ここは人里はなれた山奥。
夜は更け、あたりは闇に包まれていた。
しかし、そんな雑木林を、空に浮かぶ月が優しく照らしていた。
「今日も月がよく見えるわね。なんでかな?」
そんな茂みの中に、永遠を約束された少女の妹紅がいた。
永い時を生きてきて、これからも永い時を生きていくことになる妹紅。
彼女自身も、その永遠の存在を恨み憎んだ。
周りは永遠を生きれない。だからでこそ妹紅は疎外された存在であったのだ。
しかし永い時の流れにつれてそれらを彼女は次第に受け入れたのだろう。
「なんでって、ここは暗い森の中だ。それをあんな空高く輝かれていれば見えるのが自然だろう」
そしてそんな妹紅に付き添うのは慧音。人間の姿とワーハクタクの姿を持つ言わば半獣である。
勿論、慧音は妹紅の素性を知っている。
しかし慧音は妹紅を咎めようとはしない。何故なら慧音も普通の人間ではない、半獣であるからだ。
二人はお互いを良き理解として認めているのだろう。
「今日はハクタクなんだね」
慧音を見て妹紅は言う。
「そりゃ今日は満月だからな」
そう、慧音は普段は人間なのだが、満月の夜になるとワーハクタクになる。
ワーハクタクの時は、人間の時よりも強い。らしい。(本人曰く)
「成りたいときに成れれば便利なのにね」
「仕方が無いさ。こういう体質なんだから」
慧音自身も、その身体を十分受け入れているようだ。
「それよりも。そろそろ時間なんじゃないのか?」
「あっ、そうだった」
慧音に言われ、妹紅が忘れてたかのように気づく。
いや、実際忘れていたのだろう。
「やっぱり行くのか?」
慧音は心配そうに妹紅に問いかける。
「そりゃね~。もう日課みたいなものだし」
妹紅は特に気に留めず、軽く応える。
妹紅が何をしにいくか。それは蓬莱人だからでこそ成せる事。
殺し合い。相手は輝夜。彼女もまた、永遠の時を約束された者である。
果たして殺し合いという言葉が彼女らにとって適切なのかはわからない。
互いに死ぬことのない身体。殺めることができないからである。
二人の間には因縁があり、妹紅も輝夜を酷く憎んでいた。
そして輝夜もそれに応えるかのように接していた。
今でもそれは変わらないのかもしれない。
「やはり私もついていこう」
心配になった慧音は妹紅にそう告げた。
「別にいいけど、慧音は不老不死じゃないんだから。気をつけてよ?」
逆に心配される慧音。
「う、うむ・・・」
なんだか慧音がやるせない気持ちになったのは言うまでもない。
「待っていたわ、妹紅」
待ち合わせていた場所には、既に輝夜が居た。
それと従者の永琳とペット(本人曰く)のうどんげが来ていた。
「はいはい、待たせたわ。それじゃあ決着のつかない勝負をするとしますか」
先ほども妹紅が言ってたように、日課のようにしてきた殺し合い。
妹紅はどうも飽きてきてしまったらしい。
それを聞き、輝夜は言った。
「その様子だと、あなたも現状に飽きてしまったようね」
輝夜の言葉に妹紅は問いかける。
「何が言いたいの?」
輝夜は微笑みながら、妹紅の問いに答えた。
「私も飽きてしまったのよ。毎日ただただ殺し合いしてるだけだとね」
妹紅も実際飽きていたので、賛同せざるを得なかった。
「そうね。でも、他にすることなんてあるかしら」
「ええ、勿論。その辺は考えてきてあるわ」
輝夜もただ単に飽きていただけでは無く、改善策を練っていたらしい。
「主に永琳がね!」
・・・・やはり本人は何もしてなかったらしい。
妹紅はふぅとため息をつくも、詳細をたずねた。
「そう、一体どんなことを考えてきたのかしら?」
