大天狗と別れた二人は、大天狗の指示通り文樺を文の自宅へと運ぶ事にした。ー空を飛んでではなく走ってー
文としては走る事は不本意ではあるのだが、灯りを持っていない状態で飛んでいくのはあまりにも危険だ。ましては人を抱えた状態で、などと言ったら危険を通り越して自殺行為となるので、渋々と言った表情を全面に出しながら走っている。
その道中、不機嫌を隠そうとしない文を見かねて椛がゆっくりと口を開いた。
「認めてもらえるとは、思いませんでしたね」
「何呑気なこと言ってるんですか。私なんか途中から尋常にない殺気向けられて……失神するか、殺されるかの2択しか選択肢はないと一瞬ながら思いましたよ」
さっきまでの事を思い出したのか、ぶるりと体を震わながら文は言った。
「私にはそんな殺気は……」
椛がそう呟くのを聞くと、文はニンマリと笑って答える。
「椛もまだまだですねえ。あれは強者の殺気。それに耐えれる見込みがないものは感じないんですよ」
「私はまだまだですか……」
「私からすれば、ですけどねぇ。ただ、白狼天狗という分類でいうならば、かなり強い分類だと思いますよ」
「文さん、本当ですか?」
「あややや、私は嘘を言ったことはありませんよ」
「え?」
「え?まぁいいです。さぁつきましたよ」
文は器用に足でドアを開けつつそういった。
文が開けたドアの先にあったのは、ドアに沿ってまっすぐ広がる廊下と、左右に一個づつある部屋。そしてブン屋の家にふさわしいと言えるインクの匂いだった。
文が左側にある部屋に入りつつ言う。
「私は文樺を寝室に寝かせてきますから、椛は謁見用の服に着替えて下さい。クローゼットの場所はわかりますよね?」
「はい、大丈夫です。ってなんで私の服があるんですか!?」
「一応、私は複数の部下をまとめるリーダーですよ?部下と共に謁見室に向かうこともあるので、何着か自分の以外も持っているんです」
その後、文は烏天狗を象徴する黒を基調にした漆黒の礼服を、そして椛は白狼天狗を象徴する白を基調とした純白の礼服に着替え文の家を出た。
辺りは月明かりもなく真っ暗だが、文の左手に握られたランタンからもれる光が辺りをぼんやりと照らした。
「あかりですか」
「えぇ、千里見渡せる椛には必要ないかもしれないですけど、私には必要なんですよ」
「私の目は暗視スコープではないです!夜は見えませんよって文さんなんで飛ばないんですか?」
椛は地面から動かない灯りを見ながらそう言った。
「何を言ってるんですか椛。大天狗様に謁見するということは、身嗜みを整えるのは当然。よって風で髪やら服が崩れてしまうのは、非常に問題なんです。なので、今回は、歩いて、いかなくては、ならないんです」
「ですけど、大天狗様は急げって言ってました」
「あれは、比喩です」
「え?」
椛は首をかしげる。
「え??」
文も首を傾げた。
そしてなんやかんやで文が意見を押し通し、二人は微かなランタンの灯りを頼りに、山道をわざわざ徒歩で登った。
そして1時間ほど歩いたのち、二人は大天狗の母屋へとたどり着いた。
二人を待ち受けたのは、敵を完全に拒むであろう堅牢な扉。そしてそれを取り囲むように広がる高い塀だった。ちなみにこの塀の上には、結界が張られており飛び越えるのは不可能である。よってこの門をくぐれる者は、招かれた者と一部の幹部、そして家主である大天狗のみで全天狗が入れるわけではない。
今回の場合は正式な書面が発行されていないため、二人は招かれた者には含まれてはいない。
そのことに気づいた椛は慌てたように文に言う。
「文さん。私たち許可証を発行していただいていませんよ」
「はぁ、本当椛は私のことを知らないですねぇ。私は次期大天狗候補なんですよ?私には許可なんて物は不要なんです」
文がそういって門に近づくと門はひとりでに、ギギーという音を響かせながら開いた。
ちなみに、この技術は某カッパの作った生体認証システム、通称"にとセンサー"というのだが二人には知る由もないだろう。
