Coolier - 新生・東方創想話

レミリア様の受難、と見せかけて

2005/05/31 17:12:59
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「今宵は ニュルニュル ニュームーン~♪」
「レミリア様と ネッチョネッチョ ハーネムーン~♪」

 己のストレートな欲望を歌に乗せ、紅魔館をスキップで駆け抜けるのは我らがメイド長
普段の彼女を知る者ならば耳を塞ぎ、目を覆い、全てを無かった事にしてしまいたくなるその姿は
しかし、その日、新月の日においてだけ単なる日常として機能している。


 新月、と言えば今更説明するまでも無いが、要するに新月パワーで幼女化したレミリアが
「さくやおねえちゃんだ~いすき」状態になる事に加え、当日の記憶は全て抹消される
つまり、痕跡が残らないのであれば何しても、何をさせてもノープロブレムな
何とも都合の良い(倒錯した趣味を持つ者に取って)月に一度の出玉解放ラッキーデーなのである。

「ちっちゃーい レミリアさ~ま~ ちっちゃーい レミリアさ~ま~」
「ちっちゃーい レミリアさ~ま~ み~つけた~♪」

 人目を憚る事も無く妄想の翼を広げ、ついに欲望の園に降り立った咲夜は
「た~♪」の部分でノックもせずにレミリアの寝室のドアを開け放ち、入室
その場で両目を瞑り、片膝を着き、両手を広げた愉快な姿勢のまま固まる。

 いつもならそうしていれば「さくやぁ~」だなんて甘ったるい声が近づいてきて
ぽふんと抱きついてきて乳臭い香りが鼻腔をくすぐって彼女の鼻腔からはパッション汁が…
…どうも様子がおかしい、確かに人の気配はするのだが、全く動こうとしないのだ
そんな普段とは違う様子も咲夜は気に留める事も無く頭の中では

(ああもう、焦らしプレイだなんて幼いクセに妙な事覚えちゃって…小・悪・魔なんだから!
後で舌を入れてやろう)

 などと、今後展開される桃色シナリオの細部を詰めている最中なのだが
突然、そんな不埒な妄想は全て看破しているわ、とため息混じりにレミリアの声。

「薄々感づいてはいたけど、貴方って本当に駄目な子だったのね……」
「いやぁんっ♪ レミリア様そんなに吸っても私はまだ出な…あい?」

 レミリアの声が部屋に響く、普段の甘ったるいれみりゃボイスに混じり
濃度の薄いヘリウムガスを少量吸ったようなハスキーボイスが文字通り部屋に響いた。

 普段とは何かが違う事をこの段階に来てようやく理解した咲夜はバカ丸出しのポーズを解き
思考を切り替え、声の出所を探る…まぁ、探るまでも無いが声の主はレミリアのベッドの上に座っている。

「何なのアレは…」

 しかしその人物はレミリア様でも、れみりゃでも無かった、先程の咲夜の歌で表現するなら
「とってもちっちゃいレミリアさ~ま~♪」と言った所だろうか
要するに人形サイズのレミリア様っぽいのがそこには居た。


「アレ、だなんて自分の主に向かって随分な物言いね?」
「レミ…リア様? で合ってます?」
「合ってるも何も、いつぞやの満月で目をやられてしまったの?」
「視覚から得られる情報で判断するならば尚更、レミリア様だと考えるのは難しいのですが…
  自分の姿が今どうなってるか、判ってますか?」
「もしも鏡に私の姿が映るなら一目瞭然だろうけど、何となく察しは付いてるわ」
「一体なんでこんな事に…」

と、呟きながら咲夜はすっかり縮んでしまった主を眺める、ちっこい手、ちっこい足、ちっこい羽
普段のレミリアをそのまま縮小した様な姿はまるで人形で、そのサイズに見合って声もなんだかキーキー甲高い音が混じってる。

(これはこれで…はっ…はぁ……)

部屋に備え付けられたクローゼットには、新月の時の為に幼女サイズの衣装も一式揃っているのだが
流石にこのサイズに合う服は無いのか、今はシーツを纏っている
つまり今レミリアの体は一枚の薄布で、羽が邪魔してる為に両肩は露出していて…

「さ、咲夜? 鼻息が荒くなってきたわ、よ…?」

咲夜の秘められた変態性を知ってしまったレミリアは恐る恐る指摘してみる
朝目覚めた時、真っ先に試して判った事だが今のレミリアには何の力も無い
体のサイズが劇的に縮んだ事であらゆる体力筋力魔力が低下、今の彼女は名実共にお人形さんな訳で
咲夜がトチ狂った行動に出ても抵抗する事が出来ない訳で………下手すれば大変な事になるのだ。


