藤原の末女
満月の夜だった、三人の少女がそこにいた、そのうち二人は疲れ果てたのか深い眠りについている。
起きている少女の名前は上白沢慧音、その頭には角が二本あり少々妖しい雰囲気を彼女は放っていた。満月の夜だけ彼女の肉体はハクタクに近づきこのような姿になる、彼女は半妖なのだ。
そのすぐ近くにもう一人の少女がいる。綺麗に伸びた黒髪を持ち整った顔からは高貴な印象を受ける。彼女の名前は蓬莱山輝夜、いわゆる蓬莱人である。
その少女のすぐ隣にもう一人綺麗な長い銀髪の少女がいる、疲れているのか黒髪の少女よりも深く眠ってしまっているようだ
ふいに眠っていた黒髪の少女が目を開けた
おお起きたか?今日は割と復活するまで早いみたいじゃないか。
そうね、少し嫌な夢を見ていたみたい、多分妹紅も同じ夢を見ていると思う。
ほう夢か、やけに意味ありげな物言いじゃないか、なにかおかしいことでもあったのかい?
昔の夢よ・・・・・・、まだ私達が人間側にいられた頃のこと・・・・・・。
ふと慧音は思った、自分の大切な友人、ここに眠っている少女、藤原妹紅のことだ、彼女とはもう結構長い付き合いで、多分彼女が幻想卿に訪れた初期から一緒にいるはずだが彼女の生い立ち、その他を全く知らないのだ。憎い仇こと蓬莱山輝夜のことと蓬莱の薬の事しか妹紅から聞いていないのだ、それも大分適当である。彼女の人間柄そういうことを説明したりするのは得意ではないのかもしれないが大切な有人のことはやはり気になってしまうものである。
輝夜、よかったら少し君達のことを話してくれないか?こう見えて私はあまり妹紅のことを知らないんだ、特に幻想卿に来る前のことになると特にね・・・・・・。
そうね、いいけど・・・・・・、でもあなたには話すよりもっと手っ取り早い手段があるじゃない、妹紅の歴史を見ればいいのよ、簡単なことだわ。
忘れていたわけではないが、少し驚いた、そういう使い方もあるのか・・・。
でも妹紅の奴勝手に歴史の中に入ったら怒らないか?
バレなければいいのよ!私はもう家でちゃんと寝たいのよ!復活ってものすごく疲れるものなの。
・・・・・・・。どうせまた外の電気箱とにらめっこじゃないのか?
・・・・・・・。痛いこと言ってくれるじゃない・・・。
少々不貞腐れながら輝夜は自宅、ウザギと蓬莱の薬師の待つ永遠亭へ帰って行った。どうせ私の行った通り電気箱とにらめっこするのだろう。私は知っているぞ、「にこにこ」というもが「めんてなんす」の日に必ず妹紅と輝夜は殺し合いをするのだ。
妹紅の歴史・・・・・・。あの子の歴史には私はどう記されているのかしらね・・・・・・。・・・・・・あっ、今週は「まっど」祭りだったわ、早く帰らないと!
さてじゃあ少し頑張ってみようじゃないか。
慧音は妹紅の額に自分の額をあてた。
少し痛いかもしれないが我慢してくれよ・・・・・・、もちろん妹紅が聞いているはずなどない。
ガッ
大体何年ほど遡っただろうか、千と三百年程度か・・・・・・、意識が多少薄い、妹紅自体が眠っているからだろうか・・・・・・。きっと妹紅も私と同じ景色を見ている気がする、よくわからないがそんな気がするのだ。
一瞬目の前が真っ白になった。
妹さま、食がすすまないのですか?来年には縁談話も挙がってるというのにそんなでは困りますよ?
一人の女性がそう言って妹紅に話しかけた、妹紅は元気がないのか目の前の食事に目もくれずぬ黙りこんでいる。
普段は私の分までおかわりするというのにどうしたというのか、私の作る料理よりよっぽど質が良さそうじゃないか・・・・・・、お嬢様だったのか。それにあの女性は紅魔館のメイドのようなものだろう、呼び名までそっくりじゃないか。
気になったのは妹紅の髪が普段の銀髪ではなく綺麗な黒髪だということだ・・・。
これが食べる気になると思う?父上は私と同い年の娘に求婚しているのですよ?沢山の子供も妻もいるのに、あそこまでしてその私と年も変わらぬ娘がそこまで欲しいのか?