「それについては永琳から説明してもらいます!」
輝夜は永琳にバトンタッチする。
「それじゃ説明するわね」
永琳が説明を初め、その場の者全員が永琳の話を聞き入る。
「殺し合いというのは非常に単純なことだと思うの。だってただ相手を痛めるだけでしょう?だから飽きてしまうのよ」
うんうんと妹紅も輝夜も頷く。
「だから、殺し合いはやめてもらいます」
「・・・!?」
妹紅も輝夜も、殺し合いしかしていなかったせいか驚きを隠せない。
「そうだ、いいぞー!!」
ただ一人、妹紅にいつも殺し合いを反対していた慧音は思わず拍手と歓声を挙げる。
「そこで、ここは暇つぶしの原点に返って、遊戯をしてもらおうかと」
遊戯・・・用はお遊び。
お遊びにも色んな概念がある。が、この場合は単純に遊ぶと認識していいだろう。
「面白そうね」
輝夜が関心を持ち始める。
「そうかしら・・殺し合いも私たちからしてみれば遊戯みたいなものじゃないの?」
妹紅の言うことも最もである。
が、今はとりあえず構っていたらいつまでも本題に移れないので永琳は妹紅を軽く流して続けた。
「さて、具体的にどんな遊戯をしてもらうかというと、まず一人、鬼を決めます」
ふむふむと全員が頷く。
「そしてその鬼の人が、残りの人を捕まえるという遊戯よ」
・・・・・・
全員が静まり返った。ただ一人を除いては。
「素敵、永琳!とっても面白そうだわ!」
輝夜が興奮した様子で言う。
それを見ていた妹紅が、永琳に抗議。
「ちょっと、それただの鬼ごっこじゃない!?」
「あら、そうよ」
永琳は何のためらいもなく開き直る。
その後も妹紅から何度か抗議があったかが、永琳は鬼ごっこを強要。
それを見ていて慧音が妹紅をなだめる。
「まあ、いいじゃないか。殺し合いよりもよっぽどましだ」
だがそのとき、妹紅が慧音を見てあることに気づく。
「この中で一番鬼っぽいのは慧音だよね」
「な、なにぃ・・!?」
確かに丁度ハクタクになっていた慧音は鬼としては適役だった。
妹紅の発言に、全員が頷く。
だが、勿論慧音も反論する。
「ちょ、ちょっとまて。そんな外見だけで決めていいのか・・!? いじめに繋がるぞ!」
猛反論する慧音に、永琳が諭すようにつぶやく。
「人には・・・適材適所というものがあるのよ」
まだ反論しようとした慧音ではあったが、無駄だということを悟る。
「わかった・・・。私が鬼でいい。だが、私を鬼にしたことを後悔させてやる!」
しかしここで、妹紅があることに気づく。
「ちょっとまって。元は私と輝夜の殺し合いの改善策として鬼ごっこを提案したのよね」
永琳はそれを聞くと頷く。
「それで、慧音が参加をしているということは・・・。あなたたちも参加するのよね?」
「あら、別に参加してもいいわよ?」
永琳は参加する気はなかったらしいが、参加しても良いという。
「ねぇ、うどんげ?」
「え、私もですか!?」
しかしうどんげのほうは予想してなかったようだ。
「私はただ輝夜様の応援に・・・」
「そう、うどんげも参加する気満々みたいよ」
「!!」
うどんげは必死に首をブンブンと振るが、永琳はあえて見ないふりをする。
「それじゃあ、結局私はお前たち4人を捕まえればいいんだな」
「そういうことになるわね」
「わかった。じゃあ100秒数えてる間に逃げるがいい」
そういうと慧音が数を数え始める。
「妹紅、どっちが長く逃げていられるか勝負よ」
「面白い、受けて立つわ」
そして輝夜と妹紅の間でも妙な勝負事ができていた。
各々が逃げていくころ、妹紅が数を数えてる慧音を見てつぶやいた。
