Coolier - 新生・東方創想話

満月と夜食

2005/12/29 04:28:49
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サッ ズルッ カポン・・・サッ ズルッ カポン・・・

「・・・今年も終わりねぇ。」
「ええ、そうですね。」

白玉楼の主は年越しわんこそばを食べながら呟く。
従者の手は休むことなく動いているにも関わらず、食べる側にはまだ余裕があるようだ。

サッ ズルッ カポン・・・サッ ズルッ カポン・・・

・・・

「ほら、妖夢早く入れなさい。」
「幽々子様、もう400杯ですよ?お夜食はこのくらいにしておいた方が・・・」
「ほら、妖夢早く入れなさい。」
「・・・はい、ただいまお持ちします。」

流石に夕食を普段通り済ませた後、これほどの量を食べるとは予想できなかった。
慌てて台所へ走っていく。

一人残された幽々子は障子をあけ、夜空を見上げていた。
昨日まで降っていた雪はやんでいる。綺麗な満月だ。
遠くにうっすらと博霊神社の除夜の鐘が聞こえる。

「それにしても今年はあまり目立ってないわね。来年はいい年にしたいわ。」
春にあった花の異変も妖夢が勝手に動いただけだった。
そもそも異変じゃないのよね。ほっとけば直るんだから。
でももう少しはしゃげばよかったかしら?
花の蜜巡りも悪くないかも?

「蝶じゃないんだからやめてください。」
「あら、私は蝶が好きよ?」
「そういうことじゃなくてですね・・・」
半分呆れたような半分諦めたような表情をして半人前が近づいてくる。

「早かったわね。ってまだできてないのかしら?」
「茹で上がるまでもう少しお待ちください。その間茄子のお新香でもどうぞ。蕎麦だけでは飽きたでしょう。」
「気が利くじゃない。・・・・・・ん、これだわ!」
「え?えぇ。気に入って頂けたら光栄です。」
「蕎麦はもういいから茄子料理をありったけ作ってきなさい。」
「かしこまりました。って・・・ええええぇぇぇぇぇ!!」
「?」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで急に茄子なんですか!」
「これは来年を良い年にするための作戦なのよ。一富士二鷹三なすびというでしょう?」
「え、えぇ・・・。」
「初夢でこの三つを見ればきっと素敵な年になるわ。」
「それと食べることとどんな関係が?」
「食べたものの夢を見るのは当然でしょう?」

そーなのかー。
いつも幽々子様の寝顔が幸せそうなのは素敵な夢を見ているからに違いない。

「つまり!今夜寝る前にこの三つを食べなきゃいけないのよ!それこそ時間を止めてでも!!」
「もう永夜返しは嫌ですよ・・・。」
「つべこべ言わず茄子持ってきなさい!時間は少ないのよ!」
「は、はい!ただいま!」





***なすび***

台所にて

「うーん、これだけで足りるかなぁ。」

茹で上がった蕎麦は明日のおやつにでもするとして。
茄子が少ない。
いや、決して少ない量ではないのだがこれだけで満足してくれるだろうか。

「腕の見せ所ですね。」
茄子をメインにしつつ他の具材も多く使い量を増やす。
且つ風味豊かなおいしさにする。
そして何より今回の最重要項目、速さ。
難題のようだが妖夢にはそれほど困難なことではない。
なにしろ毎日のように幽々子の無理な注文をこなしているのだ。

「お待たせしました!」
「遅いわ妖夢。十秒以内に持ってきなさい。」
「は、はい、精進します。」
「少し足りないかしらねぇ。」
「すいません・・・。」
「味付けが塩一粒分濃いわ。」
「・・・みょん。」
いじめられながらも茄子はどんどん減っていく。

「少し足りないわね。これだけは冗談じゃないわ。」
さっきから冗談のような量食べてる亡霊が何を。と言おうとしたがやめておいた。
「さっきから冗談のような量食べてる亡霊が何を言うのかしら。」
神出鬼没なスキマが代弁してくれた。
「あら、こんばんわ。それともおはようかしら?・・・・・・ん?」
「「?」」

幽々子脳内 : 茄子→紫色→スキマ妖怪

「じゅるり」
「「!?」」
ただならぬ気配を感じ取ったか紫色の妖怪はスキマの奥へ引っ込んでしまった。
「チッ。まぁいいわ、残り二種類残ってるものね。さて妖夢。どうせ鷹も富士もないんでしょう?」
「え?えぇ。」
「食べに行くわよ。」
「やっぱりそうですか・・・。」





***鷹***

「ほら、妖夢。置いてくわよ~。」
意気揚々と白玉楼階段を下りていく。
「待ってください。幽々子様のそれは夜明け前のテンションですよ。」
「ふふ、あの時の夜みたいね。」
「そうですね。もう満月はこりごりですが。っと現世斬。」
蛍を斬り潰しつつ先へ進む。

「確かこのあたりに・・・」
「あーっお前たち!一週間前丸焼きにされかけた恨みを食らえ!」
「いましたね。」
「いただきまーす。」

鷹符「イルスタードダイブ」 !