そのようなことを私に言われましても・・・・・・。
とにかく今は食べる気分じゃないわ、下げてもらっていいかしら?
なんだろう、妹紅だけど妹紅じゃない、話し方も振る舞いもまるで別人のようじゃないか。
黒髪の妹紅はため息混じりに小さい口から一人言をこぼした。
五女が・・・末女がなんだというのですか・・・名前もいただけず私はただ家も継げず、どこの馬の骨かもわからぬ家の男の所へ嫁げというのですか・・・。
そうか、彼女は悩んでいるのか、この時代背景を考えると割とありがちなことなのではないか?どちらにしても人間のその年齢では酷なことに変わりはないか・・・・・・。
そこのあなた・・・・・・、さっきから私の部屋に無断に入ってただ立っているだけなんておかしな人ね、そろそろ人を呼んでもいいかしら?
!・・・・・・私の姿が見えているのか!?こいつはまずい!
幽霊さんかしら?ご飯を食べないからお迎えでもきたのかしら?それとも角も生えているから妖怪さんかしら?
痛い所を着くな・・・この際幽霊でもいいか・・・妖怪だとこの時代だと何かと問題になりそうだしな。
そうだ、私は幽霊・・・名前はとっくに忘れてしまったがこの辺りの主の幽霊のものだ。あまりに貴方が元気がなかったように見えてこうして見ていたのだよ。・・・・・・よく言ったものだな・・・・・・。
話は聞いていたでしょう?聞いた通りよ、都から少し離れた里にそれはもう美しい娘がいて私の父上がその娘の求婚をし続けているの。それにその娘が無理な条件ばかり出して、貴族の父上がそのような村娘に振り回されてうつつを抜かしているって皆父上のことを馬鹿にしているわ・・・。
なるほど・・・・・・、それでキミはどうしたいんだ?
・・・・・・、私、あなたと同じなの、名前がないただの藤原の一番末っ子だから父上にまるで空いてにされないの、だからみんな私のことをみんな妹さまって呼ぶのよ。だから私はお父様に認められたいの、それで私に姉上達のように名前をつけてもらうの、父上のつけた名前じゃないと嫌なの、だからその里の娘の条件の物を集めようと思うの。
ほう、貴方はお父さんが大好きなんだね、その条件に出された物というのは何なんだい?
いくつかあるの、そのうちの一個はまだ父上の家来も探しに行っていないのよ、それを手に入れて父上に渡せば・・・きっと父上も・・・・・・。
そう言って黒髪の妹紅は荷物をまとめ始めた。
家の者には言わなくてもいいのか?心配するぞ?
大丈夫、この家の人間で私のことを知っているのはさっきの乳母くらいだわ、あとは死んだ母上だけよ。
この時代はそういうものなのだろうか、変わったものだな、実の娘に愛情を注がない親がいるなんて・・・・・・。
蓬莱の玉の枝、それが妹紅が探す物らしい、どこを探してもそんなものはないのだ、知っている、蓬莱の玉の枝は蓬莱・・・すなわち月にしかないのだ。しかし私はこれ以上歴史に干渉はできない、そもそも私は本来ここにいるはずのない存在なのだ。
景色が飛んだ、ここから少し先に歴史に飛んだのだろう。
おぉ幽霊さんじゃないか、成仏したものかと思ったよ。
口調だけいつもの妹紅だ、きっと苦労したのであろう、彼女のいたるところから苦労の影が伺える。華やかだた服も里の人間程ではないが質素なものになっているし、第一彼女自身が今の妹紅にどんどん似てきているのがその証拠だろう。
困ったよ、どこにもないんだ、蓬莱の玉の枝が・・・・・・。
そう言って彼女は笑ってみせたがやはり疲れが目に見えていた。
もこ・・・いや、貴方は蓬莱の玉の枝を探しているのなら求めている里の娘に尋ねて見るのが一番じゃないのか?
何度も行ってるけど、だけどあいつはわからないから探しているのって一点張りでなんの収穫もないのさ・・・・・・。
何事も繰り返すのが大事なんだよ、なにか隠しているのかもしれないじゃないか。
それが私にできる唯一の助言だった・・・・・・、もしも私のが正しかったらその里の娘は輝夜だ、何故月からこっち側にいるかは知らないがきっと蓬莱の薬を飲んで月を追放された後のことだろう。
こんなものがあるから・・・そうでも言わんばかりの顔をして綺麗な黒髪の娘が小さな壷を抱えて彼女の住居から出てきた。
あれは怪しいな・・・・・・、よし!追うぞ幽霊さん!