「鬼ごっこじゃなくて慧音ごっこね・・・」
「うるさい、早く逃げろ!」
慧音は妹紅に怒鳴る。
「ああ、どこまで数えたか分からなくなってしまったではないか・・・。また1から数えなおしだ・・・」
慧音の受難は続く。
「97・・・98・・・99・・・100!!」
100(正確には150近い)を数え終わると、慧音は軽く準備運動をして静かに探しにでた。
ただ単に追いかけるのではなく、隠れている者を探さなければいけないからだ。
なので鬼が見つけるまでが醍醐味という者も少なくないだろう。
だが、ここは人里はなれた山奥、森の中。隠れるにはもってこいなのである。
「・・・目立つよ。その白い耳は!!」
突如背後から声がしたうどんげは、振り返ると慧音が追いかけてきていた。
隠れていたつもりだったが、その長い耳が隠しきれていなかったのである。
「待てぇぇぇぇ!!」
「ひ、ひー!! 狂気の瞳で・・・やり過ごすしか・・!!」
うどんげの人を狂気に陥れる瞳で、慧音を惑わす。
それが効いてか慧音が、ふらつき始める。
「くっ・・・うまく目の焦点が合わないわ・・・ぶっ!!」
そのまま樹に激突する慧音。
そして、その樹は衝撃のあまり物凄い勢いでなぎ倒れる。
「ひ、ひぃ!!ひぃー!!」
その光景を見たうどんげ思わず足がすくんでしまった。
一方慧音は、樹にぶつかったおかげで正気を取り戻していた。
「痛いな、もう。さて・・・捕まえるするか・・・」
「い、命だけは勘弁をー!!」
慧音はうどんげにズシリズシリと近づいていく。
うどんげの震えが止まらない。
「はい、うどんげ捕まえたわ。何も取って食うわけじゃないんだから、そんなにおびえなくてもいいのに」
「た、助かった・・・」
うどんげは脱力のあまり座り込む。
「まあ、何はともあれあと3人か・・・。この調子で捕まえるとするか」
「うどんげはつかまってしまったか・・・」
慧音のすぐ後ろのほうで、永琳がそうつぶやいた。
実は永琳はずっと慧音の後をつけていたのである。
永琳曰く、鬼ごっこを征する一番の方法は鬼に気づかれぬように鬼を尾行することらしい。
それならば見つかる心配もないからだ。
「あ、あれ。いつの間に見失った・・・?」
が、永琳の視界の中から突然慧音の姿が消えたのだ。
急いで追いかけようとする永琳。
が、腕をつかまれる。
「なっ・・・!!」
「ふぅ。ついてきていたことには気づいていたんだけど、うどんげを先に見つけたから永琳は後回しにしちゃってね」
「気づかれてた・・・!?」
慧音は永琳の尾行に気づいていたのだ。
なので身を隠して、不審がった永琳が近づいてくるのを待ち構え、捕まえたのである。
「無念・・・」
うどんげに続き、永琳も早々につかまり残すは妹紅と輝夜となった。
「妹紅は・・・手ごわそうね。この森の中を知り尽くしているから・・・」
・・・だが、慧音の心配もよそに妹紅は困っていた。
「・・・ねぇ、なんであんたが一緒にいるの」
「勝負に勝つためよ!」
茂みに隠れる妹紅のすぐ隣には輝夜がいた。
勝負とは、どっちが長く逃げていられるかという勝負のことだろう。
「勝負って・・・。あんたと一緒に居たら勝負にならないじゃないのよ」
「なるわよ?あのハクタクに見つかったらあなたを差し出して逃げるのよ~」
何とも狡賢いというか、性根を疑うような月の姫である。
「・・・もしそれで勝ててうれしいの?」
「そうね・・・負けるよりは嬉しいかしら」
だが妹紅があることに気づく。
「ねぇ、もしも慧音に見つかったときに私よりあなたが逃げ遅れた場合は私の勝ちよね」
「あ・・・」
