンドはやはり格別だ。
今回捕獲したBLTサンドはオーソドックスなモノで、マヨネーズは辛子マヨネーズではなく普通のマヨネーズだし、チーズもスライスオニオンも入っていない。
だけど、そのシンプルな味が後を引き、気が付いたら私はBLTサンドを瞬く間に食べ終わっていた。
「真夜中に食べるサンドウィッチってのは、どうしてこんなに美味しいのかしらね」
口に着いたマヨネーズを咲夜に拭いて貰いながら、私はしみじみと呟く。
「それは、どこか秘密めいた味がするからではないでしょうか」
私の独り言に咲夜が答えた。
それでなんとなく、私は考える。
子供達がサンドウィッチについてほとんど何も知らないのは、大人がこの味を秘密にしたいからなのでは、と。
そう確信したから、私は、
「ねぇ、二人とも。この事は私達の秘密だからね」
と、霊夢と魔理沙に向かって、人差し指を口に当てた。
すると二人も、ニヤリと笑って口に人差し指を当てる。
秘密を共有した私達は、笑い合い次のサンドウィッチハントに向かう。
そうして、私達は存分に活きの良いサンドウィッチを堪能したのであった。
それからしばらくして、咲夜にサンドウィッチを所望してみた所、どうにも最近はサンドウィッチが捕まらないと謝られた。
なんでも、生きたサンドウィッチの味を覚えた紅白と白黒が乱獲をして、だいぶ数が減ってしまったのだという。
こうなると、しばらくサンドウィッチの個体数が増えるまで待たないといけないだろう。
あるいは、いつかに魔理沙が言ったようにサンドウィッチの養殖をするのも良いのかもしれない。
天然物に比べれば味が落ちるそうだが、安定してサンドウィッチが供給されるのは悪くない。パチェに少し話をしてみようか。
そうなるとサンドウィッチ用の温室を作る事になるわけで、かなりの大事業となるだろう。
どの道、私がサンドウィッチを楽しめるのはしばらく先になりそうだ。
サンドウィッチが生き物である事を知る者は少ない。
それはきっと、私がサンドウィッチを楽しむ為には重要な事なのだろう。
了
しかし、それは仕方がないだろう。
基本的に流通しているサンドウィッチは死んだものばかりだし、きっと最近の子供は生きたサンドウィッチを見た事すらないに違いない。
紅魔館に遊びに来た霊夢と魔理沙は、何の疑問もなくサンドウィッチのお尻から齧りついていた。
それを見るに、彼女達はサンドウィッチが生き物である事を知らないのは明白だろう。
本来、サンドウィッチは頭から齧り付く食べ物なのだ。
それは生きたサンドウィッチが食卓に給されていた頃の伝統であり、最初の一噛みでサンドウィッチを殺す為に、サンドウィッチの急所である頭に齧りつくのである。
そうやって仕留めないと、サンドウィッチは食べた人間の腹でも動き回り、お腹を食い破ろうとしてとても危ない。
昔は、サンドウィッチ一つ食べるのも命がけだったのだ。
「レミリア。なに黄昏てるんだ?」
魔理沙が声をかけてきた。
私は、ここでサンドウィッチに関する昔話をしても仕方がないと思い「なんでもないわ」と答える。
死んだサンドウィッチしか食べた事がない人間に、生きたサンドウィッチの話は理解しにくいだろう。
そう言えばフランも、自分が食べているお菓子の材料が人間の血だと知らない。
きっと、そういう事は知らないままの方が良い事なのかもしれない。
「しかし、このサンドイッチは美味しいわね。私はご飯派だけど、思わずパン派に鞍替えしてしまいそうだわ」
「そりゃ、咲夜が作った洋食だもんな。美味いに決まってるぜ」
「……それは、養殖じゃなくて天然ものよ」
なんとも的外れな事を言っていたので訂正する。