呆気にとられた椛とニンマリと笑顔を浮かべた文を迎えたのは、山の大幹部にふさわしい趣ある日本庭園といったような景色だった。人生で数える程しかこの門をくぐったことのない椛は勿論だが、何度も来ている文でさえも夜に来るのは初めてで、ランタンから漏れる灯りで照らされてわずかに見えるこの景色に、時間がないとわかっていても心惹かれる物があった。
少しの間、景色に見惚れていると何処からともなく大天狗の従者が現れ二人に声をかけた。
「射命丸様と犬走さんですね。大天狗様より話は伺っています。大天狗様がお待ちです謁見室までお越しください」
「わかりました」
二人は案内人の後に続き長い廊下を歩く。
そしてずらりと大きな扉が並ぶ廊下をしばらく歩くと、奥に今までの物とは比べものにならないほどに大きく派手な装飾の扉があらわれた。
3人はその部屋の前まで着くと、敬意を表すため正座になった。
「大天狗様。射命丸様と犬走さんがお越しです」
「入っていいわよ。それとあなたは下がりなさい」
「わかりました。」
従者の天狗はぺこりと二人にお辞儀すると立ち去った。
二人はそれを見届けてから、正座の姿勢を崩さぬままふすま開けた。
「「失礼します」」
ビュンッ
二人が襖を開けてすぐに目に入ったもの、それは扇子だった。
二人に何故扇子が?なんていう事を考える隙すら与えずその扇子は文の額を捉え、文の体を遥か後方へと吹き飛ばす。
そしてその数秒後には聞き取るのが困難なほど遠くからドンガラガッシャーンという音がした。
ーー気を取り直し入室ーー
「あやぁ?私はすぐに来なさいって言ったわよね?」
声はとても澄んでいるがネチネチと聞く、といった言葉が適切なような聞き方だ。
「言いました」
「じゃあ何で1時間半もかかったのかしら?」
文は、聞かれることがわかっていたかの様にニンマリと笑みを浮かべ答える。
「あややや。謁見する為の服に着替えるなどありまして」
文はそう答えたが、大天狗は壊れたステレオの様に、にこやか笑顔を浮かべつつも同じ質問をした。
「じゃあ何で1時間半もかかったのかしら?」
「謁見す…「じゃあ何で1時間半もかかったのかしら?」
またしても同じ質問である。そして大天狗のこの行動について文は、ある噂もといある事実を知っていた。
大天狗に同じ質問を4回されたものはいない。何故なら、3回目で素直に答えなかったものは皆例外なく死んでいるからだ。
では、どうやって嘘か誠かを判断しているかというと、それは大天狗のもつ能力が関係している。
その能力とは、"真偽を見抜く程度の能力"
大天狗が大天狗である所以の1つだ。
つまり何が言いたいかというと、彼女に嘘は意味はなさない。それが分かった上で嘘をつくのは、普段飄々としている、文に残された幼心と言えるのかもしれない。
文は観念したかのように口を開く。
「歩いてきました」
「あら?誰よりもそして何よりも飛ぶことが好きな貴方が徒歩ね……何故なのかしら?」
「服を汚れてしまうと思いまして……」
大天狗に問い詰められる度に徐々に文の声はか細いものになっていく。
そしてその空気に耐えかねた文は、チラリと椛の顔を見るが知らん顔された。椛としても余計な口出しをして飛び火は避けたいのだ。
「何ヶ月か前に私服で謁見室に入ってきた、頭の悪そうな天狗がいたのだけれど誰だったかしら?」
大天狗の執拗な口撃に文はもう涙目である。
「私です……」
「何か言いたいことは?」
チェックメイト。舌戦は文の大敗だ。
「申し訳ありませんでした。説教が嫌なまでに少しでも時間を立たせようとしてました……」
大天狗は実の子を見る様に慈悲深い目をしながら言った。
「はぁ、貴方は本当子供ねぇ。貴方がここの住み始めた事から貴方ことを知っているのだけれど、何も変わってないわね。何度言ったかわからないけれど、説教で呼び出すたびに歩いてくるのはやめなさい」
「はい……」
「椛。これが貴方の上司の実態よ。大天狗候補にも挙がっているのに不甲斐ないわよね?」
突然、話を振られて焦った椛だったが迷わず質問に答える。普段から一緒にいることが多い文についての質問だ。すぐに答えられないわけがないと椛は思った。
「文さんはいい人で優秀な人だと思います」
「よかったわね。いい部下をもって」
「もみじぃ!!」
文はしゅんとした態度から一変、キラキラ笑顔で椛に抱きつこうとしたが椛はそれを拒否した。現実は非情である。
