Coolier - 新生・東方創想話

東方の金曜日Part8

2009/05/20 08:44:30
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東方の金曜日



第8話「多くの犠牲、多くの悲しみ」
前回(7話)において、またもや脱落者の知らせを告げる電子音が鳴る
チルノが腕時計を見るまでには、リグルの次に多くの犠牲者が出た。
いま、それが明かされる・・・。
それは、チルノがZのホテルへ向かい、休憩する前のこと・・・。
「こ、これからどうするんですかリリーさん?」
「う~ん、とりあえず、R島を春にしますよ~♪」
「だ、大丈夫かしら・・・?」
「さぁ・・・?」
リリーホワイトの発言に呆れる3妖精、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイヤ。
サニー達はリリーと同行することにした。理由は簡単。
まず、巫女だと退治されそうで怖い。他の妖怪も同様だ。
それとは違って、リリーホワイトは同じ妖精であり、春の妖精だ。
頭の中ですら春で、皆に春を告げるという穏やかな面もある。
しかし、気持ちが高ぶると弾幕を撃ってくるので、妖精においては最強と言ってもよい。
まぁ、性格に問題があるが。
「春にするって、どうやってやるんです?」
「はて・・・まぁいいじゃないですか?できるだけ皆さんに春を告げに行きます♪」
「リリーさんはZさんの話を聞いていたんですか?」
リリーの呑気な発言に、ルナが呆れる。
そうだ、自分達は遊びに来たのではない。T‐Jという、恐ろしい機械人形と戦いに来たのだ。
いくらなんでもそれは無茶だ。
そんなものは巫女に任せればいい。何で自分達もやらなきゃいけないのだ?
もし襲われたりしたら・・・そう思うと寒気がする。
だから、3人はリリーホワイトに同行することとなった。一応、安全だったから。
しかし、リリーはそんなことおかまいなしに春のことばかり考えている。
これでは、強くても意味がない。
そんな3人を見て、リリーが言う。
「・・・サニーさん達はT‐Jという人を倒す気ですか?」
そんなことを尋ねられて、3人はうろたえる。
なんだ、わかっているじゃん。まぁ、倒す気は全然ないけど。
「何故、T‐Jさんを悪い人と決めつけるのですか?」
「「「え?」」」
リリーに言われ、今度は驚く。
「T‐Jさんとて、私達と同じ様に生きているんです。それなのに、姿形が違うという理由で彼を殺すのですか?」
「で、ですが・・・。実際、T‐Jはルーミアやリグルを・・・。」
スターの言葉を遮って、リリーは優しそうに微笑む。
「確かに、あの妖怪のお2人のことは残念です。ですが、私は思うんです。なにも殺した人を殺すなど、その人と同じ行動じゃないですか?だから、私達は話し合って、和解するのが1番だと思います。」
「で、ですが・・・。」
「大丈夫です。全ての生き物には、春があります。きっと、分かり合えると思いますよ♪」
「は、はぁ・・・。」
リリーの笑顔に3人は少し、気がひいた。
話し合って、分かり合えるのか?そんな疑問が頭を通り過ぎる。
「そろそろお昼ごはんにしましょうか?」
リリーに言われて、3人はしぶしぶそれに従った。
リリー、サニー、ルナが準備している間、スターは周りに誰かいないか調べる。
「ここには、何にもいないわね・・・静かすぎる・・・。あら?」
その時、スターは何かを見る。茂みに何か動いている。
小さいとなると、T‐Jじゃないのは分かる。なら、何だろう・・・。
少し、近寄ってみてみると、兎が飛び出した。
「なんだ、おどかさないで・・・。」
その時、何かがキラッと光った・・・。
「スター、もうそろそろいいんじゃない?」
準備しつつ、サニーはスターに声かける。だが、スターの様子が変だということに気が付く。
「スター?」
「・・・・・御免・・・気配を見切れなかった・・・。」
そう言うや否や、スターは・・・
倒れた。
「「ス、スター!?」」
「スターさん!?」
その異変に気づいて、3人は駆けつける。見ると、彼女の胸にアイスピックが深々と刺さっていた。