しかし、咲夜がサンドウィッチの養殖をするとは……魔理沙の言う事は突拍子もなくて面白い。
「あー、天然か。確かに咲夜って天然なところがあるよなぁ。意外と抜けてるっていうか」
そう言って魔理沙はサンドウィッチを一気に詰め込んだ。
私も、BLTサンドを頭から一気にいく。
そう言えば、昔にBLTサンドとハムサンドを間違えて、唇を怪我したのは良い思い出だ。
BLTサンドは普通に頭を噛めばいいが、ハムサンドは頭がやや大きいのでBLTサンドと同じように頭を噛んでも仕留められない。
ハムサンドに食べ慣れていなかった私は、まだハムサンドが生きている事に気が付かず食べてしまい、お腹の中を噛みつかれて痛い思いをしてしまったものだ。
「失礼します」
咲夜が台車を押しながら部屋に入ってくる。
台車には紅茶のポットやデザートなどが積まれていた。
「お、咲夜。サンドイッチ美味かったぜ」
「そうね。家で作るのとは一味違うわ」
霊夢と魔理沙が口々に褒め称えるが、咲夜は困ったような笑顔を浮かべる。
それは、そうだろう。
「二人とも、うちのメイド長を困らせないでほしいわね」
「あー、なるほど。ここのサンドイッチは紅魔館秘伝ってわけか? 門外不出って事か」
「いや、門外不出っていうか。取ってきた奴なんだけど」
「……盗ってきた? なんだレミリアも隅に置けないよな。まあ、前に八卦炉を持っていかれた事もあったし、そういう事もあるか」
やはり、どうにも会話が噛み合わないが、そればかりは仕方がない。
いっそ、ここはサンドウィッチハントに付いて、事細かに説明をし、彼女らにサンドウィッチの正しい知識を享受してやろうかとも思ったが、それは随分とめんどくさそうだ。
ここで、サンドウィッチハントに付いて朗々と語っても仕方がないので、私は話題を変える。
「そう言えば、貴方達は正しいサンドウィッチの見分け方を知っているかしら?」
「正しい見分け方って……どういう意味だ?」
「具を見ればそれがどんなサンドイッチか分かるでしょう」
魔理沙が質問の意図を聞き、霊夢はあっさりと答えた。
「魔理沙は考えすぎ、私はそのままの意味で聞いたのよ。そして霊夢の答えも正しくないわ。確かにサンドウィッチが口を開けていれば中身が見えるけど、閉じていたらどうするのよ」
「いや、サンドイッチって普通は具が見えるものでしょう」
「あー、養殖物はだらしないの多いらしいわね」
「洋食モノって、サンドイッチはそもそも洋食じゃない」
やはり、最近の子は分かっていないようだ。
私は、一つ溜息をつくとマヨネーズを手にとって二人の前に置いた。
「例えば、BLTサンドだったら木にマヨネーズを塗っておくと、夜にマヨネーズを塗った木に寄ってくるのよ。逆にハムサンドは、溶けたチーズに寄ってくるわ。貴方達が和食党というのは知っているけど、これくらいは知っていても損はしないんじゃない」
そういうと魔理沙と霊夢は、ポカーンと口を開けて私を見ている。
まあ、仕方がない。
「では、お嬢様。二人を実際にサンドウィッチハントに連れて行ってはどうでしょうか」
咲夜が良い事を言った。
確かに、百聞は一見にしかずとはよく言う。
もしかしたら、サンタクロースの正体を子供に教えるように子供の夢を壊す事になるのかもしれないけど、二人とも良い歳だ。そろそろ大人の階段を上っても良い頃だろう。
それに、こうしてサンドウィッチの捕まえ方に見分け方、そして食べ方も知っていれば、いざという時に困るまい。
「それじゃあ、今のうちに準備をしてくとして、貴方達はどんなサンドウィッチが食べたい?」
そう言って、私は蜂蜜とマヨネーズを手に取った。