「はぁ、遅刻の説教はこの辺にして、本題に入りましょうか。今回私たちはあの子……文樺を受け入れたわけだけども、これからどうしましょうか」
「私が面倒を見ます」
「そう、よろしく。と言いたいところなのだけど、それが暫くはそうできそうにないのよ。先ほど天魔様にお伺いしたら、暫くの間……まぁ一週間ほどかしらね。その間は幹部級の天狗が監視する様にとの事よ。ちなみに文を除いた幹部ね」
文は監視という言葉に戸惑ったのか、正座を崩し大天狗に詰め寄ってしまう。
「監視!?」
「そんなに慌てなくて大丈夫よ。別に監禁も軟禁もしないのだから。それに監視役に選ばれたのは私。ある程度の自由は保障するわ。ただ、何もしないと言うのも組織として問題があるのよ。だから期間の間は私の付き人として働いてもらう予定よ」
「ありがとうございます」
「ただし、それには条件があるの」
大天狗の真剣な表情に文達がゴクリと唾を飲み込む。
「条件ですか?」
「条件は文はこれまで通りに、そして椛も一週間限りではあるけれど私直属の部下になってもらうわ。まぁ、恐らく貴方達も監視対象だっていう事なんでしょうね」
「それくらいなら……」
「それくらいなら?私も舐められたものね。一週間その腐った性根治す為にこき使ってあげるわよ」
暗黒面をしながら、ふふふと笑う大天狗に恐怖しながらも、二人ははいと答える他なかった。
「じゃあ、最初の仕事をするわよ」
「あややや、もう夜ですよ?」
文はもう眠いと言わんばかりに、大きなあくびをする。
「だからこそ、よ。私たちは一刻も早くする事があるはずよ。なんの事だかわかるかしら?」
二人は何が何だかさっぱりといった様に首をかしげる。それを見た大天狗は、はぁとため息をついた後ジト目で二人を見ながら口を開いた。
「あの子の存在を早く広めて認知させないといろいろマズイのよ?それくらいわかってほしかったわ。さぁ新聞を刷るわよ!久しぶりの"鞍馬諧報"発行に立ち会えるのだから、感謝しなさい」
鞍馬諧報という言葉を聞いた瞬間文は目をきらつかせる。ブン屋は勿論、天狗なら誰しもが知る鞍馬諧報。過去何度にもわたり新聞大会で優勝をもぎ取った、最高の新聞の発行に立ち会えるのだから嬉しくないわけがない。
椛は新聞を発行をした事は無いため文以上の感情の高ぶりはなかったのだが、文が楽しそうに手伝うのを見るだけで満足だった。
構成はこうだ。
レイアウトはこれがいい
そんな話を二人を見ているだけで微笑ましい。
椛は文達がすこしでも楽しめるように、お茶を運んだり、紙を運んだりとせっせと働いた。
そして日が昇ると同時に3人は出来上がった新聞を見てにっこりと笑う。
新聞名は、鞍馬諧報、文々。新聞、それともう一つ、文が新聞自体に手を出していなくとも、椛も共に作ったのだからという理由で、もみじの名前が並ぶ。
そして見出しはやはり
"新たな仲間に祝福を"
文としては走る事は不本意ではあるのだが、灯りを持っていない状態で飛んでいくのはあまりにも危険だ。ましては人を抱えた状態で、などと言ったら危険を通り越して自殺行為となるので、渋々と言った表情を全面に出しながら走っている。
その道中、不機嫌を隠そうとしない文を見かねて椛がゆっくりと口を開いた。
「認めてもらえるとは、思いませんでしたね」
「何呑気なこと言ってるんですか。私なんか途中から尋常にない殺気向けられて……失神するか、殺されるかの2択しか選択肢はないと一瞬ながら思いましたよ」
さっきまでの事を思い出したのか、ぶるりと体を震わながら文は言った。
「私にはそんな殺気は……」
椛がそう呟くのを聞くと、文はニンマリと笑って答える。
「椛もまだまだですねえ。あれは強者の殺気。それに耐えれる見込みがないものは感じないんですよ」
「私はまだまだですか……」
「私からすれば、ですけどねぇ。ただ、白狼天狗という分類でいうならば、かなり強い分類だと思いますよ」
「文さん、本当ですか?」
「あややや、私は嘘を言ったことはありませんよ」
「え?」
「え?まぁいいです。さぁつきましたよ」
文は器用に足でドアを開けつつそういった。