リリーが首元に手をやるが・・・。
「・・・手遅れです・・・。」
「「!?」」
スターが死んだ?その時、前方に何かが現れた。
それは・・・T‐Jだった。スターの能力でも見切れなかったT‐Jがそこにいた。
『S-132 スターサファイヤ T‐Jの手により死亡 現在脱落者3名』
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
突然、ルナが叫び声をあげる。それを聞いて、サニーも驚く。
冷静沈着のルナがパニックになるのは今までなかった。それ程、スターの死にショックを受けたのだろう。
「いや!いや!いやぁぁぁ!」
泣き叫びながら、ルナはT‐Jに背を向けて走り出す。慌てて、サニーも追いかける。
「ルナ!落ち着いて!」
「いや―!助けて!誰か助けて!」
そんな2人を見て、T‐Jは武器を確認する。
投擲用の武器はアイスピックしかないのか、刀を2つ持つ。その内の1つはルーミアを殺したあの刀だ。
それを一気に両方投げる!
一方は運良く、サニーの肩をかすめてどこかへ行った。だが、もう一方は・・・。
ルナを貫いた・・・。
「ル、ルナ!?」
「あっ・・・・・。」
刀で貫かれたルナは、1回転して地面に倒れ・・・動かなくなった。
『L-132 ルナチャイルド T‐Jの手により死亡 現在脱落者4名』
ルナも死んだ?サニーには理解できなかった。
何故私達は死ななきゃいけないの?私達が何かしたって言うの?何なのよ・・・。
混乱するサニーの前に、鉈を持ったT‐Jが立ちふさがる。
もう駄目か?そう思ったその時・・・。
「駄目ですっ!!」
リリーがT‐Jの前に立ちふさがる。
「リリーさん逃げて!」
そう言うサニーを無視し、リリーはT‐Jに話しかける。
「もう止めてくださいT‐Jさん!貴方は間違っています!そんなことをしては、残された者達が悲しみます!」
リリーの言葉に首を傾げるT‐J。
「もう、殺すことは止めてください・・・。貴方と私達が殺しあうことは間違っています・・・。」
そして、リリーは突如、T‐Jに抱きつく。突然の行動に驚くサニー。
「大丈夫・・・。同じ春を楽しむ心があれば、きっと分かり合える筈です・・・。だから・・・。」
やがて、どれ位の時間が経ったのだろうか?リリーとT‐Jはピッタリとくっついたまま離れない。その時、
T‐Jがリリーの肩に左手を置いた。リリーの顔が喜びに溢れる。
「やっと・・・やっと、わかってくれ・・・。っ!」
T‐Jはリリーの肩を押さえつけ、右手の鉈でリリーの胸元を刺した。
「ティ・・・T‐J・・・さん?」
「・・・。」
しかし、それでもリリーは、T‐Jに微笑みかける。
「寂しい人ですね・・・ですが・・・いつか・・・いつか、分かり合えます・・・だって今は春ですから・・・。」
そして、彼女もルーミア同様、得意の口癖を言う。
「・・・春ですよ―・・・。」
『L-132 リリーホワイト T‐Jの手により死亡 現在脱落者「6」名』
「あ、あぁ・・・。」
サニーはその光景に怯えていた。
リリーホワイトは馬鹿な事をした。
分かり合えるなんて無駄なことだ。現に、殺されたじゃないか・・・。
でも・・・。サニーの心にふつふつ、と怒りがこみ上げる。
T‐Jはリリーを裏切ったのだ。
リリーの思いを、希望を、望みを、全て踏みにじったのだ。
分かり合えると思っていたリリーを殺したのだ。
許せない許せない許せない・・・。
「うあぁぁぁぁぁ―――!!」
叫びながら、サニーは突っ込んだ。無謀に思えようとも許せなかった。
スターを、ルナを、そしてリリーさんを殺した機械人形を・・・。
T‐Jはリリーの死体を凝視していたが、突進するサニーを見て、戦闘態勢に入る。
その時、サニーの背後から何かが飛んできた。
T‐Jがそれを片手で受け止める。見るとそれは、さっきT‐Jが投げた刀だ。
あれ?とサニーは疑問に思う。確か、あれはT‐Jがルナと私を殺そうとして投げた刀の一つだ。
一つはルナに当たり、もう一つはサニーをかすめて、どこかへ行った筈だ。
なのに、それが何故、サニーの背後からT‐Jの元へ向かって飛んでくる?