そう、輝夜がしようとしていたことを妹紅がしてしまえば、当然輝夜の負けになる。
ずっと家に閉じこもっていた輝夜と比べると、運動の面で妹紅のほうが逃げやすいのは明らかだ。
「ひ、卑怯よ、そんなことして勝ってうれしいの・・!?」
「あ、あんたが先に考えたことじゃないの!!」
逆上した輝夜に妹紅は思わずツッコミを入れてしまう。
勿論、鬼である慧音が迫っているとも知らずに。
「そもそも何で同じ不老不死なのに、あんたはフェニックスとか強そうなの使える訳!?」
「なんでいきなりそんな話になるのよ。あんただって難題とか言ってレーザー打ってくるくせに!!」
鬼ごっこ中であるにもかかわらず、二人は口げんかに没頭していた。
そうなると・・・
「まったく、そんな大声で騒いで。見つけてくれといってるようなものじゃないか」
当然のように慧音がやってくるわけで。
「しまった、見つかった!!」
妹紅が真っ先に逃げようとする。が、
「あ、ずるい!!先に逃げようったってそうはさせないわ!」
輝夜が妹紅の足にしがみついて、二人とも転倒してしまう。
「・・・・何をやってるんだ一体。まあいいや、二人とも捕まえさせてもらうぞ」
二人を見ていて慧音は呆れながらも、二人を捕まえる。
「・・・この勝負、どうやら引き分けのようね・・・」
「・・・輝夜のあほー・・・」
鬼ごっこが無事終わった頃は、夜が明けようとしていた。
「まぁ・・暇つぶしにはなったかな」
妹紅が疲れ顔でそう言うと、輝夜も微笑みながら、言った。
「そうね、たまには殺し合い以外もいいわね・・・永琳、よくこんな遊び思いついたわね」
「だから・・・ただの鬼ごっこだってば・・・」
妹紅はもうツッコミを入れる元気すらないといったところか。
だが、永琳が輝夜を庇う。
「輝夜様が知らないのも無理はないわ。ずっと家の中に居たので」
「それもそうね、ずっと家の中に閉じこもってちゃ・・・」
妹紅も、納得したように言う。
「別に、好きで閉じこもっていた訳じゃないのに・・・」
輝夜が、拗ねたような口でつぶやいていた。
そのとき、ふと永琳がうどんげに気づく。
「あら、うどんげどうしたの?さっきから震えているわよ」
「鬼怖い・・ハクタク怖い・・・慧音怖い・・・」
うどんげはすっかり、先ほどの慧音との一件がトラウマになってしまったらしい。
「まだ気にしていたのか。まったく・・・」
慧音は呆れたように言う。
「だ、だって本当に怖かったんですよ!?狩られるかと思いましたよ」
「たかが鬼ごっこで・・・」
慧音も困り果てた様子である。
その時、妹紅が仕切りなおすように言った。
「とりあえずもう帰るよ。さすがに疲れたし」
「そうだな、私もそうさせてもらう」
慧音も妹紅に続いて戻ろうとする。
輝夜は相変わらず拗ねていた。
「ま、今度また遊ぼうじゃないの」
「妹紅・・・。そうね、受けて立つわ」
「勿論、慧音ごっこでね」
「慧音ごっこって言うな!!」
なんだか怒鳴ってばかりの慧音でした。
夜は更け、あたりは闇に包まれていた。
しかし、そんな雑木林を、空に浮かぶ月が優しく照らしていた。
「今日も月がよく見えるわね。なんでかな?」
そんな茂みの中に、永遠を約束された少女の妹紅がいた。
永い時を生きてきて、これからも永い時を生きていくことになる妹紅。
彼女自身も、その永遠の存在を恨み憎んだ。
周りは永遠を生きれない。だからでこそ妹紅は疎外された存在であったのだ。
しかし永い時の流れにつれてそれらを彼女は次第に受け入れたのだろう。
「なんでって、ここは暗い森の中だ。それをあんな空高く輝かれていれば見えるのが自然だろう」
