Coolier - 新生・東方創想話

三日遅れのバレンタインデー

2006/02/17 10:35:06
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バレンタインデー、若い男性が自分の好きな女性に愛の気持ちをつづった手紙を出すようになり、これが次第に広まって行ったのが由来。
カードがよく使われれて、男女ともお互いにバレンタイン・カードを出すようになりました。バレンチノがしたようにその頃に殉教していた聖バレンチノにちなんで「あなたのバレンタインより」と書いたり、「わたしのバレンタインになって」と書いたりすることもある。
カードのほかにも恋人や友達、家族などがお互いに花束、お菓子などを贈ったりする。


「――という行事が外の世界ではあるらしいんです。一部では何故かチョコメインらしいですけど」
「へぇ……、そんなのどこで聞いたのよ?」
「今日取材に行った時に紫さんから聞きました」

余計なことを、と霊夢は心の底から思う。
どうせどういう流れになるか分かってて言う辺りが尚のこと性質が悪い。

「で、あなたは私にその話を聞かせてどうしたいわけ?」
「はい、お祭ということなので普段世話になっている人に感謝の気持ちをと言う趣旨でここで宴会でも―――」
「却下」
「……何でですか?」

心底意外そうな顔な文。
この娘の中では宴会大好き人間と思われてるのだろうか、と真面目に悩む。
別に嫌いと言うわけでもないが、断じて連続十一日と言う偉業を成し遂げるほど宴会狂でもない。

「何でも何も、何度も言うけどここは神社なの、分かってる?」
「はい、賽銭もろくにない人外魔境な神社ですね」

否定できる要素が全くないのが悲しいところではある。

「と、とにかく、その行事は西洋のものでしょ?ここは和風の形式の建物なんだから相応しくないでしょ」
「むぅ……どうしてもですか?」
「どうしても、よ」
「……分かりました、相応しい場所でなら良いんですね!場所は必ず確保しますから、そのときには参加していただきますからね!」
「はいはい、期待しないで待ってるわ」

そして、来た時と同じように風のように去っていく。
まるで最初からいなかったかのような静けさが戻る。

「覚悟しといた方がいいよ?天狗ってのは私達以上に昔からこういう行事には燃える口なんだから」

どこからか聞こえてきたそんな宴会好きの鬼の言葉に霊夢は新たに大きなため息を付いた。









「……つまり、ここを宴会の会場として使いたいってことね?」
「はい」

文が対峙するのは紅魔館の主であるレミリア・スカーレット。
傍にはメイド長の咲夜の姿もある。
広さ、西洋風の雰囲気、宴会場として此処以上に相応しい場所はないと判断したのだ。

「それにしても感謝の気持ち、ねぇ。そんな殊勝な気持ちを持ってる人がいるものかしらねぇ」

これは別にレミリアがそういう思想をしているから、というわけではなく幻想郷に集まるのはほとんどが自分以外のことがどうでもいい人々だからである。
そのせいで新聞等の情報関係の物の需要が極端に低いと言うのは文の悩みの種でもある。

「ええ、実際問題そんな感情を持つ人を探すこと自体が至難の業でしょう。というか、そういう人のみ集めたら宴会の規模が少なくなりますね、ぶっちゃけ」
「……ああ、つまりそれを『名目』にして皆を集めようって腹ね」
「理解が早くて助かります」

宴会など名目さえ立てば人が集まるものだ。
そして、集まりさえすれば後はどうにでもなる。こと宴会にかけてはこの辺りの住人は盛り上がり度は他に類を見ない。

「で、私の方は場所だけを準備すれば良いのね?」
「宣伝は私の十八番ですのでお任せください」
「なるほどね。……分かったわ、面白そうだし許可してあげる。咲夜、出来るわね?」
「はい」

咲夜の返事は淡白なものだったが、レミリアも深くそれを追求しようとはしない。
レミリアの問いは確認に過ぎず、命令された時点で例えどんなことがあろうとも実行する以外に選択肢は残されていないから。

