Coolier - 新生・東方創想話

父の歩んだ道

2004/11/30 08:40:58
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 カジノに1枚のカードが音も無く飛び交い、ポーカーテーブルにいる一人の客の手に当たる。当然刺さることは無い。
そのカードはダイヤのエース、スペードと違ってシンプルな柄だが剣を表すそのカードは客にとって十分脅威だった。
『お客様、そのような行為は当店の方において非常に迷惑な行為で御座います』
ディーラーの制服に身を包んだ長いポニーテールの女性は静かにそう言った。
その途端、客は逃げ出そうとしたがもう客の周りには黒服のガードマンがいた。客はもうこの店の正面から出入りすることは無いだろう。
 『やぁ、ライ。すまないね急いでるというのに』
パリッとした綺麗なスーツに身を包んだ男が女性に近づきお礼を言う。
『いえあれくらいのイカサマ・・・』
女性、ライは片手に大きなトランクを持っていて急いでるようだった。
彼女は行こうとするがオーナーは引き止め、タバコとライターを持たせる。
『まぁ、これでももって行ってくれ。君は吸わないがオヤジさんに土産くらい持っていきなさい』
ライは少しいぶかしげな表情を見せるが特に気にもせずそれを受け取る。
『有難う御座います、それではもう飛行機の時間に遅れますので』
そのまま彼女は歩き出し、玄関から出て行く。
『2~3日くらいならのんびりしてきていいぞ』
オーナーはそう言い捨てるが彼女にはもう聞こえない。
 (まったくもう、いきなり何よ帰って来いだなんて・・・)
不愉快だった、いきなり親に一度家に帰って来いだなんて言われて怒らないほうがおかしい。
何故ならここは日本では無い、遠く海を越えた先にある経済大国だ。
彼女、ライ・・・本名神楽坂 憐は怒っていた。 そう、悲しい悲劇と、新しい世界への出発が待っているとも知らずに・・・


 「な・・・何よこれは・・・」
帰って早々見せられたのは父親の遺影であった。
「どうして!?なんで!?なんで父さんが死んでるの!?なんで教えてくれなかったの!?」
母に激しく問い詰めるが申し訳無さそうにうつむいて声を出そうとするが
「なんで・・・あんなに元気だった父さんが・・・」
そのまま泣き出したかったがそうもいかなかったが、タバコとライターを供え、手を合わせ改めて遺影を見ると壊れたように涙が溢れ出てきた。


 気が付けば夜になっていて、毛布が掛けられていた。泣き疲れて寝てしまったのだろうか。
窓から入る満月の光だけでは暗いので電気をつけようと立ったとき、ふと机の上に地図らしきものとメモが乗っていた。
暗いので電気をつけてから改めて見ると母の字で短くこう書かれていた。
 「父さんは5年前、貴方があちらに行ってすぐに古い蔵から地図を見つけ、調査に行ったきり帰ってきませんでした。
警察にも依頼して、随分と探したのですが見つけることが出来ませんでした。
ただ最近、遠くの山の方で父さんの死体が見つかったとのことです。
ほんとは口で言えばいいのですが、貴方の顔を見ると言えなくなるのでこんな形でしか伝えられません。」
すぐ下に書いた後に消したような跡があったので鉛筆で軽く塗りつぶして見ると「ごめんなさい」と書かれてあった。
 「何よ・・・これ・・・」
確かに父は民俗学者だ、こんな田舎に住んでるのだってこの辺りが古くからの伝承が多く残る土地だからだ。
(だからって・・・死ぬほど危険なことって無いじゃない!)