文が開けたドアの先にあったのは、ドアに沿ってまっすぐ広がる廊下と、左右に一個づつある部屋。そしてブン屋の家にふさわしいと言えるインクの匂いだった。
文が左側にある部屋に入りつつ言う。
「私は文樺を寝室に寝かせてきますから、椛は謁見用の服に着替えて下さい。クローゼットの場所はわかりますよね?」
「はい、大丈夫です。ってなんで私の服があるんですか!?」
「一応、私は複数の部下をまとめるリーダーですよ?部下と共に謁見室に向かうこともあるので、何着か自分の以外も持っているんです」
その後、文は烏天狗を象徴する黒を基調にした漆黒の礼服を、そして椛は白狼天狗を象徴する白を基調とした純白の礼服に着替え文の家を出た。
辺りは月明かりもなく真っ暗だが、文の左手に握られたランタンからもれる光が辺りをぼんやりと照らした。
「あかりですか」
「えぇ、千里見渡せる椛には必要ないかもしれないですけど、私には必要なんですよ」
「私の目は暗視スコープではないです!夜は見えませんよって文さんなんで飛ばないんですか?」
椛は地面から動かない灯りを見ながらそう言った。
「何を言ってるんですか椛。大天狗様に謁見するということは、身嗜みを整えるのは当然。よって風で髪やら服が崩れてしまうのは、非常に問題なんです。なので、今回は、歩いて、いかなくては、ならないんです」
「ですけど、大天狗様は急げって言ってました」
「あれは、比喩です」
「え?」
椛は首をかしげる。
「え??」
文も首を傾げた。
そしてなんやかんやで文が意見を押し通し、二人は微かなランタンの灯りを頼りに、山道をわざわざ徒歩で登った。
そして1時間ほど歩いたのち、二人は大天狗の母屋へとたどり着いた。
二人を待ち受けたのは、敵を完全に拒むであろう堅牢な扉。そしてそれを取り囲むように広がる高い塀だった。ちなみにこの塀の上には、結界が張られており飛び越えるのは不可能である。よってこの門をくぐれる者は、招かれた者と一部の幹部、そして家主である大天狗のみで全天狗が入れるわけではない。
今回の場合は正式な書面が発行されていないため、二人は招かれた者には含まれてはいない。
そのことに気づいた椛は慌てたように文に言う。
「文さん。私たち許可証を発行していただいていませんよ」
「はぁ、本当椛は私のことを知らないですねぇ。私は次期大天狗候補なんですよ?私には許可なんて物は不要なんです」
文がそういって門に近づくと門はひとりでに、ギギーという音を響かせながら開いた。
ちなみに、この技術は某カッパの作った生体認証システム、通称"にとセンサー"というのだが二人には知る由もないだろう。
呆気にとられた椛とニンマリと笑顔を浮かべた文を迎えたのは、山の大幹部にふさわしい趣ある日本庭園といったような景色だった。人生で数える程しかこの門をくぐったことのない椛は勿論だが、何度も来ている文でさえも夜に来るのは初めてで、ランタンから漏れる灯りで照らされてわずかに見えるこの景色に、時間がないとわかっていても心惹かれる物があった。
少しの間、景色に見惚れていると何処からともなく大天狗の従者が現れ二人に声をかけた。
「射命丸様と犬走さんですね。大天狗様より話は伺っています。大天狗様がお待ちです謁見室までお越しください」
「わかりました」
二人は案内人の後に続き長い廊下を歩く。
そしてずらりと大きな扉が並ぶ廊下をしばらく歩くと、奥に今までの物とは比べものにならないほどに大きく派手な装飾の扉があらわれた。
3人はその部屋の前まで着くと、敬意を表すため正座になった。
「大天狗様。射命丸様と犬走さんがお越しです」
「入っていいわよ。それとあなたは下がりなさい」
「わかりました。」
従者の天狗はぺこりと二人にお辞儀すると立ち去った。
二人はそれを見届けてから、正座の姿勢を崩さぬままふすま開けた。
「「失礼します」」
ビュンッ
二人が襖を開けてすぐに目に入ったもの、それは扇子だった。
二人に何故扇子が?なんていう事を考える隙すら与えずその扇子は文の額を捉え、文の体を遥か後方へと吹き飛ばす。
そしてその数秒後には聞き取るのが困難なほど遠くからドンガラガッシャーンという音がした。
ーー気を取り直し入室ーー