サニーは後ろを振り返る。それは・・・。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!よくも・・・よくも橙をぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
それは、動かなくなった化け猫、橙を抱きかかえ、怒りの形相をした九尾の狐、八雲藍だった。



それは、数分前に戻る。
スキマ妖怪、八雲紫とその式神である八雲藍、そして小さな式の式である橙は川の傍で昼食にしていた。
勿論、状況は分かっていた。ようは、T‐Jの抹殺の為にZに呼ばれたのだ。
Zは少し怪しいかもしれないが、幻想郷の危機の元凶と言われたら、放っておけない。
「とりあえず、霊夢の所へ行きましょう。」
紫の提案に霊夢の所へ向かおうとするが、あまりにも島が広すぎるので、霊夢がなかなか見つからない。
スキマなら一瞬だが、初めて見る場所では、写真とかがない限りできないという欠点の都合上、歩くしかなかった。
結果、霊夢を見つけ出せずに長時間歩くことになったので、少しばかし休憩することとなった。
「わ~い、きれいな水~♪」
「橙、もうすぐご飯だから、手をきれいに洗いなさいよー。」
藍の言葉に橙は「はーい」と元気よく返事して、川に手を突っ込む。
こんな状況でも、のほほんとした雰囲気の八雲家であった。
しかし、手を洗う橙の前方に何かが光った。
「橙、ご飯だよー!」
「はー・・・。」
そう言いかけると同時に・・・。
刀が橙の腹を貫いた。
「ふにゃぁぁぁぁぁ!」
「ちぇ、橙!?」
「どうしたの!?」
刀に刺されて倒れる橙に藍と紫はただ事じゃないと思い、駆け寄る。
「橙!橙!大丈夫!?しっかりするんだ!」
「うぁ・・・藍様・・・痛いよう・・・。」
「橙・・・・・・っ!?これは・・・。」
その時、紫は橙が刺さってある刀を抜いて驚く。
「これはT‐Jの・・・。っ!この文字は退魔の呪文!」
紫は驚く。退魔の力。それは、魔力を秘し者の命を絶ち切る絶対的な力。
これを切られた妖怪は・・・死ぬ。
それは、式神であろうと妖猫である橙も同様だった。
「橙・・・橙・・・。」
「藍様・・・。痛いよう・・・。」
「だ、大丈夫だ!痛いのは治してやるからな!」
「藍様・・・。」
「な、何だ?」
「今まで、藍様の式神で・・・幸せでした・・・。」
そして、橙は目を閉じたっきり、動かなくなった・・・。
「橙・・・?橙!?ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」
彼女の容態に気づいた藍が橙を揺さぶるが、橙はもう動かなかった・・・。紫はその光景に目をそらす。
『T-185 橙 T‐Jの手により死亡 現在脱落者5名』
「・・・藍・・・。」
紫は自分の式神に声をかける。藍はしばらく答えなかったが・・・。
「許せない・・・!」
「え?・・・ら、藍!?」
突如、刀を片手に持ち、橙を抱きかかえ、藍は走る。刀が飛んできた方向に。