「何言ってるんですか、そんな事…第一何に対して鼻息を荒くするんですか?」
「あ、ああ、気のせいだったみたいね! 気のせい、私もこんな状況になって混乱してるのかしら」
「こんな姿になれば混乱もしますね…こんな、ちっちゃくて、かわいらしい……」

慌てて取り繕った様な顔になる咲夜、されど彼女の鼻から滴る1対の赤い筋は何かを雄弁に物語る
その様子に戦慄したレミリアは慌てて話題を打ち消す事にした、コマの進め次第では……食われる。

「そそ、そういえば! 原因に心当たりがあるわだからパチェの所に話を聞きにいくわよパチェが恐らく原因なんだから早く行くわよ!」
「では早急に話を聞く必要がありますね、お部屋までお連れしますよ」

(いや、そんなのパチェをここまで呼んでくれれば済むのに…)

なんてレミリアの心の声は咲夜に届くハズも無く、生まれたままの姿+シーツのレミリアをむんずと掴み
胸に抱きしめ咲夜は部屋を後にした、その気があるのか無いのか分かる訳も無いのだが
レミリアは自分の体が不自然なくらいに咲夜の胸に押し付けられてる様な感覚を覚えつつ
努めて、咲夜の表情を見ない様にしながらパチュリーの部屋まで運ばれていった
抱かれた瞬間から熱っぽい吐息を感じていたので表情を見るまでも無い話ではあったのだが…


「今日はまた、随分と縮んでるね」

人形サイズのレミリアを見ても全く動揺する事無く、パチュリーはさらりとこんな事を言ってのけた。

「そんな他人事みたいに言ってくれるけど、原因を辿ればパチェに行き着くじゃない」
「もっと辿ればレミィに行き着くでしょ?」
「くっ、でもこんな愉快な事態になると分かってたら…」
「まあ、予想しうる結果の一つではあったわね」
「何で説明してくれなかったの!」
「知的好奇心がシクシクと疼いて…」

「その辺りも含めて詳しく説明していただけますか? パチュリー様」

未だに状況を把握出来てない自分を置いて、議論を続ける二人を前に
居心地の悪さを感じ始めた咲夜は言葉を切り出した。



「ここの所ずっと、私は吸血鬼に関する資料を集めてたの」
「何でまたそんな事してたんですか」
「この分野……吸血鬼の事ね、この分野はあまり研究が進められてないの
対象が対象だから嗅ぎ回って目を付けられると、これ」

 これ、と言いつつパチュリーは手刀で自分の首をトンと叩く。

「例えば日光が苦手だとか、流れる水を渡れないとか、この程度の知識なら
  そこらに湧いてる妖精でも知ってるし、半ば常識みたいなものだけど」
「だけど?」
「だけどねぇ…そこから一歩先に踏み出すとなると非常に難しくなってくるの
  どの資料も出所、信憑性はバラバラ、そもそも絶対数が少ない、理由はさっき言った通りね」
「それはそれは」

 絶対数が少ないとは言うものの、パチュリーの周囲にはうず高く積まれた書物、或いは紙の束が乱立している

「それらの資料を一回集めて、吸血鬼に関する理論大系を構築しようとしてたのよ
誰もやろうとしないし、魔女ってそういう生き物だから」

魔女がどういう生き物なのかは分からなかったが、話の筋は理解出来た咲夜とレミリアはうんうんと頷く。

「で、その資料の中からあの魔法を見つけ出して私の元を訪れたと」
「そういう事になるわ」
「あの魔法、とは?」
「ええ、そうやって集めた資料の中から一冊の研究書が出てきたの、タイトル、著者は共に失われてて不明だけど
  内容は……簡単に言うと月齢と吸血鬼の関係を纏めた物ね、それもかなり深い所まで」
「深い所ですか、パチュリー様が言うくらいだから相当深かったんですね、よく分かりませんが」

「勿論、単なる考察ではあるけど、新月時における幼女化のメカニズムが載ってたの、即実践可能な魔法の展開図も一緒にね」
「その魔法が今の状況を引き起こしたとそういう事ですか、ちなみにどんな内容の魔法だったんですか?」
「詳しく説明してると何日かかるか判からないから端折るけど、レミィって存在を構成してる力の中で
精神を構成してる部分からそれを少し借りて肉体の方に回す感じね」

「つまり私はその出所不明な怪しい魔法の実験台にされたって事で合ってる?」
「酷いよレミィ、私は貴方の事を思って……」
「さっきは知的好奇心がどうのこうの言ってたじゃない…」

むきゅーと擬音を鳴らしながらいじけるパチュリーをみながらやれやれ、と言った風にレミリアはキーキーと呟く。

「という事は、レミリア様が縮んでしまったのは単なる一過性の出来事であって、一晩立てば元通りと言う事ですか?」
「ええ、特に問題も無いみたいだし、レミィが望むならこれから新月の日は幼女の代わりにお人形さんになれるわ
幼女派と人形派、さあ、今のお気持ちはどっち? なんちゃって」

