Coolier - 新生・東方創想話

when she was child, she changed our life.

2011/05/16 06:46:41
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「あなたが来てから長くなるわね」
少女がワイングラスを傾ける。少女とはいってもあくまでは外見の特徴を指した言葉であり、精神的な年齢ははるかに人間の常識を超えているに違いない。小さな仕草の一つ一つがそれを物語る。
彼女の名はレミリア・スカーレット。数百年の時を過ごす紅い吸血鬼であり、その名前は幻想郷でも広く知れ渡っている

「ええ」
短い返事を返したのは銀の髪を持つ少女、十六夜咲夜。レミリアに仕える従順なメイドで、非常に真面目な性格で有名だ。
 彼女はメイドであるので、基本的に主であるレミリアと同じテーブルに着くことはない。いつどこで自分の食事を摂っているのかも分からない彼女が、今日は主と共に静かにディナータイムを過ごしていた。

「もう何年前になるのかしら?」
 雲一つない夜空に浮かぶ満月を見上げながら主が問う。そして好奇の目を咲夜に向ける。実はレミリアにとって今晩の食事が咲夜と共に過ごす初の晩餐だった。そのせいかレミリアの気持ちは多少高ぶっているように思える。

「忘れるわけがありません、14年前ですわ」
 今度は咲夜が真っ赤なワインを口に含んだ。両者の間に数秒の沈黙が流れる。

「結構長い時間が経ったと思ってたのに案外そうでもないわね」
再び両者の間に沈黙が流れる。しかしそれは決して気分の悪いものではない。咲夜が寡黙であるということは主も重々承知していることであり、何より長年共に過ごしてきた互いの間には絶対に揺るがない信頼関係があった。

「改めてお嬢様には感謝いたします」
 サファイアのような瞳が真っ直ぐにレミリアの瞳を見つめる。咲夜がサファイアであるならレミリアはルビーと言ったところであろう。混じり気のない蒼と深紅。揺らぐことのない忠誠と情熱的な心。目は人の心を表すというのはどうやら本当らしい
 そんな従者の言葉を聞いた主は照れ臭そうにそっぽを向く。それを見た従者はくすっと微笑を浮かべる。

「感謝しているのは私も同じよ、咲夜」
 まだレミリアは目を咲夜と合わせない。恥ずかしいのか、頬に少し赤みがかかっている。
咲夜は、光栄ですわと返事をし、再びナイフとフォークを動かし始めた。

「本当にあの時はどうなるのかと思ったものよ」
 頬の紅潮を隠すためかレミリアがグラスに入ったワインを飲み干した。咲夜は無言で新しいワインをグラスに注ぐ。

レミリアが言った「あの時」。それは今から14年前のとある冬の一日。傍から見れば何でもないただの冬のある日。だがそれは、紅い吸血鬼の人生を変えたある日でもあった。















その日は珍しく夜中から雪が降り続いていた。積雪することなど滅多にないのにその日の朝は違っていた。小さな子供達は嬉しさのあまり小躍りし、遊び、服がびしょびしょになるのを親に怒られていた。子供にとって見慣れていないものを見るのは大変な喜びであり、全ての好奇心をそれに向ける。
紅魔館の主、レミリアは精神的には子供でないものの、妹のフランドール・スカーレットと共にその喜びを分かち合っていた。二人のはしゃぐ声が紅魔館に響き渡る。二人の他誰もいない紅魔館に悲しく響き渡る。
「見て!雪よ!」「私も外に行って遊びたいなぁ」「あそこの子供が何か作ってるわよ」「わぁ、丸いのがだんだん大きくなっていくわ!」
子供たちに負けない程大きな二人の好奇心が雪に向けられていた。二人にとっても、雪が積もっているところを見る機会は少なかったのである。したがって、雪はとても珍しかった。確かに多少の雪が積もることはあったが、それは昼間に溶けてしまう。レミリアとフランは吸血鬼という種族のため、昼に出歩くことはできない。例えそれが日差しの弱い真冬であったとしても。なので彼女たちには友人がいなかった。昼に外に行けないとなると外出できるのは夜だけになる。夜にぶらぶらそこら辺を出歩いている人間は少ない。しかも人間達は、彼女たちが吸血鬼だということもあり、彼女らと関わるのを避けていた。
レミリアとフラン、二人にとって紅魔館は世界の全てであった。

「ねぇお姉さま!あの雪夜まで残ってると思う?」

フランは明るい性格の持ち主で、髪の色も姉とはかなり違っている。彼女がいれば話し相手には困らない、レミリアはそう思っていた。否、そうとしか考えられなかった。他に話し相手がいないのだから。

「この分だと残ってるかもしれないわ。今のうちに寝て夜に二人で遊びましょう」
 愛する妹に優しく言い聞かせる。フランにとってレミリアは良き姉であり、唯一の友達であった。遊ぶのが好きなフランは日々レミリアに相手をしてもらい毎日を過ごしていた。

 こうして一度館は静かになるものの、6時間後二人は目覚め、興奮の渦はまたもや彼女らを巻き込んだ。

「お姉さま!ちゃんと残ってるよ!早く外に行きましょう!」
 言い終わるが否や二人は外に飛び出した。太陽はすっかり沈み、二人を照らすのは金色の満月のみ。月光の下で彼女らは好きなだけ雪と戯れた。昼間見た雪だるまを真似して作ってみたり、二人で雪を投げ合って遊んだりして、時間は風のように過ぎ去っていった。