紫もあわてて後を追う。そこには・・・。
たった今、リリーホワイトを殺したばかりのT‐Jとそれに突っ込もうとするサニーミルクだった・・・。
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
それを見た藍は怒りのあまり、橙を殺した刀をT‐Jに向けて投げた。



サニーミルクは藍の様子と抱えられている橙を見て納得した。
「(そうか・・・藍という狐、大事な式神を殺されて激怒したのか・・・。)」
橙を地面の上に置き、藍は戦闘態勢をとる。それを紫が止める。
「藍、止めなさい!」
「止めないでください紫様!」
「危険よ!あいつの力量を知らずに突っ込むのは危険すぎる!」
「紫様・・・私は未熟者です・・・。」
「な、何を・・・?」
突然の言葉に、紫は躊躇う。
「確かに、式神は使う者にとっては物にすぎません・・・。ですが、私は式神である橙に愛情を持ちだしてしまったのです・・・。自分も同じ式神からでしょうか?とにかく、橙を物ではなく、家族として接したのです。私もまだまだ未熟でした・・・。」
「藍・・・。」
「こんな未熟な私だからこそ、橙を殺した者を許すわけにはいきません!例え、命令に背いて力が弱くなっても!」
そう言い、藍はT‐Jに飛びかかる。
T‐Jは構えて、鉈を藍に向けて一気に振るう。
しかし、そこには誰もいない。T‐Jは周りを見る。
「ここだぁ!」
突如、藍のキックがT‐Jの後頭部に当たる。倒れようとするT‐J。
「弾幕が効きそうにないなら・・・接近戦で勝負を決める!」
そう言い、藍はT‐Jに連続キックを浴びせる。
「す、凄い・・・。これが九尾の狐の力なの?」
怒涛の勢いでT‐Jを攻撃する藍にサニーは驚きの声を上げる・・・。
「(藍・・・。それが、貴方の意志なのね・・・。)」
それを見て、紫は絶句する。
かつて、紫は式神である藍を物だと思った。事実、式神は物にすぎないし。だから、徹底的に厳しく教え込んだ。
命令に背く場合は、持っている傘でバシバシ叩く位に。
そんな中、藍は八雲の苗字を受け取り、式神である橙を持ち始めてから、和み始めた。
橙の登場で式神と主の関係が変わっていった。
そういえば、藍に説教する時に、鴉天狗が虐待だ、と怒っていたが、今はその気持ちが分かり始めた。
しかし、式神は主の命令のみ動く物。従えば従うほど、その力を発揮し、逆の場合だと、力を失う。
だから、紫は心の中で藍に「命令」した。
「(藍・・・死なないで・・・。)」
だが、T‐Jも頑丈だった。持っている鉈で藍を切り裂く。
「がはっ・・・。」
胸を斬られ、血を吐く藍。膝をつく。
「くっ・・・まだまだぁ!」
しかし、藍も負けてはいられなかった。T‐Jに攻撃を続ける。
怒涛の勢いの接近戦なら、藍のスピードが上回っていた。
だが、さっき斬られたせいで、スピードにキレがなくなり始める。それ所か、T‐Jは藍の攻撃パターンを覚えたのか、軽々と避けまくり、反撃の鉈と刀の二刀流で藍に襲いかかる。
やがてどれ位の時間がたったのだろうか?