「逃れられないのは分かってるけど…最悪の二択ね」
「元気出してくださいよレミリア様、あ、ちなみに私は幼女派で、今の所はですけど」

丸一日の記憶が飛ぶ幼女化と、意識は保てるが非力な状態で一日を過ごす事になる人形化
どちらにしても吸血鬼に取って月に一度のアノ日は避けられない物なのか、とレミリアは頭痛を覚える。

「今日一日この姿で過ごしてみてから決めるわ、パチェが第三の選択肢を用意してくれる事に期待しながらね」

「期待に沿えるかどうかは分からないけど、一応探っておくね」
「なら期待しないで待つ事にするわ」
「とこれでレミィ」
「まだ何かあるの?」
「キス…………してもいい? いいよね? するよ? するよ!」
「ひっ、落ち着いて、落ち着いてってば、痛っ」

 一瞬の出来事だった、、病弱設定は何処へやら、それまで普通に話をしていたパチュリーは
目にも止まらぬ動きで咲夜からレミリアをもぎ取り、万力の様な力でレミリアの両肩を掴むと自らの唇へ導き始める。

「何言ってるの私は冷静よ努めて冷静よ至って冷静よこれから友人としての一線を越えるってのに
冷静になれない訳無いじゃない冷静な私は冷静にレミィの口内を弄ぶんだからあくまで冷静に」

 そして今も壊れたラジオの様に冷静冷静、と呟く友人の目を見るレミリア
いつから狂い始めていたのかは分からないが、既に理性の光は無かった───パチェもそっち側の住人だったのね。

 お互いの鼻と鼻が触れ合いそうな距離まで近づき、レミリアは再び咲夜に抱きかかえられ
床には額から奇妙なオブジェを生やしたパチュリーが転がっていた

「はあっ、はあっ、この色ボケ魔女はっ、油断も隙も無い! 全く…とりあえずお部屋に戻りましょうか」

 咲夜の容赦無い一撃、友人であるハズのパチュリーの豹変
それより何より自らを取り巻くこの異常な状況を考え二度目の頭痛を覚えたレミリアは思考を打ち切る。

 とりあえず、部屋に、戻ろう。

 咲夜が一歩を踏み出すと足元からぴちゃりと何かが跳ねた音がしたが
それに気を止められる程の精神的余裕は今のレミリアには無かった。



 咲夜がお茶を用意してきますと部屋を出て行ったので、レミリアは一人自室に残される。

 噂には聞いていた物の、実際に目の当たりにしてしまった新月時における咲夜の奇行
パチュリーのあの豹変振り、幾多の者達の心を狂わせる罪深い己の肉体
そして何より月に一度の回避不能で理不尽極まりない強制イベント
まだ日は高いと言うのにこの疲労具合はどうだ? もう何もかも忘れて眠ってしまいたい……
お嬢様で支配者で今はお人形さんなレミリアはだらしなく机に突っ伏し、それと同時にドアをノックする音が聞えた。

「お待たせ致しました、直ぐに準備しますね」

 カチャカチャと手際よく、それでいて完全に作法を守った手順でカップに茶が注がれ
レミリア愛用のカップからはいつもの紅茶とは違った香が漂う。

「いただくわ…… ハーブティーとは珍しいわね」
「見た所かなりお疲れの様子でしたので、勝手を承知でこちらを用意しました」
「吸血鬼にも作用するかは置いておくとして、気持ちは嬉しいわ、ありがとう咲夜」

 咲夜は何も言葉を返さずにニコニコとしている、ハーブの沈静効果の為かは分からないが
咲夜が居て、静かな部屋にカチャカチャと陶器の音が響いて、やっとあるべき所に何かが収まった気がする
そうやって次第に気分が落ち着いていったレミリアは珍しくおかわりを要求し、二杯目のハーブティを口にする。

「そうやって見てないで咲夜も飲んだら? 許可が欲しいならあげるわよ?」
「いえいえ、こうして見てるだけで私は満たされますから、見てるだけで…はっ……はぁはぁ、見てる、、だけじゃ…」

 咲夜が居て、息が荒くて、目が妖しく光ってて、何かを堪える様にスカートの端をぎゅっと握り締めてて。

 即座に異常を察知したレミリアは一瞬羽をビクンと振るわせ、恐る恐る自分の姿を省みた
愛用のティーカップも、今の体のサイズでは片手で持つ事が出来ないので今は両手で抱えて……
ハーブティも理想的な温度で入れられてるのだろうけど、今の舌で味わうには熱すぎるのでふうふうと息を吹きかけて……
自分で言うのも何だが、この姿、普通の人間ならともかく
色々と普通ではない人間にはちょいと刺激が強すぎるのでは無いだろうか…


