Coolier - 新生・東方創想話

刀と狭間

2004/12/09 13:49:16
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ある満月の晩、刀を携えた男が一人。
―侍? いや、こんな時間に出歩く侍など居ない。
―なら盗賊やら追い剥ぎの類か? こんな辺鄙な場所で一体誰を襲うというのか。
不意に男が何も無い場所に声をかける。

「あー、何のつもりかは知らんがこの辺で良いか?」

男が声をかけた場所には少女の格好をした女が一人。
―少女? そう呼ぶには胡散臭くどこか浮世離れしている。
―では老婆か? それにしては顔があどけなさ過ぎる。

男の問い掛け、答える女。
「あら、お気づきでしたか。仕事を頼みに来たのですけど。」
「こんな時間じゃとっくに店仕舞だ。出直してきな。」
「それは残念。数多の妖怪、化け物、怪異を切り伏せたその太刀筋、是非とも拝見したかったのですが。」
「俺も随分と有名になったものだな。…で、まだなんか用か?」

「貴方の前に現れる妖怪のすることなんて大抵決まっているのではなくて。」
木々のざわめきが日常と非日常の境界の揺らぎを告げる

「全く、位の高けぇ妖怪の考える事は理解できねぇな。…わざわざ死にに来るとはねぇ。」
男が笑った。
「大層ご自分の腕に自信が有るのようで。」
女も笑った。

怪しく光る女の目、男を見つめる
「久々に楽しめそうですわ。貴方の技が私にどこまで通用するかしら?」
憎しみを込めた男の目、女を睨み付ける
「へっ、その言葉そっくりそのままお返しするぜ。」

女が無数の苦無を放つ。男は全てはじき返す。男が無数の呪符を撒く。女は全てかわし切る。

「おいおい、がっかりさせんなよ。アンタ位ならもっと凄ぇ術使えるだろ。」
「貴方の方こその腰にぶら下げたものはただのお飾りかしら。」

辺りの空気が淀み、風景が歪む

男を狙う数多の妖弾、月光を遮り獲物を追う

地面より跳んだ男、弾幕を掻い潜り宙を飛ぶ女を追う
追い付いた男、振り下ろされる刀、打ち落とされる女

「甘いな。正確に敵『だけ』を狙ってるような素直な弾幕じゃ俺は止められんぜ。」
―一本目の刀、女の右手を地面に打ち付ける。

「相手を動けなくするにはこうすりゃ良いのさ。」
―二本目の刀、女の左手を地面に打ち付ける。

「それで私の生を止めるのにはどうするおつもりで?」

男の背後に数多の刀、月光を浴び獲物を見据える

「あら。」
「俺がいつ二刀流だなんて言った?」
―三本目の刀、女の首と胴を切り離す。

「やれやれ、満足できたかい?お望みどうり俺の太刀筋が拝めて。」
「一言目も二言目も『いいえ』ですわ。」
発する主を失った筈の声が男の背後から聞こえる
振り返る男、微笑む女
「…どういうことだ。」
「いえ、少し『夢』と『現』の境界をいじっただけですわ。貴方はその狭間で舞っていただけ…。
 それにしても残念でなりません。『稀代の妖滅士』と妖怪達に恐れられ人間達から称えられる男。
 …いかほどのものかと思ったのですけれど、所詮は『本物』の妖怪を相手に使われた事のない技。」
女の表情に落胆と憐憫の色が浮かぶ
「もう結構です。弾幕の狭間へと消えなさい、人間。」

それまでとは比べ物にならない弾幕、押し潰されそうな威圧感

男の表情から余裕が消える。
「なるほどね。こっからが本番ってワケか。」


「貴方に絶望と希望の境界が越えられるかしら。」
「上等だ。こちらも最高の業を持ってお相手しよう。」


―目まぐるしく変わる静と動の均衡
―張りめぐられた光と闇の網目を掻い潜り
―直線と曲線の夢郷を超え
―現れては消えるものを追う

何本もの刀が折れ、砕け、境界の狭間に消え去ろうとも

―流れ落ちた生の欠片は蝶となり、黒き死の闇へと消える
―『生』と『死』、『人間』と『妖怪』
―超えられない、変えられないものの境界すらも曖昧になる

その男の意志は折れることも、砕ける事も、消え去る事もなかった

「コレで決着を着けるっ!」
「…私もそうさせて頂くわ。」

―膨大な量の弾、弾、魂。狭間に飲み込まれた哀れなモノ達が集束し超える事の出来ない結界(カベ)を形作る。
―やがてそれは再び深淵へ向けて離散する。哀れな犠牲者に永遠の終息をもたらすために…。

…だがその中に在ってなお男は希望を失ってはいなかった。

一本の短刀 ―それは人の迷いを断つ刀―  一本の長刀 ―それは魂を黄泉へと送る刀―

二つの希望を手に立ち向かう。自分が人間であるために。

―男は叫び、もがき、抗い続けた。避けることなどは頭に無い。迫り来る結界の壁をただ切り裂く。
―未来永劫続くかのように思われる結界、無数の斬撃をもってそれを乗り越える。
―ついに男の刀が『終わり』へと届いた。

男が女の喉下に刀を当てる。
「…参りました」
「何が『参りました』だ。アンタの目、全然諦めた様には見えないぜ。まぁいいさ。ところで結局何がしたかったんだ。
 俺を喰いたかったんなら、あのまま続けてれば良かったじゃないか。」
「ですから…最初に言った通り、仕事の依頼ですわ。」
「あぁ?」
「貴方に一人の少女のお目付けを、正しくは一人の少女『と』お目付けをしてもらいたいの。…とんでもないモノの、ね。
 報酬は今晩の貴方の命でどうかしら?まぁ結局、二度と俗世には戻れなくなるのですけれど。」
「解ったよ、その依頼引き受けた。」
「随分とあっさり決めましたね。」
「俺も言ったろ?」
「?」
「もう店仕舞だって。ところでまだアンタの名前聞いてなかったな。」
「八雲 紫ですわ。」
「『紫』ねぇ。アンタにぴったりの名前だな。」
「それは貴方も同じではなくて?、魂魄 妖忌殿。」

―満月の夜、人間の男、妖怪の女、交わされた300年の約束。
「ところで断ったらどうするつもりだったんだ?」
「あら、私の式に狂いはありませんよ。」
「成る程ね。どこに連れていく気なんだい?」
「そうねぇ、…少なくとも桜には困らない所かしら。」
「そいつは楽しみだ。」

―やがて二人の影は揺らぎ…そして消えた。

この夜を境に男の消息はぷっつりと途絶える。…まるで神隠しにでも遭ったかのように。
今回が初投稿となります。
初めてでわからない事や戸惑う所もありましたが
楽しく書かせていただきました。
他の方々が書かれている妖忌のイメージとはかなり異なる上に
表現に稚拙な所が多いかとは思いますが楽しんで頂けたのなら光栄です。

Toxo
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