なかなか疲労が見えないT‐Jに対し、藍は傷だらけ、血まみれになって、立っているのがやっとだった。
「もう・・・もう止めて藍!」
耐え切れなくなった紫が叫ぶ。しかし、藍は首を振るのみ。
「駄目です・・・。こやつを倒さなければいけないのです・・・。やっとチルノが仇とってやる、という言葉に理解しました・・・。」
「藍・・・?」
「それは、大切なものを奪ったものへの怒りなのです。チルノも親友であるルーミアが殺されて、T‐Jを許せないのです。私はこやつを許すわけにはいかないのです・・・橙を殺した奴を許すわけにはいきません!!」
藍はそう叫び、スペルカードとあるものを取り出す。それはZにより支給された特殊爆弾だ。
「紫様はその妖精を連れて、お逃げください!」
「藍!何を!?」
「私はここでくい止めます!スペルカードとこの武器の爆発力を合わせれば、きっと奴は倒れる筈です!」
「待ちなさい!そんなことをしたら、藍が!」
「私にはこれが精一杯です・・・。紫様・・・今までお世話になりました・・・。もし、これが犬死であれば・・・霊夢と貴方にお任せします・・・さぁ、早く!」
藍が言う。覚悟を決めた顔だった。紫には彼女を止めることはできなかった・・・。
紫はサニーを抱えて、初めて以外の場所へ繋がるスキマを発動させる。そして、藍に言う。
「藍!」
「?」
「ずっと・・・ずっと忘れないから!貴方のことも、橙のことも!絶対に忘れないから!」
涙があふれる。こんなにも涙が流れたのは何百年振りだろうか。
そう言われ、藍は「ご武運を祈ります・・・。」と微笑んだ。
スキマが閉じようとしている中、そうはさせまいとT‐Jがそれに近づこうとする。
「お前の相手は・・・この私だ!!」
藍はそう言い、T‐Jにしがみ付く。
T‐Jは藍を引き離そうと鉈で藍の背中を刺しまくる。それでも、藍は離さなかった。
そして、藍はスペルと特殊爆弾を発動させた。
やがて、眩しいほどの閃光に続き、とてつもなく大きな大爆発が起こった。
だが、近くにいた他の皆には地震程度のものしか思っていなかった・・・。
煙が晴れると、藍が倒れていた。ズタボロでもう立ち上がる気力もない。
「(や・・・やったか・・・?)」
藍は思考を振り絞って周りを見る。どこにもT‐Jの姿が見えない。
私は奴に勝ったのか?そう思いかける瞬間、地面が膨れ上がった。
「!?」
藍はその光景に凝視する。そこから現れたのは・・・。
T‐Jだった・・・。
彼は、ズタボロの服をパンパンと払い、藍に近づく。
「(やはり、無理か・・・。橙・・・紫様の無事を祈ろうな・・・。そして、天国で一緒に楽しい時を過ごそうな・・・。)」
それが、八雲藍の最後の思考だった・・・。
『L-132 八雲藍 T‐Jとの戦闘中自爆により、死亡 現在脱落者7名』
T‐Jは藍に近づき、止めを刺そうとした。しかし、藍が絶命していることを知って、鉈と刀を脚部にしまう。
ついでにアイスピックともう片方の刀を回収している中、突如、頭を森のどこかに向ける。
そしてリリー達の死体を一度に担ぎ、何処かへと消えた。そうしている中、足音が聞こえる。



萃香の酔いはスッカリ醒めていた。それは親友の勇義も同様だった。
今、自分はキスメ、ヤマネ、パルスィ、そして勇義と共に行動していた。
何でこうなったのだろう?
T‐Jと戦う?何で私達がそうしなきゃいけないんだ?
正直、夢であってほしかった。だが、現実は過酷であった。
今でも霊夢が恋しかった。霊夢は大丈夫だろうか?