 身の危険を感じたレミリアの体は無意識の内に首をやや傾けながらニコリと微笑んだ
私に争う意思はありません、降伏します、無力な存在です、との意味合いを含んだであろうそれは
悲しいかな、内に変態性を秘めた咲夜に取っては起爆剤として作用した。

「本日の特選素材はこれよ… これしか無いわ……」

 テーブルの向こうに立っていた咲夜がブツブツと呟きながら思うとぽたり、ぽたりと顔から血を垂らしつつ
ゆらり、ゆらりと幽鬼の様にレミリアに迫る、遠目に見ればまるでゾンビ映画における被害者の様だが
その顔を見てみれば生気のみなぎった満面の笑顔なのだから余計にタチが悪い。

 ゆらり、ぽとり、ゆらり、ぽとり、レミリアまで手の届く位置に達し、歩みを止めた咲夜は急に姿勢を正しこう告げた

「ところで、今のレミリア様の格好はいかがな物かと思うのですが?」

 奇妙な行動を取ったかと思えば次にはもうけろりと普段の咲夜に戻る
多重人格者或いは鬱と躁を繰り返す様な人(略して病人)を相手にしてる感覚にレミリアは陥り
心の中でもう勘弁してくれと、本日何度目になるか分からない呟きを発する、鼻血が濃紺のスカートに一滴垂れる。

「格好…ああ」

 朝から今この時まで、逸脱した出来事が多すぎて考えてる暇も無かったが
レミリアはここに来てやっと、自分の姿がシーツ一枚以外何も身に着けていない事を思い出した。

「でも今の私に合うサイズの服なんてこの館には無いでしょう」
「この館にはありませんが私にアテがありまして、まかせていただけませんか?」
「アテがあるならよろしくね、この格好で明日まで過すのも落ち着かないし」

 そう、落ち着かない、咲夜の前で裸身にシーツのみだなんで刺激的な格好で居るなんて危険極まりない
ここに何かの間違いでソックスでも履いてしまおう物なら咲夜はその牙を剥き
欲望のままに蹂躙される事は間違い無いだろう、自分は今、非常に薄い氷の上を渡っているのだから
レミリアは体に肉を括りつけられ、ライオンの檻に閉じ込められた芸人にシンパシーを感じた。

「では行きましょうか」

 むんず、とレミリアを掴み胸に抱きかかえるとドアに向かう

「ちょ、待って咲夜! なんで私まで一緒に」
「…? レミリア様が居ないとサイズ合わせが出来ませんよ」
「そんなの、別に今日行かなくても寸法計っておいて後日頼めばいいでしょ」
「でもそうなると今日一日はその格好になりますけど」
「別に部屋から出なければいいのよ、今日はここでじっとしてるわ」

 自分がいかにあられもない格好をしてるかを再認識したレミリアは
この格好で外に出るなんてとんでもないと、咲夜に抗議した

「確かに、部屋から出なければ人目に触れる事は無いでしょうが……その」
「何よ文句でもあるの」
「いえ、メイド如きがこの様な事を言うのは少々憚られまして…」

 いつもの猫被り口調が気になったレミリアは言葉を促した

「いいから、言ってご覧なさい」
「はい、幾ら人目に付かないとはいえ、その、レミリア様がその様な乞食同然の風体はどうだろうと…
スカーレット家当主であらせられるレミリア様の…プライド的に」
「うーん…そう言えばそうね、当主たる私がこんな格好で居るなんてね」
「私は一向に構いませんが、レミリアの心情を察するに耐え難い屈辱であるかと」
「獣じゃあるまいし確かに耐えられないわ、一刻も早く動くわよ
ところでさっき言ってたアテって何なの?」
「餅は餅屋って事です」

 プライドや体面なんて言葉を持ち出されるとレミリアは屈するしかなく
咲夜はレミリアを抱え館を出ると、人形の専門家が住む館へ向かう為に一路森へ向かった。


 こんな状態のレミリアを人目に晒すのは色々な意味で危険なので、咲夜はこまめに時を止めながら
まだ日も高いと言うのに暗鬱とした森を進む、湿った空気が肌に纏わり付くのがなんとも不快だったが
この先に待ち受ける光景を想像すると全身に力がみなぎり、余剰分のエネルギーは形を変え、鼻から排出される
レミリアがふと、この血は味が違うのだろうかと吸血鬼的思考を展開していると急に視界が開け、小さな一軒屋が現れた

「どうやら目的地に着いたようです」
「ふーん、こんなじめじめした所に住んでるなんて余程の根暗なんだろうね」
「否定はしません」

 ノックするとしばらくの間を置いてドアが開かれる
どんな奴が住んでいるのだろうかとレミリアはドアの奥を覗き込むが人影が無い
それだと言うのに咲夜は虚空に向かい訪問に来た趣旨を述べている