「あやぁ?私はすぐに来なさいって言ったわよね?」
声はとても澄んでいるがネチネチと聞く、といった言葉が適切なような聞き方だ。
「言いました」
「じゃあ何で1時間半もかかったのかしら?」
文は、聞かれることがわかっていたかの様にニンマリと笑みを浮かべ答える。
「あややや。謁見する為の服に着替えるなどありまして」
文はそう答えたが、大天狗は壊れたステレオの様に、にこやか笑顔を浮かべつつも同じ質問をした。
「じゃあ何で1時間半もかかったのかしら?」
「謁見す…「じゃあ何で1時間半もかかったのかしら?」
またしても同じ質問である。そして大天狗のこの行動について文は、ある噂もといある事実を知っていた。
大天狗に同じ質問を4回されたものはいない。何故なら、3回目で素直に答えなかったものは皆例外なく死んでいるからだ。
では、どうやって嘘か誠かを判断しているかというと、それは大天狗のもつ能力が関係している。
その能力とは、"真偽を見抜く程度の能力"
大天狗が大天狗である所以の1つだ。
つまり何が言いたいかというと、彼女に嘘は意味はなさない。それが分かった上で嘘をつくのは、普段飄々としている、文に残された幼心と言えるのかもしれない。
文は観念したかのように口を開く。
「歩いてきました」
「あら?誰よりもそして何よりも飛ぶことが好きな貴方が徒歩ね……何故なのかしら?」
「服を汚れてしまうと思いまして……」
大天狗に問い詰められる度に徐々に文の声はか細いものになっていく。
そしてその空気に耐えかねた文は、チラリと椛の顔を見るが知らん顔された。椛としても余計な口出しをして飛び火は避けたいのだ。
「何ヶ月か前に私服で謁見室に入ってきた、頭の悪そうな天狗がいたのだけれど誰だったかしら?」
大天狗の執拗な口撃に文はもう涙目である。
「私です……」
「何か言いたいことは?」
チェックメイト。舌戦は文の大敗だ。
「申し訳ありませんでした。説教が嫌なまでに少しでも時間を立たせようとしてました……」
大天狗は実の子を見る様に慈悲深い目をしながら言った。
「はぁ、貴方は本当子供ねぇ。貴方がここの住み始めた事から貴方ことを知っているのだけれど、何も変わってないわね。何度言ったかわからないけれど、説教で呼び出すたびに歩いてくるのはやめなさい」
「はい……」
「椛。これが貴方の上司の実態よ。大天狗候補にも挙がっているのに不甲斐ないわよね?」
突然、話を振られて焦った椛だったが迷わず質問に答える。普段から一緒にいることが多い文についての質問だ。すぐに答えられないわけがないと椛は思った。
「文さんはいい人で優秀な人だと思います」
「よかったわね。いい部下をもって」
「もみじぃ!!」
文はしゅんとした態度から一変、キラキラ笑顔で椛に抱きつこうとしたが椛はそれを拒否した。現実は非情である。
「はぁ、遅刻の説教はこの辺にして、本題に入りましょうか。今回私たちはあの子……文樺を受け入れたわけだけども、これからどうしましょうか」
「私が面倒を見ます」
「そう、よろしく。と言いたいところなのだけど、それが暫くはそうできそうにないのよ。先ほど天魔様にお伺いしたら、暫くの間……まぁ一週間ほどかしらね。その間は幹部級の天狗が監視する様にとの事よ。ちなみに文を除いた幹部ね」
文は監視という言葉に戸惑ったのか、正座を崩し大天狗に詰め寄ってしまう。
「監視!?」
「そんなに慌てなくて大丈夫よ。別に監禁も軟禁もしないのだから。それに監視役に選ばれたのは私。ある程度の自由は保障するわ。ただ、何もしないと言うのも組織として問題があるのよ。だから期間の間は私の付き人として働いてもらう予定よ」
「ありがとうございます」
「ただし、それには条件があるの」
大天狗の真剣な表情に文達がゴクリと唾を飲み込む。
「条件ですか?」
「条件は文はこれまで通りに、そして椛も一週間限りではあるけれど私直属の部下になってもらうわ。まぁ、恐らく貴方達も監視対象だっていう事なんでしょうね」
「それくらいなら……」
「それくらいなら?私も舐められたものね。一週間その腐った性根治す為にこき使ってあげるわよ」