萃香は親友の様子を見る。
勇義はこんな状況でも、いたって冷静だった。萃香はそれがカッコいい所だと思う。
かつて、霊夢達が地下に潜って戦った時、杯の酒を零さずに戦う等、余裕を見せていた。
そういえば、と萃香はあることを思い出して、ポケットをまさぐりながら、パルスィに近づく。
パルスィ。嫉妬を操る妖怪。自身もことあるごとに「妬ましい」と嫉妬しまくっていて、下賤と嫌われている。
「ねぇ、パルスィ?」
「ん?何よ?」
萃香の言葉に不機嫌そうに尋ねるパルスィ。そう言えば、話しかけるのは初めてだった。
「もし・・・もしこの任務が終わったら・・・秋の日曜日・・・暇?」
「秋~?ええそうよ。暇で暇でもう芸術の秋とかスポーツの秋とかほざいている奴が妬ましい妬ましい・・・。」
パルスィがいつも通りのことを言うと、萃香はすぐ笑顔になって、あるものを渡す。
「じゃあこれはどう?」
「・・・何それ?」
「今年の秋中にオープンする予定の『オプティカルランド』の予約チケット。やっと手に入ったんだよ。」
「へ~いいな~。あたしらの分もあるのかい?」
と地底の蜘蛛であるヤマネが話しかける。会って以来、一度も喋らない桶の妖怪、キスメも興味津々だ。
「御免、2人分しかいないんだ。パルスィと・・・。」
萃香は勇義を見ながら、こう言う。
「勇義の分。2人のカップルチケットしかないんだ。」
「は?」←パルスィ
「え?」←勇義
暫しの沈黙・・・。
「ウエェェェェェェェェェェッ!?」
奇怪な声をあげて勇義が驚いた。こんなので驚くなんて勇義らしくない。
「ままま待ってくれ萃香!」
「まぁ、2人仲良く楽しみなさいな♪」
萃香は勇義の狼狽を気にせず、パルスィに言った。それには深い訳がある。
勇義はパルスィを恋しているのだった。恐らく、地底に行った時に惚れたのだろう。
当初、四天王の鬼が下賤な妖怪と付き合っていることに萃香は納得できなかった。
しかし、勇義が本気で彼女を愛していることを知って、萃香は一種のキューピット役になることに決めた。
今回のチケットそのラブラブ度を更に上げようという計画なのだ。ちょっとタイミングが遅かったが。
「勇義、あんた・・・。そういう正直さが妬ましいわね・・・。」
「い、いやっ違う!萃香が勝手に!」
パルスィの呆れに必死に弁解する勇義。
「全く・・・仕方がないわね。これが終わったら、付き合ってあげるわよ・・・。」
そう言って、パルスィは前へ進む。意外と楽しそうなのは言うまでもない。
振り返ると、勇義がジト眼で睨んでいた。
「あ、相棒・・・。」
「いいじゃん別に?さぁ、2人の為にちゃちゃちゃっと終わらせるぞ~!」
そう言い終えるや否や、突如、地面が揺れた。
「な、何だ!?」
「何だか、地震とは違うな・・・。行ってみるか!」
そう言い、勇義はその場所らしい所へ向かう。萃香達も付いて行く。
辿り着くとそこは、巨大なクレーターらしき穴だった。
「何だろうこれ?」
「隕石か?・・・いや、それらしい物体はなさそうだな。」
そう言いながら、萃香と勇義は穴の周りを見てみる。パルスィとヤマネはその周りを探っている。
一方、キスメは1人ポツンと残っていた。危ないので残されたのだ。ふと、何かを見つける。
「?」
よく目を凝らすと・・・。
それは・・・アイスピックを持って、勇義を狙おうとしているT‐Jだった・・・。
「!!!」
キスメは驚きのあまり、桶でピョンピョン跳ねる。
「どうしたの、キスメ?大人しくしな・・・。」
そう言い、ヤマネもT‐Jを見つける。
「勇義!!」
「んあ?何だ?・・・っ!」
突如、高速で投げられるアイスピックに勇義は間一髪避けきれた。
「何だ!?・・・!あんたはT‐J!この穴はあんたの仕業か!?」