(行き着く所まで行き着いてしまったのね……)

 と、今は遠い過去の存在になってしまった従者を想いレミリアが勝手に胸を痛めていると
咲夜が喋り終えた、すると足元から返事を返す様なタイミングでオーライオーライと声が聞こえ
何事かと下を見やったレミリアは自分と同じ様なサイズの人形を見つけた

「話が付きましたので行きましょう、レミリア様」
「ここは一体、というかアレは何なの」
「ここは人形遣いの館で、アレは私の対応をしていた人形ですね、名前は蓬莱だとか何とか」

 二人は両脇に人形がズラリと並べられた廊下を進み、突き当たりのドアを開けるとこの館の主、アリスの姿があった。

「蓬莱から話は聞いたけど……これが本当にあのレミリア・スカーレットなの?
  貴方の倒錯した趣味の産物じゃなくて?」
「これ、とは結構な呼ばれ方だけどその通りよ、初めまして」
「こちらこそ、にわかには信じ難い話だったけど、実物を見たら納得するしかないわね」
で、ここに来た目的は今のレミリアさんに合う服が欲しいんだっけ?」
「1から仕立てても既存の物を譲ってもらっても構わないからとにかく着る物が欲しいの」
「相応の代価は支払ってもらうつもりだけど用意は出来てるの?」
「そりゃもう」

 咲夜は何処に隠し持っていたのか、魔導書を数冊取り出すとテーブルの隅に並べた

「こういう物の価値は分からないから適当にウチの図書館から持ってきたわ
  これで不満なら後日、また別のを届けさせるけど」

 どれどれ、と魔導書に手を伸ばすとアリスはその場で思いっきり吹き出す

「貴方! これってとんでもなく貴重な、、、ああ、こっちも! 嘘…なんでオリジナルが存在してるのよ!!」

 我を忘れて魔導書に飛びつき目を血走らせてページを繰っていたアリスは
ふと我に返りコホンと咳払いを一つ

「ま、まぁこの程度の物なら不満は無いわね、双方に取って良い取引だと思うわ」
「なら取引成立と言う事で」

アリスは咲夜が了承した瞬間、これはもう私の物だと言わんばかりに魔導書を抱きかかえると部屋の奥へ走り去る

「アレは貴重な物だったんですね」
「本なんて沢山あるから問題無いでしょ」

 慣れない運動で息が切れたのか、興奮の余り動悸が激しくなったのかもしくはその両方か
肩で息をしながらアリスが戻ってきた

「ところで、さっきは図書館から持ってきたって言ってたけど管理者は何も言わなかったの?」
「ええ、何も、本当に貴重なら呼び止められるだろうから別に気にすること無いわよ」
「別に気にしてる訳じゃないわ、ちょっと気になっただけよ、ちょっとだけね」

 その管理者は口を利ける状態では無かった為、呼び止めるも何も無いのだが
レミリア様に不埒な事をした罰だと咲夜は思い特に気にする事も無かった

「満足していただけたみたいだから、次はこっちの要求を叶えて貰えるかしら」
「ええ、貰った以上はこちらもそれなりの誠意を見せたいとは思うけど…」
「まだ何か問題でも?」
「今は材料を切らしていて新しい服を作る事が出来ないの」

「だからこの子達の服のスペアしか用意出来ないけど問題無い?
別に問題あってもあの魔導書を返すつもりは無いけど」
「さっきも言ったけど別に構わないわ、とにかく着る物があればいいから」
「なら好きなの選んで、どれも十分な数をストックしてあるから」

 アリスが右手を挙げると部屋の隅から色とりどりの人形達が現れ
レミリアと咲夜の回りを囲み、服の全体像を見せる為、縦横に回転を始める

「早く選んでね、じゃないとこの子達が目を回しちゃうから」
「だそうで、お嬢様はどれにしますか?」
「そうねえ…」

と二人は吟味を始めるが咲夜の心は既に決まってきた、ここに来る前から決まっていた
更に遡ると初めてアリスに会った時から決まっていた。

(まさかこんな形で夢が叶うなんて、やっぱり人生は捨てたもんじゃないわね)

初めて咲夜とアリスが顔を合わせたのはどこぞの亡霊がきまぐれで春を集め出したあの時
特に理由も無く弾幕勝負が始まったがその最中、咲夜は次々とアリスの繰り出される人形を見ては
ああ、あの可愛らしい服を可愛らしいレミリア様が着ちゃった日には可愛らしさの余り頭がどうにかなっちゃうわ
と、人知れずゴキゲンな妄想を展開していたのだが、その中でアリスが最後に使った人形
蓬莱人形の服が咲夜の感性にジャストフィット、妄想が過ぎたお陰で1ミスしてしまったくらいに