複雑なものがあった、段々見えてきたのであるこの先に起こるであろうことが・・・・・・。
都からは遥かに遠い辺境の地に輝夜を追って慧音と黒髪の妹紅は辿りついた。月は丸い、そして赤い。
頃合いを見計らって妹紅は輝夜の前に立ちはだかった。
私は藤原の者だ、キミはなにか隠しているようだ、父上にせがんだ物はまだ何ひとつ誰も手に入れていない、キミはそんな物はないと知りながら父上を弄んでいるのか?もしそうであるなら私はキミを許すことはできない、都に行って罰を受けてもらいたい。
輝夜は驚いた顔をしていた、妹紅は予想通りといった表情で一歩一歩と輝夜ににじり寄っていく。
さぁ、その壷の中身を見せてくれ、キミはその壷の中に何を隠しているんだ?若い娘が夜中に家を飛び出してまで捨てようとするものはなんなんだ?
ふふふ・・・。
輝夜が笑った、ついに本性を見せるのか彼女からは多少の妖気のようなものを感じた。
そうよ!蓬莱の玉の枝も仏の御石の鉢も龍の首の珠もみんなみんな月のものよ!
妹紅の顔が怒りの色に染まって行くのがわかった、だが今の彼女はただの人間だ非力でしかない、ただ怒りに身を任せて彼女に突撃して行ったがその瞬間信じられないことが起きた。
ザッ
ザッ
ドスッ
矢と刀が妹紅の背中に突き刺さったのだ、その矢の飛んで来た方向には何人かの男たちがいた、身なりも立派で一人の男とその家来達といったところであろうか・・・・・・。
目の前の輝夜に妹紅は自分の体重を支えきれなくなった妹紅は倒れかかった。
え?
え?
二人の少女には何が起きたか全く理解できなかった
輝夜よ・・・・・・話は聞いたぞ?わしを騙して遊んでいたのか?
ふ・・・・・・藤原!お前・・・・・・何をしたかわかっているのか・・・・・・この娘はお前の・・・!
知っているもなにもわしの五女じゃ、家来を常に近くにおいていたが利用できそうなので少々利用させてもらったわ、案の定この様じゃわい・・・・・・、矢を放て。
嘘だ、こんなことがあってたまるか蓬莱の薬を妹紅は飲んでいないんだぞ、妹紅はもう虫の息じゃないか・・・・・・。
ドスッ
ドスッ
ドスッ
三本矢が輝夜を貫いた、持っていた壷は落ちその中から丸い塊達がこぼれ出した。
輝夜はそのまま山の下へと落ちて行き、妹紅はただうめいている・・・・・・。
父上・・・・・・・そんな・・・・・・わ・・た・・・・し・・・・・・・・・
男として生まれてくれたらまだ使い道もあったものだろうに、運の悪い娘だ・・・。
怒りというのを体全体で感じた、激情ではない、あまりに強大な感情を表現できないでいるのだ。私は妹紅以外に姿見られることはないらしく妹紅の父達は私に目もくれずこの場所を去ろうとしていた。
その時のことであった
一人の少女が空に浮いていた、その目は怒りを帯びていた。
外道共・・・・・・。いいものを見せてあげるわ・・・。
ソウ言って輝夜は私の足元に落ちていた丸い塊を妹紅の口に押し込んだのだ。
蓬莱の薬よ、あなたにはこの先永く永く生きてこの外道共なんかには負けない幸せを握りなさい・・・・・・。
しかし様子がおかしかったその蓬莱の薬を飲んだ瞬間、妹紅の傷口から炎が溢れてきたのである、それもただの炎ではない、己を殺した刀や矢のように鋭く速い炎だ、足元は崩れ、私は宙を舞う、しかし飛べない人間達は真っ逆さまに地面に向かっていった、しかし彼らは地面に着くことはなかった、その体は妹紅の体から溢れる炎によって切り裂かれ、地面に着く前に燃え尽きてしまった。
私はただその光景を唖然としながら見続ける
その炎が輝夜を襲った。
ふふ・・・・・・藤原の妹・・・また会いましょう・・・・・・、永遠の時が私達を待つわ・・・。
そう言ってまた少し灰が増えた。
気付いた時は朝だった、結局妹紅の体から炎が消えるのはそのころになったのだ、それと同時に彼女も意識を取り戻す。
体のどこにも痛みを苦しみもなくなってしまった、どうなっているんだ・・・、幽霊さん!どこにいるんだ?