T‐Jの登場に戦闘態勢を取る勇義。だが・・・。
「(こんな人数で勝つには難しそうだな・・・。軍隊も全滅したし・・・。あの巫女達に会ってから出直すか。)」
そう思い、萃香に叫ぶ。
「皆、撤退だ!速く走れ!」
「わ、わかった!」
親友の意志を読み取ったのか、萃香も同じように勇義について行く。遅れてヤマネ達もついて行く。
T‐Jをまく様に必死に走る勇義一行。やがて、橋に辿り着く。
下はとんでもない程の崖っぷちで、橋はもう痛んでいつ壊れるか分からない代物だった。
勇義達は慎重に橋を渡る。その後ろにはT‐Jが追いかける。
その時、T‐Jに立ちふさがる者がいた。
パルスィである。
「(あんな大男が橋を渡ったら、一瞬で壊れてしまうからね・・・。)」
そして勇義達が渡りきってもパルスィは渡ろうとしなかった。それ所か、T‐Jと対峙している。
ふと、パルスィが口を開く。
「貴方、一体何人殺したのかしら?一体何の為に殺しているの?そう言う謎っぽさが妬ましいわ・・・。貴方、武器何本持っているの?そうやって殺しまくって楽しいの?ああ考えるたびに妬ましい妬ましい妬ましい・・・!」
そう言い、パルスィはどこからか、トンカチと五寸釘を持ち出す。いつも木で打って、嫉妬しまくっていた物だ。
「本当、妬ましい!」
そう言い、パルスィはT‐Jの飛びかかり、攻撃する。
「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい!!あぁ、そうよ!貴方は殺すことが得意なら、私は嫉妬するのが得意なの!貴方、嫌われても平気そうね!?私なんか色々言われて泣いたことあるのに!本当妬ましいわ、妬ましいわ、妬ましい!!」
そう一気にまきしたて、パルスィは五寸釘をT‐Jの胸に当て、打ち下ろしまくる。
だが、パルスィがこのような行動に動かしたのは、嫉妬の為だけではない。
勇義を守る為、それだけである。
いつも下賤とか、汚らわしいと言われたパルスィ。そんな彼女に希望を差し伸べたのが、勇義なのだ。
いつも、勇義の正直さに嫉妬しつつも、心が引かれるようになっていた。
だから、ここは何としても守る。それが彼女を動かしていた。
やがて、何回目だろうか、必殺の五寸釘が折れてしまった。
「!?・・・なんて硬い体なの・・・本当妬ましいわね・・・!」
今度はT‐Jの番だ。脚部から鉈を取り出し、パルスィの隙を突いて、
鉈でパルスィの腹部をえぐった。
「くっ・・・・・・!」
パルスィは突如の痛みに襲われた。意識が朦朧としている。自分の役目はもう終わりか・・・そう思った時、
「パルスィ―――――!!」
その呼びかけにパルスィは我に返る。
その向こうで勇義達が戻って来たのだ。どうやら、パルスィがいない事に気づいて戻ったらしい。
「待ってろ!今助ける!」
そう言い、勇義が橋へ向かおうとする。T‐Jもそれを見て、パルスィを持ち上げたまま橋を危なっかしく渡る。
駄目だ・・・このままじゃ勇義が・・・。そして、パルスィは決断する。
ポケットから、ナイフを取り出す。Zにより支給されたコンパクトナイフだ。
それを橋の一方に近づける。
「パ、パルスィ!?」
勇義の声を聞いて、パルスィは微笑み言う。
「勇義、御免・・・。私はここまでのようね・・・。」
そして、T‐Jに向かって言う。
「これが私の恋人よ・・・少しは嫉妬したかしら?」
そしてナイフで・・・。
「止めろ――――――――――!!!」
橋の縄を切った。



『P-233 水橋パルスィ T‐Jとの戦闘で転落により死亡 現在脱落者8名』
勇義達は橋の・・・いや、今はそれがない所で呆然としていた。
パルスィが・・・パルスィが死んだ?