「これなんてどうかしら、私の髪の色に映えると思うけど」
「いえ、私はこれが最もレミリア様に似合って可愛いレミリア様がより可愛く見えて
  私の頭がどうにかなっちゃうと思うのでこの服以外は考えられませんのでこれを着てください」
「はい」

恐いから逆らう気になりませんでした


蓬莱人形の服に着替えたレミリアを抱えて咲夜が紅魔館へと戻る中
レミリアは先ほどから一つの疑問を抱えているが、内容が少し危険なので咲夜に話すかどうかを躊躇っている
先ほども私が着替えさせますと鼻息も荒くレミリアに迫り、結果アリスに貸しを一つ作る事になったので
今の咲夜にこの手の話題を振るの自殺行為だ、と自分では理解していても
そのドロドロと暗く穢れた疑問は抱え込んでいると自分の精神が侵されてしまう様な気がして
紅魔館の門の前に来た所でレミリアは咲夜に問いを投げかける事にした。

「あのね、咲夜」
「どうかしましたか?」
「さっきこの服に着替えた時に気がついた事なんだけど、ちゃんと下着まで作ってあるのよね、上下共」
「人形相手に何やってるんですかね…あの魔法使いは」
「ガーターまであるし、これでも十分キてると思うけど、この下着…パンツの前の所に穴があって、これはつまり……」

すると急に咲夜の全身が震え、その場に立ちつくし何やらウフフフフと気味の悪い声で笑い始めた

「私は我慢しましたよ、我慢はしましたからね」
「さ、咲夜?」
「れみりゃ様となら両者合意の上での出来事だったので問題は無かったんです」
「急に何を言ってるの?」

咲夜はレミリアから手を離し、そのまま両手で天を仰ぎ首も同じく上空を向く

「私は我慢に我慢を重ねたんですよ? 朝からずっと、そりゃあ時々暴走しかけましたけど
そこは鉄の精神力で耐えました、耐え抜きましたよ? 今の貴方はレミリア様であって
れみりゃ様じゃ無いんですから、間違いを起こす訳には行かないですし
だから私は我慢しました、我慢したんです、我慢したんです、けど」
「け、け、けど?」

ガクンッっと音を立てて咲夜の首が正面に戻りレミリアを見据える

「そんな風に誘われたら、ウフフ、全力でレミリア様を愛したくなっちゃうじゃないですか」
「あ、、、ああ…! 」

やってしまった、今となってはなんであんな咲夜を刺激する様な事を言ってしまったのか分からない
朝から張り詰められていた緊張の糸がその張力の限界を超え、切れてしまったのか
とにかくレミリアは自らの手で幕を下ろしてしまった事に気がついた、或いは幕は開かれたのかもしれない。

「いやあああぁぁああああああぁああ!!!」

レミリアの声が門前に響く、普段の甘ったるいれみりゃボイスに混じり
濃度の薄いヘリウムガスに更に極上の恐怖をブレンドしたハスキーボイスが文字通り門前に響いた。

「ウフフフ、ここまで我慢したんだから、部屋に戻る前にここで少し楽しませてもらいますね♪」

抵抗も虚しく、軽々と四肢を拘束されたレミリアは先ほど着たばかりの服を
咲夜に脱がされていき、あっという間にアリス謹製の変態下着を纏っただけの姿に
気がつけば咲夜も準備万端整っており、その凶悪なアレが今正にレミリアにソレしようとした瞬間

「それ以上やったらネチョロダ行きになりますって!!!」

謎の叫び声と共にゴリッっ鈍い音が鳴り、レミリアを拘束していた力が霧散
恐怖のあまり両目を閉じていたレミリアは何が起こったのかと確認してみるとそこには
門番が親指をこちらに立てながら清々しい笑顔でこちらに微笑みかけていた、白い歯が最高に眩しい。



「という訳なのよ……」
「それはそれは、大変だったんですね………」

 門の内側に備え付けられた守衛室でレミリアは門番に朝からの顛末を全て語った

「悲鳴らしき物が聞えた時は半信半疑だったんですが、、とにかく間に合って良かったです」
「正直言ってもう駄目かと思って諦めてたら…貴方は優秀な人材よ、私が認めるわ」
「そんな、大げさですってお嬢様」

 そしてふと小屋の様子を見ると所々に穴が開いており、咲夜を寝かせたベッドも硬く
今となっては恩人である門番をこんな所に住まわせてる事に胸が痛んだ

「落ち着いたら貴方にはそれなりの待遇と報酬を約束するわ
本来私が感謝を口にするだなんて余程限られた者に対してだけなんだけど、本当に…ありがとう」
「恐縮です」

 ハハハと笑う門番の笑顔を見たレミリアは今日初めてまともな者と会話していると実感する
思えば今日は変態の相手しかしてこなかった気がする、それだけが原因とは言えないし
大部分はこの体の所為だろうけど心だって随分と弱気になってしまってる
その証拠にほら、単なる門番にですら話をしてるだけでこんなに心が暖かく…