調査のためと言って崖のすぐ近くまで行って落ちて3ヶ月入院したこともあったけど、そのときも足が複雑骨折したくらいで全然元気だった。
 「もしかして・・・この地図の場所で何かがあったの?」
そう思い、地図を見てみると近所の神社だった。
その神社はよく神隠しがあったりするという噂が流れていて、あまり行ったことは無かった。
「何よここ、すぐそこの博霊神社じゃない。あれ、これって時間?」
よく見ると端の方に小さく「23:56:4」と書かれていた。
ハッとなり腕時計を見る。11時40分を刺していた。
「もう20分も無いじゃない!きっとこの時間に行けば何かあるんだ!」
今すぐ出発しようと思ったが思い立って遺影の前に立つ。
「もしかしたら、父さんも神隠しにあってその先で死んだのかもしれない、神隠しにあったら何処に行くかわからないけど、これ借りていくね。」
そう言って、ライターを胸ポケットにいれて走り出した。


 博霊神社にはすぐついたが、まだ時間まで10分ほどあった
「あ~寒いな~、コートくらい持ってこればよかった。」
よくよく考えると、いきなりカジノに電話があって、急いで帰って来いと言われて
飛行機の予約をしたらその日の便にキャンセルがあったとかで制服のまま荷物をトランクに突っ込んで帰ってきてそのままだったのでカジノの制服のままだった。
そんなことを考えるうちに何時の間にか時間まであと1分になっていた。
「もうすぐ・・・もうすぐよ、神隠しの実態を暴いてやるんだから。」
結局、学者の娘なので知りたがりなのかもしれない。
「56分ちょうど、すぐね。って何!?」
いきなり鳥居が光り出した。「これをくぐれば、神隠しの犯人に会える!?」
鳥居をくぐるために走り出したが、鳥居の光は今にも消えそうだった。
「その鳥居、ちょっとまったぁぁぁぁぁ!!!」
どう見ても電車の駆け込み乗車だが、なりふり構っていられなかった。
だが、駆け込み乗車というものは危険なのだ。
 なんとか鳥居はくぐれたが、何か違和感がある。
「あらあら、可愛いポニーテールが台無しね。」
後ろから声がしたので振り向くとそこには紫のネグリジェのようなものを着た黒い何かを持った少女がいた。
いや、浮かんでいた。
「はじめまして、私は八雲紫、境界・・・この場では結界を見守る者と言った方がいいわね。貴方の名前を聞いてもいいかしら?」
驚いて声も出ない。が、少女の手にもった物の正体に気付く。
「ってそれ私の髪じゃない!どうりで頭が軽いと思ったわ!」
そう、膝の裏まであった長い長いポニーテールが鳥居の光が無くなるときに分断されて背中の半分辺りで切れてしまったのだった。
「あら、それはあなたが悪いのよ、こんな長い髪をなびかせてギリギリに飛び込むんだもの」
そうは言われても怒りは収まらない、それどころかまだ言いたいことがあった。
 「っていうかあんたなんで浮かんでるのよ!?」
この少女は浮かんでいるのである、通常考えられないことだ。
「あら、それはあなたもよ?」
「うわ、ほんとに浮いてる」
 よく周りを見回してみるとまわりはなんとも言えない不思議な空間だった。
周りにはさっきまで自分がいた博霊神社のように光っている鳥居の映像らしきものがあり、それこそ上下左右遠近関係無く大きな球の中にいるようだった。
しかし、鳥居の光が完璧に失われると別の場所に変わり、森、川、時代劇に出てきそうな村など、さまざまな場所の映像になっていく。
 「それで、あなたの名前を教えて欲しいんだけど」
待ちくたびれたように少女は言い、思い出したかのように慌てて見なおす。
「えぇ、私は神楽・・・いえ、ライよ。」
本名を言おうと思ったがこの少女は名前さえ知っていれば私のことをどうにでも出来そうだったのでやめておいた。