「勇義・・・。」
萃香が声を掛ける瞬間、
ポツリ。勇義の頬に涙を流した。
「痛かっただろパルスィ・・・苦しかっただろパルスィ・・・。あたしは何もできなかった・・・。パルスィを守れなかった・・・!」
そして膝をついて、大声で泣いた。
「パルスィ―――!パルスィ―――!うぅ・・・パルスィ―――!パルスィ―――!」
「勇義・・・。」
萃香はそれを見て、何も言葉を掛けることができなかった。他の2人も同様だった。
勇義・・・。あんたとパルスィは・・・。
本当に愛していたんだね・・・。
勇義は地面を叩きながら泣く。もう戻ってこない愛人を思いながら。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



チルノは脱落者の情報を見て、絶句した。既に6名も死んだのだ。
いつもかくれんぼの鬼では強いスターサファイヤが?
音を消すかくれんぼの最終兵器であるルナチャイルドが?
春を告げることを生きがいとするリリーホワイトが?
自分と時折、遊んだ仲の橙が?
橙の保護者的存在である藍が?
いつも妬ましいと言っているパルスィが?
死んだ?皆死んでしまったの?
チルノは怒りに震えていた。またこんなにも殺したT‐Jを許せなかった。
だから、あたいは欲している。T‐Jを倒す武器を。皆の仇を取る最強の武器を。
「あいつ・・・!」
こうしている場合じゃない。また犠牲者が出る前にZから武器を頂ければ・・・。
そして、チルノは大妖精とレティに呼びかける。
「すぐに出発!Zのホテルはもうすぐよ!」



続く
ZRXです。
今回は長めに書いたと思います。
次回は7話の後編です。
Z
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コメント



0.260簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
とりあえず「泣けます」とか自分で言うのはどうかと思う
3.10名前が無い程度の能力削除
オリ設定ポコポコ付け足してるだけじゃなくて本来の設定自体もほぼシカトなんですね。
確かに泣けますね。作者にバカな行動しかさせてもらえないうえに、理由も説明も無く
人間並みの身体能力・生命力扱いされてる原作キャラの不憫さに泣けてきます。
4.無評価名前が無い程度の能力削除
つメアリー・スー

オリキャラに無茶苦茶やらせた結果、キャラが形としての記号になり果ててますね。
5.10名前が無い程度の能力削除
キャラに愛が感じられない。
8.10名前が無い程度の能力削除
TJ最高や!!他のキャラなんていらんかったんや!!
9.30名前が無い程度の能力削除
うわ、今回のは泣けるどころか引いてしまう・・・。
紫や勇義が可哀相・・・。
あと、T‐Jがチート過ぎて、主人公っぽさを感じる。
キャラにもう少しの愛を!
10.70名前が無い程度の能力削除
なんというか、この世界はこの世界で、どっぷり漬かりつつも三メートルくらい距離とって見ると、楽しいということに気づいた。
フリーダムにおかしなのりで変な笑いが来る。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
どうみても黒幕はZだよな~
Zの組織が作り出した兵器しか思わない
13.10名前が無い程度の能力削除
作者名には突っ込むべきなのでしょうか?
16.10名前が無い程度の能力削除
第8話「多くの犠牲、多くの悲しみ」

糞ワロタ
17.10名前が無い程度の能力削除
寧ろ新手のギャグかと思ったのだが、作者曰くシリアスなのでこの点数。
18.無評価名前が無い程度の能力削除
最高でした。シリアス(笑)
19.無評価名前が無い程度の能力削除
ここまで来たら、最後まで書ききられては如何でしょうか。
もっとも、「ちゃんと完結させた」ということに対する評価と、
作品の内容そのものに対する評価はまた別物になってしまいますが……
20.無評価名前が無い程度の能力削除
しかし毎回コメント読んで次回作に活かしてるのは好感が持てます。
がんばってください。
ただ、頑張りすぎてpart20~30の大長編になると読むのが大変ですが。
25.無評価名前が無い程度の能力削除
オリキャラアリとは作中のヤマネってキャラの事ですか?