夜中、私と霊夢と魔理沙と咲夜に美鈴は霧の湖の近くにある森の中に居た。
「というか、お前らの意見を総合するとサンドウィッチは生き物って事になるんだが」
「生きたサンドウィッチを見た事がないと、どうしてもそうなるでしょうね」
「まあ、見てみましょうか。レミリア達が私達を担いでいるのか、それともサンドウィッチが生きているという戯言が真実なのか」
失礼な事を霊夢が言う。
こちらは、親切心でサンドウィッチが生きているという事を教えてあげようというのに随分な了見だ。
しかし、私は彼女らよりもずっと年上。我慢して、素直にサンドウィッチハントに向かう事にする。
「しかし、カブトムシを捕るのと似てるわね」
「まー、大差は無いですよ。アレって虫みたいなものだし」
霊夢の文句に応えながら美鈴は気楽に先頭を歩く。
紅魔館でサンドウィッチを取ってくるのは彼女の仕事だ。餅屋は餅屋、手慣れている者に任せた方が良い。
歩いて行くと、マヨネーズを塗った木のある場所に近づいてきた。
「……お嬢様。沢山います」
美鈴が小声で私達に囁く。
「それじゃあ、バスケットを用意するわね」
咲夜も捕まえたサンドウィッチを入れる為のバスケットを取り出した。
木の方を見れば、BLTサンドが三匹ほど蠢いているのが見える。
「……居るのか? 全然見えないぜ」
ああ、忘れていた。
人間は夜目が全然利かないんだ。
咲夜に目配せをすると、彼女は明かりを木に向けた。
「…………」
「……へぇ」
魔理沙は絶句したままで、霊夢は面白そうに声を上げる。
マヨネーズを塗られた木には、BLTサンドがマヨネーズを求めて群がっていたからだ。
木に蠢くBLTサンドの集団は、見慣れない者にとってはショッキングな光景だろう。
しかし、美鈴は流石に手慣れていて、噛みつかれないようにBLTサンドの背中を持っては、咲夜の持つバスケットに入れていく。
「私もやるわね」
そう宣言して、私もBLTサンドの背を持った。
すると、私の鋭敏な鼻腔をBLTサンドが放つベーコンの香りが直撃する。
やはり死んだサンドウィッチは食べやすくていいけど、生きたサンドウィッチは活きが良いし、とても美味しそうだ。
「ここで食べても良いかしら」
咲夜に聞くと「噛まれないように気を付けて下さいね」と注意をしてくる。
ふん、私を誰だと思っているのだか。
サンドウィッチに口を噛まれるほど餓鬼じゃないのだ。
「私も取れたて、頂いて良いかしら」
「……わ、私も! 私も食べてみたいぜ」
霊夢と魔理沙が声を上げた。
「こっちがBLTサンドの頭よ。そして、ここをガブって噛んでやると大人しくなるから、そうなったら食べてもOK」
なので、私は二人にBLTサンドの食べ方をレクチャーしてやる。すると、二人は初めてなのにサンドウィッチをスムーズに食べ始めた。
少し生意気な気もしないでもない。
私がサンドウィッチを上手に食べられるようになるまで、随分と時間がかかったのに。
「うめー!」
「……本当っ、これはちょっと言葉にできないわね」
二人が口々に舌鼓を打っているのを見て、私もBLTサンドを食べる事にする。
一口目で、BLTサンドの頭を噛んで仕留めてから、私はベーコン・レタス・トマト・サンドウィッチを食べ始めた。
すると、BLTサンドが主食とするマヨネーズのまろやかで濃厚な味、それにカリカリなベーコンの旨みにトマトとレタスの爽やかさが絡み合い、極上のハーモニーが口内に奏でられる。
マヨネーズが垂れてきたので、手を舐めて、少しはみ出たトマトをパクリといく。
卵サンドも良いし、アメリカンクラブハウスサンドも悪くない。