暗黒面をしながら、ふふふと笑う大天狗に恐怖しながらも、二人ははいと答える他なかった。
「じゃあ、最初の仕事をするわよ」
「あややや、もう夜ですよ?」
文はもう眠いと言わんばかりに、大きなあくびをする。
「だからこそ、よ。私たちは一刻も早くする事があるはずよ。なんの事だかわかるかしら?」
二人は何が何だかさっぱりといった様に首をかしげる。それを見た大天狗は、はぁとため息をついた後ジト目で二人を見ながら口を開いた。
「あの子の存在を早く広めて認知させないといろいろマズイのよ?それくらいわかってほしかったわ。さぁ新聞を刷るわよ!久しぶりの"鞍馬諧報"発行に立ち会えるのだから、感謝しなさい」
鞍馬諧報という言葉を聞いた瞬間文は目をきらつかせる。ブン屋は勿論、天狗なら誰しもが知る鞍馬諧報。過去何度にもわたり新聞大会で優勝をもぎ取った、最高の新聞の発行に立ち会えるのだから嬉しくないわけがない。
椛は新聞を発行をした事は無いため文以上の感情の高ぶりはなかったのだが、文が楽しそうに手伝うのを見るだけで満足だった。
構成はこうだ。
レイアウトはこれがいい
そんな話を二人を見ているだけで微笑ましい。
椛は文達がすこしでも楽しめるように、お茶を運んだり、紙を運んだりとせっせと働いた。
そして日が昇ると同時に3人は出来上がった新聞を見てにっこりと笑う。
新聞名は、鞍馬諧報、文々。新聞、それともう一つ、文が新聞自体に手を出していなくとも、椛も共に作ったのだからという理由で、もみじの名前が並ぶ。
そして見出しはやはり
"新たな仲間に祝福を"
変な文節の選択に、指摘する気がなくなる数の誤字。一度自分を捨てる気でやり直さないとどうにもならないんじゃないかと。
文章が悪い意味で軽く見えるから「「台詞」」みたいな表現もやめる。
誤字誤用等については推敲の徹底と、それがどういう意味なのか即、頭に浮かべられない単語は使わないようにするか、辞書を引くなりして調べる。
ざっと挙げていくなら、こんなとこでしょうか
>ーー気を取り直し入室ーー
「ー」は長音符です。
ダッシュではありません。
こんな界隈で口の悪いやつが人間がロクなやつなわけがない
僕は普通に読めましたよ
それに伴って、物語のテンポも良くなったし、ひとつひとつの場面もイメージし易くなっている。
明らかに修正前よりも読み易くなっていて良いと思う。
物語の内容については、修正前のものに感想を述べたので割愛させて頂く。
ここからは指摘になる。
大天狗の台詞で『貴方がここの住み始めた事から貴方ことを』とあるのだが、これは『貴方がここに住み始めた頃から貴方のことを』の間違いだろう。
恐らく、ただのうっかりミスだとは思うが。
そして、これは個人の感覚に依るものでもあるし、あまり口出しすべき事ではないとは思うのだが。
もう少しだけ読点を活用すると、文章がより読み易くなるのではないかと思う。
この作品を一話から読んでいる身としては、貴方の頑張りがよく見て取れるので、これからも応援していきたいと思う。
だから、今後もめげずに頑張って欲しい。
ただ、「ましては人を抱えた状態で、などと言ったら危険を通り越して自殺行為となるので、渋々と言った表情を全面に出しながら走っている」、「声はとても澄んでいるがネチネチと聞く、といった言葉が適切なような聞き方だ」など、書きたいことはわかるけど、どこか違和感を覚える文章がちらほら。
まぁ、あくまで私個人の感覚なのですが……。
気になったのはそれくらいです。これからどういう物語になるのか。
続編、楽しみに待ってます。
話の流れ自体は真っ直ぐです。しかし展開が真っ直ぐ故に予想しやすい。どうせこうなるだろうなが、本当にそうなってしまう。
あまり奇をてらう事はしなくてもいいですが、もう少し工夫をしてもらえれば面白くはなるのではないでしょうか?
悪い作品ではありませんし、これから色々学んでいけば面白くなると思います。
他の方が仰っているように、違う人の作品を読む。特に自分の作風に近い人、または書きたい作風を多く読んでみることで勉強になると思います。
これからの頑張りに期待して、全話通しての40点とさせていただきます。頑張ってくださいね。