そしてそんな妹紅に付き添うのは慧音。人間の姿とワーハクタクの姿を持つ言わば半獣である。
勿論、慧音は妹紅の素性を知っている。
しかし慧音は妹紅を咎めようとはしない。何故なら慧音も普通の人間ではない、半獣であるからだ。
二人はお互いを良き理解として認めているのだろう。
「今日はハクタクなんだね」
慧音を見て妹紅は言う。
「そりゃ今日は満月だからな」
そう、慧音は普段は人間なのだが、満月の夜になるとワーハクタクになる。
ワーハクタクの時は、人間の時よりも強い。らしい。(本人曰く)
「成りたいときに成れれば便利なのにね」
「仕方が無いさ。こういう体質なんだから」
慧音自身も、その身体を十分受け入れているようだ。
「それよりも。そろそろ時間なんじゃないのか?」
「あっ、そうだった」
慧音に言われ、妹紅が忘れてたかのように気づく。
いや、実際忘れていたのだろう。
「やっぱり行くのか?」
慧音は心配そうに妹紅に問いかける。
「そりゃね~。もう日課みたいなものだし」
妹紅は特に気に留めず、軽く応える。
妹紅が何をしにいくか。それは蓬莱人だからでこそ成せる事。
殺し合い。相手は輝夜。彼女もまた、永遠の時を約束された者である。
果たして殺し合いという言葉が彼女らにとって適切なのかはわからない。
互いに死ぬことのない身体。殺めることができないからである。
二人の間には因縁があり、妹紅も輝夜を酷く憎んでいた。
そして輝夜もそれに応えるかのように接していた。
今でもそれは変わらないのかもしれない。
「やはり私もついていこう」
心配になった慧音は妹紅にそう告げた。
「別にいいけど、慧音は不老不死じゃないんだから。気をつけてよ?」
逆に心配される慧音。
「う、うむ・・・」
なんだか慧音がやるせない気持ちになったのは言うまでもない。
「待っていたわ、妹紅」
待ち合わせていた場所には、既に輝夜が居た。
それと従者の永琳とペット(本人曰く)のうどんげが来ていた。
「はいはい、待たせたわ。それじゃあ決着のつかない勝負をするとしますか」
先ほども妹紅が言ってたように、日課のようにしてきた殺し合い。
妹紅はどうも飽きてきてしまったらしい。
それを聞き、輝夜は言った。
「その様子だと、あなたも現状に飽きてしまったようね」
輝夜の言葉に妹紅は問いかける。
「何が言いたいの?」
輝夜は微笑みながら、妹紅の問いに答えた。
「私も飽きてしまったのよ。毎日ただただ殺し合いしてるだけだとね」
妹紅も実際飽きていたので、賛同せざるを得なかった。
「そうね。でも、他にすることなんてあるかしら」
「ええ、勿論。その辺は考えてきてあるわ」
輝夜もただ単に飽きていただけでは無く、改善策を練っていたらしい。
「主に永琳がね!」
・・・・やはり本人は何もしてなかったらしい。
妹紅はふぅとため息をつくも、詳細をたずねた。
「そう、一体どんなことを考えてきたのかしら?」
「それについては永琳から説明してもらいます!」
輝夜は永琳にバトンタッチする。
「それじゃ説明するわね」
永琳が説明を初め、その場の者全員が永琳の話を聞き入る。
「殺し合いというのは非常に単純なことだと思うの。だってただ相手を痛めるだけでしょう?だから飽きてしまうのよ」
うんうんと妹紅も輝夜も頷く。
「だから、殺し合いはやめてもらいます」
「・・・!?」
妹紅も輝夜も、殺し合いしかしていなかったせいか驚きを隠せない。
「そうだ、いいぞー!!」
ただ一人、妹紅にいつも殺し合いを反対していた慧音は思わず拍手と歓声を挙げる。