「じゅるり」






弾幕が幽々子様の口へ消える。



「「・・・!!?」」








弾幕を・・・食べた?






「ゆ、幽々子様?大丈夫ですか?」
「え?何が?」
「その・・・弾幕を・・・」
「別に目の前の弾を消せるのはあなただけじゃないわ、妖夢。」
いや、食べるのは反則だろう。というかミスティア食べるんじゃなかったの?噛り付く程度だと思うけど。
ふと見ると夜雀は逃げ出していた。
「・・・ミスティア逃げちゃいましたが?」
「食べたかったのは夜雀じゃなくて鷹よ。目的は果たせたからいいわ。次は富士料理ね。」

「・・・はい。」
胸に釈然としないものを残しつつも、幽々子様についていくことしかできなかった。





***富士***

いつかの夜、肝試しをした竹林へと辿り着いた。
鬱蒼としげる竹の合間を縫いながら妖夢は考える。
先ほどは的外れな答えが返ってきたが本当に弾幕を食べて平気なのだろうか?
チラリと横目で幽々子様を見る。
いたって健康そのもの、富士料理を待ちきれないといった様子だ。
ここで富士ってことは・・・やっぱり今度も弾幕食べるんだろうなぁ。
幽々子様はアイツは苦手って言ってたけど、どうなるんだろう。
あ、でも生き肝食べたいとも言ってたような。
そんなことを思い出しているときだった。

「珍しいね。新年早々まさか幽霊に会うとは思わなかったよ。」
「あら、もう年が変わったのかしら。」

え!?
慌てて月を見る。満月だったのですぐに視線を逸らしたが。
しかし、傾き具合からしてだいぶ時間が経っていたようだ。

「今何時くらいですか?」
「丑三つ時くらい?永遠亭に初弾幕浴びせようとしてたとこだし。」
「幽々子様、妹紅さん、あけましておめでとうございます。」
「おめでとう、妖夢。それから天敵。」
「あぁ、あけおめ。で、私の竹林へ何しに?」
「食べるためよ。」
「・・・前に食してはダメとか言ってなかった?」
「案外おいしいかもしれないわ。」

二人の間の空気がピリピリとしてきた。オロオロする妖夢を尻目に会話は進む。
なんでわざわざ挑発してるんだろう。
ああそうか、いきなり強いスペルカード出させるためか。

「私の美しい弾幕を食らいなっ。」
「そうするわ。」

蓬莱「凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-」!

「じゅるり」





***???***

「熱くて喉が火傷しそうだったわ。」
「じゃあ無理して食べないでくださいよ・・・。」
口ではなく喉ってことは丸呑みしてるのだろうか。
「あら、よ~む~。初日の出よ~。」
朝陽が昇るなか、無事白玉楼に戻ってこれた。
あの後妹紅に事情を説明しいっしょに永遠亭に挨拶に行った。
いろんな意味の。
三対四と不利だったが途中から満月に発狂した二本角が乱入してきて盛り返したり。
ラストワード8枚が飛び交っていたが、結局は酒が振舞われ宴会となる。
幽々子様は座薬が食べたいとか兎鍋もいいわねとか言ってたが、とりあえず胃薬を貰って飲ませておいた。
そこで月の頭脳と話してわかったことがある。

「初夢は一日の夜から二日の朝にかけてみる夢のことよ。」
つまり焦る必要などなく、普通に寝ても一日余裕があったのだ。
「それと一富士二鷹三なすびには・・・あぁ、やっぱいいわ。気にしないで。」
最後に何か言いかけていたが、気にしなくてもいいことなのだろう。

「ふふふ、知りたいかしら?」

スキマから茄子が現われた。
前言撤回、この妖怪が教えたがるということは聞いてはいけないことなのだ。

「いえ、結構です紫さん。それよりあけましておめでとうございます。」
「あら、ナ・・・いえ、紫、今年もよろしく。」
「・・・少し夜雀の気持ちがわかった気がするわ。」
ふぅ、とため息をついたがすぐに顔を上げた。
「永琳が言いかけたこと、知りたいでしょう?」
ふふふ、と薄笑いを浮かべながら問いかけてくる。
やばい。やばい!何か知らんが聞いてはいけない気がする。
全力で阻止せよと本能が喚いている。
「あ、あの!結構ですのでこれにて失礼しま・・・」
「逃げても無駄よ。自己保身のためにも絶対に聞かせるわ。」
・・・うん、無理だ。どこにでもあるスキマから逃げ切ることなんてできやしない。

「一富士二鷹三なすびには続きがあって・・・四は扇よ。」

瞬間、幽々子様があのデカい扇を背に広げる。
・・・まさか、まさかね。ハハハ。

「これだけあれば食べがいがありそうねぇ。」

やっぱりそうなるんですか。あぁスキマさん逃げないで。幽々子様早まらないで。
やめて。やめて。


「じゅるり」
はじめまして。WBと申します。
SS書くの初めてでなにぶん稚拙な文章ですが、最後まで読んで頂いたあなたに感謝感激。

大晦日に投稿したかったのですが諸事情により年末年始ネットにつなげないので・・・。
気の早い話ですが楽しんで貰えたら幸いです。
WB
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