「そういうことだから、宣伝の方は頼んだわよ?」
「はい、お任せください!」







『ばれんたいんday
紅魔館のレミリア・スカーレット様協力の下の特別企画。
日ごろお世話になっている恩返し――という名目で皆でどんちゃん騒ぎをしよう!
参加に制限はなし、ただし食料お酒に関しては各自で』

その日、幻想郷一早い文々。新聞からそんな号外が幻想郷各地に配られた。

紅白の巫女は天狗の行動力の高さに苦笑しつつも「宣伝で名目って書いてどうするのよ」と言った、
七色の魔法使いは「……くだらないわね」と言いつつ早速準備を始めた、
永遠亭の薬師は「号外って向こうから配りに来るものだったかしら」と首をかしげた、
亡霊の姫は「あら、また楽しそうなこと考えてるわね~」とつかみどころのない笑顔で言った
白黒の魔法使いは「これに乗らなかったら宴会幹事失格だぜ」とほくそ笑んだ。









それから人が集まるまでそう時間はかからなかった。
大抵の人が予測したとおり集まったのはいつも通りの面々、つまり宴会好きの連中が集まったのだ。
ただ、いつもと違うのは宴会用の食料などとは別にプレゼント用の物を用意しているものが多かった。

「……意外ね。来るとは思ってたけど趣旨に沿う奴がいるのは予測してなかったわ」

会場に到着した霊夢はその光景を少し信じられないような目つきで見つめる。

「乗れる行事にはとことん乗ろう、ってことじゃない?」

まぁ、私はお酒が呑めれば何でもいいけどねー、と一緒についてきた萃香は心底楽しそうに呟きながら一番盛り上がってそうな場所へと向かっていく。
そういう考えもまた幻想郷らしいと言えばらしいかな、とは思う。

「お、霊夢じゃないか。結構遅かったな」
「魔理沙」

声をかけてきたのは他の人に持っていた品を渡したりしている魔理沙。
押し付けてるだけのように見えなくもないが、そこは目を瞑ることにする。

「あんたが他の人に物をあげる光景を見る日が来るとは思わなかったわ」
「他の奴が考えたイベントってのがアレな感じだが、こういう楽しそうなイベントには乗らないと損だからな」

魔理沙は楽しいことには目がないところがあるのでこういうのは好きなのだろう。

「まぁ、あげたらあげた元は回収に行くけどな」
「……傍迷惑な贈り物ね」
「世の中ギブ&テイクってやつだ。ただで物が貰えると思ったら大間違いだぜ」
「だったらあなたがうちの図書館から盗っていってる本の元はいつか私に来るのかしらね?」

と、会話に割り込んできたのはパチュリー。
少しだけ青筋が立っているように見えなくもない。
既に彼女の図書館から魔理沙が強奪していった本は二桁にも昇るという噂もあるのだから怒っていても無理はないだろうが。

「盗ってるとは人聞きが悪いな。何度も言ってるがあの本は借りてるだけだぜ。用が済めば返す」
「へぇ、いつ返ってくるのかしら?」
「私が死んだ後だ」
「……」

怒りのオーラが三割り増しくらいになったのは決して霊夢の気のせいではないだろう。

「死ぬまで借りるというのは盗ってるのとそう変わらないと思うんだけど、どうかしら?」

その静かな剣幕にさすがの魔理沙も圧倒されている。
あの剣幕なら吸血鬼の妹も圧倒できるかもしれない。

「だ、大体アリスだって何冊か拝借してるって話じゃないか」
「……魔理沙と一緒にしないで。私はちゃんと許可を得て借りてるわ」
「あんたも来てたのね」
「魔理沙に強引の連れ出されたよ」
「その割には準備はしっかりして来たのね」

「あ」という小さな抗議の声を無視してアリスの人形が掲げている皿の上に丁寧に乗せられたチョコレートケーキを一切れ頂くパチュリー。

「あら、美味しい」

普通に食べれれば良い程度のつもりで食したつもりだったのでその上質な味に舌鼓を打つ。
咲夜の作る菓子と勝るとも劣らない一品だ。

「ははは、凄いだろう」
「……何で魔理沙が偉そうなのよ?」
「でも、本当にいけるわよコレ」

それは和食派の霊夢でも十分美味しく頂けるものだった。
自分の作ったものが皆に美味しそうに食べられていく様子を見ながら誰にも気付かれないほどではあるが、アリスは嬉しそうに微笑んだ。