「そこで、ここは暇つぶしの原点に返って、遊戯をしてもらおうかと」
遊戯・・・用はお遊び。
お遊びにも色んな概念がある。が、この場合は単純に遊ぶと認識していいだろう。
「面白そうね」
輝夜が関心を持ち始める。
「そうかしら・・殺し合いも私たちからしてみれば遊戯みたいなものじゃないの?」
妹紅の言うことも最もである。
が、今はとりあえず構っていたらいつまでも本題に移れないので永琳は妹紅を軽く流して続けた。
「さて、具体的にどんな遊戯をしてもらうかというと、まず一人、鬼を決めます」
ふむふむと全員が頷く。
「そしてその鬼の人が、残りの人を捕まえるという遊戯よ」
・・・・・・
全員が静まり返った。ただ一人を除いては。
「素敵、永琳!とっても面白そうだわ!」
輝夜が興奮した様子で言う。
それを見ていた妹紅が、永琳に抗議。
「ちょっと、それただの鬼ごっこじゃない!?」
「あら、そうよ」
永琳は何のためらいもなく開き直る。
その後も妹紅から何度か抗議があったかが、永琳は鬼ごっこを強要。
それを見ていて慧音が妹紅をなだめる。
「まあ、いいじゃないか。殺し合いよりもよっぽどましだ」
だがそのとき、妹紅が慧音を見てあることに気づく。
「この中で一番鬼っぽいのは慧音だよね」
「な、なにぃ・・!?」
確かに丁度ハクタクになっていた慧音は鬼としては適役だった。
妹紅の発言に、全員が頷く。
だが、勿論慧音も反論する。
「ちょ、ちょっとまて。そんな外見だけで決めていいのか・・!? いじめに繋がるぞ!」
猛反論する慧音に、永琳が諭すようにつぶやく。
「人には・・・適材適所というものがあるのよ」
まだ反論しようとした慧音ではあったが、無駄だということを悟る。
「わかった・・・。私が鬼でいい。だが、私を鬼にしたことを後悔させてやる!」
しかしここで、妹紅があることに気づく。
「ちょっとまって。元は私と輝夜の殺し合いの改善策として鬼ごっこを提案したのよね」
永琳はそれを聞くと頷く。
「それで、慧音が参加をしているということは・・・。あなたたちも参加するのよね?」
「あら、別に参加してもいいわよ?」
永琳は参加する気はなかったらしいが、参加しても良いという。
「ねぇ、うどんげ?」
「え、私もですか!?」
しかしうどんげのほうは予想してなかったようだ。
「私はただ輝夜様の応援に・・・」
「そう、うどんげも参加する気満々みたいよ」
「!!」
うどんげは必死に首をブンブンと振るが、永琳はあえて見ないふりをする。
「それじゃあ、結局私はお前たち4人を捕まえればいいんだな」
「そういうことになるわね」
「わかった。じゃあ100秒数えてる間に逃げるがいい」
そういうと慧音が数を数え始める。
「妹紅、どっちが長く逃げていられるか勝負よ」
「面白い、受けて立つわ」
そして輝夜と妹紅の間でも妙な勝負事ができていた。
各々が逃げていくころ、妹紅が数を数えてる慧音を見てつぶやいた。
「鬼ごっこじゃなくて慧音ごっこね・・・」
「うるさい、早く逃げろ!」
慧音は妹紅に怒鳴る。
「ああ、どこまで数えたか分からなくなってしまったではないか・・・。また1から数えなおしだ・・・」
慧音の受難は続く。
「97・・・98・・・99・・・100!!」
100(正確には150近い)を数え終わると、慧音は軽く準備運動をして静かに探しにでた。
ただ単に追いかけるのではなく、隠れている者を探さなければいけないからだ。
なので鬼が見つけるまでが醍醐味という者も少なくないだろう。
だが、ここは人里はなれた山奥、森の中。隠れるにはもってこいなのである。