「ライ、ね。良い名前だわ。あなたの力にぴったり」
誉めてくれるのはいいが、この少女はとても大変なことを言った気がする。
 「今・・・何て言った?私の・・・力?」
「そうよ、あなたは人の嘘が見破れるでしょう」
この少女は自分の生涯の秘密を一目見ただけで分かってしまった。さも知っていたかのように。
「そんな、人が嘘をついていたら何処かが不自然になるんだから分かる人には分かるでしょう?」
今正に嘘をついて誤魔化してみようとしたが、それは無駄だとすぐに理解する。
「あらそう?じゃあ言い直しましょう、あなたは人の心が読める。そして私の心が読めずにどうすればいいか戸惑っている、違いなくて?」
確かにこの少女の心は読めない、まるで磨りガラスを通してみているかのようだ。
「あなた・・・いえ、八雲紫だったわね。あなたは一体何者?」
心が読めないので恐る恐る聞いてみるが、この少女が言うことが嘘か誠か調べる術は無い。
「言ったじゃない、結界を見守る者だって、あぁ、一つ忘れていたわ。私は人間じゃない、はっきり言えば妖怪よ。
あぁ、安心して、心が読めないのはここにいる間だけで、他の場所に出れば大丈夫と思うわ」
本当かどうか分からないが少女の顔には嘘が無い、この少女なら嘘をつく位何でもなさそうに見えるが納得しておかないと疲れそうなので納得しておく。
 「そうなの、良かったら聞きたいことがあるんだけど、良かったら答えてくれる?」
(もしかしたら・・・いやきっとそうだ、この子は父さんのことを知っている)
見守る者、と言ったからには知らないとは言わせない。
「あら、まだ何か隠してそうね。まぁこれ以上言っちゃうとあなた本当に怒り出しそうだからやめとくわ。
とりあえず私の知ってることで良ければ教えるけど、変な質問は止めてね」
確かに、この力にはもっと凄いことに応用出来るが、向こうから流してくれたのでこちらもそれに乗っておく。答えてくれると言ったからには絶対教えてもらわなければならない。
「えぇ、簡単なことよ。5年ほど前に私がきたところと同じ場所から男の人が来なかったかしら?50歳くらいの背が高くて緑の目をした人」
「5年前・・・えぇ、確かに着たわ、もしかしてその人を追ってきたの?
あの人は死んじゃったけど死ぬ前にどうしても、って言うから元の場所に戻しておいたけどその人があなたと関係ある人なの?」
「実は、私の父さんなの。最近まで海外にいていきなり呼び出されて行方不明になってた父さんが死体で発見された、だなんて夢見が悪すぎるから調べてたのよ」
「そう、あなたあの人の・・・だから同じ目をしているのね。あの人もここにきたときはおんなじような反応をしてたわ。
それにしても、このすきまは満月の夜にしか開かないのによっぽど運がいいのね。」
「やっぱり知ってるのね、ここは何なの?父さんに一体何があったの?」
「ここは“すきま”よ。あなたの世界と私の世界を分断する“博霊大結界”の中。
残念だけど、あの人のことについては私からは何も言えないわ。
ただ、あの人として死ねて満足だったとは言わないけど。十分に幸せだったと思うわ。」
「それじゃあ父さんはあなたの世界とやらに行ってすぐ死んだわけじゃないのね?そっちで何をしていたの?」
「あの人にとって有益なことと、私の世界にいる人たちにとって新しいことよ。」
「何?言ってる意味がわからないわ。もっと分かりやすく言って」
「あぁ、これ以上は私一人で説明するのは難しいから、あの人と関わった人たちに話を聞くといいわ。」
「それじゃああなたが案内をしてくれるとでも言うの?」
「それはダメよ、私は忙しいんだから。」
「じゃあどうしろって言うのよ、まさか父さんが通った道を全部歩けっていうの?