「ところでお嬢様」
「指、入れてもいいですか?」
「はえ…?」
「大丈夫です! 痛くないですよむしろ気持ちいいですよ、絶対です!
ていうかさきっちょだけだから! 入れる、う、ウォッ、入れるぞっ!」

 ジリジリと近づいてくる門番の目は、既にあの時のパチュリーと同じそれになっていた

 こいつだけはマトモだと思ってたのに、そんなにも今の私は愛らしいのだろうか
ていうかこの館には変態しか住んでいないのだろうか
もうどうにでもしてくれ、と最早投げやり気味な思考のレミリアは美鈴に押さえつけられた。

 そして再び蓬莱人形の服を脱がされ、そのパンツに門番の指がかかった時
ザザザザザザクリと小気良い音を頭から立ててそのまま変態は崩れ落ちる
ナイフが飛んできた方向には咲夜が意識朦朧とした様子で立っていた。

「これが……最後の…殺人………ドールです…美鈴如きに………レミリア様を」

最後まで言い切る事も無く咲夜もまた倒れ、守衛室には二つの物言わぬたんぱく質の塊が出来上がった。




「もう嫌、もう嫌、もう嫌」

ふらふらとよろめきながらレミリアは自室に辿り着き、ベッドに倒れこむ
普段は気がつかなかっただけで、如何に自分は危険な場所に立っていたかを思い知った
完璧で瀟洒なハズの咲夜も、知識が私の恋人よと言わんばかりのパチェも
善人ぶった門番も、誰も彼も一皮向けばド変態だった
明日、体が元に戻ったとしても彼女達と普通に接する事が出来るだろうか
今の自分の精神状態が異常だと言う事は自覚している
普段の私ならこんな瑣末な事なんて何の問題も無いわと笑い飛ばすであろう、だがしかし
今の私はとても脆い、まるで年頃の娘の様だ、吸血鬼たる私が、全く情けない。

情けないと思ったら涙まで出てきた、もう誰もこの部屋を訪れる様な者は居ないだろう
だったら問題無い、泣いてしまおう、これも貴重な経験だ、泣いてしまおう。

とすっかり弱り果てたレミリアがベッドの上で今にも泣き出そうとした時、ドアの外から声が聞こえた。

「ちっちゃいちっちゃい、お姉さま~あーそびーましょー」

ガチャリとドアが開けられ現れたのはフランドールだった。



フランドールは新月の影響を受ける事が無いと聞いた事がある、なんでも遠い昔に
幼女化する概念を破壊したとかでそれ以降、新月になってもフランドールは幼女化する事も無く
普段と同じ格好で、普段と同じ思考で、普段と同じ破壊行為を楽しんでいるとか。

(自分の目で確かめるまではまさそんな事が…と思ってたけど)

事実、今日は新月にも関わらず目の前に居るのは何一つ変わりが無いフランドールだった。

「あれー? お姉さま居ないの? 咲夜も昼から居なくなったし…また二人で変な事してるのかな」

常人には理解しがたい裏の顔を持っている訳でなく、普段通りのフランがそこに居る
それはレミリアの家族であり、また現状唯一と言っていい心から信頼出来る味方だった。

(ああフラン、表裏の無いこの子なら豹変する事も無く普通に接してくるはず…この子が居たじゃない…)

長い間一寸先も見えない広大な砂漠を渡り歩き、ついにレミリアはオアシスを見つけた
永遠と不変の存在である吸血鬼にとってもっともありふれていていた筈の、日常についに辿り着いたのだ。

「ここよフラン、私はここに居るわ!」
「あれ、お姉さまのベッドになんか居る」

そしてついに姉妹は邂逅を果たす。

「フラン会いたかったわ」
「すっごーい、人形が喋ってる!」
「ああ、違うのよフラン、私はレミリア」
「どこからどう見ても人形でしょ、何言ってるのよ」

そうか、こんな姿で説明も無しにレミリアだと言っても受け入れはしないだろう
レミリアよりもれみりゃよりも更に縮んだこの姿、そもそも服だって全然違うのを着ているし
落ち着いて情報を整理するとレミリアは説明を始める。

「あのね、実はこれこれこう言う事があって…」
「そんなのに騙される訳ないでしょ! 馬鹿にしないでよ」
「それでパチェの魔法が…って、え?」
「だからそんな話信じられる訳ないでしょ、何お姉様の名前騙ってるのよ、人形のくせに」
「その、え、えと…フラン?」
「ほんっとに馴れ馴れしいチビね、そうやって私を呼んでいいのはお姉さまだけなのに」