「地上の人間は本当に面白いことを考えるわねぇ」
「ええ、本当に」

宴会場の一角で独特のオーラを出している場所があった。
そこはウサギのウサギによるウサギのためのうっさーランド、もといウサギの拠点であった。
その中心部で輝夜と永琳が優雅なんだかユニークなんだか分からない雰囲気の中で晩酌を続けている。

「ということは、輝夜さんが外の世界にいらした頃はばれんたいんでーとかはなかったんですか?」

輝夜が漏らした言葉に別件で取材中だった文は反応する。
興味を持ったことにはとことん質問を重ねる、が彼女のモットーである。

「そうね、少なくとも私が外にいた頃にその地域ではそんな習慣はなかったわ。尤も、お祭好きな人達だったから似たような風習はあったのかもしれないけれど」
「輝夜さんが外の世界にいたのは大分昔の話なんですよね?」
「ええ、これまで生きてきた年数に比べれば瞬く程度の時間でしかなかったわね。でも、あれほど濃密な時間も初めてだったわ」

目を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。
素性の知れない怪しい自分でも実の子のように扱ってくれた老夫婦。
しつこい求婚を繰り返す男達に向けた五つの難題。
そして―――

「……姫様」

囁くような永琳の声に輝夜は思考を止める。

「あら、少し話しすぎたようね。昔話はこのくらいにしておきましょう」
「私としてはいくらでもお聞きしたい所ですが。何だか身の危険を感じるので、ここまでにしておきますね」
「賢明ね」

大妖怪クラスの人を相手にする時には触れてはいけない領域には決して触れないと言うのも重要だ。
真実の探求のために命を落としても後悔はないが、何も残せずに犬死するのは嫌だ。

「げ」

その時、一番会いたくない奴に会っちまったぜ的な声を上げるものが一名。
その人物の姿を見た時、輝夜の表情は目に見えて変化する。

「あらあら、妹紅。きっと会えると思ってたわ」
「……私は絶対に会いたくなかったよ」

ならば来なければいいと思うのだが、お祭ごとが好きな妹紅からすれば輝夜のために出ないというのもそれはそれで悔しいらしい。
輝夜はそれが分かってやってるのだが。
早い話がどうしようもない。

「あら、残念ねぇ。私はこんなにも妹紅のことを想ってるのに」
「どうせ殺意だろうが!」
「妹紅、それは偏見と言うものよ。ちゃんとプレゼントまで用意してるのに。殺したいほどの愛、素晴らしいと思わない?」
「思うかー!!」
「……止めなくていいんですか?」

今にも弾幕ゲームが始まりそうな雰囲気の二人を尻目に晩酌を続ける永琳にいつのまにか加わっている慧音。

「良いんだ。二人はあれで楽しんでるんだから」
「そうよ。下手に割り込んで死ぬのも嫌でしょ?」
「まぁ、そうですけど……」

とりあえず文に出来るのは後片付けに回されるであろう兎部隊への同情とシャッターチャンスを逃さないことだけのようだった。











「楽しそうねぇ」
「そうねぇ」

紫とその友人の幽々子は席を並べて騒々しい光景を見つめている。
淡々とお酌を続けているだけの様にも見えるがその量が尋常ではない。その付近には無謀ながらに勝負を挑んで儚くも散った猛者たちの屍だけが残されている。
彼女達の使用人と式神が必死に後片付けを行ってはいるが、萃香が加わればもっと惨事になっていたのは言うまでもあるまい。

「そういえば、今回の企画あなたが火付け役らしいわね」
「ええ、確かにバレンタインデーについて教えたのは私なんだけどね」
「?」
「外の世界でバレンタインデーってとっくの昔に過ぎてるのよね」

しばし沈黙。
そして、幽々子はおつまみを食べながら一杯酒を飲み干してこう言った。

「まぁ、楽しければいいんじゃないかしら?」
「それもそうね」
「そうよ」








楽しければいいじゃない、人間だもの
UN
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