しかし、このBLTサンドはやはり格別だ。
今回捕獲したBLTサンドはオーソドックスなモノで、マヨネーズは辛子マヨネーズではなく普通のマヨネーズだし、チーズもスライスオニオンも入っていない。
だけど、そのシンプルな味が後を引き、気が付いたら私はBLTサンドを瞬く間に食べ終わっていた。
「真夜中に食べるサンドウィッチってのは、どうしてこんなに美味しいのかしらね」
口に着いたマヨネーズを咲夜に拭いて貰いながら、私はしみじみと呟く。
「それは、どこか秘密めいた味がするからではないでしょうか」
私の独り言に咲夜が答えた。
それでなんとなく、私は考える。
子供達がサンドウィッチについてほとんど何も知らないのは、大人がこの味を秘密にしたいからなのでは、と。
そう確信したから、私は、
「ねぇ、二人とも。この事は私達の秘密だからね」
と、霊夢と魔理沙に向かって、人差し指を口に当てた。
すると二人も、ニヤリと笑って口に人差し指を当てる。
秘密を共有した私達は、笑い合い次のサンドウィッチハントに向かう。
そうして、私達は存分に活きの良いサンドウィッチを堪能したのであった。
それからしばらくして、咲夜にサンドウィッチを所望してみた所、どうにも最近はサンドウィッチが捕まらないと謝られた。
なんでも、生きたサンドウィッチの味を覚えた紅白と白黒が乱獲をして、だいぶ数が減ってしまったのだという。
こうなると、しばらくサンドウィッチの個体数が増えるまで待たないといけないだろう。
あるいは、いつかに魔理沙が言ったようにサンドウィッチの養殖をするのも良いのかもしれない。
天然物に比べれば味が落ちるそうだが、安定してサンドウィッチが供給されるのは悪くない。パチェに少し話をしてみようか。
そうなるとサンドウィッチ用の温室を作る事になるわけで、かなりの大事業となるだろう。
どの道、私がサンドウィッチを楽しめるのはしばらく先になりそうだ。
サンドウィッチが生き物である事を知る者は少ない。
それはきっと、私がサンドウィッチを楽しむ為には重要な事なのだろう。
了
養殖は噛むとトマトの形が崩れるのでちょっと苦手なのですが……
ヒミツニスルヨ
普通に考えればあんなハラワタむき出しの状態でいるわけがないのに。嘆かわしいことです。
養殖しか食べた事がないから知りませんでした。天然物を一度食べてみたいです。
しかし、私たち養殖家だって日々努力をしているのだ。
お嬢様にはそれを分かってほしい。
『レミリアと霊夢がウィッチ(魔理沙)をサンドして美味しく頂く話』だと思った変態は俺だけでいい
代わりに竹輪が採れますがね。竹輪は酢醤油にごま油を混ぜて煮詰めた物に良く集まりますが、風味が損なわれるので一晩寝かせないと食べられ無いんですよ
しかし面白かった
素人は絶対に巣に近づくな
ツナサンドの群れに右腕を持ってかれた、俺からの注意だ
文章も読みやすかったです!!
これは100点あげざるを得ない!
けど、食べてみたいなぁ。
あれは流石に酷いと思ったね
きちんと栄養を与えていないからか、ストレスからか、異常な程やせ細っている
いくら養殖の難易度が高いといってもあれはひどすぎると言わざるを得ない
あと保存料や着色料を使うのも外道と言わざるを得ない
死んだサンドウィッチはすぐに腐ってしまうとはいえ、化学薬品で無理矢理持たせるのはな…
マク○ナルドでバイトしていた頃は毎日が格闘だった……
養殖物であのイキの良さだから、天然ものは鬼とかじゃないと返り討ちにされるだろうね。
とても面白かったです。
病院に行った方がいいのだろうか?
そんなことはなかったぜ!