もう彼女には私が見えないのだろうか、妹紅がそろそろ夢から目覚めるのかもしれない。
紅い・・・紅い・・・瞼を閉じても・・・掌を見ても、私の足元を見ても・・・全部私がやったというの・・・?私は・・・人でなくなってしまったのか?私は人を・・・殺めてしまったのか・・・?
ふいに彼女のなにかが変わった。
己の身を焼いた炎の作り出した灰の銀色が髪に染み付いていた。
私は・・・背負おうじゃないか、藤原もこの弱さもこの血に染まった罪も・・・・・・
藤原妹紅・・・・・・それが私の名前だ・・・。
目の前が一瞬真っ白になった。
気がつけばもう妹紅は起きて私の代わりに朝ご飯を作ってくれていた
ああ、おはよう、もう一応適当だけど朝ごはん、たまには私の作ったのの食べてよ。
すまない妹紅・・・今少しそんな気分じゃないんだ。
ん?具合でも悪いの?
いや・・・少しお腹がいっぱいで・・・。
晩御飯がまだ残ってるんだ!食いしん坊だね慧音は!
お前に言われたくないぞ!
ははは!
薄れいく意識の中で私は必死に彼女の悲しみの歴史を食らっていた、彼女の深く、大きすぎる悲しみの歴史を私は少しでもなくなるように必死に食らいついた。少しでも妹紅の悲しみがなくなればと思ったのだ・・・。
慧音!
ん?なんだ改まって・・・。
ハクタクってお前の他にもいるのか?
どうだろうな・・・私の知る限り私の親以外まだ知らないな・・・。
そっかぁ・・・アレだと思うんだけどなぁ・・・。
どうした妹紅なんかあったのか?
いや少し昔の事をさ!
ふうん・・・・・・。
そうして幻想卿にまたいつも通りの朝が来た。
ただ少し違ったのはこの日の藤原妹紅はいつもよりも笑顔が多かったことくらい。
満月の夜だった、三人の少女がそこにいた、そのうち二人は疲れ果てたのか深い眠りについている。
起きている少女の名前は上白沢慧音、その頭には角が二本あり少々妖しい雰囲気を彼女は放っていた。満月の夜だけ彼女の肉体はハクタクに近づきこのような姿になる、彼女は半妖なのだ。
そのすぐ近くにもう一人の少女がいる。綺麗に伸びた黒髪を持ち整った顔からは高貴な印象を受ける。彼女の名前は蓬莱山輝夜、いわゆる蓬莱人である。
その少女のすぐ隣にもう一人綺麗な長い銀髪の少女がいる、疲れているのか黒髪の少女よりも深く眠ってしまっているようだ
ふいに眠っていた黒髪の少女が目を開けた
おお起きたか?今日は割と復活するまで早いみたいじゃないか。
そうね、少し嫌な夢を見ていたみたい、多分妹紅も同じ夢を見ていると思う。
ほう夢か、やけに意味ありげな物言いじゃないか、なにかおかしいことでもあったのかい?
昔の夢よ・・・・・・、まだ私達が人間側にいられた頃のこと・・・・・・。
ふと慧音は思った、自分の大切な友人、ここに眠っている少女、藤原妹紅のことだ、彼女とはもう結構長い付き合いで、多分彼女が幻想卿に訪れた初期から一緒にいるはずだが彼女の生い立ち、その他を全く知らないのだ。憎い仇こと蓬莱山輝夜のことと蓬莱の薬の事しか妹紅から聞いていないのだ、それも大分適当である。彼女の人間柄そういうことを説明したりするのは得意ではないのかもしれないが大切な有人のことはやはり気になってしまうものである。
輝夜、よかったら少し君達のことを話してくれないか?こう見えて私はあまり妹紅のことを知らないんだ、特に幻想卿に来る前のことになると特にね・・・・・・。
そうね、いいけど・・・・・・、でもあなたには話すよりもっと手っ取り早い手段があるじゃない、妹紅の歴史を見ればいいのよ、簡単なことだわ。
忘れていたわけではないが、少し驚いた、そういう使い方もあるのか・・・。
でも妹紅の奴勝手に歴史の中に入ったら怒らないか?