フランドールはそんな事を言いながらレミリアの両羽を片手で掴みそのまま持ち上げ
ほっぺたをつつきながら尋問を始める、探してる姉は今捕まえてるそれだと言う事を知らずに。

「ほら、本当のお姉様はどこに居るのか言いなさい!」
「い、痛い、やめなさいフラン!」
「だからそう呼んでいいのはっ! もう早く教えなさいよね~ちっちゃいお姉様と遊べるのは月に一度だけなんだから」

考えもしなかった事態に陥り、まともに頭が働かないレミリアはフランドールの成すがままにされる。

「もういいや」

パッとフランドールは手を離すと支えを失ったレミリアの体はベッドに落ちる。

「どうしても喋らないみたいだからコイツで遊ぼうっと、とりあえずどれくらい頑丈か試さないと」

再びレミリアを捕まえたフランドールは力任せにその羽を引っ張り始めた。

「いっだだだだだだだあ、取れる、取れちゃうあああ、ガガ」
「おもしろーい、人形のくせに痛がってるーじゃあ次はこうしてみようかな」

今度はレミリアの右手を掴むとこれまた力任せに引っ張り始める。

「ひっあ、あががががっがあがああがががががが、もげ、もげ、もげるあああががが」
「アハハ、すごいすごーい、本当に生きてるみたーい、お姉様も面白い物持ってるんだなぁ」

その後も''コイツと遊ぶ''ではなく''コイツで遊ぶ''の宣言通りにフランドールは
レミリアの体をねじったり引っ張ったりしてはその反応を見て喜んだ
それは紛れも無く、レミリアが望んだ表裏の無い、普段通りのフランドールその人であった。

その後しばらくレミリアにとっての地獄の責め苦が続き、遊びつかれたのかフランドールはそのまま寝てしまい
部屋の片隅には何かが無残な姿でが転がっている、こうして月に一度の新月の日は幕を閉じた。







翌朝、ベッドの上ではなく何故か床の上で目を覚ましたレミリアは一瞬の混乱を経て
状況を理解した、時が立ち頭の覚醒が進むに連れて走馬灯の様に駆け巡る昨日の記憶
紅魔館住人達の秘められた変態性欲を知り、信じていた妹からは手酷い裏切りを受け
何もかもがボロボロで無残だった昨日を振り返り………レミリアはあんな事もあったわね、と全てを一蹴した
その後も咲夜が用意した朝食を取り、パチュリーとの会話を楽しむ、例の件とりあえず保留にしておいた
そして妹の部屋を訪れ、昨日の乱痴気騒ぎはそんな物無かったと言わんばかりに、何事も無く、一日が過ぎていく

結局の所、この館には永遠と不変が満ちているのだ、それは多少の波紋が起こった所で揺らぐハズも無い
見方によって、人によって、それは淡白だと映るかもしれない
だが当の住人達に取ってそれは何物にも代えがたい喜びである
今日も紅魔館は平和で来年の今頃も、10年後の今頃も、ずっとずっとこの先も退屈で怠惰で幸せな日々は続くだろう
それ程までに紅魔館を支える絆の土台は堅固なのである。
前回は自分の趣味全開にした結果暗いの嫌だから読まなかったとか言われまして
ならばと、いつか書きたいと思ってた鼻血咲夜とれみりゃの話を書いてみました。

あと、某エロ同人誌に小さいレミリアを指でつつくフランドールってシチュエーションがあり
それがちょっと自分にとってパッションが過ぎたので、この気持ちを何とかしておきたいなと。

この話は上記の二本柱で成り立ってます
ghetto
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コメント



0.4670簡易評価
15.100無為削除
東の方の妖しい女が乱れ舞う2のことかー!
21.90沙門削除
 最後の場面、カリスマにして寛容な、紅魔館の主人に敬礼です。前作も読ませて頂きましたが、旨い酒を飲んだ気分になりました。謝々。
 
53.100名前が無い程度の能力削除
冒頭の、ネジのブッ飛んだ極上の歌だけで、軽く50点はイキそうです。
愛すべき変態どもの、愛憎渦巻く大活劇に30点。
そうした諸々を、最後の11行で綺麗にまとめた、その手腕に50点、です。
……ところで、ここの最高得点は何点でしたっけ。
71.90サブ削除
レミリア・・・強く生きろ・・・。
84.100名前が無い程度の能力削除
レミリア様、頑張れ! 広い心を持ってるんですね。さすが当主様だ!
97.80名前が無い程度の能力削除
>それ程までに紅魔館を支える絆の土台は堅固なのである。
丸く収まったつもりなのかアアあああああああああああああああああああああwww