こっちの世の中じゃ絶滅したんかな。
どこを見ても養殖モノばかりで困る。
天然モノが欲しかったら山奥まで行かないとダメなんだろうか
食べ物関係のファンタジーは大好きです
天然モノの照り焼きチキンサンドなんて今じゃ高級品ですし。
天然記念物に指定される日も近いかもしれません。
おとなしくて別に危険じゃな…
なるほど、最近こっちで見ないのはそのせいだったか。
● ● いけないのですね!
" ▽ "
まさか死体の贋作作りを延々されていたとは思いもしませんでした。
それともウチの工場長は人知れず生命の禁忌を犯そうとしているのだろうか。
これはすごい。
マックじゃワタとるついでにミートなしとかザラだから
一度、ハ二ーサンドの巣(コロニー)を煙で焙って大量捕獲したんですが……臭みが酷い。
最近じゃ外来のトルティーヤやタコス、ケバブの養殖が人気で忙しいみたいですよ。
早苗さん……リアルに虫食べてそう。
ほんとおもろかったです
食べられる私はきっと特別な
存在だと思いました
それにしても、外来種は頭がどっちか分かりにくて食べにくいな。
足が早いので夏休みの宿題には向きませんでした。
今、こいつが俺の手に噛み付いたんだって!……う、嘘じゃねぇし!ホントだし!
甦る高校時代のトラウマ。そういや、あれからうちでサンドイッチ食べてないなぁ……
養殖物でアレなんだから、天然物はもっと凄いんでしょうね。いつか食べてみたいです。
まぁ絶滅危惧種のクラブハウスサンドを作中で取り上げなかったのには、作者の良心を感じ取れますねぃ
この味を後世に残すため地球環境見直しませんか?
早く春になんねぇかな
ジェネレーションギャップってやつか。少し切ない。
昔は天然ものも、お小遣いで買えるくらいでしたね。あのころはよかった……。
まぁ山の開拓とかでBLTサンドの生息地が減ってきて生のBLTを見る機会がないからだろうけどさ
これも時代の流れってもんかねえ
自分はカツサンドが大好きです。
万越えるのはえーよww
マスタード塗ったら「やせいの ホットドッグが あらわれた!」みたくなるのかな?
ちと公園の木に塗ってくるわ
本当に懐かしいわ。
袖をめくり上げて、捕まえる時に噛みつかれた左肩の傷跡を出して武勇伝を自慢げに話してたっけ……
そんな大好きだった祖父も6年前にあっちの世界に旅立っちまったが……
幻想郷の生態系これ如何に?
狩りについてって、じっちゃんが傷だらけの手で俺のために獲ってくれたBLTの味が、ちょっとしょっぱかったのを思い出したよ。
つーかこの時間に食い物の話読むとあれだ。
腹へったぞこのやろう。
ハンバーガーも食べたいです。
アタックオブキラートマトみたいに人を襲い始めなければよいが…
(゚л゚)
エッ
俺が小坊の頃は学校の給食でも天然物が出てたもんだが。
春になったら久しぶりにハントしに行くかなぁ。
(作者の頭ん中を解剖してみたいわ
きっと脳味噌がベーコンとキャベツでサンドされてるに違いないw)
いきなり上から落ちて来るんだもん。
衝撃だwww
意表を付いてスパーンと終わるような終わり方も嫌味がなくて面白かった
養殖やハウス栽培なら食べたい時にいつでも食べられるし便利なんだけどね、なんか味気ないのさ。
やっぱり季節感も味の内だと思うのよ。お嬢様は良くわかっていらっしゃいますな。
どうやら北海道での入手は困難なようです。
民明書房刊『サンドウィッチ ~その真実の歴史~』
ペンギンが北極から南極をまたに掛ける渡り鳥だっていうぐらいには知られていること。
お腹の中をガジガジ噛みつかれる痛みは、慣れると病みつきになって悶絶必至だとか……。
ちょっと興味ありますよね。八意先生に胃腸薬をもらってから試してみようと思います。