バレなければいいのよ!私はもう家でちゃんと寝たいのよ!復活ってものすごく疲れるものなの。
・・・・・・・。どうせまた外の電気箱とにらめっこじゃないのか?
・・・・・・・。痛いこと言ってくれるじゃない・・・。
少々不貞腐れながら輝夜は自宅、ウザギと蓬莱の薬師の待つ永遠亭へ帰って行った。どうせ私の行った通り電気箱とにらめっこするのだろう。私は知っているぞ、「にこにこ」というもが「めんてなんす」の日に必ず妹紅と輝夜は殺し合いをするのだ。
妹紅の歴史・・・・・・。あの子の歴史には私はどう記されているのかしらね・・・・・・。・・・・・・あっ、今週は「まっど」祭りだったわ、早く帰らないと!
さてじゃあ少し頑張ってみようじゃないか。
慧音は妹紅の額に自分の額をあてた。
少し痛いかもしれないが我慢してくれよ・・・・・・、もちろん妹紅が聞いているはずなどない。
ガッ
大体何年ほど遡っただろうか、千と三百年程度か・・・・・・、意識が多少薄い、妹紅自体が眠っているからだろうか・・・・・・。きっと妹紅も私と同じ景色を見ている気がする、よくわからないがそんな気がするのだ。
一瞬目の前が真っ白になった。
妹さま、食がすすまないのですか?来年には縁談話も挙がってるというのにそんなでは困りますよ?
一人の女性がそう言って妹紅に話しかけた、妹紅は元気がないのか目の前の食事に目もくれずぬ黙りこんでいる。
普段は私の分までおかわりするというのにどうしたというのか、私の作る料理よりよっぽど質が良さそうじゃないか・・・・・・、お嬢様だったのか。それにあの女性は紅魔館のメイドのようなものだろう、呼び名までそっくりじゃないか。
気になったのは妹紅の髪が普段の銀髪ではなく綺麗な黒髪だということだ・・・。
これが食べる気になると思う?父上は私と同い年の娘に求婚しているのですよ?沢山の子供も妻もいるのに、あそこまでしてその私と年も変わらぬ娘がそこまで欲しいのか?
そのようなことを私に言われましても・・・・・・。
とにかく今は食べる気分じゃないわ、下げてもらっていいかしら?
なんだろう、妹紅だけど妹紅じゃない、話し方も振る舞いもまるで別人のようじゃないか。
黒髪の妹紅はため息混じりに小さい口から一人言をこぼした。
五女が・・・末女がなんだというのですか・・・名前もいただけず私はただ家も継げず、どこの馬の骨かもわからぬ家の男の所へ嫁げというのですか・・・。
そうか、彼女は悩んでいるのか、この時代背景を考えると割とありがちなことなのではないか?どちらにしても人間のその年齢では酷なことに変わりはないか・・・・・・。
そこのあなた・・・・・・、さっきから私の部屋に無断に入ってただ立っているだけなんておかしな人ね、そろそろ人を呼んでもいいかしら?
!・・・・・・私の姿が見えているのか!?こいつはまずい!
幽霊さんかしら?ご飯を食べないからお迎えでもきたのかしら?それとも角も生えているから妖怪さんかしら?
痛い所を着くな・・・この際幽霊でもいいか・・・妖怪だとこの時代だと何かと問題になりそうだしな。
そうだ、私は幽霊・・・名前はとっくに忘れてしまったがこの辺りの主の幽霊のものだ。あまりに貴方が元気がなかったように見えてこうして見ていたのだよ。・・・・・・よく言ったものだな・・・・・・。
話は聞いていたでしょう?聞いた通りよ、都から少し離れた里にそれはもう美しい娘がいて私の父上がその娘の求婚をし続けているの。それにその娘が無理な条件ばかり出して、貴族の父上がそのような村娘に振り回されてうつつを抜かしているって皆父上のことを馬鹿にしているわ・・・。
なるほど・・・・・・、それでキミはどうしたいんだ?
・・・・・・、私、あなたと同じなの、名前がないただの藤原の一番末っ子だから父上にまるで空いてにされないの、だからみんな私のことをみんな妹さまって呼ぶのよ。だから私はお父様に認められたいの、それで私に姉上達のように名前をつけてもらうの、父上のつけた名前じゃないと嫌なの、だからその里の娘の条件の物を集めようと思うの。
ほう、貴方はお父さんが大好きなんだね、その条件に出された物というのは何なんだい?