私にだって仕事があるのよ、時間が掛かっちゃダメなのよ」
「あら、それはいい考えね。それじゃあ同じ道を通ってもらいましょうか。
大丈夫よ、通ったところの人の話を聞くだけなら1週間も掛からないわ。
ここから最初の場所まで遠いからその間に妖怪に襲われたら大変だからちょっとだけ力を貸してあげるわ。」
 紫はそういうと何にも無いところに手を差し込み、窓を開けるかのように動かした。
そうすると実際に窓のように開き、その先は古い家のようで、赤い服を着た頭の大きな女の子と白い服を着て、9つの尻尾がついてる女性がいた。
「藍、ちょっと悪いけれど、橙を貸して頂戴。あと、代核があったでしょう、それも出して。」
少しの間だけ、とたとたと歩く音と物を探す音がしたあとに窓から赤い服の女の子が出てきた。
「紫様何の用?あ、あとこれ代核だよ」
そう言って女の子は球のような物を紫に渡す。
「ありがとう、ちょっと申し訳ないんだけど、この人を博霊神社まで連れて行ってあげて。
あと、それはその人にあげるから使い方を教えてあげて」
 少女は短く「はーい」と返事をするとこちらに振り向いた。
「はじめまして、私は橙。紫様の式神、八雲藍の式神よ。平たく言えば紫様の式神の式神だよ」
橙は簡単に挨拶をして代核の説明をしようとするが・・・
「それじゃあこれの使い方を教えるけど・・・って聞いてる?」
 ライは目を輝かせ、とても面白いものを見てるかのような表情だった。
「え、あぁごめんなさい。聞いてるわ、橙ちゃんね。
ところその耳は本物なの?」
「当然、私は猫の式神だもん」
よく見ると橙の足の間から黒い尻尾みたいなものが2本飛び出ていた。
「そ、それじゃあ・・・その耳、触らせてくれない?」
「だ、ダメ!今のあんたに触らせたらどうなるか分かったもんじゃないよ!
それより、代核の説明するからちゃんと聞いてよ!」
 「ちぇー、しゃーないな・・・って、いうか代核って何?」
「代理の核、って書いて武器になるものだよ。私たちの仲間内じゃ皆これを使ってる。
まぁ代核じゃなくてちゃんとした核だけど」
「へぇー、でもその球が武器なの?私野球は苦手よ?」
「それは大丈夫、投げるわけじゃないよ。何か武器として使いたいものはある?」
「武器、ねぇ・・・イカサマ野郎相手にぶつけるトランプくらいしかないけど」
「それじゃあそれでもいいよ、上手く扱える物なら何でも武器になるしね。」
そう言われて代核を渡されたが、何かを入力するところがあるわけでもなくどう使えばいいか分からなかった。
「これ、どう使えばいいのよ・・・石鹸みたいに擦れって言うの?」
「そうだよ、正確にはくっ付けるだけでいいから。」
「それじゃ、早速・・・」
カードを箱から出して、代核をカードにつける。
すると代核はカードに吸い込まれるように消えていった。
「はい、それでお終い。後は普通に投げて使うだけだよ。簡単でしょ。
あ、でも気をつけてね。言ったとおり代理の品だから朝になると力が消えちゃうよ」
「えー、それじゃ朝までに安全なところに行かなきゃいけないじゃない。今何時よ?」
時計を見ると何時の間にか2時だった。ここから紫たちの言う博霊神社までどれくらいの距離かわからないので急がなければならないのは確かだった。
 「さて、それじゃ準備はいいわね。橙、出口から博霊神社までまっすぐ北だから、お願いね。」
後ろでじっと見ていた紫がそういうとまた別のところに窓のようなものを出した。
だがそれは先ほどのよりも大きく、扉というにふさわしかった。
 「ようこそ幻想郷へ、ここから先はあなたの常識を覆すものばかり。どうか行く先々で目を奪われ、命までも奪われることが無いように・・・」
紫はこれまでのおちゃらけた雰囲気とは違い、厳格な科白を述べた。
「はいはい、この先でもきっとまたあなたに会えるでしょう、そのときはまたゆっくりと話を聞かせてもらうからね」
そう言って、私は目の前に広がる竹林へと足を進めた。
ゆっくりと、力強く、父の進んだ道を歩み始めたのだった。

続く
どうも始めまして、ヘタレの極みSeraです。
今回始めてSSと言うものを書かせて頂きましたが、如何せん脳内に沸いた空想シーンを形にしたくなったのが始まりでした
けれどもまぁ、思い浮かんだシーン以外は禄に出てこなかったですが何とか1話だけでも形にしました
出来る限りつづけていきたいのでどうかよろしくおねがいします
もし「ここはこうした方がいい」だとか「この辺が説明不足」等がありましたらどうぞお知らせください
Sera
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