 二人がやや遊び疲れてきた頃、門の前で声がした。
それは人間の少女の声。最初はレミリアもフランもそれを無視していた。紅魔館には時折人が訪ねてくることがある。目的は定かではないが、二人はとくに何の応対もしなかった。彼女らは恐れていたのだ。他人から自分たちが受け入れられなくなることを。なので自分達で殻を閉ざした。何年も、何十年も、何百年も。いつの間にかそんなことは苦ではなくなっていた。妹が、姉がいればそれでいい。他の者は誰もいらない。

「それ、雪弾幕―!」
フランがレミリアに雪をぽいぽいと投げつける。レミリアも負けじとフランに雪を投げ返す。だが、いくら経っても門の声の主は立ち去ることはなかった。普段この館に訪れる人間(極わずかだが)は数分も経てば門の前からいなくなる。
いつしか彼女らの好奇心は門の前の人間に向けられていた。手に握っていた雪は溶け、服に小さな染みを作る。そんなことにも彼女らは気付かない。

数時間が経つ、それでも人間は立ち去らない。声を出すこともやめない。耳をすまして何と言っているのかを聞こうとするが、門から離れすぎているため詳しく聞き取れない。
二人の足は自然と動いた。門に向って。門の前にいる声の主に向かって。
フラン、レミリアの両者は何も言わない。黙って顔を見合わせた。小さく頷いて門へと向かう。

 門の前にいたのは小さな少女だった。お世辞にも綺麗とは言えない服に身を包んだ痩せた少女。髪の色は月の色に映える銀。目の色は透き通ったサファイアブルー。紅魔館の主、レミリア・スカーレットは彼女に問いかけた。

「こんな時間に何をしているの?」
 
銀髪の少女は答える。

「ここでやとってください!」

 銀髪の少女が幼いということもあり、会話のキャッチボールは成り立っていない。だがレミリアは感じた。この少女は小さいながらも芯がちゃんとなっている。

「おねがいします!なんでもします!」

 レミリアが黙っているせいか、銀髪の少女は必死に彼女を説得する。ここ数年、スカーレット姉妹は外部との存在を断ち切り、館の門を開けたことすらなかった。なのに何故かレミリアの手はその門に向って伸びていた。フランもそれを止めようとしない。ずっと閉ざされていた門は簡単には開かなかった。吸血鬼の全力をこめ、ようやくそれを開けることができた。銀髪の少女は子犬のように喜び、小さな主にぎゅっと抱きついた。

「ありがとうございます!」

 ぽかーんとしている主を脇目に、銀髪の少女はフランにも抱擁を浴びせた。

「おそうじでもおしょくじでもなんでもまかせてください!わたしがんばります!」

フランを放し、二人に深々とお辞儀をする。満面の笑みが姉妹の目の前にあった。


長い間ずっと二人で過ごしてきた。しかしそこにいきなり新しい人間が入り込んできた。ではレミリアとフランは彼女を遠ざけようとしただろうか?
 
「私はレミリア・スカーレット!こっちは妹のフランドール・スカーレットよ!」

「フランよ、よろしく!」

 そんなことはない。いや、あるはずがない。
二人は本心では沢山の人々と仲良くすることを望んできた。だが嫌われるのが恐かったのだ。拒絶されることが恐ろしかったのだ。
 数百年ぶりに姉妹とは別の人間と話すことができた。そんなことが二人にとっては泣くほど嬉しかった。ただ嬉しかった。ひたすら嬉しかった。

「なんでないてるんですか?」
幼き咲夜は丸い目で二人を見つめる。
雪の降り積もったこの日、スカーレット姉妹の人生は180度変わったのだ。



次の日から咲夜は二人のために献身的に働き始めた。掃除、洗濯、料理、家事を小さいながらも一人でこなそうとした。それを見たスカーレット姉妹は咲夜と共に、それまで全くしたこともなかったあらゆる家事に挑戦した。みるみる間に紅魔館は生まれ変わっていった。どこからか咲夜が連れてきた妖精が住み着くようになり、静かだった館は瞬く間に騒がしい屋敷となった。
笑顔と笑いが絶えない、騒がしい、素晴らしい屋敷に。











「ああ、懐かしいわね」
 レミリアは満月を眺める。今日と同じような満月の、とある冬の一日を思い出しながら咲夜と二人静かな晩餐。

「あ、お嬢様。あれは何でしょう?」
 咲夜の一言が感慨に耽っていたレミリアを現実に呼び戻す。咲夜は夜空を指差していた。その指の先に見えるのは、小さな二人の人影。

「レミリア!今日こそは決着つけるわよ!」

「私は適当に図書館で本でも借りてくるとしようかな」

 紅白の着物に身を包んだ少女と、黒白の洋服を着た箒に乗った少女が夜空を飛んでいた。

「こんな日くらいゆっくり過ごしたいものだわ」
 やれやれと言う様に頭を振りながらレミリアが立ち上がる。

「さあ、今晩も騒がしくなるわよ!」
 だがレミリアはまんざらでもないようだ。咲夜もゆっくりと立ち上がり、主と目を合わせる。

「さあ、いきましょう」
 
 今夜も紅魔館は騒がしくなりそうだ。



THE END
こんにちは初めましてTAPの欠片です。
書きたくなったので書きました、はい。
それだけです、はい。
短いですね、はい。

タイトルの英語あってのんかどうかもわからないです、はい。
TAPの欠片
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コメント



0.270簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
うむ
4.90奇声を発する程度の能力削除
終始和やかな雰囲気で良かったです
5.20名前が無い程度の能力削除
う~ん・・・いい話しなんだけどねぇ。

パチュリーはどうしたよw門番は?
・・・ってな感じで違和感が。