いくつかあるの、そのうちの一個はまだ父上の家来も探しに行っていないのよ、それを手に入れて父上に渡せば・・・きっと父上も・・・・・・。
そう言って黒髪の妹紅は荷物をまとめ始めた。
家の者には言わなくてもいいのか?心配するぞ?
大丈夫、この家の人間で私のことを知っているのはさっきの乳母くらいだわ、あとは死んだ母上だけよ。
この時代はそういうものなのだろうか、変わったものだな、実の娘に愛情を注がない親がいるなんて・・・・・・。
蓬莱の玉の枝、それが妹紅が探す物らしい、どこを探してもそんなものはないのだ、知っている、蓬莱の玉の枝は蓬莱・・・すなわち月にしかないのだ。しかし私はこれ以上歴史に干渉はできない、そもそも私は本来ここにいるはずのない存在なのだ。
景色が飛んだ、ここから少し先に歴史に飛んだのだろう。
おぉ幽霊さんじゃないか、成仏したものかと思ったよ。
口調だけいつもの妹紅だ、きっと苦労したのであろう、彼女のいたるところから苦労の影が伺える。華やかだた服も里の人間程ではないが質素なものになっているし、第一彼女自身が今の妹紅にどんどん似てきているのがその証拠だろう。
困ったよ、どこにもないんだ、蓬莱の玉の枝が・・・・・・。
そう言って彼女は笑ってみせたがやはり疲れが目に見えていた。
もこ・・・いや、貴方は蓬莱の玉の枝を探しているのなら求めている里の娘に尋ねて見るのが一番じゃないのか?
何度も行ってるけど、だけどあいつはわからないから探しているのって一点張りでなんの収穫もないのさ・・・・・・。
何事も繰り返すのが大事なんだよ、なにか隠しているのかもしれないじゃないか。
それが私にできる唯一の助言だった・・・・・・、もしも私のが正しかったらその里の娘は輝夜だ、何故月からこっち側にいるかは知らないがきっと蓬莱の薬を飲んで月を追放された後のことだろう。
こんなものがあるから・・・そうでも言わんばかりの顔をして綺麗な黒髪の娘が小さな壷を抱えて彼女の住居から出てきた。
あれは怪しいな・・・・・・、よし!追うぞ幽霊さん!
複雑なものがあった、段々見えてきたのであるこの先に起こるであろうことが・・・・・・。
都からは遥かに遠い辺境の地に輝夜を追って慧音と黒髪の妹紅は辿りついた。月は丸い、そして赤い。
頃合いを見計らって妹紅は輝夜の前に立ちはだかった。
私は藤原の者だ、キミはなにか隠しているようだ、父上にせがんだ物はまだ何ひとつ誰も手に入れていない、キミはそんな物はないと知りながら父上を弄んでいるのか?もしそうであるなら私はキミを許すことはできない、都に行って罰を受けてもらいたい。
輝夜は驚いた顔をしていた、妹紅は予想通りといった表情で一歩一歩と輝夜ににじり寄っていく。
さぁ、その壷の中身を見せてくれ、キミはその壷の中に何を隠しているんだ?若い娘が夜中に家を飛び出してまで捨てようとするものはなんなんだ?
ふふふ・・・。
輝夜が笑った、ついに本性を見せるのか彼女からは多少の妖気のようなものを感じた。
そうよ!蓬莱の玉の枝も仏の御石の鉢も龍の首の珠もみんなみんな月のものよ!
妹紅の顔が怒りの色に染まって行くのがわかった、だが今の彼女はただの人間だ非力でしかない、ただ怒りに身を任せて彼女に突撃して行ったがその瞬間信じられないことが起きた。
ザッ
ザッ
ドスッ
矢と刀が妹紅の背中に突き刺さったのだ、その矢の飛んで来た方向には何人かの男たちがいた、身なりも立派で一人の男とその家来達といったところであろうか・・・・・・。
目の前の輝夜に妹紅は自分の体重を支えきれなくなった妹紅は倒れかかった。
え?
え?
二人の少女には何が起きたか全く理解できなかった
輝夜よ・・・・・・話は聞いたぞ?わしを騙して遊んでいたのか?
ふ・・・・・・藤原!お前・・・・・・何をしたかわかっているのか・・・・・・この娘はお前の・・・!