「・・・目立つよ。その白い耳は!!」
突如背後から声がしたうどんげは、振り返ると慧音が追いかけてきていた。
隠れていたつもりだったが、その長い耳が隠しきれていなかったのである。
「待てぇぇぇぇ!!」
「ひ、ひー!! 狂気の瞳で・・・やり過ごすしか・・!!」
うどんげの人を狂気に陥れる瞳で、慧音を惑わす。
それが効いてか慧音が、ふらつき始める。
「くっ・・・うまく目の焦点が合わないわ・・・ぶっ!!」
そのまま樹に激突する慧音。
そして、その樹は衝撃のあまり物凄い勢いでなぎ倒れる。
「ひ、ひぃ!!ひぃー!!」
その光景を見たうどんげ思わず足がすくんでしまった。
一方慧音は、樹にぶつかったおかげで正気を取り戻していた。
「痛いな、もう。さて・・・捕まえるするか・・・」
「い、命だけは勘弁をー!!」
慧音はうどんげにズシリズシリと近づいていく。
うどんげの震えが止まらない。
「はい、うどんげ捕まえたわ。何も取って食うわけじゃないんだから、そんなにおびえなくてもいいのに」
「た、助かった・・・」
うどんげは脱力のあまり座り込む。
「まあ、何はともあれあと3人か・・・。この調子で捕まえるとするか」
「うどんげはつかまってしまったか・・・」
慧音のすぐ後ろのほうで、永琳がそうつぶやいた。
実は永琳はずっと慧音の後をつけていたのである。
永琳曰く、鬼ごっこを征する一番の方法は鬼に気づかれぬように鬼を尾行することらしい。
それならば見つかる心配もないからだ。
「あ、あれ。いつの間に見失った・・・?」
が、永琳の視界の中から突然慧音の姿が消えたのだ。
急いで追いかけようとする永琳。
が、腕をつかまれる。
「なっ・・・!!」
「ふぅ。ついてきていたことには気づいていたんだけど、うどんげを先に見つけたから永琳は後回しにしちゃってね」
「気づかれてた・・・!?」
慧音は永琳の尾行に気づいていたのだ。
なので身を隠して、不審がった永琳が近づいてくるのを待ち構え、捕まえたのである。
「無念・・・」
うどんげに続き、永琳も早々につかまり残すは妹紅と輝夜となった。
「妹紅は・・・手ごわそうね。この森の中を知り尽くしているから・・・」
・・・だが、慧音の心配もよそに妹紅は困っていた。
「・・・ねぇ、なんであんたが一緒にいるの」
「勝負に勝つためよ!」
茂みに隠れる妹紅のすぐ隣には輝夜がいた。
勝負とは、どっちが長く逃げていられるかという勝負のことだろう。
「勝負って・・・。あんたと一緒に居たら勝負にならないじゃないのよ」
「なるわよ?あのハクタクに見つかったらあなたを差し出して逃げるのよ~」
何とも狡賢いというか、性根を疑うような月の姫である。
「・・・もしそれで勝ててうれしいの?」
「そうね・・・負けるよりは嬉しいかしら」
だが妹紅があることに気づく。
「ねぇ、もしも慧音に見つかったときに私よりあなたが逃げ遅れた場合は私の勝ちよね」
「あ・・・」
そう、輝夜がしようとしていたことを妹紅がしてしまえば、当然輝夜の負けになる。
ずっと家に閉じこもっていた輝夜と比べると、運動の面で妹紅のほうが逃げやすいのは明らかだ。
「ひ、卑怯よ、そんなことして勝ってうれしいの・・!?」
「あ、あんたが先に考えたことじゃないの!!」
逆上した輝夜に妹紅は思わずツッコミを入れてしまう。
勿論、鬼である慧音が迫っているとも知らずに。
「そもそも何で同じ不老不死なのに、あんたはフェニックスとか強そうなの使える訳!?」
「なんでいきなりそんな話になるのよ。あんただって難題とか言ってレーザー打ってくるくせに!!」