最近はまったく見なくなりましたがまた食べてみたいですね
どうして最近のこどもはそんな残酷なことするんだろう……。
あの獰猛さと言ったら、ヒグマでも冬眠中を襲われちゃぁひとたまりも無いだろうな・・・
最近はまったく見かけないし
絶滅して幻想郷に行ってしまったんだとしたら、食べてしまえばよかったなあの時のカツサンド
さておきコメ18と64の方、今度一緒に美味い酒を酌み交わそうじゃないか。
ただし祖父母の時代から比べると数は減っているようです。
懐かしいなあ、あの味・・・春になったら童心に帰って、サンドウィッチハントしてこようかな・・・
上手く言葉に出来ないこの感覚はいったい。
サンドウィッチの描写が食欲をそそりすぎてお腹が空いて仕方ないです。
まさかの大真面目だったとは・・・
やはり・・・ぶふっ、幻想郷は・・・ぐすっ、常識に囚われては・・・ひっく、いけないのですね・・・っ(笑悶死)
※しばらくお待ちください
は、はぁ・・・やっとリザレクション致しました。
お待たせしました、コメントの続きです↓
それとコメント欄のシュールさにダブルでやられました。
創想話には幻想郷住人や幻想郷出身者が数多く覗きに来ているという噂をどこかで小耳に挟んだことがありますが、本当だったんですね!
こんなにも天然ものを知る人が多いなんて・・・
こちらの世界にも僅かながらまだ天然ものが生息しているとはいえ、私も養殖どころか贋作死体の大量生産品しか食べたことがなくて。皆さんがうらやましいです。
一度食べてみたいな獲りたてサンドウィッチ。きっとワイルドでフレッシュで格別なお味なんでしょうね・・・(遠い目)
本文よりコメント欄の方がなげぇ!
何かあれば天然天然と……現在の養殖は昔に比べ遥かに味が増している。
それはもうあんた等が言う天然物に引けを取らないほどにね。
それだけじゃない。
今のサンドウィッチは安全性を重視した改良を重ねられ噛まれたとしても甘噛み程度の痛みしか齎さないのさ。
天然物を食べようとして逆に自分の指を食い千切られた、なんていう笑い話はもう古い。
これからは、養殖物の時代なのさ。
一度生きた養殖物のサンドウィッチを食べてみろ。
天然物が良いなんて戯言、もう二度と口に出来なくなるぞw
・・・負けたぜ
今度、実家に帰った時に久々に捕まえに行くか
地球温暖化のせいで数が減ってきたから、
最近じゃ養殖じゃないと安定した供給ができないんだよな
でも結局は食べちまうんだよなあ。
「食べたいほど可愛い」とは正にこのこと。
大きくて活きのいい梅サンドを採った時には友達に目一杯自慢したものでしたよ
ヒミツダネ
戦時中はよく密林なんぞで捕食したもんじゃ。
えっ
めったに聞けないけど。
でも最近はここら辺も開発が進んできてねぇ…
その内見れなくなっちゃうんじゃないかと危惧している。
完全に再現して創られた可能性があるってこと?
昔の人ってすげえバイオテクノロジーを持ってたんだな。
おもしろかったですw
いつか実物を見てみたいものです
その時は必死で登山用の杖で杖術を駆使して応戦したね
ガチもんの弱肉強食を経験したよ ほんと杖術を小さい時から厳しく習ってなかったら今頃僕はいないだろうな あの味は本当に格別だったな、同じ経験は二度としたくないけどw 厳しい師範にホント感謝だよ全く
途中に ハ を入れないゼル伝初期仕様www
この話のセンスは何なんだwww
(これがシュールの極みか…)
最初にコメントでノった人偉いw
本文コメント両方で楽しませてもらいました。
霊夢とまりさは乱獲やめいw
久しぶりに食べたくなった
久しぶりに食べたくなった
久しぶりに食べたくなった
久しぶりに食べたくなった
久しぶりに食べたくなった
不用意に近づくと、死にますよ?!