知っているもなにもわしの五女じゃ、家来を常に近くにおいていたが利用できそうなので少々利用させてもらったわ、案の定この様じゃわい・・・・・・、矢を放て。
嘘だ、こんなことがあってたまるか蓬莱の薬を妹紅は飲んでいないんだぞ、妹紅はもう虫の息じゃないか・・・・・・。
ドスッ
ドスッ
ドスッ
三本矢が輝夜を貫いた、持っていた壷は落ちその中から丸い塊達がこぼれ出した。
輝夜はそのまま山の下へと落ちて行き、妹紅はただうめいている・・・・・・。
父上・・・・・・・そんな・・・・・・わ・・た・・・・し・・・・・・・・・
男として生まれてくれたらまだ使い道もあったものだろうに、運の悪い娘だ・・・。
怒りというのを体全体で感じた、激情ではない、あまりに強大な感情を表現できないでいるのだ。私は妹紅以外に姿見られることはないらしく妹紅の父達は私に目もくれずこの場所を去ろうとしていた。
その時のことであった
一人の少女が空に浮いていた、その目は怒りを帯びていた。
外道共・・・・・・。いいものを見せてあげるわ・・・。
ソウ言って輝夜は私の足元に落ちていた丸い塊を妹紅の口に押し込んだのだ。
蓬莱の薬よ、あなたにはこの先永く永く生きてこの外道共なんかには負けない幸せを握りなさい・・・・・・。
しかし様子がおかしかったその蓬莱の薬を飲んだ瞬間、妹紅の傷口から炎が溢れてきたのである、それもただの炎ではない、己を殺した刀や矢のように鋭く速い炎だ、足元は崩れ、私は宙を舞う、しかし飛べない人間達は真っ逆さまに地面に向かっていった、しかし彼らは地面に着くことはなかった、その体は妹紅の体から溢れる炎によって切り裂かれ、地面に着く前に燃え尽きてしまった。
私はただその光景を唖然としながら見続ける
その炎が輝夜を襲った。
ふふ・・・・・・藤原の妹・・・また会いましょう・・・・・・、永遠の時が私達を待つわ・・・。
そう言ってまた少し灰が増えた。
気付いた時は朝だった、結局妹紅の体から炎が消えるのはそのころになったのだ、それと同時に彼女も意識を取り戻す。
体のどこにも痛みを苦しみもなくなってしまった、どうなっているんだ・・・、幽霊さん!どこにいるんだ?
もう彼女には私が見えないのだろうか、妹紅がそろそろ夢から目覚めるのかもしれない。
紅い・・・紅い・・・瞼を閉じても・・・掌を見ても、私の足元を見ても・・・全部私がやったというの・・・?私は・・・人でなくなってしまったのか?私は人を・・・殺めてしまったのか・・・?
ふいに彼女のなにかが変わった。
己の身を焼いた炎の作り出した灰の銀色が髪に染み付いていた。
私は・・・背負おうじゃないか、藤原もこの弱さもこの血に染まった罪も・・・・・・
藤原妹紅・・・・・・それが私の名前だ・・・。
目の前が一瞬真っ白になった。
気がつけばもう妹紅は起きて私の代わりに朝ご飯を作ってくれていた
ああ、おはよう、もう一応適当だけど朝ごはん、たまには私の作ったのの食べてよ。
すまない妹紅・・・今少しそんな気分じゃないんだ。
ん?具合でも悪いの?
いや・・・少しお腹がいっぱいで・・・。
晩御飯がまだ残ってるんだ!食いしん坊だね慧音は!
お前に言われたくないぞ!
ははは!
薄れいく意識の中で私は必死に彼女の悲しみの歴史を食らっていた、彼女の深く、大きすぎる悲しみの歴史を私は少しでもなくなるように必死に食らいついた。少しでも妹紅の悲しみがなくなればと思ったのだ・・・。
慧音!
ん?なんだ改まって・・・。
ハクタクってお前の他にもいるのか?
どうだろうな・・・私の知る限り私の親以外まだ知らないな・・・。
そっかぁ・・・アレだと思うんだけどなぁ・・・。
どうした妹紅なんかあったのか?
いや少し昔の事をさ!
ふうん・・・・・・。
そうして幻想卿にまたいつも通りの朝が来た。
ただ少し違ったのはこの日の藤原妹紅はいつもよりも笑顔が多かったことくらい。
なかなかよかったです