鬼ごっこ中であるにもかかわらず、二人は口げんかに没頭していた。
そうなると・・・
「まったく、そんな大声で騒いで。見つけてくれといってるようなものじゃないか」
当然のように慧音がやってくるわけで。
「しまった、見つかった!!」
妹紅が真っ先に逃げようとする。が、
「あ、ずるい!!先に逃げようったってそうはさせないわ!」
輝夜が妹紅の足にしがみついて、二人とも転倒してしまう。
「・・・・何をやってるんだ一体。まあいいや、二人とも捕まえさせてもらうぞ」
二人を見ていて慧音は呆れながらも、二人を捕まえる。
「・・・この勝負、どうやら引き分けのようね・・・」
「・・・輝夜のあほー・・・」
鬼ごっこが無事終わった頃は、夜が明けようとしていた。
「まぁ・・暇つぶしにはなったかな」
妹紅が疲れ顔でそう言うと、輝夜も微笑みながら、言った。
「そうね、たまには殺し合い以外もいいわね・・・永琳、よくこんな遊び思いついたわね」
「だから・・・ただの鬼ごっこだってば・・・」
妹紅はもうツッコミを入れる元気すらないといったところか。
だが、永琳が輝夜を庇う。
「輝夜様が知らないのも無理はないわ。ずっと家の中に居たので」
「それもそうね、ずっと家の中に閉じこもってちゃ・・・」
妹紅も、納得したように言う。
「別に、好きで閉じこもっていた訳じゃないのに・・・」
輝夜が、拗ねたような口でつぶやいていた。
そのとき、ふと永琳がうどんげに気づく。
「あら、うどんげどうしたの?さっきから震えているわよ」
「鬼怖い・・ハクタク怖い・・・慧音怖い・・・」
うどんげはすっかり、先ほどの慧音との一件がトラウマになってしまったらしい。
「まだ気にしていたのか。まったく・・・」
慧音は呆れたように言う。
「だ、だって本当に怖かったんですよ!?狩られるかと思いましたよ」
「たかが鬼ごっこで・・・」
慧音も困り果てた様子である。
その時、妹紅が仕切りなおすように言った。
「とりあえずもう帰るよ。さすがに疲れたし」
「そうだな、私もそうさせてもらう」
慧音も妹紅に続いて戻ろうとする。
輝夜は相変わらず拗ねていた。
「ま、今度また遊ぼうじゃないの」
「妹紅・・・。そうね、受けて立つわ」
「勿論、慧音ごっこでね」
「慧音ごっこって言うな!!」
なんだか怒鳴ってばかりの慧音でした。
誤字
簡便→勘弁
感想と誤字の指摘ありがとうございます。
訂正しておきました@@;
2・3度見直しは踏まえたのですが、見落としてましたorz
「また1から数えなおしか・・・」
という慧音に思わず和みましたw
しかし、頭を抱えながらも結局つきあってしまう人のいいけーね先生が大好きです。
感想ありがとうございます。
自分も読み返してみて、
予想以上に慧音が天然化していてびっくりでした(ぇ
>翼さん
感想ありがとうございます。
自分も最初はオチをそっちのほうへ持って行こうと思ったのですが・・・
個人的に慧音スキーな自分としては、まったりとした終わりにしてみました。
ほんわか話にも関わらず、壊れ話に期待してしまった自分は汚れのようです。
本当にいい慧音でした。
感想ありがとうございます。
確かにハクタク慧音とくればCaved!!が定番となりつつ・・・
いや、なってますね(笑
人間の時もハクタクの時も生暖かく見守っていきたいです
>卯月由羽さん
感想ありがとうございます。
自分も、こういう感じの話を読むのが好きです。
鬼ごっこのところとかは子供の頃を思い出しながら書いたので、
変なところや妙にリアルなところがありますw